JP4109489B2 - 遺伝子高発現系 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、宿主生物に遺伝子工学的手法を用いて遺伝子を導入し発現させる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
宿主生物において物質生産を行ったり、宿主生物の機能の改変又は分析を行う場合には、宿主生物に同種又は異種遺伝子を導入し発現させる遺伝子工学的手法が用いられている。しかしながら、この遺伝子工学的手法は、安定性及び高発現の点でまだ十分なものではなく、改善が望まれている。
【0003】
例えば、宿主生物が酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の場合、2μm DNAを利用したYEPタイプのベクターがよく用いられている。YEPベクターは、多数コピーの遺伝子を導入することができるが、細胞分裂に伴いベクターの脱落などによりその酵素活性が低下することがあるため安定性の点で十分とはいえない。酵素活性を向上させるためには、ベクターに薬剤耐性マーカーを含有させ、培地にこの薬剤を添加するか、又は、宿主株にあらかじめ栄養要求性マーカーが付与されている場合には、栄養要求性マーカーをベクターに含むよう設計を行い、さらに培地として高度に精製した最小培地(YNB,Difco社製)を利用することによって選択圧を加えることができるが、いずれの場合についても培地コストは高額になってしまうという問題点がある。
【0004】
一方、染色体導入型ベクターとしては、相同組換えを利用したYIPベクターが知られている。このYIPベクターは、ベクターの設計によっては、導入遺伝子を安定的にゲノム上に存在させることができるが、一般的には導入遺伝子を高発現させることはできない。
以上のような理由から、当技術分野では、安定的かつ低コストで宿主生物に遺伝子を導入し、高発現させる方法が望まれていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、宿主生物に安定的に目的遺伝子を導入し、高発現させる方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、酵母サッカロマイセス・セレビシエ中のピルビン酸デカルボキシラーゼ1プロモーターに発現させたい目的遺伝子を連結し、これを宿主のゲノムに導入することにより、該目的遺伝子を安定的に高発現させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、オートレギュレーション機構が存在する遺伝子のプロモーター、又は宿主生物において生育若しくは発酵に必須ではない遺伝子のプロモーターの制御下に目的遺伝子をゲノムに導入することを特徴とする遺伝子発現方法である。上記プロモーターは、オートレギュレーション機構が存在する遺伝子のプロモーターの塩基配列、又は宿主生物において生育若しくは発酵に必須ではない遺伝子のプロモーターの塩基配列において1〜40個の塩基が欠失、置換若しくは付加された配列を含み、かつプロモーター活性を有するDNAであってもよい。また上記プロモーターは、オートレギュレーション機構が存在する遺伝子のプロモーターの塩基配列、又は宿主生物において生育若しくは発酵に必須ではない遺伝子のプロモーターの塩基配列の全部若しくは一部の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロモーター活性を有するDNAであってもよい。
【0008】
本発明において、上記オートレギュレーション機構が存在する遺伝子のプロモーターとしては、ピルビン酸デカルボキシラーゼ1遺伝子のプロモーターが挙げられ、生育に必須ではない遺伝子のプロモーターとしては、チオレドキシンをコードする遺伝子のプロモーターが挙げられる。
この場合、宿主生物は、細菌、酵母、昆虫、動物又は植物のいずれでもよく、特にサッカロマイセス属に属する酵母が好ましい。これらの宿主生物は、生物個体(ヒトを除く)、組織、細胞のいずれをも意味する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
生物界には、オートレギュレーション機構が存在する遺伝子や、生育及び発酵に必須ではない遺伝子が存在する。本発明者らはこの点に着目し、遺伝子の導入及び発現方法において、このような遺伝子のプロモーターを選択した。従って、本発明の遺伝子発現方法は、オートレギュレーション機構が存在する遺伝子のプロモーターの制御下に、あるいは宿主生物において生育又は発酵に必須ではない遺伝子のプロモーターの制御下に目的遺伝子をゲノムに導入することを特徴とする。本発明の方法の概要は以下の通りである。
【0010】
1.プロモーターの選択
まず、オートレギュレーション機構の存在する遺伝子のプロモーター、又は宿主生物の生育若しくは発酵に必須ではない遺伝子のプロモーターを選択する。対象となる宿主生物としては、物質生産及び機能改変又は機能分析が望まれるあらゆる生物を宿主生物として用いることができる。例えば、細菌、酵母、昆虫、動物、又は植物などが挙げられる。
【0011】
(1)オートレギュレーション機構が存在する遺伝子プロモーター
オートレギュレーション機構が存在する遺伝子のプロモーターを選択するには、まず、オートレギュレーション機構が存在する遺伝子を特定する。「オートレギュレーション機構」とは、同じ機能を有する遺伝子が同一生物において複数存在し、通常、そのうちの少なくとも1つは発現しているが、残りの遺伝子は抑制されており、通常発現している遺伝子が破壊などにより機能しなくなった場合にのみ、残りの遺伝子が発現されてその機能を継続する機構を意味する。例えば、サッカロマイセス属に属する酵母のピルビン酸デカルボキシラーゼ遺伝子(PDC)は、エタノールを生産する過程においてピルビン酸を脱炭酸してアセトアルデヒドに変換する酵素をコードする遺伝子であり、発酵過程で重要な役割を果たしている。PDCには、PDC1、PDC5及びPDC6が存在するが、通常はPDC1が機能しており、PDC5及びPDC6はPDC1の働きによって抑制されている。しかしながら、遺伝子破壊や薬剤による変異をこのPDC1に与えてPDC1の機能を不活性化させた場合には、PDC5遺伝子が活性化され、それにより酵母のエタノール生産機能は失われない。すなわち、生理的な表現系は親株とほぼ同等となる。
【0012】
オートレギュレーション機構が存在する遺伝子は、ある遺伝子を破壊した株において、遺伝子産物であるタンパク質が依然として発現されているかどうかを確認することにより特定することができる。このようにして特定されたオートレギュレーション機構が存在する遺伝子のプロモーターを選択する。本発明においては、例えば、PDC1のプロモーター(以下、PDC1プロモーターと呼ぶ。)を選択することができる。
【0013】
(2)生育又は発酵に必須ではない遺伝子のプロモーター
宿主生物の生育又は発酵に必須ではない遺伝子のプロモーターを選択するには、まず、生育又は発酵に必須ではない遺伝子を特定する。ここで、「生育」とは菌体が増殖できるように生存していることを意味し、「発酵」とはアルコール発酵等の物質を生産することを意味する。そして、「必須ではない遺伝子」とは、当該遺伝子を破壊又は不活性化しても依然として生育若しくは発酵又はこれらの両者が維持され、これらの生育及び発酵とは無関係の遺伝子を意味する。
【0014】
生育又は発酵に必須ではない遺伝子は、ある遺伝子を破壊した株において、宿主生物が生育及び発酵を継続するかどうかを確認することにより特定することができる。このような遺伝子としては、例えば、大部分の生物に存在するチオレドキシンをコードするTRX1遺伝子が挙げられる。このTRX1遺伝子は、DNA複製、酸化的ストレス応答、液胞遺伝などに関与しているが、生育又は発酵に必ずしも必須ではない。すなわち、宿主生物においてTRX1遺伝子を破壊又は置換しても、宿主生物は生育又は発酵を継続することができる。このようにして特定された宿主生物の生育又は発酵に必須ではない遺伝子のプロモーターを選択する。
【0015】
2.目的遺伝子及びプロモーターの調製
宿主生物に導入する上記選択したプロモーターと目的遺伝子を調製する。本発明において、「目的遺伝子」とは、物質生産及び機能改変又は機能分析のために発現させることが望まれる遺伝子を意味し、同種遺伝子又は異種遺伝子のいずれでもよい。例えば物質生産を目的とする場合、目的遺伝子としては有用なタンパク質をコードする遺伝子が好ましく、そのような有用タンパク質としては、例えば、インターフェロン、ワクチン、ホルモンなどが挙げられる。また、目的遺伝子は、酵素をコードする遺伝子であってもよく、例えばピルビン酸から乳酸を生成する乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子などが挙げられる。
【0016】
目的遺伝子及び上記プロモーターの調製は、当技術分野で周知の任意の手法を採用することができる。例えば、目的遺伝子及び上記プロモーターを供与源から単離する場合には、グアニジンイソチオシアネート法により調製されたRNAからcDNAを合成する方法により調製することができる。また、PCRによりゲノムDNAを鋳型として増幅することにより調製することも可能である。このようにして得た目的遺伝子及び上記プロモーターのDNAは、目的によりそのまま、又は所望により制限酵素で消化したり、リンカーを付加することにより使用することができる。
【0017】
本発明においては、プロモーターの塩基配列において1〜40個の塩基が欠失、置換若しくは付加された配列を含み、かつプロモーター活性を有するDNAもまたプロモーターとして利用可能である。プロモーター活性とは、プロモーターの下流に発現可能な状態で目的遺伝子を連結し、宿主に導入した際、宿主内又は宿主外において目的遺伝子の遺伝子産物を生産させる能力及び機能を有することをいう。このようなDNAは、変異(欠失、置換若しくは付加)を有しない完全長の塩基配列からなるプロモーターが機能する条件と同一の条件でほぼ同様の利用が可能な程度のプロモーター活性が維持されていることをいう。例えば、完全長の配列のプロモーター活性の約0.01〜100倍、好ましくは約0.5〜20倍、より好ましくは約0.5〜2倍の活性を維持するDNAである。
【0018】
このようなDNAは、Molecular Cloning(Sambrookら編(1989) Cold Spring Harbor Lab. Press, New York)等の文献の記載に従って製造することができる。
例えば、オートレギュレーション機構が存在する遺伝子のプロモーターの塩基配列、又は宿主生物において生育若しくは発酵に必須ではない遺伝子のプロモーターの塩基配列を基にして、当該塩基配列から1〜40個の塩基の欠失、置換若しくは付加を人為的に行う技術、例えば部位特異的突然変異誘発法により、プロモーター活性を維持しつつ配列の異なる変異体を作製することができる。例えば1〜40個の塩基が置換されるような部位特異的突然変異誘発については、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81(1984) 5662-5666;WO85/00817号公報;Nature 316(1985) 601-605;Gene 34(1985) 315-323;Nucleic Acids Res. 13(1985) 4431-4442;Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79(1982) 6409-6413;Science 224(1984) 1431-1433等に記載の技術に従って変異体を取得し、これを利用することができる。また、市販のキット(Mutan-G、Mutan-K(宝酒造))を用いてこれらの変異体を作製することができる。さらに、誤りを起こしやすいポリメラーゼ連鎖反応(error-prone PCR)もまた変異体作製方法として知られており、複製の厳密度の低い条件を選択することによって1〜数塩基の変異を導入することができる(Cadwell, R.C. and Joyce, G.F. PCR Methods and Applications 2(1992) 28-33;Malboeuf, C.M. et al. Biotechniques 30(2001) 1074-8;Moore, G.L. and Maranas C.D. J. Theor. Biol. 7; 205 (2000) 483-503)。
【0019】
また、オートレギュレーション機構が存在する遺伝子のプロモーター、又は宿主生物において生育若しくは発酵に必須ではない遺伝子のプロモーターの塩基配列の全部又は一部に相補的な配列からなるDNAをプローブ(100〜900塩基)として用いてストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせることによって、オートレギュレーション機構が存在する遺伝子のプロモーター、又は宿主生物において生育若しくは発酵に必須ではない遺伝子のプロモーターの塩基配列からなるDNAと同様の機能(すなわちプロモーター活性)を有する他の塩基配列からなるDNAを新たに取得し、利用することもできる。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えばナトリウム濃度が、10〜300mM、好ましくは20〜100mMであり、温度が25〜70℃、好ましくは42〜55℃における条件をいう。
【0020】
上記のように取得した変異体やハイブリダイゼーションにより得られるDNAがプロモーターとしての活性を有するか否かは、以下のような手法により確認することができる。すなわち、上記のようにして得られるDNAのプロモーター活性は、好ましくは種々のレポーター遺伝子、例えばルシフェラーゼ遺伝子(LUC)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(CAT)、βガラクトシダーゼ遺伝子(GAL)等をプロモーターの下流域に連結したベクターを作製し、当該ベクターを用いて宿主のゲノムに導入した後、当該レポーター遺伝子の発現を測定することにより確認することができる。
【0021】
3.目的遺伝子及びプロモーターの導入
続いて、上記オートレギュレーション機構が存在する遺伝子、又は宿主生物において生育若しくは発酵に必須ではない遺伝子を破壊し、この遺伝子のプロモーターの制御下に目的遺伝子を導入するか、あるいはこの遺伝子を目的遺伝子と置換する。
【0022】
例えば、上述のようにして単離した目的遺伝子と上記選択したプロモーターとを機能可能な形で連結して宿主生物のゲノムに導入する。「機能可能な形で連結する」とは、目的遺伝子が導入される宿主生物において上記プロモーターの制御下に目的遺伝子が発現されるように、目的遺伝子と上記プロモーターとを連結することを意味する。目的遺伝子及び上記プロモーターの導入は、当技術分野で公知のあらゆる手法を用いて行うことができる。例えば、組換えベクターを用いて目的遺伝子及び上記プロモーターを宿主生物のゲノムに導入することができる。組換えベクターは、適当なベクターに目的遺伝子及び上記プロモーターを連結(挿入)することにより得ることができる。目的遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主生物中のゲノムに組み込み可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、バクテリオファージDNA、レトロトランスポゾンDNA、酵母人工染色体DNA(YAC:yeast artificial chromosome)などが挙げられる。
【0023】
プラスミド DNAとしては、例えばpRS403、pRS404、pRS405、pRS406、pAUR101又はpAUR135などのYIp型大腸菌-酵母シャトルベクター、大腸菌由来のプラスミド(pBR322、pBR325、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pTV118N、pTV119N、pBluescript、pHSG298、pHSG396又はpTrc99AなどのColE系プラスミド、pACYC177又はpACYC184などのp15A系プラスミド、pMW118、pMW119、pMW218又はpMW219などのpSC101系プラスミド等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP)、φX174、M13mp18又はM13mp19などが挙げられる。レトロトランスポゾンとしては、Ty因子などが挙げられる。YAC用ベクターとしてはpYACC2などが挙げられる。
ベクターに目的遺伝子及び上記プロモーターを挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0024】
目的遺伝子は、上記選択されたプロモーターの制御下にてその遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、組換えベクターには、上記選択されたプロモーター、目的遺伝子、ターミネーターのほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)などを連結することができる。また、ベクターが細胞内に保持されていることを示す選択マーカーを連結してもよい。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。その他、マーカー遺伝子としてトリプトファン合成遺伝子(TRP1遺伝子)が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、他のマーカー遺伝子、例えば、栄養要求性能を持つURA3遺伝子、ADE2遺伝子、HIS3遺伝子、又は薬剤耐性能を持つG418耐性遺伝子も利用可能である。
【0025】
ターミネーター配列としては、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(GAPDH)のターミネーター遺伝子が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではなく、宿主生物内で使用可能なターミネーター配列であればいかなるものを使用してもよい。
【0026】
以上のようにして宿主生物における目的遺伝子の発現に適合するように組換えベクターを作製することができる。この組換えベクターを用いて宿主生物を形質転換することにより、宿主生物において上記選択したプロモーターの制御下にて目的遺伝子を発現させることができる。
【0027】
大腸菌などの細菌を宿主とする場合は、組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、目的遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0028】
大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12、DH1などが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。細菌への組換えベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
【0029】
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)などが用いられる。酵母への組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法などが挙げられる。
【0030】
昆虫又は動物を宿主とする場合、組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが用いられる。
植物を宿主とする場合、組換えベクターの導入方法としては、例えばアグロバクテリウム法、パーティクルガン法、PEG法、エレクトロポレーション法などが用いられる。
【0031】
昆虫、動物(ヒトを除く)又は植物の個体を宿主とする場合には、当技術分野で公知のトランスジェニック動物又は植物の作製手法に従って組換えベクターを導入することができる。例えば、動物個体への組換えベクターの導入方法としては、受精卵へのマイクロインジェクション法、ES細胞へ導入する方法、培養細胞へ導入した細胞核を核移植により受精卵に導入する方法などが挙げられる。
【0032】
上述のように組換えベクターを導入した宿主生物は、目的遺伝子が上記選択されたプロモーターの制御下に導入されている株について選択を行う。具体的には、上記の選択マーカーを指標にして形質転換株を選択する。
目的遺伝子が上記プロモーター制御下に組み込まれたか否かの確認は、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法、サザンハイブリダイゼーション法により行うことができる。例えば、形質転換株からDNAを調製し、導入DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。その後、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などにより染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、導入DNAを確認することができる。また、予め蛍光色素などにより標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応などにより増幅産物を確認する方法も採用することができる。
【0033】
上述のようにして、オートレギュレーション機構が存在する遺伝子のプロモーター、又は宿主生物の生育若しくは発酵に必須ではない遺伝子のプロモーターの制御下に目的遺伝子がゲノムに導入され(ゲノムインテグレーション)、宿主生物において目的遺伝子が発現される。PDC1プロモーターは非常に強力なプロモーターであるため、PDC1プロモーターを選択した場合には、目的遺伝子がゲノムにシングルコピーで導入されても、高発現されることになる。また、選択したプロモーターの元の遺伝子は生育及び発酵に必須ではないため、破壊又は目的遺伝子と置換されても、宿主生物は生育及び発酵を継続することができ、目的遺伝子を長期にわたって発現することができる。
【0034】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕ベクターの構築
本実施例においては、サッカロマイセス・セレビシエ由来のピルビン酸デカルボキシラーゼ1遺伝子(PDC1遺伝子)プロモーター配列の制御下で、目的遺伝子としてビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)由来のラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子(LDH遺伝子)を使用した。
【0035】
本実施例のために新たに構築した染色体導入型ベクターをpBTRP-PDC1-LDHと名付け、以下に本ベクター構築例の詳細を記す。なお本実施例の概要を図1に示す。但し、ベクター構築の手順はこれに限定されるものではない。
ベクターの構築にあたって、必要な遺伝子断片であるPDC1遺伝子のプロモーター断片(PDC1P)971bpと、PDC1遺伝子下流領域断片(PDC1D)518bpは、サッカロマイセス・セレビシエ YPH株(Stratagene社)のゲノムDNAを鋳型として使用したPCR増幅法によって単離を行った。
【0036】
サッカロマイセス・セレビシエ YPH株のゲノムDNAは、ゲノム調製キットであるFast DNA Kit(Bio 101社)を用い、詳細は付属のプロトコールに従い、調製した。DNA濃度は分光光度計Ultro spec 3000(Amersham Pharmacia Biotech社)にて測定した。
【0037】
PCR反応には、増幅酵素として、増幅断片の正確性が高いとされるPyrobest DNA polymerase(宝酒造社)を使用した。上記手法にて調製したサッカロマイセス・セレビシエ YPH株のゲノムDNA 50ng/サンプル、プライマーDNA 50pmol/サンプル、及びPyrobest DNA polymerase 0.2ユニット/サンプルを合計で50μlの反応系に調製した。反応溶液を、PCR増幅装置Gene Amp PCR system 9700(PE Applied Biosystems社)によってDNA増幅を行った。PCR増幅装置の反応条件は、96℃ 2分の後、(96℃ 30秒→55℃ 30秒→72℃ 90秒)を25サイクル行い、その後4℃とした。PDC1P増幅断片とPDC1D増幅断片を1%TBEアガロースゲル電気泳動にて遺伝子増幅断片の確認を行った。なお反応に使用したプライマーDNAは、合成DNA(サワデーテクノロジー社)を用い、このプライマーのDNA配列は以下の通りである。
【0038】
PDC1P断片の増幅
・PDC1P-LDH-U(31mer,Tm値58.3℃)末端に制限酵素BamHIサイトを付加
:ATA TAT GGA TCC GCG TTT ATT TAC CTA TCT C(配列番号1)
・PDC1P-LDH-D(31mer、Tm値54.4℃)末端に制限酵素EcoRIサイトを付加
:ATA TAT GAA TTC TTT GAT TGA TTT GAC TGT G(配列番号2)
PDC1D断片の増幅
・PDC1D-LDH-U(34mer、Tm値55.3℃)末端に制限酵素XhoIサイトを付加
:ATA TAT CTC GAG GCC AGC TAA CTT CTT GGT CGA C(配列番号3)
・PDC1D-LDH-D(31mer、Tm値54.4℃)末端に制限酵素ApaIサイトを付加
:ATA TAT GAA TTC TTT GAT TGA TTT GAC TGT G(配列番号4)
【0039】
上記反応にて取得したPDC1P及びPDC1D各遺伝子増幅断片をそれぞれ、エタノール沈殿処理によって精製した後、PDC1P増幅断片を制限酵素BamHI/EcoRI及びPDC1D増幅断片を制限酵素XhoI/ApaIにて制限酵素反応処理を行った。なお以下に用いた酵素類はすべて宝酒造社製のものを用いた。また、エタノール沈殿処理、制限酵素処理の一連操作の詳細なマニュアルはMolecular Cloning A Laboratory Manual second edition(Maniatis et al.,Cold Spring Harbor Laboratory press.1989)に従った。
【0040】
ベクターの構築における一連の反応操作は、一般的なDNAサブクローニング法に準じて行った。すなわち、制限酵素BamHI/EcoRI(宝酒造社)及び脱リン酸化酵素Alkaline Phosphatase(BAP、宝酒造社)を施したpBluescriptII SK+ベクター(東洋紡社)に、上記PCR法にて増幅し、制限酵素処理を施したPDC1P断片をT4 DNA Ligase反応によって連結させた(図1A)。T4 DNA Ligase反応には、LigaFast Rapid DNA Ligation System(プロメガ社)を用い、詳細は付属のプロトコールに従った。
【0041】
次にLigation反応を行った溶液を、コンピテント細胞へ形質転換を行った。コンピテント細胞は大腸菌JM109株(東洋紡社)を用い、詳細は付属のプロトコールに従って行った。得られた培養液は抗生物質アンピシリン100μg/mlを含有したLBプレートにまいて一晩培養した。生育したコロニーを、インサート断片のプライマーDNAを用いたコロニーPCR法による確認、及びミニプレップによるプラスミドDNA調製溶液を、制限酵素処理による確認を行い、目的とするベクターpBPDC1Pベクターを単離した(図1B)。
【0042】
ついでトヨタ自動車(株)によって構築されたpYLD1ベクターを制限酵素EcoRI/AatII処理及び末端修飾酵素T4 DNA polymerase処理することで得られるLDH遺伝子断片を、同じく制限酵素EcoRI処理、末端修飾酵素T4 DNA polymerase処理を行ったpBPDC1Pベクター中に、上述と同様の操作でサブクローニングを行い、pBPDC1P-LDH Iベクターを作製した(図1C)。なお、上記のpYLD1ベクターは大腸菌に導入され(名称:「E. coli pYLD1」)、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1)に、受託番号FERM BP-7423としてブダペスト条約に基づき国際寄託されている(原寄託日:平成11(1999)年10月26日)。続いてこのベクターをXhoI/ApaI処理し、増幅したPDC1D断片を連結させてpBPDC1P-LDH IIベクターを作製した(図2A)。最後にpBPDC1P-LDH IIベクターをEcoRV処理したものに、pRS404ベクター(Stratagene社)をAatII/SspI処理、T4 DNA polymerase処理して得られたTRP1マーカー断片を連結させて、最終コンストラクトである染色体導入型pBTRP-PDC1-LDHベクターを構築した(図2B)。
【0043】
構築した染色体導入型pBTRP-PDC1-LDHベクターの確認の為に塩基配列決定を行った。塩基配列解析装置としてABI PRISM 310 Genetic Analyzer(PE Applied Biosystems社)を使用し、試料の調製法、及び機器の使用方法などの詳細は本装置付属のマニュアルに従った。試料となるベクターDNAはアルカリ抽出法により調製したものを用い、これをGFX DNA Purification kit(Amersham Pharmacia Biotech社)にてカラム精製した後、分光光度計Ultro spec 3000(Amersham Pharmacia Biotech社)にてDNA濃度を測定したものを用いた。
また、比較対照として、PDC1プロモーター制御下に乳酸生産遺伝子であるLDH(ラクテートデビドロゲナーゼ)が導入されるようYIPベクターの構築を行った。
【0044】
〔実施例2〕組換えベクターの宿主への導入
宿主である酵母IFO2260株(社団法人・発酵研究所に登録されている菌株)のトリプトファン要求株は、10mlYPD培地にて30℃で対数増殖期まで培養を行い、集菌及びTEバッファーによる洗浄を行った後、0.5mlTEバッファーと0.5ml、0.2M酢酸リチウムを加え、30℃にて1時間振盪培養を行った。その後、制限酵素Apa1及びSpe1で処理したpBTRP-PDC1-LDHを加えた。
【0045】
このプラスミドの菌懸濁液を30℃で30分間振盪培養後、70%ポリエチレングリコール4000を150ml加え、よく撹拌した。30℃にて1時間振盪培養した後、42℃にて5分間ヒートショックを与えた。菌体を洗浄した後、200mlの水に懸濁したものを選択培地に塗株した。
【0046】
得られたコロニーを選択培地で単離し、コロニーを得た後、PCRにてPDC1プロモーターの下流にLDHが導入されている株を取得した。更に、胞子形成培地で胞子形成を行い、またホモタリック性を利用して2倍体化を行って、2倍体である染色体両方に上記ベクターが導入されている株を取得した。
酵母サッカロマイセス・セレビシエが図2に示したpBTRP-PDC1-LDHで形質転換され、ゲノム上に導入されたことをPCRで確認した。上記ベクターのゲノム上の構造を図3に示す。
【0047】
〔実施例3〕LDH遺伝子の発現及び安定性の確認
得られた形質転換体について、YPD液体培地(グルコース10%)に菌体濃度が1%になるように接種して、30℃にて2日間静置培養を行い、▲1▼ベクター非導入株、▲2▼YEPベクターでのLDH導入株、及び▲3▼pBTRP-PDC1-LDH導入株の乳酸生産量について比較検討を行った。この結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
ベクター非導入株▲1▼では乳酸を作らないのに対して、LDHを導入した▲2▼及び▲3▼では乳酸を生産していた。さらにYEPベクターで導入した▲2▼に比べ、PDC1プロモーター制御下にLDHを導入した株では2.5倍の乳酸を生産していた。
また、本方法により導入した形質の安定性を確認することを目的として、YPDプレートで3回の継代培養を行った後に、PCRにより遺伝子導入と乳酸生産量について調べたところ、YEPベクターで導入した系▲2▼では乳酸を生産しなくなっていたのに対し、PDC1プロモーター制御下でLDHを発現させた▲3▼では継代培養前と同量の乳酸生産が維持されていた。
また、PCRでゲノム上の構造について変化のないことを確認したことから、▲3▼のPDC1プロモーター制御下でLDHを発現させる系は、安定に存在し、遺伝子を高発現させるといえる。
【0050】
〔実施例4〕変異配列を含むPDC1プロモーター配列の単離
本実施例及び以下の実施例においては、数塩基の異なる配列をもつ3種類のPDC1プロモーター配列を単離し、本プロモーター下にLacZ遺伝子が連結するよう設計した染色体導入型ベクターを構築した。これらのベクターを用いて、染色体中の同一の位置に該プロモーターと該遺伝子を1コピー導入して形質転換酵母を作製した。それぞれの形質転換酵母のβガラクトシダーゼ活性を測定し、3種類のプロモーター活性を比較した。
【0051】
本実施例においては、サッカロマイセス・セレビシエ pBTRP-PDC1-LDH導入株(実施例2で作製した菌株)、IFO2260株(社団法人・発酵研究所に登録されている菌株)及びYPH株(Stratagene社)のゲノムDNAを鋳型として使用したPCR増幅法によってPDC1プロモーター配列の単離を行った。
各サッカロマイセス・セレビシエ(pBTRP-PDC1-LDH導入株、IFO2260株、YPH株)のゲノムDNAの調製方法及びPCR増幅法は、実施例1と同様の手法にて行った。
なお反応に使用したプライマーDNAの塩基配列は以下の通りである。
【0052】
pBTRP-PDC1-LDH導入株由来のPDC1プロモーターの増幅
・PDC1 PrFrag-U2(32mer、Tm値64.4℃)末端に制限酵素SalIサイトを付加
:AAA TTT GTC GAC AAG GGT AGC CTC CCC ATA AC (配列番号5)
・PDC1 PrFrag-D2(31mer、Tm値61.1℃)末端に制限酵素SalIサイトを付加
:ATA TAT GTC GAC GAG AAT TGG GGG ATC TTT G (配列番号6)
IFO2260株及びYPH株由来のPDC1プロモーターの増幅
・PDC1 PrFrag-U2(32mer、Tm値64.4℃)末端に制限酵素SalIサイトを付加
:AAA TTT GTC GAC AAG GGT AGC CTC CCC ATA AC (配列番号5)
・PDC1 PrFrag-D(43mer、Tm値62.5℃)末端に制限酵素SalIサイトを付加
:TTT AAA GTC GAC TTT GAT TGA TTT GAC TGT GTT ATT TTG CGT G (配列番号7)
【0053】
〔実施例5〕変異プロモーター配列を含む、βガラクトシダーゼ解析用ベクターの構築
本実施例においては、単離した3種類のPDC1プロモーター配列の制御下で、レポーター遺伝子を連結したベクターを構築した。レポーター遺伝子として、βガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ遺伝子)を使用した。
【0054】
本実施例のために新たに構築した染色体導入型ベクターを、pAUR-LacZ-T123PDC1、pAUR-LacZ-OC2PDC1及びpAUR-LacZ-YPHPDC1と名付け、以下にベクターの構築例の詳細を記す。なお本実施例の概要を図4に示す。但し、ベクター構築の手順はこれに限定されるものではない。
【0055】
ベクターの構築における一連の反応操作は、一般的なDNAサブクローニング法に従った。プロメガ社pSV-β-Galactosidase Control Vectorを制限酵素で切り出し、LacZ断片を取得した後、平滑末端処理してpAUR-LacZベクターを作製した。こうして構築されたpAUR-LacZベクターに、SalI(宝酒造)処理、および脱リン酸化酵素Alkaline Phosphatase(BAP、宝酒造)処理を行った。次に、実施例4において取得した3種類のプロモーター配列、すなわちpBTRP-PDC1-LDH導入株由来PDC1プロモーター(983bp)、IFO2260株由来PDC1プロモーター(968bp)、及びYPH株由来PDC1プロモーター(968bp)を、それぞれ制限酵素SalI(宝酒造)にて制限酵素処理を行い、pAUR-LacZベクター中に、T4 DNA Ligase 反応によって連結させた。T4 DNA Ligase 反応には、LigaFast Rapid DNA Ligation System(プロメガ社)を用い、詳細は付属のプロトコールに従った。
【0056】
得られたLigation 反応溶液を用いて、コンピテント細胞へ形質転換を行い、コロニーPCR法によって、目的とする構築ベクターを取得した。上記一連の操作は実施例1と同様の手法にて行った。
【0057】
構築したベクターについて塩基配列解析を行い、pBTRP-PDC1-LDH導入株由来PDC1プロモーター(983bp)、IFO2260株由来PDC1プロモーター(968bp)、及びYPH株由来PDC1プロモーター(968bp)の遺伝子配列を比較した。本配列の比較を図5に示す。なお塩基配列解析の操作は実施例1と同様の手法にて行った。
【0058】
pBTRP-PDC1-LDH導入株由来PDC1プロモーター(983bp)は、実施例1において取得したPDC1プロモーター配列(971bp)とは12塩基異なるものであり、具体的には、実施例1のプロモーター配列の両末端に制限酵素SalI部位(GTCGAC)が付加された配列で構成されている。
【0059】
またIFO2260株由来PDC1プロモーター(968bp)は、実施例1において取得したPDC1プロモーター配列とは30塩基異なるものであり、具体的には、実施例1のプロモーター配列の861番目のグアニン(G)がシトシン(C)に、894番目のシトシン(C)がチミン(T)に、925番目のアデニン(A)がチミン(T)に置換されており、また972番目以降に15塩基の配列(GATCCCCCAATTCTC)が付加されている。またさらに、実施例1のプロモーター配列の両末端に制限酵素SalI部位(GTCGAC)が付加された配列で構成されている。
【0060】
YPH株由来PDC1プロモーター(968bp)は、実施例1において取得したPDC1プロモーター配列とは37塩基異なるものであり、具体的には、実施例1のプロモーター配列の179番目のシトシン(C)がチミン(T)に、214番目のアデニン(A)がグアニン(G)に、216番目のグアニン(G)がアデニン(A)に、271番目のチミン(T)がシトシン(C)に、344番目のグアニン(G)がアデニン(A)に、490番目のアデニン(A)がグアニン(G)に、533番目のシトシン(C)がチミン(T)に、566番目のチミン(T)がシトシン(C)に、660番目のグアニン(G)がシトシン(C)に、925番目のアデニン(A)がチミン(T)に置換されており、また972番目以降に15塩基の配列(GATCCCCCAATTCTC)が付加されている。またさらに、実施例1のプロモーター配列の両末端に制限酵素SalI部位(GTCGAC)が付加された配列で構成されている。
【0061】
〔実施例6〕組換えベクターの宿主への導入
宿主である酵母IFO2260株(社団法人・発酵研究所に登録されている菌株)のトリプトファン要求株に、10ml YPD培地にて30℃で対数増殖期まで培養を行い、集菌およびTEバッファーによる洗浄を行った後、0.5ml TEバッファーと0.5mlの0.2M酢酸リチウムを加え、30℃にて1時間の振盪培養を行った。その後、制限酵素Bst1107I(宝酒造)で処理したpAUR-LacZ-T123PDC1P、pAUR-LacZ-YPHPDC1P、pAUR-LacZ-OC2PDC1Pを加えた。
【0062】
このプラスミドの懸濁液を30℃で30分間振盪培養後、70%ポリエチレングリコール4000を150μl加え、よく攪拌した。本溶液を30℃にて1時間振盪培養した後、42℃にて5分間ヒートショックを与え、本菌体を1ml YPD培地にて30℃で12時間培養を行った。本培養液を洗浄後、200μlの滅菌水に懸濁したものをオーレオバチシン選択培地に塗株した。培地に添加したオーレオバチシンの濃度は0.4μg/mlとした。
得られたコロニーはオーレオバチシン選択培地で単離を行い、得られたコロニーに対してPCR法を行って、目的とする株を取得した。
【0063】
〔実施例7〕遺伝子組換え菌株におけるβガラクトシダーゼ活性の測定
上記形質転換体と非形質転換体についてβガラクトシダーゼ活性を測定した。各菌株を2ml YPD液体培地(グルコース2%)で、30℃、20時間の培養を行った。これらを集菌し、50mM Tris-HCl 500μlおよびガラスビース(425-600microns Acid Washed, SIGMA社)を加え、4℃で15分間ボルテックスを行った。
【0064】
遠心によって本溶液の上清を採取し、これらのβガラクトシダーゼ活性測定を測定した。活性測定は、β-Galactosidase Enzyme Assay System(プロメガ社)を用い、詳細は付属のプロトコールに従った。ABS600nm=1.0当たりの活性値を求め、この結果を図6(継代培養前)及び図7(継代培養後)に示す。
【0065】
以上の結果より、数十塩基の付加配列、又は異なる配列をもつPDC1プロモーター配列であっても、安定したプロモーター活性を持つことが明らかとなった。従って、オートレギュレーション機構が存在する遺伝子のプロモーター、又は宿主生物において生育若しくは発酵に必須ではない遺伝子のプロモーターは、完全長ではなくても利用することができるといえる。
【0066】
【発明の効果】
本発明によると、宿主生物の生育及び発酵に影響を及ぼすことなく、遺伝子を安定に導入し、そして高発現させることができる。従って、物質生産、及び機能改変又は機能解析に有効な手段が提供される。
【0067】
【配列表】
【0068】
【配列フリーテキスト】
配列番号1:合成DNA
配列番号2:合成DNA
配列番号3:合成DNA
配列番号4:合成DNA
配列番号5:合成DNA
配列番号6:合成DNA
配列番号7:合成DNA
【図面の簡単な説明】
【図1】染色体導入型ベクターpBTRP-PDC1-LDHの構築図である。
【図2】染色体導入型ベクターpBTRP-PDC1-LDHの構築図である。
【図3】ベクターpBTRP-PDC1-LDHを用いて酵母サッカロマイセス・セレビシエの形質転換を行った場合に得られる株のゲノム構造を示す図である。
【図4】染色体導入型ベクターpAUR-LacZ-T123PDC1(A)、pAUR-LacZ-OC2PDC1(B)及びpAUR-LacZ-YPHPDC1(C)の構築図である。
【図5】 pBTRP-PDC1-LDH導入株由来PDC1プロモーター(983bp)、IFO2260株由来PDC1プロモーター(968bp)、及びYPH株由来PDC1プロモーター(968bp)の遺伝子配列の比較を示す図である。
【図6】 pBTRP-PDC1-LDH導入株由来PDC1プロモーター(983bp)、IFO2260株由来PDC1プロモーター(968bp)、及びYPH株由来PDC1プロモーター(968bp)を導入した形質転換体における、継代培養前のβガラクトシダーゼ活性を示す図である。
【図7】 pBTRP-PDC1-LDH導入株由来PDC1プロモーター(983bp)、IFO2260株由来PDC1プロモーター(968bp)、及びYPH株由来PDC1プロモーター(968bp)を導入した形質転換体における、継代培養後のβガラクトシダーゼ活性を示す図である。
Claims (4)
- サッカロマイセス属に属する酵母において、生育及び発酵に影響を及ぼすことなくラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子を発現させることにより、乳酸を製造する方法であって、ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子を酵母由来のオートレギュレーション機構が存在するピルビン酸デカルボキシラーゼ1遺伝子のプロモーターの制御下に酵母のゲノムに導入し、ゲノム上のピルビン酸デカルボキシラーゼ1遺伝子を破壊し、該酵母を培養し、ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子を発現させることを含む、乳酸を製造する方法。
- サッカロマイセス属に属する酵母が、サッカロマイセス・セレビシエである請求項1記載の方法。
- ピルビン酸デカルボキシラーゼ1遺伝子のプロモーターを含む染色体導入型ベクターを用いてラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子が導入される請求項1又は2に記載の方法。
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