JP4104115B2 - アンカー部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、構造物の上部構造と下部構造との間に装着され、下部構造の上に上部構造を固定するアンカー部材に関するものであって、特に、住宅の基礎部の通気用の基礎パッキン材を兼ね、嵩張らず、安価で、かつ、地震や交通振動などに対して、高性能の振動吸収機能を備えたものに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、基礎101(下部構造)の上に建築物の土台103(上部構造)を固定する場合は、図7に示すように、例えば、L字状のアンカーボルト102の下部をコンクリートの基礎101に埋設し、アンカーボルト102の上部を土台103に貫通させ、その土台103の上面に突出した部分をワッシャ104、ナット105で固定していた。しかし、単に土台103を基礎101の上に固定しただけでは、大型車の通行により生じる交通振動が、基礎101から土台103にそのまま伝わる。
【0003】
そのため、図8に示すように、土台103と基礎101の間にゴム板100を挟んで、交通震動を緩和するものがあった。しかし、アンカーボルト102は、基礎101から土台103に貫通する剛性の芯として土台103を基礎101にしっかりと連結しており、震動がアンカーボルト102を介して基礎101から土台103にそのまま伝わるため、震動はさほど緩和されず、十分な免震効果は得られなかった。
【0004】
なお、このようなゴム板100は、住宅の基礎部の通気用の基礎パッキン材としての機能を備えている。すなわち、ゴム板100を、基礎コンクリート101と住宅の土台103との間に所定の間隔を開けて複数配設することにより、土台103と基礎101との間に生じた隙間から基礎コンクリート101の内部の換気が行え、基礎コンクリート101内の空気の流れが良くなる。また、基礎101と土台103との縁を切ることにより、基礎コンクリート101が吸った水分を土台103に伝えないという作用がある。
【0005】
上記の基礎パッキン材の機能を兼ね、地震やダンプカーなどの大型の自動車による振動や鉄道車両の通行に伴う振動を吸収するの機能を備えたアンカー部材として、特開2000−73616号公報、特開2000−110403号公報、特開2001−182366号公報、特開平9−242381号公報に記載されたものがある。これらはともに、構造物の荷重を硬球体で受け基礎に伝えるものであり、地震の揺れに対しては、硬球体が転動して基礎の揺れの数分の1しか土台に伝えず(転がり免震)、地震が収まるにつれて、地震発生前の元の位置に復元するようになっている。
【0006】
特開2000−73616号公報には、土台用金具と基礎用金具の間に硬球体が転動可能な空間を有する筒状弾性体を固着し、この筒状弾性体に硬球体を収容したアンカー部材が記載されている。このアンカー部材は、筒状弾性体の内径を硬球体の直径よりも大きくして、筒状弾性体の内部に硬球体が転動可能な転動空間を形成したものである。このような転動空間を設けたのは、硬球体の転がりを許容し、建物の揺れを長周期化させ、免震作用を機能させるためである。
【0007】
特開2000−110403号公報には、さらに、硬球体が上部基板と下部基板のそれぞれに内設するように、筒状弾性体の高さを硬球体の直径と同寸法にしたアンカー部材が記載されている。
【0008】
特開2001−182366号公報には、上下に対象な凹面を有する皿状の上下の鋼板部材間に、硬球体を設けたアンカー部材が記載されている。
【0009】
特開平9−242381号公報には、下側支持板の上面に形成した擂鉢状の凹部の中心に硬球体を配設したものが記載されている。
【0010】
このような装置は、構造物の基礎部に所定の間隔を空けて複数個設置することにより、装置間に通気用の隙間を形成することができ、床下空間の通気性を確保するための基礎パッキン材としての機能も兼ねている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
特開2000−73616号公報、特開2000−110403号公報に記載されたアンカー部材のように、硬球体が転動可能な空間を設けると、硬球体は自在に可動し得るので、設置工事時において特別な構造を付加しない限りは、施工前の鉛直荷重が掛からない状態において、運搬時や組み立て後に、硬球体が、筒状弾性体の内部空間の中央位置からずれて、筒状弾性体の内周面に接した状態になり得る。アンカー部材を実用化するためには、装置のせん断方向への変形量とせん断方向の反力の関係が明らかでなければならない。特開2000−73616号公報、特開2000−110403号公報に記載されたアンカー部材は、筒状弾性体内での硬球体の位置が不定であるため、可動範囲が小さく又は不定であり、装置のせん断方向への変形量とせん断方向の反力の関係も明らかではない。このため実用化するときに問題があった。また、装置のせん断方向への変形量とせん断方向の反力の関係が不明であるために、制振性能を正確に予測することができないという問題もあった。
【0012】
これに対し、特開2001−182366号公報、特開平9−242381号公報に記載されたアンカー部材は、少なくとも下側の支持板が擂鉢状の凹部になっており、硬球体が擂鉢状凹部の中心に位置するようになっている。このため、上記のような問題は生じない。しかし、この構造は、実際の地震などで揺れる時に、硬球体が擂鉢状の凹部上を転動するので、これに伴って、構造物の上部構造に上下動が生じ、構造物やその中の家具などに損傷を与える恐れがある。また、下部支持板に擂鉢状の凹部を加工することは、コストが高くつく。
【0013】
そこで、本発明は、硬球体の位置決めが確実に行え、かつ、構造物の上部構造に上下動が生じないアンカー部材を提供することを目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載のアンカー部材は、筒状弾性体と、前記筒状弾性体に収容した硬球体と、前記筒状弾性体の上下端面にそれぞれ取り付けた上下の硬質板とを備え、構造物の上部構造と下部構造との間に挟んで装着するアンカー部材において、前記上側の硬質板と下側の硬質板の少なくとも一方の中央部に、硬球体を入れるための穴を設け、この穴を封口する栓部材の内面に、弾性材料からなるシート状位置決め部材を貼り付けたことを特徴としている。
【0015】
このアンカー部材は、常時は、構造物の上部構造の荷重を上側の硬質板で受けており、上側の硬質板で受けた荷重を、硬球体、及び、下側の硬質板で支持している。このとき、上側の硬質板の下面と下側の硬質板の上面の少なくとも一方に貼り付けた弾性材料からなるシート状位置決め部材に硬球体をめり込ませることによって、硬球体を位置決めすることができる。
【0016】
また、このアンカー部材は輸送やその他の取り扱い中の衝撃をシート状位置決め部材で吸収することができるので、衝撃や振動に対して硬球体の位置がずれにくい。また、トリガー機能における応答がソフトであり、交通振動などの軽微な震動を緩和できる。さらに、上側の硬質板と下側の硬質板の少なくとも一方の中央部に、硬球体を入れるための穴を設け、この穴を封口する栓部材の内面に、シート状位置決め部材を貼り付けているため、製造コストを安価にすることができる。
【0017】
請求項2に記載のアンカー部材は、筒状弾性体と、前記筒状弾性体に収容した硬球体と、前記筒状弾性体の上下端面にそれぞれ取り付けた上下の硬質板とを備え、構造物の上部構造と下部構造との間に挟んで装着するアンカー部材において、前記上側の硬質板と下側の硬質板の少なくとも一方の中央部に、硬球体を入れるための穴を設け、この穴を封口する栓部材の内面に、硬球体を筒状弾性体の内部の中央部に位置決めする窪み又は穴を備えたシート状位置決め部材を貼り付けたことを特徴としている。このアンカー部材は、常時は、上側の硬質板の下面と下側の硬質板の上面の少なくとも一方に貼り付けたシート状位置決め部材によって、硬球体を筒状弾性体の内部の中央部に位置決めしており、硬球体の位置決めが確実に行える。また硬質板にシート状の部材を貼り付けるだけで良いので、硬質板に窪みや穴を形成するよりも安価に加工できる。さらに、上側の硬質板と下側の硬質板の少なくとも一方の中央部に、硬球体を入れるための穴を設け、この穴を封口する栓部 材の内面に、シート状位置決め部材を貼り付けているため、製造コストを安価にすることができる。
【0018】
請求項3に記載のアンカー部材は、請求項2に記載のアンカー部材において、前記シート状位置決め部材が弾性材料からなることを特徴としている。このアンカー部材は、シート状位置決め部材を弾性材料にしたので、輸送やその他の取り扱い中の衝撃をシート状位置決め部材で吸収することができるので、衝撃や振動に対して硬球体の位置がずれにくい。また、トリガー機能における応答がソフトであり、交通振動などの軽微な震動を緩和できる。
【0019】
請求項4に記載のアンカー部材は、上側の硬質板と下側の硬質板の少なくとも一方の中央部に、筒状弾性体の内径よりも小径のシート状位置決め部材を貼り付けたことを特徴としている。このアンカー部材は、シート状位置決め部材を小さくできるので、製造コストを安価にすることができ、かつ、シート状位置決め部材の貼り付けも容易である。
【0020】
請求項5に記載のアンカー部材は、シート状位置決め部材の外周縁をテーパ状にして、硬質板との段差をなくしたことを特徴としている。このアンカー部材は、地震時に硬球体が転動するときに、シート状位置決め部材と硬質板との段差を通過するときの衝撃を軽減することができる。
【0021】
請求項6に記載のアンカー部材は、請求項1又は3に記載のアンカー部材において、前記シート状位置決め部材の厚さが、硬球体の直径の1/80〜1/8であることを特徴としている。シート状位置決め部材の厚さが薄すぎると、位置決め効果が小さく、また、シート状位置決め部材は位置決め作用を奏する厚さがあれば機能面では十分であり、それ以上に厚くする必要はない。
【0022】
請求項7に記載のアンカー部材は、請求項3に記載のアンカー部材において、前記シート状位置決め部材の窪み又は穴が、硬球体がその直径の1/100〜1/8の高さまで嵌まる窪み又は穴であることを特徴としている。窪みや穴が浅すぎると、窪みや穴を設けたことによる位置決めの効果が小さく、窪みや穴が深すぎると、硬球体の転動時に生じる上下動が大きくなるので好ましくない。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態に係るアンカー部材を図面に基づいて説明する。
【0024】
本発明の第1実施形態に係るアンカー部材の基礎となる第1比較例について、図1を用いて説明する。本発明の第1比較例に係るアンカー部材1は、図1に示すように、ゴム製の筒状弾性体2と、筒状弾性体2の内周面に内接した状態で筒状弾性体2の内部に収容した硬球体3と、前記筒状弾性体2の上下端面にそれぞれ取り付けた上下の硬質板4、5と、上側の硬質板4の下面と下側の硬質板5の上面にそれぞれ貼り付けたシート状位置決め部材6、7からなる。このアンカー部材1は、構造物の上部構造8と下部構造9の間に複数個設置し、上部構造8の荷重を上側の硬質板4で受け、上側の硬質板4で受けた荷重を硬球体3で支持している。後で詳述するが、硬球体3は、シート状位置決め部材6、7によって、筒状弾性体2内部の中央に位置決めしている。
【0025】
筒状弾性体2は、高減衰性の弾性材料からなる略円筒形状の部材である。筒状弾性体2の内径は、硬球体3の直径よりも大きい。筒状弾性体2の高さHは硬球体3の直径と同じか、硬球体3の直径よりも少し高くするのが良い(例えば、硬球体3の直径Dに対して(5/4)D>H>Dにするのが好ましい。)。
【0026】
上記の筒状弾性体2に用いられる弾性材料は高減衰性を有するものがよく、そのせん断弾性率は、高さに対して25%以下の片振幅において80N/cm2以上、望ましくは100N/cm2以上、さらには200N/cm2以上であることが好ましい。また、筒状弾性体2に用いられる弾性材料の損失係数tanδは、0.3以上にするのが好ましく、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上にするのが良い。
【0027】
ここで、ゴム材料の動的特性を複素弾性率で表現した場合、実数部分を貯蔵弾性率G1、虚数部分を損失弾性率G2といい、貯蔵弾性率G1と損失弾性率G2の比を損失係数tanδという。
損失係数tanδ=貯蔵弾性率G1/損失弾性率G2
【0028】
損失係数tanδは、制振材料の制振特性の評価指標の一つである。すなわち、制振材料は、振動応答系に減衰があると、その応力・歪み線図(あるいは荷重・変位線図)は履歴曲線(ヒステリシスループ)を描くのであるが、損失係数tanδは、1サイクルで消費されるエネルギと貯蔵される最大エネルギの比に比例する量で、等価減衰定数の約2倍の値に対応する。損失係数tanδが大きいほど減衰性の高い材料となる。
【0029】
筒状弾性体2の材質について、筒状弾性体2はNR高減衰配合ゴムで、耐候性材料で被覆することが好ましい。耐候性材料には、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)などがある。硬球体3を収容する筒状弾性体2の内周面は、地震時に硬球体3を滑らかに転動させるために潤滑材を塗布し、又は、硬球体3を収容した筒状弾性体2の内部に潤滑材を充填し、筒状弾性体2の内周面を耐油性材料で被覆するとよい。
【0030】
表1に、筒状弾性体2のゴム材料の好適な配合例を示す。また、筒状弾性体2は、耐候性を向上させるため、耐候性材料、例えばブチルゴムを主成分とするゴム組成物で(例えば、厚さ1mm程度)被覆するとよい。なお、表1中、phrは、配合剤の質量をゴム100部に対する部数で示すときに用いる記号をいう。
【0031】
【表1】
【0032】
次に、硬球体3は、所要の剛性を備えた球状体であり、例えば、鋼鉄製の鋼球を採用することができる。
【0033】
硬球体3の滑らかな転動を確保するため、硬球体3と硬質板4、5は載荷時にそれぞれが変形しないように同程度の硬度を有する材料(例えば、ロックウェル硬度で±5以内、望ましくは同一材料)で形成することが望ましい。なお、同程度の硬度であれば、例えば、一方を金属、他方をプラスチックにしてもよい。ただし、硬質板4、5側に大きな凹状変形が生じると、水平せん断変位−水平反力の履歴曲線に負勾配を生じ、不安定な応答性能を示すため、硬質板4、5の硬度は硬球体3の硬度よりも高いことが望ましい。また、両者の材質をS45Cに焼入れ・焼鈍しの熱処理を加えてロックウェル硬度を30以上にすることにより、載荷時においてほとんど変形が生じないものとなる。
【0034】
上下の硬質板4、5は矩形の板状部材であり、その四隅には、それぞれ建物の上部構造又は下部構造に取り付けるためボルト穴10が設けてある。
【0035】
次に、シート状位置決め部材6、7は、弾性材料からなるシート状の部材であり、筒状弾性体2の内部において、上側の硬質板4の下面と下側の硬質板5の上面に貼り付けている。シート状位置決め部材6、7は、例えば、接着剤で貼り付けるとよい。なお、シート状位置決め部材6、7は、JIS K6253 デュロメータ タイプA硬度で30〜90の弾性材料を使用するのが良い。シート状位置決め部材6、7に用いる弾性材料の硬度が低すぎると硬球体3を把捉する作用が弱く位置決め作用が低下し、また、十分なトリガー機能を発揮できない。また、弾性材料の硬度が高すぎると硬球体3が十分にめり込まず位置決め作用が低下する。より好適には、JIS K6253 デュロメータ タイプA硬度で40〜80の弾性材料を使用するのが良い。
【0036】
このアンカー部材1は、例えば、シート状位置決め部材7を貼り付けた下側の硬質板5に、筒状弾性体2を加硫接着し、硬球体3が筒状弾性体2内部の中央に位置するように、硬球体3をシート状位置決め部材7の上に載置し、シート状位置決め部材6を貼り付けた上側の硬質板4を筒状弾性体2の上端に加硫接着したものである。このアンカー部材1は、図中の矢印11、12で指し示すように、硬球体3を弾性材料からなるシート状位置決め部材6、7にめり込ませて、筒状弾性体2内部の中央に硬球体3を位置決めしている。
【0037】
このアンカー部材1を保管、運搬するときは、衝撃で硬球体3の位置がずれないように、上下の硬質板4、5を挟む治具を取り付けるとよい。簡単には、上下の硬質板4、5に粘着テープを巻き付けた状態で保管、運搬するとよい。なお、このアンカー部材1は輸送やその他の取り扱い中の衝撃をシート状位置決め部材6、7で吸収することができるので、衝撃や振動に対して位置決めされた硬球体の位置がずれにくい。また、トリガー機能における応答がソフトであり、交通振動などの軽微な震動を緩和できる。
【0038】
このアンカー部材1は、図1に示すように、構造物の上部構造8と下部構造9の間に挟んで設置する。アンカー部材1の取り付けは、ボルト締結によって行う。なお、アンカー部材1は1kN以上の力で、構造物の上部構造8と下部構造9の間に挟んで設置する。これにより、硬球体3と上下の硬質板4、5の接触部分に十分に大きな摩擦力が作用し、硬球体3が上下の硬質板4、5の間で滑ることなく転動するようになる。なお、1kN以上の力でアンカー部材1を構造物の上部構造8と下部構造9の間に挟んで設置することにより、硬球体3と上下の硬質板4、5との間に滑りがなくなる。このことは本発明者らが実験により見出した知見によるものである。このため、例えば、構造物の上部構造8の重さに対し、一つのアンカー部材1が支持する荷重が1kN以上になるように、アンカー部材1の設置個数とその配置を定めるとよい。
【0039】
各アンカー部材1を構造物の上部構造8と下部構造9の間に設置した状態では、常時は、上部構造8の荷重が上側の硬質板4に掛かっており、硬球体3は、シート状位置決め部材6、7に十分にめり込んでいるので、風や交通振動などによる軽微なせん断方向の外力が作用しても、硬球体3は転動しない。すなわち、シート状位置決め部材6、7は、硬球体3を位置決めする機能の他に、制振機能を発揮させるトリガーとしての機能も備えている。これに対して、地震のときは、大きなせん断方向の外力が作用するので、図2に示すように、上側の硬質板4と下側の硬質板5の相対的な変位を受けて、硬球体3がシート状位置決め部材6、7の上を転動する。
【0040】
このアンカー部材1は、シート状位置決め部材6、7によって、硬球体3を筒状弾性体2の中央に位置決めしており、硬球体3は上下の硬質板4、5との間で滑ることなく転動するので、図2に示すように、上下の硬質板4、5間の相対変位yは硬球体3の転動距離xの略2倍になる。これにより、このアンカー部材1は、装置のせん断方向への変形量とせん断方向の反力の関係、および、制振性能を正確に予測することができる。
【0041】
地震が収まると、筒状弾性体2の弾性復元力を受けて、上下の硬質板4、5は相対的に元の位置に戻り、硬球体3も再び筒状弾性体2の中央に戻る。
【0042】
このアンカー部材1の制振効果について説明する。図3に示すように、従来の免震工法では、建物の固有周波数を長周期化させることにより、振動伝達率(地震周波数/固有振動数)を大きくし、これにより、優れた振動吸収性能を備えていた。これに対して、このアンカー部材1は、tanδが0.3以上(好ましくは、0.5以上)の高い減衰性を示す弾性材料からなる筒状弾性体2を用いて、共振ポイントにおける応答増幅倍率を低くすることにより、振動吸収性能を確保している。また、このアンカー部材1は、免震工法のように建物の固有周波数の長周期化を意図しないので、従来の免震工法の装置に比べて小型で、かつ、安価である。
【0043】
以上のように、第1比較例に係るアンカー部材1は、上下の硬質板4、5に貼り付けたシート状位置決め部材6、7に硬球体3をめり込ませることによって、硬球体3を位置決めしている。これにより、装置のせん断方向への変形量とせん断方向の反力の関係など、制振性能を正確に予測することができ、かつ、硬球体3の転動面に大きな凹凸が無いので地震時にアンカー部材1に起因する上下動も生じない。
【0044】
次に、本発明の第1実施形態に係るアンカー部材について説明する。このアンカー部材20は、図6(a)に示すように、上側の硬質板4及び下側の硬質板5に、筒状弾性体2の中央に硬球体3を入れることができる穴26を設けて、この穴26に栓部材27を嵌めている。この穴26から硬球体3を筒状弾性体2の内部に入れることができる。
【0045】
そして、第1比較例のアンカー部材で使用したシート状位置決め部材6、7より小径のシート状位置決め部材21、22を、上下の硬質板4、5の中央部に貼り付けている。これにより、シート状位置決め部材21、22を小さくすることができるので、材料コストの低減を図ることができ、また、貼り付け作業が容易になる。この場合、シート状位置決め部材21、22の外周縁をテーパ23にして、シート状位置決め部材21、22と、上下の硬質板4、5との段差を無くし、硬球体3がスムーズに転動するようにすることが望ましい。
【0046】
このように、本発明の第1実施形態に係るアンカー部材では、上側の硬質板と下側の硬質板の少なくとも一方の中央部に、硬球体を入れるための穴を設け、この穴を封口する栓部材の内面に、シート状位置決め部材を貼り付けている。このため、前記第1比較例の効果に加えて、さらに、製造コストを安価にすることができるという効果を奏する。
【0047】
次に、本発明の第2実施形態に係るアンカー部材の基礎となる第2比較例について、図4を用いて説明する。なお、第1比較例で説明したものと同一のものには同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0048】
第2比較例に係るアンカー部材1'は、図4(a)に示すように、シート状位置決め部材6'、7'に硬球体3を位置決めするための窪み13、14を設けたものである。
【0049】
シート状位置決め部材6'、7'は、弾性材料からなるシート状の部材であり、筒状弾性体2の内部において上側の硬質板4の下面と下側の硬質板5の上面に貼り付けた部材である。シート状位置決め部材6'、7'は、例えば、接着剤で貼り付けるとよい。シート状位置決め部材6'、7'の中央部には、硬球体3が嵌まる窪み13、14を形成している。
【0050】
窪み13、14は、図4(b)(c)に拡大して示すように、円弧状の窪みであり、硬球体3がその直径Dの1/100〜1/8の高さhまで嵌まるようになっている。なお、窪み13、14に代えて、円形の穴を開けてもよい。
【0051】
このアンカー部材1'は、例えば、シート状位置決め部材7'を貼り付けた下側の硬質板5に、筒状弾性体2を加硫接着し、硬球体3をシート状位置決め部材7'の窪み14に載置した状態で筒状弾性体2の内部に入れ、シート状位置決め部材6'を貼り付けた上側の硬質板4を筒状弾性体2の上端に加硫接着したものである。そして、下側の硬質板5を構造物の下部構造9の上面に取り付け、上側の硬質板4を構造物の上部構造8の下面に取り付ける。アンカー部材1'の取り付けは、ボルト締結によって行う。
【0052】
このアンカー部材1'は、シート状位置決め部材6'、7'の窪み13、14に硬球体3が嵌まっているので、アンカー部材1'を設置する時に、硬球体3が筒状弾性体2の中央位置からずれることはない。これにより、常時は硬球体3が確実に筒状弾性体2の中央で荷重を受けることができるようになっている。
【0053】
このアンカー部材1'は、筒状弾性体2の内周面に嵌めたシート状位置決め部材6'、7'の窪み13、14に硬球体3が嵌まっており、風や交通振動などの軽微なせん断方向の外力が作用した場合は、シート状位置決め部材6'、7'が硬球体3の転動を規制する。すなわち、シート状位置決め部材6'、7'は制振機能を発揮させるトリガーとしての機能も備えている。これに対して、地震のような大きな揺れに対しては、図5に示すように、地震による上側の硬質板4と下側の硬質板5の相対的な変位を受けて、硬球体3は窪み13、14を乗り越えて転動する。
【0054】
このアンカー部材1'は、シート状位置決め部材6'、7'によって、設置時に硬球体3を筒状弾性体2の中央に位置決めしている。そして、硬球体3は上下の硬質板4、5との間で滑ることなく転動するので、図5に示すように、上下の硬質板4、5間の相対変位yは硬球体3の転動距離xの略2倍になる。これにより、このアンカー部材1'は、装置のせん断方向への変形量とせん断方向の反力の関係、および、制振性能を正確に予測することができる。また、シート状位置決め部材6'、7'に設ける窪み13、14は、硬球体3が、その直径Dの1/100〜1/8程度の高さまで嵌まる程度の窪み13、14であり、シート状位置決め部材6'、7'が弾性材料からなるので、硬球体3の転動時にアンカー部材1'に起因する構造物の上部構造の上下動は緩和される。
【0055】
地震が収まると、筒状弾性体2の弾性復元力を受けて、上下の硬質板4、5は相対的に元の位置に戻り、硬球体3も再び筒状弾性体2の中央に戻る。
【0056】
以上に説明したように、この第2比較例に係るアンカー部材1'は、シート状位置決め部材6'、7'の中央部に硬球体3が嵌まる窪み13、14を設け、硬球体3を筒状弾性体2の中央に位置決めしたので、装置のせん断方向への変形量とせん断方向の反力の関係、および、制振性能を正確に予測することができるようになっている。
【0057】
以上、第2比較例のアンカー部材1'を説明したが、このアンカー部材1'では、シート状位置決め部材6'、7'は、設置時に硬球体3の位置を筒状弾性体2の中央に位置決めすることを主目的としており、シート状位置決め部材6'、7'の中央部に設けた窪み13、14によって、硬球体3を位置決めしている。従って、シート状位置決め部材6'、7'は、必ずしも弾性材料である必要はない。しかし、シート状位置決め部材6'、7'を弾性材料で構成することにより、アンカー部材1の輸送時や設置時などの衝撃をシート状位置決め部材6'、7'で弾性的に緩和することができ、硬球体3がシート状位置決め部材6'、7'の窪み13、14から外れたり、アンカー部材1'が壊れたりするのを防止することができる。また、風や交通振動などの軽微なせん断方向の外力に対し、弾性的な柔らかい応答をするので、ソフトなトリガー機能を発揮することができる。また、地震時の硬球体3の転動においても、アンカー部材1'に起因する上下動を緩和することができる。従って、シート状位置決め部材6'、7'には、ゴム、発泡材、ポリウレタンなどの可撓性樹脂などの弾性材料を用いるのが好ましい。
【0058】
次に、本発明の第2実施形態に係るアンカー部材について説明する。第2実施形態に係るアンカー部材は、前記第1実施形態と同様、上側の硬質板4及び下側の硬質板5に、筒状弾性体2の中央に硬球体3を入れることができる穴26を設けて、この穴26に栓部材27を嵌めている。この穴26から硬球体3を筒状弾性体2の内部に入れることができる。
【0059】
そして、第2比較例のアンカー部材で使用したシート状位置決め部材6、7より小径のシート状位置決め部材21、22を、上下の硬質板4、5の中央部に貼り付けている。これにより、シート状位置決め部材21、22を小さくすることができるので、材料コストの低減を図ることができ、また、貼り付け作業が容易になる。この場合、シート状位置決め部材21、22の外周縁をテーパ23にして、シート状位置決め部材21、22と、上下の硬質板4、5との段差を無くし、硬球体3がスムーズに転動するようにすることが望ましい。
【0060】
シート状位置決め部材21、22の中央部には、硬球体3が嵌まる窪み13、14を形成している。窪みは、図4(b)(c)に拡大して示すものと同様に、円弧状の窪みであり、硬球体3がその直径Dの1/100〜1/8の高さhまで嵌まるようになっている。なお、窪みに代えて、円形の穴を開けてもよい。
【0061】
そして、筒状弾性体2の内径より小径のシート状位置決め部材21、22を、上下の硬質板4、5の中央部に貼り付けている。これにより、シート状位置決め部材21、22を小さくすることができるので、材料コストの低減を図ることができ、また、貼り付け作業が容易になる。この場合、シート状位置決め部材21、22の外周縁をテーパ23にして、シート状位置決め部材21、22と、上下の硬質板4、5との段差を無くし、硬球体3がスムーズに転動するようにすることが望ましい。
【0062】
このように、本発明の第2実施形態に係るアンカー部材では、上側の硬質板と下側の硬質板の少なくとも一方の中央部に、硬球体を入れるための穴を設け、この穴を封口する栓部材の内面に、シート状位置決め部材を貼り付けている。このため、前記第2比較例の効果に加えて、さらに、製造コストを安価にすることができるという効果を奏する。
【0063】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0064】
例えば、上下の硬質板4、5の形状やボルト穴10の配置は、上記の実施形態に限定されない。
【0065】
また、上記の実施形態では、上下の硬質板4、5の両方にシート状位置決め部材21、22を貼り付けたものを例示したが、シート状位置決め部材21、22は、硬球体3を筒状弾性体2の中央に位置決めするために貼り付けているので、上下の硬質板4、5の何れか一方にのみ貼り付けたものでも良い。
【0066】
さらに、前記実施形態では、上側の硬質板4と下側の硬質板5との両方に穴26及び栓部材27を設けたが、他の実施形態として、上側の硬質板4と下側の硬質板5の少なくとも一方の中央部に穴26及び栓部材27を設けてもよい。すなわち、図6(b)のアンカー部材30のように、上側の硬質板4のみに穴31及び栓部材33を設けたり、下側の硬質板5のみに穴31及び栓部材33を設けたりすることができる。
【0067】
図6(b)に示す場合も、シート状位置決め部材32の外周縁をテーパ34にして、シート状位置決め部材32と、上下の硬質板4、5との段差を無くし、硬球体3がスムーズに転動するようにすることが望ましい。なお、この図6(b)に示すシート状位置決め部材32は、弾性部材からなり硬球体3がめり込む形態(図6(b)中、35は硬球体3がめりこんでいる箇所を示している。)のものを示すが、硬球体3が嵌まる窪み又は穴をシート状位置決め部材に形成した形態にしてもよい。
【0068】
【発明の効果】
請求項1に記載のアンカー部材は、上側の硬質板の下面と下側の硬質板の上面の少なくとも一方に、弾性材料からなるシート状位置決め部材を貼り付けたので、弾性材料からなるシート状位置決め部材に硬球体をめり込ませることによって、硬球体を位置決めすることができる。また、このアンカー部材は輸送やその他の取り扱い中の衝撃をシート状位置決め部材で吸収することができるので、衝撃や振動に対して硬球体の位置がずれにくい。また、トリガー機能における応答がソフトであり、交通振動などの軽微な震動を緩和できる。また硬質板にシート状の部材を貼り付けるだけで良いので、硬質板に窪みや穴を形成するよりも安価に加工できる。さらに、上側の硬質板と下側の硬質板の少なくとも一方の中央部に、硬球体を入れるための穴を設け、この穴を封口する栓部材の内面に、シート状位置決め部材を貼り付けているため、製造コストを安価にすることができ、かつ、シート状位置決め部材の貼り付けも容易となる。
【0069】
請求項2に記載のアンカー部材は、上側の硬質板の下面と下側の硬質板の上面の少なくとも一方に、硬球体を筒状弾性体の内部の中央部に位置決めする窪み又は穴を備えたシート状位置決め部材を貼り付けたので、常時は、上側の硬質板の下面と下側の硬質板の上面の少なくとも一方に貼り付けたシート状位置決め部材によって、硬球体を筒状弾性体の内部の中央部に位置決めしており、硬球体の位置決めが確実に行える。また硬質板にシート状の部材を貼り付けるだけで良いので、硬質板に窪みや穴を形成するよりも安価に加工できる。さらに、上側の硬質板と下側の硬質板の少なくとも一方の中央部に、硬球体を入れるための穴を設け、この穴を封口する栓部材の内面に、シート状位置決め部材を貼り付けているため、製造コストを安価にすることができ、かつ、シート状位置決め部材の貼り付けも容易となる。
【0070】
請求項3に記載のアンカー部材は、請求項2に記載のアンカー部材において、シート状位置決め部材が弾性材料からなるので、輸送やその他の取り扱い中の衝撃をシート状位置決め部材で吸収することができるので、衝撃や振動に対して硬球体の位置がずれにくい。また、トリガー機能における応答がソフトであり、交通振動などの軽微な震動を緩和できる。
【0071】
請求項4に記載のアンカー部材は、上側の硬質板と下側の硬質板の少なくとも一方の中央部に、筒状弾性体の内径よりも小径のシート状位置決め部材を貼り付けたので、シート状位置決め部材を小さくでき、材料コストを安価にでき、かつ、シート状位置決め部材の貼り付けも容易になる。
【0072】
請求項5に記載のアンカー部材は、シート状位置決め部材の外周縁をテーパ状にして、硬質板との段差をなくしたので、地震時に硬球体が転動するときに、シート状位置決め部材と硬質板との段差を通過するときの衝撃を軽減することができる。
【0073】
請求項6に記載のアンカー部材は、請求項1又は3に記載のアンカー部材において、シート状位置決め部材の厚さを硬球体の直径の1/80〜1/8にしたので、シート状位置決め部材の厚さが薄すぎず、また、厚すぎず、適切な位置決め効果が得られる。
【0074】
請求項7に記載のアンカー部材は、請求項3に記載のアンカー部材において、前記シート状位置決め部材の窪みを、硬球体がその直径の1/100〜1/8の高さまで嵌まる窪み又は穴にしたので、窪みや穴が浅すぎず、また、深すぎず、適切な位置決めの効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】は、本発明の第1比較例に係るアンカー部材を示す縦断面図である。
【図2】本発明の第1比較例に係るアンカー部材の地震時の状態を示す縦断面図である。
【図3】本発明に係るアンカー部材の建物の固有周波数と応答増幅倍率の関係を示す図。
【図4】(a)は、本発明の第2比較例に係るアンカー部材を示す縦断面図であり、(b)は上側の硬質板の窪み部分を示す拡大断面図であり、(c)は下側の硬質板の窪み部分を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の第2比較例に係るアンカー部材の地震時の状態を示す縦断面図である。
【図6】(a)、(b)は、それぞれ本発明のアンカー部材の実施形態を示す図であり、(a)は第1実施形態を示し、(b)は他の実施形態を示す。
【図7】住宅土台を基礎に固定する構造を示す図。
【図8】基礎パッキン材を示す図。
【符号の説明】
1 アンカー部材
2 筒状弾性体
3 硬球体
4 上側の硬質板
5 下側の硬質板
6、7 シート状位置決め部材
8 構造物の上部構造
9 構造物の下部構造
10 ボルト穴
11、12 シート状位置決め部材に硬球体がめり込んだ箇所
13、14 窪み
Claims (7)
- 筒状弾性体と、前記筒状弾性体に収容した硬球体と、前記筒状弾性体の上下端面にそれぞれ取り付けた上下の硬質板とを備え、構造物の上部構造と下部構造との間に挟んで装着するアンカー部材において、
前記上側の硬質板と下側の硬質板の少なくとも一方の中央部に、硬球体を入れるための穴を設け、この穴を封口する栓部材の内面に、弾性材料からなるシート状位置決め部材を貼り付けたことを特徴とするアンカー部材。 - 筒状弾性体と、前記筒状弾性体に収容した硬球体と、前記筒状弾性体の上下端面にそれぞれ取り付けた上下の硬質板とを備え、構造物の上部構造と下部構造との間に挟んで装着するアンカー部材において、
前記上側の硬質板と下側の硬質板の少なくとも一方の中央部に、硬球体を入れるための穴を設け、この穴を封口する栓部材の内面に、硬球体を筒状弾性体の内部の中央部に位置決めする窪み又は穴を備えたシート状位置決め部材を貼り付けたことを特徴とするアンカー部材。 - 前記シート状位置決め部材が弾性材料からなることを特徴とする請求項2に記載のアンカー部材。
- 前記上側の硬質板と下側の硬質板の少なくとも一方の中央部に、筒状弾性体の内径よりも小径の前記シート状位置決め部材を貼り付けたことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のアンカー部材。
- 前記シート状位置決め部材の外周縁をテーパ状にして、硬質板との段差をなくしたことを特徴とする請求項4に記載のアンカー部材。
- 前記シート状位置決め部材の厚さが、硬球体の直径の1/80〜1/8であることを特徴とする請求項1又は3に記載のアンカー部材。
- 前記シート状位置決め部材に設けた窪み又は穴が、硬球体がその直径の1/100〜1/8の高さまで嵌まる窪み又は穴であることを特徴とする請求項3に記載のアンカー部材。
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