JP4102113B2 - 鋼帯の連続焼鈍ラインにおける冷却方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼帯の連続焼鈍ラインにおける冷却方法に関し、特に、料表面に水滴付着痕や酸化膜等の外観上の不具合がない良好な外観を保持し、かつ、形状、材質等を均一に保持しながら冷却することのできる、鋼帯の連続焼鈍ラインにおける冷却方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、鋼板等の工業製品の製造プロセスラインにおける冷却方法として、冷却効率を重視する場合には、水や油等の液体を冷却媒体とする冷却方法が採用されてきた。しかし、このような液体を冷却媒体とする冷却では、沸騰現象のため、被冷却材の温度、表面性状等により熱伝達特性が変化し、冷却制御が難しくなる。また、表面に、汚れ、酸化膜等、被冷却材との化学反応生成物を作るなど、外観上好ましくない場合がある。
【0003】
このような状況を回避するため、冷却能力の低下を犠牲にして気体を冷却媒体とする冷却方法が採用されている。さらに、気体による冷却の冷却能力不足を改善した冷却方法として、液体を微粒子状にして気体の冷却媒体と混合して用いるミスト冷却があり、必要に応じて用いられている。
【0004】
ミスト冷却における水滴粒径に着目した冷却方法の例として、特開平10−328738号公報、特開昭54−110934号公報に記載された発明が知られている。
【0005】
特開平10−328738号公報に記載された発明は、熱延巻き取り後の静置したコイルを急速かつ均一冷却する際に水滴を50μm以下の粒径とすることでコイルに濡れを起こさせない(コイルを錆させない)ようにする冷却方法である。この場合、冷却対象であるコイルは静置されているため、冷却されるべきコイル壁面のごく近傍では、コイルが周辺より温度が高いことにより生じる空気の自然対流が生じている。
【0006】
そして、この自然対流の流速は、同文献〔0015〕段落に記載されているように、1〜5m/s程度が好ましいことが示唆されている。また、冷却フォグの吹きつけ流速(噴出速度)が5m/s程度でも、同文献〔0012〕段落の記載から、冷却フォグの水滴は、自然対流による空気の流れにより壁面に平行な方向に流されてしまうことなく壁面に到達できることが示唆されている。
【0007】
そして、同文献〔0016〕段落や図5で開示されているような30〜50μmという粒径でも鋼板上での水滴の扁平状変形が少なく、接触面積が小さいために酸化の後が残らない状態となったと考えられる。あるいは、熱延コイルは本来10μm程度以上のスケール層で覆われているため、この粒径30〜50μmという水滴により発生した酸化スケールの痕は認識が困難であると言うことも考えられる。
【0008】
また、特開昭54−110934号公報には、連続溶融メッキ設備の、メッキ浴、合金化炉の後に設けている冷却装置において、冷却空気中に水その他の液体冷媒を微細に霧化して混合させた二相液体をその液体冷媒の微粒子がストリップ表面に衝突するように所要の圧力で吹き付けることにより、冷却能力を格別に向上させると共にストリップのばたつきを可及的に小さくする発明が記載されている。
【0009】
そして、水の微粒子径について、水滴径が500μm程度以下になるようにするのが好ましいと記載されている。その理由としては、粒子径が大きくなるとストリップ表面に衝突して形成される液膜厚さが厚くなり、液膜内に気泡を生じていわゆる沸騰現象を起こしたり、液膜とストリップ表面との間に蒸気層を形成したりして効果的な薄液膜蒸発による熱除去という特徴が薄らいでくるためと記載されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、材料表面に水滴付着痕や酸化膜等の外観上の不具合がない良好な外観を保持し、かつ、熱伝達特性が不安定となりやすい沸騰現象の膜沸騰を回避することで、形状、材質等を均一に保持しながら冷却することのできるミスト冷却方法を鋭意検討した。
【0011】
上記従来技術の特開昭54−110934号公報に記載の発明では、水の微粒子径に着目して、水滴径が500μm程度以下になるようにするのが好ましいとしているが、その理由として、粒子径が大きくなるとストリップ表面に衝突して形成される「液膜厚さが厚くなり」、液膜内に気泡を生じていわゆる沸騰現象を起こしたり、液膜とストリップ表面との間に蒸気層を形成したりして効果的な「薄液膜蒸発」による熱除去という特長が薄らいでくるとしているように、被冷却材の冷却面に「液膜」が形成されることを前提としている。
【0012】
このため、特開昭54−110934号公報に記載の発明では、「液膜」の形成を許容するがゆえ、近年厳格化してきている表面外観の美麗化の確保には適さないといわざるを得ない。
【0013】
一方、図1に示すように、被冷却材1が動いている場合、材料近傍には、材料の移動速度と同等の周囲流体の随伴流5がある。この随伴流速は、工業製品の製造プロセスライン全般からみれば、5m/sを越える場合も多く、このような場合には、上記従来技術の特開平10−328738号公報に記載の発明のような、ノズル2から噴出された水滴3を含む搬送ガス流4の速度が5m/s程度では、水滴3のほとんどが被冷却材1の随伴流5に流されて被冷却材1の表面に到達できないために冷却効率が低下するという問題があった。
【0014】
これに対し、ガス吹きつけ流速(噴出速度)をあげる、すなわち、被冷却材1への衝突速度が大きくなると、図2に示すように、水滴3は被冷却材(例えば鋼板)1に衝突した際に被冷却材上で潰されたように平たく変形し、球形の場合より、他の水滴と合体しやすくなる。また、ガスの吹き付け流速を増大させることは、一般に、冷却能力を向上させることになる。
【0015】
これは、液滴衝突時の変形により、冷却面積が大きくなるためである。この状態で他の水滴と接触すると水滴は合体し、被冷却材上に液膜を形成する場合がある。水が液膜を形成すると、被冷却材は濡れやすくなり、酸化あるいは水の蒸発痕汚れを生じさせることになる。
【0016】
このため、水滴径の上限として500μm程度までを許容する特開昭54−110934号公報に記載の発明では、やや水滴径が大きすぎることになり、外観上美麗な工業製品を製造するという目的を達成し得ない。
【0017】
そこで、本発明は、材料表面に水滴付着痕や酸化膜等の外観上の不具合がない良好な外観を保持し、かつ、形状、材質等を均一に保持しながら冷却することのできる、鋼帯の連続焼鈍ラインにおける冷却方法を提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために、噴霧冷却の一種であるミスト冷却の高温域熱伝達特性について、特に、液膜形成および液滴同士の干渉が起こり難い条件について鋭意検討した結果、従来認識されていなかった水粒子の粒径範囲で優れた効果があることを見出し、本発明をなしたものである。
【0019】
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
【0020】
(1) 複数の噴出ノズルから冷却媒体を噴出速度10〜50m/s噴出させるミスト冷却により被冷却材を冷却する、加熱帯、均熱帯、一次冷却帯、過時効帯、二次冷却帯を有する鋼帯の連続焼鈍ラインの、少なくとも一次冷却帯と二次冷却帯のどちらか一方における冷却方法において、前記冷却媒体中の水粒子の平均粒径を20μm以下にして気体に搬送させて冷却することを特徴とする、鋼帯の連続焼鈍ラインにおける冷却方法。
【0023】
ここで、本発明の噴出ノズルは、特に限定されるものではないが、例えば、市販の加圧式2流体ノズル(例えば、スプレイングシステム株式会社製 SUE15A:弁の出口外部で液体と気体が衝突する外部混合型のノズル)を用いればよい。
【0024】
本発明の水粒子の平均粒径の測定方法について説明する。ノズルからの噴霧後の液滴径の測定方法には、大きく分けて接触法、非接触法があり、前者の例としては受止法に属する液浸法、痕跡法が、また、後者の例としてはレーザ測定法が代表的であるが、本発明では、これらの測定方法を限定するものではない。なお、後述する実施例のデータは、現在、最も広く用いられている液浸法を用いたデータであるため、液浸法について概略を以下に示す。
【0025】
液浸法は、噴霧そのものを採取して測定するという点で絶対測定に近く、しばしば他の測定法の信頼性を評価するためにも用いられている(日本液体微粒化学会編、アトマイゼーションテクノロジー微粒化の基礎と基本用語辞典、(2001)、47)。
【0026】
まず、測定対象の噴霧を噴出するノズルの直下10cmの所にシャッターを設け、シャッター速度0.0025s、シャッター口径1cm×2cmで、ノズルからシャッターを通過して、粘度5000cstのシリコンオイルが約1mmの厚さで塗布されている受止皿に到達した噴霧後液滴を採取する。その後、採取された噴霧後液滴を即座に顕微鏡に設置し、倍率100倍でCCDカメラによって撮像、録画する。録画後、画像解析ソフトでこの画像を2値化処理し、液滴の直径と個数を求め、ザウテル平均粒子径を用いて整理した。
【0027】
ザウテル平均粒子径Xは、液滴径をx、液滴個数をnとすると、次式に従って算出できる。なお、Nは液滴径Xのものの平均液滴個数である。
πx1 2・Δn1+πx2 2・Δn2+……+πxi 2・Δni……=N・πX2 (1)
π/6・x1 3・Δn1+π/6・x2 3・Δn2+……+π/6・xi 3・Δni……
=N・π/6・X3 (2)
X=(Σxi 3・Δni)/(Σxi 2・Δni) (3)
N=(Σxi 2・Δni3/(Σxi 3・Δni2 (4)
次に、水滴の平均粒径を20μm以下にした場合の効果について以下に説明する。
【0028】
水滴の平均粒径が20μm以下になると、水滴は、被冷却材表面への衝突時に扁平になりにくくなり、また、水滴同士が接触しても合体しにくくなる。
【0029】
これは、単一液滴の研究から、We(ウェーバー)数の大きさにより液滴の挙動が異なる事に起因していると考えられる。すなわち、単一液滴に関する研究成果ではあるが、L.Bolle 、J.C.Moureau らの研究(Two Phase Flow and Heat Transfer, 3(1977), p1327, Phemisohere Pub. Co.)によれば、We≦50の領域では、水滴が高温面に衝突後分裂することなくリバウンドする。50<We<80では、扁平になり一部分裂しながらリバウンドする。We≧80では、扁平になった後完全に分裂して飛散する。
【0030】
これを本発明の場合に適用して考察すると、We数が大きくなると、水滴の扁平広がりが大きくなり、高温面が濡れやすいことを示していると考えられる。このWe数と水滴径の関係を示したのが図5である。本発明者らの試験範囲はWe数80以下の領域に該当しており、高温面を濡れにくくしていることになる。このように高温面を濡れにくくすることにより、水滴の高温面での滞在時間を比較的短くすることによって、材料表面に水滴付着痕や酸化膜等の外観上の不具合がない良好な外観を保持することができると考えられる。
【0031】
また、冷却の均一性に関しても、水滴の分散状態が良いため、従来のように局所的に濡れて冷却が不均一になることもなく、被冷却材の温度分布を従来より均一化することができ、その結果、材質の均一化、形状の改善を達成することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について図面に従って詳細に説明する。
【0033】
図3は、本発明の方法を連続焼鈍ラインの鋼板冷却装置に適用した際の概略図である。鋼板1をロール6で支持した冷却帯に通す。冷却帯においては、冷却ノズルボックス7が鋼板1の両面に配置されている。この冷却ノズルボックスには冷却水及び冷却水吹きつけ用ガスがそれぞれ供給されている。冷却ノズルボックス内で、冷却水は微細化ノズル(噴射ノズル)によって吹きつけ用ガスと適宜混合され、平均粒径20μm以下の水滴径となって鋼板1に吹きつけられる。
【0034】
本冷却装置によって鋼板1の温度を制御するには、冷却装置での鋼板の通板速度、冷却水量、吹きつけガス量などについて、これらのいずれかもしくはそれらを組合わせた選択制御を行う。
【0035】
図4は、本方法を用いて鋼板を冷却する溶融亜鉛めっき後における冷却装置列を示す概略図である。鋼板1は、亜鉛めっき浴10の後に、余剰な亜鉛をワイピングノズル12により除去され、亜鉛層の合金化などが合金化炉11で行われた後に、鋼板進行方向変換のためのロールを経るまでの間に微粒化された水で冷却される。
【0036】
このような設備の冷却帯において、水を用いて鋼板を冷却するに際して、冷却ノズルボックス7に冷却水供給系8と冷却水吹きつけガス供給系9が設置される。冷却ノズルボックス内で、冷却水は微細化ノズルによって吹きつけ用ガスと適宜混合され、平均粒径20μm以下の水滴径となって鋼板1に吹きつけられる。
【0037】
これにより、冷却能力を確保でき、光沢質の面の外観を光沢質上に保持することができる。また、冷却の均一性に関しても、水滴の分散状態が良いため従来のように局所的に濡れて冷却が不均一になることもなく、鋼板の温度分布が従来より均一化され、材質の均一化、鋼板形状の改善という作用・効果を生ずる。
【0038】
上記の冷却方法に関して、水滴の平均粒径は、20μm以下としたが、好ましくは10μm以下としたほうが鋼板の光沢度は良好であった。
【0039】
【実施例】
連続焼鈍炉の一次冷却において、板厚0.7mm、板幅900mmの鋼板を300m/分で通板させ、670℃から270℃まで冷却する際に、図3をもとに、冷却水は水量片面で0.08m/m・分、水の吹きつけ流速は25m/sとなるように吹きつけガス量を調整し、水滴の平均粒径は10μmに制御した。
【0040】
その結果、冷却水で鋼板表面が濡れることを抑制したことで、鋼板の光沢度が良好でまた冷却後温度の均一化が可能となり、冷却速度の変動による鋼板の幅方向での温度分布の均一化により、図6に示すように鋼板の幅方向の温度偏差により生じる熱応力が原因となっている鋼板の折れ状疵を従来の1%から0.3%にまで低減することができた。また、光沢度などの外観不良が1.5%から0.2%に低下した。
【0041】
次に、溶融亜鉛めっきの亜鉛めっき浴後の冷却において、板厚0.2mm、板幅1200mmの鋼板を450℃から270℃まで冷却する際に、図4をもとに、冷却水は水量片面で0.05m/m・分、水の吹きつけ流速は20m/sとなるように吹きつけガス量を調整し水滴の平均粒子径を15μmに制御した。
【0042】
その結果、冷却水で鋼板表面が濡れることを抑制したことで、鋼板の光沢度が良好でまた冷却後温度の均一化が可能となり、図7のように、冷却後温度の均一化による形状不良が3%から1%に減少し、汚れなどの表面外観不良が2%から0.5%に低減することが可能となった。
【0043】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明による鋼帯の連続焼鈍ラインにおける冷却方法を採用することにより、冷却後の材料表面に水滴付着痕や酸化膜等の外観上の不具合がない良好な外観を保つことができ、また、形状の向上と材質の均一化、表面外観の改善を図ることができるなど優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】工業製品の製造プロセスラインにおけるミスト冷却で想定されるノズルと被冷却材間の冷却媒体と随伴流の相互作用を概略的に説明する図である。
【図2】水滴が被冷却材(例えば鋼板)に衝突した際の水滴の挙動を概念的に説明する図である。
【図3】本発明を連続焼鈍ラインの鋼板の冷却に適用した実施例を概念的に説明する図である。
【図4】本発明を溶融亜鉛めっきラインの溶融めっき後の鋼板の冷却に適用した実施例を概念的に説明する図である。
【図5】単一液滴の研究成果に基づき、水滴粒径とWe数の関係を示す図である。
【図6】本発明を用いて、鋼板を連続焼鈍した際の効果として鋼板の折れ状疵の発生率及び外観の不良率の変化を示した図である。
【図7】本発明を用いて、鋼板を溶融亜鉛めっき後冷却した際の効果として鋼板の形状及び外観の不良率の変化を示した図である。
【符号の説明】
1…被圧延材(例えば鋼板)
2…ノズル
3…水滴
4…搬送ガス流
5…随伴流
6…ロール
7…冷却ノズルボックス
8…冷却水供給系
9…冷却水吹きつけガス供給系
10…亜鉛めっき浴
11…合金化炉
12…ワイピングノズル

Claims (1)

  1. 複数の噴出ノズルから冷却媒体を噴出速度10〜50m/s噴出させるミスト冷却により被冷却材を冷却する、加熱帯、均熱帯、一次冷却帯、過時効帯、二次冷却帯を有する鋼帯の連続焼鈍ラインの、少なくとも一次冷却帯と二次冷却帯のどちらか一方における冷却方法において、前記冷却媒体中の水粒子の平均粒径を20μm以下にして気体に搬送させて冷却することを特徴とする、鋼帯の連続焼鈍ラインにおける冷却方法。
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