JP4101968B2 - タイヤ補強用スチールコード - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、自動車用タイヤのゴム補強材として使用されるタイヤ補強用スチールコードに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、自動車用タイヤの補強材として使用されるスチールコードは、多本数が平行に引き揃えられた状態でゴム材に被覆されて使用されている。そのスチールコードに要求される条件としては、機械的強度が優れていることは勿論のこと、ゴム材との化学的、物理的な接着が良好であること、およびスチールコード内へのゴム浸入性が良好であること等が挙げられる。すなわち、スチールコードがタイヤ補強材としての役割を充分に果たすためにゴム材との完全な複合体となることが必要である。
さらに、近年タイヤの長寿命化の観点から、タイヤが小石、縁石等に乗り上げたときに生じるスチールコードの切断を防ぐ耐カット性の向上が求められている。
【0003】
この耐カット性の向上には、タイヤのベルト部に高い伸度を有するスチールコードを使用することが有効と考えられる。
【0004】
この高い伸度を有するスチールコードとしては、素線間に隙間を設けるよう緩く撚ったいわゆるオープンコードと、撚り合わせのピッチ(以下、撚りピッチという)を小さくしたスチールコード(以下、小ピッチコードという)の2種類がある。
【0005】
上記オープンコードは、ゴム浸入性もよく、破断伸び率を5%以上にすることも可能である。しかし、素線間の自由空間が大きくなりすぎて、タイヤ成型時のゴム加硫時にスチールコードの長手方向にしごきの形で外力が負荷された場合、素線がスチールコード中心軸を中心に回転し、それに伴って素線間の隙間が減少し、ゴムがスチールコードの素線内部まで充分に浸入せず、スチールコードの腐食やセパレーション現象を誘発するという問題を有している。
【0006】
また、小ピッチコードは、撚りピッチを通常より小さくしたもので、スチールコードの一定長当たりのピッチ数を増やし、素線長さを通常のスチールコードより長くして、高い伸び率を得ようとするものである。
しかし、このコードは、撚り構造は安定しているが、撚りピッチが小さいため、生産性が非常に低く、コストが高いという問題点を有していた。
しかも、この小ピッチコードは、1×n構造のスチールコードにのみ採用できるものであり、図2(a)、(b)に示すような、トラック、バス等の重荷重車両に従来より用いられている1+n構造のスチールコード4では、芯素線5を有するため、撚りピッチを小さくしても高い伸び率を得ることはできない。
【0007】
上記問題を解決するために、特開平9−67784号公報には、図3に示す、1+n構造のスチールコード7が提案されている。このスチールコード7は、芯素線8、側素線9の全てに同一のスパイラル状の小さなくせ(以下、スパイラルくせという)を施して撚り合わせたもので、この小さなくせによって形成される隙間Cからゴム材を浸入させ、しかもスパイラル状のくせのバネ効果によって高伸度を得るというものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記スチールコード7は、実際にゴムに埋め込んで行った疲労試験において、ゴム材がコード内に充分浸入しているにも関わらず、耐疲労性が低いという問題点を有していることが判明した。
そこで、本発明者は、上記原因を鋭意追求した結果、以下のことを知見し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、耐疲労性の低下は、スチールコードを構成する各素線に、破断に至るまでの伸び(以下、破断伸びという)の量に差があると、破断伸びの量の少ない素線に荷重が集中することに起因する。このことを、全ての素線がスパイラルくせを有する1+n構造における芯素線と側素線との破断伸び(ただし、素線自身の破断伸びは両者共通なので除く)で比較してみると、芯素線の伸びは、スパイラルくせが真っ直ぐになることによるものであるのに対し、側素線の伸びには、側素線のスパイラルくせが真っ直ぐになることによる伸びと側素線がコード中心方向に締まることで生じる伸びとが存在する。
【0010】
よって、図3に示したスチールコード7の場合は、芯素線8のスパイラルくせと側素線9のスパイラルくせが同一であるから、スパイラルくせによる伸びの量は芯素線8、側素線9共に同一となり、側素線9の伸びの量が、芯素線8側に締まることによる伸びの分多いことになる。
【0011】
これを図4にて説明する。
図4(a)〜(c)は、コード10の長手方向に引張り力が作用していったときの、スパイラルくせの見掛けの外径とスチールコード径の変化を示した概略断面図である。
引張り力が作用すると、芯素線11のスパイラルくせが真っ直ぐに伸ばされていき、見掛けの外径(小さなスパイラル状にくせ付けした素線の見掛け上の外径)は、a1 →a2 →a3 (a3 =素線径d)と小さくなっていき、またその周囲に位置する側素線12は、その見掛けの外径がb1 →b2 →b3 と小さくなりながら、スチールコードの中心に向かって、スチールコード径がc1 →c2 →c3 と小さくなるように締まっていく。この締まりによっても側素線12はスチールコード長手方向に伸びるので、側素線12の全体の伸び量は、スパイラルくせが伸びることによる伸びの量と、締まりによる伸びの量とが合わさった値となる。
ところで、このスチールコード10は、芯素線11と側素線12に施すスパイラルくせの見掛けの外径が等しいので、芯素線11が伸びきったとき(図4(c))でも、側素線12にスパイラルくせが残存する。
よって、さらにこのスチールコードに引張り力が作用すると、この力のほとんどが伸びきった芯素線11にかかって破断することになる。1+n構造のスチールコードの場合、芯素線と側素線が略均等の伸び量を有しないことが、スチールコードの耐疲労性を低下させる理由と考えられる。
【0012】
本発明は、上記種々の問題点を解決するためになされたものであり、その課題は、芯素線を有する1+n構造のスチールコードで、補強材としてタイヤに用いた場合に、スチールコード内部へのゴム浸入性がよく、高伸度で衝撃吸収性に優れ、かつ各素線が略均等の伸び量を有して、耐疲労性を向上したタイヤ補強用スチールコードを提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明のゴム補強用スチールコードは、略スパイラル状の小さなくせを施した、6〜8本の素線を、1本を芯素線、他を側素線として、同一方向、同一ピッチで一度に撚り合わせたタイヤ補強用スチールコードにおいて、芯素線と側素線に施す略スパイラル状の小さなくせが、芯素線の見掛けの外径D1 >側素線の見掛けの外径D2 の関係を有し、かつ芯素線の見掛けの外径D1 (mm)とスチールコードの外径D(mm)とが、素線径d(mm)に対して、1.3d≦D1 ≦2.2d、3.7d≦D≦5.8dの関係を有することを特徴とする。
【0014】
本発明のスチールコードは、全ての素線にスパイラルくせを施したスチールコードで、側素線に施すスパイラルくせの見掛けの外径が、芯素線のそれより小さいスチールコードである。
【0015】
このスチールコードに引張荷重が作用したときの、芯素線と側素線の伸び量を比較すると、(芯素線のスパイラルくせによる伸び量)≧(側素線のスパイラルくせによる伸び量)+(側素線の絞りによる伸び量)となり、1本の芯素線に荷重が集中することがなく、スチールコードとして一体の働きをなすので耐疲労性の低下が防止できる。
【0016】
上記構成において、芯素線に施すスパイラルくせの見掛けの外径D1 を、素線径dの1.3〜2.2倍としたのは、1.3倍未満では見掛けの外径が小さすぎ、充分なる高伸度を得ることができないことにより、2.2倍を超えると撚り構造が不安定となることによる。
【0017】
また、スチールコードの径Dを素線径dの3.7〜5.8倍としたのは、3.7倍未満では側素線に施すスパイラルくせの見掛けの外径が芯素線のそれより小さくなりすぎ、ゴム浸入性が低下するとともに、高伸度が得られないことにより、また、5.8倍を超えると側素線の見掛けの外径が大きくなりすぎ、撚りの安定性が低下するとともに、引張り荷重が作用したとき芯素線の荷重負担が大きくなることによる。
【0018】
本発明のスチールコードは、芯素線の見掛けの外径が側素線のそれより大きいので、側素線間に隙間を設けることができ、しかもすべての側素線にスパイラルくせが施されているので、スパイラルくせによって形成される隙間からゴムが浸入する。したがって、このスチールコードはゴム材と完全なる複合体となり、腐食が防止できるので、セパレーション現象を防止できる。
【0019】
また、上記構成により、スチールコードの破断伸び率を4〜7%の範囲まで高めることができるので、本発明のスチールコードは、衝撃吸収性に優れ、タイヤが小石、縁石等に乗り上げたときに生じるスチールコードの切断を防ぐ耐カット性に優れている。
なお、破断伸び率が4%未満では、衝撃吸収性が低下し、また7%を超えると芯素線に施すスパイラルくせの見掛けの外径が上記特定範囲より大きくなって、コードの撚り構造が極めて不安定となることから、スチールコードの破断伸び率としては4〜7%の範囲が好ましい。
なお、通常のスチールコードの破断伸び率は、2〜3%である。
【0020】
素線の線径としては、あまり細いと充分な強力が得られず、逆にあまり太いとスチールコード径が大きくなってしまい、また、スチールコードの柔軟性が失われるから、スパイラルくせを有する素線からなる本発明の場合、0.15〜0.40mmの範囲が実用的である。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0022】
図1(a)〜(e)は本発明の各種実施の形態であるスチールコードの断面図で、(a)〜(c)は、芯素線の見掛けの外接円と側素線の見掛けの外接円が接触する構造の1+5構造(a)、1+6構造(b)、1+7構造(c)で、(d)、(e)は、芯素線の見掛けの外接円内に側素線の一部が入り込んだ構造の1+5構造(d)、1+6構造(e)である。
【0023】
図1(a)〜(e)に示した全てのスチールコード1は、全ての素線2、3にスパイラル状の小さなくせが施され、その芯素線の見掛けの外径D1 が側素線の見掛けの外径Dより大きく、上記D1 (mm)が、素線径をdmmとして、D1 =1.3d〜2.2dであり、このスチールコードの径D(mm)が、D=3.7d〜5.8dである。
【0024】
これらのスチールコード1は、全ての素線2、3にスパイラルくせが施されているので、このバネ効果で高い伸度を有するとともに、側素線に施すスパイラルくせの見掛けの外径D2 が、芯素線に施すスパイラルくせの見掛けの外径D1 より小さいので、このスチールコードに引張り力が作用したとき、(芯素線2のスパイラルくせによる伸び量)≧(側素線3のスパイラルくせによる伸び量)+(側素線3の絞りによる伸び量)となり、1本の芯素線2に荷重が集中することがなく、全素線が一体として働き、耐疲労性が向上する。
【0025】
また、本発明のコード1は、側素線3間に隙間Sを設けることができるので、この隙間Sからスチールコード内にゴム材が浸入し、ゴム材と完全なる複合体となる。
【0026】
ところで、本発明でいうスパイラルくせとは、撚り合わせのためのくせとは異なる小さなくせで、正確にスパイラル状になっていることを必要とせず、単に波状となっていても、スパイラル状と同等の効果を有するため、このような形状も含むものとする。
【0027】
【実施例】
次に本発明の実施例を、従来例および比較例と比較し具体的に説明する。
表1は、表面にブラスメッキを施した複数本の素線を撚り合わせた各種構成のスチールコードの試験結果を示したものである。スチールコードの素線本数、スパイラルくせの見掛けの外径を変化させ、本発明の条件を満たす実施例、本発明の条件から外れた比較例および従来のスチールコードを製造し、それぞれのスチールコードにおいて、破断伸び率、耐疲労性、ゴム浸入性、撚りの安定性を比較した。
【0028】
【表1】
Figure 0004101968
【0029】
なお、素線にパイラルくせを施す手段としては、特公昭63−63293号公報に示されるように、供給される素線を軸芯として回転するくせ付け装置でもって、二度撚り撚線機に供給される前に予め一定のくせ付けを施す仕方や、単線のまま歯車等に噛み込ませて、その素線を捻って一定のくせ付けを施す仕方等がある。
【0030】
この実験におけるタイヤ補強用スチールコードの製造には、撚線機としてバンチャー機を用いた。
【0031】
本発明のスチールコードおよび比較例(実験NO.3〜24)では、素線にスパイラルくせを施す手段として、くせ付け装置上に設けられた複数個のピンの間に素線を通し、かつその素線を軸芯としてそのくせ付け装置を高速回転させ、通過する素線にスパイラルくせを施し、その後撚りの集合点前に設けられた3本のくせ付けコーンピン間を通すことにより撚りのためのスパイラル状のくせ付けを行った。ここで、上記スパイラルくせの見掛けの外径及びピッチの調整は、くせ付けピンの径や間隔、押し込み程度や素線の張力並びにくせ付け装置の回転数を種々選択して決定した。
【0032】
側素線に施すスパイラルくせ付けは、同条件にセットされた別々のくせ付け装置に通して行ってもよいが、1個のくせ付け装置に複数本をまとめて通してもよい。これによれば、くせ調整が容易となり、しかも、くせ付け装置の費用が安く済む。
【0033】
破断伸び率(%)は、ゴムシートに埋め込む前のスチールコードのもので、引張り試験機により測定した。
【0034】
ゴム浸入率は、各コードに5kgの引張荷重をかけた状態でゴムに埋設して加硫した後、スチールコードを抜き取り、その素線を引き剥がし、素線全周を観察し、ゴム材と接触した面積率を表示した。
【0035】
耐疲労性は、各コードを複数本ゴムシートに埋め込み、このシートで3点曲げ疲労試験機により評価し、実験NO.4のコードを100として指数表示した。数値が大きいほど耐疲労性に優れている。
【0036】
表1から明らかなように、本発明のコードは、撚りの安定性、ゴム浸入性に優れ、かつ高伸度で、耐疲労性に優れていることが判明した。
【0037】
【発明の効果】
本発明のゴム製品補強用スチールコードは、上記構成により、下記の優れた効果を奏する。
▲1▼撚り構造が安定しているので取扱作業性に優れている。
▲2▼撚り合わせのためのピッチを小さくしなくても破断伸び率を4〜7%と高くできるので、生産性が低下することがない。
また、このスチールコードをタイヤに使用した場合、
▲3▼素線間に隙間を有するので、ゴム材がコード内部にまで確実に浸入し、ゴム材と完全なる複合体となるため、疲労性の低下やセパレーション現象を防止できる。
▲4▼芯素線を有する1+n構造でも高い破断伸び率を有するので、トラック、バス等の重荷重のタイヤに使用することができる。
▲5▼衝撃吸収性に優れるので、、タイヤが小石、縁石等に乗り上げてもスチールコードが切断することがなく、さらに、スチールコードに引張り力が作用しても、全素線が一体として働くので、1本の芯素線に荷重が集中することがなく、耐疲労性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(e)は、本発明のスチールコードの実施の態様を示す概略断面図である。
【図2】(a)、(b)は、従来のスチールコードの例を示す概略断面図である。
【図3】(a)、(b)は、従来のスチールコードの別の例を示す概略断面図である。
【図4】(a)〜(c)は、従来のスチールコードの伸びる過程を示す概略説明図である。
【符号の説明】
1、4、7、10 スチールコード
2、5、8、11 芯素線
3、6、9、12 側素線
d 素線径
D、C1 、C2 、C3 コード径
1 、a1 、a2 、a3 芯素線の見掛けの外径
2 、b1 、b2 、b3 側素線の見掛けの外径
D コード径
S、C 隙間

Claims (1)

  1. 略スパイラル状の小さなくせを施した、6〜8本の素線を、1本を芯素線、他を側素線として、同一方向、同一ピッチで一度に撚り合わせたタイヤ補強用スチールコードにおいて、芯素線と側素線に施す略スパイラル状の小さなくせが、芯素線の見掛けの外径D1 >側素線の見掛けの外径D2 の関係を有し、かつ芯素線の見掛けの外径D1 (mm)とスチールコードの外径D(mm)とが、素線径d(mm)に対して、1.3d≦D1 ≦2.2d、3.7d≦D≦5.8dの関係を有することを特徴とするタイヤ補強用スチールコード。
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