JP4101869B2 - フィラメントの溶融紡糸方法 - Google Patents
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Description
紡糸ノズルを通じて溶融物を押し出すことによって形成されるフィラメントの紡糸速度を増加することは、効率上の理由によって常に変わらぬ目的となっている。この「紡糸速度」の大きさは、すべての紡糸工程に適用可能な絶対的な値ではない。これは、むしろ紡糸される糸に応じて決められる。例えば、産業用糸と衣料用糸との間には基本的な差があり、衣料用糸自体は、現在ではPOY(部分配向糸)かFDY(完全延伸糸)のいずれかで紡糸されている。
高い紡糸速度に対する追求は、良く知られた紡糸速度の影響による制限を今のところは受けている。これらの影響は、主として、フィラメントを構成するポリマーの形態の変化に起因している。これらの変化によって、例えば、糸の強度や伸度が減少して意図する目的に適さなくなってしまう。このことは、間接的にではあるが、高速において工程が制御不能に陥り、その結果、制御不能な変化(及びその結果としての不均一な糸特性)や糸切れ(操業上の問題)を生じる。
発明の目的
本発明の目的は、同じ糸特性を維持しながら紡糸速度を増加させ、及び/又は同じ速度を維持しながら糸の特性を改善することにある。
先行技術
少なくとも20年前から、高い紡糸速度において、糸とそれに随伴する空気層との間の摩擦力は、得られる糸特性に影響を及ぼすことが知られていた(米国特許第4,049,763号)。同時に、「補助的な」随伴気流を発生させてこの摩擦力を避け、低速工程での好ましい糸特性を維持しようとすることも提案されている(米国特許第4,185,062号及び4,202,855号)。随伴気流の解決策は、別の理由によって長年にわたって提案されてきた(米国特許第2,252,684号)。ここで、「補助的随伴気流」とは、糸が空気中を通過する際にこの糸に引きずられて生じる随伴気流とは別の随伴気流を発生させる特別な装置の効果のことを称する。上述の提案は、すべて、糸を固化させる補助気流の発生のためのものである。
同時に、糸が固化する前に糸に張力を付与することが提案されている(米国特許第3,706,826号)。この張力は気流によって発生させられる。同様の提案がその少し後に再び米国特許第4,496,505号(EP-56 963)に見られ、紡糸ノズルに続く加熱ゾーンを通過する糸の経路に沿ってアスピレータによって気流を発生させている。WO 90/02222には加熱ゾーンは含まれておらず、アスピレータは「紡糸チャンバ」を介して紡糸ノズルに接続されている。
関連する又は改変された提案が引き続いてなされ、例えば、糸は紡糸ノズルを介して経路に沿って、所定の圧力に維持されている紡糸筒内を通過せしめられる(米国特許第4,702,871号、4,863,662号及び4,973,236号)。紡糸筒内の圧力を維持するのに特別なシール装置が必要である。この問題は、米国特許第5,034,183号及び5,141,700号(EP-244217号)において解決され、(所定の圧力を維持するのに使用された後に)空気は高速で紡糸筒から排出される。
これらの後者の提案の目的は、明らかではない。これらはすべて、明らかに一つのタイプ及びもう一つのタイプの効果を生じることを意図している。上述の特許明細書は、経験的に決まった現象以外の現象が含まれているかどうかについては言及していない。或るものは、紡糸ノズルの近傍で糸に張力を選択的に付与する目的を述べている。
なお、これに関連して、糸を紡出して不織布製品を形成するのに使用される装置についても言及しておく(例えば米国特許第3,707,593号)。この装置は本発明には無関係であり、既にEP 244217号に述べられているので、ここで説明は繰り返さない。
基本概念
本発明は、Dr. H. Breuerその他による論文「ポリアミド6.6の高速紡糸」の662頁以降(Journal Chemiefaser/Textilindustrie, 1992年9月号)に一部述べられている知見に基づくものである。この知見によれば、衣料用糸の製造技術と形態にとって重要な高速紡糸された重縮合物の特性は、紡糸条件とは殆ど関係なく、紡糸速度のみが特別な効果を与えている。
更に、本発明は、紡糸速度の影響は糸が固化する点までに糸に付与される荷重(フィラメント応力)を通じて実際に与えられると言う知見に基づいている。従って、本発明はこの応力、そしてその結果として糸特性を選択的に変える手段を採用している。
発明の開示
第1の発明によれば、糸の表面に、糸の走行方向に気流を発生させる溶融紡糸方法であって、前記気流は、ポリマー材料が未固化の糸部分の少なくとも一部の上を流れ、この糸部分の上を流れる糸の走行方向の該気流の速度は、糸が該糸とこれに接触する空気層との間の摩擦に起因する応力を受けないか、又は無視可能な程度のこの応力を受けるようになされていることを特徴としている。
糸は巻取り装置に向かって紡出され、そこで所定の速度でボビン(パッケージ)に巻かれる。糸の巻取り速度は、紡糸ラインの所定点以降の糸速度が糸の供給方向の気流によって補助されなければ、糸とこれに接触する空気層との間の摩擦によって糸に付加的な応力が加わって糸特性が影響を受けるようになっている。本発明によれば、この気流は、少なくとも前記摩擦力によって糸特性がもはや影響を受けなくなる紡糸ライン上の点、即ちポリマー材料が固化する点の近傍まで、糸に随伴することが望ましい。この点まで、気流は、望ましくない摩擦力が生じない速度に維持される。
気流は、糸の供給方向に可能な限り均一に、即ち渦流が最小になり、且つ糸に作用する横方向の力が最小になるように、流れることが好ましい。
第2の発明によれば、糸が巻取り装置に向かって供給され、そこで所定速度でボビンに巻かれ、この巻取り速度は、糸の走行方向の気流によって補助されなければ、走行糸に「ネッキング」が生じてしまうようなレベルに設定されており、糸の走行方向の該気流はネッキングを回避するように補助されていること特徴とする。
第1の発明と第2の発明とは組み合わせて使用することが望ましく、特に、固化の際の糸の応力が二様に減少し、即ち糸に作用する力が減少すると共に固化に先立って糸のテーパリング(ネッキング)が防止されるるので好ましい。
以下に本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、最近のPOYフィラメント紡糸工程におけるノズルとワインダ(スプーラ)との間の糸経路(紡糸ライン)を模式的に示したものである。
図2は、本発明の新規な方法によるこれに対応する図である。
図3は、図2の工程を実現するための装置の模式図を示す。
図4は、非常に細いフィラメントを紡出するための補助装置のこれに対応する図である。
図5は、拡張された工程の模式図である。
図6は、この拡張された工程の好適例を模式的に示す。
第2の態様の説明が複雑にならないように、先ず、本発明を非常に簡単化した紡糸ラインを参照して説明する。この理由で、POYの工程が例示として選ばれた。本発明はこの例に限定されるものではなく、例えば公知のゴデットを利用することによって他の工程にも適用可能である。これについては、図の説明に従って後に簡単に言及する。
図1は、模式的に、ノズルプレート10、図示しない装置によって溶融物14が押し出される前記プレート10に設けられた単一の孔12、及び得られたフィラメント16を示す。説明を簡単にするために、一本のフィラメント16だけが示されているが、公知のように、同時に多数のフィラメント16(それぞれがプレート10の単一の孔を通って)を形成することが可能である。図1に示す工程は、フィラメント16が巻取りユニット(ワインダ又はスプーラ)20のボビン18に巻かれて完了する。
最初は液状であるポリマーは、ノズルプレート10とワインダ20との間で冷却され、この冷却は高温のポリマーからその周囲のガス(空気)への熱の移転によって行われる。熱の移転は、少なくともポリマー材料がセット(固化)するまで継続され、この固化は糸経路内の確認可能な点(又は少なくとも確認可能な範囲内)で生じる。「固化点」は、図1に位置EPで示され、この位置は実質的に紡糸条件に影響される(前述のJournal Chemiefaser/Textilindustrie, 1992年9月号の論文参照)。
固化点EPの上方(即ち、固化点とノズルプレート10との間)でフィラメントは細くなり、その断面は孔12から押し出された時点での初期の断面より減少する。固化点EPの下方では、フィラメントの断面の(著しい)変化はない。従って、ノズルプレートとワインダとの間の「ポリマー粒子」の速度は非常に複雑な影響を受け、その或るものは未だに解明されていない。ポリマーの固化の後では、この速度(紡糸速度)は専らワインダ20によって決められる。そこで、この速度は固化点からワインダ20まで同じである。
現在行われている工程では、フィラメントとそれに接触している空気層との問には相対運動が生じている。空気層に対するフィラメントの相対速度は、多くの因子によって決められる。それは、例えば
・糸経路が何らかの手段によって一般の室内空気から分離されているかどうか、
・糸の近傍で空気を運動させる特別な手段があるかどうか、又、その方向はどちらか、
等である。
フィラメントとこれに接触する空気層との間の摩擦によって、通常は空気が糸と共に糸の走行方同に「牽引」される。従って、糸経路上の任意の点での糸部分に作用する力は、
Fb−加速力
Fr−空気摩擦による力
Fs−重力
FR−ワインダによって与えられるべき合成力
となる。
このことから、
FR=Fb+Fr−Fs
の関係が得られるが、ここで第1近似においては重力を無視してもよい。
これらの変数は紡糸工程を完全には表現していない。本発明にとって重要な概念に集約するために、多くの変数が無視されている。所与の工程の更に詳細な説明は、例えば1992年4月発行の「Polymer Engineering and Science」の第22巻第5号の292頁以降に記載のHenry H. Georgeの論文「中間引取り速度における定常状態紡糸のモデル」に載っている。
前記糸部分に生じる応力は、次式によって与えられる。
応力=FR/Q
ここでQは前記糸部分の断面積の大きさである。応力、合成力FR及び断面積Qは、すべてノズルプレート10からの距離の関数である。
フィラメントが紡糸ノズルから出た直後の点では、この領域ではフィラメント速度が比較的低いと言う事実によって、フィラメントの応力は空気摩擦による影響を殆ど受けない。この領域では、応力は長手方向の加速度と粘度の影響を受けている。しかし、加速度が或る限界を越えて増加した後は、大きな付加的応力が生じ、これを防止又は制限するための何らかの方策を講じなければならない。
フィラメントの固化の際の応力のレベルは、フィラメント特性の或るもの(例えば破断伸度、破断強度、沸水収縮率等)を決定する。例えばPOYの紡糸工程でのこの応力が高ければ、これらの糸特性の値が低下する。
従って、「数学的」には、これらの値に積極的に影響を与えるのに二つの手法がある。
一つの手法として、合成力FRを減少させればよい。従来工程において、このことは糸速度を減少させればよい。
もう一つの手法として、固化前の断面積Q(即ち、フィラメント当たりの繊度)を増加させればよい。
図2を参照して以下に述べるように、実際は、これらの両方の「数学的」手法が使用される。
図2におけるエレメントは、基本的には図1に示すものと同じであり、同じ符号が付されている。違いは、糸の走行方同に気流LSを発生させる手段(図2には図示されていない)が設けられていることにある。この気流LSは空気層を形成し、これが固化点EPの上方のフィラメント16に接触し、この空気層は糸の走行方向に、フィラメントの表面速度と同じか又は殆ど同じ速度VRで流れる。これによって、摩擦力Frは無視し得る程度になり、その結果、合成力FRを減少させる。気流LSは先ず、プレート10の下方の距離Aの点EBでフィラメント16に接触し、固化点EPに至るまでフィラメントとの接触を保っている。
固化点EPの上方での糸の運動を補助することによって、ノズルプレートと点EPとの間の糸の各部分における応力が減少する。フィラメント応力が減少すれば、現状でネッキングの発生する速度よりも著しく高い糸速度において、「ネッキング」―固化の直前に生じる突然のフィラメント断面の減少であって、固化したフィラメントの断面積を減少させる―を防止することが可能となる。
図3はこの新規な原理を実用化するための第1実施例を示す。ノズルプレートは符号25で、ワインダは符号27で、ワインダ内のボビンは符号28で示されている。多数のフィラメント29(図には3本が示されている)がプレート25において形成されて、これらは所定の点Pでまとめられて、一本の糸Fを形成している。ワインダ27に入る前に、計量ユニット31によってオイルが付与され、必要に応じてユニット33によって渦流作用を受ける。この図には示されていないが、計量ポンプが設けられ、溶融物を単位時間当たり所定量ずつ紡糸ノズル25に供給している。この量は、ノズルの孔の数と紡糸速度と共に、各フィラメントの太さ、いわゆるフィラメント当たりの繊度を決定する。これに関する限りは、この工程は現在使用されている従来工程と同じである。
高速で流れる空気層を発生させるために、固化点EPの上方の糸経路は、紡糸チューブ35によって取り囲まれている。チューブは負圧発生装置37によって作られた気流を搬送する。チューブ35の上端39は開放されており、空気はここからチューブ内に入って、チューブ内に前記気流を形成する。チューブ35の下端41は長方形のチャンバ43内に開いており、チャンバは、以下に詳細に述べるように、前記チューブ35と負圧発生装置37とを接続している。
前記チャンバ43は、前記チューブ35の糸の走行方向への延長部を形成し、糸は前記チューブ35とチャンバ43を通って、向きを変えることなく出口45から出る。出口45は、糸の供給を妨害せずしかも室内の空気がチューブ43内に侵入しないような構成になっている。出口45にはセラミックの糸ガイド46が設けられている。前記出口45と前記ユニット31との間の距離は、固化した糸に対する空気の摩擦に起因して張力が大きく増加しないように選ばれている。
前記チャンバ43の下端部分は穿孔表面47として形成され、チャンネル51によって前記負圧発生装置37に接続された捕集リング49によって取り囲まれている。前記チャンネル51の中又は上のいずれかに、バルブ53、絞り部55、メーター57等の気流速度を制御するための手段が設けられていることが望ましく、メーターは絞り部の前後における差圧を計測する。このような構成は当業者にとって公知なので、本明細書中での詳述は省略する。
チャンバ43は接続ピース(トランペット)58によってチューブ35に接続され、トランペットは糸の走行方向に広がっている。これによって、糸がチャンバ43に入る前に、チューブ35内の高い空気速度が或る程度減少する。空気は、その通路を通ってチャンバ43から捕集リング49内に入るまでに更に減速される。これらの対策によって、気流中の渦の発生の危険性が減少する。チューブ35の下方での空気速度を減少させることによって、糸の張力を増加させることが可能となり、巻取りがやり易くなる。従来の巻取り工程では、供給糸の張力は0.08〜0.15CN/dtexの範囲内にある必要があった。
同じ理由によって、糸の走行方向にテーパーが付いて細くなったマウスピース(漏斗)59が、チューブ35の上端39の上方に設けられている。漏斗59の内面(及び適用可能な箇所並びにトランペット58の内面)は、気流中での渦流の発生が最小となる形状を有するように形成されることが望ましい。前記漏斗59は、空気が室内から吸引されるように穿孔されたシリンダ61の内側に設置されている。この穿孔シリンダ61は、紡糸ノズル25を含む加熱ボックス63まで逆に延在している。前記第1の穿孔シリンダ61の周囲には第2の穿孔シリンダ65が設置され、渦流を更に防止するための安静空間67を形成している。
図示の構成の変形
チャンバ43の出口の後に(ワインダの前に)ローラ(ゴデット)又はローラアセンブリを設けてもよい。これは、「前段階糸(preliminary yarn)」が前記チャンバから出てきたところを延伸して、FDY又は産業用糸を製造するのに使用される。ゴデットは、糸を延伸することなく、単に巻取り前に糸張力を調節するのにも使用可能である。
前記穿孔シリンダ61は、ワイヤメッシュ、穿孔金属シート、焼結圧縮体、又は繊維状エレメントとして構成可能てある。シリンダ61の最小直径は、未だ液状の(太い)フィラメント29がシリンダ61の内面に接触しない程度に設定される必要がある。シリンダの軸方向長さは、5〜200cmの範囲であればよい。
前記チューブ35の内径は、0.5〜20cm程度であればよい。チューブの材料は、フィラメントがその内面に接触した場合に付着せず、且つその壁自体が溶融しなければ、何でもよい。負圧発生装置37の負圧に対するチューブ35の内径は、チューブ35内に所望の空気速度が維持されるように選定される必要がある。この空気速度は、防止速度、即ち固化後のフィラメント速度に等しいか、又はこれより大きいことが望ましい。
紡糸ノズル25と、内部を流れる空気が最初にフィラメントに接触する点との間に、保護ゾーンZを設けることができる。このゾーンZは、紡糸ノズル25の下方において、リング64を加熱ボックス63に取付けることによって形成される。別の例では、加熱ボックス63自体が紡糸ノズル25の下方まで突出している。内部を流れる空気は予備加熱される。
フィラメント29がチューブ35内面に接触する危険性を減少させるために、チューブの上端39(チューブ35と漏斗59との間)に空気噴射手段60を設け、チューブ35の内面に沿って空気ジェットをチューブ軸方向に噴射してもよい。この空気噴射手段60は、糸通し作業を行うのにも使用される。
図面の説明の冒頭で述べたように、図面に示すこの「簡単な」紡糸ラインに補助ユニットを付加して、公知の効果を得ることも可能である。(当業者には公知である)このような構成の例示として、ドイツ特許公開公報第A-21 17 659号とドイツ特許公報第C-40 21 545号には、固化後の糸を加熱することが提案されている。前者には、糸を延伸するためのローラアセンブリ(一対のゴデット)も開示されている。
図4は、ポリマーが紡糸ノズル25から出てきた時に、ポリマーが急に固化しないように、糸の冷却をゆっくりと行う例を示している。この場合、ノズル25の次に加熱スリーブ70が設けられ、糸の温度が急激に低下するのを防いでいる。シリンダ61を仕切り板72によって上部61Aと下部61Bとに分割し、温かい空気を仕切り板の上方の上部61Aに供給すると共に、比較的冷たい室内空気を下部61Bに入れるようにすることによって、更にこの効果を助けることができる。
チューブ35内の気流は、空気をチューブの上端に吹き込むことによって形成される。
チューブ35に入って来る空気の速度は、シリンダ61を取り囲んでシリンダに対して糸の走行方面に移動可能なダイヤフラム74によって調節可能である。このダイヤフラム74は穿孔されておらず、従って室内空気が穿孔シリンダ61に入ることが制限される(又はダイヤフラム74が下方に移動した時に、空気が入ることが許容される)。
上に述べたように、チューブ35内の空気速度は糸の速度と同一である。チューブ内に気流を形成する室内空気は、(糸の長さ方向に垂直な)いわゆるクロスフロー(cross-flow)として吸引されることが望ましい。この室内空気の内部流は渦流を含んでいてはならず、さもなければ、糸の特性にバラツキを生じるであろう。従って、空気の量が多い程、渦流発生の危険性が多いので、空気の量は(チューブ35の比較的小さい直径の部分を通じて)可能な限り少なくすることが必要である。
本発明の効果及び応用例
フィラメントの応力が高い場合には、ポリマー構造の結晶化度と配向度が増大する。従って、本発明の効果は、この結晶化度又は配向度を制限することにある。そこで、好ましい利用分野は、これらの効果が最大の利点をもたらす分野である。これを説明するために、先ず、次の「糸のタイプ」間の差について述べる必要がある。
a)産業用糸―これらの糸は最近では二つの段階で製造され、第1段階で「前段階糸」を紡出し、第2段階で、この(セットされた)前段階糸を延伸して、その強度を大幅に増加させる。この前段階糸においては、第2段階で最大の延伸が得られるように結晶化度と配向度は両方共可能な限り低いことが必要である。なお、これらの段階は「二段ステップ」又は「一段ステップ」で行われる。いわゆる二段ステップ工程においては、前段階糸は低速で巻き取られ、ボビンは延伸のために別の装置に搬送される。「一段ステップ工程」では、前段階糸は巻取りの前にゴデットアセンブリ上で延伸される。
b)POY衣料糸―これらの「部分配向糸」は、延伸又は延伸捲縮工程等の後次工程のための前段階糸として役立つ。第2段階での最適な効果を得るために、結晶化度は上限を越えてはならない。例えば、PES糸の場合には、最大結晶化度は20%であり、これによって約80〜150%の伸度と約10〜50%の沸水収縮率が与えられる。
c)FDY衣料糸―これらの「完全延伸糸」はその他の処理段階を必要としないで最終用途に使用可能である。この場合には、高い結晶化度でも受入可能であり、例えば結晶化度が約20〜50%のPES糸の場合には、25〜45%の伸度、3〜5CN/dtex、0〜10%の沸水収縮率が与えられる。
明らかにこれらの例は、応用分野に応じて受入れ可能な結晶化度は大幅に変動するが、それぞれの応用分野に対して上限が存在することを示している。
従って、所与の空気速度に対する結晶化度と配向度に影響を及ぼす本発明は、次のような効果をもたらす。
―所定の特性を有する糸を、現在の従来速度よりも高速の供給速度で紡糸することが可能である(例えば、フィラメント当たり0.5〜30decitexのPOY糸を、現在公知の糸特性を維持したまま、7000〜8000m/minの供給速度で紡糸可能であるが、従来の標準速度は2500〜5500m/minである)。
−或るポリマーから細いフィラメントを、現在では不可能な場合に経済的な供給速度で紡糸可能である(例えば、フィラメント当たり約0.1〜0.5decitexのPESのPOY糸を、約3000m/minの供給速度で紡糸可能である)。
或るタイプの糸を紡糸するための公知の工程を改変したものを、本発明の応用の例示として次に述べる。
FDYのPES糸を得るための公知の工程
PES(ポリエステル)糸が、(巻き取られることなく)約3600m/minの速度でゴデットアセンブリに供給される。このアセンブリは約1.45倍の延伸を与え、延伸された糸は約5200m/minの紡糸速度で巻き取られ、フィラメント当たり6decitex以下の糸が得られる。
FDYのPES糸を得るための新工程
本発明によれば、基準糸の特性を大幅に変えることなく、ゴデットアセンブリへの供給速度が約7000m/minまで増加される。公知の糸特性が維持されるように、ドラフトはそのまま変えないままとされる。巻取り速度は10,000m/min以上に増加する。
産業用糸(例えばコード布帛用の)を得るための公知の工程
PES又はPA(ポリアミド)糸が、400〜600m/minの範囲の速度でゴデットアセンブリに供給される(例えば,PESのコード布帛の場合には約400m/min)。ゴデットアセンブリにおける延伸に引き続いて、糸は2000〜3500m/minの巻取り速度で巻き取られる(例えば、PESのコード布帛の場合には、2200〜2500m/mn)。巻き取られた糸は7〜9g/dの範囲の強度と、フィラメント当たり10decitexの繊度を有している。
産業用糸を得るための新工程
本発明の応用を通じて、糸はノズルからゴデットアセンブリに1000m/min以上の速度で供給され、糸特性は公知の工程の場合と同じに維持されている。これによって、巻き取られた糸の特性を従来工程の場合と同じに維持したまま、巻取り速度を5500m/min以上に増大可能である。
HMLS糸を得るための公知の工程
「高モジュラス・低収縮率」(HMLS)糸は、最近コード布帛を製造するのに使用されている。紡糸に当たって、PES糸は3000〜3500m/minの速度でゴデットアセンブリに供給され、そこで前段階糸は延伸される。延伸された糸は約6000m/minの巻取り速度で巻取られる。配向度と結晶化度が比較的高いにもかかわらず、この糸は或る用途の目的には適したものである。
HMLS糸を得るための新工程
ポリマーによって紡糸条件に対して反応が異なるので、HMLS工程を他のタイプのポリマーにそのまま移行することは不可能である。前述の紡糸条件の下では、ポリプロピレン(PP)とPA(ナイロン6.6を含む)は、最初のゴデットにおいてさえPESよりも遙かに高い結晶化度を示し、その結果、延伸に問題を生じる。本発明は、このような場合にもこの受入れ不能な結晶化度を低くすることができるので、応用可能である。
或る限度以下の応力レベルの下でフィラメントが処理されると、フィラメントは固化点まで次第に細くなり、固化がいわゆるガラス転移温度で生じる。応力が増加すると、ポリマーはガラス転移温度以上で固化し(たとえ冷却条件が変わらなくても)、この固化は、結晶化の増加を伴う。これによって、「ネッキング」の危険性が高まる。
糸の速度が高くなると、フィラメント切断の危険性が残る。この危険性は応力を減らすことによって大幅に少なくなるが、他の紡糸条件を調節することによって、この危険性を更に減らす(制御する)ことも望ましい。このような条件とは、例えば、加速、単位長当たりの伸度(Ax/x)及び冷却である。これらの条件は、次の工程パラメータ:(チューブの上端からノズルプレートまでの)距離A、気流速度及び気温によって影響を受ける。これらの手段によって、現在行われている従来条件とほぼ同じ紡糸条件を作ることが可能である。
本発明の主たる目的は、例えばEP 456 505号の場合のように、温度変化を通じて効果を得ることではない。しかし、これを図5,6を参照して以下に説明するように、熱処理に基づく工程と巧く組み合わせることが可能である。これらの図では、図3の実施例の部分と同じ部分には同じ符号が使用されている。
図5に示す実施例は、紡糸ノズル25、チューブ35、チャンバ43及び空気ドラフト51を具えている。図5には、ノズル25とチューブ35の間の領域が示されていないが、図3、4から読み取り可能である。
図5において、チャンバ43の下方に熱処理チャンネル80が設けられている。チャンネル内で、固化した糸は上向きに流れる熱風(例えば200〜240℃の温度)によってガラス転移点以上の温度(但し溶融温度以下)に再加熱される。このチャンネルから出てくる糸はゴデットの対82,84に供給されるが、糸はこれらのゴデットによって延伸はされない。ゴデットの対に入ってくる糸の張力は、糸がチャンネル内の延伸点DPで延伸されるように調整されている。ゴデットの対を出た後の糸張力は、ワインダ27での糸の巻取りに適したものである。
この拡張された工程の好適例が図6に模式的に示され、加熱処理は本発明のために設置された装置内に組み込まれている。図6は、チューブ35の(固化点EPの近傍の)下端部分を示す。図3のチャンバ43は、この例では気流速度を約7000m/minから約500m/minまで減少させる目的で比較的大きい拡大チャンネル90に代えられている。
チャンネル90内を緩やかに流れる空気は、加熱手段92によって加熱され、糸はガラス転移点以上ではあるが溶融点以下の温度を得る。気流の減速は空気抵抗(空気摩擦)を増加させ、その結果、これに対応して糸の張力を増加させる。これによって、チャンネル90の下方部分に延伸点DPが形成される。延伸によって結晶化度が増加し、沸水収縮率が減少する。この工程で作られた糸は衣料用途(例えば、ニットや製織等)に直接使用可能である。
Claims (15)
- 紡糸ノズルとワインダとにより溶融紡糸すると共に、糸の表面に、糸の走行方向に気流を発生させる溶融紡糸方法であって、前記気流は、ポリマー材料が未固化の糸部分の少なくとも一部の上を流れ、この糸部分の上を流れる糸の走行方向の気流の速度は、糸とこれに接触する空気層との間の摩擦に起因する応力を糸が受けないか、又は無視可能な程度のこの応力を受けるようになされており、糸の表面上の該気流の速度は、糸とこれに接触する空気層の間に僅かな摩擦力しか生じないように糸の表面速度に対応しており、前記気流は紡糸ライン内の一点から流れ、該気流の補助がなければ摩擦力が発生して糸特性に影響を及ぼし、且つ前記気流はフィラメントが固化する点まで流れることを特徴とする溶融紡糸方法。
- 糸が巻取り装置に向かって供給され、そこで所定の速度でボビン(パッケージ)に巻かれる請求項1に記載の溶融紡糸方法であって、糸の巻取り速度は、紡糸ラインの所定点以降の糸速度が糸の供給方向の気流によって補助されなければ、糸とこれに接触する空気層との間の摩擦によって糸に付加的な応力が加わって糸特性が影響を受けるようになっており、又、気流が前記所定点から発生し、その糸走行方向に向かう速度は、糸とこれに接触する空気層との間の摩擦力が糸の特性に重大な影響を与える限度以下に留まっていることを特徴とする溶融紡糸方法。
- 前記気流が、少なくとも糸特性が前記摩擦力によって影響を受けなくなる紡糸ライン上の位置、即ちポリマー材料が固化する位置の近傍まで糸に随伴することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融紡糸方法。
- 糸が巻取り装置に向かって供給され、そこで所定の速度でボビンに巻かれ、この巻取り速度は、糸の走行方向の気流によって補助されなければ、糸走行経路に「ネッキング」が発生するようなレベルに設定されている溶融紡糸方法であって、糸の走行方向の前記気流は、ネッキングを防止するように補助されていることを特徴とする溶融紡糸方法。
- 前記方法が請求項1〜3のいずれか1項においても行われる請求項4に記載の方法。
- 紡糸ノズルとワインダを具えたフィラメントの溶融紡糸のための装置であって、糸の走行方向の気流を発生させる手段が設けられ、糸の表面上の該気流の速度は、糸とこれに接触する空気層の間に僅かな摩擦力しか生じないように糸の表面速度に対応しており、前記手段は前記気流が紡糸ライン内の一点から流れるように構成され、該気流の補助がなければ摩擦力が発生して糸特性に影響を及ぼし、且つ前記気流はフィラメントが固化する点まで流れることを特徴とする溶融紡糸装置。
- 前記手段は紡糸ラインを被包するチューブを具え、前記気流は該チューブを通ってフィラメントの近傍に導かれることを特徴とする請求項6に記載の装置。
- 前記気流が負圧の発生によって生じることを特徴とする請求項6又は7に記載の装置。
- 室内空気が前記チューブの上端に入って前記気流を形成することを特徴とする請求項7又は8に記載の装置。
- フィラメントがノズル出口から出現した後に該フィラメントの冷却を遅らせるための手段が、前記紡糸ノズルに設けられていることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の装置。
- さらに、空気が前記チューブ内を通過するときに空気中の渦流を少なくするために、前記チューブの上端に同軸に設けられた、糸の走行方向に細くなる漏斗を具備する請求項7に記載の装置。
- さらに、空気が前記チューブ内を通過するときに空気中の渦流をさらに少なくするために、前記ノズルから下方に延びて前記チューブの上端と前記漏斗とを取り囲む穿孔シリンダを具備する請求項11に記載の装置。
- 前記気流を発生させる手段は前記チューブの下端に負圧を発生させる手段であり、該手段が、前記チューブを通過する気流の速度を調節するために調節可能なダイヤフラムを有しており、
さらに、進行する糸にオイルを付与するオイル付与器を前記チューブの下端と前記ワインダとの間の位置に具備する請求項7に記載の装置。 - さらに、前記ノズルの真下において進行する進行フィラメントを取り囲んで、外気が横に移動して、進行フィラメントに接触することを少なくするように位置決めされたリングを具備する請求項7に記載の装置。
- 前記チューブの下端が末広がりの円錐状をなしており、それにより、空気が前記チューブの下端を通って減速される場合に渦流が少なくなるようにした請求項7に記載の装置。
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