JP4100093B2 - オーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法 - Google Patents

オーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法に関し、より詳しくは固溶化熱処理と同時に、鋼が本来具備する不動態皮膜以上に良好な耐食性を発揮する酸化不動態皮膜を鋼表面に形成させ得るようにしたオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法に関する。この方法により製造された鋼管は、水または水蒸気、あるいはこれらの混合物を主要な流体とする熱交換に使用して好適である
【0002】
【従来の技術】
オーステナイト系ステンレス鋼は耐食性に優れれることから様々な用途に使用されている。例えば、オーステナイト系ステンレス鋼からなる鋼管は、ボイラや熱交換器等の伝熱管や化学プラントの配管、半導体製造装置のクリーンガス配管等に多く用いられている。これらの用途に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼管には、オーステナイト系ステンレス鋼が本来具備する以上の高い耐食性やガス放出が少ないことが要求される。
【0003】
オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性は、周知のように、鋼表面のCr酸化物を主体とする不動態皮膜によっている。例えば、母材のCr量を多くすると不動態皮膜が形成されやすくなる。また、鋼中に存在するSやO(酸素)などの不純物量を少なくするとガス放出量が減少する。しかし、Cr等の合金元素の増加や不純物量の低減は母材のコスト上昇を招く。
【0004】
このため、オーステナイト系ステンレス鋼本来の不動態皮膜以上に良好な耐食性やガス放出抑制効果のある不動態皮膜を鋼表面に形成させるための様々な工夫が従来からなされており、例えば以下のような方法が提案されている。
【0005】
(a) 鋼表面を電解研磨または電解複合研磨し、次いでベーキングを行って鋼表面の水分を除去した後、OまたはHO濃度が100ppb程度の水素ガスまたは水素ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気中で300〜600℃に加熱することにより、最表面のCrとFeとの比(Cr/Fe)が1以上で、最大厚さが2nm程度のCr酸化物を主体とする酸化不動態皮膜を形成させる方法(特開平6−116632号公報の段落0008に記載される従来法)。
【0006】
(b) 鋼表面を電解複合研磨して表層に加工歪みを付与し、次いでベーキングを行って鋼表面の水分を除去した後、HO濃度が500ppb〜2%の不活性ガス雰囲気中で450〜600℃に加熱することにより、最表面にFe酸化物が存在しない厚さ2nm以上のCr酸化物主体の外層とFe酸化物を含むCr酸化物主体の内層とからなる2層構造の酸化不動態皮膜を形成させる方法(特開平6−116632号公報)。
【0007】
(c) 鋼表面を研磨し、次いで大気雰囲気中で300〜500℃に加熱することにより、「Cr含有酸化物量>Cr非含有酸化物量」の厚さ5〜100nmの内層と、「Cr非含有酸化物量>Cr含有酸化物量」の厚さ5nm以下の外層とからなる2層構造の酸化不動態皮膜を形成させるか、この皮膜形成後に外層のみを除去する方法(特開平3−153858号公報)。
【0008】
(d) Cr含有量が20〜30%未満、オーステナイト結晶粒度番号が7以下の高Crオーステナイト系ステンレス鋼を、水蒸気中またはFeが生じない低酸素分圧の雰囲気中で700〜1000℃に加熱することにより、鋼表面にCr酸化物からなる酸化不動態皮膜を形成させる方法(特開平3−176824号公報)。
【0009】
しかし、上記(a) 〜(d) の方法は、いずれも、固溶化熱処理が施された後のオーステナイト系ステンレス鋼を対象とする方法であり、これらの方法をオーステナイト系ステンレス鋼管の製造に適用すると、熱処理費用が嵩み、製品の製造コストが高くなるという欠点があった。これは次の理由による。
【0010】
オーステナイト系ステンレス鋼管は、一般に、表1に示す基本工程を経て製造される。このため、上記(a) 〜(d) の方法は最終熱処理の後、即ち工程7と工程8の間で実施することになるからである。
【0011】
【表1】
Figure 0004100093
【0012】
上記の工程7(固溶化熱処理)は、通常、大気雰囲気中で行われる。しかし、表面が特に美麗なことが要求される場合には、工程7の固溶化熱処理を光輝熱処理とすることもある。この光輝熱処理は、雰囲気ガスとして水素ガスを用いた還元性雰囲気の連続炉を使用して行われる。その際、雰囲気ガスの水素ガスとしては、光輝熱処理が目的であるので、できるだけ高純度のものを使用し、露点は概ね−30℃以下とされる。また、加熱温度は通常の固溶化熱処理温度である950〜1200℃とされる。
【0013】
しかし、最終の熱処理である固溶化熱処理を光輝熱処理とした製品鋼管は、これを例えば水や水蒸気、あるいはこれらの混合物を主要な流体とする熱交換用に使用した場合、使用条件によっては耐食性が不十分な場合があり、その解決が望まれていた。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の実状に鑑みてなされたもので、最終熱処理の固溶化熱処理を光輝熱処理とした場合でも、使用条件によらず、水や水蒸気、あるいはこれらの混合物に対して十分な耐食性を発揮する熱交換管等として用いて好適なオーステナイト系ステンレス鋼管が確実に得られるだけでなく、この鋼管を低コストで製造することができるオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記(1)のオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法にある。
(1)露点が−25℃から0℃までの範囲内に制御された水素ガス雰囲気で、かつ950〜1200℃の加熱温度で固溶化熱処理を行うことにより、少なくとも内表面に、厚さが2〜100nm、最表面のCr濃度(原子%)とFe濃度(原子%)との比(Cr/Fe)が0.01以上の酸化不動態皮膜を形成することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。
【0017】
上記(1)の酸化不動態皮膜の厚さとは、次のようにして求められる厚さである。例えば、後述の図2に示すように、オージェ電子分光分析器(AES)によって皮膜厚さ方向の各元素の濃度(原子%)分布を測定する。そして、酸素濃度の分布曲線からその濃度が最表面濃度の1/2になる深さを求める。その深さ(図2のL)が上記の皮膜厚さである。
【0018】
本発明者は、最終熱処理の固溶化熱処理を光輝熱処理とした製品鋼管の表面を詳細に調べた結果、以下のことを知見し、本発明を完成させた。
【0019】
高純度で、かつ露点が−30℃以下の水素雰囲気中で光輝熱処理された製品鋼管の内表面には、前述のように定義される厚さで1nm程度と極めて薄い酸化皮膜がある。この皮膜は損傷しやすく、しかもCr酸化物が最表面にほとんど存在しないために保護皮膜としての性能が不十分である。
【0020】
そこで、水や水蒸気、あるいはこれらの混合物に対して十分な耐食性を発揮する酸化不動態皮膜とこの酸化不動態皮膜を形成させるための条件を見出すための実験を行った結果、次のことが判明した。
【0021】
(1) 水や水蒸気、あるいはこれらの混合物に対する耐食性は、前述のように定義される厚さが2〜100nmで、かつ最表面におけるCr濃度(原子%)がFe濃度(原子%)の0.01倍以上の酸化不動態皮膜であれば確保される。
【0022】
(2) 上記(1)の酸化不動態皮膜は、炉内の雰囲気を、露点が−25℃から0℃までの範囲内に制御された水素ガス雰囲気にすれば形成される。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の方法における雰囲気ガスの条件および熱交換用オーステナイト系ステンレス鋼管の酸化不動態皮膜の条件を上記のように定めた理由について詳しく説明する。
(1)雰囲気ガスの露点について
水素ガスの露点が−25℃未満では最表面のCr濃度がFe濃度の0.01倍以上の酸化不動態皮膜が形成されず、所望の耐食性が確保されない。一方、露点が0℃を超えると、炉内の構造物やヒーター等の酸化を速め、炉の寿命が著しく短くなる。よって、雰囲気ガスの露点は−25〜0℃とした。好ましいのは−20〜−10℃である。
【0024】
(2)鋼管内面の酸化不動態皮膜の厚さと最表面のCr濃度について
酸化不動態皮膜の厚さが2nm未満では、酸化が不十分で、最表面にCr酸化物が存在する被膜とならず、所望の耐食性が確保されない。一方、100nmを超えると、皮膜を構成する酸化物の粒径が粗大になりすぎ、かえって耐食性が損なわれる。よって、酸化不動態皮膜の厚さは2〜100nmとした。好ましいのは2〜5nmである。
【0025】
酸化不動態皮膜の最表面のCr濃度(原子%)がFe濃度(原子%)の0.01倍未満では、所望の耐食性が確保されないので、0.01倍以上とした。好ましいのは0.1倍以上である。なお、最表面のCr濃度は、高ければ高いほどよいので、その上限は特に制限しない。
【0026】
上記の酸化不動態皮膜は、被処理鋼管を上記の雰囲気中でオーステナイト系ステンレス鋼の固溶化熱処理温度である950〜1200℃に加熱することにより形成させることができる。従って、本発明の方法によれば、前述した従来技術のように固溶化熱処理とは別の酸化不動態皮膜形成のための特別な熱処理が不要なので、その分だけ製造コストが安くなる。
【0027】
なお、形成させるべき酸化不動態皮膜の厚さは、被処理鋼管の化学組成、加熱温度および炉内雰囲気に応じて保持時間を適宜調整する(例えば、後述する実施例に示す条件を採用する)ことにより所望の厚さとすればよいので、保持時間については特に制限しない。
【0028】
また、鋼管母材のオーステナイト系ステンレス鋼は、オーステナイト系のステンレス鋼でありさえすればよく、その化学組成に特別な制約はないが、代表的なものを例示すれば、JIS規格に規定されるSUS304、SUS304L、SUS347、SUS347H、SUS316、SUS316Lおよびこれらの相当鋼等を挙げることができる。
【0029】
【実施例】
表2に示す化学組成を有するSUS304L相当鋼からなり、冷間仕上げ後、脱脂、洗浄した外径16mm、肉厚1mm、長さ15mのオーステナイト系ステンレス鋼管を準備した。
【0030】
【表2】
Figure 0004100093
【0031】
準備した鋼管は、図1に示すような連続炉を用い、表2に示す種々の条件で固溶化熱処理した。その際、鋼管内面の空気を雰囲気ガスで置換するために炉内の圧力を0.98〜98Paのプラス圧とした。
【0032】
固溶化熱処理後の各鋼管は、内面に形成された酸化不動態皮膜の厚さと最表面のCr濃度を調べた後、硫酸濃度が10体積%の沸騰水溶液中に6時間浸漬する加速腐食試験に供し、その耐食性を調べた。
【0033】
酸化不動態皮膜の厚さと最表面のCr濃度は、AESを用いて皮膜厚さ方向の各元素の濃度(原子%)分布を測定し、前述したとおりの方法によりそれぞれ求めた。また、耐食性は、試験による腐食減量を試験時間で除し、平均腐食速度を求めることにより評価した。
【0034】
以上の結果を、固溶化熱処理条件と併せて表3に示すとともに、試番1と4のAESによる分析結果を図2と図3に示した。
【0035】
【表3】
Figure 0004100093
【0036】
表3および図3に示すように、本発明で規定する条件で固溶化熱処理した試番2〜5の鋼管の内面には、本発明で規定する条件を満たす酸化不動態皮膜が形成されており、加速腐食試験における平均腐食速度が0.17〜0.33g/m2/hと遅く、耐食性が良好である。また、これらの鋼管の表面の光輝状態は、本来の光輝熱処理品には及ばないものの、大気雰囲気中品に比べればはるかに美麗であった。
【0037】
これに対し、雰囲気ガスの露点が低すぎる試番1と6の鋼管の内面には、厚さは本発明で規定する条件を満たすものの、最表面にCr酸化物が存在しない酸化不動態皮膜皮膜(図2参照)が形成されており、平均腐食速度が0.55〜0.63g/m/hと速く、耐食性が不十分である。
【0038】
また、露点は本発明で規定する条件を満たすものの、混合ガス中の水素濃度が低すぎる試番8の鋼管の内面には、最表面にCr酸化物は存在するが、厚さが120nmと厚すぎる酸化不動態皮膜が形成されており、平均腐食速度が1.5g/m2/hと極めて速く、耐食性が悪い。
【0039】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、熱処理工程を増やすことなく、水や水蒸気、あるいはその混合物を主要な流体とする熱交換に使用して良好な耐食性を発揮する安価なオーステナイト系ステンレス鋼管を確実に製造することができる。本発明の製造方法によって得られたオーステナイト系ステンレス鋼管は耐食性に優れるので、これを熱交換管に用いた機器装置は安全性が向上するだけでなく、寿命も長くなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】固溶化熱処理の実施の形態を示す模式図である。
【図2】オージェ電子分光分析器による分析結果の一例を示す図である。
【図3】オージェ電子分光分析器による分析結果の他の一例を示す図である。

Claims (3)

  1. 露点が−25℃から0℃までの範囲内に制御された水素ガス雰囲気で、かつ950〜1200℃の加熱温度で固溶化熱処理を行うことにより、少なくとも内表面に、厚さが2〜100nm、最表面のCr濃度(原子%)とFe濃度(原子%)との比(Cr/Fe)が0.01以上の酸化不動態皮膜を形成することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。
    ここで、酸化不動態皮膜の厚さとは、皮膜厚さ方向のO(酸素)濃度(原子%)が皮膜最表面のO濃度の1/2となる位置までの皮膜最表面からの距離のことである。
  2. 酸化不動態皮膜の厚さが2〜5nmであることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。
  3. 熱交換器用鋼管であることを特徴とする請求項1または2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。
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