JP4093638B2 - 切り花用鮮度保持剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は切り花用鮮度保持剤に関する。特にバラに優れた効果を有する切り花用鮮度保持剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
日本は世界有数の切り花消費国であり、その生産、流通、消費の過程における鮮度保持が重要な課題となっている。切り花の老化メカニズムとしては、微生物や水の汚濁による水揚げの低下、エネルギー源の枯渇による植物体内成分の合成量低下、植物ホルモンであるエチレンの作用等が知られている。これらを背景として、これまでに各種の鮮度保持剤が提案されている。
【0003】
例えば、特開昭49−18653号には、ブドウ糖及び硫酸アルミニウム等を配合した保存剤が提案されている。また特開平2−108601号にはアブシジン酸、硫酸アルミニウム及び糖類を有効成分として含有するバラ切り花用の鮮度保持剤が提案されている。該公報によれば、アブシジン酸の添加は開花を抑制することにより延命を図る目的で行われ、糖は花の栄養剤として作用し、開花促進、ブルーイング防止作用があるとされている。また特開昭64−61401号公報には、代謝性糖類、ホスホン酸類及び硫酸アルミニウムを配合したバラ切り花用延命剤が提案されている。また特開平6−199602号公報には、代謝性糖類、クエン酸、硫酸アルミニウム、8−ヒドロキシキノリン硫酸塩及び酢酸アンモニウムを配合した切り花用延命剤が提案されている。更に特開平6−183902号には、2ーカルボキシエチルホスホン酸及び硫酸アルミニウム、塩化カルシウム、サッカロース等を配合したバラ切り花用保存剤が提案されている。
【0004】
しかしながら、これら従来技術にはカリウム塩の配合による鮮度保持効果の向上については一切言及がなく、その鮮度保持効果はいずれも未だ十分満足できるものではなかった。また糖類及びカリウム塩とともにアルミニウムもしくは亜鉛の塩を配合する場合にアルミニウムもしくは亜鉛を一定量以上配合すると鮮度保持効果が低下する点についても知られていなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、切り花の鮮度保持剤、特にバラに関して優れた鮮度保持効果を有する切り花鮮度保持剤を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は果糖及び/又はトレハロース0.8〜2重量%、一種又は二種以上のカリウム塩をK2Oとして100〜1000ppm及びアルミニウム 塩またはその含水物より選ばれる一種又は二種以上の化合物をAl として1〜30ppm有効成分として含有することを特徴とする切り花用鮮度保持剤に係る。本発明の好ましい態様は以下の通りである。
(1)カリウム塩は塩化カリウムである請求項1記載の切り花用鮮度保持剤。
(2)糖は果糖である請求項1又は2記載の切り花用鮮度保持剤。
(3)切り花がバラである請求項3記載の切り花用鮮度保持剤用原液。
【0007】
本発明者等は、収穫されたバラも最良の条件下におけば、収穫せずに開花させたバラと同程度の期間は延命可能なのではないかと考え、従来の鮮度保持の発想を転換し、養液肥料栽培的な観点からのアプローチを試み、鋭意検討した。その結果、各種有効成分による鮮度保持効果と、該成分による薬害発生との間のバランス、とりわけ有効成分中の糖、カリウム及びアルミニウム の配合割合が重要であることを見い出し、本発明を完成させた。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の切り花用鮮度保持剤において、糖としては、果糖、 トレハロース を用いることができるが、花色の保持及び葉の萎凋防止の観点からは 果糖を用いた場合に最も優れた鮮度保持期間を得ることができる。これら糖類の濃度としては、0.8〜2重量%、好ましくは1.0〜1.4重量%とするのがよい。尚、本明細書において糖類の濃度は屈折計のブリックスにより測定した値を意味する。糖類の濃度が2重量%以下の範囲においては糖類の濃度が高い程、鮮度保持期間が長くなる傾向にあるが、糖類濃度が2.0重量%を超えるとバラ等の切り花の場合葉に薬害が生じ、鑑賞価値を損なう虞がある。また、糖類配合量は0.8重量%未満では効果が不十分であり好ましくない。
【0009】
本発明の鮮度保持剤において、カリウム塩の具体例としては、塩化カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、リン酸カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、ヨウ化カリウム等のカリウム塩が挙げられる。カリウム塩の配合は、花色と花弁の弾力性を保持する効果があり、また芳香性の保持と増大に効果がある。カリウム塩の中でも塩化カリウムと炭酸カリウムがその鮮度保持効果の点で好ましく、塩化カリウムが特に好ましい。カリウム塩の配合濃度としては、K2Oとして100〜1000ppm、好ましくは250〜800ppmとするのがよい。カリウム塩の配合量がK2Oとして1000ppmを超えると葉への薬害が発生し鑑賞性を損なう虞があり、200ppmを下回ると花弁の弾力性が低下し、鮮度保持期間が低下する。
【0010】
本発明の切り花用鮮度保持剤においては、アルミニウム の塩またはその含水物より選ばれる一種又は二種以上の化合物をAl として1〜30ppm、好ましくは2〜20ppm、更に好ましくは2〜10ppm配合する。 これらアルミニウム化合物としては硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等 が挙げられるが、中でも硫酸アルミニウムが特に好ましい。アルミニウム化合物 の配合量がAl として1ppmを下回ると鮮度保持期間が短くなるため好ましくない。
【0011】
他方、糖及びカリウム塩とともにアルミニウム化合物 を用いる場合、そのAl としての濃度が10ppmを超えて濃くなっても鮮度保持効果を改善する効果は殆どなく、20ppmを上回ると却って低下し、30ppm以上となると、鮮度保持剤としての効果を大きく損なう程度に鮮度保持効果が低下してしまうので好ましくない。斯かる現象は特にバラについて顕著に見られ、その原因は明らかではないが、アルミニウム化合物 自体の薬害、及びこれらと糖類、カリウム塩等との相互作用による薬害が考えられる。
【0012】
本発明の鮮度保持剤には、各種殺菌剤を1種又は2種以上配合して用いることができる。斯かる殺菌剤としては、ピリジン−2−チオール−1−オキシドナトリウム塩等の四級アンモニウム塩、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン類、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、8−ヒドロキシキノリン、チアベンダゾール、ナトリウム−N−クロロ−パラトルエンスルホナミド−トリ−ハイドレート、硝酸銀、緩効性塩素化合物、安息香酸ナトリウム等を例示できる。殺菌剤の配合量としては、0.1〜600ppm、好ましくは1.0〜10ppm程度とするのがよい。これら殺菌剤の中でも、切り花の鮮度保持効果の点ではピリジン−2−チオール−1−オキシドナトリウム塩及びイソチアゾリン類が優れている。殺菌剤としてピリジン−2−チオール−1−オキシドナトリウム塩又はイソチアゾリン類を1種又は2種以上用いる場合、配合量は0.1〜50ppm程度、好ましくは0.1〜10ppmとするのが好ましい。これら殺菌剤は、配合に先立ち予め水やアルコール等の有機溶媒に溶解させて用いることができる。
【0013】
本発明の鮮度保持剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、クエン酸、カルボン酸等のpH調整剤、6−ベンジルアミノプリン(BA)、ジベレリン、アブシジン酸、ナフチルフタル酸等の植物成長調整剤、チオ硫酸銀(STS)、シスプロペニルホスホン酸等のエチレン合成阻害剤、各種ビタミン等の生理活性物質、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール等の有機溶媒、界面活性剤等を併用することができる。
【0014】
本発明の鮮度保持剤は、各種の溶媒、好ましくは水に各有効成分の所定量を溶解させて製造することができる。もっとも、本発明の鮮度保持剤は、流通、保存の便宜のため、所定濃度の1.2〜50倍の有効成分を配合して製剤、包装し、使用時に所定倍の水で希釈して規定濃度として用いることもできる。また本発明の鮮度保持剤は、その配合成分に油状物、液状物を含まない場合には、粉末状、顆粒状、錠剤状として、使用時に所定量の水で希釈する形態で使用することができる。
【0015】
本発明の鮮度保持剤は、収穫後のいずれの時期に用いても鮮度保持効果を発揮し得るが、鑑賞段階での使用が最も効果的である。また、各種の前処理剤、例えばチオ硫酸銀(STS)、高濃度糖類、殺菌剤等で処理された切り花にも有効である。本発明の鮮度保持剤は、バラ、宿根カスミソウ、カーネーション、キク、トルコギキョウ、ガーベラ、アジサイ等各種の花卉類に効果を有するが、特にバラに対する効果が極めて優れている。本発明の鮮度保持剤を使用した場合、使用しなかった場合に比較して切り花の延命効果があるのはいうまでもないが、加えて花色や葉色の美しさが保持され、優れた香りを楽しむことができる。
【0016】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明につき更に詳細に説明する。なお単に%は重量%を示す。
NAPT:ピリジン−2−チオール−1−オキシドナトリウム塩(大日本インキ化学社製)
NAPT−40:ピリジン−2−チオール−1−オキシドナトリウム塩40%溶液
アプレックDN−15:5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン 1.0%、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン 0.3%、塩化マグネシウム
4.5%、硝酸マグネシウム 7.5%水溶液(丸和バイオケミカル社製)
Halamid:ナトリウム N−クロロ−p−トルエンスルホンアミド・3水和物(AKZO
NOBEL CHEMICALS製)
【0017】
バラ(ローテローゼ)を収穫後、前処理せずに33cmの長さで水切りを行い、開花状態をつぼみがゆるむ程度に統一して試験に供した。各試験区とも試験液量600ml、バラ10本、室温22℃、水温22℃の条件とし、経過日数と生体重変化率(平均値)を測定した。結果を図1〜7に示す。
【0018】
実施例1
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして5ppm)を含む切り花用鮮度保持剤を作成した。
実施例2
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして5ppm)
【0019】
実施例3
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして10ppm)
実施例4
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして15ppm)
【0020】
実施例5
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして20ppm)
実施例6
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして1ppm)
【0021】
実施例7
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、塩化アルミニウム6水物(Alとして5ppm)
【0022】
実施例8
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、塩化アルミニウム6水物(Alとして20ppm)
実施例9
実施例2の製剤に酒石酸を加えてpHを4に調整したもの。
【0023】
実施例10
トレハロース1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして5ppm)
【0024】
実施例11
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして105ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして10ppm)
実施例12
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして158ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして10ppm)
【0025】
実施例13
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして10ppm)
実施例14
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして630ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして10ppm)
【0026】
実施例15
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして525ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして10ppm)
実施例16
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして741ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして10ppm)
【0027】
実施例17
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして1050ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして10ppm)
実施例18
果糖1.5%、炭酸カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして5ppm)
【0028】
実施例19
果糖1.5%、硝酸カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして5ppm)
実施例20
果糖1.5%、硫酸カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして5ppm)
【0029】
実施例21
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、アプレックDN−15(2万倍希釈、イソチアゾリン換算で0.65ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして5ppm)
実施例22
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、アプレックDN−15(4万倍希釈、イソチアゾリン換算で0.33ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして5ppm)
【0030】
実施例23
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、アプレックDN−15(8万倍希釈、イソチアゾリン換算で0.16ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして5ppm)
実施例24
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、Halamid(10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして5ppm)
実施例25
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、エタノール(200ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして5ppm)
【0031】
比較例1
脱イオン水のみ
比較例2
市販品のクリザール(POKON & CHRYSAL B.V.社製)を用いた。
【0032】
比較例3
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)、硫酸アルミニウム(Alとして64ppm)
比較例4
果糖1.5%、塩化カリウム(K2Oとして315ppm)、NAPT−40(NAPTとして10ppm)
【0033】
図1に実施例2〜6及び比較例1、3〜4の硫酸アルミニウム濃度がバラ生体重変化に及ぼす影響を示す。図2に実施例2、7〜9及び比較例1〜2の硫酸アルミニウム及び塩化アルミニウム濃度がバラ生体重変化に及ぼす影響を示す。図3に実施例2、10及び比較例1〜2の各種糖の種類がバラ生体重変化に及ぼす影響を示す。図4〜5に実施例12〜17及び比較例2の各種カリウム濃度がバラ生体重変化に及ぼす影響を示す。図6に実施例2、18〜20及び比較例1〜2の各種カリウム塩の種類がバラ生体重変化に及ぼす影響を示す。図7に実施例1〜2、21〜25及び比較例1〜2の各種殺菌剤の種類がバラ生体重変化に及ぼす影響を示す。
【0034】
生体重変化率は、試験開始時に測定した生体重で測定時の生体重を除した値から1を減じた数字を百分率表示したものである。図において、開花が進むと生体重が増加し、最大のピークを過ぎると徐々に衰弱をはじめゼロ点を下回ると明らかに萎凋、枯死に至る。切り花の鑑賞期間と各例の生体重変化率のグラフ上のゼロ点からゼロ点を結ぶ期間は略一致しており、本発明の切り花鮮度保持剤を使用した場合、使用しなかった場合や比較例の剤を使用した場合に比較して数日から一週間以上も鮮度保持期間を延長し得ることがわかる。
【0035】
【発明の効果】
本発明により、切り花の鮮度保持剤、特にバラに関して優れた鮮度保持効果を有する切り花鮮度保持剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 硫酸アルミニウム濃度がバラ生体重変化に及ぼす影響を示すグラフである。
【図2】 硫酸アルミニウム及び塩化アルミニウム濃度がバラ生体重変化に及ぼす影響を示すグラフである。
【図3】 糖の種類がバラ生体重変化に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】 各種カリウム濃度がバラ生体重変化に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5】 各種カリウム濃度がバラ生体重変化に及ぼす影響を示すグラフである。
【図6】 カリウム塩の種類がバラ生体重変化に及ぼす影響を示すグラフである。
【図7】 殺菌剤の種類等がバラ生体重変化に及ぼす影響を示すグラフである。
Claims (3)
- 果糖及び/又はトレハロース0.8〜2重量%、一種又は二種以上のカリウム塩をK2Oとして100〜1000ppm及びアルミニウム 塩またはその含水物より選ばれる一種又は二種以上の化合物をAl として1〜30ppm有効成分として含有することを特徴とする切り花用鮮度保持剤。
- 更にアルコールを含有する請求項1記載の切り花用鮮度保持剤。
- 請求項1〜2の切り花用鮮度保持剤の1.2〜50倍濃度の有効成分を配合した切り花用鮮度保持剤用原液。
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