JP4092111B2 - 含フッ素芳香族化合物及びその製法 - Google Patents
含フッ素芳香族化合物及びその製法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な含フッ素芳香族化合物およびその製造方法に関し、特に、染料、医薬、農薬、高分子化合物の合成上の中間体原料として用いられる含フッ素芳香族化合物およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
テトラフルオロ−m−フェニレンジアミンをはじめとするハロゲン含有フェニレンジアミン化合物は、染料、医薬、農薬、高分子化合物の合成上重要な中間体原料である。また、太陽電池、エレクトロルミネセンス素子、電子写真感光体等において、電荷輸送剤(特に、正孔輸送剤)として好適に使用される。近年においては、新規なハロゲン含有フェニレンジアミン化合物や、好適な製造方法などの開発が希求されており、研究開発が盛んに行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記現状に鑑み、本発明は、ハロゲン含有フェニレンジアミン骨格を有する化合物の原料となりうる新規な含フッ素芳香族化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、下記式(1):
【0005】
【化6】
【0006】
(式中、R1はパーフルオロアルキル基を表し、R2は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、パーフルオロアルキル基、ベンジル基、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基またはフェノキシ基を表し、Xはハロゲン原子を表し、aは1〜3の整数であり、bは1〜3の整数であり、cは0〜2の整数であり、a+b+c≦4であり、dは1〜10の整数である)
で表される含フッ素芳香族化合物によって達成される。
【0007】
含フッ素芳香族化合物の一例としては、イソフタロニトリル誘導体が挙げられ、そのようなイソフタロニトリル誘導体としては下記式(2):
【0008】
【化7】
【0009】
(式中、R3はパーフルオロアルキル基を表し、eは1〜4の整数であり、fは0〜3の整数であり、e+fは4である)
で示されるイソフタロニトリル誘導体が挙げられる。
【0010】
また、含フッ素芳香族化合物の一例としては、フタロニトリル誘導体が挙げられ、そのようなフタロニトリル誘導体としては、下記式(3):
【0011】
【化8】
【0012】
(式中、R4はパーフルオロアルキル基を表し、gは1〜4の整数であり、hは0〜3の整数であり、g+hは4である)
で示されるフタロニトリル誘導体が挙げられる。
【0013】
また本発明の目的は、下記式(4):
【0014】
【化9】
【0015】
(式中、Xはハロゲン原子であり、iは1〜3の整数であり、jは1〜5の整数である)
で表される化合物を、下記式(5):
【0016】
【化10】
【0017】
(式中、R5はパーフルオロアルキル基であり、R6は、同一または異なって、アルキル基を表す)
で示されるパーフルオロアルキルシラン化合物と反応することからなる、含フッ素芳香族化合物の製造方法によって達成される。
【0018】
含フッ素芳香族化合物として、イソフタロニトリル誘導体を製造する場合には、前記式(4)で表される化合物が、テトラフルオロフタロニトリルまたはテトラフルオロイソフタロニトリルであることが好ましい。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下本発明の含フッ素芳香族化合物およびその製造方法について詳細に説明する。まず、含フッ素芳香族化合物について説明する。
【0020】
本発明は、前記式(1)で示される含フッ素芳香族化合物を提供するものである。
【0021】
前記式(1)において、R1は、パーフルオロアルキル基を表す。この際、パーフルオロアルキル基としては特に限定されないが、具体例としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ヘプタフルオロイソプロピル基、n−ノナフルオロブチル基、ウンデカフルオロペンチル基、ウンデカフルオロネオペンチル基、sec−ノナフルオロブチル基及びtert−ノナフルオロブチル基等の炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基が挙げられる。これらのうち、トリフルオロメチル基及びペンタフルオロエチル基、特に好ましくはトリフルオロメチル基が好ましい。aは、ベンゼン環への式(1)の置換基R1(本明細書中では、単にR1とも称する)の結合数を表わし、1〜3の整数、好ましくは1または2である。
【0022】
前記式(1)において、R2は、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、パーフルオロアルキル基、ベンジル基、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基またはフェノキシ基を表す。この際、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。パーフルオロアルキル基としては特に限定されないが、具体例としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ヘプタフルオロイソプロピル基、n−ノナフルオロブチル基、ウンデカフルオロペンチル基、ウンデカフルオロネオペンチル基、sec−ノナフルオロブチル基及びtert−ノナフルオロブチル基等の炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基が挙げられる。これらのうち、トリフルオロメチル基及びペンタフルオロエチル基、特に好ましくはトリフルオロメチル基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、イソブトキシ基などが挙げられる。含フッ素芳香族化合物は炭素−水素(C−H)結合を持たない化合物であることが好ましい。即ち、R2はハロゲン原子またはパーフルオロアルキル基であることが好ましい。炭素−水素結合を有さない場合、低誘電性、耐熱性や撥水性を増進させることができる。
【0023】
前記式(1)において、bは、ベンゼン環へのシアノ基(CN)の結合数を表わし、1〜3の整数である。
【0024】
前記式(1)において、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子または塩素原子が好ましく、フッ素原子が特に好ましい。cはベンゼン環への式(1)の置換基X(本明細書中では、単にXとも称する)の結合数を表し、0〜2の整数である。
【0025】
また、前記式(1)において、dはベンゼン環部位の繰り返し数を表す。即ち、dが2であるときはベンゼン環に関して2量体の化合物であり、dが3であるときはベンゼン環に関して3量体の化合物である。なお、dが2以上である場合には、繰り返し単位は互いに異なっていてもよい。
【0026】
含フッ素芳香族化合物の好適な例としては、前記式(2)で表されるイソフタロニトリル誘導体が挙げられる。
【0027】
式(2)において、R3はパーフルオロアルキル基であり、R1について説明したものと同様であるため説明を省略する。eはベンゼン環へのR3の結合数を表し、1〜4の整数、好ましくは1〜3の整数である。R3のベンゼン環への結合位は、R3の結合数ならびにイソフタロニトリル誘導体に所望する特性などによって異なる。合成におけるコストや生産性を考慮すると、eが1である場合には、R3はベンゼン環の2位または4位に位置することが好ましく、ベンゼン環の4位に位置することがより好ましい。また、eが2である場合には、R3はベンゼン環の2,4位または4,6位に位置することが好ましく、4,6位に位置することがより好ましい。さらに、eが3である場合には、R3は、ベンゼン環の2,4,6位に位置することが好ましい。
【0028】
また、前記式(2)において、fはベンゼン環へのフッ素原子(F)の結合数を表わし、0〜3の整数、好ましくは1〜3の整数である。なお、前記式(2)において、e及びfの合計は4である(e+f=4)ことが好ましい。すなわち、式(2)で示されるイソフタロニトリル誘導体は炭素−水素(C−H)結合を持たない化合物であることが好ましい。炭素−水素結合を有さない場合、低誘電性、耐熱性や撥水性を増進させることができる。
【0029】
前記式(2)で表されるイソフタロニトリル誘導体の好ましい例としては、2−フルオロ−4,5,6−トリストリフルオロメチルイソフタロニトリル、6−フルオロ−2,4,5−トリストリフルオロメチルイソフタロニトリル、5−フルオロ−2,4,6−トリストリフルオロメチルイソフタロニトリル、2,6−ジフルオロ−4,5−ビストリフルオロメチルイソフタロニトリル、2,5−ジフルオロ−4,6−ビストリフルオロメチルイソフタロニトリル、4,6−ジフルオロ−2,5−ビストリフルオロメチルイソフタロニトリル、5,6−ジフルオロ−2,4−ビストリフルオロメチルイソフタロニトリル、2,5,6−トリフルオロ−4−トリフルオロメチルイソフタロニトリル、4,5,6−トリフルオロ−2−トリフルオロメチルイソフタロニトリル、2,4,5,6−テトラキストリフルオロメチルイソフタロニトリル、2−フルオロ−4,5,6−トリスペンタフルオロエチルイソフタロニトリル、6−フルオロ−2,4,5−トリスペンタフルオロエチルイソフタロニトリル、5−フルオロ−2,4,6−トリスペンタフルオロエチルイソフタロニトリル、2,6−ジフルオロ−4,5−ビスペンタフルオロエチルイソフタロニトリル、2,5−ジフルオロ−4,6−ビスペンタフルオロエチルイソフタロニトリル、4,6−ジフルオロ−2,5−ビスペンタフルオロエチルイソフタロニトリル、5,6−ジフルオロ−2,4−ビスペンタフルオロエチルイソフタロニトリル、2,5,6−トリフルオロ−4−ペンタフルオロエチルイソフタロニトリル、4,5,6−トリフルオロ−2−ペンタフルオロエチルイソフタロニトリル、2,4,5,6−テトラキスペンタフルオロエチルイソフタロニトリル、などが挙げられる。これらの中では、合成におけるコストや生産性を考慮すると2,5,6−トリフルオロ−4−トリフルオロメチルイソフタロニトリル、2,5−ジフルオロ−4,6−ビストリフルオロメチルイソフタロニトリル及び5−フルオロ−2,4,6−トリストリフルオロメチルイソフタロニトリルが特に好ましい。しかしながらこれらに限定されるものでは勿論ない。
【0030】
他の含フッ素芳香族化合物の好適な例としては、前記式(3)で表されるフタロニトリル誘導体が挙げられる。
【0031】
式(3)において、R4はパーフルオロアルキル基であり、R1について説明したものと同様であるため説明を省略する。gはベンゼン環へのR4の結合数を表し、1〜4の整数、好ましくは1〜3の整数である。R4のベンゼン環への結合位は、R4の結合数ならびにフタロニトリル誘導体に所望する特性などによって異なる。合成におけるコストや生産性を考慮すると、gが1である場合には、R4はベンゼン環の3位または4位に位置することが好ましく、ベンゼン環の4位に位置することがより好ましい。また、gが2である場合には、R4はベンゼン環の3,4位、4,5位または3,5位に位置することが好ましく、4,5位に位置することがより好ましい。さらに、gが3である場合には、R4は、ベンゼン環の3,4,5位または3,4,6位に位置することが好ましい。
【0032】
また、前記式(3)において、hはベンゼン環へのフッ素原子(F)の結合数を表わし、0〜3の整数、好ましくは1〜3の整数である。なお、前記式(3)において、g及びhの合計は4である(g+h=4)ことが好ましい。すなわち、式(3)で示されるフタロニトリル誘導体は炭素−水素(C−H)結合を持たない化合物であることが好ましい。炭素−水素結合を有さない場合、低誘電性、耐熱性や撥水性を増進させることができる。
【0033】
前記式(3)で表されるフタロニトリル誘導体の好ましい例としては、5−フルオロ−3,4,6−トリストリフルオロメチルフタロニトリル、6−フルオロ−3,4,5−トリストリフルオロメチルフタロニトリル、3,6−ジフルオロ−4,5−ビストリフルオロメチルフタロニトリル、4,5−ジフルオロ−3,6−ビストリフルオロメチルフタロニトリル、4,6−ジフルオロ−3,5−ビストリフルオロメチルフタロニトリル、5,6−ジフルオロ−3,4−ビストリフルオロメチルフタロニトリル、3,5,6−トリフルオロ−4−トリフルオロメチルフタロニトリル、4,5,6−トリフルオロ−3−トリフルオロメチルフタロニトリル、3,4,5,6−テトラキストリフルオロメチルフタロニトリル、5−フルオロ−3,4,6−トリスペンタフルオロエチルフタロニトリル、6−フルオロ−3,4,5−トリスペンタフルオロエチルフタロニトリル、3,6−ジフルオロ−4,5−ビスペンタフルオロエチルフタロニトリル、4,5−ジフルオロ−3,6−ビスペンタフルオロエチルフタロニトリル、4,6−ジフルオロ−3,5−ビスペンタフルオロエチルフタロニトリル、5,6−ジフルオロ−3,4−ビスペンタフルオロエチルフタロニトリル、3,5,6−トリフルオロ−4−ペンタフルオロエチルフタロニトリル、4,5,6−トリフルオロ−3−ペンタフルオロエチルフタロニトリル、3,4,5,6−テトラキスペンタフルオロエチルフタロニトリル、などが挙げられる。これらの中では、合成におけるコストや生産性を考慮すると3,6−ジフルオロ−4,5−ビストリフルオロメチルフタロニトリル、4,6−ジフルオロ−3,5−ビストリフルオロメチルフタロニトリル、5,6−ジフルオロ−3,4−ビストリフルオロメチルフタロニトリル、3,5,6−トリフルオロ−4−トリフルオロメチルフタロニトリル、4,5,6−トリフルオロ−3−トリフルオロメチルフタロニトリルが特に好ましい。しかしながらこれらに限定されるものでは勿論ない。
【0034】
他の含フッ素芳香族化合物の好適な例としては、下記式(6):
【0035】
【化11】
【0036】
で表されるイソフタロニトリル誘導体が挙げられる。
【0037】
前記式(6)において、R7は、同一または異なって、パーフルオロアルキル基であり、R1について説明したものと同様であるため説明を省略する。kはベンゼン環へのR7の結合数を表し、同一または異なって、1〜3の整数、好ましくは1または2である。R7のベンゼン環への結合位は、R7の結合数ならびにイソフタロニトリル誘導体に所望する特性などによって異なる。例えば、合成におけるコストや生産性を考慮すると、kが1である場合には、R7はイソフタロニトリル単位における2位または4位に位置することが好ましく、4位に位置することがより好ましい。また、kが2である場合には、R7はイソフタロニトリル単位における2,4位または4,6位に位置することが好ましく、4,6位に位置することがより好ましい。さらに、kが3である場合には、R7は、イソフタロニトリル単位における2,4,6位に位置することが好ましい。上記例示したR7の結合位に関する規定は、1分子中に2つ存在するイソフタロニトリル単位における少なくとも一方が上記規定を満たしていることが好ましい。従って、一方は上記規定を満足していなくともよいが、双方が上記規定を満たしていることがより好ましいといえる。
【0038】
前記式(6)において、lはベンゼン環へのフッ素原子(F)の結合数を表わし、0〜2の整数、好ましくは1〜2の整数である。なお、前記式(6)において、1つのイソフタロニトリル単位におけるk及びlの合計は3である(k+l=3)ことが好ましい。すなわち、式(6)で示されるイソフタロニトリル誘導体は炭素−水素(C−H)結合を持たない化合物であることが好ましい。炭素−水素結合を有さない場合、低誘電性、耐熱性や撥水性を増進させることができる。kおよびlに関する規定は、1分子中に2つ存在するイソフタロニトリル単位における少なくとも一方が上記規定を満たしていることが好ましい。従って、一方は上記規定を満足していなくともよいが、双方が上記規定を満たしていることがより好ましいといえる。
【0039】
参考までに前記式(6)で表されるイソフタロニトリル誘導体の構造を例示する。しかしながらこれらに限定されるものでは勿論ない。
【0040】
【化12】
【0041】
他の含フッ素芳香族化合物の好適な例としては、下記式(7):
【0042】
【化13】
【0043】
で表されるフタロニトリル誘導体が挙げられる。
【0044】
前記式(7)において、R8は、同一または異なって、パーフルオロアルキル基であり、R1について説明したものと同様であるため説明を省略する。mはベンゼン環へのR8の結合数を表し、同一または異なって、1〜3の整数、好ましくは1または2である。R8のベンゼン環への結合位は、R8の結合数ならびにフタロニトリル誘導体に所望する特性などによって異なる。例えば、合成におけるコストや生産性を考慮すると、例えば、mが1である場合には、R8はフタロニトリル単位における3位または4位に位置することが好ましく、4位に位置することがより好ましい。また、mが2である場合には、R8はフタロニトリル単位における3,4位、3,5位または4,5位に位置することが好ましく、4,5位に位置することがより好ましい。さらに、mが3である場合には、R8は、フタロニトリル単位における3,4,5位に位置することが好ましい。上記例示したR8の結合位に関する規定は、1分子中に2つ存在するフタロニトリル単位における少なくとも一方が上記規定を満たしていることが好ましい。従って、一方は上記規定を満足していなくともよいが、双方が上記規定を満たしていることがより好ましいといえる。
【0045】
前記式(7)において、nはベンゼン環へのフッ素原子(F)の結合数を表わし、0〜2の整数、好ましくは1〜2の整数である。なお、前記式(7)において、1つのフタロニトリル単位におけるm及びnの合計は3である(m+n=3)ことが好ましい。すなわち、式(7)で示されるフタロニトリル誘導体は炭素−水素(C−H)結合を持たない化合物であることが好ましい。炭素−水素結合を有さない場合、低誘電性、耐熱性や撥水性を増進させることができる。mおよびnに関する規定は、1分子中に2つ存在するフタロニトリル単位における少なくとも一方が上記規定を満たしていることが好ましい。従って、一方は上記規定を満足していなくともよいが、双方が上記規定を満たしていることがより好ましいといえる。
【0046】
参考までに前記式(7)で表されるフタロニトリル誘導体の構造を例示するがこれらに限定されるものでは勿論ない。
【0047】
【化14】
【0048】
他の含フッ素芳香族化合物の好適な例としては、dが3以上である化合物が挙げられる。即ち、フタロニトリル単位またはイソフタロニトリル単位に関して、3量体以上である含フッ素芳香族化合物が挙げられる。一部について参考までに例示すると、下記の化合物が挙げられる。
【0049】
【化15】
【0050】
このようにdの異なる2種以上の含フッ素芳香族化合物の混合物が得られた場合には、カラムクロマトグラフィーなどの公知の手法を用いて精製すればよい。
【0051】
続いて、本発明の含フッ素芳香族化合物の製造方法について説明する。本発明の含フッ素芳香族化合物の製造方法は、特に制限されるものではないが、前記式(4)で表される化合物を、前記式(5)で表されるパーフルオロアルキルシラン化合物と反応させることによって製造できる。したがって、本発明は、前記式(4)で表される化合物を、前記式(5)で示されるパーフルオロアルキルシラン化合物と反応することからなる、含フッ素芳香族化合物の製造方法を提供するものである。例えば、前記式(2)で表されるイソフタロニトリルを製造する場合には、テトラフルオロイソフタロニトリルを、前記式(5)で示されるパーフルオロアルキルシラン化合物と反応させればよい。
【0052】
前記式(4)において、iはベンゼン環へのシアノ基(CN)の結合数を表わし、1〜3の整数、好ましくは1または2である。また、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。この中ではフッ素原子または塩素原子が好ましく、フッ素原子が特に好ましい。jはベンゼン環への式(4)の置換基Xの結合数を表し、1〜5の整数である。前記式(4)で表される化合物の具体例としては、テトラフルオロイソフタロニトリル、テトラクロロイソフタロニトリルなどのイソフタロニトリル化合物、テトラフルオロフタロニトリル、テトラクロロフタロニトリルなどのフタロニトリル化合物が挙げられる。
【0053】
本発明において、パーフルオロアルキルシラン化合物は、前記式(5)で示される化合物である。前記式(5)において、R5は、前記式(1)におけるR1の定義と同様であるのでここでは説明を省略する。また、R6は、アルキル基、好ましくは炭素原子数1〜6、より好ましくは炭素原子数1〜3の直鎖または分岐鎖または環状のアルキル基を表す。より具体的には、前記式(5)におけるR6としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基及びシクロヘキシル基などが挙げられる。なお、前記式(5)において、R6は、それぞれ同一であってもあるいは異なるものであってもよい。これらの中では、メチル基、エチル基、プロピル基及びイソプロピル基が好ましい。これらの基を用いた場合、反応性が高い、試薬が入手し易いといった利点が生じる。特に好ましくは、R5がトリフルオロメチル基でありかつR6がすべてメチル基である。即ち、トリフルオロメチルトリメチルシラン[F3C−Si−(CH3)3]がパーフルオロアルキルシラン化合物として使用される。
【0054】
本発明において、パーフルオロアルキルシラン化合物の使用量は、前記式(4)で表される化合物(テトラフルオロイソフタロニトリルなど)と反応して所望の含フッ素芳香族化合物を製造できる量であれば特に制限されず、含フッ素芳香族化合物におけるR1(式(2)、式(3)、式(6)および式(7)においては、それぞれR3、R4、R7およびR8が該当。以下同様)の結合数によっても異なる。
【0055】
例えば、テトラフルオロイソフタロニトリルのフッ素原子が1つのパーフルオロアルキル基によって置換されたイソフタロニトリル誘導体(式(2)において、e=1、f=3)を合成する場合、パーフルオロアルキルシラン化合物の使用量は、テトラフルオロイソフタロニトリル1モルに対して、0.01〜2モルであることが好ましく、0.05〜1モルであることがより好ましい。なお、このような添加量では、その立体構造(立体障害性)及び電子吸引基の影響により、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5は、テトラフルオロイソフタロニトリルの2位または4位に選択的に結合する傾向がある。また、テトラフルオロイソフタロニトリルのフッ素原子が2つのパーフルオロアルキル基によって置換されたイソフタロニトリル誘導体(式(2)において、e=2、f=2)を合成する場合、パーフルオロアルキルシラン化合物の使用量は、テトラフルオロイソフタロニトリル1モルに対して、0.5〜10モルであることが好ましく、1〜6モルであることがより好ましい。なお、このような添加量では、その立体構造(立体障害性)及び電子吸引基の影響により、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5は、テトラフルオロイソフタロニトリルの2,4位または4,6位に選択的に結合する傾向がある。さらに、テトラフルオロイソフタロニトリルのフッ素原子が3つのパーフルオロアルキル基によって置換されたイソフタロニトリル誘導体(式(2)において、e=3、f=1)を合成する場合、パーフルオロアルキルシラン化合物の使用量は、テトラフルオロイソフタロニトリル1モルに対して、1〜20モルであることが好ましく、1〜10モルであることがより好ましい。なお、このような添加量では、その立体構造(立体障害性)及び電子吸引基の影響により、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5は、テトラフルオロイソフタロニトリルの2,4,6位に選択的に結合する傾向がある。パーフルオロアルキルシラン化合物の使用量が上記範囲の下限を下回ると、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5が十分テトラフルオロイソフタロニトリルに結合できず、反応が十分に進行しない場合がある。逆にパーフルオロアルキルシラン化合物の使用量が上記範囲の上限を超えると、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5がテトラフルオロイソフタロニトリルにおける所望の位置以外の位置にも結合し、反応系が複雑になり、精製の手間やコストが大きくなる恐れがある。なお、本発明において、テトラフルオロイソフタロニトリルの5位のフッ素原子はその立体構造(立体障害性)及び電子吸引基の影響により不活性であるため、このフッ素原子は本発明の方法によってはR5と置換されにくい。
【0056】
例えば、テトラフルオロフタロニトリルのフッ素原子が1つのパーフルオロアルキル基によって置換されたフタロニトリル誘導体(式(3)において、g=1、h=3)を合成する場合、パーフルオロアルキルシラン化合物の使用量は、テトラフルオロフタロニトリル1モルに対して、0.01〜2モルであることが好ましく、0.05〜1モルであることがより好ましい。なお、このような添加量では、その立体構造(立体障害性)及び電子吸引基の影響により、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5は、テトラフルオロフタロニトリルの3位または4位に選択的に結合する傾向がある。また、テトラフルオロフタロニトリルのフッ素原子が2つのパーフルオロアルキル基によって置換されたフタロニトリル誘導体(式(3)において、g=2、h=2)を合成する場合、パーフルオロアルキルシラン化合物の使用量は、テトラフルオロフタロニトリル1モルに対して、0.5〜10モルであることが好ましく、1〜6モルであることがより好ましい。なお、このような添加量では、その立体構造(立体障害性)及び電子吸引基の影響により、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5は、テトラフルオロフタロニトリルの3,4位、4,5位または3,5位に選択的に結合する傾向がある。さらに、テトラフルオロフタロニトリルのフッ素原子が3つのパーフルオロアルキル基によって置換されたフタロニトリル誘導体(式(3)において、g=3、h=1)を合成する場合、パーフルオロアルキルシラン化合物の使用量は、テトラフルオロフタロニトリル1モルに対して、1〜20モルであることが好ましく、1〜10モルであることがより好ましい。なお、このような添加量では、その立体構造(立体障害性)及び電子吸引基の影響により、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5は、テトラフルオロフタロニトリルの3,4,5位に選択的に結合する傾向がある。パーフルオロアルキルシラン化合物の使用量が上記範囲の下限を下回ると、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5が十分テトラフルオロフタロニトリルに結合できず、反応が十分に進行しない場合がある。逆にパーフルオロアルキルシラン化合物の使用量が上記範囲の上限を超えると、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5がテトラフルオロフタロニトリルにおける所望の位置以外の位置にも結合し、反応系が複雑になり、精製の手間やコストが大きくなる恐れがある。
【0057】
本発明において、前記式(4)で表される化合物と前記式(5)で表されるパーフルオロアルキルシラン化合物との反応は、反応効率、反応選択性及び反応収率などを考慮すると、銅化合物および/または触媒の存在下で、特に好ましくは銅化合物及び触媒の共存下で、行なわれるのが好ましい。この際使用される銅化合物としては、前記式(4)で表される化合物と前記式(5)で表されるパーフルオロアルキルシラン化合物との反応を効率良く進行できるものであれば特に制限されないが、例えば、ヨウ化銅、臭化銅、塩化銅、シアン化銅などが挙げられる。これらのうち、ヨウ化銅、塩化銅及びシアン化銅が好ましく使用される。なお、上記銅化合物は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0058】
また、本発明において使用される触媒は、前記式(4)で表される化合物と前記式(5)で表されるパーフルオロアルキルシラン化合物との反応を効率良く進行できるものであれば特に制限されないが、ハロゲン化物が好ましく、より具体的には、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化ナトリウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化アンチモン等のフッ化物;塩化カリウム、塩化セシウム、塩化ナトリウム、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化アンチモン等の塩化物;ならびに臭化カリウム、臭化セシウム、臭化ナトリウム、臭化バリウム、臭化カルシウム、臭化アンチモン等の臭化物などが挙げられる。これらのうち、フッ化カリウム、フッ化セシウム及びフッ化ナトリウムが好ましく使用される。なお、上記触媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0059】
本発明における特に好ましい実施態様である銅化合物及び触媒の組合わせは、反応効率、反応選択性および反応収率などを考慮して適宜選択される。具体的には、銅化合物及び触媒の好ましい組み合わせとしては、フッ化カリウム及びヨウ化銅;フッ化カリウム及び塩化銅;フッ化ナトリウム及びヨウ化銅;フッ化セシウム及びヨウ化銅が挙げられ、特に好ましくはフッ化カリウム及びヨウ化銅である。また、銅化合物及び触媒の混合比は、反応効率、反応選択性や反応収率などを考慮して適宜選択され特に制限されるものではないが、例えば、銅化合物及び触媒のモル比は、好ましくは1:9〜9:1、より好ましくは3:7〜7:3である。さらに、銅化合物及び触媒の合計の添加量は、前記式(4)で表される化合物と前記式(5)で表されるパーフルオロアルキルシラン化合物との反応を良好に触媒できる量であれば特に制限されないが、前記式(4)で表される化合物1モルに対して、通常、0.5〜30モル、好ましくは1〜20モルである。
【0060】
また、本発明において、前記式(4)で表される化合物と前記式(5)で表されるパーフルオロアルキルシラン化合物との反応は、無溶媒下で行なわれてもまたは有機溶剤中で行なわれてもいずれでもよいが、反応効率、反応選択性および反応収率などを考慮すると、有機溶剤中で行なわれることが好ましい。この際使用される有機溶剤は、前記式(4)で表される化合物と前記式(5)で表されるパーフルオロアルキルシラン化合物との反応を阻害せず、前記式(4)で表される化合物や前記式(5)で表されるパーフルオロアルキルシラン化合物に対して不活性なものであれば特に制限されるものではない。具体的には、アセトニトリル及びベンゾニトリル等のニトリル類;アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)及びシクロヘキサノン等のケトン類;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン及びテトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン及びヘプタン等の炭化水素類;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジフェニルエーテル、ベンジルエーテル及びtert−ブチルエーテル等のエーテル類;蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸イソプロピル等のエステル類;ならびにN−メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド、スルホラン(TMSO2)、及びジメチルスルホラン(DMSO2)などが挙げられる。これらのうち、N−メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、テトラヒドロフラン(THF)及びアセトニトリルが好ましく使用される。なお、上記有機溶剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよく、反応効率、反応選択性や反応収率などを考慮して適宜選択される。具体的には、2種以上の混合物の形態で使用される場合の好ましい有機溶剤の組み合わせとしては、DMF/NMP[混合比(体積比)が1/9〜9/1であることが好ましく、2/8〜8/2であることがより好ましい。また、有機溶剤の使用量(組み合わせの場合には全使用量)は、前記式(4)で表される化合物と前記式(5)で表されるパーフルオロアルキルシラン化合物との反応が効率良く進行する量であれば特に制限されない。例えば、有機溶剤における前記式(4)で表される化合物の濃度が、1〜60(w/v)%、好ましくは2〜40(w/v)%となるような量である。
【0061】
また、前記式(4)で表される化合物と前記式(5)で表されるパーフルオロアルキルシラン化合物との反応条件は、これらの反応が十分進行する条件であれば特に制限されず、一般的に合成される目的物におけるパーフルオロアルキル基の結合数によって異なる。
【0062】
例えば、テトラフルオロイソフタロニトリルのフッ素原子が1つのパーフルオロアルキル基によって置換されたイソフタロニトリル誘導体(式(2)において、e=1、f=3)を合成する場合、反応温度は、通常、−80〜100℃、好ましくは−50〜50℃である。また、反応時間は、通常、0.1〜40時間、好ましくは0.5〜20時間である。また、反応は、加圧下、常圧下または減圧下のいずれの圧力下で行なってもよいが、設備面を考慮すると、好ましくは常圧下で行われる。なお、このような反応条件により、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5を、その立体構造(立体障害性)及び電子吸引基の影響により、テトラフルオロイソフタロニトリルの2位または4位に選択的に結合させることができる。また、テトラフルオロイソフタロニトリルのフッ素原子が2つのパーフルオロアルキル基によって置換されたイソフタロニトリル誘導体(式(2)において、e=2、f=2)を合成する場合、反応温度は、通常、−50〜150℃、好ましくは−50〜80℃である。反応時間は、通常、0.1〜40時間、好ましくは0.5〜20時間である。このような反応条件により、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5を、その立体構造(立体障害性)及び電子吸引基の影響により、テトラフルオロイソフタロニトリルの2,4位または4,6位に選択的に結合させることができる。さらに、テトラフルオロイソフタロニトリルのフッ素原子が3つのパーフルオロアルキル基によって置換されたイソフタロニトリル誘導体(式(2)において、e=3、f=1)を合成する場合、反応温度は、通常、−20〜200℃、好ましくは0〜100℃である。反応時間は、通常、0.1〜40時間、好ましくは0.5〜20時間である。このような反応条件により、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5を、その立体構造(立体障害性)及び電子吸引基の影響により、テトラフルオロイソフタロニトリルの2,4,6位に選択的に結合させることができる。
【0063】
また、テトラフルオロフタロニトリルのフッ素原子が1つのパーフルオロアルキル基によって置換されたフタロニトリル誘導体(式(3)において、g=1、h=3)を合成する場合、反応温度は、通常、−80〜100℃、好ましくは−50〜50℃である。また、反応時間は、通常、0.1〜40時間、好ましくは0.5〜20時間である。また、反応は、加圧下、常圧下または減圧下のいずれの圧力下で行なってもよいが、設備面を考慮すると、好ましくは常圧下で行われる。なお、このような反応条件により、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5を、その立体構造(立体障害性)及び電子吸引基の影響により、テトラフルオロフタロニトリルの3位または4位に選択的に結合させることができる。また、テトラフルオロフタロニトリルのフッ素原子が2つのパーフルオロアルキル基によって置換されたフタロニトリル誘導体(式(3)において、g=2、h=2)を合成する場合、反応温度は、通常、−50〜150℃、好ましくは−50〜80℃である。反応時間は、通常、0.1〜40時間、好ましくは0.5〜20時間である。このような反応条件により、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5を、その立体構造(立体障害性)及び電子吸引基の影響により、テトラフルオロフタロニトリルの3,4位、4,5位または3,5位に選択的に結合させることができる。さらに、テトラフルオロフタロニトリルのフッ素原子が3つのパーフルオロアルキル基によって置換されたフタロニトリル誘導体(式(3)において、g=3、h=1)を合成する場合、反応温度は、通常、−20〜200℃、好ましくは0〜100℃である。反応時間は、通常、0.1〜40時間、好ましくは0.5〜20時間である。このような反応条件により、パーフルオロアルキルシラン化合物のR5を、その立体構造(立体障害性)及び電子吸引基の影響により、テトラフルオロフタロニトリルの3,4,5位に選択的に結合させることができる。
【0064】
前記式(4)で表される化合物と前記式(5)で表されるパーフルオロアルキルシラン化合物との反応は、上記したような所定の条件下で行なわれた後、塩酸水溶液や飽和塩化アンモニウム水溶液などの滴下により終了される。また、銅化合物など一部の成分は反応液中で懸濁しているため、反応後の目的物の精製等の後工程を行ないやすくするために、反応後の液にアンモニア水などを加えて、銅化合物等の不溶成分を溶解することが好ましい。
【0065】
本発明に係る製造方法によって含フッ素芳香族化合物を製造した場合には、製造条件によっては、反応溶液中にはdが1および2以上の複数の含フッ素芳香族化合物が含まれる場合がある。この場合には、カラムクロマトグラフィーなどを用いて分離すればよい。また精製にあたっては、シリカゲルやアルミナ等によるカラムクロマトグラフィー、抽出、蒸留、好ましくは固体蒸留、再結晶、再沈及び昇華などの公知の方法によって精製することによって、高い純度で製造できる。
【0066】
【実施例】
<実施例1:2,5−ジフルオロ−4,6−ビストリフルオロメチルイソフタロニトリルの合成>
100ml容の三ツ口フラスコに、テトラフルオロイソフタロニトリル2.00g(10.0ミリモル)、ヨウ化銅8.57g(45.0ミリモル)、フッ化カリウム2.61g(45.0ミリモル)、ならびにDMF及びNMPの溶媒(混合体積比=1:1)20mlを仕込み、攪拌しながら氷冷した。次に、この懸濁液に、DMF及びNMPの溶媒(混合体積比=1:1)20ml中にトリフルオロメチルトリメチルシラン6.40g(45.0ミリモル)を溶かした溶液を、溶液の温度を5℃以下に維持しながら、1時間かけて滴下した。滴下終了後、この反応溶液を3℃で2時間攪拌した後、10質量%の塩酸水溶液20mlを滴下し、さらに10質量%のアンモニア水溶液100mlを添加した。続いて、この溶液をイソプロピルアルコール300mlで抽出し、飽和食塩水100mlで洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムを瀘別した後、エバポレーターで溶媒を留去して、濃茶色の固体を3.90g得た。さらにこの固体をカラムクロマトグラフィー(IPE/AcOEt=10/0〜2/8)で精製することによって、目的物である、2,5−ジフルオロ−4,6−ビストリフルオロメチルイソフタロニトリル3.27gを薄茶色固体として得た(収率=61%;GC純度=56%)。
【0067】
このようにして得られた2,5−ジフルオロ−4,6−ビストリフルオロメチルイソフタロニトリルについて、質量スペクトルを測定したところ、M+=300であったが、この際、M+=250のピークも同時に認められた。このピークは2,5,6−トリフルオロ−4−トリフルオロメチルイソフタロニトリルに相当するピークであると考えられる。また、この反応生成物の構造を19F−NMRスペクトルで分析したところ、図1に示される結果が得られた。
【0068】
<実施例2:5−フルオロ−2,4,6−トリストリフルオロメチルイソフタロニトリルの合成>
100ml容の三ツ口フラスコに、テトラフルオロイソフタロニトリル2.00g(10.0ミリモル)、ヨウ化銅8.57g(45.0ミリモル)、フッ化カリウム2.61g(45.0ミリモル)、ならびにDMF及びNMPの溶媒(混合体積比=1:1)20mlを仕込み、攪拌しながら、オイルバスで40℃に加熱した。次に、この混合液に、DMF及びNMPの溶媒(混合体積比=1:1)20ml中にトリフルオロメチルトリメチルシラン6.40g(45.0ミリモル)を溶かした溶液を、溶液の温度を40℃に維持しながら、1時間かけて滴下した。滴下終了後、この反応溶液を40℃で1時間攪拌した後、10質量%の塩酸水溶液20mlを滴下し、さらに10質量%のアンモニア水溶液100mlを添加した。続いて、この溶液をイソプロピルアルコール300mlで抽出し、飽和食塩水100mlで洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムを瀘別した後、エバポレーターで溶媒を留去して、濃茶色の固体を4.25g得た。さらにこの固体をカラムクロマトグラフィー(IPE/AcOEt=10/0〜2/8)で精製することによって、目的物である、5−フルオロ−2,4,6−トリストリフルオロメチルイソフタロニトリル0.54gを薄茶色固体として得た(収率=12%;GC純度=78%)。
【0069】
このようにして得られた5−フルオロ−2,4,6−トリストリフルオロメチルイソフタロニトリルについて、質量スペクトルを測定したところ、M+=350であった。また、この反応生成物の構造を19F−NMRスペクトルで分析したところ、図2に示される結果が得られた。
【0070】
<実施例3:図3の化合物(a)および(b)の合成>
100ml容の三ツ口フラスコに、テトラフルオロフタロニトリル2.00g(10.0ミリモル)、ヨウ化銅8.57g(45.0ミリモル)、フッ化カリウム2.61g(45.0ミリモル)、ならびにDMF及びNMPの溶媒(混合体積比=1:1)20mlを仕込み、攪拌しながら氷冷した。次に、この懸濁液に、DMF及びNMPの溶媒(混合体積比=1:1)20ml中にトリフルオロメチルトリメチルシラン6.40g(45.0ミリモル)を溶かした溶液を、溶液の温度を10℃以下に維持しながら、1時間かけて滴下した。滴下終了後、この反応溶液を10℃で2時間攪拌した後、10質量%の塩酸水溶液20mlを滴下し、さらに10質量%のアンモニア水溶液100mlを添加した。続いて、この溶液をイソプロピルアルコール300mlで抽出し、飽和食塩水100mlで洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムを瀘別した後、エバポレーターで溶媒を留去して、濃茶色の固体を4.55g得た。さらにこの固体をカラムクロマトグラフィー(IPE/AcOEt=10/0〜2/8)で精製することによって、濃茶色固体の目的化合物(a)(0.74g;1.32ミリモル)を得た。反応スキームを参考までに図3として示す。目的化合物(a)の収率は13.2%であった。また、同時に、濃茶色固体の目的化合物(b)(0.35g;0.76ミリモル)を得た。目的化合物(b)の収率は7.6%であった。
【0071】
このようにして得られた目的化合物(a)および(b)について、質量スペクトルを測定したところ、(a)についてはM+=562、(b)についてはM+=462であった。また、この反応生成物の構造を19F−NMRスペクトルで分析したところ、目的化合物(a)に関しては図4に示される結果が得られた。目的化合物(b)に関しては図5に示される結果が得られた。
【0072】
<実施例4:図3の化合物(a)および(b)の合成>
100ml容の三ツ口フラスコに、テトラフルオロフタロニトリル2.00g(10.0ミリモル)、ヨウ化銅8.57g(45.0ミリモル)、フッ化カリウム2.61g(45.0ミリモル)、ならびにDMF及びNMPの溶媒(混合体積比=4:1)20mlを仕込み、攪拌した。次に、この懸濁液に、DMF及びNMPの溶媒(混合体積比=4:1)20ml中にトリフルオロメチルトリメチルシラン6.40g(45.0ミリモル)を溶かした溶液を、2時間かけて滴下した。このとき溶液の温度は60℃にまで上昇した。滴下終了後、この反応溶液を50℃で2時間攪拌した後、10質量%の塩酸水溶液20mlを滴下し、さらに10質量%のアンモニア水溶液100mlを添加した。続いて、この溶液をイソプロピルアルコール300mlで抽出し、飽和食塩水100mlで洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムを瀘別した後、エバポレーターで溶媒を留去して、濃茶色の固体を3.58g得た。さらにこの固体をカラムクロマトグラフィー(IPE/AcOEt=10/0〜2/8)で精製することによって、濃茶色固体の目的化合物(a)(0.92g;1.64ミリモル)を得た。反応スキームを参考までに図3として示す。目的化合物(a)の収率は16.4%であった。また、同時に、濃茶色固体の目的化合物(b)(0.05g;0.11ミリモル)を得た。目的化合物(b)の収率は1.1%であった。
【0073】
<実施例5:図3の化合物(c)の合成>
100ml容の三ツ口フラスコに、テトラフルオロイソフタロニトリル2.00g(10.0ミリモル)、ヨウ化銅8.57g(45.0ミリモル)、フッ化カリウム2.61g(45.0ミリモル)、ならびにDMF及びNMPの溶媒(混合体積比=1:1)20mlを仕込み、撹拌しながらオイルバスで40℃に加熱した。次に、この懸濁液に、DMF及びNMPの溶媒(混合体積比=1:1)20ml中にトリフルオロメチルトリメチルシラン6.40g(45.0ミリモル)を溶かした溶液を、溶液の温度を40℃以下に維持しながら、1時間かけて滴下した。滴下終了後、この反応溶液を40℃で1時間攪拌した後、10質量%の塩酸水溶液20mlを滴下し、さらに10質量%のアンモニア水溶液100mlを添加した。続いて、この溶液をイソプロピルアルコール300mlで抽出し、飽和食塩水100mlで洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。無水硫酸マグネシウムを瀘別した後、エバポレーターで溶媒を留去して、濃茶色の固体を4.25g得た。さらにこの固体をカラムクロマトグラフィー(IPE/AcOEt=10/0〜2/8)で精製することによって、濃茶色固体の目的化合物(c)(0.04g;0.07ミリモル)を得た。反応スキームを参考までに図3として示す。目的化合物(c)の収率は0.7%であった。
【0074】
このようにして得られた目的化合物(c)について、質量スペクトルを測定したところ、M+=562であった。また、この反応生成物の構造を19F−NMRスペクトルで分析したところ、目的化合物(c)に関しては図6に示される結果が得られた。
【0075】
【発明の効果】
上述したように、本発明によって新規な含フッ素芳香族化合物が提供される。本発明に係る含フッ素芳香族化合物は、染料、医薬、農薬、高分子化合物の合成上重要な中間体原料として、また、優れた耐熱性、撥水性、耐薬品性及び低誘電性を有する樹脂の原料として使用されることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 2,5−ジフルオロ−4,6−ビストリフルオロメチルイソフタロニトリル19F−NMRスペクトルである。
【図2】 5−フルオロ−2,4,6−トリストリフルオロメチルイソフタロニトリルの19F−NMRスペクトルである。
【図3】 本発明に係る含フッ素芳香族化合物の製造過程の一例を示す反応スキームである。
【図4】 目的化合物(a)の19F−NMRスペクトルである。
【図5】 目的化合物(b)の19F−NMRスペクトルである。
【図6】 目的化合物(c)の19F−NMRスペクトルである。
Claims (6)
- 下記式(1):
式(1)の炭素骨格に結合している水素原子はすべて、上記R 1 、X、またはCNで置換されている)で表される含フッ素芳香族化合物。 - 請求項1に記載の式(1)の式中のd 1 +d 2 +d 3 +d 4 が2の場合であって、
下記の式(6):
kはベンゼン環へのR 7 の結合数を表し、同一または異なって、1〜3の整数であり、
lはベンゼン環へのフッ素原子の結合数を表わし、0〜2の整数であり、k+l=3である)、または
mはベンゼン環へのR 8 の結合数を表し、同一または異なって、1〜3の整数であり、
nはベンゼン環へのフッ素原子の結合数を表わし、0〜2の整数であり、m+n=3である)で表される、請求項1の含フッ素芳香族化合物。 - 前記式(4)で表される化合物が、テトラフルオロフタロニトリルまたはテトラフルオロイソフタロニトリルであることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
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