JP4089991B2 - 高品質な芳香族ホスフェートの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高品質な芳香族ホスフェートおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、加熱成形される樹脂用の難燃剤に適した芳香族ホスフェートの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
芳香族ホスフェートは、難燃剤や可塑剤などの樹脂用添加剤、医薬品や農薬、殺虫剤などの原料または中間体として幅広い分野において有用な化学物質である。特に、一般式(I)で示される芳香族ホスフェートは、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の成形時の高温にも耐え得ることから、難燃剤としてその有用性が広く知られている。
【0003】
【化2】
【0004】
芳香族ホスフェートは、通常、オキシハロゲン化リンと芳香族ヒドロキシ化合物とから合成される。このようにして得られる芳香族ホスフェートは、その反応中間体であるホスホロハリデートを不純物として含む。芳香族ヒドロキシ化合物とオキシハロゲン化リンとのエステル化反応率を100%にしてホスホロハリデートの残存率を0重量%にするためには、反応時間を長時間にする必要があり、これは経済的に不利であり、工業的には極めて困難である。芳香族ヒドロキシ化合物として2,6−ジアルキル置換フェノールを使用する場合、この問題は特に顕著である。
【0005】
この不純物含有芳香族ホスフェートを添加した樹脂を加熱成形すると、高い温度によりホスホロハリデートが分解し、樹脂成形機や金型などの金属部分を腐食する。また、この分解により生じるガスは人体に対しても有毒であるため、作業環境を悪化させるという問題が起こる。従って、不純物含有芳香族ホスフェート中のホスホロハリデートを分解除去する手段が望まれている。
【0006】
しかしながら、ホスホロハリデートは熱安定性が高いため、分解除去が困難である。特開平8−301884号公報には、芳香族ホスフェートの着色がない精製方法として、粗芳香族ホスフェートをヒンダードフェノール系化合物とアルカリ水溶液とで処理する方法が記載されている。しかし、この方法では、ホスホロハリデートを十分に除去できない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解決することである。すなわち、着色がなく、かつ難燃剤として樹脂に添加してこの樹脂を成形した時に樹脂成形機や金型などを腐食することがなく、また作業環境の悪化をもたらさない芳香族ホスフェートの製造方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前述した課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、オキシハロゲン化リンと芳香族ヒドロキシ化合物との反応により得られた粗生成物を、この粗生成物に対して0.01〜8重量%の弱アルカリ化合物および弱アルカリ化合物に対して0.1〜5重量倍の水の存在下で加熱処理することにより、ホスホロハリデートを選択的に分解除去することが可能であることを見出し本発明とした。
【0009】
第1の局面において、本発明は、芳香族ホスフェートの製造方法であって、オキシハロゲン化リンと一種類以上の芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させて、芳香族ホスフェートおよびホスホロハリデートを含む粗生成物を得る工程、ならびに該粗生成物中の芳香族ホスフェートの重量とホスホロハリデートの重量とを合わせた重量に対して0.01〜8.0重量%の弱アルカリ化合物および該弱アルカリ化合物に対して0.1〜5重量倍の水の存在下で加熱処理する工程を包含する、芳香族ホスフェートの製造方法に関する。そのことにより上記目的が達成される。
【0010】
好適な実施態様において、上記芳香族ヒドロキシ化合物は2,6−ジアルキルフェノールである。
【0011】
好適な実施態様において、上記芳香族ホスフェートは、一般式(I):
【0012】
【化3】
【0013】
[式中、R1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、Xは、結合、−CH2−、−C(CH3)2−、−S−、−SO2−、−O−、−CO−または−N=N−であり、nは0または1の整数であり、mは0から5の整数である];で表される。
【0014】
好適な実施態様において、上記芳香族ホスフェートは、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェートである。
【0015】
好適な実施態様において、上記弱アルカリ化合物は炭酸ナトリウムおよび/または炭酸カリウムである。
【0016】
第2の局面において、本発明は、不純物としてホスホロハリデートを含む芳香族ホスフェートの精製方法であって、芳香族ホスフェートおよびホスホロハリデートを含む混合物を、該混合物中の芳香族ホスフェートの重量とホスホロハリデートの重量とを合わせた重量に対して0.01〜8.0重量%の弱アルカリ化合物および該弱アルカリ化合物に対して0.1〜5重量倍の水の存在下で加熱処理する工程を包含する、芳香族ホスフェートの精製方法に関する。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を具体的に説明する。
【0018】
本発明の芳香族ホスフェートの製造方法は、1.反応工程、および2.加熱処理工程を含む。
【0019】
1.反応工程
本反応工程では、触媒の存在下または不存在下で、オキシハロゲン化リンと一種類以上の芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させることにより、芳香族ホスフェートを含む粗生成物が得られる。
【0020】
本発明で使用されるオキシハロゲン化リンとしては、オキシ塩化リン、オキシ臭化リンが挙げられ、コスト面からオキシ塩化リンが好ましい。
【0021】
本発明で使用される芳香族ヒドロキシ化合物は、非アルキル置換フェノールとアルキル置換フェノールとに大別することができる。
【0022】
非アルキル置換フェノールとしては、フェノール、(o−、m−、p−)クロロフェノール(ここで「(o−、m−、p−)」は、それぞれの置換フェニル基が独立して、ベンゼン環上の置換基をo−(オルト)、m−(メタ)、またはp−(パラ)のいずれかの位置に有することを示す。以下も同一または同様である。)、(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジクロロフェノール、(2,3,6−、2,3,5−、2,3,4−、2,4,5−、2,4,6−、3,4,5−)トリクロロフェノール、(o−、m−、p−)ブロモフェノール、(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジブロモフェノール、(2,3,6−、2,3,5−、2,3,4−、2,4,5−、2,4,6−、3,4,5−)トリブロモフェノールなどの一価フェノール、ヒドロキノン、レゾルシン、ビフェノール、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどの二価フェノール、ならびにピロガロールなどの多価フェノールが挙げられる。
【0023】
アルキル置換フェノールとしては、フェノールの2,3,4,5,6−位のいずれかがアルキルで置換された化合物であればよく、例えば、(o−、m−、p−)メチルフェノール、(o−、m−、p−)エチルフェノール、(o−、m−、p−)n−プロピルフェノール、(o−、m−、p−)イソプロピルフェノール、(o−、m−、p−)n−ブチルフェノール、(o−、m−、p−)sec−ブチルフェノール、(o−、m−、p−)tert−ブチルフェノール、(o−、m−、p−)ペンチルフェノール、(o−、m−、p−)ヘキシルフェノール、(o−、m−、p−)ヘプチルフェノール、(o−、m−、p−)オクチルフェノール、(o−、m−、p−)ノニルフェノール、(o−、m−、p−)デシルフェノール、(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジメチルフェノール、(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジエチルフェノール、(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジ−n−プロピルフェノール、(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジイソプロピルフェノール、(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジ−n−ブチルフェノール、(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジ−sec−ブチルフェノール、(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジ−tert−ブチルフェノール、(2,3,6−、2,3,5−、2,3,4−、2,4,5−、2,4,6−、3,4,5−)トリメチルフェノール、(2,3,6−、2,3,5−、2,3,4−、2,4,5−、2,4,6−、3,4,5−)トリエチルフェノール、(2,3,6−、2,3,5−、2,3,4−、2,4,5−、2,4,6−、3,4,5−)トリプロピルフェノール、(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)クロロ−メチルフェノールなどが挙げられる。
【0024】
上記フェノール系化合物の中でも、アルキル置換フェノールは、これに基因するホスホロハリデートは分解性が悪く、アルカリ化合物による着色性が高いことから本発明の方法に使用するのに好適であり、より好ましい例として、2,6−位または2,4,6−位にアルキル基を有するアルキル置換フェノールが挙げられ、特に好ましい例として、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジエチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノールが挙げられる。上記芳香族ヒドロキシ化合物は単独で使用してもよく、あるいは二種類以上を併用することも差し支えない。
【0025】
また、上記芳香族ヒドロキシ化合物とアルコール類やアルキレンオキシド化合物などとを併用することも差し支えない。
【0026】
上記アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、クロロメチルアルコール、β−クロロエチルアルコール、β−クロロイソプロピルアルコール、ブロモネオペンチルアルコール、ジブロモネオペンチルアルコール、トリブロモネオペンチルアルコール、ベンジルアルコールなどの一価アルコール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ジブロモネオペンチルグリコール、グリセリンなどの多価アルコールが挙げられる。
【0027】
上記アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどが挙げられる。
【0028】
上記オキシハロゲン化リンと上記芳香族ヒドロキシ化合物とを適当な温度、時間、圧力で反応させることにより、エステル化反応が進行して、芳香族ホスフェートが得られる。代表的な方法としては、例えば、特開昭59−202240号公報、第4頁、製造法1に記載されているようなオキシ塩化リンとフェノール、ハイドロキノン、塩化アルミニウムを同時に仕込みクレゾールを滴下し反応させる方法や特開平5−1079号公報の実施例に記載されているような芳香族モノヒドロキシ化合物とオキシハロゲン化リンとをルイス酸触媒下で反応させてジアリールホスホロハリデートを得、次いでこれに芳香族ジヒドロキシ化合物を反応させるような方法が挙げられる。
【0029】
上記オキシハロゲン化リンと上記フェノール系化合物との反応により生成する芳香族ホスフェートは、芳香族ホスフェート単量体と芳香族ホスフェート縮合体に大別され得る。
【0030】
芳香族ホスフェート単量体としては、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノヒドロキシフェニルホスフェート、モノフェニルジヒドロキシフェニルホスフェート、トリ(o−、m−、p−)クロロフェニルホスフェート、トリ(o−、m−、p−)ブロモフェニルホスフェート、トリ[(o−、m−、p−)メチルフェニル]ホスフェート、ジ[(o−、m−、p−)メチルフェニル]モノフェニルホスフェート、モノ[(o−、m−、p−)メチルフェニル]ジフェニルホスフェート、トリ[(o−、m−、p−)エチルフェニル]ホスフェート、トリ[(o−、m−、p−)n−プロピルフェニル]ホスフェート、トリ[(o−、m−、p−)イソプロピルフェニル]ホスフェート、トリ[(o−、m−、p−)n−ブチルフェニル]ホスフェート、トリ[(o−、m−、p−)sec−ブチルフェニル]ホスフェート、トリ[(o−、m−、p−)tert−ブチルフェニル]ホスフェート、トリ[(o−、m−、p−)ペンチルフェニル]ホスフェート、トリ[(o−、m−、p−)ヘキシルフェニル]ホスフェート、トリ[(o−、m−、p−)ヘプチルフェニル]ホスフェート、トリ[(o−、m−、p−)オクチルフェニル]ホスフェート、トリ[(o−、m−、p−)ノニルフェニル]ホスフェート、トリ[(o−、m−、p−)デシルフェニル]ホスフェート、トリス[(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジメチルフェニル]ホスフェート、ジ[(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジメチルフェニル]モノフェニルホスフェート、モノ[(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジメチルフェニル]ジフェニルホスフェート、ビス[(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジメチルフェニル]モノフェニルホスフェート、トリス[(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジエチルフェニル]ホスフェート、トリス[(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジ−n−プロピルフェニル]ホスフェート、トリス[(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジイソプロピルフェニル]ホスフェート、トリス[(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジ−n−ブチルフェニル]ホスフェート、トリス[(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジ−sec−ブチルフェニル]ホスフェート、トリス[(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジ−tert−ブチルフェニル]ホスフェート、トリス[(2,3,5−、2,4,5−、2,3,6−、2,3,4−、2,4,6−、3,4,5−)トリメチルフェニル]ホスフェート、トリス[(2,3,5−、2,4,5−、2,3,6−、2,3,4−、2,4,6−、3,4,5−)トリエチルフェニル]ホスフェート、トリス[(2,3,5−、2,4,5−、2,3,6−、2,3,4−、2,4,6−、3,4,5−)トリプロピルフェニル]ホスフェートなどが挙げられる。
【0031】
芳香族ホスフェート縮合体は、上記ホスフェート単量体の縮合物であり、例えば、アルキレンビス[ジ(o−、m−、p−)メチルフェニルホスフェート]、レゾルシンビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシンビス[ジ(o−、m−、p−)メチルフェニルホスフェート]、レゾルシンビス[ジ(o−、m−、p−)エチルフェニルホスフェート]、レゾルシンビス[モノ(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジメチルフェニルモノフェニルホスフェート]、レゾルシンビス[モノ(o−、m−、p−)メチルフェニルモノフェニルホスフェート]、レゾルシンビス[ビス(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジメチルフェニルホスフェート]、ヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ヒドロキノンビス[ジ(o−、m−、p−)メチルフェニルホスフェート]、ヒドロキノンビス[ジ(o−、m−、p−)エチルフェニルホスフェート]、ヒドロキノンビス[ビス(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジメチルフェニルホスフェート]、ヒドロキノンビス[モノ(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジメチルフェニルモノフェニルホスフェート]、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス[モノ(o−、m−、p−)メチルフェニルモノフェニルホスフェート]、ビスフェノールAビス[ジ(o−、m−、p−)メチルフェニルホスフェート]、ビスフェノールAビス{[ジ(o−、m−、p−)エチルフェニル]ホスフェート}、ビスフェノールAビス{ビス[(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジメチルフェニル]ホスフェート}、ビスフェノールAビス[モノ(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジメチルフェニルモノフェニルホスフェート]、ビスフェノールSビス{ジ(o−、m−、p−)メチルフェニルホスフェート}、ビスフェノールSビス{ビス(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−)ジメチルフェニル]ホスフェート}などが挙げられる。
【0032】
上記芳香族ホスフェートの中でも、その製造時に生成するモノアリールホスホロハリデートおよびジアリールホスホロハリデートなどのホスホロハリデートの分解性の悪さから、下記式(I):
【0033】
【化4】
【0034】
[式中、R1〜R12は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、Xは、結合、−CH2−、−C(CH3)2−、−S−、−SO2−、−O−、−CO−または−N=N−であり、nは0または1の整数であり、mは0から5の整数である]で示されるアルキル置換フェニル基含有ホスフェートの製造に対して本発明は好ましく適用される。その中でもトリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェートは特に着色性が高いが、本発明を適用することにより良好な色相を保ちつつホスホロクリデートを分解除去できる。
【0035】
本発明で使用され得る触媒としては、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化第二鉄、塩化第二錫などのルイス酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸などのブレンステッド酸、などが挙げられるが、触媒活性の点からルイス酸が好ましく使用される。触媒の使用量は、通常、オキシハロゲン化リンに対して0.1〜15.0重量%が好ましく、より好ましくは1〜7.5重量%使用される。
【0036】
エステル化反応は、大気圧または10〜200mmHgの減圧下、通常、水のない状態で行われることが好ましい。また、エステル化は好ましくは20〜250℃の範囲の反応温度、より好ましくは120〜220℃で行われるが、目的とするエステルによって適宜選択することができる。
【0037】
エステル化の反応時間は、使用する原料の種類や使用量および反応温度などによって変化するが、工業的な製造を考えた場合には、1〜10時間の範囲内が好ましい。
【0038】
さらに、原料および得られるホスフェートの性状や反応性によっては、エステル化反応を有機溶媒の存在下で行ってもよく、有機溶媒としては、原料および反応物を溶解し、反応温度以上の沸点を示し、かつ、反応に対して不活性である限りいずれの溶媒であってもよい。このような有機溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、イソプロピルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、n−ヘプタン、n−ヘキサン、酢酸エチルなどが挙げられ、これらは2種類以上の混合物で使用しても差し支えない。また、場合によっては原料を溶媒として使用することも差し支えない。
【0039】
このようにして得られる反応混合物は、ホスホロハリデートを不純物として含む芳香族ホスフェートである。芳香族ヒドロキシ化合物とオキシハロゲン化リンとのエステル化反応率を100%としてホスホロハリデートの残存率を0重量%にするためには、反応時間を長時間にする必要があり、これは経済的に不利である。よって、あらかじめ反応工程における反応時間と後記する加熱処理工程とを勘案してホスホロハリデートを適量残存させる。好ましくは、芳香族ホスフェートとホスホロハリデートの重量の和に対して3%以下、より好ましくは0.5%以下のホスホロハリデートを残存させる。これにより、反応時間を短縮することができ、プロセス全体として効率が良好になり、従って工業的に有利である。
【0040】
上記反応工程で得られた粗生成物は、加熱処理される前に、必要であればさらに水や塩酸や硫酸などの酸性水溶液による洗浄を行ってもよい。
【0041】
2.加熱処理工程
本工程では、上記反応工程で得られた粗生成物に、芳香族ホスフェートとホスホロハリデートの重量の和に対して0.01〜8重量%の弱アルカリ化合物と、弱アルカリ化合物に対して0.1〜5重量倍の水とを添加した後、加熱攪拌することによりホスホロハリデートを選択的に分解し、分解物を粗生成物から分離することにより、ホスホロハリデートを含まない高純度な芳香族ホスフェートを得ることができる。
【0042】
本発明において、弱アルカリ化合物とは、水溶液中でpH7.5〜12を示すような化合物であり、好ましくは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属と弱酸との塩である。例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩または炭酸水素塩が挙げられる。特に、ホスホロハリデートを効率よく分解できる点で、炭酸ナトリウムおよび/または炭酸カリウムが好ましい。
【0043】
弱アルカリ化合物の使用量は、芳香族ホスフェートとホスホロハリデートの重量の和に対して0.01〜8重量%の範囲である。好ましい使用量は、含まれるホスホロハリデートの量や反応工程で使用される有機溶媒の量などを考慮して決定されるが、通常、0.5〜2重量%である。また、水の使用量は、弱アルカリ化合物に対して0.1〜5重量倍であり、好ましくは弱アルカリ化合物に対して等量〜3倍量である。なお、粗生成物が、水、酸性水溶液またはアルカリ性水溶液などによる中和、洗浄などの処理によって含水している場合には、その水を含めて上記使用量を計算する。
【0044】
本工程の加熱温度は、好ましくは、50〜220℃の範囲であり、弱アルカリ化合物の種類、弱アルカリ化合物および水の添加量や芳香族ホスフェートの種類により適宜選択されるが、より好ましくは60〜120℃である。加熱温度がこの範囲より高い場合は、芳香族ホスフェートが分解、着色し易いため好ましくなく、また、この範囲より低い場合には充分なホスホロハリデートの分解効果が得られにくい。
【0045】
本工程での攪拌は、上記条件下で粗生成物中のホスホロハリデートと弱アルカリ化合物とが反応し、ホスホロハリデートが分解するように行えばよく、好ましくは0.5〜3時間、より好ましくは1〜2時間の範囲内で攪拌する。不必要に長時間攪拌を続けることは、芳香族ホスフェートが加水分解する恐れがあるため好ましくない。
【0046】
ここで、残存ホスホロハリデートが0.01重量%以下となるように、上記の加熱処理条件が調整される。上記加熱処理を行う場合には、製品が着色し易い場合がある。この場合には、トリフェニルホスファイト、トリ(2,6−ジ−t−ブチル)ホスファイトなどのリン系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、2−メチル−6−t−ブチル−p−クレゾールなどのヒンダードフェノール系化合物を着色防止剤として添加することが好ましい。
【0047】
上記加熱処理された製品は、必要であればさらに水や塩酸や硫酸などの酸性水溶液による洗浄を行ってもよい。この粗生成物は、溶媒を除去した後、さらに減圧蒸留や水蒸気蒸留などの蒸留操作により精製され、さらに、得られる芳香族ホスフェートが固体の場合にはフレーカーやニーダーによる粉末化などの公知の方法によって製品化され得る。
【0048】
このようにして得られた芳香族ホスフェートは、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS樹脂、ホリアミド系樹脂などの熱可塑性樹脂、および、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、イミド系樹脂、フェノール系樹脂などの熱硬化性樹脂に難燃剤として添加することができ、各種樹脂を成形機にて加工する際の高い処理温度によっても腐食性ガスを発生することなく高品質な成形品が得られる。
【0049】
各樹脂成形品の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、各成分を単軸押出機、2軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、ロール等の汎用の混練装置を用いて溶融混練し、射出成形、押出成形、プレス成形、引抜成形などの成形法により、板状、シート状やフイルム状に成形加工することにより成形品が得られる。
【0050】
【実施例】
以下に、本発明の好ましい実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
本実施例において、ホスホロハリデートの含有量および芳香族ホスフェート製品の純度は、ゲルパーミエイションクロマトグラフイー(装置名:東ソー株式会杜製 HLC−8020、カラム:東ソー株式会杜製 G1000Hx1、溶媒:THF、流量:0.8ml/min)によりそれぞれ測定した。また、得られた芳香族ホスフェートの色相は、実施例1および比較例1についてはキシレン:芳香族ホスフェート=1:1(重量比)、実施例2および比較例2についてはテトラヒドロフラン:芳香族ホスフェート=2:3(重量比)の状態にして、APHA法に準拠して測定した。
【0052】
(実施例1)
攪拌機、温度計、滴下装置、及び塩酸回収装置およびコンデンサーを有する1Lの反応装置に、2,6−ジメチルフェノール490.2g、オキシ塩化リン307.0g、塩化マグネシウム2.8g、キシレン16.0gを充填し、撹枠しながら3時間かけて160℃まで加熱し、その後1時間反応させた。この時発生する塩酸は、塩酸回収装置に回収した(回収量138.7g)。その後、温度160℃、圧力350mmHgで4時間処理して、窒素雰囲気下、100℃まで冷却した後、常圧に戻した。得られた反応混合物にレゾルシン106.5g、塩化アルミニウム7.8gを追加充填し、3時間かけて160℃まで加熱し、1時間反応させた。この時発生する塩酸は、同様に塩酸回収装置に回収した(回収量58.4g)。次いで、温度160℃、圧力350mmHgで4時間反応させた後、反応粗生成物696.9gを得た。
【0053】
上記反応粗生成物にキシレン206.0gを添加した後、2.5重量%塩酸水溶液275.0gを添加し、85℃にて1時間攪拌した。1時間静置した後、水相と式(II)で示される製品を含む粗生成物とに分離した。得られた粗生成物は、901.1gであった。この粗生成物は式(II)で表されるホスフェートを含むホスフェート混合物679.6g、キシレン210g、水11.5gを含むものであった。また該ホスフェート混合物中には3.5g(0.52重量%)のホスホロクロリデートが含まれていた。
【0054】
【化5】
【0055】
次いで、得られた粗生成物901.1gに2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.69gと炭酸ナトリウム4.6gとを添加し、85℃まで加熱し、1時間攪拌を行った。
【0056】
さらに、85℃の水275gを添加し、10分間攪拌した後、静置分離した。得られた粗生成物を水275.0gで洗浄した後、100mmHg、140℃で2時間かけて溶媒を除去し、50mmHg、140℃で4時間かけて水蒸気蒸留により低沸点物を除去することにより、式(II)で表される外観が白色粉末(APHA:40)の縮合型アルキル置換フェニル基含有芳香族ホスフェート664.1gを得た。
【0057】
得られた製品中からホスホロクロリデートは検出されなかった。従って、残存ホスホロクロリデート量は、0.01重量%以下である。また、製品は、96.5重量%の式(II)で表される芳香族ホスフェートを含有するものであった。製品の収率はレゾルシン基準で100%であった。
【0058】
(実施例2)
攪拌機、温度計、滴下装置、及び塩酸回収装置およびコンデンサーを有するlLの反応装置に、2,6−ジメチルフェノール384.1g、塩化アルミニウム4.9g、塩化マグネシウム3.6gおよびキシレン13.7gを充填し、攪拌しながら0.5時間かけて130℃まで加熱し、次いで、オキシ塩化リン153gを3時間かけて追加した。オキシ塩化リン追加後、3時間かけて反応混合物を200℃まで加熱し、1時間反応させた。この時発生する塩酸ガスは、塩酸回収装置に回収した(回収量82.1g)。その後、温度200℃、圧力200mmHgで6時間処理して、窒素雰囲気下、100℃まで冷却した後、常圧に戻し、粗生成物445gを得た。
【0059】
上記粗生成物に、キシレン334gを加えてから、5重量%塩酸水溶液123gを添加し、85℃にて1時間攪拌した。1時間静置した後、水相とトリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェートを含有する粗生成物とに分離した。得られた粗生成物は770gであった。この粗生成物はトリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェートを含むホスフェート混合物422g、キシレン340g、水8.0gを含むものであった。また該ホスフェート混合物中には2.3g(0.55重量%)のホスホロクロリデートが含まれていた。
【0060】
次いで、得られた粗生成物770gに2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.4g、炭酸ナトリウム4.8gを添加し、90℃まで加熱し、1時間攪拌を行った。
【0061】
次に、85℃の水123gを添加し、10分間攪拌し、静置分離した後、さらに85℃の水123gで前記と同様に2回洗浄を行った。得られた粗生成物790gを、100mmHg、155℃で2時間かけて溶媒を除去し、200mmHg、155℃で2時間かけて水蒸気蒸留により低沸点物を除去することにより外観が白色粉末(APHA:60)の芳香族ホスフェート396.8gを得た。
【0062】
得られた製品からはホスホロクロリデートは検出されなかった。従って、残存ホスホロクロリデート量は、0.01%以下である。また、製品は、99重量%以上のトリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェートを含有するものであった。製品の収率は97.0%であった。
【0063】
(比較例1)
上記実施例1において炭酸ナトリウム4.6gを添加しなかったこと、および85℃の水の替わりに1.5%水酸化ナトリウム水溶液275gを添加したこと以外は実施例1と同様の条件により行った。
【0064】
得られた縮合型アルキル置換フェニル基含有芳香族ホスフェートの外観は淡黄色粉末(APHA:40)であり、この芳香族ホスフェート中のホスホロクロリデートの含有量は0.08重量%であった。
【0065】
(比較例2)
上記実施例2において炭酸ナトリウム4.8gを添加しなかったこと、および85℃の水の替わりに2%水酸化ナトリウム水溶液123gを添加したこと以外は実施例2と同様の条件により行った。
【0066】
得られた芳香族ホスフェートの外観は淡黄色粉末(APHA:110)であり、この芳香族ホスフェート中のホスホロクロリデートの含有量は0.5重量%であった。
【0067】
【発明の効果】
本発明は、反応粗生成物に少量の弱アルカリ化合物と水とを存在させて加熱処理するという極めて簡単な方法により、ホスホロハリデートを除去することを特徴とする。
【0068】
本発明によれば、芳香族ホスフェートの分解や着色などの品質劣化なしで、芳香族ホスフェートの品質に対しても悪影響を及ぼすことなくほぼ完全にホスホロハリデートを分解除去することが可能になる。
【0069】
本発明の方法により得られる芳香族ホスフェート化合物は実質的にホスホロハリデートを含有しておらず、難燃剤として樹脂へ添加して高温で成形を行った際にも有毒で腐食性のガスが発生することはなく、よって成形機や混練機などの金属部分に対する腐食の心配はなくなり、作業環境も良好に維持することが可能となる。また、本発明の方法により得られる芳香族ホスフェートは耐熱性にも優れるため、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などの高温での成形が必要な樹脂に添加して、高温成形を行った場合にでも、良好な外観を与えることができる。
Claims (6)
- 芳香族ホスフェートの製造方法であって、
オキシハロゲン化リンと一種類以上の芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させて、芳香族ホスフェートおよびホスホロハリデートを含む粗生成物を得る工程、ならびに
該粗生成物中の芳香族ホスフェートの重量とホスホロハリデートの重量とを合わせた重量に対して0.01〜8.0重量%の弱アルカリ化合物および該弱アルカリ化合物に対して0.1〜5重量倍の水の存在下で加熱処理する工程
を包含する、芳香族ホスフェートの製造方法。 - 前記芳香族ヒドロキシ化合物が2,6−ジアルキルフェノールである、請求項1に記載の芳香族ホスフェートの製造方法。
- 前記芳香族ホスフェートが、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェートである、請求項3に記載の芳香族ホスフェートの製造方法。
- 前記弱アルカリ化合物が炭酸ナトリウムおよび/または炭酸カリウムである、請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ホスフェートの製造方法。
- 不純物としてホスホロハリデートを含む芳香族ホスフェートの精製方法であって、
芳香族ホスフェートおよびホスホロハリデートを含む混合物を、該混合物中の芳香族ホスフェートの重量とホスホロハリデートの重量とを合わせた重量に対して0.01〜8.0重量%の弱アルカリ化合物および該弱アルカリ化合物に対して0.1〜5重量倍の水の存在下で加熱処理する工程を包含する、芳香族ホスフェートの精製方法。
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