JP4082053B2 - 積層圧電体の分極方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は圧電受話器,圧電サウンダ,圧電スピーカ,圧電ブザーなどの圧電型電気音響変換器に用いられる積層圧電体の分極方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、圧電受話器や圧電ブザーなどの圧電型電気音響変換器は、円形の圧電セラミック板の片面に円形の金属板を貼り付けたユニモルフ型振動板を用い、この振動板の周縁部を円形のケースの中に支持し、ケースの開口部をカバーで閉鎖した構造のものが一般的である。しかしながら、ユニモルフ型振動板の場合、電圧印加によって外径が伸縮するセラミック板を、寸法変化しない金属板に接着して屈曲振動を得るものであるから、その変位量つまり音圧が小さいという欠点がある。
【0003】
これに対し、複数の圧電セラミックス層からなる積層構造のバイモルフ型振動板が提案されている(特開2001−95094号公報,特開2002−10393号公報)。この振動板は、2層以上の圧電セラミックス層を内部電極を間にして積層するとともに、その表裏主面に外部電極を設けた積層圧電体であって、少なくとも外側の2層の圧電セラミックス層を厚み方向にかつ同一方向に分極したものである。上記外部電極と内部電極との間に交番信号を印加することで、積層圧電体を全体として屈曲振動させることができる。この場合には、厚み方向に順に配置された第1および第2の振動領域を相互に逆方向に振動させることで、ユニモルフ型に比べて大きな変位量つまり大きな音圧を得ることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
図8に一般的な積層圧電体20の分極方法を示す。
積層圧電体20の表裏の外部電極21,22間に直流電圧Eを印加することにより、積層圧電体20の厚み方向において同一方向に分極している。分極時に発生する積層圧電体20の変形(反り)は、積層圧電体20を導電体よりなる加圧治具30,31の間で加圧することにより抑制している。
【0005】
しかし、上記のような分極方法では、音圧向上のために圧電体20を薄板化した場合に、圧電体20の変形が厚みの減少に反比例して助長され、20mm×30mm×0.04mmの大きさの圧電体1の場合、図9のように反りは数mmにも達する。また、加圧治具30,31によって加圧分極を行った場合でも、分極後の圧電体20に大きな変形が残留している。さらに、分極中に異常に大きな変形が生じるにも拘わらず、加圧治具30,31により強制的に変形を押さえ込んでいるため、圧電体20に非常に大きな負荷がかかり、割れや欠けを生じてしまうという問題を有している。特に、圧電体20の厚みが50μm以下に薄板化すると、割れ・欠け不良率は極端に高くなる結果となっていた。
【0006】
そこで、本発明の目的は、分極後に残留する積層圧電体の変形を少なくするとともに、割れや欠けの発生を少なくできる積層圧電体の分極方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、2層以上の圧電セラミックス層を内部電極を間にして積層するとともに、その表裏主面に外部電極を設けた積層圧電体であって、少なくとも外側の2層の圧電セラミックス層を厚み方向にかつ同一方向に分極する分極方法において、上記内部電極がグランド電位、一方の外部電極がプラス電位、他方の外部電極がマイナス電位となるように、上記一方の外部電極と内部電極との間に第1の直流電界を印加すると同時に、上記内部電極と他方の外部電極との間に第2の直流電界を印加することを特徴とする積層圧電体の分極方法を提供する。
【0009】
本発明の分極方法では、表裏の外部電極間に直流電界を印加するのではなく、各圧電セラミックス層に個別の電界を印加して分極している。例えば2層の圧電セラミックス層を持つ積層圧電体の場合、内部電極の影響により各層の絶縁抵抗にバラツキが発生し、特に薄層なセラミックス層を用いた場合、各層のばらつきが顕著となる。そのため、従来のように表裏の外部電極間に直流電界を印加すると、一方の層に偏った電圧が印加され、反りの原因となる。
本発明では、それぞれの層に個別に電界を印加するので、各層の絶縁抵抗にばらつきがあっても、各層に印加される電圧がほぼ等しくなる。しかも2つの層を同時に分極するので、2つの層のバランスを取ることができる。そのため、残留変形を少なくできるだけでなく、分極途中の変形も抑制できる。
【0010】
積層圧電体の厚さを50μm以下とした場合に、本発明の効果が顕著となる。
厚みが50μmより厚い場合には、内部電極による各層の絶縁抵抗のばらつきは比較的小さいが、50μm以下の厚みの積層圧電体の場合には、各層の絶縁抵抗のばらつきが非常に大きくなり、例えば数十倍程度になる。そのため、このような薄層の積層圧電体を分極した時の変形が非常に大きくなるからである。
【0011】
直流電界の印加を、積層圧電体の両主面を対向方向に加圧しながら行うのが望ましい。
積層圧電体を加圧せずに分極することも可能であるが、加圧した場合には、残留変形量を無加圧に比べて数分の1に低減させることができる。また、本発明では分極途中の変形も小さいので、加圧による圧電体の割れや欠けを少なくすることができる。
【0012】
本発明の積層圧電体は、2層構造に限るものではなく、3層以上であってもよい。例えば3層構造の場合には、内部電極に挟まれた中間層は分極されないダミー層となる。3層構造の場合、中間層の厚みを外側の2層に比べて厚くしてもよい。この場合には、外側の2層を薄くできるので、同一電圧でもより大きな変位量が得られ、より大きな音圧を得ることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1は本発明にかかる積層圧電体の一例を示す。本実施例の積層圧電体1は、屈曲振動を利用した圧電型電気音響変換器の振動板として用いられるものである。積層圧電体1は、PZT系の2層の圧電セラミックス層2,3を積層したものであり、積層圧電体1の表裏主面には外部電極4,5が形成され、セラミックス層2,3の間には内部電極6が形成されている。2つのセラミックス層2,3は、図1に矢印Pで示すように厚み方向において同一方向に分極されている。積層圧電体1の端面には、外部電極4,5を接続する端面電極7と、内部電極6を外部に引き出すための端面電極8とが形成されている。
【0014】
上記構造の積層圧電体1において、外部電極4,5と内部電極6との間に交番電圧を印加すると、表側および裏側のセラミックス層2,3に働く電界方向が厚み方向において逆方向になる。一方、両セラミックス層2,3の分極方向は厚み方向において同一方向である。圧電セラミックスは、分極方向と電界方向とが同一方向であれば平面方向に縮む性質を有し、分極方向と電界方向とが逆方向であれば平面方向に伸びる性質を有する。したがって、上記のように交番電圧を印加すれば、一方のセラミックス層が伸びた時、他方のセラミックス層が縮み、全体として積層体1は周期的な屈曲振動を生じることになる。この変位量はユニモルフ型振動板に比べて大きくなるので、音圧も増大する。
【0015】
上記積層圧電体1は次のようにして製造される。
まず裏側セラミックス層3になる圧電セラミックスのグリーンシートを準備し、その片面に内部電極となる導電ペースト6を塗布した後、表側セラミックス層2になる圧電セラミックスのグリーンシートを積層した。なお、導電ペースト6の印刷パターンは、例えば図2の(a)のようにした。そして、この積層体を約1100℃で一体的に焼成し、縦×横×厚み=20mm×30mm×0.040mmの圧電体ユニット1Aを得た。焼成後、圧電体ユニット1Aの表裏面に、図2の(b)のように薄膜形成法により外部電極4,5を形成するとともに、端面に内部電極6を外部に引き出すための引出電極6a(図3参照)を形成した。
【0016】
次に、外部電極4,5と内部電極6の引出電極6aとを用いて、図3のように、圧電体ユニット1Aの層ごとに個別に直流電界E1,E2を印加し、分極処理を行った。具体的には、電源E1のプラス側を一方の外部電極4に、電源E2のマイナス側を他方の外部電極5に接続し、電源E1のマイナス側と電源E2のプラス側とを内部電極6に接続された引出電極6aと共にグランドに接続した。そして、加圧治具10,11を用いて圧電体ユニット1Aを全面加圧しながら分極した。
表側のセラミックス層2の分極条件は、図4のように最大電圧までの傾斜時間:60sec、電界:2.50kV/mm(50V/20μm)、保持時間×保持温度=30sec×50℃で一定とした。一方、裏側のセラミックス層3の分極条件は、最大電圧までの傾斜時間:60sec、電界:−2.5kV/mm(50V/20μm)、保持時間×保持温度=30sec×50℃で一定とした。また、加圧治具10,11は約15g/cm2 の荷重を付加した。
分極された圧電体ユニット1Aを素子に切り出した後、その端面に外部電極4,5同士を接続する端面電極7と内部電極6を外部に引き出すための端面電極8とを形成することで、図1に示す積層圧電体1を得た。
【0017】
一方、比較例として、次のような方法で積層圧電体を製造した。
まず、圧電セラミックスのグリーンシートを準備し、その片面に導電ペーストを図2の(a)と同様な印刷パターンで塗布した後、印刷していないグリーンシートを積層した。この積層体を約1100℃で一体的に焼成し、20mm×30mm×0.040mmの圧電体ユニットを得た。焼成後、圧電体ユニットの表裏面に薄膜形成法により外部電極4,5を形成した。
次に、外部電極4,5を用いて、図8と同様に、圧電体ユニット全体に直流電界Eを印加し、分極処理を行った。分極条件は、最大電圧までの傾斜時間:60sec、電界:2.50kV/mm(100V/40μm)、保持時間×保持温度=30sec×50℃で一定とした。また、加圧治具30,31の間に約15g/cm2 の荷重を付加し、加圧を行った。
分極された圧電体ユニットを素子に切り出した後、その端面に外部電極4,5同士を接続する端面電極7と内部電極6を外部に引き出すための端面電極8とを形成することで、図1と同様な積層圧電体1を得た。
【0018】
図5は分極後のユニットの残留そり量を測定したものである。
本発明では、0.08〜0.57mmの範囲で分布しており、平均そり量は0.26mmであった。一方、比較例では、0.15〜1.40mmの範囲で分布しており、平均そり量は0.63mmであった。
上記結果から明らかなように、本発明方法による分極後の残留そり量は、比較例に比べて約1/3に低減していることがわかる。
素子として完成品工程で不良を出さないためには、素子でのそり量を0.2mm以下、つまりユニットのそり量を0.60mm以下とする必要がある。本発明ではほぼ全量が良品となったが、比較例では約50%が不良となった。
【0019】
図5は圧電体ユニットの全面を加圧治具によって加圧した状態で分極を行い、その後の残留そり量を比較したものであるが、分極中における圧電体ユニットの変形量を求めるため、図6にほぼフリー状態でのユニットのそり量の変化を示す。図6は本発明方法と従来方法による比較例との分極中のそりの変化を示したものである。測定温度は50℃である。
本発明方法では、8gの分銅をユニットの中央部に配置し、電圧を2層個別に50Vまで60secの傾斜をつけて印加し、等間隔(8点)での最大そりを逐次測定した。そして、最大電圧50Vで30sec保持し、そりを測定した。その後、電圧を取り去り、残留そり量を測定した。
一方、従来方法でも同様に、8gの位置決め用分銅をユニットの中央部に配置し、電圧を2層同時に100Vまで60secの傾斜をつけて印加し、等間隔(8点)での最大そりを逐次測定した。そして、最大電圧100Vで30sec保持し、そりを測定した。その後、電圧を取り去り、残留そり量を測定した。
図6の横軸は、本発明では1層当たりの電圧であり、比較例では2層の合計電圧である。したがって、本発明における50Vは比較例の100Vに相当する。
【0020】
図6から明らかなように、本発明では10〜25Vで約2mmの最大そりを生じる。しかし、電圧をさらに増大させても、そりは増大しない。電圧を取り去った条件では、約0.5mmの残留そりがある。
一方、比較例の場合には、電圧を増大させるにつれてそり量も単純増大しており、100Vで約5mmの最大そりを生じる。また、各試料によってそり量のばらつきも大きい。電圧を取り去った条件では、約3mmの大きなそりが残留する。以上の結果から、本発明方法では、分極中における変形量も従来方法に比べて小さいことがわかる。そのため、分極中、加圧治具10,11により強制的に押さえ込んでも、圧電体ユニット1Aにかかる負荷が小さく、割れや欠けを少なくすることができる。
なお、全面加圧した場合には、加圧しない場合に比べて、残留そりを約半分に低減できた。
【0021】
上記実施例では、表側のセラミック層2に直流電界を印加する電源E1と、裏側のセラミック層3に直流電界を印加する電源E2とを同一電圧(50V)としたが、両方のセラミック層2,3の絶縁抵抗比率を予め測定しておき、その絶縁抵抗比率に応じて電源E1,E2の電圧比率を調整してもよい。この場合には、積層圧電体の変形量をさらに小さくすることができる。
【0022】
図7は本発明にかかる積層圧電体の分極方法の第2実施例を示す。
この実施例は、3層構造よりなる積層圧電体1’の分極方法を示すものである。セラミックス層2a,2b,2cの間には内部電極6b,6cが形成され、表裏主面には外部電極4,5が形成されている。
電源E1のプラス側を外部電極4に、電源E2のマイナス側を外部電極5に接続し、電源E1のマイナス側と電源E2のプラス側とを、内部電極6b,6cに接続された引出電極6aと共にグランドに接続すると、外側の2つのセラミックス層2a,2cは、矢印Pで示すように厚み方向において同一方向に分極される。なお、内部電極6b,6cに挟まれた中間層2bは分極されないダミー層となる。
【0023】
3層構造の場合、圧電体1’としての強度上必要な厚みを確保しながら、外側の2層2a,2cを2層構造の場合に比べて薄くできるので、同一電圧を印加した場合でも、圧電体1’の大きな変位量が得られ、より大きな音圧を得ることができる。
なお、3層のうち、中間層2bの厚みを外側の2層2a,2bと同一厚みとしてもよいし、厚くしてもよい。厚くした場合には、外側の2層2a,2bの厚みをさらに薄くできる。
【0024】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
上記実施例では、圧電セラミック層が2層または3層の構造の例について説明したが、4層以上であってもよい。ただし、分極時、内部電極は全てグランドに接続されるので、外側の2層以外はすべて分極されないダミー層となる。
上記実施例では、積層圧電体の端面に内部電極と導通する端面電極を形成し、この端面電極を介して外部へ引き出すようにしたが、これに限るものではない。すなわち、特開昭61−205100号公報のようにスルーホールを介して内部電極を外部へ引き出してもよいし、スリット状の溝あるいは穴を介して外部へ引き出してもよい。
上記実施例の積層圧電体の製造方法は、セラミックグリーンシートを電極膜を介して積層し、この積層体を同時焼成して焼結積層体を得た後、この焼結積層体を分極処理するものであるが、この方法に代えて、予め焼成した2枚以上の圧電セラミックス板を積層接着した後、分極処理してもよい。ただし、積層後に焼成する前者の製造方法は、予め焼成したものを積層する後者の方法に比べて、圧電体の厚みを格段に薄くでき、音圧を大きくできるので、音響変換効率に優れた振動板を得ることが可能である。
本発明の積層圧電体は、圧電セラミックス層のみで構成されたものに限らず、圧電体の片面または両面に樹脂フィルムなどの補強シートを貼り付けてもよい。但し、この補強シートはユニモルフ型振動板の金属板とは異なり、積層体の割れなどを防止するためのものであり、積層体の屈曲振動を阻害しないものが望ましい。
【0025】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、請求項1に係る発明によれば、2層以上の圧電セラミックス層を内部電極を間にして積層するとともに、その表裏主面に外部電極を設けた積層圧電体に対し、内部電極がグランド電位、一方の外部電極がプラス電位、他方の外部電極がマイナス電位となるように、一方の外部電極と内部電極との間に第1の直流電界を印加すると同時に、内部電極と他方の外部電極との間に第2の直流電界を印加することで、外側の2層の圧電セラミックス層を厚み方向にかつ同一方向に分極するものであるから、従来のような外部電極間に電界を印加する方法に比べて、分極後に残留する積層圧電体の変形を小さくすることができ、良質の積層圧電体を得ることができる。
また、本発明ではそれぞれの層に個別に電界を印加するので、分極途中の変形も抑制でき、加圧による圧電体の割れや欠けを少なくすることができる。そのため、残留変形量を無加圧に比べて数分の1に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる積層圧電体の第1実施例の断面図である。
【図2】内部電極および外部電極のパターン図である。
【図3】図1に示す積層圧電体の分極方法を示す図である。
【図4】分極時における電圧印加プロファイル図である。
【図5】本発明と比較従来例との分極後の残留そり量の分布図である。
【図6】本発明と比較従来例との無加圧分極時における電圧−そり量の変化図である。
【図7】本発明にかかる積層圧電体の第2実施例の分極方法を示す図である。
【図8】従来の積層圧電体の分極方法を示す図である。
【図9】従来の積層圧電体の残留そりを示す図である。
【符号の説明】
1A 圧電体ユニット
1,1’ 積層圧電体
2,3,2a〜2c セラミックス層
4,5 外部電極
6,6b,6c 内部電極
E1,E2 直流電源
10,11 加圧治具
Claims (2)
- 2層以上の圧電セラミックス層を内部電極を間にして積層するとともに、その表裏主面に外部電極を設けた積層圧電体であって、少なくとも外側の2層の圧電セラミックス層を厚み方向にかつ同一方向に分極する分極方法において、
上記内部電極がグランド電位、一方の外部電極がプラス電位、他方の外部電極がマイナス電位となるように、上記一方の外部電極と内部電極との間に第1の直流電界を印加すると同時に、上記内部電極と他方の外部電極との間に第2の直流電界を印加することを特徴とする積層圧電体の分極方法。 - 上記積層圧電体は、グリーンシート状態の2層以上の圧電セラミックス層を内部電極を間にして積層し、焼成した後、その表裏主面に外部電極を設けたものであることを特徴とする請求項1に記載の積層圧電体の分極方法。
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