JP4080788B2 - 空気入りタイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、乗り心地性能を維持しつつ操縦安定性を向上させることができる空気入りタイヤに関するものである。
【0002】
【従来技術】
近年、自動車の装備や性能の著しい充実に加え、道路網が拡充発展したことで、タイヤについても常に安定した操縦性能が要求され、これに加えて、乗り心地についても高い性能が要求されてきている。乗用車用タイヤにおいて、その操縦性能を高くするにはタイヤの前後剛性及び横剛性を高くすればよく、この方策としては、例えば、高硬度サイドウオールを用いるか、あるいはゴム容積を増大すればよいことが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、高硬度サイドウオールを用いると、前後剛性及び横剛性の増加に伴い操縦安定性は向上するものの、同時に縦剛性も増加し、要求される乗り心地性能を維持することができないという二律背反する現象が生じることになり、タイヤに要求される性能を満足することができない。
【0004】
また、サイドウオールゴムの増量は、タイヤ重量が増加することになり、車両のばね下重量の増加により、車両バランスが悪くなったり、低燃費化の妨げの原因になる。
【0005】
本発明は、上記に鑑み、タイヤ重量の増加を伴うことなく、乗り心地性能を維持しつつ操縦安定性を向上させ得る空気入りタイヤの提供を目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明者らはFEM(有限要素法)解析の結果、横剛性についてはサイドウオールゴムの下層の感度が高く、また前後剛性については上層の感度が高いとの知見が得られた。さらに、内外2層構造のサイドウオールの場合、横剛性についてはサイドウオールゴムの外側下層と内側層全般の感度が高く、前後剛性については、外側上層と内側層全般の感度が高いとの知見が得られた。
【0007】
この知見に基づいて、本発明者らは、サイドウオールゴムを上中下の3層に分割して、上下層のゴム硬度を中層のそれよりも高く設定するか、又はサイドウオールゴムが内外2層の場合には、外側ゴム層を上中下の3層に分割し、夫々のゴム硬度を外側ゴム層の上層及び下層>内側ゴム層>外側ゴム層の中層の順に設定すれば、縦剛性を上げることなく、乗り心地を維持し、前後剛性及び横剛性を上げて操縦安定性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、リム組される一対のビード部と、路面と接するトレッド部と、該トレッド部とビード部とを繋ぐサイド部とから構成された空気入りラジアルタイヤにおいて、前記サイド部を構成するサイドウオールゴムがトレッド部側からビード部側にかけて上層、中層及び下層の3分割構造に形成され、上層及び下層のゴム硬度が中層のそれよりも高く設定されたことを特徴とする空気入りタイヤを提供しようとするものである。具体的には、JISA硬度で上層、下層(65〜75度)>中層(50〜65度)が例示できる。
【0009】
また、本発明は、リム組される一対のビード部と、路面と接するトレッド部と、該トレッド部とビード部とを繋ぐサイド部とから構成された空気入りラジアルタイヤにおいて、前記サイド部を構成するサイドウオールゴムがタイヤ軸方向で内側ゴム層と外側ゴム層との複層構造に形成され、前記外側ゴム層がトレッド部側からビード部側にかけて上層、中層及び下層の3分割構造に形成され、夫々のゴム硬度が外側ゴム層の上層及び下層>内側ゴム層>外側ゴム層の中層の順に設定されたことを特徴とする空気入りタイヤも提供することができる。具体的には、JISA硬度で、外側上層、外側下層(65〜75度)>内層(60〜70度)>外側中層(50〜65度)が例示できる。
【0010】
なお、FEM解析によると、上層、中層及び下層の分割位置は、サイドウオールゴムのトレッド部側端部からビード部側端部までの外面長さを100として上層の範囲が15〜50内に、中層の範囲が35〜85に設定されるのが好ましい。上層の範囲が15よりも小さいと前後剛性の増大効果代がなく、また、50を超えると、縦剛性がアップする。また、中層の範囲が35よりも小さいと前後剛性の増大効果代が少なく、また、85を超えると、横剛性の増大効果代が少ない結果となった。
【0011】
また、複層構造のサイドウオールにおける各層のゴム厚みは、内側ゴム層と外側ゴム層との分割位置が、中層と上下層との境界位置に引いた垂線の距離(厚み)を100とした場合、夫々の位置における内層分割位置が20〜80に設定されるのが好ましい。内層分割位置が「20」よりも小さいと、内側ゴム層の剛性アップ効果代が少なく、また、「80」を超えると、外側ゴム層を3層に分割した効果代が少なくなる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る空気入りタイヤの実施形態を示し、正規リムにリム組みして正規空気圧を充填したときのタイヤ幅方向断面図を示している。タイヤ断面形状は左右対称であるので、右半分のみを示す。
【0013】
図において、1は空気入りタイヤ、2はカーカス、3はビードコア、4はビードフィラー、5はトレッド、6はサイドウオール、7はリムストリップ、8はインナライナー、9はチェーファ、10はベルト層である。
【0014】
本実施形態における空気入りタイヤ1は、空気圧を満たしたタイヤをリムに固定する役目を果たす左右一対のビード部12と、タイヤが路面と接するトレッド部13と、トレッド部13とビード部12との間のサイド部14とから断面略円弧形状に形成されてなる。
【0015】
空気入りタイヤ1の主要な構成要素は、左右一対のビード部12を構成するビードコア3と、トレッド部13から両サイド部14を経て両ビード部12に延び、ビードコア3にタイヤの内側から外側に巻上げられビード部に係留して大きな内圧を保持する略円弧形状のカーカス2と、トレッド部13においてカーカス2の半径方向外側に配置され、使用中のタイヤの寸法成長を抑えるベルト層10と、ベルト層10の半径方向外側に配置され路面に接触して直接力を伝達するゴム層からなるトレッド5と、サイド部14においてカーカス2のタイヤ軸方向外側に配置され、走行中、外傷を受けやすいサイド部14を保護するゴム層からなるサイドウオール6とが挙げられる。
【0016】
カーカス2は、少なくとも1プライのカーカスプライから構成される。カーカスプライは、熱収縮性有機繊維、例えばナイロン、ポリエステル等の繊維を複数本撚り合わせた構造のコードを簾織りし、これをゴムコーティングして形成されたもので、コード方向がラジアル方向になっている。カーカス2のタイヤ内側にはタイヤ内圧をチューブに代わって保持するためのインナライナー8がビード部12まで張付けられている。
【0017】
ビード部12では、複数本の金属芯線をゴムで被覆してなるビードコア3と、ビードコア3からサイドウオール側に延びる硬質ゴムからなる断面略三角形のビードフィラー4とが設けられており、これらの周囲にカーカスプライがタイヤ内側から外側に折り返して巻回されている。カーカス2の折り返し部の外側はゴムチェーファ9によって覆われ、ビード部12を補強するようになっている。チェーファ9のタイヤ軸方向内側はインナライナー8で覆われ、またタイヤ軸方向外側にはリムストリップ7が接合している。
【0018】
サイド部においては、サイドウオールゴム6が内側のゴム層15と外側のゴム層16の2層ゴム構造に形成され、内側ゴム層15がカーカスプライに接合されている。外側ゴム層16は、トレッド部側からビード部側にかけて上層16a、中層16b及び下層16cの3分割構造に形成され、夫々のゴム硬度が上層16a及び下層16c>内側ゴム層15>外側ゴム層の中層16bの順に設定されている。具体的には、JISA硬度で、外側上層、外側下層が65〜75度に、また、内層が60〜70度に、外側中層が50〜65度に設定されている。
【0019】
外側ゴム層16の上中下の分割位置は、サイドウオールゴムの外面側におけるトレッド部側端部Aからビード部側端部Dまでの外面長さを100とすれば、上層16aと中層16bとの境界点Bが15〜50に、中層16bと下層16cとの境界点Cが35〜85に設定されるのが好適である。
【0020】
内外層のゴム厚み比は、中層16bと上下層16a、16cとの境界点B,Cに引いた垂線の距離(ゴム厚み)を100として、夫々の位置B,Cにおいて内層分割点が20〜80に設定されるのが好適である。
【0021】
トレッド部13においては、カーカス2の半径方向外側に2層のベルト層10が配置されている。さらにその半径方向外側にはトレッドゴム5が配置されている。ベルト層10は、2枚のベルトプライから構成され、各ベルトプライは、タイヤ周方向に対して傾斜した多数本のコードが埋設されると共にこれらが隣接するベルトプライにおいて互いに交差した態様となっている。
【0022】
上記構成によると、サイドウオール6を内側ゴム層15と外側ゴム層16の2層構造とし、さらに、外側ゴム層16は、上中下の3分割層構造とし、夫々のゴム硬度が上層16a及び下層16c>内側ゴム層15>外側ゴム層の中層16bの順に設定しているので、中層16bの介在により縦剛性を大幅に増加させることなく、前後剛性及び横剛性を高くすることができる。従って、縦剛性を抑え、前後剛性及び横剛性を増加させて乗り心地性能を悪化させることなく、操縦安定性を向上させることができる。
【0023】
図2は参考の形態を示す空気入りタイヤのタイヤ幅方向断面図である。図2に示すように、本形態では、サイドウオールが上記実施形態のような内外2層構造のものではなく、内外1層(単層)で、かつ上下にほぼ等分に3分割した構造のものである。
【0024】
この参考の形態に係る空気入りタイヤにおいても、乗り心地性能を悪化させることなく、操縦安定性を向上させることができる。なお、本形態は、サイドウオールが単層構造である以外は、上記実施形態と同様な構成であるため、図1と同様な構成要素については同一符合を付して、その説明を省略する。
【0025】
【実施例】
本発明者らは、本発明に係る空気入りタイヤについて下記の条件で剛性試験、操縦安定性試験、及び乗り心地性能試験を行った。テストタイヤは、いずれも175/65R14のタイヤを用い、従来例1、実施例1、実施例2、参考例、比較例についてテストを行った。
【0026】
従来例はサイドウオールゴムが単層のタイヤである。実施例1は本発明に係るサイドウオールが内外2層構造で、外側ゴム層が上下に3分割した構造のタイヤである。実施例2も同様な構造のタイヤである。但し、実施例1では、上中下のゴム層の分割点Bが33、Cが67の構造、つまり上中下の各層を3等分に分割した構造のタイヤである。また、実施例2は、上中下のゴム層の分割点Bが42、Cが58の構造、つまり上中下の各層を割合がほぼ2:1:2に分割した構造のタイヤである。参考例は、サイドウオールが内外2層に分割せず、上中下のみ3分割した構造で、その分割比率は実施例1に合わせて3等分したタイヤである。比較例はサイドウオールを内外2層に分割せず、上下に2分割した構造で、その分割比率は1:1のタイヤである。また、各例とのサイドウオールゴムの総厚みを一定として、内外2層構造の分割比率は、内層:外層=1:1に設定したものを使用した。
【0027】
テスト条件は以下のとおりである。
縦剛性:圧縮試験機により、垂直方向に基準負荷に対して所定の負荷を増減させたときのタイヤの撓みを測定し、増減させた負荷量を撓み量で除して算出する。
前後剛性:基準負荷をかけたタイヤに対して、基準負荷の30%に相当する前後方向の力を作用させて前後撓みを測定し、前後方向の力を前後撓み量で除して算出する。
横剛性:基準負荷をかけたタイヤに対して、基準負荷の30%に相当する横方向の力を作用させて横撓みを測定し、横方向の力を前後撓み量で除して算出する。
【0028】
操縦安定性能:2名のドライバーによる直進、レーンチェンジ、ハンドリング走行でのフィーリング試験を実施した。評価は10点満点法で行い、2名のドライバーの平均値を従来例のタイヤを100としたときの指数評価で表わした。その数値が大きいほど操縦安定性が良いことを示す。
乗り心地:2名のドライバーによる良路、悪路、ハーシュネスでのフィーリング試験を実施した。評価は10点満点法で行い、2名のドライバーの平均値を従来例のタイヤを100としたときの指数評価で表わした。その数値が小さいほど乗り心地が悪いことを示す。
【0029】
以上のような条件の下で行ったテスト結果を表1に示す。
【表1】
【0030】
表1に示すように、従来例は、サイドウオールゴムが単層で、そのJISA硬度が65のもので、前後剛性233(N/mm)、縦剛性187(N/mm),横剛性98(N/mm)の結果が得られた。この従来例をコントロールとして、操縦安定性能と乗り心地性能を評価した。
【0031】
この評価テストによると、表1に示すように、実施例1は、サイドウオールゴムを内外2層とし、外側ゴム層を上下にほぼ等分に3分割し、夫々のJISA硬度を、外側上層(70),外側下層(70)>内層(65)>外側中層(56)に設定したものであるが、縦剛性が190(N/mm)と従来例(187N/mm)とほぼ変わらない値であるのに対し、前後剛性が256(N/mm)、横剛性が111(N/mm)と従来例に比べて増加している。従って、乗り心地性能は従来例と同じ性能を維持しつつ、操縦安定性が120と良好な結果が得られた。
【0032】
実施例2は、外側の上層:中層:下層の範囲をほぼ2:1:2の割合で設定した以外、実施例1と同様な構造であるが、縦剛性が195(N/mm)と従来例(187N/mm)よりもわずかに増加しているのに対し、前後剛性が258(N/mm)、横剛性が115(N/mm)と従来例及び実施例1に比べて増加している。従って、乗り心地性能は「95」と従来例よりもわずかに劣っているが、ほぼ同じ性能を維持していると考えられ、操縦安定性は125と従来例に比べて向上している。
【0033】
参考例は、実施例1,2のように内外2層構造を採用せず、上中下の各層をほぼ3等分に分割した構造で、夫々のJISA硬度を、上層(70),下層(70)>中層(56)に設定したものであるが、縦剛性が190(N/mm)と従来例(187N/mm)よりもわずかに増加しているのに対し、前後剛性が258(N/mm)、横剛性が114(N/mm)と増加している。従って、従来例と同様な乗り心地性能を維持しつつ、操縦安定性は125と従来例に比べて良好な結果が得られた。
【0034】
比較例は、サイドウオールが単層で、上下2分割(上層硬度がJISAで62、下層硬度が58)とした本発明の範囲外のタイヤである。この比較例では、前後剛性が258N/mm、縦剛性が195N/mm、横剛性が100N/mmであり、性能評価では、操縦安定性能が「125」と高かったが、乗り心地性能が「80」と従来例よりも劣っていた。
【0035】
以上のテスト結果から、サイドウオールゴムを上中下の3分割構造で、そのゴム硬度を上層、下層(65〜75度)>中層(50〜60度)にするか、内外2層構造で、外側を上中下の3分割構造とし、ゴム硬度を外側上層及び下層(65〜75度)>内側ゴム層(60〜70度)>外側中層(50〜60度)の順に設定した空気入りタイヤが、従来例に対して乗り心地性能を維持しつつ、操縦安定性能を向上させ得ることが判明した。
【0036】
なお、上記実施形態では、サイドウオールがベルト端の下側に入り込むTOS構造の空気入りタイヤについて説明したが、これに限らず、サイドウオールがトレッドゴムの上側にのるSWOT構造についても本発明を適用することができるのは勿論である。
【0037】
【発明の効果】
以上の説明から明らかな通り、本発明によると、サイドウオールゴムを内外2層で、外側を上中下の3分割構造とし、ゴム硬度を外側上層及び下層>内側ゴム層>外側中層の順に設定したので、従来例に対して乗り心地性能を維持しつつ、操縦安定性能を向上させ得る空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る空気入りタイヤの実施形態であるタイヤ幅方向断面図である。
【図2】 参考の形態を示すタイヤ幅方向断面図である。
【符号の説明】
1 空気入りタイヤ
2 カーカス
3 ビードコア
4 ビードフィラー
5 トレッド
6 サイドウオール
7 リムストリップ
8 インナライナー
9 チェーファ
10 ベルト層
15 内側ゴム層
16 外側ゴム層
16a 上層
16b 中層
16c 下層
Claims (2)
- リム組される一対のビード部と、路面と接するトレッド部と、該トレッド部とビード部とを繋ぐサイド部とから構成された空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記サイド部を構成するサイドウオールゴムがタイヤ軸方向で内側ゴム層と外側ゴム層との複層構造に形成され、前記外側ゴム層がトレッド部側からビード部側にかけて上層、中層及び下層の3分割構造に形成され、夫々のゴム硬度が外側ゴム層の上層及び下層>内側ゴム層>外側ゴム層の中層の順に設定されたことを特徴とする空気入りタイヤ。 - 前記上層、中層及び下層の分割位置は、サイドウオールゴムのトレッド部側端部からビード部側端部までの外面長さを100として上層の範囲が15〜50内に、中層の範囲が35〜85に設定されたことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
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