JP4080554B2 - テトラフルオロエチレンの乳化重合方法 - Google Patents

テトラフルオロエチレンの乳化重合方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はテトラフルオロエチレンの乳化重合用パラフィンワックス、それを用いたテトラフルオロエチレンの乳化重合方法およびその不規則な重合を防止する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
テトラフルオロエチレン(以下、TFEということもある)の乳化重合によりポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということもある)を得るには、一般に、TFEを乳化剤および分散安定剤の存在下に、水中で乳化重合することによって製造される。分散安定剤としては、例えばパラフィンワックスが用いられる。一般に市販されているパラフィンワックスを乳化重合に用いた場合に、種々の問題が生じることがあった。例えば、重合に要する時間が長くなったり、重合をしなかったりする。また、乳化重合によって得られたPTFEは、粒子径など所定規格の物性値が得られ難く、そのため、例えば成形する時に、ペースト押出における押出圧が目的とする規格から外れ、商品価値を失することがあった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、一定の重合時間と、目的とする規格の物性値のPTFEを与える乳化重合用パラフィンワックス、それを用いたTFEの乳化重合方法およびその不規則な重合を防止する方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
TFEの乳化重合にあって、本発明者らは、パラフィンワックスに含まれる還元性物質の影響で所定量のPTFEが得られるのに要する時間にバラツキがみられ、還元性物質の量が多くなるほど、重合時間が長くなること、所定物性値のPTFEが得られ難くなることなどに着目し、種々検討の結果、本発明を完成したものである。
本発明は還元性物質の含有量が100ppm以下であるテトラフルオロエチレンの乳化重合用パラフィンワックスを提供する。
さらに、本発明は、テトラフルオロエチレンを重合開始剤、パラフィンワックスおよび乳化剤の存在下に乳化重合するに際し、前記のワックスを用いるテトラフルオロエチレンの乳化重合方法を提供する。
加えて、本発明は、テトラフルオロエチレンを重合開始剤、パラフィンワックスおよび乳化剤の存在下に乳化重合するに際し、パラフィンワックスから由来する還元性物質の量が当該重合系内において重合開始剤に対して60モル%以下になるように維持することを特徴とするテトラフルオロエチレンの乳化重合方法を提供する。
さらに加えて、本発明は、前記の乳化重合方法により不規則な重合を防止する方法をも提供する。
【0005】
本発明の乳化重合用パラフィンワックスには、パラフィンおよびパラフィンの安定化のための還元性物質を含んで成る。
パラフィンは、具体的には、炭素数15以上、炭素数45以下の飽和炭化水素の混合物であって、融点が通常10℃〜65℃の範囲にあるものである。
【0006】
還元性物質は、パラフィンの安定剤として機能する。還元性物質は、通常、不飽和結合を有する化合物であってよい。還元性物質は、例えば、ヒドロキシベンゼン系化合物、アミン系化合物などあって、より具体的には、ヒドロキシベンゼン系化合物としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、ヒドロキノン、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(3−メチル6−t−ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、n−オクタデシル−3−(4'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−t−ブチル−フェニル)プロピオネート、2,4−ビス−オクチル−チオ−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ−1,3,5−トリアジン)、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、アミン系化合物としては、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンおよびビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セパゲイトである。
本発明において、パラフィンワックス中に存在する還元性物質の定量は、KMnO4を用いる退色法によって行える。
還元性物質がBHTおよびヒドロキノンのようなベンゼン核を有する場合には、パラフィンワックス中に存在する還元性物質はUV(紫外線)吸収スペクトルによって定量することもできる。
両定量法とも、測定結果はよく一致する。
【0007】
本発明にあって、パラフィンワックスはTFEの乳化重合において分散安定剤として使用される。この乳化重合において、パラフィンワックスから由来する還元性物質の量が重合系内において重合開始剤に対して60モル%以下(例えば、5〜60モル%)、好ましくは50モル%以下、特に30モル%以下になるように維持する。
【0008】
TFEの乳化重合の方法の一例は次のとおりである。
乳化重合はオートクレーブに脱イオン水を仕込み、水溶性含フッ素分散剤およびパラフィンワックスを加え、65〜95℃に加温しながらN2ガスおよびTFEガスで系内を置換して酸素を除いた後、TFEガスで所定の内圧6〜20kg/cm2Gに加圧して攪拌を行なう。
【0009】
次に重合開始剤オートクレーブに導入し反応を開始させる。反応は加速的に進行するがオートクレーブ内の内圧は常に所定の圧力に保つようにTFEを連続的に供給する。要すれば重合開始剤を追加する。反応で消費されたTFEが所定量に達した時に攪拌およびモノマー供給を停止し、直ちにオートクレーブ内のガスを常圧まで放出し重合を終了させる。
【0010】
ここで、本発明において、TFEはTFE自体のほかにPTFEの変性用モノマーをも意味し、PTFEはPTFE自体のほかに上記PTFEの変性用モノマーで変性された変性PTFEをも意味する。
PTFEの変性用モノマーとしては、X(CF2)nOCF=CF2(式中、Xは水素、フッ素または塩素を、nは1〜6の整数を表す)またはC37(OCF2CF2CF2)m(OCF(CF3)CF2)lOCF=CF2(式中、mおよびlは0〜4の整数を表す。ただし、これらが同時に0となることはない。)で示されるフルオロアルキルビニルエーテル、CF3−CF=CF2、CF2=CFH、CF2=CFCl、CF2=CH2、RfCY=CH2(式中、Rfは直鎖状または分枝状の炭素数3〜21のポリフルオロアルキル基、Yは、水素原子またはフッ素原子である。)など、TFE以外の含フッ素不飽和モノマーが挙げられ、通常これらはTFEに対して30重量%以下の量で加えられる。
【0011】
重合開始剤は過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ジサクシニックアシドパーオキシド、ジグルタリックアシドパーオキシド等の水溶性有機過酸化物またはこれらの混合物が使用される。使用量は過硫酸塩の場合、水性媒体に対して2〜300ppm、好ましくは2〜200ppmである。ジサクシニックアシドパーオキシドの場合、水性媒体に対し20〜1000ppm、好ましくは40〜300ppmである。上記過酸化物に亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム等の還元剤を加えてレドックス系にすることもできる。
【0012】
水溶性含フッ素分散剤としては、例えば、一般式、
X(CF2)aCOOH
(式中、XはH、FまたはCl原子、aは6〜12の整数)、
Cl(CF2CFCl)bCF2COOH
(式中、bは2〜6の整数)、
(CF3)2CF(CF2CF2)cCOOH
(式中、cは2〜6の整数)、
F(CF2)dO(CF(Y)CF2O)eCF(Y)COOH
(式中、YはFまたはCF3、dは1〜5の整数、eは1〜5の整数)
などで表わされる化合物およびそれらのアンモニウム塩、またはアルカリ金属塩(たとえば、カリウム塩、ナトリウム塩)等を使用することができる。とくに一般式Cn2n-1COOXまたはC37O(CF(CF3)CF2O)mCF(CF3)COOX(式中、nは6〜9、mは1〜2の整数、Xはアンモニウム基またはアルカリ金属を表す)なる化合物を用いるのが好ましい。
【0013】
水溶性含フッ素分散剤の使用量は反応の際の水性媒体に対し、0.03〜0.3重量%、好ましくは0.05〜0.2重量%である。
【0014】
本発明において、パラフィンワックスは、実質的に反応に不活性な分散安定剤として機能する。パラフィンワックスの量は、水性媒体に対して、0.1〜10重量%、好ましくは、1〜10重量%である。
重合中のpHを調整するために緩衝剤として、例えば炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどを加えてもよい。
重合温度は10〜95℃の広範囲で選択可能である。しかし、重合開始剤である過硫酸塩や水溶性有機過酸化物を単独または混合して使用する場合、60〜90℃が適当である。開始剤が過硫酸塩と亜硫酸ソーダ、あるいはジサクシニックアシドパーオキシドと還元鉄のようなレドックス系の場合にはより低温域を選択することができる。
【0015】
重合は、ふつうTFE自体のガス加圧下に行われ、特に制限はないが、6〜40kg/cm2の範囲に保ちながら進行させる。通常、重合中は一定圧力に保たれる。
【0016】
重合の終了は、PTFE濃度が20〜45重量%になった時点でモノマーを系外に放出し、攪拌を停止することで行う。その後、PTFEの液状分散液(ポリマーラテックスまたは単にラテックスと呼ぶこともある)をオートクレーブから取り出し、次の工程、即ち凝析と乾燥工程に移す。
凝析は、通常このポリマーラテックスを水で10〜20重量%のポリマー濃度になるように希釈し、場合によってはpHを中性またはアルカリ性に調整した後、攪拌機付きの容器中で反応中の攪拌よりも激しく攪拌して行う。この時メタノール、アセトンなどの水溶性有機化合物、硝酸カリウム、炭酸アンモニウムなどの無機塩や塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸などを凝析剤として添加しながら攪拌を行ってもよい。
【0017】
乾燥は、通常凝析で得られた湿潤粉末をあまり流動させない状態、好ましくは静置の状態を保ち、真空、高周波、熱風などの手段を用いて行う。乾燥温度は10〜250℃、好ましくは100〜200℃である。
【0018】
本発明で得られるPTFEは上記凝析、乾燥を行って、通常、ファインパウダー(以下、粉末ということもある)として使用する以外に、ポリマー粒子が液状媒体中に分散したラテックスとして利用する用途にも適している。たとえば、重合後のPTFE水性分散液にノニオン界面活性剤を加えて安定化してさらに濃縮し、また場合によっては有機または無機の充填剤を加えて、塗料とする。該塗料を金属またはセラミックス表面に被覆すれば、光沢や平滑度、耐摩耗性にすぐれた表面が得られ、ロールや調理器具などへの塗装、ガラスクロス含浸加工などに適している。
【0019】
【実施例】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0020】
なお、本発明、または以下の実施例において、パラフィンワックス中のBHT濃度、およびPTFEの物性は次のようにして測定した。
パラフィンワックス中のBHT濃度
パラフィンワックス中のBHT濃度は、パラフィンをn−ヘキサンに溶解させ、その溶液について紫外分光光度計により波長240〜340nmにおける最大吸光度を測定し、ついで予め求めておいたBHT(n−ヘキサン溶液)の分子吸光係数から常法により換算し、決定する。
PTFEの平均一次粒径:
PTFEの平均一次粒径は、PTFE水性分散液の透過型電子顕微鏡写真(倍率:20000倍)からPTFE粒子の定方向径を測定し決定する。
【0021】
PTFEの数平均分子量(比重 ( . .) から計算):
本発明において数平均分子量(Mn)はPTFEの比重(S.G.)をまず測定し、その値から次式によって求める。
log10Mn=28.524−9.967×(0.9822×S.G.+0.04864)
PTFEのS.G.の求め方は次の方法によって行う。即ち、23〜25℃に調温した雰囲気中でPTFE試料粉末5gを断面が直径32mmの円形である金型中で200kg/cm2の圧力で圧縮し、PTFE試料の予備成形品を得、ついで、これを金型から取り出して380℃の空気炉に入れ、30分間焼成したのち、70℃/hrの冷却速度で300℃まで冷却し、炉より取り出して室温中で放冷し、PTFE試料成形品とする。S.G.はこの成形品の空気中の重さを分子とし、同体積の23℃の水の重さを分母として両者の比を求めた値である。
【0022】
実施例1
ステンレス製アンカー型攪拌翼と温度調節用ジャケットを備え、内容量が5Lのステンレス鋼(SUS316)製オートクレーブに、脱イオン水3L、m.p.56℃の固形パラフィンワックス120gおよびパーフルオロオクタン酸アンモニウム3gを仕込んだ。固形パラフィンワックスはBHTを20ppmの量で含有しており、重合系中のBHT含有量は1.1×10-5モルであった。70℃に加温しながら窒素ガスで3回、TFEガスで2回系内を置換して酸素を除いた後、TFEガスで内圧を7kg/cm2Gにして攪拌を250rpm、内温を70℃に保った。
【0023】
次に、5mlの水に17mg(7.7x10-5モル)の過硫酸アンモニウム(APS)を溶かした水溶液をTFEで圧入し、オートクレーブ内圧を8kg/cm2Gにした。反応は加速的に進行するが、反応温度は70℃、攪拌は、250rpmに保つようにした。TFEは、オートクレーブの内圧を常に8±0.5kg/cm2Gに保つように連続的に供給した。
反応は1.3kgのTFEモノマーが消費された時点で、攪拌およびモノマー供給を停止、直ちにオートクレーブ内のガスを常圧まで放出し、終了させた。重合には10時間が必要であった。
得られたPTFE水性分散液を凝析、洗浄の後、140℃で16時間乾燥した。乾燥後、取得された粉末は1.3kgであった。
PTFE水性分散液中のPTFEの平均一次粒径を求め、また、PTFE粉末のS.G.を求めて、数平均分子量を計算した。結果を表1に示す。
【0024】
実施例2〜3および比較例1
パラフィンワックス中に含まれるBHTの濃度を表1に示す値にする以外は、実施例1と同様の手順を繰り返した。1.3kgの粉末を得るためには、表1に示す時間が必要であった。実施例1と同様にして平均一次粒径および数平均分子量を求め、結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
Figure 0004080554
【0026】
表1から、BHTが高濃度(比較例1の場合)であると、次のような不都合があることがわかる。
1) TFEの重合時間が異常に長くなる。
2) PTFEの平均一次粒径、分子量が大きくなってしまう。したがって、これを凝析、乾燥し、PTFE粉末を得た際、目的とする規格の二次粒径にするのが難しく、例えばペースト押し出し成形時の押し出し圧が規格はずれになり、商品価値を失する結果となる。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、一定のTFE重合時間と、目的とする規格どおりの物性値のPTFEが得られる。

Claims (3)

  1. テトラフルオロエチレンを、重合開始剤、還元性物質の含有量が100ppm以下であるパラフィンワックスおよび乳化剤の存在下に、乳化重合することからなるテトラフルオロエチレンの乳化重合方法であって、前記還元性物質が2 , 6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT ) である乳化重合方法
  2. テトラフルオロエチレンを重合開始剤、パラフィンワックスおよび乳化剤の存在下に乳化重合するに際し、パラフィンワックスから由来する還元性物質の量が当該重合系内において重合開始剤に対して60モル%以下になるように維持することを特徴とするテトラフルオロエチレンの乳化重合方法であって、前記還元性物質が2 , 6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT ) である乳化重合方法
  3. 重合系内の前記還元性物質の量が重合開始剤に対して50〜5モル%である請求項2記載の乳化重合方法。
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