JP4080275B2 - 食品用防黴剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、比較的高分子量のシルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質を主成分として含有する食品用防黴剤に関し、特に、パン、麺、天ぷら粉等の食品に対して防黴性、日持ち向上、鮮度保持及び品質劣化防止から選ばれる少なくとも1種の機能を付与する目的で添加される食品用防黴剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
絹(シルク)は、フィブロイン及びセリシンを主成分とする蛋白質で構成され、その70%〜80%を占めるフィブロインは、古来から繊維として用いられている。
【0003】
最近、前記フィブロインは、繊維用途以外にも、蛋白質としての特性が注目され、医薬品、化粧品、食品分野へ応用されてきている。例えば、食品分野への応用例としては、特開平1−256352号公報「二日酔防止食品及びその製造方法」、特開平4−210576号公報「血糖上昇抑制食品及びその製造方法」、特開平4−210577号公報「コレステロール上昇抑制食品及びその製造方法」、特開平4−267861号公報「シルクパウダー入りドレッシング及びその製造方法」、特開平10−210943号公報「シルクパウダー入りそうめん」、特開平10−215781号公報「絹フィブロインからなる起泡性食品素材とそれから製造した気泡食品素材、及びそれらの製造方法と泡安定性の増強方法、並びにそれらを使用したスポンジケーキ」、などが数多く提案されている。
【0004】
一方、食品の防黴を目的として、食品にパラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、ソルビン酸等の防黴剤が使用されてきたが、近年添加物の安全性に関する懸念から天然添加物が注目され、防腐剤の分野においても種々検討されている。同時に、既存のものであっても、防腐防黴効果を有するものを探索する努力も続けられている。例えば、特開平6−105673号公報には、ニコチン酸を有効成分とする食品用制菌剤が提案されている。また、特開昭51−32735号公報には、グリシン及びシスチンにアスコルビン酸及び/又はニコチン酸を添加することを特徴とする食品の保存法が提案されている。また、ショ糖脂肪酸エステルも抗菌作用を有することが知られている。
【0005】
しかしながら、安全かつ安定供給可能で低価格でありながら、食品に対して防黴性、日持ち向上、鮮度保持、品質劣化防止などの機能を付与することができる天然系の食品用防黴剤の提供に対する需要者の要望は高く、更なる改良・開発が望まれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、比較的高分子量のシルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質を主成分として含有し、特に、パン、麺、天ぷら粉等の食品に対して防黴性、日持ち向上、鮮度保持及び品質劣化防止から選ばれる少なくとも1種の機能を付与することができる食品用防黴剤に関する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、比較的高分子量のシルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質、特に、平均分子量が5万〜20万であり、かつ平均粒径が5μm〜100μmであるシルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質を食品に添加することにより、意外にも、パン、麺、天ぷら粉等の食品に対して防黴性、日持ち向上、鮮度保持及び品質劣化防止から選ばれる少なくとも1種の機能を付与し得ることを知見し、本発明をなすに至った。
【0008】
即ち、前記課題を解決するための手段としては、下記の通りである。
<1> 食品中に添加される防黴剤であって、平均分子量が5万〜10万のシルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質を主成分として含有することを特徴とする食品用防黴剤である。
<2> シルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質を主成分として含有し、食品に添加して防黴性、日持ち向上、鮮度保持及び品質劣化防止から選ばれる少なくとも1種の機能を付与し得ることを特徴とする食品用防黴剤である。
<3> シルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質の平均粒径が5μm〜100μmである前記<1>から<2>のいずれかに記載の食品用防黴剤である。
<4> 水不溶性である前記<1>から<3>のいずれかに記載の食品用防黴剤である。
<5> シルクフィブロインをそのまま微粉砕若しくは部分加水分解した後、粉砕して得られる前記<1>から<4>のいずれかに記載の食品用防黴剤である。
<6> シルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質を食品全体に対して0.01〜10質量%添加する前記<1>から<5>のいずれかに記載の食品用防黴剤である。
<7> アスペルギルス属、ムコア属、ペニシリウム属、アルターナリア属及びクラドスポリウム属のいずれかの微生物に対して用いられる前記<1>から<6>のいずれかに記載の食品用防黴剤である。
【0009】
なお、従来のシルクフィブロイン入り食品に関する提案は、食品の特性上、酵素、加水分解等により低分子に加工処理され、水への溶解性を向上させたものであるのに対して、本願シルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質は、平均分子量が5万〜20万であり、かつ平均粒径が5μm〜100μmであり、食品に添加した場合、防黴性、日持ち向上、鮮度保持及び品質劣化防止から選ばれる少なくとも1種の機能を付与し得、特に、アスペルギルス属、ムコア属、ペニシリウム属、アルターナリア属及びクラドスポリウム属のいずれかの微生物に対する食品用防黴剤として好適に用いられることについては開示も示唆もされておらず、これらのことは、本発明者らの新知見である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明の食品用防黴剤は、シルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質を主成分として含有する。また、本発明の食品用防黴剤は、シルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質を主成分として含有し、食品に添加して防黴性、日持ち向上、鮮度保持及び品質劣化防止から選ばれる少なくとも1種の機能を付与し得るものである。更に、本発明の食品用防黴剤は、平均分子量が5万〜20万のシルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質を主成分として含有する。
【0011】
前記シルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質の原料となる繭糸は、蚕の絹糸腺から分泌される繊維状蛋白質であって、図1に示したように、2本の繊維状蛋白質フィブロイン2と、その外側を被覆する膠質状蛋白質セリシン3とからなる構造を有している。
【0012】
前記シルクフィブロインは、繭糸、生糸、絹織物及びそれらの屑物をソーダ灰、珪酸ソーダ、界面活性剤などを併用した高温アルカリ水溶液で処理する精練工程でセリシンを溶解除去することにより得られる。このシルクフィブロインは、グリシン、アラニン及びセリシンを非常に多く含む蛋白質であり、その分子量は約35万である。
【0013】
本発明の食品用防黴剤の主成分であるシルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質は、前記シルクフィブロインをそのまま微粉砕して得られるか、若しくは部分加水分解した後、粉砕して所望の平均分子量が5万〜20万であり、かつ平均粒径が5μm〜100μmに調製したものが好ましい。
【0014】
前記シルクフィブロインをそのまま微粉砕するとは、シルクフィブロインをそのまま所望の平均分子量5万〜20万とすることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができ、例えば、衝撃式粉砕、摩擦式粉砕、切断式粉砕又はこれらを組み合わせて行うことができる。
【0015】
前記部分加水分解としては、シルクフィブロインを所望の平均分子量5万〜20万とすることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができ、例えば、(1)シルクフィブロインを塩酸、硫酸、クエン酸、リンゴ酸、リン酸等から選ばれる酸の濃厚液で加熱溶解し、部分加水分解した後、中和、脱塩する方法、(2)シルクフィブロインを塩化カルシウム溶液に溶解し、この溶解液を脱塩したシルクフィブロイン溶液をパパイン、サーモライシン、エラスターゼ、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パンクレアチン等の蛋白質分解酵素で加水分解する方法、などが挙げられる。
【0016】
前記粉砕方法としては、部分加水分解した後のシルクフィブロインを所望の平均分子量及び平均粒径の粉末とすることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができ、例えば、振動式粉砕、衝撃式粉砕、摩擦式粉砕、気流式粉砕、又はこれらを組み合わせて行うことができる。
【0017】
前記シルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質の平均分子量は、電気泳動法による測定で、5万〜20万であり、より好ましくは5万〜15万、更に好ましくは8万〜12万である。
前記平均分子量が小さすぎると水への溶解性は向上するが、苦味や甘味等の呈味性が強くなり食品へ利用するには好ましくなく、また、防黴性、日持ち向上、鮮度保持及び品質劣化防止等の効果が充分に得られない場合がある。一方、平均分子量が大きすぎると食品への分散性に欠け、加工適性の低下につながる場合がある。
【0018】
前記シルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質は、その平均粒径が好ましくは5μm〜100μm、より好ましくは10μm〜50μm、更に好ましくは15μm〜40μmである。
前記シルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質の平均粒径が大きすぎると、食品に添加した際、舌に残る食感を生じて食品本来の食感を失う食品が生じる場合がある。
【0019】
本発明の食品用防黴剤が使用可能な食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができ、例えば、パン、ケーキ、うどん、そば、そうめん、パスタ等の麺類、天ぷら粉、クッキー、ビスケット、ピザ、せんべい、飴、チューイングガム、豆腐、チョコレート、グミ、もち、はんぺん、かまぼこ等の練り製品、まんじゅう、ゼリー、クリーム(ホィップ、カスタード)、羊かん、などが挙げられるがこれらに限られるものではない。
【0020】
また、本発明の食品用防黴剤の配合量は、添加する食品によって異なり一概には規定できないが、通常、食品全体の0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜5.0質量%、より好ましくは0.1〜1.0質量%の添加量で、各種食品に対して防黴性、日持ち向上、鮮度保持及び品質劣化防止等の効果を付与することができる。
【0021】
また、本発明の食品用防黴剤は、特に制限されないが、アスペルギルス属、ムコア属、ペニシリウム属、アルターナリア属及びクラドスポリウム属のいずれかの微生物に対して効果が認められる。
【0022】
【実施例】
以下、製造例及び実施例を示し、本発明について更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に何ら制限されるものではない。
【0023】
〔製造例1〕 シルクフィブロイン粉末A
絹原料を50倍量の0.5%炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウム(重曹)溶液で30分間煮沸処理してその都度、上澄液を除去する操作を2〜3回繰り返す精練工程によりセリシンを取り除いた。
選別・洗浄・乾燥後、カッターミルにより粗粉砕し、更に、ボールミルにより微粉砕した。この処理工程により、製造例1の平均粒径20μm、平均分子量10万の水不溶性シルクフィブロイン粉末Aを得た。
【0024】
〔製造例2〕 シルクフィブロイン粉末B
製造例1で得られたシルクフィブロイン粉末Aを、10倍量の水に分散させた後、蛋白質分解酵素であるサーモライシンを加え、65℃で10分間酵素分解した。その後、90℃で30分間加熱して酵素を失活させた後、減圧濃縮、凍結乾燥した後、衝撃式粉砕機にて微粉砕した。
この処理工程により、製造例2の平均粒径75μm、平均分子量5万の水不溶性シルクフィブロイン粉末Bを得た。
【0025】
〔実施例1〕
製造例1のシルクフィブロインAを1.0質量%及び0.5質量%の濃度となるように標準寒天培地と混釈し、シャーレに広げた後、アスペルギルス・ニガーを一白金耳摂取し、25℃にて培養を行った。その後、コロニー形成段階からコロニー直径の測定を行った。結果を表1に示す。
なお、製造例1のシルクフィブロインAの代わりに製造例2のシルフィブロインBを用いても同様の結果が得られた。
【0026】
【表1】
【0027】
〔実施例2〕
ホットケーキミックス50g、卵15g、水20ml、砂糖10g、サラダ油2gからなる基本原料に対し、製造例2のシルクフィブロインBを0.2質量%、0.5質量%、及び1.0質量%添加し、よく攪拌したものを25gずつアルミニウム箔の容器に入れ、10分間蒸して蒸しパンを調製した。
得られた蒸しパンをクリーンベンチ内にて冷やし、菌液(滅菌水5mlにアスペルギルス・ニガーを一白金耳とり希釈したもの)を一白金耳塗布した後、1つずつビニール製袋に入れて滅菌水を1ml染み込ませた脱脂綿と共に密封した。25℃恒温槽で培養し保存日数の経過と共にカビのコロニーの広がりを観察しコロニー直径を測定した。結果を表2に示す。
なお、製造例2のシルクフィブロインBの代わりに製造例1のシルフィブロインAを用いても同様の結果が得られた。
【0028】
【表2】
【0029】
〔実施例3〕
強力粉280g、水190ml、砂糖18g、食塩2.5g、無塩バター20g、脱脂粉乳5.5g、ドライイースト3gからなる基本原料に対し製造例1のシルクフィブロインAを0.5質量%、及び1.0質量%添加した食パンを調製した。
得られた食パンを外気に曝露した後ビニール袋に密閉し室温に保存した。保存日数の経過と共に食パンの外皮に発生するカビのコロニー数を数えた。結果を表3に示す。
なお、製造例1のシルクフィブロインAの代わりに製造例2のシルフィブロインBを用いても同様の結果が得られた。
【0030】
【表3】
【0031】
〔実施例4〕
中力粉100g、食塩5g、水20ccからなる基本原料に対し製造例1のシルクフィブロインAを0.3質量%添加してうどんを調製した。
得られたうどんを茹でて外気に曝露した後、100gずつビニール袋に密閉し室温に保存し、5日後の茹で麺に発生するカビのコロニー数を数えた。結果を表4に示す。
なお、製造例1のシルクフィブロインAの代わりに製造例2のシルフィブロインBを用いても同様の結果が得られた。
【0032】
【表4】
【0033】
〔実施例5〕
もち米を蒸し、製造例2のシルクフィブロインBが0.3質量%添加されるように加えてすりこぎでつき混ぜ、もちを調製した。
得られたもちをビニール袋に入れ室温に保存し20日後のカビのコロニー数を数えた。結果を表5に示す。
なお、製造例2のシルクフィブロインBの代わりに製造例1のシルフィブロインAを用いても同様の結果が得られた。
【0034】
【表5】
【0035】
表1〜5の結果から、平均分子量が5万〜20万であり、かつ平均粒径が5μm〜100μmである水不溶性のシルクフィブロインを各種食品に添加することにより、防黴性を付与できることが認められる。
【0036】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の食品用防黴剤によれば、シルクフィブロインをそのまま微粉砕するか若しくは部分加水分解した後、粉砕して得られる比較的高分子量のシルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質、特に、平均分子量が5万〜20万であり、かつ平均粒径が5μm〜100μmであるシルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質をパン、麺類、天ぷら粉等の食品に添加して防黴作用を付与し得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、繭糸の横断面を示す模式図である。
【符号の説明】
1 繭糸
2 フィブロイン
3 セリシン
Claims (7)
- 食品中に添加される防黴剤であって、平均分子量が5万〜10万のシルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質を主成分として含有することを特徴とする食品用防黴剤。
- シルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質を主成分として含有し、食品に添加して防黴性、日持ち向上、鮮度保持及び品質劣化防止から選ばれる少なくとも1種の機能を付与し得ることを特徴とする食品用防黴剤。
- シルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質の平均粒径が5μm〜100μmである請求項1から2のいずれかに記載の食品用防黴剤。
- 水不溶性である請求項1から3のいずれかに記載の食品用防黴剤。
- シルクフィブロインをそのまま微粉砕若しくは部分加水分解した後、粉砕して得られる請求項1から4のいずれかに記載の食品用防黴剤。
- シルクフィブロイン及び/又はシルクフィブロイン由来の蛋白質を食品全体に対して0.01〜10質量%添加する請求項1から5のいずれかに記載の食品用防黴剤。
- アスペルギルス属、ムコア属、ペニシリウム属、アルターナリア属及びクラドスポリウム属のいずれかの微生物に対して用いられる請求項1から6のいずれかに記載の食品用防黴剤。
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