JP4076732B2 - D−アスパラギン酸エンドペプチダーゼ活性を阻害する化合物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、D−アスパラギン酸エンドペプチダーゼ(以下、DAEPという。)活性を阻害する化合物に関する。
【0002】
【従来の技術】
哺乳類の組織、体液などを構成する蛋白質は、従来L型のアミノ酸だけからなると考えられていた。しかしながら、近年になって、D型のアミノ酸を含有する蛋白質が発見され、それらは病態との関係が指摘されている。例えば、αA−クリスタリンでは、151残基目のアスパラギン酸(Asp)が、L体からD体にラセミ化したものが報告されており、白内障との関係が指摘されている。また、動脈の構造蛋白質であるエラスチンやコラーゲンでもD−Aspの蓄積が指摘されており、動脈硬化の原因の一つではないか、と言われている。
これらは、いずれも比較的代謝速度の遅い蛋白質であり、D−Asp含有蛋白質は、老化とともに増加する傾向にある。なかでも、アルツハイマー病で脳内に蓄積するアミロイドβ蛋白質(Aβ)には、1残基目、もしくは7残基目のL−Aspが異性化してD体になっているもの(D−Aβ)が発見されている。D−Aβは、in vitroでの凝集が早まることが確認されており、病態との関連が示唆されている。
また、加齢と共にヒトの脳内や体液中に遊離のD−Aspが増加していくことも明らかになっている。我々は、遊離のD−Aspの一部が、D−Aβのような異常な蛋白質の分解に由来する物質ではないかと仮定した。すなわち、DAEPというべき分解酵素が我々の生体内に存在し、本酵素が防御システムとして、老化と共に増加するD−Aβのような異常な構造を持つ蛋白質を分解し、排除していると考えた。
【0003】
本発明者らは、このDAEPが分子量70万の高分子複合体であり、その基本的な酵素としての性質についてDAEPの活性がプロテアソーム阻害剤のラクタシスチンによって阻害されることなどを報告している(木野内忠稔ら「哺乳類におけるD−アスパラギン酸含有蛋白質に特異的な分解酵素について」第73回日本生化学会大会(2000年5月25日))。これらの性質は20Sプロテアソームと一致するものであるが、その細胞内の局在が異なること、DAEPはD−Asp含有蛋白質にのみ特異性を示すことなど、性質上の相違点も多いこともわかってきている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来、D−アスパラギン酸エンドペプチダーゼの活性を抑制する既存の阻害剤はプロテアソーム阻害剤として知られるラクタシスチンだけであった。ラクタシスチンの本酵素に対する阻害特性は、感度が悪く、また、プロテアソームにも作用してしまうことが欠点であり、DAEPの特性の調査には不向きであった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の化合物(i−DAEP)は、DAEPの性質を詳細に調べる過程で開発されたものであり、DAEPがD−Aspを含む基質を特異的に分解することに着眼し、その類似体がDAEPの活性中心をふさぐことによってDAEP活性を阻害する化合物を設計することにより、i−DAEPを得ることができた。結果的に本発明のi−DAEPはラクタシスチンに比べ10倍以上感度が良い。
即ち、本発明は、ベンゾイル−Arg−His−D−Asp−CH2Cl、ビオチニル−Arg−His−D−Asp−CH2Cl又はビオチニル−Gly−Gly-D−Asp−CH2Cl(式中、ベンゾイル基及びビオチニル基はそれぞれ結合するペプチドのN末端のアミノ酸のα炭素に結合したアミノ基と結合しており、−CH 2 Cl基はそれぞれD−Aspのα炭素に結合したカルボキシル基の−OHと置換されるように結合している。)のいずれかの化合物である。
【0006】
DAEPは、その分子量が70万であり、ラクタシスチンでその活性が阻害されることから、その高次構造は、プロテアソーム様の構造を持つことが推測される。すでにプロテアソーム阻害剤として市販、利用されている合成ペプチド阻害剤には、ALLN(N-acetyl-L-leucinyl-L-leucinyl-L-norleucinal)やZLLLal(benzyloxycarbonyl-L-leucinyl-L-leucinyl-L-norleucinal)があり、いずれもトリペプチジル阻害剤である。一方、アミノ酸数が1つ足りないZLLal(benzyloxycarbonyl-L-leucinyl-L-norleucinal)では、プロテアソーム活性を阻害できないことから、2残基では、立体構造上、プロテアソームの活性中心へのアクセスに問題が生じるものと考えられている。従って、DAEPにおいても最低3残基からなる構造が必要である。また、近年発見されたジャイアントプロテアーゼも、70万の分子量を持つ超高分子複合体で、その活性は一部、プロテアソームと類似し、ラクタシスチンで阻害される。このジャイアントプロテアーゼに対して開発された阻害剤、即ち、L-Ala-L-Ala-L-Phe-chloromethaneも3残基からなるトリペプチジル阻害剤である。従って、これらのことからラクタシスチンでその活性が阻害され、分子量が70万の超高分子複合体型のプロテアーゼファミリーとしてDAEPをとらえると、その活性を阻害する目的で合成されるペプチド阻害剤も、溶液中での安定性などを考慮して、最低3残基であることが望ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】
DAEPは、基質となるペプチドや蛋白質の一次配列中にD−Aspが存在した場合、そのカルボキシ末端側で隣のアミノ酸との間を切断する分解酵素の性質を示す。ただし、D−Aspが基質の一番外側であるN末端にあった場合には、作用しない(即ち、エクソ型のペプチダーゼではない。)。図1に、ウサギ肝ミトコンドリアから精製したDAEP(ミトコンドリアDAEP)に、合成した10残基のペプチド、(D-Asp)-AEFRH-(D-Asp)-SGY(D-Aβ1-10と略す。)及び(L-Asp)-AEFRH-(L-Asp)-SGY(L-Aβ1-10と略す。配列番号:1)を作用させた様子を示す。これらの合成ペプチドは、L−AspもしくはD−Aspを1残基目と7残基目に含み、アルツハイマー病の原因蛋白質であるアミロイド蛋白質(Aβ)の1〜10残基までの配列を表す。DAEP酵素溶液と以上のD/L-Aβ1-10を混合し、37℃、21時間インキュベートし、その後、100℃で1分間加熱することにより反応を止め、この溶液を逆相カラムにアプライし、分解されたD/L-Aβ1-10の断片を分画した。クロマトグラムから、変化の見られたピークについてペプチドシーケンサーで分析したところ、D-Aβ1-10では、21時間後(図1(b))に0時間(図1(a))で分解の観られなかったD-Aβ1-10のピークが2つに分かれており、それぞれSGYとdAEFRHであることが分かった。また、D-Aβ1-10のN末端側にあるD−Aspには作用していないことが分かった。一方、L-Aβ1-10は21時間後(図1(d))もクロマトグラムは変わらず、ペプチドシーケンサーによる解析の結果も0時間(図1(c))と同様、分解されていないことが分かった。即ち、DAEPはエンド型のペプチダーゼ活性を持つことを示す。従って、DAEPとは、基質として一次配列中にD−Aspを含むペプチドや蛋白質を、エンド形の様式で分解する酵素の一群であるといえる。
【0008】
これまでに本発明の活性測定用基質を用いて活性を確認できたのは、ミトコンドリアに存在するDAEP(以下、「ミトコンドリアDAEP」という。)と、核に存在するDAEP(以下、核DAEP)のみである。その基本的な性質について表1に示す。
【表1】
核DAEPについては、ミトコンドリアDAEPに比べ研究が進んでおらず、満足のいく精製法も開発されていない。また、両者とも一次配列はまだわかっていない。表2に両者の性格の比較を示す。
【0009】
【表2】
核DAEPについては解析が進んでいないが、多くの点で両者は非常に性質が似ており、本発明の活性測定用基質に対する親和性(Km)は、誤差の範囲内であり、両者の蛋白質分解機能は同じと考えられる。また、臓器によってミトコンドリアDAEP:核DAEPの活性比が異なるため、その局在の違いは各臓器の性質と密接に関連しているようである。一番の性質上の違いは、局在にあると考えられる。ミトコンドリアDAEPは、膜にしっかり結合していて、なかなか回収が難しいが、核画分にあるDAEPは、可溶性画分に回収されるため、膜に結合する力が弱いか、もしくは、ほとんどが核内に存在しているものと考えられる。
【0010】
現在のところ、ミトコンドリアDAEPと核DAEPとを見分けるのは困難であり、精製の段階で分けてくる以外に方法はない。従って、最終的に、両者に最適な測定用基質や阻害剤を開発する必要があるかもしれないが、エンド型D−Asp含有蛋白質分解酵素という定義上では、ミトコンドリアDAEPと核DAEPとは同一の範疇に分類される異なる2種類の酵素といってよいと考えられる。
【0011】
一般に、-CH2Clを持つインヒビター(TLCKやTPCKなど)は、活性中心のセリンやヒスチジンに対して特異的にアルキル化し、酵素を不可逆的に失活させる。従って、この活性中心に入るように基質アナログとしてD-Aspを利用し、DAEPの作用部位たるカルボキシ末端側に-CH2Clを付けた。
このような考え方に基づいて阻害剤(i−DAEP)を構成した。D-Aβ1-10ペプチドを切断する活性がDAEPに存在することから、D-AspからN末側3残基を選び、阻害剤の構造をBz-L-Arg-L-His-D-Asp-CH2Clにし、また活性中心の標識のためにN末端にビオチンを着けたものを合成した。最初に合成したのは、ベンゾイル−Arg−His−D−Asp−CH2Clであり、その後、ビオチニル−Arg−His−D−Asp−CH2Cl及びビオチニル−Gly−Gly-D−Asp−CH2Clも阻害活性を示したので、阻害活性の基本構造はD−Asp−CH2Clにあることがわかり、そのN末端側の構造には依存しないと考えられる。
【0012】
【発明の効果】
DAEPの生理的機能として、内在性のD−Asp含有蛋白質の分解などが挙げられる。活性酸素や紫外線などの影響により、蛋白質のアスパラギン酸残基は、その光学異性がL型からD型に非酵素的に変化する。こうした局所的な変化は、その蛋白質全体に及び、構造が崩れ、元来の生理機能を失ったり、場合によっては疎水性の局面が露出することによって凝集し、蓄積することも考えられる。
例えば、眼球のレンズに存在するクリスタリンでは、60歳を過ぎた人で50%以上のアスパラギン酸がD体に変化していることが分かっている。この変化と白内障の発症が良く相関するため、D−Asp含有クリスタリンは、白内障の原因の一つと考えられるようになった。この他にも、D−Asp含有エラスチンと動脈硬化の関係などが考えられている。
こうして生じたD−Asp含有蛋白質は、生物にとって不要物であるので、通常はプロテアソームなどの内在性タンパク質分解酵素によって分解される。ところが、L型のアミノ酸からなるペプチド、もしくは蛋白質を認識して分解している通常のプロテアーゼでは、D−Asp含有蛋白質は、その構造の特異性から分解できない。
【0013】
これまでに発見されたD−Asp含有蛋白質は、いずれも細胞外に存在し、代謝性の低いものばかりなので、DAEPによる作用から逃れることができ、我々の目にとまるようになったと考えられる。逆に言えば、常に分解されているようでは、その本来の機能が発揮できない。
また、D型のアミノ酸を含むことにより、微生物の細胞壁中のペプチドグリカンや、ある種の生物毒では、分解されづらい性質を逆に利用して、その寿命を長くし、効果を高めていると考えられる。
従って、DAEPの機能を利用することによって、内在性のD−Asp含有蛋白質を分解することや外来のD−Aspを含んだ毒物などを分解・解毒することができると考えられる。いずれ、DAEPの全容を解明し、発現調節法が可能になれば、また、阻害剤の利用などでDAEPの活性を調節できるようになれば、解毒や体内に蓄積するD−Asp含有蛋白質の排除を目的とした利用が可能であり、様々な疾病の治療法にも使うことが可能になると考えられる。同時に、特異的な基質によるDAEP活性測定法も必要になると考えられる。
【0014】
DAEPの阻害剤であるi−DAEPの利用法については、まずは、学術的な分野での利用法が挙げられる。プロテアーゼの阻害剤は、新規のプロテアーゼに対して性質を決定することなどにも用いられている。
また、DAEPの局在場所であるミトコンドリアにi−DAEPを作用させると、脱共役剤を作用させたときのように呼吸が速くなり、また、チトクロームcの放出が確認された。これらと同様の効果が、唯一既存のDAEP阻害剤であるラクタシスチンでも確認されているため、DAEPは、ミトコンドリアに特有な機能に深く関与していることが示唆された。特に、チトクロームcの放出に関与していることは、アポトーシスの誘導と深く関連するため、今後、さらに改良を進めることによって、既存の抗ガン剤との組み合わせにより、腫瘍細胞に対して細胞死を誘導する薬剤としての利用可能であると考えられる。
【0015】
【実施例】
以下本発明を実施例にて例証するが、それらは本発明を制限するものではない。
DAEPの精製
DAEPはミトコンドリアと核に局在しているので、細胞抽出液でも十分に活性は測定できる。破砕に用いる緩衝液には通常HEPESやPBSを用いる。培養細胞などのDAEPを測定する場合には、細胞を回収し、懸濁後、超音波破砕して上清を回収すればよい。ただし、DAEPは膜タンパクでなので、半分以上が膜に残る。したがって、高度に定量するのであれば、ミトコンドリアと核を丁寧に分画する必要がある。
本実施例で用いたミトコンドリアDAEPは以下の手順で精製した。
まず、ウサギ肝臓に10倍量以上の等張液(0.25M ショ糖、0.2mM EDTA)を加え、ポッター型ホモジナイザーで破砕した。その後遠心分離(100×g、5分、4℃)し、その上澄みに1/2倍量の高張液(0.35M ショ糖、0.2mM EDTA)を加え、遠心分離(800×g、15分、4℃)し、その上澄みを更に遠心分離(9000×g、10分、4℃)し、その沈殿物に10倍量以上の等張液(0.25M ショ糖、0.2mM EDTA)を加え、遠心分離(9000×g、7分、4℃)し沈殿物を回収した。この沈殿物に等張液(0.25M ショ糖、0.2mM EDTA)を加え、ホモジナイザーで軽く懸濁し、20mg/mlに調製し、Optiprepを用いた密度勾配遠心分離(1.117〜1.185g/ml)を行い、1.130〜1.140g/mlを分画し、ミトコンドリア画分を得た。
【0016】
このミトコンドリア画分に超音波処理(50%duty cycle、2分)を行い、遠心分離(100000×g、60分、4℃)し、その沈殿物に抽出緩衝液(1.0%CHAPSを含むT10E1)を加え、チューブローテーター(〜1rpm、45分、4℃)で処理し、超遠心分離(100000×g、60分、4℃)し、その沈殿物を上記抽出緩衝液に懸濁し再抽出を繰り返し、その上澄みに順次100K限外ろ過(MACROSEP)、強陰イオン交換(RESOURCE Q)、強陽イオン交換(RESOURCE S)を行い、ヒドロキシアパタイト(Bio−Scale CHT2−1)を加えて、ゲルろ過し(Superrose 6HR10/30)、DAEP精製品を得た。
【0017】
DAEPの活性測定
測定用基質として、合成したNma-Phe-Arg-His-D-Asp-Ser-Gly-Tyr-Lys-2,4-Dinitrophenyl-Arg-NH2を用い、以下の手順で活性測定を行った。
通常、プロテアーゼの活性測定には、測定用の蛍光基質を1mMに調製し(まず10mMのDMSOで溶解した濃い基質溶液を調製し、これを10倍に蒸留水で希釈する)、これを1/10量含む測定条件を設定して、プロテアーゼの活性を測定する。反応液は、測定すべきプロテアーゼの至適pHに調整した緩衝液、塩などを含み、最大活性が見られる反応温度で、15-30分間反応させる。反応の終了操作は、反応液と同量の10%SDSを加え、さらに、念のため反応液に含まれる緩衝液のpHと逆のpHをもつ緩衝液を加え、完全に酵素反応を停止する。(なお、96穴プレートを用いて蛍光プレートリーダーで蛍光強度を読みとってもよく、この場合には反応停止操作は行わない。性能の良い蛍光プレートリーダーを用いるとリアルタイムで蛍光強度が測れる。)。普通のプロテアーゼであれば、10%SDSを加えただけで失活するが、その後蛍光強度を測るときに用いる石英キュベットの容積も考慮して、さらに至適pHと逆のpHをもつ緩衝液を大量に加えてもよい。
DAEPについては、反応液として 1.0 M Tris/HCl (pH 8.5), 1 μl、5 M NaCl, 4 μl及び0.1 M MnCl2, 3 μl、蛍光基質(1mM)10 μl、並びに蒸留水72 μlから成る計90 μlの反応液を用い、これに酵素液10 μlを加え、総量100 μlとして、30℃でDAEPの場合15分間インキュベートした。
蛍光強度は、10%SDS、100 μl、さらに0.1 M 酢酸緩衝液 (pH 5.0)を加えて総量1.5 mlとして、蛍光光度計(日立・F-2000形分光蛍光光度計)で測定した(測定条件:励起波長380 nm、蛍光波長460 nm)。
【0018】
検量線については以下のようにして作成した。活性測定に用いる蛍光基質の終濃度が0.1mMなので、当然、基質が完全分解されても、それ以上の蛍光物質は遊離されない。そこで、検量線の上限に相当するNma濃度を0.1mMとして、1/10きざみで0.1μl位までの検量線を蛍光光度計や蛍光プレートリーダーにインプットしておく。それに極めて近い結果が得られた場合は、反応がプラトーに達していることを示しているので、酵素の希釈率を高めるか、反応時間をもっと短くすることにより、酵素反応の一次反応領域で測定する必要性がある。こうして作った検量線により、酵素の比活性を求めた。
【0019】
Nma-Phe-Arg-His-D-Asp-Ser-Gly-Tyr-Lys-(DNP)-Arg-Arg-NH 2 の合成
保護ペプチド樹脂の合成は、パラメチルベンズヒドリルアミン樹脂(MBHA resin)を出発原料とし、第三ブチルオキシカルボニル(Boc)法を適用したABI430A自動ペプチド合成機(アプライドバイオシステム社製)を用いて行った。1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)エステルで縮合する標準的なプロトコールに従い、0.5 mmolスケールで、逐次アミノ酸誘導体を伸長した。用いたアミノ酸側鎖保護基は以下に示すとおりである。アルギニンはトシル(Tos)基、アスパラギン酸はシクロヘキシル(cHex)基、セリンはベンジル(Bzl)基、チロシンは2-ブロモベンジルオキシカルボニル(BrZ)基、ヒスチジンはベンジルオキシメチル(Bom)基、リジンは2,4-ジニトロフェニル(DNP)基で側鎖官能基が保護されている。得られたH-Phe-Arg(Tos)-His(Bom)-D-Asp(OcHex)-Ser(Bzl)-Gly-Tyr(BrZ)-Lys(DNP)-Arg(Tos)-Arg(Tos)-MBHA樹脂に、N-メチルアントラニル酸(Nam)を縮合した。保護ペプチド樹脂をパラクレゾール存在下に無水フッ化水素で-5℃、1時間処理し、Nma基(N-メチルアントラニロイル基)及びDNP基(2,4-ジニトロフェニル基)を除く全ての保護基を除去することにより当該粗ペプチドを得た。粗ペプチドは、YMC Pack ODS (SH-363-5, 30 x 250 mm)カラムを用いた19.8%アセトニトリル/0.1% TFAから39.8%アセトニトリル/0.1% TFAへの直線勾配による溶出(80分、流速:20 ml/分)で精製した。
アミノ酸分析 (水解条件: 6 N HCl, 110℃, 22時間): Asp(1) 1.00, Ser(1) 0.91, Gly(1) 0.98, Tyr(1) 0.99, Phe(1) 0.99, His(1) 1.00, NH3(1) 1.25, Arg(3) 3.06
ESI MS: 測定分子量 1619.55 (理論値: 1619.72)
【0020】
Bz-Arg-His-D-Asp-CH 2 Cl の合成
1.HCl・H-D-Asp(OcHex)-CH2Cl
Boc-D-Asp(OcHex)-OH 6.31 g(20.0 mmol)をテトラヒドロフラン(100 ml)に溶かし、氷冷撹拌下にクロロギ酸イソブチル2.71 ml(21.0 mmol)およびN-メチルモルフォリン 2.31 ml(21.0 mmol)を加えた。10分間撹拌した後析出した塩を濾去し、濾液にジアゾメタン/エーテル溶液(200 ml)を加え、冷却下に1時間撹拌した。この反応液に4.5 N塩酸/ジオキサン17.8 ml(80.0 mmol)を加え20分間撹拌した後、水を加え洗浄した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水・飽和食塩水・10%クエン酸水・飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウム上乾燥した。有機層を減圧濃縮して油状物を得た。油状物に、4.5 N塩酸/ジオキサン44 ml(0.20 mol)加え室温で30分間撹拌した後、減圧濃縮した。残査にイソプロピルエーテルを加え固化、5.40 g(95%)得た。
2.Boc-His(Bom)-OPac
Boc-His(Bom)-OH 40 g (0.107 mol)のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(50 ml)に、炭酸セシウム20.8 g (0.064 mol)水溶液を加え撹拌した。反応液を減圧濃縮し、再びDMFに溶かし、氷冷撹拌下に臭化フェナシル(Pac-Br)19.1 gを加えた。室温で4時間撹拌した後、反応液に酢酸エチル(500 ml)と水(500 ml)を加え抽出した。酢酸エチルを留去し、残査にヘキサンを加え固化した。47.3 g(74%)
【0021】
3.Boc-Arg(Tos)-His(Bom)-OPac
Boc-His(Bom)-OPac 10g(20.2 mmol)にトリフルオロ酢酸(TFA, 70 ml)を加え、-5℃冷却化に10分間、室温で50分間撹拌した。TFAを留去し、残査に4.5 N塩酸/ジオキサン(9 ml, 40.5 mmol)を加え混ぜ合わせた後に、エーテルより固化した。得られた塩酸塩およびBoc-Arg(Tos)-OH 12.1 g (24.3 mmol)、HOBt(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール) 2.87 g(21.2 mmol)をDMF(100 ml)に溶かし、-10℃冷却撹拌下にEDC 3.89 ml(21.2 mmol)を加えた。室温で2時間撹拌した後、反応液に酢酸エチル(500 ml)と水(500 ml)を加え抽出した。酢酸エチルを留去し、残査にイソプロピルエーテルを加え固化した。8.0 g(49%)
4.Bz-Arg(Tos)-His(Bom)-OPac
Boc-Arg(Tos)-His(Bom)-OPac 8.0 g(10.0 mmol)にTFA(60 ml)を加え、-5℃冷却化に10分間、室温で50分間撹拌した。TFAを留去し、残査に4.5 N-HCl/ジオキサン(4.4 ml, 20.0 mmol)を加え混ぜ合わせた後に、エーテルより固化した。得られた塩酸塩および安息香酸 1.46 g (12.0 mmol)、HOBt 1.61 g(12.0 mmol)をDMF(80 ml)に溶かし、-10℃冷却撹拌下にEDC 2.19 ml(12.0 mmol)を加えた。室温で4時間撹拌した後、反応液に酢酸エチル(500 ml)と水(500 ml)を加え抽出した。酢酸エチルを留去し、残査にジエチルエーテルを加え固化した。固体を濾取した。6.8 g(84.6%)
【0022】
5.Bz-Arg(Tos)-His(Bom)-OH
Bz-Arg(Tos)-His(Bom)-OPac 6.8 g(8.4 mmol)を酢酸(100 ml)に溶かし、45℃で加温しながら亜鉛末(15 g)を加え1時間撹拌した。亜鉛末を除き、酢酸を留去した。残査を、クロロホルム・メタノール混合溶媒(v/v = 4/1, 60 ml)に溶かし、1 N塩酸(17 ml)を加えた後減圧濃縮した。残査にジエチルエーテルを加え結晶化した。5.7 g (98.3%)
6.Bz-Arg(Tos)-His(Bom)-D-Asp(OcHex)-CH2Cl
Bz-Arg(Tos)-His(Bom)-OH 576 mg(0.835 mmol)、HCl・H-D-Asp(OcHex)-CH2Cl 237 mg(0.835 mmol)およびHOBt 125 mg(0.918 mmol)のDMF(5 ml)溶液を撹拌しながら、EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド) 0.168 ml(0.918 mmol)を加えた。2時間後、反応液に水を加え析出した個体を濾取した。水洗した後、減圧乾燥し、811 mg(106%)得た。
【0023】
7.Bz-Arg-His-D-Asp-CH2Cl
Bz-Arg(Tos)-His(Bom)-D-Asp(OcHex)-CH2Cl 1.70 g(1.85 mmol)およびパラクレゾール2.86 ml(27.7 mmol)をフッ化水素(HF)反応管に入れ、無水HF(約26 ml)を導入した。反応管を氷冷し、1時間撹拌した。過剰のHFを留去し、残査にジエチルエーテルを加え固化した。0.91 g得た。この固体を水(30 ml)に溶かし、YMC Pack ODS (SH-363-5, 30 x 250 mm)カラムに適用した。5%アセトニトリル/0.1% TFAから30%アセトニトリル/0.1% TFAへの直線勾配による溶出(60分、流速:20 ml/分)で精製した。当該ペプチドを含む画分を集め、1 N塩酸(3 ml)を加え凍結乾燥した。褐色粉末235 mg得た。
元素分析:C24H31N8O6Cl・2HClとしての計算値: C, 40.51; H, 5.86; N, 15.75%; 実測値:C, 40.36; H, 5.82; N, 15.87%
アミノ酸分析 (水解条件: 6 N HCl, 150℃, 1時間): Asp(0) 0.008, His(1) 0.849, NH3 (1) 1.050, Arg (1) 1.000
ESI MS: m/z 563.3 ([M+H]+: 563.213), 282.1 ([M+H]2+: 282.111)
【0024】
実施例1
図2には、DAEPとして上記のように用意したミトコンドリアDAEPを用い、阻害剤としてBz-Arg-His-D-Asp-CH2Clを用い、更に比較のためラクタシスチン(協和メディックス株式会社、コードNo:OP18)とプロテアソーム阻害剤のALLN(シグマアルドリッチジャパン株式会社、コードNo:A6185)を用いたときのDAEPの阻害活性を示す。阻害剤としての活性の測定条件は、まず酵素液に阻害剤を加えて10μリットルとし、その後、上記の方法によりDAEPの活性を測定した。この図からもわかるように本発明の阻害剤はDAEPの活性を有効に阻害している。
【0025】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】DAEPによる2種のペプチドの切断活性の検索を示す図である。
【図2】DAEPに対する阻害剤の効果を示す図である。
Claims (1)
- ベンゾイル−Arg−His−D−Asp−CH2Cl、ビオチニル−Arg−His−D−Asp−CH2Cl又はビオチニル−Gly−Gly-D−Asp−CH2Cl(式中、ベンゾイル基及びビオチニル基はそれぞれ結合するペプチドのN末端のアミノ酸のα炭素に結合したアミノ基と結合しており、−CH 2 Cl基はそれぞれD−Aspのα炭素に結合したカルボキシル基の−OHと置換されるように結合している。)のいずれかの化合物。
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