JP4074770B2 - 容積型膨張機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高圧の圧縮性流体によって作動して旋回動力を発生する原動機としての容積型膨張機に関する。
【0002】
【従来の技術】
スクロール膨張機は容積型流体機械の一種であり、その基本構成は、例えば特開平8−28461号公報で知られている。
【0003】
このものは図8に示すように、固定スクロールaおよび旋回スクロールbのラップc、dを噛み合わせて、相互間に旋回スクロールbの円軌道に沿った旋回により中央部から周辺部に移動しながら容積を大きくする作動室eを形成している。この作動室eの最小位置側で高圧部fの流体を導入することにより、作動室eが大きくなる側への旋回力を旋回スクロールbが受けて流体の膨張を伴い軸線L1まわりに旋回され、作動室eの最大位置側で流体を低圧部gに排出させることを繰り返し、旋回動力を得るようにしている。この旋回動力は偏心軸受hを介し軸iの回転出力として取り出される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のようなスクロール膨張機の基本構造では、容積比と導入容積が旋回スクロールbのラップdおよび固定スクロールaのラップcの幾何形状によって規定されて、これらが原因で導入する流体から得るエネルギーが極端に減ったり、効率が低下することがある。
【0005】
ここで、容積比が一定であることの影響について説明する。作動室eの挙動を前記軸iの固定スクロールaの中心L2まわりの回転角度90degごとに示した図9において、密閉された瞬間の作動室e1の容積をVa、前記低圧部gに通じる直前の作動室e5の容積をVeとすると、Va,Veは旋回スクロールbのラップdおよび固定スクロールaのラップcの巻き数や高さに依存し、容積比(Va/Ve)は一定であることがわかる。密閉された瞬間の作動室e1の圧力をPa、低圧部gと連通する直前の作動室e5の圧力をPeとし、流体の断熱指数をκとすると、圧力Paと圧力Peの間には次式の関係が成り立つ。
【0006】
【数1】
一方、密閉された瞬間の作動室e1の圧力をPaは、前記高圧部fの圧力、すなわち、膨張機の導入圧力Psに等しい。
【0007】
したがって、低圧部gに通じる瞬間の作動室e5の圧力Peは、導入圧力Psと、容積比(Va/Ve)により決まる。このため、導入圧力Psと低圧部gへの排出圧力Pdの比(Ps/Pd)である膨張比が小さく、Pe<Pdとなる条件でスクロール膨張機を運転する場合、作動室e内の流体は排出圧力Pdよりも低い圧力Peまで膨張した後に、それよりも高い排出圧力Pdの低圧部gに排出される。すなわち、過膨張が生じる。
【0008】
次に、過膨張による損失を説明する。図10に過膨張の場合の作動室eのPV線図を示す。作動室eの圧力が排出圧力Pdよりも低くなってからも、PdからPeになるまで膨張する間の流体により図10(a)に斜線部13aで示す面積分の動力が得られる。これに対し、圧力がPeまで低下した作動室eからそれよりも高い排出圧力Pdを持った低圧部gへ流体が排出するには、不足している圧力分に見合うだけの図10(b)に斜線部13bで示す面積分の動力が必要である。従って、その差(面積13b−面積13a)に相当する図10(c)の斜線部13cで示す面積分が過膨張損失となる。
【0009】
続いて、導入容積が一定であることの影響について説明する。一般に、導入圧力Psが高い条件では流体の比容積が小さくなり、導入圧力Psが低い条件では流体の比容積が大きくなる。しかし、上記従来のスクロール膨張機の基本構成では、導入容積が旋回スクロールbのラップdおよび固定スクロールaのラップcの基礎円半径や高さに依存していて変化しないので、旋回スクロールbの旋回数が同じである場合、同じ容積の作動室eに対して導入される流体の質量は導入圧力Psが高い条件では多くなり、導入圧力Psが低い低い条件では導入される流体の質量が少なくなる。このため、作動室eにて流体から得ることのできるエネルギーは、導入圧力Psが高い条件では多くても、導入圧力Psが低い条件では少なくなるという欠点がある。
【0010】
また、排出圧力Pdを一定とした場合、低い条件の導入圧力Psに対してはそれとの圧力差が小さくなり、従って膨張比(Ps/Pd)が小さくなるのに、一定の容積比(Va/Ve)での旋回スクロールbの旋回角度に応じた膨張を伴うため、導入圧力Psが高い条件の場合に比して過膨張が生じやすく、従って、前述した過膨張損失が発生しやすくなり、効率も低下する。この結果、流体の質量の減少と過膨張損失の発生により、作動室eにおいて流体から得るエネルギーが極端に減少するという課題がある。
【0011】
本発明の目的は、上記従来の課題を解決するもので、導入圧力に対応した容積比および導入容積が得られ、導入する流体から得るエネルギーが極端に減少するのを防止でき、高効率な容積型膨張機を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の容積型膨張機は、高圧の流体を高圧部から作動室に導入し、前記作動室で流体が膨張することによって軸が回転し、膨張後の流体を低圧部に排出するように構成された容積型膨張機であって、密閉された瞬間の前記作動室の最小の容積と、前記低圧部に連通する直前の前記作動室の最大の容積との比が一定であり、膨張過程にある前記作動室に前記高圧部の流体を導入可能なバイパスポートと、前記バイパスポートに設けられたバルブ機構と、を備え、前記高圧部の圧力が理想的な導入圧力Psよりも低い設定圧力P1以下であるとき、前記低圧部より圧力が高い前記作動室の所定位置に、前記高圧部の流体を前記バイパスポートから導入する、ことを特徴とするものである。
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
本発明のそれ以上の目的および特徴は、以下の詳細な説明および図面の記載によって明らかになる。本発明の各特徴はそれ単独で、あるいは可能な限り種々な組み合わせで複合して採用することができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態につき図1〜図7に基づいて詳細に説明する。しかし、以下の説明は本発明の具体例であって、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0027】
本実施の形態のスクロール膨張機は、図1〜図3に示す例、図5、図6に示す例のように、従来の場合同様、固定スクロール5および旋回スクロール3のラップ5a、3aを噛み合わせて、相互間に旋回スクロール3の円軌道に沿った旋回により移動しながら容積を変える作動室6を形成している。また、最小位置側の作動室6に高圧部7の流体を導入して、作動室6が大きくなる側へ旋回スクロール3が流体の膨張を伴い旋回されるようにするとともに、最大位置側の作動室6から流体を低圧部10に排出させる。これにより、固定、旋回スクロール5、3間の作動室6に高圧部7から流体を導入して旋回スクロール3に作動室6が大きくなる側への旋回力を働かせて旋回させることを繰り返し、旋回動力を得る。本実施の形態では作動室6は中央部から周辺部に移動しながら容積が大きくなるようにしてある。しかし、これに限られることはない。
【0028】
前記旋回スクロール3の旋回動力は、1つの例として図1に示すように偏心軸受2aを介し旋回スクロール3と連結した軸2の軸線L1まわりの回転として出力し、圧縮機構やその他の駆動を行うが、静かで滑らかな回転駆動ができる。この軸2の旋回スクロール3との連結側の端部を軸受1aによって軸受する支持部材1と、これにラップ5a側で対向した固定スクロール5とをボルト21によって締結し、これら支持部材1と固定スクロール5との間に旋回スクロール3を挟み込んで、旋回スクロール3のラップ3aが固定スクロール5のラップ5aと噛み合わせて保持し、双方のラップ5a、3a間に前記作動室6を図3、図5に示すように複数対形成している。しかし、作動室6の数は原理的には特に問うものではない。
【0029】
旋回スクロール3の鏡板3b背部とこれをバックアップする支持部材1との間に、旋回スクロール3の自転を拘束し円軌道に沿った旋回のみを許容するオルダムリング4などの自転拘束部材が挟み込まれている。固定スクロール5の鏡板5b背部にはカバー8を設けて前記ボルト21を共用するなどして固定スクロール5側に締結することにより、固定スクロール5における鏡板5bの背部に前記高圧部7を形成し、この高圧部7に高圧の流体を導入する導入パイプ9をカバー8に接続してある。固定スクロール5の鏡板5bには最小位置側の作動室6に高圧部7から高圧の流体を導入する導入口5cが形成されている。また、固定スクロール5には最大位置側の作動室6と通じて最終の膨張状態の流体を排出させる低圧部10を形成してあり、固定スクロール5に低圧部10には排出される流体を他へ導く排出パイプ11が接続されている。しかし、高圧部7および低圧部10はどのようにして形成されてもよい。さらに、軸2が支持部材1を貫通する部分にはメカニカルシール12などのシール手段が設けられて、この部分から流体が漏出するのを防止している。
【0030】
このような本実施の形態のスクロール膨張機は、固定スクロール5および旋回スクロール3のラップ5a、3a間に形成された旋回スクロール3の旋回により移動しながら容積が変化する作動室6の最小位置側で高圧部7から流体を導入することにより、旋回スクロール3に作動室6が大きくなる側への旋回力を与えて流体の膨張を伴い旋回させ、作動室6の最大位置側で流体を低圧部10に排出させることを繰り返して駆動するのに、前記作動室6の最大、最小位置側の間の所定位置にて、前記高圧部7の圧力が設定圧力以下であるとき、その作動室6に流体を導入して補給する駆動方法を採用している。この補給のための流体の導入は原理的にはどのようにして行ってもよい。
【0031】
このように、固定、旋回スクロール5、3間の作動室6に高圧部の流体を導入して旋回スクロール3に作動室6が大きくなる側への旋回力を働かせて旋回させ、旋回動力を得ながら、高圧部7の圧力が何らかの理由で低下することがあっても、高圧部7の圧力が設定圧力以下になれば、所定位置にて作動室6に流体を導入することにより、作動室6が閉じる瞬間に導入されている流体の導入圧力や質量、導入容積が、高圧部7の圧力の設定圧以下への低下に伴って減少しているのを補えるし、低い導入圧力が原因して膨張比が小さくなるのを回避することができる。この結果、流体の質量の減少と過膨張損失の発生により、作動室6において旋回スクロール3が流体から得るエネルギーが極端に減少したり、効率が低下するのを防止することができる。
【0032】
作動室6の最小位置から最大側への移動分だけ流体が膨張して導入圧力よりもさらに低圧になっていて、高圧部7の圧力がどのように低下していてもそれとの間で流体を導入するための差圧が得られる。従って、作動室6を高圧部7に通じさせるだけで、つまり、特別な高圧流体供給源なしに上記の方法を実現することができる。しかし、特別な高圧流体供給源を用いてもよいのは勿論である。
【0033】
前記差圧による流体の導入は複数の所定位置で行えば、所定位置が異なると、それに対応する作動室6の移動位置が異なり、そこでの導入圧力に対する流体の膨張による異なった複数の圧力低下時点を利用して、差圧による流体の導入をよりきめ細かく図れる。また、異なった所定位置での差圧による流体の導入を、異なった設定圧力の基に行うと、前記異なった複数の圧力低下時点を利用するのに好適である。さらに、所定位置が作動室6の最小位置側であるほど設定圧力を大きくするとどの位置においても流体の導入に必要な差圧が得られやすい利便性がある。
【0034】
本実施の形態のスクロール膨張機は、以上のような駆動方法を実現するのに、図1〜図3に示す例、および図5〜図7に示す例のように、最小、最大位置側の間の作動室6に高圧部7を所定位置にて通じさせるバイパスポート14や19と、このバイパスポート14や19に前記高圧部7の圧力が設定圧力以下になると開くバルブ機構15や20を設けてある。これにより、既存の、それもスクロール膨張機において必須の高圧部7における流体を、バイパスポート14や19とバルブ機構15や20とにより適時に利用して自動的に安定して、閉じた作動室6内に差圧により流体の導入を図る前記駆動方法を達成することができ、作動室6に高圧部を通じさせるバイパスポート14や19とこれを高圧部7が所定圧力以下となったときに開くバルブ機構15や20を新たに設けるだけでよいので、スクロール膨張機の構造が特に複雑になったり、大型化したり、重量化したりせず、安価に提供できる。
【0035】
前記バイパスポート14や19を前記固定スクロール5の鏡板5bに設けてあるので、鏡板5bの背部の高圧部7から鏡板5bの板厚分の長さを有した短く真っ直ぐなバイパスポート14や19によって、作動室6への流体の導入が図れるので、加工が容易でさらに安価に実現する。前記バルブ機構15や20をボール15a、20aとコイルばね15b、20bで構成してあるので、構造が簡単で応答性がよく、圧力設定はコイルばね15b、20bのばね定数などによって簡単かつ正確に行える利点がある。
【0036】
また、作動室6が複数対称に形成され、バイパスポート14や19が対称な作動室6どうしに同時に通じるように複数設けられているので、通常駆動時に加え、高圧部7の圧力低下に基づくバイパスポート14や19を通じた流体の導入を伴う駆動時にも、対称な作動室6どうしの圧力バランス、旋回スクロール3の旋回バランスを確保することができる。
【0037】
図5〜図7に示す例では特に、バイパスポート14や19が2つずつ合計4個設けられており、4個以上を含んで、閉じた作動室6の前記異なった所定位置での流体の導入を実現するのに好適であるし、所定位置の数の設定によっては、前記圧力バランス、旋回バランスをも併せ得られる。
【0038】
前記作動室6が中央部から周辺部へ移動しながら容積が大きくなる本実施の形態において、前記バイパスポート14や19の前記中央部、つまり固定スクロールの軸線L2に近いものほど、前記設定圧力を大きくする。これにより設定圧力が大きくなるほど、流体の膨張度合いがより小さい、従って、圧力低下がより小さい所定位置での作動室6に流体を導入するようになるので、高圧部7の異なった複数の圧力低下に対し必要な差圧を常に得られて、作動室6にその圧力低下に見合った流体を導入することが容易になる。
【0039】
ここで、図1〜図3に示す例について、さらに詳述する。図3に作動室6の挙動を軸2および旋回スクロール3の回転角ないし旋回角90degごとに示してあるように、作動室6が旋回スクロール3の反時計回りの旋回を伴って中央部から周辺部に向け、6a〜6eを付して示す各作動室6へと移動しながら容積を増すようにしてある。これにより、固定スクロール5の軸線L2部に、作動室6に高圧部7から高圧の流体を導入する導入口5cを設けてある。高圧の流体は、導入パイプ9から高圧部7へ導かれた後、導入口5cを経て作動室6内へ取り込まれる。密閉された瞬間の一対の作動室6aは、そこに導入した流体が高圧であるために、旋回スクロール3のラップ3aおよび固定スクロール5のラップ5aに対し、作動室6aの容積を拡大しようとする力を作用させる。その結果、可動側である旋回スクロール3およびそのラップ3aが作動室6aから作動室6bへと作動室6が容積を増加する方向、すなわち固定スクロール5の軸線L2のまわりを反時計回りに旋回運動し、偏心軸受2aを介して軸2を同じ方向に回転駆動する。作動室6が外周側への移動で容積は増加し、流体の圧力は低下したが、依然として低圧部10の圧力よりも高く、作動室6の容積をさらに拡大しようとする力を作用させ続けるので、作動室6は作動室6c、作動室6dと容積を順次に増加させ、作動室6eと容積が最大に増加した直後に低圧部10に通じる。膨張して低圧になった流体は作動室6から低圧部10へ流れ出た後、排出パイプ11から排出される。
【0040】
特に、図1、図2に示すようなバイパスポート14を、固定スクロール5の鏡板5bに図3に示すように軸線L2を境にした対称位置に設け、それぞれに図2に示すようなバルブ機構15を備えている。なお、バイパスポート14は、固定スクロール5の鏡板5bに設けることにより、既述したように簡単な加工で作動室の一部と高圧部7を連通させることができ、鏡板5bのほぼ全域が高圧部2に対向しているので、バイパスポート14を設ける位置の選択の自由度が高いし、各所に設けやすい。本例でのバイパスポート14を設ける位置は、一方が固定スクロール5のラップ5aの巻き始め位置から360deg以内の外壁近傍、他方が、そこから固定スクロール5のラップ5aに沿って180deg巻き終り側へ移動した内壁近傍である。
【0041】
バイパスポート14とバルブ機構15の構成について説明する。バルブ機構15はボール15aと、コイルばね15bと、流路15dを有するばね台座15cから構成されている。バイパスポート14は固定スクロール5の鏡板5bの作動室6側の端面5dから加工され、高圧部7側の端面5eには貫通させない円筒部14aと、円筒部14aの底面と高圧部7側の端面5eの間を貫通する小孔14bを備えている。円筒部14aの内部には、高圧部7側から順にボール15aとコイルばね15bが配置されている。ボール15aは円筒部14aよりも僅かに小さい径であり、円筒部14aの内部で円筒部14aの軸方向に可動となっている。さらに、円筒部14aの作動室6側の入口からは、ばね台座15cが挿入、固定されており、コイルばね15bの一方の端面はばね台座15cに、他方の端面はボール15aに接している。
【0042】
次に、バイパスポート14のバルブ機構15の動作について説明する。図2を参照してボール15aに働く力のバランスを考える。ばね台座15cの流路15dの径をφdとし、作動室6の圧力をPvとすると、ボール15aの流路15dに面した部分のみ作動室6の圧力Pvが作用し、それ以外の部分には高圧部7の圧力、すなわち導入圧力Psが作用するので、ボール15aには次式で表される差圧による力Fが作用する。
【0043】
【数2】
この力Fがコイルばね15bの力よりも大きいと、図2(a)のようにボール15aはばね台座15cの流路15dを塞いだ状態となり、この力Fよりもコイルばね15bの力が大きいと、図2(b)のようにボール15aはばね台座15cの流路15dから離れる。言い換えれば、コイルばね15bのばね力とボール15aに働く差圧力Fが釣合う導入の設定圧力P1を境として、それより導入圧力Psが高くなればボール15aは流路15dを塞ぎ、低くなれば流路15dから離れる。このように、バイパスポート14はバルブ機構15により、導入圧力Psが設定圧力P1よりも大きい場合には閉じ、小さい場合には開くという動作を行う。
【0044】
次に、このようなバイパスポート14およびバルブ機構15を有した本例のスクロール膨張機の動作を説明する。導入圧力Psが設定圧力P1よりも大きい場合、バイパスポート14のバルブ機構15は閉じており、高圧の流体は、導入パイプ9から高圧部7へ導かれた後、導入口5cのみを経て作動室6内へ取り込まれるため、図3に符号6aで示す作動室6が密閉された瞬間の一対の作動室となり、その容積をVaとすると、膨張機の導入容積はVaである。それに対し、導入圧力Psが設定圧力P1よりも小さい場合、バイパスポート14のバルブ機構15が開き、高圧の流体は、導入パイプ9から高圧部7へ導かれた後、導入口5cおよびバイパスポート14を経て作動室6内へ取り込まれるため、図3に符号6cで示す作動室6が密閉された瞬間の一対の作動室6aとなり、その容積をVcとすると、膨張機の導入容積はVcとなる。図3から明らかなように、Vc>Vaであるので、導入圧力Psが設定圧力P1以下になると導入容積が増加していることがわかる。また、同時に容積比は(Ve/Va)から(Ve/Vc)へと減少していることがわかる。ここで、Veは低圧部10と連通する直前の作動室6eの容積である。
【0045】
次に、図4に示す作動室6のPV線図を参照して、本例のスクロール膨張機の効果について説明する。図4(a)の斜線部分16の面積は導入圧力Psが設定圧力P1よりも高い場合に作動室6において流体から得るエネルギーを示している。また、図4(b)の斜線部分17aの面積から斜線部分17bの面積を引いた面積は、バイパスポート14を設けていない従来のスクロール膨張機において、導入圧力Ps’が設定圧力P1よりも低い場合に流体から得るエネルギーを示している。ここで、斜線部分17bで示す面積分が過膨張損失である。これらの図を比較すると、導入圧力がPsからPs’まで低下することにより、流体から得るエネルギーは、導入容積が一定であることと、過膨張損失により、大幅に減少していることがわかる。それに対して、図4(c)の斜線部分18で示す面積は、バイパスポート14を設けた本例の膨張機において、導入圧力Ps’が設定圧力P1よりも低い場合に流体から得るエネルギーを示している。バイパスポート14とバルブ機構15を設けることにより、導入容積はVcまで増加し、容積比が(Ve/Vc)まで低下したことにより、図4(c)の斜線部18で示す面積が図4(b)の斜線部17aで示す面積よりも増加したうえに、斜線部17bで示す面積分の過膨張損失もなくなっている。従って、従来のスクロール膨張機と比べて、流体から多くのエネルギーを得ることができるとともに、効率も向上することがわかる。
【0046】
また、図5、図6に示す例について詳述する。作動室6の挙動を、軸2および旋回スクロール3の固定スクロール5の軸線L2まわりの回転角度ないしは旋回角度90degごとに示している図5から明らかなように、図1〜図3に示す先の例でのバルブ機構15を備えた一対のバイパスポート14に加えて、一対のバイパスポート19を追加してある。バイパスポート19は作動室6の一部に高圧部7を通じさせており、図6に示すバルブ機構20を備えている。
【0047】
バイパスポート19を設ける位置は、一方が固定スクロール5のラップ5aの巻き始め位置から360deg以内の外壁近傍であって、かつ、外壁近傍に設けたバイパスポート14よりも巻き始め側、他方が、そこから固定スクロール5のラップ5aに沿って180deg巻き終り側へ移動した内壁近傍である。
【0048】
バイパスポート19とバルブ機構20の構成は、先の例で説明したバイパスポート14とバルブ機構15の構成と同様である。バイパスポート19は円筒部19aと小孔19bから構成されており、バルブ機構20はボール20aと、コイルばね20bと、ばね台座20cと、ばね台座20cに設けた流路20dから構成されている。ただし、バルブ機構20のコイルばね20bには、バルブ機構15のコイルばね15bよりもばね力が大きいものを用いている。
【0049】
バイパスポート14のバルブ機構15の動作は先の例で説明した通りである。また、バイパスポート19のバルブ機構20もこれと同様の動作を行う。コイルばね15bとコイルばね20bとのばね力の違いに対応したバルブ機構15の開閉の設定圧力をP1、バルブ機構20の開閉の設定圧力をP2とすると、バルブ機構20のコイルばね20bのばね力がバルブ機構15のばね力よりも大きいため、P1<P2の関係が成り立つ。他の構成は先の例と特に変わるところはないので、共通する部材は同一の符号を用いて示し、重複する図示および説明は省略する。
【0050】
本例のスクロール膨張機の動作を説明する。導入圧力Psが設定圧力P2よりも高い場合、バイパスポート14のバルブ機構15およびバイパスポート19のバルブ機構20は閉じており、高圧の流体は、導入パイプ9から高圧部7へ導かれた後、導入口5cのみを経て作動室6内へ取り込まれるため、図5に符号6aで示す作動室6が密閉された瞬間の一対の作動室となり、その容積をVaとすると、膨張機の導入容積はVaである。次に、導入圧力Ps’が設定圧力P2よりも低く、設定圧力P1よりも高い場合、バイパスポート19のバルブ機構20は開き、バイパスポート14のバルブ機構15は閉じたままである。このとき、高圧の流体は、導入パイプ9から高圧部7へ導かれた後、導入口5cおよびバイパスポート19を経て作動室6内へ取り込まれるため、図5に符号6bで示す作動室6が密閉された瞬間の一対の作動室となり、その容積をVbとすると、膨張機の導入容積はVbとなる。それに対し、導入圧力Ps’’が設定圧力P1よりも低い場合、バイパスポート14のバルブ機構15も開き、高圧の流体は、導入パイプ9から高圧部7へ導かれた後、導入口5c、バイパスポート14およびバイパスポート19を経て作動室6内へ取り込まれるため、図5に符号6cで示す作動室6が密閉された瞬間の一対の作動室となり、その容積をVcとすると、膨張機の導入容積はVcとなる。図3から明らかなように、Vc>Vb>Vaであるので、導入圧力Psが低くなるほど段階的に導入容積が増加していることがわかる。また、同時に容積比は(Ve/Va)から(Ve/Vb)、(Ve/Vc)へと減少していることがわかる。ここで、Veは低圧部10と連通する直前の作動室6eの容積である。
【0051】
次に、図7に示す作動室6のPV線図を参照して、本例の形態のスクロール膨張機の効果について説明する。図7のAEDHの面積は、導入圧力Psが設定圧力P2よりも高い場合に作動室6において流体から得るエネルギーを示している。この場合、バイパスポート14のバルブ機構15とバイパスポート19のバルブ機構20は閉じた状態である。一方、導入圧力Ps’が設定圧力P2よりも低く、設定圧力P1よりも高い場合、バイパスポート19のバルブ機構20は開いており、導入容積がVaからVbに増加するとともに、容積比も(Ve/Va)から(Ve/Vb)に低下しているため、流体から得るエネルギーは図7のBEDGの面積となる。また、導入圧力Ps’’が設定圧力P1よりも低い場合、バイパスポート14のバルブ機構15およびバイパスポート19のバルブ機構20は開いており、導入容積がVaからVcに増加するとともに、容積比も(Ve/Va)から(Ve/Vc)に低下しているため、流体から得るエネルギーは図7のCEDFの面積となる。以上、図7からわかるように、バイパスポート14のバルブ機構15およびバイパスポート19のバルブ機構20を併用したことにより、導入圧力Psの変化に対応して、より細かく導入容積および容積比を変化させることが可能であり、実施の形態1よりもさらに多くのエネルギーを流体から得ることができるとともに、効率も向上することがわかる。
【0052】
【発明の効果】
以上述べてきたように、本発明によれば、高圧部の圧力が何らかの理由で低下することがあっても、高圧部の圧力が設定圧力以下になれば、作動室に差圧により流体を導入するので、高圧部の圧力低下に対応して導入容積および導入,排出の容積比が可変となり、流体からより多くのエネルギーを得ることができるとともに、過膨張損失を防止し効率を向上させることができる。
【0053】
また、前記バルブ機構をボールとコイルばねを用いて構成したことにより、簡単な構成でバルブ機構を構成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態に係るスクロール膨張機の1つの例を示す縦断面図。
【図2】 図1のスクロール膨張機のバイパスポート部の断面図。
【図3】 図1のスクロール膨張機の作動室の挙動を旋回角度ごとに示す展開図。
【図4】 図1のスクロール膨張機の作動室でのPV線図。
【図5】 本発明の実施の形態に係るスクロール膨張機の別の例での作動室の挙動を旋回角度ごとに示す展開図。
【図6】 図5のスクロール膨張機のバイパスポート部の断面図。
【図7】 図5のスクロール膨張機の作動室でのPV線図。
【図8】 従来のスクロール膨張機の縦断面図。
【図9】 図8のスクロール膨張機の作動室の挙動を旋回角度ごとに示す断面図。
【図10】 図8のスクロール膨張機の作動室でのPV線図。
【符号の説明】
3 旋回スクロール
3a 旋回スクロールのラップ
5 固定スクロール
5a 固定スクロールのラップ
5b 鏡板
5c 導入口
6、6a〜6e 作動室
7 高圧部
14、19 バイパスポート
15、20 バルブ機構
15a、20a ボール
15b、20b コイルばね
Claims (3)
- 高圧の流体を高圧部から作動室に導入し、前記作動室で流体が膨張することによって軸が回転し、膨張後の流体を低圧部に排出するように構成された容積型膨張機であって、
密閉された瞬間の前記作動室の最小の容積と、前記低圧部に連通する直前の前記作動室の最大の容積との比が一定であり、
膨張過程にある前記作動室に前記高圧部の流体を導入可能なバイパスポートと、前記バイパスポートに設けられたバルブ機構と、を備え、
前記高圧部の圧力が理想的な導入圧力Psよりも低い設定圧力P1以下であるとき、前記低圧部より圧力が高い前記作動室の所定位置に、前記高圧部の流体を前記バイパスポートから導入する、ことを特徴とする容積型膨張機。 - 前記バルブ機構は、前記高圧部の流体と膨張過程の前記作動室の流体との差圧によって開閉動作を行う、請求項1に記載の容積型膨張機。
- 前記バルブ機構は、ボールとコイルばねとで構成されている、請求項2に記載の容積型膨張機。
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