JP4074109B2 - 架橋含浸フィルム及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムにフッ素系共重合体及びフルオロオリゴエーテルからなる組成物が含浸されたフィルム、その架橋フィルム及び前記架橋フィルムからなる燃料電池用隔膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池用隔膜には、取扱条件下及び実用条件下における高い強度及び高い耐久性が望まれている。これらを達成する方法として、ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムによる補強方法(例えば、特表平11−501964号公報)やスルホンイミド化等による架橋方法(例えば、特開2000−188013号公報)等が提案されている。
【0003】
しかしながら、特表平11−501964号公報に記載された補強方法では、フィルム取扱時の強度は向上できるものの、原料の溶液が電解質型(SO3H型等)の官能基を含有するフッ素系共重合体より形成されているため、官能基を含有するフッ素系共重合体の樹脂間及び樹脂と基材ポリテトラフルオロエチレン樹脂間に十分な接着強度を付与することが困難であり、長期耐性が充分ではなかった。特開2000−188013号公報に記載された架橋方法では、耐久性(高温耐性)を向上させる点では効果があるものの、架橋構造の均質性に欠けるため、フィルムの処理や備え付け等の取扱時の寸法安定性や強度が不十分であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点を解消するものであり、取扱時の応力に耐える高い強度と実用条件下における高い耐久性を共に達成し得る含浸フィルム、それから得られる架橋含浸フィルム、及びこの架橋含浸フィルムからなる新規な燃料電池用隔膜、及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムに、非電解質SO2F型官能基含有フッ素系3元共重合体(スルホンイミド架橋前駆体であるスルホンアミド基を含有するフッ素系3元共重合体)とフルオロオリゴエーテルとからなる組成物が含浸されてなるフィルムにより、上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0011】
[ 1 ] 化学式(1)、(5)及び(3)で示す繰り返し単位からなり、繰り返し単位のモル比は、化学式(5)の単位1モルに対して、化学式(1)の単位は2〜20モル、化学式(3)の単位は0.001〜1モルであるパーフルオロ共重合体であって、化学式(3)のスルホンアミド基の少なくとも一部は化学式(6)に示すスルホンイミド構造により架橋している共重合体がポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムの空隙に存在していることを特徴とする架橋含浸フィルム。
【0012】
【化17】
【0013】
【化18】
【0014】
【化19】
【0015】
【化20】
(式中、n及びn’は、それぞれ独立に0〜2の整数、m及びm’は、それぞれ独立に1〜4の整数、q及びq’は、それぞれ独立に1〜4の整数、R及びR’は、それぞれ独立にH、非置換炭化水素基又は置換炭化水素基である。)
【0016】
[ 2 ] 化学式(1)、(2)及び(3)で示す繰り返し単位からなり、繰り返し単位のモル比は、化学式(2)の単位1モルに対して、化学式(1)の単位は2〜20モル、化学式(3)の単位は0.001〜1モルであるパーフルオロ共重合体100質量部に対して、化学式(4)で示す繰り返し単位の一種又は二種以上からなる、重合度6〜100の液状のフルオロオリゴエーテル200〜10000質量部からなり、該パーフルオロ共重合体がフルオロオリゴエーテル中に分散されてなる組成物を、ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムに塗布し、加圧下に160〜340℃に加熱する工程を経て得られる含浸フィルムを、ルイス塩基で処理した後、加水分解及び酸処理する工程を経て製造されることを特徴とする [ 1 ] 記載の架橋含浸フィルムの製造方法。
【0017】
【化21】
【0018】
【化22】
【0019】
【化23】
【0020】
【化24】
(式中、n及びn’は、それぞれ独立に0〜2の整数、m及びm’は、それぞれ独立に1〜4の整数、Rは、H、非置換炭化水素基又は置換炭化水素基、Rfは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキレン基である。)
【0021】
[ 3 ] [ 1]に記載の架橋含浸フィルムからなる燃料電池用隔膜。
[ 4 ] 化学式(1)、(2)及び(3)で示す繰り返し単位からなり、繰り返し単位のモル比は、化学式(2)の単位1モルに対して、化学式(1)の単位は2〜20モル、化学式(3)の単位は0.001〜1モルであるパーフルオロ共重合体100質量部に対して、化学式(4)で示す繰り返し単位の一種又は二種以上からなる、重合度6〜100の液状のフルオロオリゴエーテル10質量部以下を含む組成物がポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムの空隙に含浸されていることを特徴とする [ 1 ] に記載の架橋含浸フィルムの製造に用いる前駆体フィルム。
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
(式中、n及びn’は、それぞれ独立に0〜2の整数、m及びm’は、それぞれ独立に1〜4の整数、Rは、H、非置換炭化水素基又は置換炭化水素基、R f は、炭素数1〜4のパーフルオロアルキレン基である。)
[ 5 ] 化学式(1)、(2)及び(3)で示す繰り返し単位からなり、繰り返し単位のモル比は、化学式(2)の単位1モルに対して、化学式(1)の単位は2〜20モル、化学式(3)の単位は0.001〜1モルであるパーフルオロ共重合体100質量部に対して、化学式(4)で示す繰り返し単位の一種又は二種以上からなる、重合度6〜100の液状のフルオロオリゴエーテル200〜10000質量部からなり、パーフルオロ共重合体がフルオロオリゴエーテル中に分散されてなる組成物を、ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムに塗布し、加圧下に160〜340℃に加熱する工程を含むことを特徴とする [ 4 ] に記載の架橋含浸フィルムの製造に用いる前駆体フィルムの製造方法。
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
(式中、n及びn’は、それぞれ独立に0〜2の整数、m及びm’は、それぞれ独立に1〜4の整数、Rは、H、非置換炭化水素基又は置換炭化水素基、R f は、炭素数1〜4のパーフルオロアルキレン基である。)
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
(ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムに本発明の組成物が含浸されてなるフィルム)
ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムに、本発明の組成物が含浸されてなるフィルム(以下、含浸フィルム、という)には、本発明の組成物が、通常、50〜95質量%含有される。含有率が高くなり過ぎると、基材となるポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルム(以下、基材フィルム、という)の強度が低下し、含有率が低くなり過ぎると、燃料電池用隔膜に変換した後のプロトン伝導性が低下しやすくなる。この含有率は、基材フィルムの空隙率や強度等に依存し、製造の過程で決定される。
【0023】
本発明の含浸フィルムは、基材フィルムに、化学式(1)、(2)及び(3)で示す繰り返し単位からなり、繰り返し単位のモル比は、化学式(2)の単位1モルに対して、化学式(1)の単位は2〜20モル、化学式(3)の単位は0.001〜1モルであるパーフルオロ共重合体100質量部に対して、化学式(4)で示す繰り返し単位の一種又は二種以上からなる、重合度6〜100の液状のフルオロオリゴエーテル10質量部以下を含む組成物が含有されている点に特徴がある。
【0024】
【化25】
【0025】
【化26】
【0026】
【化27】
【0027】
【化28】
(式中、n及びn’は、それぞれ独立に0〜2の整数、m及びm’は、それぞれ独立に1〜4の整数、Rは、H、非置換炭化水素基又は置換炭化水素基、Rfは、炭素数1〜4のパーフルオロアルキレン基である。)
【0028】
本発明の含浸フィルムは、非電解質SO2F型の側鎖末端官能基を含有し、溶融成形及び加熱融着が可能であるため、構造安定性に優れている。更に、化学式(2)のSO2F型官能基と化学式(3)のSO2NHR型官能基とのルイス塩基による反応によって、化学式(6)で示すスルホンイミド架橋構造を導入することにより、耐久性をより大きくできるという優れた効果を有する。
【0029】
すなわち、本発明の含浸フィルムは、加熱融着可能な非電解質SO2F型官能基を有するため、その製造過程において基材フィルムの−(CF2)−連鎖からなる分子鎖との間の接着強度を大きくでき、加えて含浸されたパーフルオロ共重合体が強固な固体構造を形成できるため、含浸フィルムの構造の安定性が極めて大きく、更に、ルイス塩基で処理して、化学式(6)で表されるスルホンイミド架橋構造を導入することにより、大きな強度及び耐久性の2つを同時に実現することが可能である。
【0030】
【化29】
(式中、R’は、水素、又は非置換又は置換炭化水素、q及びq’は、それぞれ独立に1〜4の整数である。)
【0031】
本発明の含浸フィルムは、スルホンイミド架橋構造の導入工程、含有される官能基の塩型への変換工程(加水分解工程)、及びそれに続く酸型への変換工程での寸法安定性に優れている。また、備え付け等の取扱時における寸法安定性、実用に供された後の寸法安定性にも優れ、かつ、強固な構造を維持することができる。
【0032】
パーフルオロ共重合体に含有される官能基の塩型への変換工程(加水分解工程)には、例えば、水酸化アルカリ金属の水溶液又はアルコール類やジメチルスルホキシド等の有機溶剤を膨潤剤とした水酸化アルカリ金属の水溶液が用いられ、通常は、10〜95℃の温度下に処理が行なわれる。塩型の官能基の酸型への変換工程には、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸が用いられ、通常は、10〜95℃の温度下に処理が行なわれる。これらの官能基の変換方法については、公知の方法が広く用いられる。
【0033】
(イ)ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルム(基材フィルム)
基材フィルムとして、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルムが選ばれるが、その理由は、ポリテトラフルオロエチレンの高い化学的・熱的安定性にある。この基材フィルムにおける、膜厚み、空孔の平均孔径、及び空隙率は限定されることなく、幅広く採用され、用途及び目的に応じて選択される。例えば、膜厚みは、通常、5〜200μm程度、空孔の平均孔径は、通常、0.1〜100μm程度、空隙率は、通常、50〜95%程度である。
【0034】
(ロ)組成物に含有されるパーフルオロ共重合体
本発明の組成物に含有されるパーフルオロ共重合体は、オリフィスの内径2.09mm、長さ8mmの装置を用いてメルトインデックスを測定すると、温度250〜290℃、荷重21.2Nの条件で、通常、0.01〜500g/10分(換算値)の範囲内にあるのが好ましい。
このパーフルオロ共重合体は、化学式(2)の単位1モルに対して、化学式(1)の単位のモル比(p)は2〜20であり、化学式(3)の単位のモル比(p’)は0.001〜1、好ましくは0.01〜0.1である。pが2未満の場合は、含浸フィルムの樹脂部に十分な強度及び耐性を付与できるに足る大きな重合度の達成が困難となり、20を越えると、膜に十分に大きなイオン伝導度を付与することができない。p’が0.001未満の場合は、イミド架橋構造を導入した後の、十分な架橋効果(耐熱性)が得られず、1を越えると、膜製造に際して、加熱溶融時の樹脂間又は樹脂と基材間との十分な接着性が得られない。p及びp’の値は、用途に応じて適宜選択され、重合条件を適当に選ぶことにより調節することができる。
【0035】
本発明の組成物中に、二種以上のパーフルオロ共重合体が混在していてもよい。
本発明の組成物に含有されるパーフルオロ共重合体は、非電解質SO2F型の側鎖末端官能基を含有するため、膜製造の際に、加熱融着により樹脂間及び樹脂と基材間の接着強度を高め、耐久性を向上できる点に大きな特徴を有する。
【0036】
(ハ)組成物に含有されるフルオロオリゴエーテル
本発明の組成物に含有されるフルオロオリゴエーテルは、化学式(4)で示す繰り返し単位の一種又は二種以上からなる、液状のフルオロオリゴエーテルである。化学式(4)で示す、一種の繰り返し単位からなるオリゴマーであっても、二種以上の繰り返し単位からなるオリゴマーであってもよい。後者の例として、二種以上の繰り返し単位がランダムに結合したもの、各繰り返し単位のブロックが結合したもの等がある。「液状」とは、60℃以下の温度においても液状又はオイル状を示し、流動性を示すことを表わす。
【0037】
フルオロオリゴエーテルの重合度は6〜100であり、好ましくは6〜60 である。重合度が6未満の場合は沸点が低く蒸気圧が大きいため、モノマーや重合溶剤の除去、パーフルオロ共重合体との安定な組成物の形成、及び高温下(160℃以上)での取扱が困難であり、100を越えると重合収率が低くなるため経済的に不利であり、また、粘度が大きくなり過ぎて取扱が困難になる。
フルオロオリゴエーテルは、そのエーテル結合により分子の自由度が高いため、より分子量の高いものを用いることができる。そのため、高温下でも蒸気圧が低いという利点がある。更に、フルオロオリゴエーテルは、そのエーテル構造故に、高分子量体であってもオイル状、すなわち、流動性を示すため、100量体もの高分子量体まで用いることが可能である。
【0038】
フルオロオリゴエーテルの分子鎖末端基の化学構造には制約がないが、高温で処理される場合には、その温度で安定な構造であることが好ましく、分子鎖末端にカルボン酸基を持たない構造がより好ましい。
フルオロオリゴエーテルの具体例としては、市販され、入手し易いものとして、−(CF(CF3)−CF2−O)、−(CF2CF2CF2−O)−、又は−(CF2−O)と−(CF2−CFY−O)−の繰り返し単位を有するものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、例えば、デュポン社よりKrytox(登録商標)、ダイキン社よりデムナム(登録商標)、アウジモント社よりFOMBLIN(登録商標)として入手できる。これらのフルオロオリゴエーテルは、何れも分子鎖末端がCF3基であり、熱的に極めて安定な構造を有するので好ましい。
【0039】
3種以上の異なる繰り返し単位を含むフルオロオリゴエーテルとして、例えば、−(CF2−O)、−(CF(CF3)−O)−及び、−[CF(CF3)−CF2−O]−を含む構造単位からなるものが挙げられる。
これらのフルオロオリゴエーテルは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。フルオロオリゴエーテルとしては、通常、0〜100℃における動粘度が0.1〜5cm2/secの範囲内にある液体が好ましく用いられ、低粘度〜高粘度のものまで、用途・目的に応じて適宜選択される。
【0040】
フルオロオリゴエーテルは熱的・化学的に極めて安定であるため、本発明の架橋含浸フィルム中に、パーフルオロ共重合体100質量部に対してフルオロオリゴエーテルが10質量部以下、好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.1質量部以下含まれていてもよく、フィルム中の含有率が0であってもよい。
フルオロオリゴエーテルの含有率が少ないほど、フィルムの高い耐久性を実現できる。
【0041】
(ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムに、架橋された本発明のパーフルオロ共重合体が含浸されてなるフィルム)
ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルム(基材フィルム)に、架橋された本発明のパーフルオロ共重合体が含浸されてなるフィルム(以下、架橋含浸フィルム、という)は、本発明のパーフルオロ共重合体が、通常、50〜95質量%含有される。含有率が高くなり過ぎると、基材フィルムの強度が低下し、含有率が低くなり過ぎると、燃料電池用隔膜に変換した後のプロトン伝導性が低下しやすくなる。この含有率は、前駆体である前記含浸フィルムにおけるパーフルオロ共重合体の含有率に依存し、製造の過程で決定される。
【0042】
フルオロオリゴエーテルは熱的・化学的に極めて安定であるため、本発明の架橋含浸フィルム中に、パーフルオロ共重合体100質量部に対してフルオロオリゴエーテルが10質量部以下、好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.1質量部以下含まれていてもよく、フィルム中の含有率が0であってもよい。
フルオロオリゴエーテルの含有率が少ないほど、フィルムの高い耐久性を実現できる。
【0043】
本発明の架橋含浸フィルムは、基材フィルムに、化学式(1)、(5)及び(3)で示す繰り返し単位からなり、繰り返し単位のモル比は、化学式(5)の単位1モルに対して、化学式(1)の単位は2〜20モル、化学式(3)の単位は0.001〜1モルであるパーフルオロ共重合体であって、化学式(3)のスルホンアミド基の少なくとも一部は化学式(6)に示すスルホンイミド構造により架橋している共重合体が含有されている点に特徴がある。
【0044】
【化30】
【0045】
【化31】
【0046】
【化32】
【0047】
【化33】
(式中、n及びn’は、それぞれ独立に0〜2の整数、m及びm’は、それぞれ独立に1〜4の整数、q及びq’は、それぞれ独立に1〜4の整数、R及びR’は、それぞれ独立にH、非置換炭化水素基又は置換炭化水素基である。)
【0048】
本発明の架橋含浸フィルムは、高い耐久性を有する。例えば、水/エタノール=56/44質量比の混合液で120℃で4時間加熱処理を施した場合でも、溶解抽出されるパーフルオロ共重合体の量は、初めに含有されていた官能基含有パーフルオロ共重合体の50質量%以下(実質的には10質量%以下)という優れた構造安定性を示す。
【0049】
よりマイルドな水単独系の条件下(実用条件に近い条件下)であれば、このフィルムは、150℃もの高温履歴を受けても、溶解抽出されるパーフルオロ共重合体は殆ど無い(実質的に0%)という優れた構造安定性を示す。
従来技術であるSO3H型パーフルオロカーボン共重合体を、予め、水/アルコール系の混合液に溶解した溶液を用いて含浸させてなる膜の場合は、上記の水/エタノール=56/44質量比の混合液における120℃、4時間の履歴を与えた場合にはほぼ完全に構造が破壊され(90質量%を超える殆ど大部分の樹脂が溶出及び/又は脱落する)、更には、この従来の含浸膜は、よりマイルドな水単独系の条件下においてさえ、150℃の高温履歴を受けた場合は、ほぼ完全に構造が破壊される(90質量%を越える殆ど大部分の樹脂が溶出及び/又は脱落する)のとは極めて対照的である。
【0050】
また、この従来の含浸膜では、製造原料であるフッ素系共重合体に含有される官能基が電解質型(SO3H型、SO3Na型等)であるため、本発明のパーフルオロ共重合体含浸フィルムにおけるような均質なスルホンイミド架橋構造を導入することは実質的に不可能であり、耐久性の向上は極めて困難であるという本質的な問題点を有する。
【0051】
(含浸フィルムの製造方法)
本発明の含浸フィルムの製造方法によれば、150℃以下の温度、通常は室温にて、基材フィルムに本発明の組成物が塗布される。組成物の塗布方法は、基材フィルムの片面に塗布する方法でも、両面に塗布する方法でもよい。また、別の基材(例えば、ポリテトラフルオロエチレン製のシート、カプトン(登録商標、デュポン社製)フィルム、アルミフォイル等の一種又は二種)に組成物を塗布し、塗布した面で基材フィルムを挟み込む方法を採用してもよい。基材フィルムの両面に塗布する方法においては、各々に異なる組成物を用いることもでき、含浸フィルムの膜厚方向で2層の異なるパーフルオロ共重合体の層を一段で形成させることも可能である。
【0052】
組成物の塗布量は限定されないが、基材フィルムの組成物を含浸させる面積に対して、通常、基材フィルムの空隙の体積と同一体積量から10倍体積量が用いられる。組成物の塗布量は、好ましくは、含有されるパーフルオロ共重合体の体積が基材フィルムの空隙の体積と同一体積量から3倍体積量である。塗布量が同一体積量より少ないとパーフルオロ共重合体の十分な含浸を行うのが困難になり、3倍体積量を越えると、余剰の組成物が系外に除去されやすくなる。基材フィルムの空隙部が全て、本発明の組成物で充填されていることが好ましい。
【0053】
意図的に基材フィルムの表面にパーフルオロ共重合体の単独層を形成させる場合は、この限りではなく、膜電極接合体とする場合に、ガス拡散電極層を構成する樹脂と、膜との間に十分な接着性を付与でき、膜とガス拡散電極層との界面の抵抗による電圧損失を低減できるため、有効に作用する。
塗布に用いる組成物は、パーフルオロ共重合体の濃度の大きいものを用いることが好ましい。この理由は、一段で十分な量のパーフルオロ共重合体を含浸でき、また、経済的にも有利であるからである。
【0054】
本発明の含浸フィルムの製造方法によれば、基材フィルムに、本発明の組成物が塗布され、加圧下に160〜340℃に加熱され、基材フィルムの空隙にパーフルオロ共重合体を含む組成物を含浸させるのと同時に加熱固定され、パーフルオロ共重合体を含む組成物が含有されてなる含浸フィルムが形成される。この過程で、このフィルムに含有されるフルオロオリゴエーテルは、パーフルオロ共重合体100質量部に対して、通常、100質量部以下になる。この後、含フッ素溶剤を用いてフルオロオリゴエーテルが洗浄除去され、含有されるフルオロオリゴエーテルを、パーフルオロ共重合体100質量部に対し、10質量部以下、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下に低減される。洗浄後に乾燥して含フッ素溶剤を除去した後に、加熱又は加熱プレスを行うのが好ましく、これにより樹脂間、樹脂と基材フィルム間の接着強度を大きく高められる。また、上記含浸処理を繰り返し行ってもよく、含浸フィルムにおけるパーフルオロ共重合体の含有率を増大させる上で有効に作用する場合がある。
【0055】
本発明の含浸フィルムの製造方法に用いられる本発明の組成物(以下、原料組成物、という)は、化学式(1)、(2)及び(3)で示す繰り返し単位からなり、繰り返し単位のモル比は、化学式(2)の単位1モルに対して、化学式(1)の単位は2〜20モル、化学式(3)の単位は0.001〜1モルであるパーフルオロ共重合体100質量部に対して、化学式(4)で示す繰り返し単位の一種又は二種以上からなる、重合度6〜100の液状のフルオロオリゴエーテル200〜10000質量部を含有する。
【0056】
フルオロオリゴエーテルが200質量部未満の場合は、基材フィルムの空隙への含浸が困難になるため本発明の効果が小さくなり、フルオロオリゴエーテルが10000質量部を越えると、経済的に不利である。
本発明の原料組成物は、平均粒子径が100μm以下のパーフルオロ共重合体粒子が安定にフルオロオリゴエーテル中で分散した構造をとることができる。分散粒子の「平均粒子径」とは、パーフルオロ共重合体の含有率が0.1質量%程度となるようにフルオロオリゴエーテルで希釈した分散液を用いて、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定され算出される平均粒子径を示す。この原料組成物は、孔径が0.1μmもの極めて小さい多孔質からなる基材フィルムであっても、パーフルオロ共重合体を含む組成物を容易に含浸できるという優れた効果を有する。
【0057】
この構成の原料組成物は、通常、白濁したペースト状の形態を有する。パーフルオロ共重合体とフルオロオリゴエーテルとの比率は、パーフルオロ共重合体の当量質量(EW)、分子量、SO2F型官能基とSO2NHR型官能基との比率、及びフルオロオリゴエーテルの性質、分子量等に応じて適宜、設定され、目的・用途に応じて、パーフルオロ共重合体を含有する重合液組成物から本発明の組成物を形成させる際に、又は重合前に添加するフルオロオリゴエーテルの量と、重合方法及び条件により決定される。
【0058】
本発明の原料組成物は、長期にわたる貯蔵安定性を有し、液状のフルオロオリゴエーテルが余剰に存在し、フルオロオリゴエーテルで溶媒和され膨潤されたパーフルオロ共重合体の微分散粒子がフルオロオリゴエーテル中に安定に分散した構造となっている。したがって、フルオロオリゴエーテルを過剰に増やしても本発明の原料組成物の性状は維持され変化しない。
なお、余剰のフルオロオリゴエーテルを含有する組成物は、長時間静置することにより、通常、白濁したペースト状物(ゲル状物)が沈降して2相分離するが、組成物の特性には全く影響が無い。この場合は、使用時に攪拌して均質な組成物として用いることができる。また、デカント法や減圧濾過等による余剰のフルオロオリゴエーテルの除去により、組成物の本来の性質を損なうことなく、パーフルオロ共重合体濃度を増大させることが可能である。
【0059】
本発明の原料組成物は、従来技術である溶融混練法によっては製造できない新規なものであり、加えて、含有されるフルオロオリゴエーテルによる可塑化効果によって極めて優れた溶融成形加工性を有するものである。
本発明の、含浸フィルムの製造方法によれば、本発明の原料組成物が基材フィルムに塗布され、加圧下で160〜340℃に加熱され、基材フィルムの空隙にパーフルオロ共重合体を含む組成物を含浸させるのと同時に加熱固定され、この過程においてパーフルオロ共重合体の固体構造が形成される。加熱温度は、パーフルオロ共重合体の固体構造の形成の観点から160℃以上、パーフルオロ共重合体の熱分解性の観点から340℃以下が選ばれる。
【0060】
加圧方法としては、例えば、プレス成形方法が採用される。加圧の際の圧力は限定されないが、通常、0.01〜100MPaであり、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは1MPa以上である。圧力があまりに小さいと、基材フィルムの空隙への含浸が十分に行われにくく、圧力が大きすぎると、強度の弱い基材フィルムの場合には、孔が潰れパーフルオロ共重合体の含有率が少なくなる。
【0061】
本発明の製造方法によると、加圧と同時に160〜340℃に加熱されるが、より厳密には、加圧された状態で160℃以下の低温から160〜340℃に昇温するのが好ましい。この理由は、加圧される以前に160〜340℃に加熱された場合、パーフルオロ共重合体の完全な固体構造が形成され、基材フィルムの空隙への含浸が困難になる場合があるからである。加圧下の上記昇温に要する時間は限定されない。
【0062】
加圧下に加熱処理することによって、多孔質フィルムの空隙にパーフルオロ共重合体を含む組成物が含有されると同時に、分離した液体フルオロオリゴエーテルがポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムの外側に排出される。フルオロオリゴエーテルは、含フッ素溶剤を用いて、通常、含フッ素溶剤の常圧沸点以下の温度にて容易に洗浄抽出除去される。更に、110℃程度以下の温度で減圧乾燥され、含フッ素溶剤が除去される。
【0063】
基材フィルムの空隙に含有されたパーフルオロ共重合体間の接着強度を高める目的で、また、基材のポリテトラフルオロエチレンとパーフルオロ共重合体との相互作用を高め接着性を向上させる目的で、続いて160〜340℃の加熱処理又は加熱プレス処理を加えるのが好ましい。
(含浸フィルムにスルホンイミド架橋構造の導入方法)
本発明の含浸フィルムは、含有されるスルホンアミド基の少なくとも一部を化学式(6)に示すスルホンイミド構造により架橋することにより耐久性を更に向上させることが可能である。
【0064】
スルホンイミド架橋構造化に用いられるルイス塩基としては広範囲のものを採用でき、各種の有機窒素化合物系ルイス塩基(飽和、不飽和、環式、非環式を含む)を用いることができる。例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジメチルアニリン等の3級アミン類、N(CH2CH2OCF2CHFCF3)3で代表されるフッ素原子で部分置換された3級アミン類、ピリジン、アルキル置換ピリジン、キノリン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン(DBN)、イミダゾールあるいはその誘導体等の各種の複素環アミン類が挙げられる。
【0065】
この架橋反応には、ルイス塩基自体を単独で用いてもよいし、含フッ素溶剤、グライム類、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒等のハイドロカーボン系溶剤、及びこれらの混合溶剤を溶媒として用いてもよい。架橋反応において、反応溶液中に多量の水が存在すると、パーフルオロ共重合体中のSO2F型官能基の加水分解が顕著となり、目的とする架橋構造の均質な形成が妨げられるので、この処理の際には系内への水の混入を極力防ぐことが好ましい。反応温度は、通常、0℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上であり、上限温度としては200℃以下、好ましくは150℃以下である。
(原料組成物の製造方法)
本発明の原料組成物の製造方法は、重合後にフルオロオリゴエーテルを添加する方法と、重合前に予めフルオロオリゴエーテルを添加しておく方法の2つに分けられる。
【0066】
(イ)重合後にフルオロオリゴエーテルを添加する、原料組成物の製造方法
本発明の原料組成物の製造には、化学式(7)で表される少なくとも一種の官能基含有パーフルオロカーボンモノマー、化学式(8)で表される少なくとも一種の官能基含有パーフルオロカーボンモノマー、及びテトラフルオロエチレンを含む三種以上のモノマーを共重合して得られるパーフルオロ共重合体が用いられる。
【0067】
【化34】
【0068】
(式中のnは0〜2の整数、mは1〜4の整数である。)
【0069】
【化35】
(式中のn’は0〜2の整数、m’は1〜4の整数、RはH、非置換炭化水素基又は置換炭化水素基である。)
【0070】
この共重合には、フッ素化されたエチレンの均一重合又は共重合に対して用いられる公知の溶液重合又は塊状重合方法を用いることができる。重合条件は、生成したパーフルオロ共重合体が完全な固形物とならない限りにおいて、広範囲にわたる条件を選択できる。微分散された組成物を製造するには、生成したパーフルオロ共重合体が十分に膨潤し得る重合条件を選択することが好ましい。
【0071】
溶液重合を行う場合の重合温度は、10〜80℃が好ましく、より好ましくは20〜60℃、反応初期圧力は0.1〜2MPaが好ましく、より好ましくは0.1〜1MPaである。重合溶剤としては、公知の広範囲の含フッ素溶剤を用いることができ、例えば、CF2ClCFCl2(CFC113)、CClF2CF2CFHCl(HCFC225cb)、CF3CHFCHFCF2CF3(HFC43−10mee)、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロジメチルシクロブタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロベンゼンのような不活性な含フッ素溶剤が好ましく用いられる。
【0072】
パーフルオロ共重合体を含有する重合液組成物の製造において、この含フッ素溶剤は、通常、モノマーの合計100質量部に対して、50〜1000質量部の割合で用いるのが好ましい。
この他に、官能基含有パーフルオロカーボンモノマー自体を重合溶剤として用いた塊状重合も採用できる。
重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリルようなアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ジペンタフルオロプロピオニルパーオキサイドのようなジアシルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシイソブチレートのようなパーオキシエステル類、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドのようなハイドロパーオキサイド類等の油溶性重合開始剤を、広範囲にわたって使用できる。
【0073】
パーフルオロ共重合体の分子量を調節する目的で、ペンタン、ヘキサン等のアルカン類、メタノール、エタノール等のアルカノール類等の公知の連鎖移動剤を添加することもできる。
上記の方法によって、化学式(7)及び(8)で表わされる官能基含有パーフルオロカーボンモノマーと、テトラフルオロエチレンとが3元共重合されたパーフルオロ共重合体が製造されるが、必要に応じて、前記以外の官能基含有パーフルオロカーボンモノマーを同時に用いることもできる。また、化学式(9)で表わされるパーフルオロビニルエーテルを、前記モノマーの合計に対し10モル%以下の割合で併用することもできる。
【0074】
CF2=CFORf (9)
(Rfは炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基である。)
化学式(7)で表される官能基含有パーフルオロカーボンモノマーとしては、例えば、化学式(10)、(11)、(12)、(13)に示すようなSO2F型の非電解質型官能基を有するものが用いられる。
【0075】
【化36】
【0076】
【化37】
【0077】
【化38】
【0078】
【化39】
【0079】
化学式(8)で表される官能基含有パーフルオロカーボンモノマーとしては、例えば、化学式(14)、(15)、(16)、(17)に示すようなSO2NHR型の官能基を有するものが用いられる。
【0080】
【化40】
【0081】
【化41】
【0082】
【化42】
【0083】
【化43】
【0084】
これらのモノマーにおけるRは、水素原子、又は炭素原子数1〜10個の非置換炭化水素基又は置換炭化水素基であり、好ましくは水素原子、又は炭素原子数1〜4個の非置換炭化水素基又は置換炭化水素基、より好ましくは水素原子である。
炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、必要により置換基としてエーテル基やフッ素原子のようなハロゲン基を含有していてもよい。
【0085】
本発明のパーフルオロ共重合体を含有する重合液組成物に、40℃程度以下の温度で、化学式(4)で表されるフルオロオリゴエーテルを添加して攪拌、混合した後、150℃以下で、未反応の官能基含有パーフルオロカーボンモノマー及び含フッ素溶剤等の低沸点化合物を除去する。
低沸点化合物の除去方法としては、ハイドロカーボン系溶剤を用いて抽出除去する方法が好ましく用いられる。除去する際の温度は150℃以下が好ましく、より好ましくは40℃以下であり、通常は、常温、常圧下で好適に実施される。
【0086】
上記の方法以外に、例えば、目的の組成を得るために、必要なフルオロオリゴエーテルを添加した後に、攪拌・混合して形成させた、前記のパーフルオロ共重合体を含有する重合液組成物に、ハイドロカーボン系溶剤を添加し、攪拌・混合した後、静置して2層分離させ、下層のパーフルオロ共重合体とフルオロオリゴエーテルとの分散体を取得する。そして、必要に応じて、ハイドロカーボン系溶剤で繰り返し洗浄し、含有される低沸点化合物である官能基含有パーフルオロカーボンモノマー及び含フッ素溶剤等を抽出・除去してもよい。
【0087】
このハイドロカーボン系溶剤は、フルオロオリゴエーテルと相溶せず2層分離し、洗浄除去すべき官能基含有パーフルオロカーボンモノマー等の化合物と相溶性がよいものが好ましい。したがって、このハイドロカーボン系溶剤には、通常の溶剤が用いられる。その一部を例示すると、メタノール、エタノール等のアルカノール類、ヘキサン、ヘプタン等のアルカン類、ジエチルエーテル等のエーテル類、アセトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。残存する低分子量の不純物である含フッ素化合物を効率よく除去する目的で、これらのハイドロカーボン系溶剤と含フッ素溶剤とを混合して用いてもよい。
【0088】
残存する低沸点化合物をほぼ完全に除去するために、加熱減圧乾燥を行うのが好ましいが、これは、低沸点化合物が多く残存した場合、高温での加熱固定、溶融成形加工の際に、ボイドが発生する場合があるからである。この加熱減圧乾燥は150℃以下の温度で行うことが好ましく、90℃以下がより好ましい。
前記のフルオロオリゴエーテルの添加を、重合液組成物及び/又はフルオロオリゴエーテルが、含フッ素溶剤及び/又は官能基含有パーフルオロカーボンモノマーで希釈した後に行ってもよい。
【0089】
(ロ)予め、重合前にフルオロオリゴエーテルを添加する、原料組成物の製造方法
本発明の原料組成物を製造するに際して、予め、重合開始前にフルオロオリゴエーテルを添加する方法を採用してもよい。これは、フルオロオリゴエーテルは熱的・化学的に安定であり、かつ、重合において不活性であるからである。
この方法においては、官能基含有パーフルオロカーボンモノマー自体を重合溶剤とする塊状重合、含フッ素溶剤を重合溶剤として用いた溶液重合に加えて、水を重合溶剤として用いることもできる。
【0090】
塊状重合及び溶液重合の場合には、通常、フルオロオリゴエーテルを重合開始前のどの段階で添加してもよいが、水を重合溶剤とした懸濁重合、乳化重合等の水系重合の場合には、フルオロオリゴエーテルは、予め、官能基含有パーフルオロカーボンモノマーに溶解した形で用いることが好ましい。この理由は、均質な組成の組成物を製造できるからである。
重合条件は、前記した重合条件と全く同様であるが、目的とする組成物に合わせて、添加するフルオロオリゴエーテル量、官能基含有パーフルオロカーボンモノマーの転化率、テトラフルオロエチレンのガス圧力等が決められる。
【0091】
なお、水を重合溶剤として用いる場合には、通常、界面活性剤や、必要に応じて、緩衝剤を添加して重合する。水系の重合で用いられる重合開始剤は、前記した油溶性開始剤に加え、公知の水溶性開始剤も幅広く使用できる。水溶性開始剤を例示するならば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムのような無機過酸化物、過硫酸アンモニウム−硫酸第一鉄、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素アンモニウムのようなレドックス系開始剤、過酸化ジサクシノイルのような水溶性有機過酸化物等である。
【0092】
塊状重合及び溶液重合後の処理及び水系で重合後に公知の方法に基づいて、生成した重合体を凝集させ、界面活性剤や塩等を洗浄除去した後の処理においては、前記したように、重合後にフルオロオリゴエーテルを添加する原料組成物の製造方法におけるのと同様に、150℃以下で得られた組成物中の低沸点化合物を除去し、本発明の原料組成物を製造する。
【0093】
(膜電極接合体の製造方法)
本発明の架橋含浸フィルムは、燃料電池用隔膜として用いる場合は、フィルムの両面にガス拡散電極層を形成させ、膜電極接合体とした後に用いられる。
ガス拡散電極層を形成する触媒は、例えば、白金族金属及びそれらの酸化物の1種又は2種以上からなる電極粉末、鉄、ニッケル等の金属粉末又は白金族金属を担持した炭素粉末の1種又は2種以上からなる電極粉末が用いられる。この触媒は、水素の酸化反応及び酸素による還元反応を促進する金属であれば限定されずに用いられるが、主として白金を担持した炭素粉末が用いられる。
【0094】
ガス拡散電極層には、必要に応じて撥水剤が含有され、プロトン伝導性のイオン交換樹脂を結着剤として形成される。撥水剤としては、耐熱性及び耐酸化性に優れた含フッ素樹脂が好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレンが用いられる。プロトン伝導性のイオン交換樹脂としては、主として含フッ素イオン交換樹脂が用いられる。
【0095】
膜電極接合体の形成には、例えば、次のような方法が用いられる。
プロトン伝導性の含フッ素イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶剤に溶解した溶液に、白金を担持した炭素粉末を分散させペースト状とし、これをポリテトラフルオロエチレン製のシートに一定量塗布し乾燥させた後、このシートの塗布面を向かい合わせにし、その間に本発明の架橋含浸フィルムを挟み込み、加熱プレスにより接合する。加熱プレスの温度は、通常、100℃以上、好ましくは150℃以上である。
【0096】
本発明者らが、PCT/JP01/08443及び日本特許出願2002−47776号明細書で提案した方法により、非電解質SO2F型官能基を含有させたまま、膜電極接合体を形成させた後に加水分解処理及び酸処理を行い、燃料電池用の膜電極接合体としてもよい。すなわち、電極粉末と非電解質SO2F型官能基含有フッ素系共重合体とがフルオロオリゴエーテル中に微分散されたペースト状の分散液を用いて、本発明の含浸フィルムから非電解質SO2F型官能基を含有する膜電極接合体を形成させた後に、加水分解処理及び酸処理を行う。この場合の架橋反応は、非電解質SO2F型官能基含有膜電極接合体の形成前に予め行ってもよいが、膜電極接合体の形成後に行うのが好ましい。この理由は、含浸フィルムの樹脂とガス拡散層を形成する結着剤(SO2F型官能基を含有するイオン交換樹脂前駆体)との間に架橋構造を形成でき、耐性を大きく高められるからである。
【0097】
(燃料電池の製造方法)
燃料電池は、本発明の架橋含浸フィルムにより形成された膜電極接合体、集電体、燃料電池フレーム、ガス供給装置等から構成される。集電体は、表面等にガス流路を有するグラファイト製又は金属製のフランジであり、電子を外部負荷回路へ伝達する他に、水素や酸素を膜電極接合体の表面に供給する機能を持っている。この集電体の間に膜電極接合体を挿入して複数積み重ね燃料電池が作成される。
【0098】
燃料電池の運転は、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素又は空気を供給して行なわれる。燃料電池の作動温度が高温であるほど触媒活性が上がり好ましいが、通常は水分管理が容易な50〜100℃で運転される。水素や酸素の供給圧力は高いほど燃料電池出力が高まるため好ましいが、膜の破損等によって両者が接触する確立が増加するため、適当な圧力範囲に調整される。
【0099】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
本発明における含浸フィルム、架橋含浸フィルムの「パーフルオロ共重合体の抽出率」は、以下の方法により測定する。
基材フィルムの質量(W1)を予め精秤しておく。この試験片の質量は1g以下とする。初めに、対象となる酸型(SO3H型)の官能基を含有するパーフルオロ共重合体が含浸された基材フィルムを、1N塩酸又は1N硫酸を用いて90℃で8時間処理する。この後に、流水で十分に洗浄し、風乾後に、110℃で8時間減圧乾燥し、速やかにその質量(W2)を精秤する。
【0100】
この試料を径φ28mm、高さ200mmの試験管に仕込み、水/エタノール=56/44質量比(室温で50/50体積比)の混合液60ミリリットル(試験片に対し十分に多い量)を加える。この試験管を5リットルのオートクレーブに仕込み、上記試験管の外部(オートクレーブ内部)に水/エタノール=56/44質量比の混合液約2リットルを仕込み、これを内温が120℃になるまで加熱し、120℃になってから4時間そのまま加熱処理した後、室温まで冷却する。この室温から120℃までの昇温過程及び120℃から室温までの降温過程は、各々、約2時間かけて行う。
【0101】
加熱処理後にオートクレーブ内の試験管から試験片を取り出し、室温で、水/エタノール=56/44質量比の混合液にて十分な洗浄を行う。これを110℃で8時間減圧乾燥し、速やかにその質量(W3)を精秤する。得られた質量の値:W1、W2及びW3から、次のようにしてパーフルオロ共重合体の抽出率E(質量%)を求める。
試験片におけるポリテトラフルオロエチレンの含有率が不明な場合には、上記試験片を更に240℃以上の高温にて加熱溶解処理し、含有されるパーフルオロ共重合体の全てを溶解、脱落させ、110℃で8時間減圧乾燥した後に精秤し、この質量をW1とする。樹脂が完全に脱落したことは、IR等にて残存する官能基を定量することで確認する。
【0102】
E(質量%)={1−(W3−W1)/(W2−W1)}×100
【0103】
【実施例1】
1リットルのステンレス製オートクレーブに、CF2Cl−CFCl2580g、化学式(18)で示すモノマー280g、化学式(19)で示すモノマー2g及び分子量調製剤としてのメタノール0.02gを仕込んだ後、窒素でパージした。続いて、テトラフルオロエチレン(TFE)でパージした。
【0104】
【化44】
【0105】
【化45】
【0106】
温度を25℃とし、TFEの圧力を0.165MPa−G(ゲージ圧力)とした後、(n−C3F7COO−)2を5質量%含むCF2Cl−CFCl2溶液を7g添加して重合を行った。オートクレーブの系外からTFEを断続的にフィードしつつ、TFE圧力を初期0.165MPa−Gから終了時0.142MPa−Gまで降下させて6時間重合した。オートクレーブの系内のTFEを窒素でパージし大気圧とした後、重合液組成物を得た。
【0107】
この重合液組成物に、デュポン社製Krytox(登録商標)143AD(これは、−(CF(CF3)−CF2−O)−の繰り返し単位を有するヘキサフルオロプロペンオキシドのオリゴマーであり、38℃における動粘度が4.95cm2/secの液体である)400gを、室温で添加して混合、攪拌した。これにより、重合液組成物は白濁した。続いて、室温で、この分散液に1リットルのn−ヘキサンを加えて混合、攪拌した後、静置して2層に分離させ、無色透明の上層と白濁した下層とに分けた。
【0108】
白濁した下層を取り出し、室温で、1リットルのn−ヘキサンによる洗浄を5回繰り返した後、90℃にて16時間減圧乾燥して低沸点化合物を除去し、白濁したペースト状(ゲル状)の組成物460gを得た。この組成物を1週間静置した後、上層(無色透明の液(前記Krytox(登録商標)143AD))を除去して、パーフルオロ共重合体が濃縮した、ペースト状の組成物を取り出した。続いて、この組成物を目の開き212μmのステンレス製の篩に通し、含有される少量の異物(大きな粒子)を除去し、原料となる組成物を作成した。この組成物に含有されるパーフルオロ共重合体のEW(SO2F型官能基を基準とするEW)は960、SO2NH2型官能基の含有率は全官能基量(SO2F型官能基及びSO2NH2型官能基の総量)に対して約0.7モル%、270℃におけるメルトインデックスは16g/10分(換算値)、含有されている共重合体の濃度は24質量%であった。
【0109】
このペースト状物を原料に用いて、以下のようにして、ADVANTEC社製MEMBRANE FILTER(POLYMER:PTFE、CAT.NO.:T300A293D)、平均孔径:3μm、厚み:60μm、空隙率:82%(空隙率は、ポリテトラフルオロエチレンからなる基材フィルムの真比重を2.2とし、密度法により算出した値である)から切り出した7cm×7cm角の試験片フィルムに、SO2F型及びSO2NH2型官能基を含有するパーフルオロ共重合体を含浸させた。
【0110】
まず、カプトンフィルムの片面に上記のペースト状物3gを薄く均一に塗布したものを2枚作成した。この2枚のカプトン(登録商標、デュポン社製)フィルムで、上記のフィルム試験片を、この試験片にペースト状物が接触するように挟み、フィルム試験片部分の空気を除去した。これを厚さ2mmのステンレス版で挟み、270℃に加熱したプレス成形機にセットし、直ちに20MPaに加圧し、5分間処理した。
【0111】
20MPa加圧下に冷却プレスした後にフィルム試験片を取り出し、HFC43−10meeにて洗浄し、フルオロオリゴエーテルを除去した後、110℃で2時間減圧乾燥した。このフィルム試験片をカプトンフィルムに挟み、再度、270℃に加熱したプレス成形機にセットし、20MPa加圧下に30分間処理した。上記のようにしてフィルム試験片を2枚作成した。このフィルム試験片は、SO2F型及びSO2NH2型官能基を含有する樹脂が基材フィルムの空隙を完全に満たしており、透明であった。
【0112】
上記処理で得たフィルム試験片の1枚(試験片A)に対して、そのまま加水分解処理及び酸処理を行い、他方のフィルム試験片(試験片B)はトリエチルアミン/1,4−ジオキサン=3/5体積比の混合液還流下に3時間浸漬処理し、スルホンイミド架橋反応を行った後に加水分解処理及び酸処理を行った。加水分解処理としては、15質量%のKOH、30質量%のDMSOを含有する水溶液を用いて、90℃、1時間処理、酸処理としては、1N硫酸による90℃、1時間処理を行った。
【0113】
これら試験片A及び試験片Bにおけるパーフルオロ共重合体の含有率は、それぞれ77質量%及び74質量%(何れも乾燥後の値)であった。
試験片A及び試験片Bを用いて測定された「パーフルオロ共重合体の抽出率」は、各々、31質量%及び9質量%であった。何れのフィルムも透明性を十分に維持できていた。試験片B(スルホンイミド架橋構造を有する含浸フィルム)においては、樹脂の溶出/脱落を大きく低減でき、大きな耐久性を実現し得ることを確認できた。試験片B(燃料電池用隔膜)より形成させた膜電極接合体を備えてなる燃料電池は、長期にわたり安定、かつ、高い電池性能を維持することが可能である。
【0114】
これはSO2NH2型官能基の含有率が約0.7モル%と低い上記フィルムにおいてさえも、均質な架橋構造を達成できた結果と考えられる。なお、予め、原料の組成物あるいは共重合体含浸後/再加熱前の含浸フィルムから十分に低分子量物を除去しておくことにより及び/又はSO2NH2型官能基の含有率を上げることにより、耐久性を更に著しく向上させることが可能である。
【0115】
【比較例1】
上記実施例に用いたのと同じポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムを基材に用い、従来技術に基づきSO3H型官能基含有パーフルオロ共重合体の水/アルコール溶液(デュポン社製)を用いて作成したSO3H型官能基含有パーフルオロ共重合体含浸フィルムにおける「パーフルオロ共重合体の抽出率」は94質量%であった。この抽出率測定における処理により、殆ど全てのパーフルオロ共重合体が溶解、脱落し、元の基材フィルム(ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルム)の状態に戻った。
【0116】
【発明の効果】
本発明の含浸フィルムは、非電解質SO2F型官能基を有するパーフルオロ共重合体を含有するため、優れた構造安定性を有し、燃料電池用隔膜の製造原料として有用である。本発明の架橋含浸フィルムは、スルホンイミド架橋により、高い強度と高い耐久性を有し、燃料電池用隔膜として有用である。
本発明の含浸フィルムの製造方法によると、加熱固定処理によりフィルムを構成する樹脂間、及び樹脂と基材間の接着強度を高められる。また、本発明の架橋含浸フィルムの製造方法によると、架橋構造の導入によりフィルムの耐久性が高められる。
本発明の架橋含浸フィルムは、燃料電池用隔膜として燃料電池に組み込まれたのちに、長期にわたり安定、かつ、高い電池性能を維持することができる。
Claims (5)
- 化学式(1)、(5)及び(3)で示す繰り返し単位からなり、繰り返し単位のモル比は、化学式(5)の単位1モルに対して、化学式(1)の単位は2〜20モル、化学式(3)の単位は0.001〜1モルであるパーフルオロ共重合体であって、化学式(3)のスルホンアミド基の少なくとも一部は化学式(6)に示すスルホンイミド構造により架橋している共重合体がポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムの空隙に存在していることを特徴とする架橋含浸フィルム。
- 化学式(1)、(2)及び(3)で示す繰り返し単位からなり、繰り返し単位のモル比は、化学式(2)の単位1モルに対して、化学式(1)の単位は2〜20モル、化学式(3)の単位は0.001〜1モルであるパーフルオロ共重合体100質量部に対して、化学式(4)で示す繰り返し単位の一種又は二種以上からなる、重合度6〜100の液状のフルオロオリゴエーテル200〜10000質量部からなり、該パーフルオロ共重合体がフルオロオリゴエーテル中に分散されてなる組成物を、ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムに塗布し、加圧下に160〜340℃に加熱する工程を経て得られる含浸フィルムを、ルイス塩基で処理した後、加水分解及び酸処理する工程を経て製造されることを特徴とする請求項1記載の架橋含浸フィルムの製造方法。
- 請求項1に記載の架橋含浸フィルムからなる燃料電池用隔膜。
- 化学式(1)、(2)及び(3)で示す繰り返し単位からなり、繰り返し単位のモル比は、化学式(2)の単位1モルに対して、化学式(1)の単位は2〜20モル、化学式(3)の単位は0.001〜1モルであるパーフルオロ共重合体100質量部に対して、化学式(4)で示す繰り返し単位の一種又は二種以上からなる、重合度6〜100の液状のフルオロオリゴエーテル10質量部以下を含む組成物がポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムの空隙に含浸されていることを特徴とする請求項1に記載の架橋含浸フィルムの製造に用いる前駆体フィルム。
- 化学式(1)、(2)及び(3)で示す繰り返し単位からなり、繰り返し単位のモル比は、化学式(2)の単位1モルに対して、化学式(1)の単位は2〜20モル、化学式(3)の単位は0.001〜1モルであるパーフルオロ共重合体100質量部に対して、化学式(4)で示す繰り返し単位の一種又は二種以上からなる、重合度6〜100の液状のフルオロオリゴエーテル200〜10000質量部からなり、パーフルオロ共重合体がフルオロオリゴエーテル中に分散されてなる組成物を、ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムに塗布し、加圧下に160〜340℃に加熱する工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の架橋含浸フィルムの製造に用いる前駆体フィルムの製造方法。
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