以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の一実施例に基づいて説明する。
図1〜図7は本発明の一実施例を示すものであり、図1はエンジンの縦断側面図であって図2の1−1線に沿う断面図、図2は図1の2−2線断面図、図3は図1の3−3線断面図、図4は図1の4−4線断面図、図5は右ケース半体の一部を図4の5−5線矢視方向から見た図、図6は左ケース半体を図4の6−6線矢視方向から見た図、図7は左ケース半体を図4の7−7線矢視方向から見た図である。
先ず図1において、このエンジンは、自動二輪車等の車両に搭載される単気筒の4サイクルエンジンであり、エンジン本体11は、クランクケース12と、該クランクケース12に結合されるシリンダブロック13と、シリンダブロック13に結合されるシリンダヘッド14と、シリンダヘッド14に結合されるヘッドカバー15とを備える。
図2を併せて参照して、クランクシャフト16を回転自在に支承するクランクケース12は、自動二輪車への搭載時に右側に配置される右ケース半体17と、自動二輪車への搭載時に左側に配置される左ケース半体18とが、前記クランクシャフト16の軸線と直交する平面に沿う合わせ面19で相互に結合されて成るものであり、両ケース半体17,18はアルミニウム合金により形成される。しかもクランクケース12内には、クランクシャフト16の主要部を収容するクランク室20と、常時噛合式の変速機が収容されるミッション室21とが、隔壁22で相互に隔てられるようにして形成される。
クランク室20内には、一対のクランクウエブ16a,16aと、両クランクウエブ16a,16a間を連結するクランクピン16bとを備えるクランクシャフト16の主要部が収容されており、シリンダブロック13に摺動可能に嵌合されているピストン(図示せず)に連なるコンロッド23の大端部が前記クランクピン16bに連結される。
前記クランクシャフト16の一端部は右ケース半体17を回転自在に貫通し、クランクシャフト16の他端部は左ケース半体18を回転自在に貫通する。而して右ケース半体17およびクランクシャフト16間にはボールベアリング24が介装され、左ケース半体18およびクランクシャフト16間にはローラベアリング25が介装される。
図3を併せて参照して、前記変速機は、前記クランクシャフト16と平行な軸線を有して右および左ケース半体17,18にボールベアリング26…をそれぞれ介して回転自在に支承されるメインシャフト27と、該メインシャフト27と平行な軸線を有して前記両ケース半体17,18にボールベアリング32…を介して回転自在に支承されるカウンタシャフト28とを備え、メインシャフト27には複数変速段の駆動ギヤ群29が装着され、カウンタシャフト28には、駆動ギヤ群29に対応した被動ギヤ群33が装着される。而して前記駆動ギヤ群29および前記被動ギヤ群33のうち相互に対応したギヤの選択的確立により、エンジンの出力が複数段に変速されてカウンタシャフト28に伝達されることになる。
右ケース半体17から突出したメインシャフト27の一端部には、クランクシャフト16およびメインシャフト27間の動力接・断を切換える変速切換用クラッチ30が装着されるものであり、この変速切換用クラッチ30が備える入力部材31は、前記メインシャフト27に相対回転自在に支承される。
前記変速切換用クラッチ30の入力部材31およびクランクシャフト16間には動力伝達ギヤ列34が設けられており、該動力伝達ギヤ列34は、クランクシャフト16の一端部に固定される第1駆動ギヤ35と、第1駆動ギヤ35に噛合するクラッチギヤ36とから成る。クラッチギヤ36は前記入力部材31にダンパ37を介して連結されるものであり、入力部材31とともに回転する。
またメインシャフト27の上方で右ケース半体17には、前記メインシャフト27と平行な回転軸線を有するスタータモータ38が取付けられており、該スタータモータ38および前記クランクシャフト16間に介装されるスタータ用一方向クラッチ39が、前記メインシャフト27の軸線方向に沿って前記駆動ギヤ群29および前記クラッチギヤ36間に配置されるとともに前記クランクシャフト16の一端部に装着される。
このスタータ用一方向クラッチ39は、スタータモータ38からの動力が入力されるフリーホイルギヤ40が固着されるクラッチインナ41と、クランクシャフト16に相対回転不能に装着されるとともにクラッチインナ41を相対回転可能に支承する内周ボス部42aを有するクラッチアウタ42とを備えるものであり、内周ボス部42aが、前記第1駆動ギヤ35と、補機駆動用動力伝達ギヤ列43の一部を構成してクランクシャフト16に固定される第2駆動ギヤ44との間に挟まれる。
第1駆動ギヤ35、クラッチアウタ42の内周ボス部42aおよび第2駆動ギヤ44は、相互に接触しつつスプライン嵌合等によりクランクシャフト16に相対回転不能に装着されており、第2駆動ギヤ44には、第2駆動ギヤ44よりも軸方向内方で前記クランクシャフト16およびクランクケース12間に介装されるボールベアリング24の内輪外面に当接する筒部44aが一体に突設され、クランクシャフト16の一端部には、第1駆動ギヤ35の外端に当接、係合する拡径頭部46aを有するボルト46が同軸に螺合される。
すなわち第1駆動ギヤ35およびボールベアリング24間に、スタータ用一方向クラッチ39および第2駆動ギヤ44が並列配置されることになり、前記筒部44aおよび右ケース半体17間には環状のオイルシール47が介装される。
補機駆動用動力伝達ギヤ列43は、クランクシャフト16と、該クランクシャフト16の前方で右ケース半体17および左ケース半体18にボールベアリング48およびローラベアリング49を介して回転自在に支承されているバランサ軸50との間に設けられるものであり、クランクシャフト16に固定される第2駆動ギヤ44と、バランサ軸50の一端部に固定されて第2駆動ギヤ44に噛合する第1被動ギヤ45とで構成される。
また前記バランサ軸50の上方には、右ケース半体17に外側から結合される右カバー51と、右カバー51の外面に締結されるポンプカバー52とでポンプハウジング53が構成されるウォータポンプ54が配置されており、このウォータポンプ54は、前記バランサ軸50と平行なポンプ軸55を備える。
ポンプ軸55は、ポンプハウジング53のうち前記右カバー51を液密にかつ回転自在に貫通するものであり、ポンプハウジング53内に突入したポンプ軸55の一端部に回転羽根56が同軸に固着され、ポンプ軸55の他端部は前記右ケース半体17で回転自在に支承される。
バランサ軸50の一端部およびポンプ軸55間には伝動ギヤ列58が設けられており、クランクシャフト16から補機駆動用動力伝達ギヤ列43を介してバランサ軸50に伝達される動力が、前記伝動ギヤ列58を介してポンプ軸55に伝達されることになる。
ところで、スタータモータ38およびクランクシャフト16の一端部との間には、始動用動力伝達ギヤ列61が設けられるものであり、この始動用動力伝達ギヤ列61は、スタータモータ38の出力軸62に固定される第3駆動ギヤ63と、第3駆動ギヤ63に噛合する減速ギヤ64と、減速ギヤ64と一体である第1アイドルギヤ65と、前記第1アイドルギヤ65に噛合する第2アイドルギヤ66と、スタータ用一方向クラッチ39のクラッチインナ41に同軸に固着されて第2アイドルギヤ66に噛合されるフリーホイルギヤ40とで構成される。
しかも始動用動力伝達ギヤ列61の一部は変速切換用クラッチ30で外側から覆われるものであり、始動用動力伝達ギヤ列61を構成するギヤ63〜66のうち、クランクシャフト16の一端部側のフリーホイルギヤ40および第3駆動ギヤ63を除く複数のギヤ64,65,66が、クランクケース12に片持ち支持される。
クランクケース12における右ケース半体17の外面には鋼材から成るホルダ板67が複数本たとえば3本のねじ部材68,68…により取付けられる。このホルダ板67には、複数本、この実施例では2本の支持軸69,70の一端側が圧入等により固定され、一方の支持軸69の他端側に減速ギヤ64および第1アイドルギヤ65が回転自在に支承され、他方の支持軸70の他端側に第2アイドルギヤ66が回転自在に支承される。
しかも前記複数の支持軸69,70のうち第3駆動ギヤ63に最も近い支持軸69の一端が、ホルダ板67からクランクケース12側に突出されており、クランクケース12の右ケース半体17に設けられた位置決め凹部71に前記支持軸69の一端が嵌合される。またホルダ板67には、前記右ケース半体17側に開口する位置決め凹部72が設けられており、右ケース半体17に植設されたノックピン73が該位置決め凹部72に嵌合される。
クラッチギヤ36には、キック操作に応じた始動操作力をキック始動ギヤ列76を介して入力可能であり、キック始動ギヤ列76は、クランクケース12で回転自在に支承されたキック軸77に装着される第4駆動ギヤ78と、前記カウンタシャフト28に固定されて前記第4駆動ギヤ78に噛合する第3アイドルギヤ79と、メインシャフト27に相対回転自在に支承されて第3アイドルギヤ79に噛合する第2被動ギヤ80とで構成されるものであり、第2被動ギヤ80に、変速切換用クラッチ30の入力部材31が相対回転不能に装着される。
しかも該キック始動ギヤ列76は、前記メインシャフト27の軸線方向に沿って前記駆動ギヤ群29および前記クラッチギヤ36間に配置される。
第4駆動ギヤ78は、回転自在かつ軸方向相対移動不能としてキック軸77に支承されており、キック軸77および第4駆動ギヤ78間に、キック軸77の正転時に両者77,78間を連結する一方向クラッチ機構120が設けられる。
この一方向クラッチ機構120は、キック軸77に軸方向相対移動を可能とするとともに相対回転を不能として嵌合されるクラッチ体121と、該クラッチ体121の回転に摩擦抵抗を付与する摩擦ばね122とを備えるものであり、第4駆動ギヤ78およびクラッチ体121の対向面には、噛合時にクラッチ体121すなわちキック軸77の正転のみを第4駆動ギヤ78に伝達するラチェット歯123,124が形成される。
また右ケース半体17およびキック軸77間には、ねじりコイルばねから成るキック戻しばね125,125が内外二重に配置されるようにして設けられており、これらのキック戻しばね125,125により、キック軸77が戻し側にばね付勢される。
図4〜図6において、クランクケース12の下部には、クランク室20の下部に通じる第1オイル溜まり81と、クランク室20内の圧力変動に応じて開閉するリード弁83を第1オイル溜まり81との間に介在させる第2オイル溜まり82とが形成され、第2オイル溜まり82内は、図示しないブリーザ通路を介して大気に開放されており、第2オイル溜まり82内の圧力は大気圧となっている。
右ケース半体17および左ケース半体18の下部には、合わせ面19を挟んで相互に対向する右側凹部84および左側凹部85が設けられており、右ケース半体17および左ケース半体18の結合時に前記両凹部84,85の開口端間にリード弁83が挟持される。
すなわちリード弁83は、弁孔86を有する弁板87と、弁孔86を開閉するようにして弁板87に取付けられるリード88と、リード88の開弁位置を保持するようにして弁板87に取付けられる支持板89とを備えるものであり、弁板87の外周部が、リード88および支持板89を左側凹部85側に配置するようにして前記両凹部84,85の開口端間に挟持される。
第1オイル溜まり81は、右側凹部84およびリード弁83間で右ケース半体17側に形成されるものであり、右ケース半体17には、クランク室20の下部を第1オイル溜まり81に通じさせる連通孔90が設けられる。
図7を併せて参照して、第2オイル溜まり82は、左側ケース半体18ならびに左側ケース半体18に外側から結合される左側カバー91の下部間に形成される上部オイル室82aと、右側ケース17、左側ケース18および左側カバー91の下部に前記合わせ面19を跨ぐようにして形成される下部オイル室82bとから成り、上部オイル室82aは、図示しないブリーザ通路を介して大気に開放されており、第2オイル溜まり82内の圧力は大気圧となっている。また左側ケース半体17には、上部オイル室82aおよび下部オイル室82b間を隔てるフィルタ92を装着するための装着溝93が左側カバー91側に開口するようにして設けられ、左側カバー91を左ケース半体18に結合することにより前記フィルタ92の前記装着溝93からの離脱が阻止されることになる。
左ケース半体18において左側凹部85の閉塞端には、リード弁83の開弁に伴って第1オイル溜まり81から流出するオイルを第2オイル溜まり82の上部オイル室82a側に導く導孔94が設けられる。また左ケース半体18には、前記導孔94から上部オイル室82a側に排出されたオイルを前記フィルタ92のほぼ全面で濾過すべく、前記導孔94からのオイルが左側カバー91側に流れるようにガイドするガイド壁95が一体に設けられる。
第2オイル溜まり82における下部オイル室82bの最下部は、第1オイル溜まり81の下方に配置されるものであり、上端を第1オイル溜まり81の底部に開口せしめて上下に延びるドレン孔96が、中間部を下部オイル室82bの最下部に開口せしめるとともに下端をクランクケース12における右ケース半体17の底面に開口せしめるようにして右ケース半体17の下部に設けられる。
前記ドレン孔96に挿入されるドレンボルト97がクランクケース12の下方から右ケース半体17に螺合されるものであり、該ドレンボルト97により、第1オイル溜まり81および下部オイル室82bの最下部間が遮断されるとともに、第2オイル溜まり82がクランクケース12外から遮断される。
しかもドレン孔96は、下端を右ケース半体17の底面に開口する挿入孔部96aと、該挿入孔部96aよりも小径に形成されて挿入孔部96aに同軸に連なるとともに上端を第1オイル溜まり81に開口せしめたねじ孔部96bとから成り、右ケース半体17には、第2オイル溜まり82における下部オイル室82aの最下部に一端が通じるとともに他端が前記挿通孔96aの中間部内面に開口する連通孔98が設けられ、該連通孔98に通じる環状室99を前記挿入孔部96aの内面との間に形成するドレンボルト97が、その拡径頭部97aをクランクケース12における右ケース半体17の底部に液密に当接、係合させつつ前記ねじ孔部96bに螺合される。
ところで、第2オイル溜まり82の最下部に溜まるオイルはオイルポンプ102で汲み上げられるものであり、このオイルポンプ102は、エンジンの車両への搭載状態では前記クランクシャフト16よりも前方に配置されるようにしてクランクケース22に配設される。
前記オイルポンプ102は、ポンプ軸103の内端に固定されるインナーロータ104と、該インナーロータ104に噛合するアウターロータ105とを有してトロコイド式に構成される。
インナーロータ104およびアウターロータ105を収容するポンプ室106は、合わせ面19に臨んで左ケース半体18に設けられる収容凹部107と、右ケース半体17とにより、右ケース半体17および左ケース半体18間に合わせ面19を挟むようにして形成される。
ポンプ軸103は、右ケース半体18に設けられる支持筒部108で液密にかつ回転自在に支承されており、支持筒部108から突出したポンプ軸103の外端部に第4被動ギヤ109が固定される。一方、バランサ軸50の他端部には第5駆動ギヤ110が固定されており、第5駆動ギヤ110が第4被動ギヤ109に噛合することにより、ポンプ軸103が回転駆動される。
右ケース半体17の合わせ面19に臨む部分には、前記ポンプ室106に通じる吐出側凹部111と、前記ポンプ室106に通じる吸入側凹部112とが、前記ポンプ軸103の内端部を受ける軸受部113を前記両凹部111,112間に形成するようにして設けられる。
一方、左ケース半体18には、前記吐出側凹部111に通じるようにして一端を合わせ面19に開口せしめたオイル吐出通路114が、エンジンの各潤滑部にオイルを供給するようにして設けられる。
また前記吸入側凹部112と、第1オイル溜まり82の最下部間はオイル吸入通路115で結ばれるものであり、前記合わせ面19を挟む右および左ケース半体17,18間に前記オイル吸入通路115を形成する通路溝116が、前記両ケース半体17,18の少なくとも一方、この実施例では左ケース半体18に設けられる。
またオイル吸入通路115は、クランクシャフト16の周囲に配置されるものであり、第2オイル溜まり82における最下部に、その最下部の前壁下部で連通される。
ところで、クランクケース12においてクランクシャフト16の下方には、エンジンを車両に搭載するためのエンジンハンガーボス117が設けられており、オイル吸入通路115は、クランクシャフト16およびエンジンハンガーボス117間を通るように配置される。
次にこの実施例の作用について説明すると、クランクシャフト16よりも下方でクランクケース12の下部には合わせ面19を跨ぐ第2オイル溜まり82が形成されており、第2オイル溜まり82の最下部からオイルを吸入するオイルポンプ102のポンプ室106が、合わせ面19を挟んで右および左ケース半体17,18間に形成されるのであるが、オイルポンプ102および第2オイル溜まり82の最下部間を結ぶオイル吸入通路115が、両ケース半体17,18の少なくとも一方(この実施例では左ケース半体18)に設けられる通路溝116により、合わせ面19を挟む両ケース半体17,18間に形成される。
すなわち右および左ケース半体17,18を合わせ面19で相互に結合してクランクケース12を構成することにより、第2オイル溜まり82のオイルをオイルポンプ102に導くオイル吸入通路115が形成されることになり、オイルパイプ等を用いるものと比べると、オイル通路が左右方向に張り出すことによるエンジン幅の増大を防止してバンク角を確保しつつ、部品点数を低減することができるとともに組付け性の向上を図ることができる。
またオイルポンプ102が、車両への搭載状態でクランクシャフト16よりも前方に配置されており、クランクシャフト16の周囲に配置されるオイル吸入通路115が、第2オイル溜まり82における最下部の前壁下部で第2オイル溜まり82に連通されているので、オイル吸入通路115をクランクシャフト16に近接させて配置するようにしてクランクケース12の最低地上高を比較的高く設定可能としつつ、第2オイル溜まり82の容量を比較的大きく設定することができる。
さらにクランクシャフト16よりも下方でクランクケース12にはエンジンハンガーボス117が設けられているのであるが、オイル吸入通路115は、クランクシャフト16およびエンジンハンガーボス117間を通るように配置されている。而してオイル吸入通路115の内圧は低いものであり、合わせ面19でのオイル吸入通路115のシール幅は小さく設定可能であるので、エンジンハンガーボス117を比較的高い位置に設定可能であり、クランクケース12の最低地上高をより高く設定することが可能となる。
ところで、クランクケース12には、クランク室20の下部に通じる第1オイル溜まり81と、クランク室20内の圧力変動に応じて開閉するリード弁83を第1オイル溜まり81との間に介在させる第2オイル溜まり82とが形成されているのであるが、第1および第2オイル溜まり81,82が、第1オイル溜まり81の下方に第2オイル溜まり82の最下部が配置されるようにしてクランクケース12に形成され、上端を第1オイル溜まり81の底部に開口せしめて上下に延びるドレン孔96が、中間部を第2オイル溜まり82の最下部に開口せしめるとともに下端をクランクケース12の底面に開口せしめるようにしてクランクケース12における右ケース半体17の下部に設けられ、第1オイル溜まり81および第2オイル溜まり82の最下部間を遮断するとともに第2オイル溜まり82をクランクケース12外から遮断するようにしてドレン孔96に挿入されるドレンボルト97が、クランクケース12の下方から前記右ケース半体17に螺合される。
したがって単一のドレンボルト97を緩めてクランクケース12から離脱させることにより、第1および第2オイル溜まり81,82内のオイルをともにクランクケース12外に排出することができ、ドレンボルト97を右ケース半体17に螺合して締めつけることにより、第1および第2オイル溜まり81,82をともにクランクケース12外から遮断することができるので、第1および第2オイル溜まり81,82からオイルを排出するにあたり、部品点数の低減および整備性の向上を図ることができる。
しかもドレン孔96は、下端を右ケース半体17の底面に開口する挿入孔部96aと、該挿入孔部96aよりも小径に形成されて挿入孔部96aに同軸に連なるとともに上端を第1オイル溜まり81に開口せしめたねじ孔部96bとから成り、右ケース半体17には、第2オイル溜まり82の最下部に一端が通じるとともに他端が挿入孔部96aの中間部内面に開口する連通孔98が設けられ、該連通孔98に通じる環状室99を挿入孔部96aの内面との間に形成するドレンボルト97が、その拡径頭部97aを前記右ケース半体18の底部に液密に当接、係合させつつねじ孔部96bに螺合される。
このようなドレン孔96の構造によれば、ドレンボルト97を強固にクランクケース12に締めつけるために必要なねじ孔部96bの長さを比較的大きく確保しつつ、第2オイル溜まり82の最下部内のできるだけ下方位置をドレン孔96に連通させることが可能となり、第1オイル溜まり81内の残留オイル量を極力少なくすることができるとともに第2オイル溜まり82内の残留オイル量も極力少なくすることができる。また第1オイル溜まり81内の圧力変動によってドレンボルト97およびねじ孔部96b間から挿入孔部96a側に滲み出したオイルを連通孔98から第2オイル溜まり82側に導くことでクランクケース12外へのオイルの滲み出しを防止することができ、第1および第2オイル溜まり81,82の残留オイルを排出する際のメンテナンス性との相乗効果が得られる。
またクランクシャフト16と平行な軸線を有してクランクケース12に回転自在に支承されるとともに複数変速段の駆動ギヤ群29が装着されるメインシャフト27がクランクケース12に回転自在に支承されており、クランクシャフト16およびメインシャフト27間の動力接・断を切換える変速切換用クラッチ30がメインシャフト27の一端部に装着され、該変速切換用クラッチ30の入力部材31とともに回転するクラッチギヤ36を含む動力伝達ギヤ列34が、クランクシャフト16の一端部および入力部材31間に設けられ、キック操作に応じた始動操作力をクラッチギヤ36に入力し得るキック始動ギヤ列76が、メインシャフト27の軸線方向に沿って前記駆動ギヤ群29および前記クラッチギヤ36間に配置され、スタータモータ38およびクランクシャフト16間に介装されるスタータ用一方向クラッチ39が、メインシャフト27の軸線方向に沿って前記駆動ギヤ群29およびクラッチギヤ36間に配置されるとともにクランクシャフト16に装着されている。
このような構成によれば、スタータ用一方向クラッチ39がクランクシャフト16に装着されることにより、スタータ用一方向クラッチ39で負担する動力伝達負荷を比較的小さなものとし、スタータ用一方向クラッチ39の小型化ひいてはエンジンの小型化を図ることができる。しかもスタータ用一方向クラッチ39およびキック始動ギヤ列76が、メインシャフト27の軸線方向に沿って駆動ギヤ群29およびクラッチギヤ36間に配置されることにより、スタータモータ38によるエンジンの始動に加えてキック操作によるエンジンの始動も可能とするにあたり、スタータ用一方向クラッチ39の配置によって生じる駆動ギヤ群29およびクラッチギヤ36間の空きスペースにキック始動ギヤ列76を有効に配置することができ、キック始動ギヤ列76の配置によってもエンジンが大型化することを回避することができる。
またクランクケース12の右ケース半体17との間にボールベアリング24を介在させてクランクケース12から突出したクランクシャフト16の一端部に、前記動力伝達ギヤ列34の一部を構成する第1駆動ギヤ35が固定され、第1駆動ギヤ35および前記ボールベアリング24間に、スタータ用一方向クラッチ39と、補機駆動用動力伝達ギヤ列43の一部を構成してクランクシャフト16に固定される第2駆動ギヤ44とが並列配置されるので、キック始動ギヤ列76を配置するスペースを有効に活用して、補機駆動用動力伝達ギヤ列43を配置することができ、エンジンの小型化に寄与することができる。
前記スタータ用一方向クラッチ39は、スタータモータ38からの動力が入力されるクラッチインナ41と、クランクシャフト16に相対回転不能に装着されるとともにクラッチインナ41を相対回転可能に支承する内周ボス部42aを有するクラッチアウタ42とを備えるものであり、内周ボス部42aが、前記第1駆動ギヤ35および前記第2駆動ギヤ44間に挟まれている。
したがってクランクシャフト16の軸線に沿う方向でのスタータ用一方向クラッチ39のがたつきを、専用の部品を用いることなく抑制することができ、部品点数の増大を回避しつつスタータ用一方向クラッチ39の耐久性向上および騒音低減を図ることができる。
さらに第1駆動ギヤ35、クラッチアウタ42の内周ボス部42aおよび第2駆動ギヤ44は、相互に接触してクランクシャフト16に相対回転不能に装着され、第2駆動ギヤ44には、第2駆動ギヤ44よりも軸方向内方でクランクシャフト16およびクランクケース12間に介装されるボールベアリング24の内輪外面に当接する筒部44aが一体に突設され、クランクシャフト16の一端部には、第1駆動ギヤ35の外端に当接、係合する拡径頭部46aを有するボルト46が同軸に螺合される。
したがって第1駆動ギヤ35、クラッチアウタ42および第2駆動ギヤ44は、ボルト46以外の部品を不要とした単純かつ部品点数を少なくした構造でクランクシャフト16に固定されることになり、しかもクランクシャフト16の軸線に対して第1駆動ギヤ35、クラッチアウタ42および第2駆動ギヤ44が傾くことを防止して、スタータ用一方向クラッチ39の耐久性向上および騒音低減をより一層図ることができる。
ところで前記スタータモータ38はクランクケース12の右ケース半体17に取付けられており、このスタータモータ38およびクランクシャフト16の一端部との間に設けられる始動用動力伝達ギヤ列61の一部が、クランクシャフト16に連動、連結される変速切換用クラッチ30で外側から覆われており、始動用動力伝達ギヤ列61を構成するギヤ63,64,65,66,40のうち、クランクシャフト16の一端部側のフリーホイルギヤ40と、スタータモータ38の出力軸62に固定される第3駆動ギヤ63を除く複数のギヤ64〜66が、クランクケース12に片持ち支持されるので、クランクシャフト16の軸線に沿う方向で変速切換用クラッチ30をクランクケース12側に寄せて配置することが可能であり、クランクシャフト16の軸線に沿う方向でのエンジンの小型化が可能となる。
しかもクランクケース12の右ケース半体17に取付けられるホルダ板67に複数(この実施例では2本)の支持軸69,70の一端側が固定され、始動用動力伝達ギヤ列61を構成するギヤ63〜66,40のうち前記フリーホイルギヤ40および第3駆動ギヤ63を除く複数のギヤ64〜66が、前記支持軸69,70の他端側に回転自在に支承されるので、始動用動力伝達ギヤ列61の一部を構成する複数のギヤ64〜66を組付けた状態のホルダ板67をクランクケース12に取り付けることができるので、組付け性が向上することになる。しかもクランクケース12がアルミニウム合金から成るものであるのに対し、ホルダ板67は鋼材から成るものであり、前記各ギヤ64〜66を支持する部分での右ケース半体17の負荷を低減し、ホルダ板67も比較的薄肉に形成することができる。
さらに前記複数の支持軸69,70のうち第3駆動ギヤ63に最も近い支持軸69の一端が、ホルダ板67から右ケース半体17側に突出されるとともに右ケース半体17の位置決め凹部71に嵌合されるので、支持軸69をノックピンとして利用するようにして部品点数の低減を図りつつホルダ板67のクランクケース12への組付け性を高めることができ、しかも回転数が高くなる減速ギヤ64の支持軸69をクランクケース12に支持するようにして支持剛性を高めることができるので、耐久性向上を図るとともに噛合騒音の低減を図ることができる。
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。