JP4073844B2 - オートバイブレーキディスク用ステンレス鋼 - Google Patents

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Description

本発明は、オートバイのブレーキディスクローターとして使用されるマルテンサイト系ステンレス鋼に関し、より詳しくは、例えば900℃の低温から焼入れた場合においても、必要とされる焼入れ硬度が一様に得られ、しかも良好な耐食性をも具備するオートバイブレーキディスク用ステンレス鋼に関する。
オートバイのブレーキディスクローターは、機能面において制動性を確保することが最も重要であり、均−な制動を得るためにはブレーキディスクローターとブレーキパッドのスリップに起因する「鳴き」と称される現象と、ブレーキディスクローター表面の小さな凹凸に起因して発生する「びびり」を抑制する必要がある。
これらを防止するには、ブレーキディスクローターの硬度コントロールが重要であり、ブレーキディスクローターの硬度としては、ブレーキパッドの材質によって若干の相違はあるものの、ロックウェルCスケール硬度(以下、HRCという)で31〜37であり、しかも部分的な硬度差ができるだけ小さいことが要求される。
0.04〜0.10%のCと、12%程度のCrを含有するマルテンサイト系のステンレス鋼は、高温焼入れ後の焼入れ硬度が上記の硬度範囲を満たす。また、ステンレス鋼が耐食性を維持するために必要な不動態皮膜が生成するのに十分な量のCrを含有しているため、外観を著しく低下させるような錆が発生しにくいので、ブレーキディスクローターとして−般的に使用されている。
このような背景の下、焼入れ硬度を安定化させる手段についても種々の検討がなされてる。
特許文献1および2には、C、Si、Mn、Ni、Cr、Cu、Nに着目してこれらの成分が焼入れ硬度にどれだけ寄与するかを定量的に算出し、その算出結果に基づいて化学組成を調整することによって焼入れ硬度を安定化させるようにしたCuまたはCuとMoを必須成分として含む鋼が提案されている。
特許文献3には、1100℃加熱時に生成するオーステナイト量が90%以上であれば焼入れ組織がほぼ100%のマルテンサイト組織となって所望の焼入れ硬度が安定して得られるとし、C、Si、Mn、Ni、Cr、Cu、Nの各成分が1100℃加熱時のオーステナイト生成に及ぼす寄与度を算出し、その算出結果に基づいて化学組成を調整することによって焼入れ硬度を安定化させる一方、硫化物をTiS主体の硫化物とすることで耐発銹性を高めるようにしたCu、AlおよびTiを必須成分として含む鋼が提案されている。
さらに、特許文献4には、溶体化処理時に早期に固溶するのはM256 タイプの粗大な球状析出物ではなくてβ−Cr2N タイプの針状の析出物であるとし、この針状の析出物を析出させるためにN量を多くするとともに、硫化物をCuS主体の硫化物をとすることで耐発銹性を高めるようにした短時間加熱焼入れ処理が可能なCuを必須成分として含む鋼が提案されている。
特許文献5には、組織を加工フェライト組織とする一方、硬度を規定することによって焼入れ処理を不要とした必須成分がC、CrおよびNの鋼板が提案されている。
特許文献6には、C、Si、Mn、Ni、Cr、Cu、Nの各成分が使用中における熱サイクルにより生じる反りに影響を及ぼすとし、特許文献3の場合と同様に、これらの各成分が1100℃加熱時のオーステナイト生成に及ぼす寄与度を算出し、その算出結果に基づいて化学組成を調整とすることによって使用中における耐反り性を向上させるようにしたCu、MoおよびNbを必須成分として含む鋼板が提案されている。
上記の特許文献1〜6に示される鋼および鋼板のうち、特許文献1〜3に示される鋼は、1000℃以下の低温焼入れでも、それなりの焼入れ硬度がそれなりに安定して得られる。
しかしながら、通常のオートバイブレーキディスクローターは、板厚が3〜8mmという厚肉の鋼板が使用されるため、焼入れをおこなった場合に板厚の中心部まで温度を上昇させるのに時間を要する。鋼板の表面温度は、板厚中心部に比べて高くなりやすいため、表層部で脱炭が進行するという問題があった。
また、ブレーキディスクローターは、水切りと放熱を目的とした孔やスリットが加工される場合があり、この加工後に高周波加熱により材料を加熱する場合には、これらの周囲で温度が高くなりすぎ、反りや歪みが発生する。
表層部の脱炭や偏熱に起因する反りの発生を防止するためには、焼入れ温度を低くする必要がある。しかし、低温焼入れで未固溶の炭素が存在する場合には、Cr炭化物の析出によりその周辺部でCrが欠乏した状態になり、耐食性が低下するため、焼入れ硬度の安定化と耐食性の両立が課題であった。
上記の課題は、特許文献4に示されるように、Nの含有量を多くして析出物をβ−Cr2N タイプの針状析出物にすれば一応解決できる。しかし、N含有量の増量は、高温での鋼の変形能低下を招き、熱間圧延時に耳割れなどの表面疵が多発して製造性および歩留まりが低下するという問題があり、製造性、製品特性である焼入れ硬度の安定性および耐食性の両立に課題があった。
なお、特許文献5に示される鋼板は、上記したように、焼入れしないことを前提としたものでしかないために、低温焼入れした場合の焼入れ硬度の安定化と耐食性の両立は達成できない。
また、特許文献6に示される鋼板は、同公報の段落0032に記載されているように、高温焼入れをすることの記載はあるが、低温焼入れは考慮されていない。しかも実際にブレーキディスクとして使用中の反り防止を図ったものでしかないため、特許文献5に示される鋼板の場合と同様に、低温焼入れした場合の焼入れ硬度の安定化と耐食性の両立は達成できない。
特公平2−7388号公報
特開平8−60309号公報 特開2000−26941号公報 特公平2−7390号公報 特開2001−262282号公報 特開2002−146482号公報
本発明は、上記の実状に鑑みてなされたもので、1000℃以下、特に900℃の低温焼入れでも、必要とされる焼入れ硬度が一様に得られ、しかも良好な耐食性をも具備するオートバイブレーキディスク用ステンレス鋼を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を達成するために種々検討し、下記の知見を得て本発明を完成させた。
低温焼入れでの焼入れ性を高めるためには、加熱した場合のオーステナイトヘの変態温度を低くする必要があるが、前記の変態温度を低くするためにオーステナイト形成元素であるC、Nの含有量を多くすると焼入れ硬度が高くなりすぎるとともに、耐食性が低下する場合がある。
そこで、上記の変態温度を低下させる合金元素として知られているC、N、Mn、Ni、Cuとステンレス鋼の基本元素であるCrが焼入れ硬度に与える影響を定量的に把握するとともに、低温での焼入れ性を高めるのに有効なMn、Ni、Cuの適正な添加量、および焼入れ温度を低くした場合に微量の未固溶CがCr炭化物として析出するのを防止する手段について検討した。その結果、次のことが明らかとなった。
(a) 焼入れ温度を低くした場合における未固溶CのCr炭化物析出は、Nb添加により抑制され、特に0.010〜0.10%のNbを添加するとその析出が大幅に抑制され、耐食性が低下しないだけでなく、焼入れ硬度も安定する。
(b) CuおよびMoは必ずしも添加する必要はなく、上記量のNb、およびC、Si、Mn、Ni、Nを基本成分とし、各成分の含有量を、それぞれ、0.030〜0.060%、0.5%以下、11.0〜14.0%、0.3〜4.0%、0.007〜0.030%に制限した上で、下記の(1)式を満たし、かつ下記の(2)式で求められるHcの値が31〜37の範囲になるよう各成分の含有量を相互に調整した化学組成をもつ鋼にすると、その焼入れ硬度は900℃以上で安定し、900℃からの焼入れ硬度は実測硬度とほぼ完全に一致し、オーステナイト組織が不安定になる1150℃からの短時間加熱焼入れ硬度でも、その実測硬度の平均値はHcの±1の範囲内に収まる。
Mn+4.1Ni≧2.5%…(1)
Hc=145C−0.1Cr+0.8Mn+1.8Ni+6.8Nb+120N+26.8…(2)
(c) また、その焼入れ硬度の部分的な硬度差は、ブレーキディスクと同等の直径300mm、幅40mmの試験片の場合で、平均値に対して、標準偏差0.3で極めて小さい。
(d) 上記したように、CuおよびMoは必ずしも添加する必要はないが、Cu、Moともに添加すれば焼入れ硬度を安定にする作用を有する。特に、0.1〜2.0%のCuおよび/または0.05〜1.0%のMoを、下記の(3)式を満たし、かつ下記の(4)式で求められるHcの値が31〜37の範囲になるように添加すると、焼入れ硬度がより一層安定し、部分的な硬度差もより小さくなる。
Mn+4.1Ni+1.5Cu≧2.5%…(3)
Hc=145C−0.1Cr+0.8Mn+1.8Ni+6.8Nb+120N+1.3Cu−1.0Mo+26.8…(4)
なお、(1)式〜(4)式中の元素記号は鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)である。
上記の知見に基づいて完成させた本発明の要旨は、下記のオートバイブレーキディスク用ステンレス鋼にある。
質量%で、C:0.030〜0.060%、Si:0.5%以下、Mn:0.5〜2.0%、Cr:11.0〜14.0%、Ni:0.3〜4.0%、Nb:0.010〜0.10%、N:0.007〜0.030%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、下記の(1)式を満たすとともに下記の(2)式で定義されるHcの値が31〜37であるオートバイブレーキディスク用ステンレス鋼。
Mn+4.1Ni≧2.5%…(1)
Hc=145C−0.1Cr+0.8Mn+1.8Ni+6.8Nb+120N+26.8…(2)
上記のオートバイブレーキディスク用ステンレス鋼は、Feの一部に代えて、Cu:0.1〜2.0%およびMo:0.05〜1.0%のいずれか一方または両方を含むものであってもよい。ただし、この場合には(1)式と(2)式の代わりに、下記の(3)式および(4)式が用いられる。
Mn+4.1Ni+1.5Cu≧2.5%…(3)
Hc=145C−0.1Cr+0.8Mn+1.8Ni+6.8Nb+120N+1.3Cu−1.0Mo+26.8…(4)
ここで、上記の(1)式〜(4)式中の元素記号は、前述したように、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)である。
本発明によれば、900〜1100℃という広い焼入れ温度範囲で、必要とされる焼入れ硬度が一様に得られ、かつ優れた耐食性も具備するオートバイブレーキディスク用ステンレス鋼を提供することが可能である。また、本発明のオートバイブレーキディスク用ステンレス鋼は、従来問題であった高温での焼入れによる変形や表層部の脱炭による硬度ばらつきがないので、不良品の発生が少なく、歩留まりが高いだけでなく、低温焼入れが可能なので省エネでき、コストダウンと環境負荷低滅が図れ、工業的価値が高い。
以下、本発明のオートバイブレーキディスク用ステンレス鋼を上記のように定めた理由について詳細に説明する。なお、以下において、「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味する。
C:0.030〜0.060%
Cは焼入れ硬度を高めるために必須の元素であり、焼入れ硬さHRC31〜37を得るためには最低でも0.030%の含有量が必要である。一方、0.060%を超えると、粒界などへのCr炭化物析出により耐食性が低下する。このため、C含有量は0.030〜0.060%とした。下限として好ましいのは0.035%である。また、上限として好ましいのは0.055%である。
Si:0.5%以下
Siは脱酸剤として有効であり、また鋼中に固溶して強度を高めるので添加する。しかし、過剰なSiは靱性低下を招くだけでなく、フェライト形成元素であるために焼入れ性をも低下させる。このため、Si含有量は0.5%以下とした。好ましいのは0.4%以下である。
Mn:0.5〜2.0%
Mnは上記のSiと同様に脱酸剤として有効な元素であり、低温焼入れ硬度を安定化させる効果もある。しかし、0.5%未満の含有量では前記の効果が得られない。一方、2.0%を超えると、靭性低下を招くだけでなく、MnSを形成し、耐食性低下の要因となる。このため、Mn含有量は0.5〜2.0%とした。上限として好ましいのは1.5%、より好ましいのは1.0%である。
Cr:11.0〜14.0%
Crは錆の発生を抑制し、ブレーキディスクの外観を美しく保つために必須の元素であり、日常環境での錆防止のためには最低でも11.0%の含有量が必要である。一方、14.0%を超えると、高温でのオーステナイト組織が不安定になり、δ−フェライトが残留して耐食性および靭性を低下させる要因となる。よって、Cr含有量は11.0〜14.0%とした。下限として好ましいのは11.5%である。また、上限として好ましいのは13.5%である。
Ni:0.3〜4.0%
Niは低温での焼入れ性を高めるのに最も効果の高い元素であるが、0.3%未満の含有量ではその効果が得られない。一方、4.0%を超えると、Niは焼戻し軟化を抑制する元素であるため、熱延板焼鈍をおこなっても充分軟化しなくなる。また、Niは高価な元素でもある。このため、Ni含有量は0.3〜4.0%とした。下限として好ましいのは0.35%である。また、上限として好ましいのは2.5%、より好ましいのは2.0%である。
Nb:0.01〜0.10%
NbはCとの親和力が強く、Nb炭窒化物を形成して鋼中に分散析出することで鋼の強度を高める働きがある。また、Nbは900〜1000℃程度の焼入れでその硬度を高める作用があり、さらにCr炭窒化物の析出を遅らせることで固溶CがCr炭化物として析出するのを抑制して低温焼入れ時の耐食性を高める働きがある。これらの効果を得るためには最低でも0.01%の含有量が必要である。しかし、その含有量が0.10%を超えると、Nb炭窒化物として固定されるC、Nが多くなりすぎて低温での焼入れ性が低下する。このため、Nb含有量は0.01〜0.10とした。下限として好ましいのは0.02%、より好ましいのは0.03%である。
N:0.007〜0.03%
NはCとともに焼入れ硬度への寄与度が大きい元素であり、特に低温焼入れでの寄与がCに比べて大きいことから0.007%以上添加する。しかし、必要以上に添加すると熱間での変形抵抗を大きくし、加工性を低めることから製造性が低下する。そこで上限を0.03%とした。望ましいのは0.010〜0.020%である。
Cu:
Cuは低温での焼入れ硬度を安定化させる作用があり、その効果はMn、Niとの複合添加時により顕著になる。このため、この効果を得たい場合に添加してもよいが、0.1%未満の含有量では前記の効果は得られない。一方、2.0%を超えると、熱延板焼純時にε−Cuとして析出し、靭性を低下させる場合がある。また、ε−Cuの析出量が多い場合には、ブレーキディスク製造工程において放熱用の孔やスリットを打抜く際にミクロクラックが発生することがあり、生産性を阻害する要因となる。したがって、添加する場合のCu含有量は0.1〜2.0%とするのがよい。
Mo:
Moは上記のCuと同様に焼入れ硬度を安定化させる作用有する、すなわち、Moは焼戻し軟化を抑制する作用を有し、特に高温焼入れ時に冷却速度が遅くなった場合における焼入れ硬度を安定化させる効果があるとともに、不動態皮膜を強固にして耐食性を向上させる作用がある。このため、これらの効果を得たい場合に添加してもよいが、0.05%未満の含有量では前記の効果は得られない。一方、1.0%を超えると、Crの場合と同様に、δ−フェライトが残留し、耐食性および靭性を低下させる要因となる。したがって、添加する場合のMo含有量は0.05〜1.0%とするのがよい。
Mn+4.1Ni(+1.5Cu):2.5%以上
MnおよびNi、並びに必要により添加するCuは、オーステナイト相を安定にし、1000℃以下、特に900℃からの低温焼入れ性を高める作用を有するが、その含有量「Mn+4.1Ni」または「Mn+4.1Ni+1.5Cu」が2.5%未満ではその効果が得られないため、2.5%以上と定めた。すなわち、「Mn+4.1Ni(+1.5Cu)」量が2.5%を下回る場合には、900℃焼入れによる実測硬度と次に述べるHcとの差が大きくなり、焼入れ硬度が安定しない。このことは、後述する実施例からも明らかである。
Hc:31〜37
前述した(1)式〜(4)式は、本発明者らが予めおこなった実験結果に基づいて各成分の焼入れ硬度に及ぼす寄与度を多重回帰計算して求めて定めたもので、これらの式で求められるHcの値が31〜37の範囲内になるように各成分の含有量を相互に調整することで、900〜1150℃の低温から高温まで安定して必要とさせる焼入れ硬度が得られる。このことも、後述する実施例からも明らかである。
以上に説明した本発明の鋼は、Mn、Ni、Cr、NbあるいはCu、Mo等を適量含有させる一方、C、SiおよびNの含有量を抑制することによって900℃程度の低温かつ短時間熱処理でも十分な焼入れ性が確保でき、必要とされる焼入れ硬度HRC31〜37が安定して得られることを特徴とするが、さらに、低温でオーステナイト変態をするために結晶粒が微細で均一となる効果もある。
また、熱延板焼鈍後のフェライト組繊の平均結晶粒径は10〜20μmであり、Cr炭窒化物の粒径も2μm以下と微細であるので衝撃靭性も高く、安全性の高いブレーキディスクが得られる。このような微細な炭化物が鋼中に分散析出していることがその後の焼入れ処理が低温でも安定した硬度が得られる一つの要因と推定される。
なお、本発明の鋼は、NiやMoの含有量が比較的高いので、焼戻し軟化が進行し難く、この点は製品特性上からは好ましいが、オーステナイトへの変態点が低いために高温焼鈍ができず、製造性を低下させる恐れがあるものの、これは次の手段により解決 できる。
すなわち、熱延鋼帯の巻き取り温度を700℃以上にして巻取り後の冷却過程においてCr炭窒化物の成長を促進させ、その後の熱延板焼鈍をバッチ焼純炉を用いて実施することとし、その熱処理温度を720〜800℃、均熱時間を4時間以上とすればよい。その他の条件には、特別な制約は一切なく、例えば、熱延前の鋳片加熱温度は一般に低Cマルテンサイト系ステンレス鋼でおこなわれている1100〜1250℃とすればよく、バッチ焼鈍は一般的なベル型焼純炉を使用すればよい。
表1に示す化学組成を有する18種類の鋼を実験室で真空溶解炉にて溶解し、重さ17Kgの鋼塊に鋳造した。鋼塊は熱間鍛造して厚さ50mm、幅100mm、長さ150mmの鋼片とした。次いで、鋼片を1200℃に加熱して4.5mmに熱延し、得られた熱延鋼板を約300℃/minの冷却速度で700〜800℃まで冷却し、その後熱延鋼帯としてコイル状に巻き取られた状態での徐冷を模擬して、700℃に保定した加熱炉に挿入し、−40℃/hrの冷却速度で室温まで徐冷した。さらに、箱焼純を模擬して+40℃/hrで740℃に加熱後4時間均熱して−40℃/hrで室温まで徐冷した。このようにして得られた熱延焼純鋼板の表面の酸化スケールを研削して4.3mm厚に減厚して試験材とした。以下に評価試験条件を記載する。
焼入れ試験:
鋼材を40mm幅×150mm長さに切断して焼入れ試験片とした。鋼材表面に熱電対を取り付けて加熱炉中に投入し、鋼板の表面温度が所定の温度に到達してから60秒後に取り出し水冷の焼入れ処理をおこなった。
加熱炉の雰囲気は大気とし、焼入れ温度は900℃、1100℃の2条件とした。
焼入れ後の鋼材表面の酸化スケールを除去した後、JIS Z 2245に規定されるロックウェル硬さ試験方法に従い硬度測定をおこなった。
耐食性評価試験:
鋼材を40mm幅×150mm長さに切断して焼入れ試験片とした。焼入れ試験と同一の方法で900℃焼入れをおこない、さらに鋼材の板厚中心まで研削して2.0mmに減厚した後、表面を#400のエメリーペーパーで研磨仕上げして試験片とした。
耐食性の評価はJIS Z 2371に規定される塩水噴霧試験によりおこない、試験時間は24時間とし、錆発生の有無を目視で評価した。
結果は、表1および図1に示す。表1に示すように、900℃、1100℃短時間の均熱で焼入れをおこなった場合の硬度は計算式により計算したHc値と非常に良い一致を示しており、従来に比べ少量のC、Nをより的確に含有させることで狙いの硬度を得ることが可能であり、耐食性も良好である。
また、図1に示すように、Ni、MnさらにはCuの含有量が(1)式または(3)式を満たす場合に、900℃焼入れ硬度と1100℃焼入れ硬度との硬度差△Hが1.0以内と小さく、低温から高温まで安定した焼入れ硬度が得られることがわかる。
これに対して、比較鋼は、前記の高度差△Hが1.0を超えるか、耐食性が悪いかのいずれかであるか、または両方ともに劣る。
Figure 0004073844
量産試験として表2に示す化学組成を有する4種類の鋼をAOD法により溶製し、連続鋳造により厚さ200mm、幅1220mmで、重さが15.5〜17.5トンのスラブを鋳造した。これらのスラブは、1200℃に加熱し、巻き取り温度を730〜780℃とした熱延をおこない、厚さ5.5mmの熱延鋼帯とした。得られた熱延鋼帯は、3段積みの箱型焼鈍炉の台座上に積み、台座の温度(最下段の鋼帯の下面温度)が765℃に達してから7時間保持し、765℃から500℃までの平均冷却速度を−35℃/hrで冷却した後に台座より鋼帯を移動し、室温中で空冷して熱延焼鈍鋼帯とした。熱延焼純鋼帯は、連続酸洗ラインでベンディング、ショットブラストによる機械式デスケーリングおよび硫酸と弗硝酸の組み合わせによる酸洗により完全にスケールを除去した。この鋼帯より試験材を切出して試験材として用いた。
Figure 0004073844
焼入れ試験:
鋼材を40mm幅×150mm長さに切断して焼入れ試験片とした。鋼材表面に熱電対を取り付けて加熱炉中に投入し、鋼板の表面温度が所定の温度に到達してから60秒後に取り出して水冷した。加熱炉の雰囲気は大気とし、焼入れ温度は850〜1100℃まで25℃刻みで実施した。
焼入れ後の鋼材表面の酸化スケールを除去した後、JIS Z 2245に規定されるロックウェル硬さ試験方法に従い硬度測定をおこなった。
耐食性評価試験:
焼入れ試験と同一形状の鋼材を同一の方法で900℃で焼入れをおこない、さらに鋼材の板厚中心まで研削して3.0mmに滅厚した後、表面を#400のエメリーペーパーで研磨仕上げして試験片とした。
耐食性の評価は、JIS Z 2371に規定される塩水噴霧試験によりおこない、試験時間は24時間とし、錆発生の有無を目視で評価した。
結果は、表2および図2に示す。表2および図2に示すとおり、量産製造した鋼板も試験室溶製材と同様に、900℃以上の温度で安定した硬度が得られた。
本試験結果より、1000℃を超える温度においても本発明鋼は安定した硬度が得られることがわかる。低温からオーステナイト相にC、Nがほぼ完全に固溶し、温度を上げてもその量は変化しない。さらに、Mn、Ni、Cuの添加により高温でオーステナイト相は安定化することから高温でも安定した硬度が達成されると考えられる。
これに対して、比較鋼では、900℃焼入れによる耐食性が劣る結果となつた。
本発明のオートバイブレーキディスク用ステンレス鋼は、オートバイブレーキディスクの大幅な製造コストダウンを可能にし、有用性が極めて高い。
「Mn+4.1Ni(+1.5Cu)」量と900℃焼入れ硬度と1100℃焼入れ硬度の高度差△Hとの関係を示す図である。 量産製造材の850〜1100℃の焼入れ温度と硬度の関係を示す図である。

Claims (1)

  1. 質量%で、C:0.030〜0.060%、Si:0.5%以下、Mn:0.5〜2.0%、Cr:11.5〜14.0%、Ni:0.35〜4.0%、Nb:0.010〜0.10%、N:0.007〜0.030%並びにCu:0.1〜2.0%およびMo:0.05〜1.0%のいずれか一方または両方を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、下記の(3)式を満たすとともに下記の(4)式で計算されるHcの値が31〜37であることを特徴とするオートバイブレーキディスク用ステンレス鋼。
    Mn+4.1Ni+1.5Cu≧2.5%…(3)
    Hc=145C−0.1Cr+0.8Mn+1.8Ni+6.8Nb+120N+1.3Cu−1.0Mo+26.8…(4)
    ただし、(3)式および(4)式中の元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)である。
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