JP4073281B2 - コークス炉炭化室炉壁の付着カーボン厚み量の評価方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コークス炉炭化室の炉壁に付着した付着カーボンの厚み量を、精度良く推定する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
(コークス炉)
周知のように、コークス炉は、炭化室と燃焼室とが交互に配置された基本構成を有する。炭化室に装入された石炭は、両側の燃焼室からの熱を受けて乾留される。
【0003】
(炭化室における押出トラブルとその原因)
炭化室は、平面視では、通常押出機が位置するマシンサイドよりもガイド車および消火車が位置するコークサイドがわずかに広い間隔を有する。乾留後のコークスケーキを炭化室から押し出すには、押出機を正確に炭化室の前に位置させ、押出機に装備したラムを炭化室のマシンサイドからコークサイドに向けて突出させながら、そのラムヘッドにてコークスケーキをコークサイドから押し出す。
【0004】
この場合、仮に炭化室の炉壁に異常があると、押出機のラムに無理な力が加わり、極端な場合には押出不能という最悪の事態になる。このように、コークス炉の操業において特に問題となるのは、詰まり窯に代表されるコークス排出の際の押出トラブルである。そして押出トラブルが発生すると、危険な暑熱作業である赤熱コークス掻き出し作業を行わなければならない上、その作業のために生産性が大幅に低下し、さらには押出時に加わる圧力により炉体にも悪影響を及ぼす。
【0005】
押出トラブルには種々の原因があるが、特に重要な原因として、コークス炉炭化室の炉壁に付着したカーボンがコークス押出時に抵抗を生じさせ、押出ラムの停止をもたらすという現象があげられる。そこで押出トラブルを低減ないし解消するためには、炉壁付着カーボン量を適切に把握して、トラブルが発生する前に効果的にカーボンを除去しなければならない。
【0006】
(炭化室の炉壁に付着・成長するカーボンの功罪)
コークス炉炭化室の炉壁には、操業の継続と共にカーボンが付着、成長する。その成長初期の炉壁に全体に薄く均一に付着するカーボンは、炉壁面を平滑化して(つまり、炉壁の目地や欠損を平滑化して)押出抵抗を低下させると共に、炉壁の目地切れ等を塞いで燃焼室への発生ガス漏洩を抑制するので、むしろ必要な存在である。
【0007】
一方、成長後期においては、付着カーボンは、押出抵抗を上昇させて押出トラブルの原因となるなど、コークス炉の操業に対し悪影響を及ぼす存在となる。特に、押出抵抗を大きく上昇させる炉壁カーボンの形態としては、炉壁に部分的に厚く付着するこぶ状カーボンがあげられる。
【0008】
(炉壁に付着したカーボンの除去方法)
押出抵抗を上昇させるカーボンを除去する方法として、空窯がある。空窯とは、炭化室への石炭投入口である装入孔を開放してエアを自然流入させながら、石炭を装入せずに炭化室を数時間または1ないし数サイクル放置することであり、これにより炭化室に付着したカーボンを焼き落とすことができる。
【0009】
しかしながら、空窯操作を行うと、当然に生産性が低下することとなり、またエア流入による冷却に起因して炭化室炉壁を傷めることにもなる。従って、空窯の実施回数はできるだけ少ない方が好ましいことは言うまでもなく、そのためには、押出抵抗を上昇させるカーボンの付着量を正確に把握し、空窯を実施すべき時機を適切に知る必要がある。
【0010】
カーボン除去方法としては、そのほか、空窯にエアを導入して強制的にカーボンを燃焼除去する方法もある。しかしながら、余り多量のカーボンを燃焼させすぎると、炉壁を平滑化させる効果を有する薄く均一なカーボンまで燃焼除去してしまうことになり、かえって押出抵抗を増加させることになる。
【0011】
(炉壁へのカーボン付着状況の把握方法)
1.日常操業において、コークス炉炭化室炉壁へのカーボン付着状況を把握確認する方法としては、次の方法があげられる。
(A)炉上作業者が装入孔より目視にて判断する方法。
(B)押出機のオペレータが窯口より目視にて確認する方法。
(C)押出抵抗が上昇したときに、その原因を炉壁付着カーボンであると想定する方法。
【0012】
2.また、炭化室炉壁への付着カーボンの厚みを検出するための方法として、次のような方法が提案されている。
【0013】
(D)特開昭54−135598号公報(特許文献1)には、コークス炉上部空間にプローブを挿入し、プローブに設置された1対の電極の間の電気抵抗を測定して、付着カーボンの厚みを検出する方法(より詳細には、電気回路に接続された第1および第2のワイヤによって取り巻かれたプローブをカーボン生成の原因であるガスの通路に設置し、前記電気回路の手段で前記第1と第2ワイヤ間の電気抵抗を時間の函数として曲線をプロットし、表面上にカーボンが生成するのを制御するために、前記曲線の傾斜に従ってガスの温度を調整するようにした表面上のカーボン生成を制御する方法)が示されている。
【0014】
3.適当な手段により炭化室の幅を測定して、カーボン付着量や付着位置を把握する方法も提案されている。
【0015】
(E)たとえば、特開昭58−208384号公報(特許文献2)には、コークス押出機の押出ラムに炉壁面平滑度測定装置を設け、該ラムにラム移動距離計を設けて、ラムの前後進により炉壁面に付着したカーボンの有無とその位置を検出するようにしたコークス炉炭化室におけるカーボン付着の検出方法が示されている。
【0016】
(F)特開昭63−312390号公報(特許文献3)には、コークス炉の炭化室壁面に付着するカーボン量の分布に応じてカーボン除去量を調整するカーボン除去方法において、押出機ラムヘッド部に設置した光三角法を用いた測定装置によって炭化室幅を測定すると共に、測定した位置を検出し、同一の炭化室を測定したデータの時間的変化からカーボン付着量の分布を解析し、解析したデータをこの炭化室におけるデータとして記憶しておき、さらに記憶した該解析データに基き、押出機ラム部に設置したノズルから噴射するカーボン除去用の気体噴射量を制御し、カーボン除去量を調整するようにしたコークス炉炭化室のカーボン除去方法が示されている。
【0017】
4.さらに、次に述べるように、カーボンの放射率と炉壁煉瓦の放射率との違いを利用して、放射温度計を用いてカーボン付着位置を検出する方法も提案されている。
【0018】
(G)たとえば、特開平1−178590号公報(特許文献4)には、ラムヘッドの上部、下部にそれぞれ輻射温度検出器を設けた押出機により、炭化室から乾留されたコークスを窯出しする際に、前記輻射温度検出器により炭化室の内壁の上部、下部の温度分布を測定し、両者の温度分布の差により炭化室に付着したカーボンの付着量と付着位置とを測定するコークス炉の炉壁カーボン測定方法が示されている。
【0019】
(H)同様に、特開平3−43490号公報(特許文献5)には、炭化室の長さ方向の炉壁の温度を押出機のラムヘッドに取り付けた輻射式温度計により測定し、その測定結果より求めた温度分布からカーボン付着箇所を検出するようにしたコークス炉の炉壁異常検査方法が示されている。
【0020】
(I)本出願人の出願にかかる特開平11−61138号公報(特許文献6)には、ラムヘッドに設置した放射温度計(A) によりコークス炉炭化室の炉壁温度分布を測定するにあたり、前記放射温度計(A) として単色式放射温度計(a1)と2色式放射温度計(a2)とを同時に使用して温度T1 , T2 を測定し、その温度差ΔTに基いて炉壁へのカーボン付着位置および付着量の推定を行うようにしたコークス炉炭化室の炉壁付着カーボンの検出方法が示されている。
【0021】
【特許文献1】
特開昭54−135598号公報
【特許文献2】
特開昭58−208384号公報
【特許文献3】
特開昭63−312390号公報
【特許文献4】
特開平1−178590号公報
【特許文献5】
特開平3−43490号公報
【特許文献6】
特開平11−61138号公報
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
(各方法の問題点)
上記1の(A)の方法(カーボン付着位置を炉上作業者が装入孔より目視にて判断する方法)は、従来より行われている一般的な方法であるが、炭化室内を観察する機会はカーボン焼き落としのための空窯操作を行った直後などに限られるため、適切な時機にカーボン焼き落としを行うべく定期的に炭化室炉壁の観察を行うことが困難である。
【0023】
上記1の(B)の方法(押出機のオペレータが窯口より目視にて確認する方法)は、窯出しの都度炭化室内を確認することができるが、押出中の炭化室内は発塵や火炎などで目視による内部観察が困難であり、さらには押出機から距離が離れているコークサイド側の観察が難しいという問題もある。
【0024】
上記1の(C)の方法(コークス窯出し時の押出電流値や押出電力値などを指標とした押出抵抗の大きさにより、カーボン付着量を想定する方法)は、押出抵抗に異常が現れるのは炉壁にカーボンが付着している場合だけでなく、炉壁に欠損が生じた場合や、炭化室自体が湾曲している場合についても異常な押出抵抗を示す場合があるため、原因をカーボンと特定することが困難である。また、押出抵抗はあくまで間接的なカーボン検出方法であり、直接的にカーボンを測定しているわけではない。
【0025】
上記2の(D)の特開昭54−135598号公報(特許文献1)の方法は、(i) 炭化室上部空間に、間隔をおいた1対の電極を有するプローブを挿入する、(ii)電極の間にカーボンが付着することにより、電極間の電気抵抗が変化する、(iii) 電極間の電気抵抗と付着カーボン厚みとの関係を事前に求めておく、(iv)電極間の電気抵抗を測定することで付着カーボンの厚みを検知する、という方法である。しかしながら、この方法は、あくまでプローブに付着したカーボンの厚みを測定することにより周辺部の炭化室付着カーボン厚みを推定する方法であり、直接的に炭化室付着カーボンを測定しているとは言えない。また、電極を有するプローブを炉内に挿入する必要があることから、カーボンを測定できる場所は炭化室上部空間や上昇管など、ある程度の空間容積を有する部分に限られ、押出抵抗に大きな影響を与える炉壁付着カーボンの測定を行うことは難しい。
【0026】
上記3の(E)の特開昭58−208384号公報(特許文献2)や(F)の特開昭63−312390号公報(特許文献3)の方法は、炭化室の幅を測定し、炭化室プロフィルの設計値との差に基いてカーボン付着を検知する方法である。この方法は、カーボン付着状況を正確に把握することができるが、炭化室の幅の測定を行うためには、レーザー距離計などの高価で精密な機器を使用する必要がある。さらには、測定装置を炉内に挿入する必要のあるこの方法を用いる場合、精密な距離測定装置を常に断熱、冷却し続ける必要があるため、操業中に定常的に測定し続けることが難しい。
【0027】
上記4の(G)、(H)、(I)の方法(特許文献4〜6の方法)は、炉壁温度を測定してカーボンの付着状態を推定しようとするものである。この方法は、現場での応用に適しているので、興味のあるものである。
【0028】
しかしながら、これら(G)、(H)、(I)の方法(特許文献4〜6の方法)は、本発明者らの検討によれば、カーボン付着厚み量を推定する上では、精度が必ずしも充分とは言えないことが判明した。炉壁の測温結果とカーボン付着厚み量との間には、ある程度の相関関係が見られるものの、その相関関係が弱いのである。これらの方法にあっては、カーボン付着厚み量を精度良く推定するための何かの要因が欠けているようである。
【0029】
(本発明の目的)
本発明は、このような背景下において、コークス炉炭化室の炉壁に付着するカーボンの厚み量を精度良く推定できる有効な手段を見い出すこと、さらにはコークス炉オペレータが炉壁状況を把握しやすい手段を見い出すことにより、コークス炉の操業における押出抵抗の管理に貢献する技術を提供することを目的とするものである。
【0030】
【課題を解決するための手段】
本発明のコークス炉炭化室炉壁の付着カーボン厚み量の評価方法は、
(X)試験炉または実炉を利用して、該炉の炭化室の炉壁または炉壁に相当する部位における付着カーボン厚み量D0 と、そのときの炭化室の炉壁または炉壁に相当する部位の表面温度量T0 と、その炭化室に隣接する燃焼室または該燃焼室を模した室の雰囲気温度量F0 とを求めることにより、予め、これらD0 ,T0 ,F0 間の相関関係についての関係式ないしデータベースを作成しておくこと、および、
(Y)評価対象とするコークス炉炭化室炉壁の測定対象部位Pの表面温度量Tと、その炭化室に隣接する燃焼室の雰囲気温度量Fとを測定し、その炭化室炉壁の測定対象部位Pにおける付着カーボン厚み量Dを、上記(X)の相関関係についての関係式ないしデータベースに基いて推定すること
を特徴とするものである。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
【0032】
〈(X)相関関係についての関係式ないしデータベースの作成〉
本発明においては、まず、試験炉または実炉を利用して、該炉の炭化室の炉壁または炉壁に相当する部位における付着カーボン厚み量D0 と、そのときの炭化室の炉壁または炉壁に相当する部位の表面温度量T0 と、その炭化室に隣接する燃焼室または該燃焼室を模した室の雰囲気温度量F0 とを求めることにより、予め、これらD0 ,T0 ,F0 間の相関関係についての関係式ないしデータベースを作成しておく。
【0033】
試験炉を利用する場合は、たとえば、該炉の炭化室の炉壁(または炉壁に相当する部位、たとえば炉内に設置した台座煉瓦の上面)に所定の厚み量D0 のカーボン付着層を形成させておき、炉内をたとえば窒素雰囲気に保ちながら、炭化室に隣接する燃焼室または該燃焼室を模した室の雰囲気温度量F0 を数水準に変更し、炉壁が一定温度になるまで保ってから、その炉壁の表面温度量T0 を測定する。このようにして、後述の実験例1の図2(イ)、(ロ)、(ハ)のように、各雰囲気温度量F0 についての付着カーボン厚み量D0 と炉壁の表面温度量T0 との間の相関関係が得られるので、それを関係式ないしデータベースとして準備しておく。
【0034】
実炉を利用する場合は、たとえば、押出機ラムから炉壁までの距離をレーザ距離計などで測定して炉壁の付着カーボン厚み量D0 を測定すると共に、燃焼室の雰囲気温度量F0 (特に燃焼室の上部空間の温度量)および炉壁の当該部位の表面温度量T0 を測定して、これらの間の相関関係についての関係式ないしデータベースを作成すればよい。
【0035】
試験炉または実炉のいずれを利用する場合も、上記の相関関係を、関係式、グラフ、コンピュータ利用の統計的ないし演算処理などの形態で準備しておく。
【0036】
上記の表面温度量T0 および雰囲気温度量F0 の測定は、任意の測温手段を用いて行うことができる。
【0037】
〈(Y)付着カーボン厚みDの推定〉
そして、評価対象とするコークス炉炭化室炉壁の測定対象部位Pの表面温度量Tと、その炭化室に隣接する燃焼室の雰囲気温度量Fとを測定し、その炭化室炉壁の測定対象部位Pにおける付着カーボン厚み量Dを、上記(X)の相関関係についての関係式ないしデータベースに基いて推定する。
【0038】
燃焼室の雰囲気温度量Fは、たとえば、炉長方向に数10室存在する燃焼室のうち、コークサイド(またはマシンサイド)からn番目の燃焼室を選んで、その上部空間の温度を測定して、温度量Fとして用いればよい。
【0039】
炭化室炉壁の測定対象部位Pの表面温度量Tは、炭化室の装入口の外部に設けた温度計により、その装入孔のほぼ直下付近の特定高さの部位の炉壁温度量を測定したり、あるいは、押出機のラムに設けた温度計により、炉壁の特定の高さの部位を炉長方向に走査しながら測定したりするようにすればよい。
【0040】
このときの表面温度量Tは、測定対象部位Pの表面温度そのものであってもよく、あるいは、測定対象部位Pとその周辺の一定距離離れた点(たとえば、前後方向または上下方向に一定距離離れた1点(または数点の平均)との間の温度差であってもよい。
【0041】
炉壁の表面温度量Tを求めるために用いる温度測定手段としては、押出機のラムヘッドに設置した放射温度計(単色式放射温度計、2色式放射温度計、あるいはそれらの併用)で測温する方法、炉壁撮像による炉壁の輝度に基いて測温する方法、サーモグラフィを用いて測温する方法などがあげられる。これらのうち、非接触測定法にかかる放射温度計を用いたときには、付着カーボン厚み量だけでなく、適当な手段で炭化室炉壁を走査することによって、カーボンの付着分布も知ることができる。
【0042】
ここで放射温度計は、物体の表面から放射される熱放射エネルギーの量または強さを測定する温度計である。単色式放射温度計は、ある不完全放射体より放射される放射エネルギーを狭い範囲の波長帯域で測定し、その値をその物体の放射率で補正して真温度を求める温度計であるため、測定対象物の放射率の影響を受けやすい。一方、2色式放射温度計は、ある不完全放射体より放射される放射エネルギーを互いに異なる二つの波長帯域で測定し、それらの比率より温度表示する温度計であるため、測定対象物の放射率の影響を受けにくい。
【0043】
単色式放射温度計と2色式放射温度計とを同時に使用して、同一部位についてのそれぞれの温度を測定するときは、それらの温度差を用いることもできる。温度差の大きい部分にはカーボンの付着があり、温度差が小さい部分にはカーボンの付着がないか少ないと判断されるので、炉壁の表面温度量Tとして信頼性が高くなるからである。
【0044】
放射温度計を用いるときの温度測定は、押出機のラムヘッドへの放射温度計の設置高さを選び、炭化室の炉壁の上段−中段−下段とか、上段−下段とかいうように、高さの異なる数個所に対して行うことが好ましい。ラムヘッドは炭化室のマシンサイド−コークサイドを往復するので、炉長方向(つまり炉壁横方向)の温度分布も測定することができる。
【0045】
次に、燃焼室の雰囲気温度量Fを求めるための手段としては、熱電対(熱起電力温度計)、膨張温度計、圧力温度計、抵抗温度計などの任意の測温手段があげられる。
【0046】
なお、温度の測定値の処理、温度差の計算処理、それらの記録は、ケーブル、コンピュータ、ディスプレイ、プリンタなどを用いて自動的に処理・記録することができる。
【0047】
〈画像表示〉
上記(ロ)の付着カーボン厚み量Dの推定を行うときには、評価対象とするコークス炉炭化室炉壁の多数点の測定対象部位Pにつき付着カーボン厚み量Dを推定すると共に、その推定に基いて、炭化室炉壁における付着カーボン厚み量Dの分布を画像表示できるようにすることが特に好ましい。
【0048】
【実施例】
次に実施例をあげて本発明をさらに説明する。
【0049】
実験例1
図1は、この実験例1で用いた試験装置を示した説明図である。部材の説明は図中に記入してある。
【0050】
炭化室の炉壁または炉壁に相当する部位における付着カーボン厚み量D0 と、そのときの炭化室の炉壁または炉壁に相当する部位の表面温度量T0 と、その炭化室に隣接する燃焼室または該燃焼室を模した室の雰囲気温度量F0 との関係を求めるため、炉長160mm、炉幅60mm、炉高120mmの小型試験炉を用いて、煉瓦およびカーボンの測温試験を行った。
【0051】
炉内には、図1のように硅石煉瓦でできた台座煉瓦を設置した。この台座煉瓦の上面の右半分の部位には、コークス炉から脱落した炉壁付着カーボンを採取して所定の厚み量D0 (10mm、20mm、30mm)に切断したものを、アルミナ系接着剤を用いて台座煉瓦に接着した。台座煉瓦の上面の左半分の部位には、使用した炉壁付着カーボンと同じ厚みの硅石煉瓦を同様にして接着し、炉壁に相当する部位とした。実験は、カーボン厚み量D0 が0mm(煉瓦面)および20mmの場合について同時に測定し、またカーボン厚み量D0 が10mmおよび30mmの場合について同時に測定した。
【0052】
実炉における燃焼室に模して、図1のように、試料を設置した試験炉内に仕切り壁を設置し、窒素雰囲気下にシリコニット発熱体で加熱を行い、そのときの雰囲気温度量F0 を熱電対にて測定しながら炉内温度の制御を行った。ただし、実炉のように燃焼室で燃料ガスを燃焼させることにより炭化室を加熱しているわけではないので、制御用熱電対測定温度は試料温度よりも低い値を示す。
【0053】
炉内をまず設定温度の最大値である1000℃以上に保持し、その後炉内温度を降温させながら、雰囲気温度量F0 を1000℃、900℃、800℃の各設定温度(温度制御用熱電対で確認)に保持して、台座煉瓦上の硅石煉瓦の表面温度量T 0 (厚みD0 =0に相当)および厚み量D0 の付着カーボンの表面温度量T0 を、それぞれ煉瓦測温用熱電対およびカーボン測温用熱電対を用いて測定した。なお、各設定温度への保持時間は、対象物の表面温度が1分間以上変化しなくなるまでとした。結果を次の表1に示す。(表1のF 0 、D 0 、T 0 の数値は、この順に、雰囲気温度そのもの、厚みそのもの、表面温度そのものである。)
【0054】
【表1】
表面温度量T 0
付着カーボン 雰囲気温度量F0 雰囲気温度量F0 雰囲気温度量F0
厚み量D 0 800 ℃ 900 ℃ 1000 ℃
0 mm 819 ℃ 907 ℃ 1022 ℃
10 mm 853 ℃ 932 ℃ 1021 ℃
20 mm 855 ℃ 930 ℃ 1025 ℃
30 mm 867 ℃ 946 ℃ 1036 ℃
【0055】
図2(イ)、(ロ)、(ハ)は、表1における雰囲気温度量F0 と付着カーボン厚み量D0 との関係を表面温度量T0 ごとに図示したものである。図1から、付着カーボン厚み量D0 が厚いほど表面温度量T0 が高くなり(正の相関関係を有しており)、またその傾きが表面温度量T0 により相違していることがわかる。
【0056】
上記の測定結果から、付着カーボン厚み量D0 ごとの表面温度量T0 と雰囲気温度量F0 との関係を数式化すると、
T0 =(a・F0 +b)× exp[(c・F0 +d)×D0 ] (1)
(a,b,c,dは定数)
となる。
【0057】
これを実炉に適用すると、
T=(a’・F+b’)× exp[(c’・F+d’)×D] (2)
T:炉壁の測定対象部位Pの表面温度量
F:燃焼室の雰囲気温度量
D:付着カーボン厚み量
(a’,b’,c’,d’は定数)
となる。
【0058】
そして、この(2) 式を変形すると、
D=ln[T/(a’・F+b’)]/(c’・F+d’) (3)
となり、炉壁表面温度量Tと燃焼室の雰囲気温度量Fとから、付着カーボン厚み量Dを推定することができる。
【0059】
実験例2
図3は、押出機のラムのラムヘッド周りの説明図である。(1) は押出ビーム、(2) はラムヘッド、(3) は分岐ボックスである。(4) は検出ヘッドであり、(4a)は上段検出ヘッド、(4b)は中段検出ヘッド、(4c)は下段検出ヘッドである。(5) はラムビームである。
【0060】
図4は、炉壁の温度測定部位を示した説明図である。図中、C/Sはコークサイド、M/Sはマシンサイドの意味である。
【0061】
コークス炉の特定の窯を用いて、以下に述べる測定を行った。すなわち、窯出し時に、押出機のラムの上段検出ヘッド(4a)、中段検出ヘッド(4b)および下段検出ヘッド(4c)に設置した単色式放射温度計により、炉壁の上段、中段、下段における炉長方向多数点の炉壁表面温度量Tを測定した。燃焼室の雰囲気温度量Fについては、炉長方向に複数室存在する燃焼室のうち中央付近の燃焼室の上部空間の温度を熱電対にて測定した値を用いた。炉壁表面温度量Tの測定結果を、表2〜4に分けて示す。(表2〜4のF、Tの数値は、この順に、雰囲気温度そのもの、表面温度そのものである。)
【0062】
【表2】
炉壁の C/S窯口からの距離 (mm)
測定部位 624 936 1624 1936 2624 2936 3624 3936 4624 4936
上段 883 915 923 924 926 928 910 899 877 884
中段 1057 1089 1082 1102 1091 1085 1105 1080 1098 1098
下段 963 1009 1008 1006 1004 996 1009 1020 1021 1014
【0063】
【表3】
炉壁の C/S窯口からの距離 (mm)
測定部位 5624 5936 6624 6936 7624 7936 8624 8936 9624 9936
上段 869 878 893 898 899 909 906 908 896 893
中段 1090 1089 1081 1101 1112 1105 1129 1096 1100 1089
下段 1008 1008 1006 1018 1028 1021 1017 1016 1005 1001
【0064】
【表4】
炉壁の C/S窯口からの距離 (mm)
測定部位 10624 10936 11624 11936 12624 12936 13624 13936 14624 14936
上段 892 901 875 878 879 887 884 907 886 858
中段 1091 1091 1083 1069 1063 1045 1078 1097 1074 1050
下段 996 996 987 994 984 986 980 991 987 992
【0065】
炉高方向3箇所のデータから、直線近似で測定位置間のデータを補完し、先に実験例1において述べた(3) 式から炉壁各部位の推定付着カーボン厚み量Dを算出して、画像表示した。画像表示した結果を図5に示す。
【0066】
図5から、他の部分よりもカーボンが付着しやすくかつ成長しやすいと言われる装入孔直下位置付近と、ラムビーム(5) 通過高さ付近となる中段検出ヘッド(4b)走査部位の近くにおいて、炉壁に厚い付着カーボンが存在していることがわかる。
【0067】
一般に、コークス炉炉壁において、ラムビーム(5) 通り高さは、特に炉壁の肌荒れが激しい部位である。また、装入孔直下の位置は、石炭落下による冷却および衝撃により、他の部分よりも特に炉壁の肌荒れが激しい部分である。そして、肌荒れが激しい部位は、他の部位よりもカーボンが付着しやすくかつ成長しやすい。その結果、これらの部位においては、操業の継続と共に押出抵抗が増加するケースが多いことが経験的に見い出されている。
【0068】
実験例2の結果は、このような経験的知見と合っており、またその知見を定量化しており、さらには図5のように画像化したことにより、オペレータが炉壁に対するカーボン付着状況と付着厚み量とを把握しやすくなっている。
【0069】
【発明の効果】
本発明によれば、炉壁付着カーボンの厚み量を定量的にかつ精度良く推定することができる。従って、付着カーボンを除去すべき時機を適正に選択することができ、コークス窯出し時の押出抵抗を管理することができる。
【0070】
また、付着カーボン厚み量を把握することにより、付着しているカーボンが押出抵抗に悪影響を及ぼす厚いカーボンであるか、あるいは炉壁目地切れを塞いで炉壁を平滑化させる薄いカーボンなのかを判別することができるので、付着カーボンを除去すべきかどうかを判断することができ、付着カーボンが少ないことによる炭化室から燃焼室への発生ガス漏洩、それに続く煙突からの黒煙発生を抑制することができる。
【0071】
温度測定手段として放射温度計を用いた場合には、放射温度計を炉壁に対して走査することにより、付着カーボンの厚み量だけでなく、カーボンの付着状況を知ることができる。なお、本発明にあっては温度測定手段は任意でありその種類を問うものではないが、放射温度計による非接触測定法を用いた場合には、炉内に挿入する測定機器は非常に小さいものとなり、冷却手段も空冷などの簡易なもので足りる。
【0072】
このように、押出抵抗を増大させる原因となるカーボン付着状況を把握することにより、コークス押出トラブルの低減が可能となり、炉体の損傷を抑えることができる。押出トラブルに伴なう生産性の低下も防ぐことができる。また、炭化室容積の減少による生産性の低下を防止することができる。
【0073】
そして、適切なタイミングで空窯作成を行うことができるので、カーボンの少ない窯を空窯にして炉体を傷めるようなことがない。さらには、空窯作成による生産性低下を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実験例1で用いた試験装置を示した説明図である。
【図2】 表1における雰囲気温度量F0 と付着カーボン厚み量D0 との関係を表面温度量T0 ごとに図示したものである。
【図3】 押出機のラムのラムヘッド周りの説明図である。
【図4】 炉壁の温度測定部位を示した説明図である。
【図5】 実験例2における結果を画像表示したものである。
【符号の説明】
(1) …押出ビーム、
(2) …ラムヘッド、
(3) …分岐ボックス、
(4) …検出ヘッド、
(4a)…上段検出ヘッド、(4b)…中段検出ヘッド、(4c)…下段検出ヘッド、
(5) …ラムビーム
Claims (2)
- (X)試験炉または実炉を利用して、該炉の炭化室の炉壁または炉壁に相当する部位における付着カーボン厚み量D0 と、そのときの炭化室の炉壁または炉壁に相当する部位の表面温度量T0 と、その炭化室に隣接する燃焼室または該燃焼室を模した室の雰囲気温度量F0 とを求めることにより、予め、これらD0 ,T0 ,F0 間の相関関係についての関係式ないしデータベースを作成しておくこと、および、
(Y)評価対象とするコークス炉炭化室炉壁の測定対象部位Pの表面温度量Tと、その炭化室に隣接する燃焼室の雰囲気温度量Fとを測定し、その炭化室炉壁の測定対象部位Pにおける付着カーボン厚み量Dを、上記(X)の相関関係についての関係式ないしデータベースに基いて推定すること
を特徴とするコークス炉炭化室炉壁の付着カーボン厚み量の評価方法。 - 評価対象とするコークス炉炭化室炉壁の多数点の測定対象部位Pにつき付着カーボン厚み量Dを推定すると共に、その推定に基いて、炭化室炉壁における付着カーボン厚み量Dの分布を画像表示するようにしたことを特徴とする請求項1記載の評価方法。
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