JP4071348B2 - 光ファイバ母材の脱水処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、線引きして光ファイバを作るための母材となる光ファイバ母材を製造する装置に関し、とくにVAD法等によって作った多孔質ガラス体を高温下で脱水処理する脱水処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
VAD法などで光ファイバ母材を製造するとき、バーナより酸水素火炎を生じさせてその中に四塩化珪素などのガラスの原料ガス及び四塩化ゲルマニウムなどのドーパント材のガスを送り込み、加水分解反応及び熱酸化反応によってガラス微粒子(二酸化珪素)を生成させ、このガラス微粒子をターゲットに堆積させて円柱状の多孔質のガラス体を形成する。そして、この多孔質のガラス体のOH基を除去(脱水)する処理を行う。これは多孔質ガラス体を高温下で脱水剤にさらすことにより行い、ついで高温に加熱することによって透明ガラス化(焼結)する。こうして透明なガラス体を作り、これを溶融して線引きすることによって細い光ファイバを作る。
【0003】
たとえば、シングルモード光ファイバ用の母材を製造する場合、まず図2に示すように、複数本のバーナ21、22、23に水素ガスおよび酸素ガスを供給して酸水素火炎が発生させ、この火炎中に四塩化珪素などのガラスの原料ガスを送り込んで(コア用バーナ21には、これらに加えて四塩化ゲルマニウムなどのドーパントガスを送り込む)ガラス微粒子を生成し、これを回転するターゲット棒12の下端に付着させる。このガラス微粒子の堆積・成長とともにターゲット棒12を引き上げることにより、付着・堆積したガラス微粒子の堆積体(スートプリフォーム)11がターゲット棒12の下端より下方向に円柱状に成長していくことになる。このデポジション工程はチャンバ14内で行われ、このチャンバ14には排気管15が取り付けられ、図示しない吸引装置により吸引されて排気がなされている。
【0004】
このような方法では酸水素火炎を用いているため、作製されたスートプリフォーム11には、通常、多くのOH基が含まれている。このOH基の吸収ピークは、波長0.95μm、1.24μm、1.39μmを中心に持ち、その吸収ピークのテイルは伝送帯域の損失劣化をもたらす。そこで、光ファイバの低損失化のためには、このOH基を除去する脱水工程を十分に行う必要がある。
【0005】
この脱水工程を行う装置は、図3に示すように、加熱炉31とトラバース装置34とにより構成されている。スートプリフォーム11をトラバース装置34でつり下げて、石英ガラス製の炉心管33中を下方に移動(トラバース)させていく。炉心管33はヒーター32によって加熱されており、スートプリフォーム11がその加熱領域を下方に通過していくことになる。この炉心管33には塩素系ガスを含むヘリウムガスが下端から導入されている。約1000°Cの塩素系ガスを含むヘリウムガス雰囲気中に、スートプリフォーム11を約5〜10mm/minの速度でトラバースさせることにより脱水(OH基除去)する。その後、約1500°Cのヘリウムガス雰囲気中でガラス化させる。
【0006】
こうして作製した透明ガラス母材を延伸し、外付け法などによってその周囲に所定の倍率のクラッド層を堆積させ、さらに加熱処理して透明ガラス化することにより、所望の光ファイバ母材を得る。この光ファイバ母材が溶融・線引きされることによってシングルモード光ファイバが作られる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の脱水処理装置では、光ファイバ母材のドーパント濃度をその長さ方向で一定にすることができず、その結果、コア/クラッドの比屈折率差Δが長さ方向で変化してシングルモード光ファイバの特性劣化や歩留まりの悪化を招く、という問題がある。
【0008】
すなわち、VAD法等でスートプリフォームを作る場合、コア部分のデポジション状態は常時モニターして管理されており、一定の状態に維持されていて、スート状態では二酸化ゲルマニウム等のドーパントの濃度変化はその長さ方向で1%以内に抑えられているものである。ところが、図3に示すような加熱炉31で脱水処理すると、プリフォーム11の下部のドーパント濃度が上部に比べて最大で5%以上低くなることがある。
【0009】
このような脱水工程での母材の長さ方向のドーパント濃度変化を見こして、スートプリフォーム形成時にあらかじめドーパント濃度を変化させることも考えられるが、コア部分のデポジション状態が変化してしまうことから、コア部の屈折率分布形状やコア/クラッドの直径の比が変化してしまい、特性や制御性はかえって悪くなってしまう。
【0010】
この発明は、上記に鑑み、長手方向でドーパント濃度が変化しないようにしてOH基を除去することができるように改善した、光ファイバ母材の脱水処理装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、この発明による光ファイバ母材の脱水処理方法においては、加熱炉と、該加熱炉の炉心管内において光ファイバ母材が高温領域を通過するよう該光ファイバ母材を移動させる移動装置と、該光ファイバ母材の位置に応じて該炉心管内に導入する脱水剤濃度を制御する制御装置とが備えた光ファイバ母材の脱水処理装置を用い、前記光ファイバ母材を前記移動装置によりつり下げて、前記加熱炉におけるヒーターによって加熱されるとともに、前記制御装置によって、その内部に脱水剤が導入されている炉心管中を下方に移動させることにより前記光ファイバ母材の脱水処理を行う光ファイバ母材の脱水処理方法であって、前記炉心管の軸方向における温度分布を、前記光ファイバ母材が透明ガラス化する温度よりも低い温度まで加熱してなる高温領域を形成するものとし、前記炉心管内の高温領域の最も温度が高い位置に、前記光ファイバ母材の下端が位置しているときを位置0とし、前記制御装置により、前記光ファイバ母材の下端が位置0から下がってくる量に応じた位置信号を得るとともに、前記光ファイバ母材の下端が前記位置0にあるときは前記脱水剤の濃度を低くし、前記光ファイバ母材の上部が前記位置0にあるときには前記脱水剤の濃度が高くなるように制御することが特徴となっている。
前記炉心管の軸方向における温度分布を、前記ヒーターの中心部で1000℃とすることが好ましい。
【0012】
脱水処理は光ファイバ母材中に残存するOH基を除去するための処理であるが、同時に光ファイバ母材中のドーパント濃度の低下も招く。このドーパント濃度の低下は、脱水効率と同様に、主に、雰囲気の温度と脱水剤の濃度とに依存する。一方、脱水処理すべき光ファイバ母材は、炉心管内においてトラバースさせられるようになっており、このトラバースによって炉心管内の高温領域を通過させられて脱水処理される。そこで、この移動させられる光ファイバ母材の位置に応じて脱水剤の濃度を制御することにより、光ファイバ母材のドーパント濃度をその長さ方向で一定にすることが可能となる。
【0013】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1において、VAD法によって作製したスートプリフォーム11をトラバース装置34でつり下げて、加熱炉31の石英ガラス製の炉心管33中を下方に移動(トラバース)させていく。その速度は約5〜10mm/minとする。炉心管33はヒーター32によって加熱されており、スートプリフォーム11がその加熱によって高温とされた領域を下方に通過していく。この炉心管33には、ガス流量制御装置36によって、塩素系ガス等の脱水剤ガスを含む雰囲気ガス(ヘリウムガス等)が下端から導入されている。
【0014】
ホストコンピュータ35はシステム全体の制御を行い、トラバース装置34にトラバース速度の指令を出し、ガス流量制御装置36に塩素系ガスの濃度制御信号を与える。すなわち、トラバースさせられるスートプリフォーム11の位置に関する信号をトラバース装置34から受けて、その位置に応じて炉心管33内に送り込む塩素系ガスの濃度を制御する。
【0015】
炉心管33の軸方向での温度分布は曲線41のようにヒーター32の中心部で約1000°Cと最も高いものとなる。この温度分布があらかじめ測定されており、そのデータがホストコンピュータ35に保持させられている。上記のようにスートプリフォーム11の位置が検出されてその位置信号がホストコンピュータ35に入力されているので、スートプリフォーム11の先端(下端)が高温領域にあるかどうかが分かる。スートプリフォーム11の下端が高温領域にあるときは塩素系ガスの濃度を低くし、その後スートプリフォーム11が下がってきて下端が高温領域を通過しその上部が高温領域に入るようになったなら、塩素系ガスの濃度を高くする、という制御がホストコンピュータ35およびガス流量制御装置36によって行われる。
【0016】
脱水ガスによりスートプリフォーム11中のOH基が除去されるが、それとともにドーパントも除かれドーパント濃度が低下する。このドーパント濃度の低下は、脱水効率と同様に脱水ガスの濃度に依存し、さらに、1000°C付近までは高温の方が著しい。一方、脱水ガスは図1に示すように炉心管33の下部から導入されるため、スートプリフォーム11の下部は常に高濃度の脱水ガスにさらされていることになる。そこで、このスートプリフォーム11の下端付近が炉心管33の高温領域に入っているときに脱水ガスの濃度を下げることにより、スートプリフォーム11の下端付近のドーパント濃度低下を抑制し、その長さ方向でドーパント濃度を一定にし、長さ方向での屈折率変化が生じないようにすることが可能となる。
【0017】
これについて、いま少し詳しく説明する。ここではドーパントとして二酸化ゲルマニウムを用い、スートプリフォーム11の中心のコア部に二酸化ゲルマニウムがその長さ方向において一定の濃度で添加されるように、スートプリフォーム11が図2のようなVAD法によって作製されているものとする。脱水処理の工程でこの二酸化ゲルマニウム濃度が低下するメカニズムをOH基除去のメカニズムとともに説明する。
【0018】
スートプリフォーム11の生成時に生じたOH基はスートプリフォーム11中でSi−OHの形で存在する。このスートプリフォーム11を塩素系ガスたとえばCl2を用いた塩素雰囲気で熱処理するとつぎの化学式1のような反応によりOH基が除去される。
【化1】
この後、Si−Clは高温の不活性雰囲気において分離し、Cl2となって排出されるが、わずかにガラス中に残存するものもある。また、コア部の屈折率を上げるために添加されたGeCl4も同様な形でOH基が付いた形をとっている。これもGe−Clに変化するが、このGe−Clは容易に分離しGe4+イオンとなってガラス構造の中で非常に不安定な状態となる。この不安定なGe4+は高温状態では容易に揮散し、ガラス中のGeO2濃度の低下がもたらされる。
【0019】
二酸化ゲルマニウム濃度の低下は、脱水効率と同様に、ある温度領域では脱水ガスの濃度に比例する。この現象は1000°C付近までは高温になればなるほど進み、1000°Cを超えた温度になると今度はスートプリフォーム11のガラス化が進行してしまい、脱水剤がスートプリフォーム11の内部に入り込めなくなって脱水効率の低下とともに二酸化ゲルマニウム濃度の低下割合も小さくなる。そのため、約1000°C付近が最も脱水効率のよい温度といえる。
【0020】
ところが、この脱水効率の良好な高温領域は、図1の温度分布曲線41で示すようにスートプリフォーム11の長さに対して狭い領域となっていることから、スートプリフォーム11をこの狭い高温領域に対して低速で通過させるようにしている。また、スートプリフォーム11の下端は図1に示すように常に高濃度の脱水ガスにさらされていることになる。そのため、上記のように脱水ガスの濃度を変化させることをしなければ、下端付近が高温領域にあるときに他の部分よりも二酸化ゲルマニウム濃度低下が大きくなり、下端付近の部分の比屈折率差Δはスートプリフォーム11の上端側に比べて最大5%以上低くなることがある。これに対して、上記のようにスートプリフォーム11の下端付近が高温領域にあるときにCl2の濃度を下げるようにすればその下端付近の部分における二酸化ゲルマニウム濃度の低下を抑えることができ、結果として二酸化ゲルマニウム濃度をスートプリフォーム11の長さ方向で一定にすることができる。
【0021】
【実施例】
さらに、具体的な実施例について詳細に説明する。まずスートプリフォーム11としてVAD法によって比屈折率差Δ=+0.4%のものを作製し、これを図1のような脱水処理装置で脱水・ガラス化処理した。この脱水処理の際、上記のように塩素系ガスの濃度を変化させた。すなわち、ヒーター32による高温領域の最も温度が高い位置に、スートプリフォーム11の下端が位置しているときを位置0とし、それから下がってくる量に応じた位置信号を得、その位置信号にしたがって塩素系ガスの濃度を制御した。このような脱水処理の後にガラス化処理を行った。
【0022】
その結果、ガラス化したプリフォーム11の中心のコア部の比屈折率差Δは、上端(ターゲット棒12側)で0.405%、下端側で0.400%となり、下端側でのドーパント濃度低下を抑えることができたことが分かった。このようにプリフォーム11の比屈折率差をその長さ方向でほとんど一定にでき、またコア部の屈折率分布形状、コア/クラッド倍率(直径の比)の変化も非常に小さいものとなったため、全長を良品として使用することが可能となった。
【0023】
【比較例1】
参考のために比較例を示す。上記と同様のVAD法によって作製した比屈折率差Δ=+0.4%のスートプリフォーム11を図1の脱水処理装置で脱水・ガラス化処理したが、その脱水処理の際に、上記のように塩素系ガスの濃度を変化させることはせずに、塩素系ガスの濃度は一定とした。
【0024】
こうしてガラス化されたプリフォーム11のコア部の比屈折率差Δを調べてみたところ、上端(ターゲット棒12側)で0.420%、下端側で0.400%と、5%の差が生じたことが判明した。つぎにこのガラス化プリフォーム11を延伸し、クラッド部を外付けしたが、その際、比屈折率差Δの平均値に対応するようにしたので、母材の両端で一部の特性を満足することができず、両端は不良部分となり、全長を良品として用いることができなかった。
【0025】
【比較例2】
同様に、VAD法によって作製した比屈折率差Δ=+0.4%のスートプリフォーム11を図1の脱水処理装置で脱水・ガラス化処理した。その処理するスートプリフォーム11をVAD法によって作製する際に、デポジションが進むにつれて四塩化ゲルマニウムの添加量を増加させた。これにより、二酸化ゲルマニウム濃度がターゲット棒12側で低くその反対側に向かうにつれて徐々に高くなるような、長さ方向で二酸化ゲルマニウム濃度が変化しているスートプリフォーム11を得た。このスートプリフォーム11は、デポジション時に上記のような操作を行ったため、成長速度に変化が生じ、スート外径が長さ方向において変化するものとなっている。
【0026】
脱水・ガラス化の後、コア部分の比屈折率差Δは、上端(ターゲット棒12側)で0.405%、下端側で0.400%となり、ほとんど差が生じなかったが、コア部の屈折率分布形状およびコア/クラッド倍率(直径の比)が長手方向で変化したため、母材の両端で一部の特性を満足することができず、両端は不良部分となり、全長を良品として用いることができなかった。
【0027】
なお、上記の記述は一つの実施形態ないし実施例についてのものにすぎず、この発明が上記の記述に限定される趣旨ではないことはもちろんである。ドーパント剤や脱水剤や雰囲気ガスは上記のものに限らないし、具体的な構成も図1に限定されない。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明の光ファイバ母材の脱水処理装置によれば、脱水処理する工程で屈折率制御用のドーパントの濃度が長手方向に不均一になる不都合を除去して、ドーパント濃度が長手方向に均一な光ファイバ母材を得ることが可能となる。そのため、光ファイバ母材の全長を良品として使用することができるようになり、製造歩留まりを向上させるとともに、特性の優れた光ファイバを得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態にかかる脱水処理装置を示すブロック図。
【図2】VAD法によるスートプリフォーム作製を説明するための模式図。
【図3】従来例にかかる脱水処理装置を示すブロック図。
【符号の説明】
11 スートプリフォーム
12 ターゲット棒
14 チャンバ
15 排気管
21、22、23 バーナ
31 加熱炉
32 ヒーター
33 炉心管
34 トラバース装置
35 ホストコンピュータ
36 ガス流量制御装置
Claims (2)
- 加熱炉と、該加熱炉の炉心管内において光ファイバ母材が高温領域を通過するよう該光ファイバ母材を移動させる移動装置と、該光ファイバ母材の位置に応じて該炉心管内に導入する脱水剤濃度を制御する制御装置とを備えた光ファイバ母材の脱水処理装置を用い、
前記光ファイバ母材を前記移動装置によりつり下げて、前記加熱炉におけるヒーターによって加熱されるとともに、前記制御装置によって、その内部に脱水剤が導入されている炉心管中を下方に移動させることにより前記光ファイバ母材の脱水処理を行う光ファイバ母材の脱水処理方法であって、
前記炉心管の軸方向における温度分布を、前記光ファイバ母材が透明ガラス化する温度よりも低い温度まで加熱してなる高温領域を形成するものとし、
前記炉心管内の高温領域の最も温度が高い位置に、前記光ファイバ母材の下端が位置しているときを位置0とし、前記制御装置により、前記光ファイバ母材の下端が位置0から下がってくる量に応じた位置信号を得るとともに、前記光ファイバ母材の下端が前記位置0にあるときは前記脱水剤の濃度を低くし、前記光ファイバ母材の上部が前記位置0にあるときには前記脱水剤の濃度が高くなるように制御することを特徴とする光ファイバ母材の脱水処理方法。 - 前記炉心管の軸方向における温度分布を、前記ヒーターの中心部で1000℃とすることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材の脱水処理方法。
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