JP4068392B2 - モータ制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、同期型モータを位置センサを用いずに制御するためのモータ制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
同期型モータを、そのロータの位置を検出する位置センサを使用しないで駆動する第1の従来例のモータ制御装置を図7を用いて説明する。図7は正弦波駆動のモータ制御装置のブロック図である。正弦波駆動では、モータに供給する無効電力を検出してその検出値が目標値に等しくなるようにフィードバック制御する。図において、直流電源101の直流電流はインバータ回路102によって交流電流に変換され、モータ電流検出部104を経てモータ103に供給される。モータ電流はモータ電流検出部104で検出され、インバータ制御部105に入力される。
【0003】
インバータ制御部105の動作を説明する。出力指令演算部106は、加算器114から印加されるモータ印加電圧指令値120からPWM指令信号121を生成してインバータ回路102に印加する。インバータ回路102の内部のスイッチング素子はこのPWM信号で制御され、モータ103を駆動する駆動電流がモータ103に供給される。モータ103を流れる電流はモータ電流検出部104で検出され、検出信号118を出力する。検出信号118は座標変換部107に印加される。座標変換部107は検出信号118に基づいてモータ電流を有効電流124と無効電流126とに分ける。周波数設定部108はあらかじめ設定されたモータ103の回転周波数指令値122を出力する。
【0004】
無効電力指令部109には、回転周波数指令値122、モータ印加電圧指令値120、有効電流124及び無効電流126が入力され、無効電力指令値128が出力される。無効電力演算部110はモータ印加電圧指令値120と無効電流検出値126から無効電力検出値130を演算し、加算部111に印加する。加算部111は無効電力指令値128と無効電力検出値130の誤差を演算し、誤差出力を誤差電圧演算部112に印加する。誤差電圧演算部112はこの誤差出力に基づいて印加電圧補償値132を生成し加算部114の一方の入力端に印加する。V/f変換部113は周波数設定部108の出力の回転周波数指令値122からモータ基準電圧値134を生成し、加算部114の他方の入力端に印加する。加算部114はモータ基準電圧値134と印加電圧補償値132を加算して新たなモータ印加電圧指令値120を生成する。新たなモータ印加電圧指令値120は出力指令演算部106に入力される。出力指令演算部106は新たな印加電圧指令値120から新たなPWM指令信号を作成し、これを次の制御周期でインバータ回路102に印加して制御する。
この第1の従来例では、モータ103の出力トルクが最大となるように無効電力の目標値を無効電力指令部109で設定している。無効電力の目標値を設定する時には、モータの回転数、モータを流れる電流及びモータの発電定数やインダクタンスなどのモータ定数を使用している。
【0005】
第2の従来例のモータ制御装置として、モータの効率が最大になるように無効電力の目標値を設定するものがある。一般にモータの効率を最大にする無効電力の目標値はモータ定数から計算によって求める。しかしモータ定数は、温度や負荷などの運転条件によって変化するため、計算で求めた目標値ではモータの効率が最大とならない場合が多い。そこで、この第2の従来例では、回転周波数と負荷の大きさに対応する、モータ効率が最大となる無効電力の目標値を事前にテーブル等で準備しておく。そしてモータの運転中に回転周波数や負荷の大きさを検出して、検出値に対応する無効電力の目標値をテーブルから読み出して出力するという方法を用いている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
出力トルクが最大となるように無効電力の目標値を設定する第1の従来例では、モータ定数が温度や負荷の影響を受けて変化するため、運転状態に応じてモータ定数を補正する必要があった。また、モータ定数の異なる他のモータを駆動する場合には各モータ定数を設定しなおす必要がある。そのため第1の従来例のモータ制御装置は定数の異なる他のモータに任意に適用することはできなかった。また、無効電力指令値を求めるには複雑な式を用いる演算が必要であるため、高価なマイクロコンピュータあるいはDSPを用いる必要があった。
第2の従来例では、モータ効率が最大となるように無効電力の目標値を設定するテーブルを作るため、回転周波数、負荷及び無効電力設定値のそれぞれの関係をあらかじめ決める必要があり、設定値を決めるための作業が膨大になるという問題があった。また、モータ定数が異なる他のモータを用いる場合には、最高効率が得られる設定値が異なるため、モータ定数の異なる他のモータにモータ制御装置を任意に適用することができなかった。
本発明の目的は、常に高効率でモータを駆動できるとともに、モータ定数の異なる他のモータに任意に適用できるモータ制御装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のモータ制御装置は、直流を交流に変換してブラシレスモータに交流電力を供給するインバータ回路、ブラシレスモータを流れる電流を検出し検出信号を出力するモータ電流検出部、及び、検出信号に基づいて、インバータ回路を制御するインバータ制御部を備えるモータ制御装置である。
当該モータ制御装置のインバータ制御部は、ブラシレスモータの回転周波数の指令信号を出力する周波数設定部、周波数設定部の指令信号から回転位相信号を生成する波形生成部、波形生成部の回転位相信号及びモータ電流検出部の検出信号から、無効分電流を演算する無効分電流演算部及び有効分電流を演算する有効分電流演算部、無効分電流演算部の出力に基づいて、無効分電流を出力する検出値演算部、次の制御周期における無効分電流の目標値である無効分電流目標値を決定し出力する指令部であって、無効分電流演算部及び有効分電流演算部の出力に基づいてモータ電流を演算によって求め、モータ電流が最小となるように次の制御周期におけるモータ電流の増減方向と無効分電流目標値の増減方向とを定め、無効分電流目標値を決定し出力する指令部、指令部から出力される無効分電流目標値と検出値演算部から出力される無効分電流との差に基づいて誤差電圧を演算する誤差電圧演算部、周波数設定部の指令信号から基準電圧を求めるV/f変換部、誤差電圧演算部及びV/f変換部の出力から、モータ印加電圧指令値を演算する加算部、及び、波形生成部及び加算部の出力から、インバータ回路に与える制御信号を生成する出力指令演算部、を有してよい。
また、当該インバータ制御部は、ブラシレスモータの回転周波数の指令信号を出力する周波数設定部、周波数設定部の指令信号から回転位相信号を生成する波形生成部、波形生成部の回転位相信号及びモータ電流検出部の検出信号から、無効分電流を演算する無効分電流演算部及び有効分電流を演算する有効分電流演算部、無効分電流演算部及び有効分電流演算部の出力に基づいて、モータ印加電圧指令値とモータ電流との間の位相差を出力する検出値演算部、次の制御周期における位相差の目標値である位相差目標値を決定し出力する指令部であって、無効分電流演算部及び有効分電流演算部の出力に基づいてモータ電流を演算によって求め、モータ電流が最小となるように次の制御周期におけるモータ電流の増減方向と位相差目標値の増減方向とを定め、位相差目標値を決定し出力する指令部、指令部から出力される位相差目標値と検出値演算部から出力される位相差との差に基づいて誤差電圧を演算する誤差電圧演算部、周波数設定部の指令信号から基準電圧を求めるV/f変換部、誤差電圧演算部及びV/f変換部の出力から、モータ印加電圧指令値を演算する加算部、及び、波形生成部及び加算部の出力から、インバータ回路に与える制御信号を生成する出力指令演算部、を有してもよい。
【0008】
本発明によれば、無効分電流及び有効分電流を用いて検出されたモータの駆動状態を表す検出値を、モータ定数を用いずに演算することができるので、モータ定数の異なるモータに対しても任意に本モータ制御装置を適用することができる。指令値はモータに流れる電流もしくは供給する電力が最小となるように調節されるので、常に高効率でモータを駆動することができる。また指令値の演算が簡単なため、モータ制御装置を安価に提供することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施例のモータ制御装置について、図1から図6を用いて説明する。
【0011】
《第1実施例》
図1は本発明の第1実施例のモータ制御装置のブロック図である。図1において、直流電源1の直流出力はインバータ回路2に印加されて交流出力に変換され、モータ電流検出部4を経てモータ3に供給される。モータ3は例えば、同期型のブラシレスモータであり、ロータの位置を検出する位置センサは備えていない。インバータ回路2はインバータ制御部5により制御される。インバータ制御部5において、モータ3の回転周波数を設定する周波数設定部6の出力は波形生成部7とV/f変換部13に入力されている。波形生成部7の出力は、無効分電流演算部8、有効分電流演算部9及び出力指令演算部15に入力されている。V/f変換部13の出力は加算器14の一方の入力端に入力されている。無効分電流演算部8及び有効分電流演算部9の出力は検出値演算部10に入力されるとともに、指令部11にも入力されている。指令部11は、検出値演算部10の出力の電流値Ir又は位相差φ、α、β及びδの内のいずれか1つの位相差に対応する指令値を出力する。指令値は加算器16の一方の入力端に入力される。加算器16の他方の入力端には検出値演算部10の出力が印加されている。加算器16の出力は誤差電圧演算部12に印加される。誤差電圧演算部12の出力は加算器14の他方の入力端に入力される。加算器14の出力は出力指令演算部15に印加される。出力指令演算部15の出力はインバータ回路2に印加される。モータ電流を検出するモータ電流検出部4の出力は無効分電流演算部8及び有効分電流演算部9に入力されている。
【0012】
モータ3の三相の巻線U、V、Wに印加する電圧をVu、Vv、Vwとするとき、出力指令演算部15は、波形生成部7からの回転位相信号θと加算部14からのモータの印加電圧指令値Vaを用いて、式(1)の演算をする。そして演算結果の電圧Vu、Vv、Vwがモータ3に印加されるようにインバータ回路2のスイッチング素子(図示省略)をPWM駆動するための信号を出力する。
【0013】
【数1】
Figure 0004068392
【0014】
モータ電流検出部4はモータ3の三相の巻線U、V、Wの電流のうち少なくとも二相の巻線の電流を検出して、検出信号を無効分電流演算部8と有効分電流演算部9に印加する。モータ電流検出部4が巻線U、V、Wの電流を検出したときに出力する信号をそれぞれIu、Iv、Iwとすると、無効分電流演算部8は式(2)の演算を行って、無効分電流検出値Irを求める。
【0015】
【数2】
Figure 0004068392
【0016】
また、有効分電流演算部9は式(3)の演算を行って有効分電流検出値Iaを求める。
【0017】
【数3】
Figure 0004068392
【0018】
検出信号Iu、Iv、Iwには、Iu+Iv+Iw=0の関係があるので、モータ電流検出部4の検出信号が少なくとも二相分あれば、無効分電流演算部8及び有効分電流演算部9で式(2)及び式(3)の演算ができる。周波数設定部6にはモータ3の回転周波数指令値が設定されている。
【0019】
図2の(a)はベクトル値の、モータの印加電圧指令値Va、誘起電圧V0及び電流Isの関係をd−q軸上で表したベクトル図である。モータ3の内部の磁石による発生電圧はq軸上にあり、巻線U、V、Wのリラクタンス分を含むモータ定数によりロータとステータ間に発生する誘起電圧はV0となる。印加電圧指令値Vaと誘起電圧V0とのベクトル差はモータの巻線抵抗Rにモータ電流Isを乗じたものとなる。式(2)の演算で得られる無効分電流検出値Irは、図2の(b)に示すように印加電圧指令値Vaの方向に直交する方向のモータ電流Isの成分である。また、式(3)の演算で得られる有効分電流検出値Iaは、印加電圧指令値Vaの方向に平行な方向のモータ電流Isの成分である。したがって、図2の(a)のd−q座標に示すように、モータ電流Isを、印加電圧指令値Vaに平行な方向であるa軸方向と、a軸に直交する方向であるr軸方向とに分解した時、無効分電流検出値Irはr軸方向の成分であり、有効分電流検出値Iaはa軸方向の成分である。従って、無効分電流検出値Irは式(4)でも表わされ、有効分電流検出値Iaは式(5)でも表わされる。
【0020】
【数4】
Figure 0004068392
【0021】
【数5】
Figure 0004068392
【0022】
ここで、φは印加電圧指令値Vaとモータ電流Isとの位相差であり、力率角を意味する。
検出値演算部10は、無効分電流演算部8の出力である無効分電流検出値Irと有効分電流演算部9の出力である有効分電流検出値Iaを用いて、必要に応じて各種の検出値を出力することができる。これらの検出値は、図2の(a)及び(b)に示す、無効分電流検出値Ir、力率角φ、印加電圧指令値Vaと誘起電圧V0との位相差α、ロータ軸であるq軸とモータ電流Isとの位相差β、及びq軸と印加電圧Vaとの位相差δである。力率角φは式(6)で計算され、位相差αは式(7)で計算される。
【0023】
【数6】
Figure 0004068392
【0024】
【数7】
Figure 0004068392
【0025】
位相差βは式(8)で計算され、位相差δは式(9)で計算される。
【0026】
【数8】
Figure 0004068392
【0027】
【数9】
Figure 0004068392
【0028】
これらの式において、Rはモータ3の巻線抵抗値、Lqはインダクタンスのq軸成分、ωはモータ3の回転周波数である。モータ電流Isは式(10)で計算できる。
【0029】
【数10】
Figure 0004068392
【0030】
本実施例では、前記各種の検出値の内の無効分電流検出値Irに対する制御について説明する。指令部11には検出値演算部10が出力する各種の検出値に対応する指令値を出力するように、それぞれの指令値が設定されている。本実施例の説明では、無効分電流検出値Irに対する制御を行うので、指令部11は設定されている無効分電流指令値Ir*を出力する。加算部16は指令値Ir*と検出値Irとの誤差を求めて出力する。誤差電圧演算部12は、この誤差が減少して検出値Irが指令値Ir*に近づくように、次の制御周期においてモータ印加電圧をフィードバック補償するための電圧補償値を求めて出力する。電圧補償値の演算には比例(P)制御、比例積分制御(PI)、比例積分微分(PID)制御などの従来からよく用いられている制御方法を用いればよい。このときの各制御ゲインは固定値でもよいし、モータの回転周波数や負荷に応じて値を変更してもよい。なお、ここで述べた誤差電圧演算部12の演算に用いる制御方法は一般的なものであり、本発明の誤差電圧演算部12の動作がこれらの制御方法に限定されるものではない。
【0031】
周波数設定部6はモータ3の回転周波数を表す回転周波数指令値ωを出力する。V/f変換部13はこの回転周波数指令値ωに基づいて、モータ3に印加すべき基準の電圧指令値Vc*を出力する。モータ3がブラシレスモータであれば、印加電圧と回転数は比例関係にあるので、回転周波数指令値ωを定数倍した値を電圧指令値Vc*とするのが一般的である。モータ3の起動時には加速トルクが必要なので、若干大き目の電圧指令値を出力してもよい。上記の例は一般的な電圧指令値の生成方法を挙げたにすぎず、本発明のV/f変換部13の動作がこれらに限定されるものではない。
【0032】
加算部14はV/f変換部13から出力された電圧指令値Vc*と誤差電圧演算部12から出力された電圧補償値を加算し、次の制御周期における印加電圧指令値Vaを生成する。印加電圧指令値Vaは出力指令演算部15に印加され、インバータ回路2を制御するPWM指令信号が生成される。モータ3はPWM指令信号で制御されるインバータ回路2の出力に応じて回転をする。以上述べた一連の動作を所定の制御周期毎に繰り返すことによって、最終的にモータ3に印加すべき電圧の過不足分が補償される。
【0033】
実験によって求めた無効分電流指令値Ir*とモータ3の効率との関係を図3の(a)に示す。図3の(a)において、点線は負荷が小さい一定値のとき、実線は負荷が大きい一定値のとき、一点鎖線は負荷が上記両者の間の一定値であるときのモータ効率の変化を示している。図3の(a)から、一定値の負荷が加わった状態において、点線、一点鎖線、及び実線のカーブで表すモータ効率がそれぞれ一定の無効分電流指令値Ir*で最大となることから、モータ効率が最大になる無効分電流指令値Ir*が存在することがわかる。図3の(b)は実験によって求めた無効分電流指令値Ir*とモータ電流Isとの関係を示すグラフであり、実線、一点鎖線、点線で示す負荷の大中小は図3の(a)の場合と同じである。図3の(b)から、一定の負荷が加わった状態において、モータ電流Isが最小になる無効分電流指令値Ir*が存在することがわかる。図3の(a)及び(b)からモータ効率とモータ電流Isとの関係を求めたグラフが図3の(c)である。図3の(c)から、モータ電流Isが最小のときモータ効率が最大となることがわかる。従ってモータ電流Isが最小となるように指令部11の無効分電流指令値Ir*を調節すればよい。
【0034】
指令部11が、モータ電流Isが最小になるように無効分電流指令値Ir*を逐次更新する制御の各ステップを図4のフローチャートに示す。図4のステップ31において、無効分電流検出値Irと有効分電流検出値Iaから式(10)によりモータ電流Isを演算する。同ステップ32で前回の制御周期(指令部制御周期)におけるモータ電流Isと今回の制御周期におけるモータ電流Isとの大小を比較する。指令部11の制御周期である指令部制御周期は、モータ印加電圧指令値Vaを作成するモータ印加電圧制御周期とは異なるものである。モータ電流Isを検出して無効分電流Irを演算し、目標である無効分電流指令値Ir*との誤差から印加電圧指令値Vaを作成する、というフィードバック制御の制御周期であるモータ印加電圧制御周期は、通常はキャリア周期(インバータ回路2をPWM駆動するスイッチング周波数の逆数)であり、この周期で無効分電流Irが無効分電流指令値Ir*に等しくなるように制御する。
【0035】
これに対して指令部制御周期は、無効分電流指令値Ir*を変化させる周期である。無効分電流指令値Ir*を上記の周期で変化させて、一定負荷、一定回転数の条件においてモータ電流Isが最小となるようにモータを制御する。安定な制御動作を実現するために、指令部制御周期はキャリア周期の5倍以上の長さにするのが望ましい。すなわち無効分電流指令値Ir*をモータ印加電圧制御周期より長い周期で変化させてモータ電流Isの増減を検出し、モータ電流Isが最小になるように無効分電流指令値Ir*を調節する。今回の制御周期のモータ電流Isの方が前回の制御周期のモータ電流Isよりも大きい場合、ステップ33に進み前回の制御周期で無効分電流指令値Ir*を増加したかどうかを判定する。無効分電流指令値Ir*を増加していた場合は、ステップ34に進み無効分電流指令値Ir*を減らす。前回の制御周期で無効分電流指令値Ir*を減少していた場合は、ステップ35に進み無効分電流指令値Ir*を増やす。ステップ32で今回の制御周期のモータ電流値の方が前回の制御周期のモータ電流値よりも小さい場合、ステップ36に進み前回の制御周期で無効分電流指令値Ir*を増やしたかどうかを判定する。無効分電流指令値Ir*を増やしていた場合は、無効分電流指令値Ir*を増加する(ステップ37)。前回の制御周期で無効分電流指令値Ir*を減らしていた場合は、無効分電流指令値Ir*を減少する(ステップ38)。無効分電流指令値Ir*を増やしたり減らしたりする時の変化量は常に一定値でもよく、また制御周期毎に変えてもよい。例えば、今回の制御周期における無効分電流指令値Ir*と前回の制御周期における無効分電流指令値Ir*との差に応じて変えてもよい。または、図3の(a)や図3の(b)に示したように、負荷が大きい時は無効分電流指令値Ir*の可変幅が小さく、負荷が小さい時は無効分電流指令値Ir*の可変幅が大きいので、負荷が大きい時には無効分電流指令値Ir*の変化量を小さく、負荷が小さい時には無効分電流指令値Ir*の変化量を大きくしてもよい。可変幅は各曲線の両端間の無効分電流指令値Ir*の範囲で表される。
【0036】
なお、本実施例では制御周期毎にモータ電流の瞬時値を検出してその大小を比較しているが、無効分電流指令値Ir*を変更した時点から次に無効分電流指令値Ir*を変更する時点までの時間中のモータ電流の平均値を演算し平均値同士の大小を比較してもよい。無効分電流指令値Ir*の変更直後はモータの駆動状態が安定せず無効分電流指令値Ir*通りに正確に駆動されていない場合を想定し、無効分電流指令値Ir*を変更してから所定時間経過後の時点から次の制御周期の開始時点までの時間中のモータ電流の平均値を演算して平均値同士の大小を比較してもよい。
【0037】
本実施例では式(10)により求めたモータ電流の大小を比較する例を説明したが、大小を比較するモータ電流値としては、平方根を取らない二乗和の値(Ia+Ir)であってもよい。通常は有効分電流検出値Iaの方が無効分電流検出値Irに比べてはるかに大きいので、無効分電流検出値Irは無視して、近似的に有効分電流検出値Iaのみの大小を比較してもよい。
モータ電流Isの大小を比較する代わりに、モータ3に供給する電力の大小を比較してもよい。電力を演算する方法としては、インバータ制御部5のモータ印加電圧指令値Vaとモータ電流Isとの乗算を行なえばよい。この時には従来から知られている、インバータ回路の上下アームの両スイッチ(図示省略)がオフしている時間(いわゆるデッドタイム)を補償したモータ印加電圧を用いてもよい。モータ電力の検出方法としては、モータ3の端子電圧を検出する検出回路を設けて、実際にモータ3に印加されている電圧を検出し、検出された電圧値とモータ電流Isとの乗算を行う方法でもよい。
このようにして、指令部11は無効分電流指令値Ir*を逐次更新することで、モータ電流Isあるいはモータ3に供給する電力が最小となるように無効分電流指令値Ir*を設定することができる。
【0038】
本実施例によれば、インバータ制御部5の指令部11の制御動作によって、モータ3が常に最高の効率で駆動されるモータ制御装置を提供することができる。検出値が無効分電流Ir又は力率角φである場合は、その演算にモータ定数を必要としない。従って、モータ定数の異なる種々のモータに対しても特にモータ制御装置を調整することなく直ちに適用できる。
第1実施例では、指令部11に無効分電流指令値Ir*を設定し、無効分電流指令値Ir*の設定値をモータ電流Isが最小になるように変化させることにより、モータ3を最大の効率で駆動できるモータ制御装置が得られた。本実施例で、前記の無効分電流指令値Ir*の代わりに、印加電圧指令値Vaとモータ電流Isとの位相差φ、印加電圧指令値Vaと誘起電圧Voとの位相差α、ロータ軸であるq軸とモータ電流Isとの位相差β及びq軸と印加電圧指令値Vaとの位相差δ等の検出値の内のいずれか1つを用いて、前記無効分電流指令値Ir*の場合と同様の制御を行うことができる。この場合には、指令部11にその検出値を設定し、検出値演算部10がその検出値の演算を行うように設定すればよい。この場合でも無効分電流指令値Ir*を用いる場合と同様の効果が得られる。
【0039】
《第2実施例》
図5は本発明の第2実施例のモータ制御装置のブロック図である。図5において、直流電源1、インバータ回路2、モータ3及びモータ電流検出部4は第1実施例のものと同じである。図5のインバータ制御部5Aは、第1実施例の図1のインバータ制御部5と以下の点で異なっている。図1の周波数設定部6の代わりに図5では周波数設定部6Aが設けられ、指令部11の代わりに指令部11Aが設けられている。図5のインバータ制御部5Aはさらに記憶部17を有している。記憶部17は周波数設定部6A及び指令部11Aに接続されている。その他の構成は第1実施例と同様であるので重複する説明は省略する。
【0040】
記憶部17はフラッシュメモリやEEPROMなどの不揮発性メモリで構成されており、モータ制御装置の電源が遮断されても記憶内容が消去されないメモリ装置である。周波数設定部6Aにはモータ3の回転周波数指令値ωが設定されており、回転周波数指令値ωを記憶部17に出力する。記憶部17は周波数設定部6A及び指令部11Aの出力を受けて、回転周波数指令値ω、モータ電流Is及び無効分電流指令値Ir*の関係を記憶する。指令部11Aはモータが最高の効率で駆動されているかどうかを判定し、最高の効率で駆動されていると判定した時に、モータ電流Isと無効分電流指令値Ir*を記憶部17に入力し記憶17はこれらを記憶する。指令部11Aにおいてモータ3が最高効率で駆動されているかどうかを判定する処理を図6のフローチャートを用いて説明する。
【0041】
指令部11Aは、まずステップ39で図4に示すフローチャートのステップ31から38の処理を行う。次にステップ40に進み、前回の制御周期のモータ電流Isと今回の制御周期のモータ電流Isの差(モータ電流差)が電流の所定値よりも小さいかどうかを判定する。モータ電流差が電流の所定値よりも小さい場合はステップ41に進み指令部11Aの内部に設けられたカウンタ11Bの計数値Nを1つ増やして(N+1)にしてステップ42に進む。モータ電流差が電流の所定値に等しいか大きいとき、ステップ44に進みカウンタ11Bの計数値Nを零にクリアし、指令部11Aの演算処理を終わる。ステップ42において、カウンタ11Bの計数値が、カウンタ11Bにあらかじめ設定されている所定の計数値以上になると、ステップ43に進む。ステップ43において記憶部17へモータ電流Isと無効分電流指令値Ir*を印加して、指令部11Aの演算処理を終了する。
【0042】
図6に示す処理を行うことによって、モータ電流差が小さい場合のモータ電流Isと無効分電流指令値Ir*を検出することができる。無効分電流指令値Ir*を変化させてもモータ電流Isが大きく変化しない場合は、図3の(a)から分かるように、モータ3の駆動状態が最高の効率に近い領域、すなわち山状の曲線の頂上付近の無効分電流指令値Ir*に基づいてモータ3が駆動されているといえる。そこで、モータ3を最高の効率で駆動している時のモータ電流Isと無効分電流指令値Ir*を記憶部17に印加し記憶させる。なお、指令部11Aの動作は図6に示した処理法以外であってもよく、モータ3が最高効率で駆動されていることを判定できる検出方法を含む処理方法であればよいことはいうまでもない。図6ではモータ電流Isを検出して処理をする実施例について説明したが、第1実施例の場合と同様に、モータ電流Isの平均値やモータ3への供給電力を検出して処理を実施してもよい。
【0043】
本実施例によれば指令部11Aと記憶部17を設けることによってモータ3の効率が最高になる回転周波数指令値ω、モータ電流Is及び無効分電流指令値Ir*の関係をモータを駆動しつつ得ることができる。この得られた結果を記憶部17に記憶し、記憶した結果に基づいて記憶部17から指令部11Aに無効分電流指令値Ir*を出力すれば、モータの駆動状態に応じて常に最高の効率でモータを駆動することができる。なお、本実施例は無効分電流指令値Ir*を記憶部17に記憶させる場合の例であるが、力率角φ、α、β、δを用いてもよい。
【0044】
【発明の効果】
以上の各実施例で詳細に説明したように、本発明によれば、モータ電流からモータの瞬時の無効分電流、力率角、印加電圧と誘起電圧の位相差、ロータ軸と電流の位相差及びロータ軸と印加電圧の位相差のいずれか1つの検出値を求め、検出値が対応する指令値に等しくなるようにインバータ回路を制御する。このとき指令値の設定をモータが最高の効率で駆動されるように設定するので、常に最高の効率でモータを駆動できる。また、モータが最高効率で駆動される時の、モータ電流、回転周波数及び指令値の関係を記憶させることにより、記憶結果を利用して常に最高の効率でモータを駆動できる。無効分電流または力率角を検出するときはモータ定数を使用しないので、モータ定数の異なる他のモータにこのモータ制御装置を適用する場合でも調整が不要であり、利用範囲の広いモータ制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例におけるモータ制御装置のブロック図
【図2】(a)及び(b)は第1実施例における、モータ印加電圧とモータ電流及びそれらの位相差を示すd−q軸上のベクトル図
【図3】(a)はモータの無効分電流指令値とモータ効率の関係を示すグラフ、
(b)はモータの無効分電流指令値とモータ電流の関係を示すグラフ、
(c)はモータ効率とモータ電流の関係を示すグラフ
【図4】本発明の第1実施例における指令部11の動作ステップを示すフローチャート
【図5】本発明の第2実施例におけるモータ制御装置のブロック図
【図6】本発明の第2実施例における指令部11Aの動作ステップを示すフローチャート
【図7】第1の従来例のモータ制御装置のブロック図
【符号の説明】
1 直流電源
2 インバータ回路
3 モータ
4 モータ電流検出部
5、5A インバータ制御部
6、6A 周波数設定部
7 波形生成部
8 無効分電流演算部
9 有効分電流演算部
10 検出値演算部
11、11A 指令部
12 誤差電圧演算部
13 V/f変換部
14 加算部
15 出力指令演算部
16 加算部
17 記憶部

Claims (5)

  1. 直流を交流に変換してブラシレスモータに交流電力を供給するインバータ回路、
    前記ブラシレスモータを流れる電流を検出し検出信号を出力するモータ電流検出部、及び、
    前記検出信号に基づいて、前記インバータ回路を制御するインバータ制御部を備えるモータ制御装置において、
    前記インバータ制御部は、
    前記ブラシレスモータの回転周波数の指令信号を出力する周波数設定部、
    前記周波数設定部の指令信号から回転位相信号を生成する波形生成部、
    前記波形生成部の回転位相信号及び前記モータ電流検出部の検出信号から、無効分電流を演算する無効分電流演算部及び有効分電流を演算する有効分電流演算部、
    前記無効分電流演算部の出力に基づいて、無効分電流を出力する検出値演算部、
    次の制御周期における前記無効分電流の目標値である無効分電流目標値を決定し出力する指令部であって、前記無効分電流演算部及び前記有効分電流演算部の出力に基づいてモータ電流を演算によって求め、前記モータ電流が最小となるように次の制御周期におけるモータ電流の増減方向と前記無効分電流目標値の増減方向とを定め、前記無効分電流目標値を決定し出力する指令部、
    前記指令部から出力される前記無効分電流目標値と前記検出値演算部から出力される前記無効分電流との差に基づいて誤差電圧を演算する誤差電圧演算部、
    前記周波数設定部の指令信号から基準電圧を求めるV/f変換部、
    前記誤差電圧演算部及び前記V/f変換部の出力からモータ印加電圧指令値を演算する加算部、及び、
    前記波形生成部及び前記加算部の出力から前記インバータ回路に与える制御信号を生成する出力指令演算部、
    を有するモータ制御装置。
  2. 前記指令部は、前記モータに供給する電力が最小となるように前記無効分電流目標値を調整する、請求項1に記載のモータ制御装置。
  3. 直流を交流に変換してブラシレスモータに交流電力を供給するインバータ回路、
    前記ブラシレスモータを流れる電流を検出し検出信号を出力するモータ電流検出部、及び、
    前記検出信号に基づいて、前記インバータ回路を制御するインバータ制御部を備えるモータ制御装置において、
    前記インバータ制御部は、
    前記ブラシレスモータの回転周波数の指令信号を出力する周波数設定部、
    前記周波数設定部の指令信号から回転位相信号を生成する波形生成部、
    前記波形生成部の回転位相信号及び前記モータ電流検出部の検出信号から、無効分電流を演算する無効分電流演算部及び有効分電流を演算する有効分電流演算部、
    前記無効分電流演算部及び前記有効分電流演算部の出力に基づいて、モータ印加電圧指令値とモータ電流との間の位相差を出力する検出値演算部、
    次の制御周期における前記位相差の目標値である位相差目標値を決定し出力する指令部であって、前記無効分電流演算部及び前記有効分電流演算部の出力に基づいてモータ電流を演算によって求め、前記モータ電流が最小となるように次の制御周期におけるモータ電流の増減方向と前記位相差目標値の増減方向とを定め、前記位相差目標値を決定し出力する指令部、
    前記指令部から出力される前記位相差目標値と前記検出値演算部から出力される位相差との差に基づいて誤差電圧を演算する誤差電圧演算部、
    前記周波数設定部の指令信号から基準電圧を求めるV/f変換部、
    前記誤差電圧演算部及び前記V/f変換部の出力からモータ印加電圧指令値を演算する加算部、及び、
    前記波形生成部及び前記加算部の出力から前記インバータ回路に与える制御信号を生成する出力指令演算部、
    を有するモータ制御装置。
  4. 前記指令部は、前記モータに供給する電力が最小となるように前記位相差目標値を調整する、請求項3に記載のモータ制御装置。
  5. 前記指令部は、前記演算により求めるモータ電流の代わりに、前記有効分電流を用いる、請求項1または3に記載のモータ制御装置。
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