JP4066500B2 - Pll回路 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、基準信号に基づき設定された位相または周波数を有する発振信号を供給するPLL(Phase−Locked Loop、位相同期ループ)回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
PLL回路は、入力信号を基準信号の位相または周波数に追従させて所定の位相または周波数を有する発振信号を生成することができる。このため、例えば、周波数または位相変調を利用した通信装置において受信信号に基づき送信側の信号に同期した発振信号を発生し、それに基づきもとの送信信号を復元する場合に、PLL回路は有効な発振手段として幅広く利用されている。
【0003】
図6は一般的に使用されているPLL回路の一例を示す回路図である。図示のように、本例のPLL回路は、フリップフロップFF1,FF2とNANDゲートNAND1からなる位相比較回路10、インバータINV1、pnpトランジスタTR1およびnpnトランジスタTR2からなるチャージポンプ(チャージ電流発生回路)20、キャパシタ(静電容量素子)C0,C1,C2および抵抗素子R1,R2により構成されたループフィルタ(制御回路)30、電圧制御型発振回路(VCO:Volted−control Oscillator)40およびVCOからの発振信号を所定の分周比で分周した信号を位相比較回路10に供給する分周回路50により構成されている。
【0004】
VCO40はループフィルタ30の出力電圧V2に応じて位相または周波数で制御された発振信号SOを出力する。
位相比較回路10は、分周回路50からの分周信号Sdと基準信号Srefの位相を比較し、正負の位相差を示すパルス信号PA,PBを出力する。
チャージポンプ20は、位相比較回路10からパルス信号PAが出力されたとき第1のチャージ電流iCR1をループフィルタ30に出力し、逆に位相比較回路10からパルス信号PBが出力されたとき第2のチャージ電流iCR2、即ち、ループフィルタ30からチャージポンプ20の出力端子を介して接地(大地)電位GNDに流れる電流を発生する。
【0005】
ループフィルタ30は、チャージポンプ20からのチャージ電流iCR1またはiCR2に応じて出力信号V2のレベルを制御する。VCO40は、信号V2のレベルに応じて発振信号SOの位相または周波数を制御する。VCO40からの発振信号SOは分周回路50により設定された分周比Nで分周され、分周信号Sdが位相比較回路10に出力される。
【0006】
上記のように構成されたPLL回路において、基準信号Srefの周波数をf0とすると、VCOの出力信号SOの周波数f1はNf0に安定するように制御される。このため、基準信号Srefおよび分周回路50に設定された分周比Nに応じて、安定した周波数を有する発振信号SOを獲得できる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述した従来のPLL回路において、チャージポンプ20は導電型の異なる二つのトランジスタTR1およびTR2が直列接続されて構成されている。このため、トランジスタTR1,TR2のコレクタ同士の接続点、即ちチャージポンプ20の出力端子の電圧V0が電源電圧VCCより一定の値、例えば、0.7V低く、さらに接地電位GNDにより一定の値、例えば、0.7V高く保持される範囲でなければ、これらのトランジスタの何れかが飽和状態に陥る。このとき、チャージポンプ20は希望の動作を行わず、VCO40を所定の発振周波数に制御するために十分な電圧信号V2を発生できなくなり、これによってPLL回路における周波数ロック(位相同期)までの時間が長くなり、PLL回路のレスポンス特性(応答特性)が低下するという不利益がある。
【0008】
図7は、チャージポンプ20およびループフィルタ30の一部分を示す回路図である。位相比較回路10からパルスPAが入力されると、トランジスタTR1がオン状態になり、出力ノードND1からループフィルタ30にチャージ電流iCR1が出力される。このチャージ電流をソース電流(Source current)と呼ばれている。逆に、位相比較回路10からパルスPBが入力されると、トランジスタTR2がオン状態になり、ループフィルタ30から出力ノードND1およびトランジスタTR2を通して、接地側に流れるチャージ電流iCR2が出力される。このチャージ電流をシンク電流(Sink current)と呼ばれている。
【0009】
ループフィルタ30は、チャージポンプ20からのソース電流iCR1およびシンク電流iCR2に応じて、キャパシタC0およびC1が充電若しくは放電を行い、それに応じてチャージポンプ20の出力電圧V0が設定される。即ち、出力電圧V0は、位相比較回路10からのパルスPAおよびPBにより設定される。出力電圧V0に応じて、図6に示すループフィルタ30の出力電圧V2のレベルが制御される。VCO40は、電圧V2に基づいて設定された所定の発振周波数で発振する。VCO40の発振信号SOは分周回路50により分周され、分周信号Sdは基準信号Srefとともに位相比較回路10に入力される。
【0010】
位相比較回路10において、分周信号Sdと基準信号Srefとの位相差に基づきパルスPAまたはパルスPBの何れかが出力される。また、これらのパルス信号の幅は、位相差に応じて設定される。図8は、その一例として、チャージポンプ20のチャージ電流iCR1、出力電圧V0およびキャパシタC1の電圧V1を示している。図示のように、位相比較回路10から所定の幅を有するパルスPAが出力されたとき、当該パルスPAのパルス期間中にチャージポンプ20の出力ノードND1からソース電流iCR1が出力される。これに応じてキャパシタC0が充電され、電圧V0が図示のように上昇する。電圧V0が上昇し、電圧V1より高くなると、抵抗素子R1の両端に電位差が生じ電流が流れるので、キャパシタC1が充電される。この結果、電圧V1も上昇し、徐々に電圧V0に近づいていく。電圧V0に応じてループフィルタ30の出力電圧V2が設定され、これに応じてVCO40の発振周波数が制御される。
【0011】
即ち、一回の位相比較によってVCO40はある所定の発振周波数に制御される。この動作が数回〜数百回繰り返した結果、分周信号Sdと基準信号Srefとの位相差および周波数差が縮め、VCO40の発振周波数は目的値に達する。VCO40の発振周波数が希望値に安定した状態をロック(位相同期)状態と呼ばれている。ロック状態に達したとき位相比較回路10より出力されたパルスPAまたはパルスPBの幅が非常に短いが、ロック状態に達するまでの間に、分周信号Sdと基準信号Srefとの位相差が大きく、パルスPAまたはPBの幅は非常に長い。
【0012】
図9に示すように、パルスPAの幅がW0のとき、それに応じて時間W0の間にチャージ電流iCR1が発生され、キャパシタC0が充電された結果、電圧V0が上昇してトランジスタTR1が飽和状態になる。トランジスタTR1が飽和状態に陥ると、出力電流が低下する。このため、パルスPAの幅がW0以上に伸びても、チャージポンプ20の出力電圧V0が所定の電圧Vsatに制限され、それ以上には上昇できない。トランジスタTR1が飽和時のコレクタ・エミッタ電圧をVce1とすると、電圧V0の上限電圧Vsatは、次式により求められる。
【0013】
【数1】
Vsat=VCC−Vce1
…(1)
【0014】
トランジスタTR1が飽和状態になると、ソース電流iCR1が十分に出力できなくなり、チャージポンプ20の出力電圧V0が十分なレベルに達成できなくなる。この結果、ループフィルタ30は、VCO40を制御するために十分な電圧V2を出力することができず、PLL回路がロック状態に達するまでの所要時間が伸びてしまう。
【0015】
以上、位相比較回路10からパルスPAが出力されたときトランジスタTR1の動作状態について考察したが、同じく位相比較回路10からパルスPBが出力されたとき、そのパルス幅がある一定の値以上になると、トランジスタTR2が飽和状態に陥り、チャージポンプ20の出力電圧V0が所定値以下にはならない。ここで、トランジスタTR2が飽和時のコレクタ・エミッタ電圧をVce2とすると、電圧V0の下限電圧Vsat2は、次式により求められる。
【0016】
【数2】
Vsat2=Vce2
…(2)
【0017】
このように、チャージポンプ20の出力電圧V0は、(Vsat2<V0<Vsat)の範囲内に制限されている。電圧V0がこの範囲を越えると、トランジスタTR1またはTR2の何れかが飽和状態に陥るので、チャージポンプ20は正常に動作することができなくなる。
【0018】
図10は、トランジスタが飽和状態に陥ることなく理想的なチャージポンプを用いた場合の位相引き込みと電圧V0の変化を示すグラフである。図示のように、理想的なチャージポンプの場合に、PLL回路は初期状態から短い時間を経てロック状態に達せられる。しかし、実際のチャージポンプを構成するトランジスタは、バイアス電圧により飽和状態に陥り電流出力が正常に行われなくなるため、図11に示すように、ロック状態に達するまで理想的なチャージポンプより2倍以上の時間がかかる。
【0019】
トランジスタの飽和による影響を低減する方法と一つとして、電源電圧VCCを引き上げる方法が考えられるが、そのために余計な電圧変換回路などを必要とするのみではなく、消費電力の増加を招き、現在進められている低電圧化の流れから勘案すれば現実的ではない。
【0020】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、トランジスタの飽和による影響を回避でき、応答特性の向上を実現でき、且つ低電圧動作を容易に実現できるPLL回路を提供することにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明のPLL回路は、位相比較回路と、チャージ電流発生回路と、ループフィルタと、電圧制御型発振回路と、状態検出回路と、補助チャージ電流発生回路とを有し、
上記位相比較回路は、上記電圧制御型発振回路の出力信号と基準信号との位相を比較し、上記基準信号の位相に対する上記電圧制御型発振回路の出力信号の位相が進んでいるときにその位相差の大きさを示す第1の位相差信号を出力し、または、上記基準信号の位相に対する上記電圧制御型発振回路の出力信号の位相が遅れているときにその位相差の大きさを示す第2の位相差信号を出力し、
上記チャージ電流発生回路は、電源電圧と共通電位との間に直列接続されている第1のトランジスタと第2のトランジスタとを有し、上記第1のトランジスタの制御ゲートに上記第1の位相差信号が印加されたとき当該第1のトランジスタがオン状態となり、上記ループフィルタから上記第1のトランジスタと上記第2のトランジスタの共通の接続部である第1の出力端子を経由して上記共通電位に向かって放電電流を流し、上記第2のトランジスタの制御ゲートに上記第2の位相差信号が印加されたとき当該第2のトランジスタがオン状態となり、上記第1の出力端子を経由して上記ループフィルタに流れる充電電流を発生させ、
上記ループフィルタは、上記チャージ電流発生回路の上記第1の出力端子に接続され、上記第1の出力端子を経由して流れる上記充電電流または上記放電電流に応じて充電または放電する第1の容量素子と、上記第1の容量素子の後段に上記第1の容量素子と並列に接続された第2の容量素子と、当該第2の容量素子の後段に接続されたローパスフィルタとを含み、
上記電圧制御型発振回路は、上記ループフィルタ内の上記ローパスフィルタの出力電圧信号に応じて発振した発振周波数を示す信号を発生して上記位相比較回路に出力し、
上記状態検出回路は、上記チャージ電流発生回路に含まれる上記第1のトランジスタまたは上記第2のトランジスタが飽和状態を検出する飽和検出回路を有し、
上記補助チャージ電流発生回路は、上記電源電圧と上記共通電位との間に直列接続されている第3のトランジスタと第4のトランジスタとを有し、上記第3のトランジスタと上記第4のトランジスタとの共通接続点である第2の出力端子が上記ループフィルタ内の上記第2の容量素子の入力端子に接続され、上記基準信号の位相に対する上記電圧制御型発振回路の出力信号の位相が進んでおり、かつ、その位相差の大きさを示す上記第1の位相差信号と、上記状態検出回路が上記チャージ電流発生回路に含まれる上記第1のトランジスタが飽和したことを検出した信号とが上記第3のトランジスタの制御ゲートに印加されたとき当該第3のトランジスタがオン状態となり、上記第2の出力端子を経由して上記第2の容量素子から上記共通電位に向かって放電電流を流し、上記基準信号の位相に対する上記電圧制御型発振回路の出力信号の位相が遅れており、かつ、その位相差の大きさを示す上記第2の位相差信号と、上記状態検出回路が上記チャージ電流発生回路に含まれる上記第2のトランジスタが飽和したことを検出した信号とが上記第4のトランジスタの制御ゲートに印加されたとき当該第4のトランジスタがオン状態となり、上記第2の出力端子を経由して上記第2の容量素子に流れる上記充電電流を発生させる。
【0022】
好ましくは、上記飽和検出回路は、上記第1のトランジスタの飽和状態を検出するための第1飽和検出電圧および上記第2のトランジスタの飽和状態を検出するための第2の飽和検出電圧を発生する電圧発生回路と、上記チャージ電流発生回路の上記出力端子の電圧が上記第1の飽和検出電圧より高いとき第1の飽和信号を出力する第1のコンパレータと、上記チャージ電流発生回路の上記出力端子の電圧が上記第2の飽和検出電圧より低いとき第2の飽和信号を出力する第2のコンパレータと、上記第1の飽和信号または第2の飽和信号の何れかの飽和信号が出力されたとき、上記位相比較回路により出力された上記第1のパルス信号および第2のパルス信号を上記補助チャージ電流発生回路に供給する切り換え回路とを有する。
【0023】
好ましくは、上記位相比較回路は、上記電圧制御型発振回路の出力信号(S 0 )に応じて上記位相比較回路の第1の出力端子が上記電源電圧レベルに設定され、上記第1の位相差信号を出力する第1のフリップフロップと、上記基準信号に応じて当該位相比較回路の第2の出力端子が上記電源電圧レベルに設定され、上記第2の位相差信号を出力する第2のフリップフロップと、上記第1のフリップフロップの出力端子と上記第2のフリップフロップの出力端子がともに上記電源電圧レベルにあるとき、上記第1および第2のフリップフロップの上記出力端子を共通電位に設定するリセット信号を発生するリセット回路とを有する。
また好ましくは、上記リセット回路は、上記第1のフリップフロップの出力信号と上記第2のフリップフロップの出力信号の論理和を出力する論理ゲートにより構成されている。
【0024】
好ましくは、上記電圧制御型発振回路の出力信号を分周し、分周信号を上記電圧制御型発振回路の出力信号として上記位相比較回路に供給する分周回路をさらに有する。
【0025】
本発明によれば、位相比較回路、チャージ電流発生回路、制御回路(ループフィルタ)およびVCOを有するPLL回路において、チャージ電流発生回路を構成するトランジスタが飽和状態にあるか否かを検出する飽和検出回路、切り換え回路および補助チャージ電流発生回路が設けられ、チャージ電流発生回路のトランジスタが飽和状態にあると検出されたとき、切り換え回路により上記位相比較回路から出力された位相差信号が補助チャージ電流発生回路に供給され、それに応じて補助チャージ電流が発生され、制御回路に供給される。このため、チャージ電流発生回路を構成するトランジスタが飽和状態にあり、正常にチャージ電流を供給できなくなる場合に、補助チャージ電流発生回路により補助チャージ電流が出力されるので、これに基づき制御回路によって制御信号が生成され、VCOの発振周波数を制御することができる。
【0026】
この結果、例えば、初期状態において位相差が大きく、位相比較回路から幅の長いパルス信号からなる位相差信号が出力されることにより、チャージ電流発生回路が飽和状態になって正常にチャージ電流が出力されなくなる場合に、代わりに補助チャージ電流発生回路が動作し、補助チャージ電流が出力される。これに応じた制御信号が出力され、VCOの発振周波数の制御が正常に行われるので、PLL回路のロックアップ(位相同期に到達する)時間が短縮でき、レスポンス特性の向上を実現できる。
【0027】
【発明の実施の形態】
図1は本発明に係るPLL回路の一実施形態を示す回路図である。
図示のように、本実施形態のPLL回路は、フリップフロップFF1,FF2とNANDゲートNAND1からなる位相比較回路10、インバータINV1、pnpトランジスタTR1およびnpnトランジスタTR2からなるチャージポンプ20、キャパシタC0,C1,C2および抵抗素子R1,R2により構成されたループフィルタ(制御回路)30、VCO40、分周回路50、飽和検出電圧を発生する電圧発生回路60、飽和検出回路70、切り換え回路80および補助チャージ電流発生回路90により構成されている。
【0028】
以下、図1を参照しつつ本実施形態のPLL回路の構成について詳細に説明する。位相比較回路10は、フリップフロップFF1,FF2とNANDゲートNAND1により構成され、分周回路50からの分周信号Sdおよび基準信号Srefを受けて、これらの信号の位相差に応じた位相差信号、即ちパルスPA,PBを出力する。
【0029】
チャージポンプ20は、インバータINV1および電源電圧VCCと接地電位GNDとの間に直列接続されているトランジスタTR1,TR2により構成されている。トランジスタTR1のエミッタは電源電圧VCCに接続され、トランジスタTR2のエミッタが接地され、これらのトランジスタのコレクタ同士が共通に接続され、その接続ノードND1はチャージポンプ20の出力端子を構成している。位相比較回路10からのパルスPAはインバータINV1により反転され、トランジスタTR1のベースに入力され、パルスPBは直接トランジスタTR2のベースに入力される。このため、位相比較回路10からパルスPAが入力されると、トランジスタTR1がオン状態になり、出力ノードND1からループフィルタ30にチャージ電流iCR1、即ちソース電流iCR1が出力される。一方、位相比較回路10からパルスPBが入力されると、トランジスタTR2がオン状態になり、ループフィルタ30から出力ノードND1およびトランジスタTR2を通して、接地側に流れるチャージ電流iCR2、即ちシンク電流iCR2が出力される。
【0030】
図2はチャージポンプ20の動作状態の遷移図である。図示のようにチャージポンプ20は三つの動作状態、01,00,10があり、動作状態01において、シンク電流が出力され、動作状態10においてソース電流が出力される。動作状態00において、何れのチャージ電流も出力されない。位相比較回路10からのパルスPA、PB(Pulse A,Pulse B)に応じて、チャージポンプ20の三つの動作状態は状態遷移図に示すように遷移する。
【0031】
ループフィルタ30は、抵抗素子R1,R2およびキャパシタC0,C1,C2により構成されている。抵抗素子R1、キャパシタC0およびC1からなる回路はチャージポンプ20からのソース電流iCR1またはシンク電流iCR2に応じて、充電または放電しチャージポンプ20の出力ノードND1の電圧V0のレベルを制御する。抵抗素子R2およびキャパシタC2によりローパスフィルタが構成されている。当該ローパスフィルタによりチャージポンプ20の出力電圧V0の高周波成分が減衰され、低周波数成分の電圧信号V2が出力される。
【0032】
VCO40はループフィルタ30の出力電圧V2に応じて位相または周波数が制御された発振信号SOを出力する。VCO40からの発振信号SOは分周回路50により設定された分周比Nで分周され、分周信号Sdが位相比較回路10に出力される。
【0033】
上述したPLL回路において、基準信号Srefの周波数f0および分周回路50に設定された分周比Nに応じて、VCO40から所定の周波数を有する発振信号SOが出力される。即ち、PLL回路がロック(位相同期)状態に達したとき、発振信号SOの周波数f1はNf0に安定するように制御される。例えば、発振信号SOの周波数が所定の値より高くなると、分周回路50の分周信号Sdの位相が基準信号Srefより進み、位相比較回路10からパルスPBが出力される。これに応じてチャージポンプ20によりシンク電流iCR2が出力される。この結果、ループフィルタ30の出力電圧V2のレベルが低下し、VCO40の発振周波数が低くなるように制御される。
【0034】
逆に、VCO40の発振信号SOの周波数が所定の値より低くなると、分周回路50の分周信号Sdの位相が基準信号Srefより遅れ、位相比較回路10からパルスPAが出力される。これに応じてチャージポンプ20によりソース電流iCR1が出力され、ループフィルタ30の出力電圧V2のレベルが上昇するので、VCO40の発振周波数が高くなるように制御される。
【0035】
このように、PLL回路においてVCO40の発振周波数f1が常に基準信号Srefおよび分周比Nにより設定された目標周波数になるように制御され、VCO40の発振周波数が目標の周波数からずれたとき、そのずれの分に応じた修正信号が位相比較回路10、チャージポンプ20およびループフィルタ30により発生され、それに応じてVCO40の発振周波数が目標値に戻るように修正される。
【0036】
ところで、上述したようにチャージポンプ20は、直列に接続されている二つのトランジスタTR1,TR2により構成されているので、チャージポンプ20の出力電圧V0が一定の範囲内に制限される。例えば、トランジスタTR1およびTR2が飽和したときのコレクタ・エミッタ電圧をそれぞれVce1,Vce2とすると、チャージポンプ20の出力電圧V0が(Vce2<V0<VCC−Vce1)の範囲内に制限される。電圧V0がこの範囲を越えると、トランジスタTR1またはTR2の何れかが飽和状態になり、チャージポンプ20は正常に動作できなくなる。例えば、電圧V0が電圧Vce2以下に下がったとき、トランジスタTR2が飽和し、そのコレクタ電流が極端に低下するためシンク電流iCR2が正常に出力されなくなる。逆に、電圧V0が電圧(VCC−Vce1)以上に上昇したとき、トランジスタTR1が飽和しソース電流iCR1が正常に出力されなくなる。
【0037】
トランジスタが飽和状態に陥ると、チャージポンプ20から正常にチャージ電流の供給が得られなくなり、このためループフィルタ30からVCO40を制御するための十分の出力電圧が得られず、PLL回路のレスポンス特性が低下してしまう。
【0038】
本実施形態は、この問題を解決するためにチャージポンプ20のトランジスタが飽和状態にあることを検出し、何れかのトランジスタが飽和状態になったとき、位相比較回路10からのパルスPA,PBを切り換えて補助チャージポンプ90に入力するので、補助チャージポンプ90により補助チャージ電流を出力し、ループフィルタ30のキャパシタC1に対して直接充電また放電を行う。これによってチャージポンプ20のトランジスタが飽和状態になっても、ループフィルタ30から十分な制御電圧V2を出力することができ、PLL回路のレスポンス特性の向上が実現される。
【0039】
以下、図1を参照しつつ、補助チャージ電流の発生について説明する。図示のように、ダイオードD1,D2および抵抗素子R3により、飽和検出電圧VSA1,VSA2が生成される。ここで、ダイオードD1およびD2の順方向バイアス降下電圧をそれぞれVD1,VD2とすると、飽和検出電圧VSA1,VSA2はそれぞれ次式により与えられる。
【0040】
【数3】
VSA1=VCC−VD1
VSA2=VD2
…(3)
【0041】
本実施形態はダイオードD1,D2の順方向バイアス降下電圧がトランジスタTR1,TR2の飽和時のコレクタ・エミッタ間電圧とほぼ一致することを利用して、チャージポンプ20を構成するトランジスタTR1,TR2が飽和状態になっているか否かを検出する。
【0042】
図示のように、飽和検出回路70は、コンパレータCMP1,CMP2およびORゲートOR1により構成されている。コンパレータCMP1はチャージポンプ20の出力電圧V0と飽和検出電圧VSA1とを比較し、電圧V0が飽和検出電圧VSA1より高いときハイレベルの信号を出力し、それ以外のときローレベルの信号を出力する。コンパレータCMP2はチャージポンプ20の出力電圧V0と飽和検出電圧VSA2とを比較し、電圧V0が飽和検出電圧VSA2より低いときハイレベルの信号を出力し、それ以外のときローレベルの信号を出力する。
【0043】
このため、トランジスタTR1またはTR2の何れかが飽和状態になると、コンパレータCMP1またはCMP2の出力信号がローレベルからハイレベルに切り換わる。これに応じてORゲートOR1の出力信号もローレベルからハイレベルに切り換わる。
【0044】
切り換え回路80は、飽和検出回路の検出信号、即ち、ORゲートOR1の出力信号に応じてパルスPA,PBを補助チャージポンプ90に供給する。図示のように、切り換え回路80は、ANDゲートAND1,AND2により構成され、ORゲートOR1の出力信号がローレベルのとき、これらのANDゲートの出力信号がローレベルに保持され、このとき補助チャージポンプ90は動作しない。一方、ORゲートOR1の出力信号がハイレベルのとき、ANDゲートAND1の出力端子からパルスPAが出力され、ANDゲートAND2の出力端子からパルスPBが出力される。
【0045】
即ち、チャージポンプ20が正常に動作しているとき、パルスPA,PBが補助チャージポンプ90に供給されず、補助チャージポンプ90は待機状態に保持される。チャージポンプ20の何れかのトランジスタが飽和状態にあるとき、パルスPA,PBが補助チャージポンプ90に供給されるので、補助チャージポンプ90が動作する。このとき、位相比較回路10からパルスPAが出力されたとき、補助チャージポンプ90においてトランジスタTR3がオン状態となり、補助チャージ電流iA1が出力される。逆に、位相比較回路10からパルスPBが出力されたとき、補助チャージポンプ90においてトランジスタTR4がオン状態となり、補助チャージ電流iA2が出力される。
【0046】
補助チャージ電流iA1およびiA2が直接ループフィルタ30のキャパシタC1の端子に入力されるので、キャパシタC1は補助チャージ電流iA1またはiA2に応じて充電または放電し、その端子電圧V1が設定される。即ち、補助チャージ電流iA1が出力されたときキャパシタC1が充電され、端子電圧V1が上昇する。逆に、補助チャージ電流iA2が出力されたときキャパシタC1が放電され、端子電圧V1が降下する。
【0047】
補助チャージポンプ90の動作により、ループフィルタ30の出力電圧V2が制御されるので、VCO40は電圧V2に基づき発振周波数が制御される。このため、チャージポンプ20がトランジスタの飽和により正常な動作ができなくなったとき、その代わりに補助チャージポンプ90が動作し、VCO40を制御するので、トランジスタの飽和により影響を低減でき、PLL回路のレスポンス特性が向上する。
【0048】
図4は、チャージポンプ20と補助チャージポンプ90の切り換えおよびそれに伴うループフィルタ30の電圧V0,V1の変化を示している。図示のように、チャージポンプ20の出力電圧V0が飽和電圧Vsatに達するまで、チャージポンプ20によりソース電流iCR1が正常に供給される。これに応じてチャージポンプ20の出力電圧V0が上昇し続ける。出力電圧V0が飽和電圧Vsatに達すると、チャージポンプ20のトランジスタTR1が飽和状態になり、ソース電流iCR1の供給が正常にされなくなる。飽和検出回路70によりこれが検出され、位相比較回路10からのパルスPAが補助チャージポンプ90に入力されるので、補助チャージポンプ90が動作し、補助チャージ電流iA1が出力される。補助チャージ電流iA1によりキャパシタC1が充電され、電圧V1が上昇するので、ループフィルタ30の出力電圧V2が十分なレベルに設定され、これに応じてVCO40の発振周波数は所定の目標値に近づくように制御される。
【0049】
図5は、補助チャージポンプ90が設けた本実施形態のPLL回路の一動作例を示す図であり、位相引き込みとチャージポンプ20の出力電圧V0の変化を示すグラフである。図示のように、本実施形態において補助チャージポンプ90が設けられたことにより、チャージポンプ20がトランジスタの飽和による機能低下は補助チャージポンプ90により補われ、PLL回路のレスポンス特性が向上し、ロックアップする時間が補助チャージポンプが設けていないPLL回路に較べて短縮される。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、飽和検出回路70および補助チャージポンプ90を設けて、チャージポンプ20のトランジスタが飽和状態になることを検出したとき位相比較回路から位相差に応じたパルスPA,PBを補助チャージポンプ90に出力し、補助チャージポンプ90により補助チャージ電流i A1 またはiA2を出力し、これに応じてループフィルタ30の出力電圧V2を制御し、VCO40の発振周波数を制御することにより、トランジスタの飽和によるPLL回路のレスポンス特性の低下を回避でき、回路規模を増大させることなく高性能をPLL回路を実現できる。
【0051】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のPLL回路によれば、トランジスタの飽和による影響を低減でき、レスポンス特性の向上を実現できる。また、回路構成上低電源電圧動作に好都合であり、低消費電力化を容易に実現できる。また、飽和検出回路の構成が単純で誤動作が少なく、位相引き込みの過程において必要なときのみ補助チャージポンプを動作させるので、ロック状態における動作安定性の向上を実現できる利点がある。
さらに、本発明は従来のPLL回路に較べて付加する回路が小規模であるうえ、IC化に適しており回路実装面積を増大させない利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るPLL回路の一実施形態を示す回路図である。
【図2】 チャージポンプの動作状態遷移図である。
【図3】 チャージポンプの動作を示す波形図である。
【図4】 補助チャージポンプの動作切り換えを示す波形図である。
【図5】 PLL回路の位相引き込みおよびチャージポンプの出力電圧を示すグラフである。
【図6】 従来のPLL回路の一例を示す回路図である。
【図7】 チャージポンプの構成を示す回路図である。
【図8】 チャージポンプの出力電流およびループフィルタの電圧変化を示す波形図である。
【図9】 トランジスタが飽和したときのチャージポンプ出力電圧の変化を示す波形図である。
【図10】 理想的なPLL回路の位相引き込みおよびチャージポンプの出力を示すグラフである。
【図11】 トランジスタが飽和する場合の位相引き込みおよびチャージポンプの出力を示すグラフである。
【符号の説明】
10…位相比較回路、20…チャージポンプ、30…ループフィルタ、40…VCO、50…分周回路、60…電圧発生回路、70…飽和検出回路、80…切り換え回路、90…補助チャージポンプ、VCC…電源電圧、GND…接地電位。
Claims (5)
- 位相比較回路と、
チャージ電流発生回路と、
ループフィルタと、
電圧制御型発振回路と、
状態検出回路と、
補助チャージ電流発生回路と
を有し、
上記位相比較回路は、上記電圧制御型発振回路の出力信号と基準信号との位相を比較し、上記基準信号の位相に対する上記電圧制御型発振回路の出力信号の位相が進んでいるときにその位相差の大きさを示す第1の位相差信号を出力し、または、上記基準信号の位相に対する上記電圧制御型発振回路の出力信号の位相が遅れているときにその位相差の大きさを示す第2の位相差信号を出力し、
上記チャージ電流発生回路は、
電源電圧と共通電位との間に直列接続されている第1のトランジスタと第2のトランジスタとを有し、
上記第1のトランジスタの制御ゲートに上記第1の位相差信号が印加されたとき当該第1のトランジスタがオン状態となり、上記ループフィルタから上記第1のトランジスタと上記第2のトランジスタの共通の接続部である第1の出力端子を経由して上記共通電位に向かって放電電流を流し、
上記第2のトランジスタの制御ゲートに上記第2の位相差信号が印加されたとき当該第2のトランジスタがオン状態となり、上記第1の出力端子を経由して上記ループフィルタに流れる充電電流を発生させ、
上記ループフィルタは、上記チャージ電流発生回路の上記第1の出力端子に接続され、上記第1の出力端子を経由して流れる上記充電電流または上記放電電流に応じて充電または放電する第1の容量素子と、上記第1の容量素子の後段に上記第1の容量素子と並列に接続された第2の容量素子と、当該第2の容量素子の後段に接続されたローパスフィルタとを含み、
上記電圧制御型発振回路は、上記ループフィルタ内の上記ローパスフィルタの出力電圧信号に応じて発振した発振周波数を示す信号を発生して上記位相比較回路に出力し、
上記状態検出回路は、上記チャージ電流発生回路に含まれる上記第1のトランジスタまたは上記第2のトランジスタが飽和状態を検出する飽和検出回路を有し、
上記補助チャージ電流発生回路は、
上記電源電圧と上記共通電位との間に直列接続されている第3のトランジスタと第4のトランジスタとを有し、
上記第3のトランジスタと上記第4のトランジスタとの共通接続点である第2の出力端子が上記ループフィルタ内の上記第2の容量素子の入力端子に接続され、
上記基準信号の位相に対する上記電圧制御型発振回路の出力信号の位相が進んでおり、かつ、その位相差の大きさを示す上記第1の位相差信号と、上記状態検出回路が上記チャージ電流発生回路に含まれる上記第1のトランジスタが飽和したことを検出した信号とが上記第3のトランジスタの制御ゲートに印加されたとき当該第3のトランジスタがオン状態となり、上記第2の出力端子を経由して上記第2の容量素子から上記共通電位に向かって放電電流を流し、
上記基準信号の位相に対する上記電圧制御型発振回路の出力信号の位相が遅れており、かつ、その位相差の大きさを示す上記第2の位相差信号と、上記状態検出回路が上記チャージ電流発生回路に含まれる上記第2のトランジスタが飽和したことを検出した信号とが上記第4のトランジスタの制御ゲートに印加されたとき当該第4のトランジスタがオン状態となり、上記第2の出力端子を経由して上記第2の容量素子に流れる上記充電電流を発生させる
PLL回路。 - 上記飽和検出回路は、
上記第1のトランジスタの飽和状態を検出するための第1飽和検出電圧および上記第2のトランジスタの飽和状態を検出するための第2の飽和検出電圧を発生する電圧発生回路と、
上記チャージ電流発生回路の上記出力端子の電圧が上記第1の飽和検出電圧より高いとき第1の飽和信号を出力する第1のコンパレータと、
上記チャージ電流発生回路の上記出力端子の電圧が上記第2の飽和検出電圧より低いとき第2の飽和信号を出力する第2のコンパレータと、
上記第1の飽和信号または第2の飽和信号の何れかの飽和信号が出力されたとき、上記位相比較回路により出力された上記第1のパルス信号および第2のパルス信号を上記補助チャージ電流発生回路に供給する切り換え回路と
を有する、請求項1記載のPLL回路。 - 上記位相比較回路は、
上記電圧制御型発振回路の出力信号に応じて上記位相比較回路の第1の出力端子が上記電源電圧レベルに設定され、上記第1の位相差信号を出力する第1のフリップフロップと、
上記基準信号に応じて当該位相比較回路の第2の出力端子が上記電源電圧レベルに設定され、上記第2の位相差信号を出力する第2のフリップフロップと、
上記第1のフリップフロップの出力端子と上記第2のフリップフロップの出力端子がともに上記電源電圧レベルにあるとき、上記第1および第2のフリップフロップの上記出力端子を共通電位に設定するリセット信号を発生するリセット回路と
を有する請求項1記載のPLL回路。 - 上記リセット回路は、上記第1のフリップフロップの出力信号と上記第2のフリップフロップの出力信号の論理和を出力する論理ゲートにより構成されている
請求項3記載のPLL回路。 - 上記電圧制御型発振回路の出力信号を分周し、分周信号を上記電圧制御型発振回路の出力信号として上記位相比較回路に供給する分周回路を有する、
請求項1記載のPLL回路。
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