JP4064514B2 - コイル状炭素繊維の気相製造方法及びその製造装置 - Google Patents

コイル状炭素繊維の気相製造方法及びその製造装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、電磁波吸収材、マイクロセンサー、マイクロメカニカル素子等の材料として使用されるコイル状炭素繊維の気相製造方法及びその製造装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のコイル状炭素繊維の製造装置に用いられる反応容器は、石英、アルミナ等により円管状に形成され、その両端の開口部は、絶縁ゴム栓等により閉塞されている。流入口は小さな円筒状をなし、反応容器の中央に1箇所形成され、炭化水素ガス、水素ガス等の原料ガスを反応容器内に流入させるようになっている。コイル状炭素繊維の成長の場としての基材は、表面に金属触媒が塗布され、反応容器内に配設されている。注入口は、反応容器の両端部に形成され、反応容器内にシールガスを注入させるようになっている。加熱器は反応容器の外周面に円環状に取り付けられ、反応容器内を一定温度にまで上昇させるようになっている。
【0003】
そして、原料ガスを流入口から流入させるとともに、シールガスを反応容器内に注入し、加熱器により加熱して温度を一定温度にまで上昇させる。すると、原料ガスが分解され、基材上から炭素繊維がコイル状に成長する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、従来のコイル状炭素繊維の製造装置には、原料ガスの流入口が小さな円筒状で1箇所しか形成されていなかったため、コイル状炭素繊維は、流入口の真下に位置する基材上の狭い範囲からしか成長しなかった。そのため、基材上全体にコイル状炭素繊維を成長させるには、基材上のコイル状炭素繊維が成長していない部分を、流入口の真下に位置するように移動させなければならず、効率が悪く、装置が複雑になるという問題があった。また、基材をその都度少しずつ移動させるため、コイル状炭素繊維を基材上全体にわたって成長させるためには、かなりの時間を要し、製造コストの上昇を招くという問題もあった。
【0005】
この発明は、このような従来技術に存在する問題に着目してなされたものである。その目的とするところは、簡単な構成で、コイル状炭素繊維を一度に効率良く、大量に合成することができるコイル状炭素繊維の気相製造方法及びその製造装置を提供することにある。その他の目的は、コイル状炭素繊維の製造時間を短縮することができ、製造コストの低減を図ることができるコイル状炭素繊維の気相製造方法及びその製造装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のコイル状炭素繊維の製造装置は、加熱器を有する反応容器に、熱分解して炭素を生成する原料ガス及び触媒ガスを流通させるための流入口及び流出口を備えるとともに、コイル状炭素繊維の成長の場として触媒を担持させた基材を反応容器内に配設し、前記流入口を基材のほぼ全体に対応するように反応容器の周面に複数設け、当該流入口から所定距離を置いた位置に基材を設けたものである。
【0007】
請求項2に記載のコイル状炭素繊維の製造装置は、請求項1に記載の発明において、前記流入口は、筒体又はスリットにより形成されるものである。
請求項3に記載のコイル状炭素繊維の製造装置は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、隣り合う流入口間の間隔を、流入口の内径の10倍以内の長さに設定したものである。
【0008】
請求項4に記載のコイル状炭素繊維の気相製造方法は、加熱器を有する反応容器に、熱分解して炭素を生成する原料ガス及び触媒ガスを流通させるための流入口及び流出口を備え、コイル状炭素繊維の成長の場として触媒を担持させた基材を前記反応容器内に配設し、前記流入口を基材のほぼ全体に対応するように反応容器の周面に複数設け、当該流入口から所定距離を置いた位置に基板を設け、熱分解して炭素を生成する原料ガス及び触媒ガスを前記流入口から反応容器内に流入させ、触媒ガスの存在下に原料ガスを前記加熱器により600〜950℃の温度で加熱分解して、基材のほぼ全体にコイル状炭素繊維を成長させるものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
以下、この発明の第1実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
まず、コイル状炭素繊維の製造装置11について説明する。
図1又は図2に示すように、反応容器12は、円筒状をなす横型熱化学気相合成装置で、石英、アルミナ、セラミック、金属製反応管の内面をセラミックスライニングしたもの、ニッケル、タングステン及びチタンの耐熱金属等の材料により形成されている。これらのなかでも触媒活性、直線状炭素繊維や炭素粉末生成等のコイル生成反応以外の副反応の抑制の点から透明又は不透明な石英が好ましい。反応容器12の内径は、原料ガス及び触媒ガスを効率良く流通させるために、30〜150mmの範囲内に設定されるのが好ましく、30〜60mmの範囲内に設定されるのがさらに好ましい。なお、第1実施形態では、反応容器12の内径を60mm、全長を1000mmに設定した。開口部13は反応容器12の両端に形成され、所定温度の耐熱性を有する材質により形成された第1シール部材14により閉塞されている。
【0011】
コイル状炭素繊維が成長する場所としての基材を構成する基板15は、グラファイト又はニッケルの焼結体により四角板状に形成されている。この基板15の表面には、金属粉末よりなる触媒が塗布されることにより担持されている。接続線16は基板15の両端に接続され、両接続線16が第1シール部材14に貫通支持されることにより、基板15は反応容器12内の空中に支持されている。そして、一方の接続線16は反応容器12内の基板15に静電場を形成するための静電場発生装置17に接続され、他方の接続線16は解放された状態になっている。
【0012】
前記静電場は、静電場発生装置17により発生する無変動静電場又は変動静電場である。そして、無変動または変動静電場を基板15に形成することにより、基板15がマイナス又はマイナスとプラスの交互に帯電するとともに、原料ガスの熱分解を促進させることができる。さらに、熱分解によりイオン化され、プラスの電荷を帯びた反応種が基板15上の金属触媒に効率良く誘導されるとともに、反応種の分子運動が活性化され、炭素繊維の成長が促進される。従って、その反応速度を向上させることができるとともに、収率を向上させることができる。また、金属触媒の結晶面での異方性を大きくすることにより、コイル径の小さいコイル状炭素繊維が得られ、異方性を小さくすることにより、コイル径の大きいコイル状炭素繊維が得られる。このため、コイル状炭素繊維のコイル径の大きさを制御することができる。
【0013】
このとき、基板15がマイナスイオンの電場を形成しているときは、コイル状炭素繊維を効率良く合成することができるが、プラスイオンの電場を形成しているときは、直線状に成長した炭素繊維や炭素粉末の析出を促進する。そのため、無変動静電場を基板15に形成するのが好ましい。第1実施形態では、静電場発生装置17として直流電源17を使用した。
【0014】
直流電源17のマイナス端子17aは、接続線16を介して基板15に接続されるとともに、プラス端子17bは反応容器12に接続されている。電源スイッチ26は、直流電源17のプラス端子17bと反応容器12の間に接続されている。
【0015】
前記金属触媒は、遷移金属の酸化物、炭化物、硫化物、リン化物、炭酸化物及び炭硫化物から選択される少なくとも一種の化合物であり、好ましくは、ニッケル、チタン、タングステン等の金属又はそれらの酸素との固溶体、酸化物、炭化物、硫化物、リン化物、炭酸化物又は炭硫化物である。その中でも、金属触媒の各結晶面での触媒活性の異方性の点からニッケルがさらに好ましい。金属触媒の形態は、粉末、金属板、粉末の焼結板のいずれでも良く、好ましくは平均粒径が5μm程度の微粉末又は焼結板である。
【0016】
また、コイル状炭素繊維のコイル径、コイルピッチ及びコイル長さは、金属触媒の各結晶面での触媒活性の異方性や粒径に依存している。そのため、静電場の電圧や水素ガス等により各結晶面での触媒活性の異方性が変化すると、コイル径、コイルピッチ及びコイル長さも変化する。例えば、金属触媒の粒径が小さくなるとコイル径は小さくなる。微粉末金属触媒の場合は、基板15上へ散布又は塗布しても良い。これらの金属触媒は、あらかじめ固溶体或いは化合物となったもののほか、金属粉末或いは板材を反応前に所定条件で酸化、炭化、リン化、炭酸化及び炭硫化処理して得られたものでも使用される。
【0017】
円筒状をなす流入口18は、前記基板15のほぼ全体に対応するように反応容器12の中央周面に、反応容器12の軸線方向に所定間隔をおいて一列に6本接合されている。そして、反応時には、原料ガス、触媒ガスが流入され、さらに必要に応じて反応系に有害な影響が加えられるのを防止するために、流入口18を流通するガス量に対して20〜30容量%のシールガスが流入される。流入口18の内径は、流入口18を流通する原料ガス、触媒ガス及び必要に応じて流入されるシールガスの流量や流速を所定範囲に保持するために、5〜50mmの範囲内に設定されるのが好ましく、5〜20mmの範囲内に設定されるのがさらに好ましい。なお、第1実施形態では、流入口18の内径を10mmに設定した。
【0018】
また、原料ガス、触媒ガス及び必要に応じて流入されるシールガスの流量を1本の流入口18を1分間に流れる原料ガス、触媒ガス及び必要に応じて流入されるシールガスの量を示す線速度で示した場合、コイル状炭素繊維の収率を向上させるために、室温、1気圧の条件下で線速度100〜3000cm/minの範囲内に設定されるのが好ましい。そして、200〜1500cm/minの範囲内に設定されるのがさらに好ましく、400〜1300cm/minの範囲内に設定されるのが特に好ましい。
【0019】
コイル状炭素繊維は、流入口18に対向する基板15上に、流入口18の内径の約10倍以内の範囲で円形状に密集して成長する。そのため、隣り合う流入口18間の間隔が、基板15上にコイル状炭素繊維を重なり合うことなく、かつ隙間なく成長させるために、流入口18の内径の1〜10倍の範囲内の長さに設定されるのが好ましい。さらに、隣り合う流入口18間の間隔は、2〜5倍の範囲内に設定されるのがさらに好ましく、2〜3倍の範囲内に設定されるのが特に好ましい。
【0020】
また、隣り合う流入口18間の間隔の具体的な長さは5〜100mmの範囲内に設定されるのが好ましく、10〜30mmの範囲内に設定されるのがさらに好ましい。従って、複数本の流入口18の対向する基板15上に、コイル状炭素繊維を互いにほとんど重なり合うことなく効率良く成長させることができる。なお、第1実施形態では、隣り合う流入口18間の間隔を30mmに設定した。
【0021】
流入口18と対向する基板15との距離は、所定範囲内に保たれるように設定され、コイル状炭素繊維の収率を向上させるために、1〜100mmの範囲内に設定されるのが好ましく、10〜25mmの範囲内に設定されるのがさらに好ましい。流入口18と対向する基板15との距離が短いほど、コイル状炭素繊維の収率を向上させることができる。しかし、流入口18と基板15との距離が1mm未満又は100mmを越えると、コイル状炭素繊維を全く得ることができず、炭素粉末又は直線状の炭素繊維のみが析出するようになる。
【0022】
さらに、室温、1気圧の条件下で1本の流入口18を1分間に流れる原料ガス、触媒ガス及び必要に応じて流入されるシールガスの量を示す線速度は、流入口18と対向する基板15との距離と密接な関係を有し、線速度が400〜800cm/minのときは、流入口18と対向する基板15との距離が1〜20cmに設定される。さらに、800〜1200cm/minのときは、5〜40cmに、1200〜1500cm/minのときは、10〜100cmに設定される。
【0023】
つまり、流入口18と対向する基板15との距離は、コイル状炭素繊維の収率を向上させるために、室温、1気圧の条件下で線速度の0.0001〜0.1倍の範囲内に設定される。そして、0.0005〜0.01倍の範囲内に設定されるのが好ましく、0.002〜0.1倍の範囲内に設定されるのが特に好ましい。
【0024】
前記原料ガスは、熱分解して炭素を生成するアセチレン、メタン、プロパン等の炭素元素を含むガス又は一酸化炭素ガスが使用される。炭素繊維をコイル状に形成するために各結晶面での触媒活性の異方性からアセチレンが好ましい。触媒ガスは、周期律表の第15族及び第16族元素を含むガスで、硫黄、チオフェン、メチルメルカプタン、硫化水素等の硫黄原子を含む化合物又は、リン、3塩化リン等のリン原子を含む化合物が使用される。これらのうち、コイル状炭素繊維の収率を向上させることができるという点から、好ましくはチオフェン又は硫化水素である。
【0025】
反応雰囲気中における触媒ガスの濃度は、好ましくは0.01〜5容量%の範囲内で、さらに好ましくは0.1〜0.5容量%の範囲内である。前記濃度が0.01容量%未満又は5容量%を越えると、コイル状炭素繊維がほとんど得られない。
【0026】
円筒状をなす一対の注入口19は、反応容器12の両端部の周面に接合され、シールガスを反応容器12内に注入させるようなっている。前記シールガスは窒素ガス、ヘリウムガス等の化学的に不活性で、系の物質と反応しない不活性ガス又は水素ガスが使用される。シールガスが反応容器12内に注入されると、酸素ガス等により余分な、あるいは有害な影響が反応系に加えられるのを防止できるようになっている。
【0027】
円筒状をなす流出口20は、反応容器12の中央周面に前記流入口18と180度反対側に接合されている。排気管21は、耐熱性を有する材質により形成された第2シール部材22が嵌挿された状態で、流出口20内に装着されている。そして、反応容器12内を流通した原料ガス、触媒ガス、シールガス及び分解反応により生成した廃ガスを排気管21を介して反応容器12外へ流出するようになっている。
【0028】
加熱器23は、反応容器12のほぼ全体を覆うように円環状に取り付けられ、反応容器12内を一定温度にまで上昇させるようになっている。前記温度は、コイル状炭素繊維の収率の向上の観点から600〜950℃の範囲内に設定されるのが好ましく、700〜850℃の範囲内に設定されるのがさらに好ましい。反応温度が600℃未満又は950℃を越えるとコイル状炭素繊維はほとんど得られない。
【0029】
第1実施形態の反応容器12を使用した場合、1本の流入口18に対向する基板15上に、流入口18の内径の約10倍の範囲内で円形状にコイル状炭素繊維が成長し、その円形が基板15上に6箇所形成される。その結果、基板15上ほぼ全体にわたって、コイル状炭素繊維を成長させることができる。
【0030】
次に、コイル状炭素繊維の気相製造方法について説明する。
ニッケル粉末が塗布されることにより担持された基板15は、複数の流入口18と対向するように接続線16により反応容器12内に支持される。このとき、各流入口18と対向する基板15との間は15mmになっている。そして、反応容器12の両端の開口部13が第1シール部材14により閉塞される。
【0031】
次に、6本の流入口18よりアセチレン、チオフェン、窒素ガス及び水素ガスが反応容器12内に流入される。室温、1気圧の条件下で一本の流入口18からは、アセチレン60ml/min、水素ガス265ml/min、チオフェン1ml/min、窒素ガス100ml/minの流速で反応容器12内に流入される。このとき、アセチレン、チオフェン、窒素ガス及び水素ガスは、反応容器12内の基板15に接触しながら流通し、排気管21を介して流出口20から外部へ流出される。また、一対の注入口19からも窒素ガスが注入され、基板15上で、酸素ガス等による余分な、或いは有害な影響が反応系に加えられるのが防止される。
【0032】
次いで、静電場発生装置17の電源スイッチ26をオンにして基板15に直流のマイナス電圧を印加してマイナスイオンの直流の無変動静電場を形成させる。さらに、加熱器23により反応容器12内の温度を750℃まで上昇させ、2時間反応を行った。
【0033】
その結果、ニッケル、炭素、水素、少量の硫黄又はリン及び微量の酸素の5元系からなる反応の場において、ニッケルによりアセチレンが接触的な触媒作用により熱分解され、炭化ニッケルの単結晶{炭化ニッケル(Ni3 C)に少量の硫黄原子(S)と微量の酸素原子(O)が含まれるもの}が形成される。さらに、炭化ニッケル単結晶がニッケルと炭素に分解され、各結晶面において粒内及び粒界拡散が生じ、基板15上に炭素繊維が形成される。この場合、ニッケル各結晶面での触媒活性の異方性より、触媒活性の大きい結晶面から成長した炭素繊維は成長が大きく、触媒活性の小さい結晶面から成長した炭素繊維の外側になるようにカールしながら成長する。このとき、2つの炭素繊維はコイルを形成しながら成長する。
【0034】
従って、生物のデオキシリボ核酸(DNA)の構造に類似した二重螺旋構造のコイル状炭素繊維が得られる。このコイル状炭素繊維は、いわゆるコスモミメティック(宇宙を手本にした)カーボンマイクロコイルと称すべきである。
【0035】
また、一本の流入口18に対向する基板15上には流入口18の内径の約10倍の範囲に炭素繊維が密集して成長する。従って、6本の流入口18により、基板15上ほぼ全体にわたってコイル状炭素繊維を成長させることができる。このとき、電圧の印加強度、波形、印加時間等によりコイル径、コイルピッチ及びコイル長さは制御される。
【0036】
上記製造装置11及び気相製造方法により、コイル径及びコイルピッチが小さく、コイル長さが長いコイル状炭素繊維が一度に効率的に得られる。
上記第1実施形態により発揮される効果について以下に記載する。
【0037】
・第1実施形態のコイル状炭素繊維の製造装置11及びその気相製造方法によれば、反応容器12内の基板15から所定距離をおいた位置に、所定間隔をおいて流入口18が6本接合されている。そのため、一度のコイル状炭素繊維の製造作業で基板15上のほぼ全体にわたってコイル状炭素繊維を合成することができる。従って、コイル状炭素繊維を一度に効率よく、大量に合成することができる。
【0038】
・第1実施形態のコイル状炭素繊維の製造装置11によれば、基板15から所定距離をおいた位置に、基板15のほぼ全体に対応するように所定間隔をおいて流入口18が6本形成されている。従って、基板15のコイル状炭素繊維が成長していない部分を、流入口18の真下にその都度少しずつ移動させる必要がない。その結果、製造時間の短縮を図ることができるとともに、製造装置11を簡易化することができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0039】
・第1実施形態のコイル状炭素繊維の製造装置11によれば、円筒状の流入口18は、基板15のほぼ全体に対応するように基板15から所定距離をおいた位置に接合されている。そのため、アセチレン、チオフェン、窒素ガス及び水素ガスを流入口18の対向する基板15上に所定の流速、流量で吹き付けることができ、基板15上でコイル状炭素繊維を効率よく成長させることができるとともに、その収率を向上させることができる。
【0040】
・第1実施形態のコイル状炭素繊維の製造装置11によれば、コイル状炭素繊維は流入口18の内径の約10倍の範囲で円形状に密集して基板15上に成長するため、隣り合う流入口18間の間隔が流入口18の内径の10倍以内の長さに設定されている。その結果、基板15上ほぼ全体にわたって、コイル状炭素繊維を成長させることができる。また、同一場所にコイル状炭素繊維が互いにほとんど重なり合うことなく成長するため、効率良くコイル状炭素繊維を成長させることができる。
【0041】
・第1実施形態のコイル状炭素繊維の製造装置11によれば、反応容器12は透明又は不透明な石英により形成されているため、コイル生成反応以外の、直線状炭素繊維の生成等の副反応を抑制することができ、コイル状炭素繊維を効率よく成長させることができる。
【0042】
・第1実施形態のコイル状炭素繊維の製造装置11によれば、反応容器12の内径は30〜150mmの範囲内に設定される。そのため、アセチレン、チオフェン、水素ガス及び窒素ガスを反応容器12内を効率よく流通させることができ、コイル状炭素繊維を効率よく成長させることができる。
【0043】
・第1実施形態のコイル状炭素繊維の製造装置11によれば、流入口18の内径は、5〜50mmの範囲内に設定される。そのため、流入口18に対向する基板15上にアセチレン、チオフェン、窒素ガス及び水素ガスをコイル状炭素繊維の成長に最も適した流速及び流量で流入させることができ、コイル状炭素繊維を効率よく成長させることができる。
【0044】
・第1実施形態のコイル状炭素繊維の製造装置11によれば、各流入口18と対向する基板15との距離は1〜100mmの範囲内に設定されている。そのため、コイル状炭素繊維を基板15上のどの位置からも確実に成長させることができる。
【0045】
・第1実施形態のコイル状炭素繊維の気相製造方法によれば、原料ガス、触媒ガス及び必要に応じて流入されるシールガスの流量を1本の流入口18を1分間に流れる原料ガス、触媒ガス及び必要に応じて流入されるシールガスの量を示す線速度で示した場合、室温、1気圧の条件下で100〜3000cm/minの範囲内に設定されている。そのため、コイル状炭素繊維を効率良く確実に成長させることができる。
【0046】
・第1実施形態のコイル状炭素繊維の気相製造方法によれば、流入口18と対向する基板15との距離と、室温、1気圧の条件下で1本の流入口18を1分間に流れる原料ガス、触媒ガス及び必要に応じて流入されるシールガスの量を示す線速度の関係で示した場合、前記距離は線速度の0.0001〜0.1倍の範囲内に設定される。そのため、線速度を調節することにより流入口18と対向する基板15との距離を設定することができる。従って、コイル状炭素繊維を効率良くかつ確実に成長させることができる。
【0047】
(第2実施形態)
次に第2実施形態について説明する。なお、この第2実施形態においては、上記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0048】
図3又は図4に示すように、第2実施形態のコイル状炭素繊維の製造装置11の反応容器12は、四角筒型に形成され横型に配置されている。コイル状炭素繊維の成長の場としての基板15は、反応容器12の上面より幅狭の平面矩形状に形成され、反応容器12内のほぼ中央位置に配設されている。
【0049】
四角筒状をなす流入口18は、反応容器12の上面に、その軸線方向及び幅方向に所定間隔をおいて18本接合されている。各流入口18から対向する基板15までの距離は、所定範囲内に保たれるように設定されている。このとき、隣り合う流入口18間の間隔は、各流入口18の対向する内壁間の間隔の10倍以内の長さに設定されている。
【0050】
この第2実施形態では、静電場を基板15に形成する代わりに、永久磁石36を使用して静磁場を形成した。一対の永久磁石36は、反応容器12の両側に取り付けられ、反応容器12内に磁場を形成することができるようになっている。このときの静磁場の強度は、反応容器12内の磁場密度として5ミリガウス〜20000ガウスの範囲内に設定されるのが好ましく、金属触媒の各結晶面での触媒活性の異方性を大きくするために、50ミリガウス〜1000ガウスの範囲内に設定されるのがさらに好ましい。
【0051】
さて、第1実施形態と同様の原料を反応容器12内に導入し、750℃で2時間反応を行った。反応中、反応容器12の両側から永久磁石36により静磁場を1000ガウスの磁束密度で形成した。その結果、基板15上ほぼ全体にわたって、コイル状炭素繊維を成長させることができた。
【0052】
従って、第2実施形態のコイル状炭素繊維の気相製造方法及びその製造装置11によれば、複数の流入口18を反応容器12の軸線方向及び幅方向に設け、幅方向に拡大した基板15を使用したことにより、さらに大量のコイル状炭素繊維を一度に合成することができる。
【0053】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。なお、この第3実施形態においては、上記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0054】
図5又は図6に示すように、第3実施形態の反応容器12は円筒状に形成され、横型に配置されている。コイル状炭素繊維の成長の場としての基板15は、断面円弧状に形成され、反応容器12の軸線方向へ延びるように配置されている。
【0055】
スリット状に形成された3本の流入口18は、反応容器12の周面上部に、その軸線方向へ延びるように形成されるとともに、周方向に所定間隔をおいて形成されている。このとき、隣り合う流入口18間の間隔は、流入口18の10倍以内に設定されている。そして、各流入口18から対向する基板15までの距離は所定範囲内に保たれるようになっている。
【0056】
流入管37は、有蓋四角筒状に形成され、その開口端部38が前記3本の流入口18全体を被覆するよう反応容器12の上部周面に取り付けられている。供給管39は筒状をなし、前記流入管37の上部中央に接合されている。そして、原料ガス、触媒ガス及び必要に応じてシールガスを供給管39から流入管37へ導入し、さらに、3本の流入口18を介して、反応容器12内に原料ガス及び触媒ガスが流入されるようになっている。
【0057】
反応容器12の外周面には、耐熱用のアスベスト40が取り付けられている。4基のプロパンバーナー41は、反応容器12の下方位置に所定間隔を置いて設けられている。そして、反応容器12全体を均一に加熱することができるとともに、反応容器12内を一定温度にまで上昇させるようになっている。
【0058】
この第3実施形態では、前記加熱器23、静電場発生装置17及び永久磁石36を使用せず、反応容器12内に静電場及び静磁場を形成しない反応雰囲気下で、プロパンバーナー41により加熱を行い、コイル状炭素繊維の合成を行った。
【0059】
さて、第1実施形態と同様の原料を反応容器12内に導入し、4基のプロパンバーナー41を使用して、反応容器12を下部から加熱した。そして、750℃で2時間反応を行った。その結果、基板15上ほぼ全体にわたって、コイル状炭素繊維を成長させることができた。
【0060】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。なお、この第4実施形態においては、上記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0061】
図7に示すように、第4実施形態の反応容器12は、第1実施形態と同様のものが使用される。コイル状炭素繊維の成長の場としての基板15は、反応容器12内の中央部に配設されている。この、基板15は反応容器12内に水平に配設される水平部42と、それに対して垂立するように水平部42上に所定間隔をおいて形成された垂直部43とより構成されている。このとき、垂直部43は、隣り合う流入口18間に位置するようになっている。また、流入口18と垂直部43との距離は所定範囲内に保たれるようになっている。
【0062】
熱風循環用の配管44は、反応容器12のほぼ全体を覆うように円環状に取り付けられている。導入管45は、前記熱風循環用の配管44の下端部に接合され、導出管46は、上端部に接合されている。そして、図示しないガス燃焼ボイラーにより発生した高温熱風ガスを、導入管45から熱風循環用の配管44内に送り込むことができるようになっている。さらに、熱風循環用の配管44内を循環させて、導出管46から排出することにより、反応容器12内を所定温度にまで上昇させることができるようになっている。
【0063】
この第4実施形態も前記加熱器23、静電場発生装置17及び永久磁石36を使用せず、反応容器12内に静電場及び静磁場を形成しない反応雰囲気下でコイル状炭素繊維の合成を行った。そして、ガス燃焼ボイラーにより発生した高温熱風ガスを熱風循環用の配管44内を循環させ、反応容器12内を加熱し、750℃で2時間反応を行った。
【0064】
その結果、基板15上の垂直部43の上端付近を中心にコイル状炭素繊維を成長させることができた。
尚、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
【0065】
・第1実施形態から第4実施形態の反応容器12をそれぞれ縦型に配置し、流入口18を水平となるように設けるとともに、流入口18までの距離を所定範囲内に保つように基板15を垂直に配置すること。または、反応容器12及び流入口18を斜状に配置し、各流入口18に対向し、かつ流入口18までの距離を所定範囲内に保つように基板15を斜状に設定すること。
【0066】
このように構成した場合も、コイル状炭素繊維を基板15上に成長させることができる。
・横型の反応容器12を上に数段積み上げ、各反応容器12に原料ガス、シールガス及び触媒ガスが流入するように、流入口18を反応容器12の側面に設けること。このとき、基板15は、流入口18に対向するように配置されるとともに、流入口18から対向する基板15までの距離は所定範囲内に保たれるように設定される。
【0067】
このように構成した場合、一度のコイル状炭素繊維の製造作業により、コイル状炭素繊維をさらに効率良く、大量に合成することができる。
・第1実施形態から第4実施形態の流入口18の形状を円筒状、四角筒状又は反応容器12の軸線方向若しくは周方向へ延びるスリット状に、反応容器12の形状を円筒状又は四角筒状に相互に変更すること。
【0068】
このように構成した場合も、基板15上にコイル状炭素繊維を成長させることができる。
・第1実施形態から第3実施形態の基板15上に、所定間隔をおいて第4実施形態で用いた垂直部43を形成し、垂直部43を隣り合う流入口18間に位置するようにし、流入口18とほぼ対向する垂直部43との距離を所定範囲内に保つこと。
【0069】
このように構成した場合、基板15上の垂直部43の上端付近を中心にコイル状炭素繊維を成長させることができる。
又は、第4実施形態で用いた基板15上の垂直部43を省略すること。このように構成した場合、基板15上ほぼ全体にわたって、コイル状炭素繊維を成長させることができる。
【0070】
・各実施形態の反応容器12に取り付けられた加熱器23、静電場発生装置17、永久磁石36、耐熱用のアスベスト40、プロパンバーナー41及び熱風循環用の配管44をそれぞれ各反応条件を設定することができるように相互に取り替え、反応容器12内の反応条件を相互に変更すること。
【0071】
このように構成した場合も、基板15上にコイル状炭素繊維を成長させることができる。
さらに、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
【0072】
・前記流出口は、前記流入口と180度反対側の反応容器に設けられたものである請求項1に記載のコイル状炭素繊維の製造装置。
このように構成した場合、反応容器内を流通した原料ガス、触媒ガス、シールガス及び分解反応により生成したガスを効率よく反応容器外へ流出させることができる。
【0073】
・前記反応容器内にシールガスを注入するための注入口を、反応容器の周面に設けた請求項1に記載のコイル状炭素繊維の製造装置。
このように構成した場合、反応容器内にシールガスを容易に注入することができる。
【0074】
・室温、1気圧の条件下で1分間に流入口を流れる原料ガス、触媒ガス及び反応系に有害な影響が加えられるのを防止するため、必要に応じて使用されるシールガスの量を示す線速度は100〜3000cm/minの範囲内である請求項4に記載のコイル状炭素繊維の気相製造方法。
【0075】
このように構成した場合、コイル状炭素繊維を効率良く成長させることができる。
・前記流入口と対向する基材との距離は、室温、1気圧の条件下で1分間に流入口を流れる原料ガス、触媒ガス及び反応系に有害な影響が加えられるのを防止するため、必要に応じて使用されるシールガスの量を示す線速度の0.0001〜0.1倍の範囲である請求項4に記載のコイル状炭素繊維の気相製造方法。
【0076】
このように構成した場合、線速度を調節することにより流入口と対向する基材との距離を設定することができ、コイル状炭素繊維を効率良くかつ確実に成長させることができる。
【0077】
【発明の効果】
この発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
請求項1に記載の発明のコイル状炭素繊維の製造装置によれば、簡単な構成で、コイル状炭素繊維を一度に効率良く、大量に合成することができる。また、コイル状炭素繊維の製造時間を短縮することができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0078】
請求項2に記載の発明のコイル状炭素繊維の製造装置によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、原料ガス及び触媒ガスを流入口の対向する基材上に所定の流速、流量で吹き付けることができ、基材上にコイル状炭素繊維を効率よく成長させることができるとともに、その収率を向上させることができる。
【0079】
請求項3に記載の発明のコイル状炭素繊維の製造装置によれば、請求項1又は請求項2に記載の効果に加え、同一場所にコイル状炭素繊維が互いにほとんど重なり合うことなく成長するため、効率良くコイル状炭素繊維を成長させることができるとともに、一度に基材上ほぼ全体にわたって、コイル状炭素繊維を成長させることができる。
【0080】
請求項4に記載のコイル状炭素繊維の気相製造方法によれば、一度のコイル状炭素繊維の製造作業により、基材上ほぼ全体にわたってコイル状炭素繊維を効率よく、大量に合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態のコイル状炭素繊維の製造装置を示す側断面図。
【図2】図1の2−2線断面図。
【図3】第2実施形態のコイル状炭素繊維の製造装置を示す要部平面図。
【図4】図3の4−4線断面図。
【図5】第3実施形態のコイル状炭素繊維の製造装置を示す要部平面図。
【図6】図5の6−6線断面図。
【図7】第4実施形態のコイル状炭素繊維の製造装置を示す側断面図。
【符号の説明】
11…コイル状炭素繊維の製造装置、12…反応容器、15…基材としての基板、18…流入口、19…注入口、20…流出口、23…加熱器。

Claims (4)

  1. 加熱器を有する反応容器に、熱分解して炭素を生成する原料ガス及び触媒ガスを流通させるための流入口及び流出口を備えるとともに、コイル状炭素繊維の成長の場として触媒を担持させた基材を反応容器内に配設し、前記流入口を基材のほぼ全体に対応するように反応容器の周面に複数設け、当該流入口から所定距離を置いた位置に基材を設けたコイル状炭素繊維の製造装置。
  2. 前記流入口は、筒体又はスリットにより形成されるものである請求項1に記載のコイル状炭素繊維の製造装置。
  3. り合う流入口間の間隔を、流入口の内径の10倍以内の長さに設定した請求項1又は請求項2に記載のコイル状炭素繊維の製造装置。
  4. 加熱器を有する反応容器に、熱分解して炭素を生成する原料ガス及び触媒ガスを流通させるための流入口及び流出口を備え、コイル状炭素繊維の成長の場として触媒を担持させた基材を前記反応容器内に配設し、前記流入口を基材のほぼ全体に対応するように反応容器の周面に複数設け、当該流入口から所定距離を置いた位置に基板を設け、熱分解して炭素を生成する原料ガス及び触媒ガスを前記流入口から反応容器内に流入させ、触媒ガスの存在下に原料ガスを前記加熱器により600〜950℃の温度で加熱分解して、基材のほぼ全体にコイル状炭素繊維を成長させるコイル状炭素繊維の気相製造方法。
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