JP4061702B2 - インクジェットヘッドの駆動装置 - Google Patents

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  • Particle Formation And Scattering Control In Inkjet Printers (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、静電アクチュエータを利用したインクジェットヘッドの駆動装置に係り、特に、静電体積変位型のインクジェットヘッドの駆動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年のプリントのカラー化に伴って、鮮明なプリント画像が得られるインクジェットプリンタの需要が急速に高まった。
【0003】
このインクジェットプリンタには、インクを飛翔させるインクジェットヘッドの方式として、バブルジェット方式、PZT(圧電素子)方式などが一般的に知られており、製品化されている。
【0004】
近年では、半導体の製造工程と同様の工程で製造することができ、また、小形化が容易であるなどの特徴を持つ静電アクチュエータを利用した静電体積変位型インクジェットプリンタが注目されつつある。
【0005】
静電体積変位型インクジェットヘッドは、インクを加圧する加圧室内に設けた振動板とその振動板に対向して設けた駆動電極との間に電圧を印加して振動板を変形(振動板を駆動電極側に吸引し接触させる)させ、その変形によって加圧室にインクを流入させ、急激にその電圧をOFFしたときに振動板が元の形状に戻る時の復元力を利用して加圧室からインクを外部に飛翔させるように構成されたものである。
【0006】
このような静電体積変位型のインクジェットヘッドに関する先行技術には、例えば特開平8−72240号、特開平7−132598号がある。この先行技術のインクジェットヘッドでは、いずれも外部に一度に飛翔されるインクの量によって印字ドットの大きさ(径)を変化させ、形成される画像の階調を調整している。すなわち、画像濃度を高める場合には一度に吐出されるインクの量を多く設定して印字ドット径を大きくし、いわゆる大径印字を行なう。また、画像濃度を低くする場合には一度に吐出されるインクの量をより少なく設定して印字ドット径を小さくし、いわゆる小径印字を行なっている。
【0007】
より具体的には、特開平8−72240号公報に記載されている発明では、一つの振動板に対して複数の電極を設け、階調信号に応じて電圧が印加される電極の数を変化させて一つの印字ドットを形成するインク量を増減している。また、特開平7−132598号公報に記載された発明では、振動板を変形させる電圧を変化させることによって加圧室に流入するインクの量を調整し、インクの吐出量を増減している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、特開平8−72240号公報に記載されている発明では、一つのチャネルに複数の電極を設けることになることから、配線が増え、構成が複雑になる。このため、このような構成は、静電アクチュエータの構成の高密度化、低コスト化に不適当であった。
【0009】
また、特開平7−132598号公報に記載された発明では、印加電圧が低い場合、電圧OFF時に加圧室内部で充分な圧力が得られず、吐出するインクの飛翔スピードが低下する。このため、比較的小径の印字ドットでプリントを行なう場合、インクの着弾位置にばらつきが生じて画質が低下することがあった。
【0010】
本発明は、上記の点に鑑みて行なわれたものであって、階調によらずインクの着弾位置のばらつきを低減し、高画質の画像を形成できるインクジェットヘッドの駆動装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
以上の目的を達成するため、本願発明は、以下のように構成される。
【0012】
すなわち、請求項1記載の発明は、加圧室に設けられた振動板と、当該振動板に対向して設けられた駆動電極とから構成され、前記振動板を静電気力で変形させることによって記加圧室から吐出するインク量を調整し、印字される画像の階調を制御するインクジェットヘッドの駆動装置であって、階調によらず一定の電圧を前記振動板と前記駆動電極との間に印加する一方、階調に応じた放電電圧で前記振動板と前記駆動電極との間に印加された電圧を放電する放電データを記憶する放電データ記憶手段と、階調に応じて放電データを選択し、選択された放電データに基づいて前記振動板と前記駆動電極間との間に電圧を印加する電圧印加制御手段とを有し、前記放電データ記憶手段に記憶される放電データは、前記振動板と前記駆動電極との間に印加された電圧の放電後、一時的に電圧を一定に保った後に、放電時の電圧降下速度よりも遅く、前記放電電圧に応じた異なる速度で前記振動板、前記駆動電極間にかかる電圧を降下させるものであり、前記放電電圧に応じた異なる速度は、前記振動板と前記駆動電極との間に印加された電圧が初期状態に戻るまでの時間が、放電電圧によらず一定となるように設定されることを特徴とするものである。
【0013】
このように構成することによって、階調、すなわち、加圧室から吐出するインク量によらず常に一定の電圧が振動板と駆動電極との間に印加され、加圧室でインクの吐出に充分な圧力を得ることができる。また、階調に応じた放電電圧で前記振動板と前記駆動電極との間に印加された電圧を放電することによって加圧室から押し出されるインク量を調整することができる。
【0014】
したがって、インクは階調によらず充分な圧力を得て飛翔し、着弾位置のばらつきがなくなる。また、加圧室から吐出されるインク量が調整できて階調の調整が可能になる。さらに、放電後に一時的に電圧を一定に保つことによって、インク液滴の切れが良くなり、いっそう吐出インク量の制御性が高まる。また、インク飛沫による用紙の汚れ等も防ぐことができ、より高画質の画像を形成することができる。
【0016】
このように構成することによって、振動板が放電終了時の電圧に相当する位置まで復元した後、それ以上インクを吐出することなく振動板を初期位置に戻すことができ、次の印字に備えることができる。
【0018】
このように前記振動板と前記駆動電極との間に印加された電圧が初期状態に戻るまでの時間が、放電電圧によらず一定となるように、前記放電電圧に応じた異なる速度が設定されることによって、階調によって印字速度が低下することを防ぎ、高速印字の要請にも応えることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明は、加圧室に設けられた振動板と、振動板に対向して設けられた駆動電極との間に階調によらず一定の電圧を印加する一方、階調に応じた放電電圧で振動板と駆動電極との間に印加された電圧を放電する放電データを記憶しておき、階調に応じて選択された放電データに基づいて振動板と駆動電極との間に電圧を印加することを要旨とするものである。
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態であるインクジェットヘッドの駆動装置について説明する。
【0021】
図1は、本発明のインクジェットヘッドの駆動装置を搭載するインクジェットプリンタの概略構成を説明するための斜視図である。
【0022】
インクジェットプリンタ1は、用紙やOHPシートなどの記録媒体である記録シート2に印字するものであって、インクジェットヘッド走査系と記録シート送り系とから構成される。
【0023】
インクジェットヘッド走査系は、インクジェット方式のインクジェットヘッドを単色分、あるいは複数色(例えば3色、4色、または7色など)分含むヘッドユニット3と、ヘッドユニット3を保持するキャリッジ4と、キャリッジ4を記録シート2の記録面に平行に往復移動させるためのスキャンシャフト5及びガイド軸6と、キャリッジ4をガイド軸6に沿って往復駆動するパルスモータ7と、パルスモータ7の回転をキャリッジ4の往復運動に変えるためのアイドルプーリ8、タイミングベルト9とから構成される。
【0024】
また、記録シート送り系は、記録シート2を搬送経路に沿って案内するガイド板を兼ねるプラテン10と、プラテン10との間の記録シート2を押さえて浮きを防止する紙押さえ板11と、記録シート2を排出するための排出ローラ12、排紙押さえローラ13と、ヘッドユニット3のインクを吐出するノズル面を洗浄しインク吐出不良を良好な状態に回復させるメンテナンス装置14と、記録シート2を手動で搬送するための紙送りノブ15とから構成される。
【0025】
記録シート2は、図示しない手差しあるいはカットシートフィーダ等の給紙装置によって、ヘッドユニット3とプラテン10とが対向する記録部へ送り込まれる。この際、図示しない紙送りローラの回転量が制御され、記録部への搬送が制御される。
【0026】
ヘッドユニット3のプリントヘッドには、インク飛翔用のエネルギー発生源として静電アクチュエータが用いられる。静電アクチュエータは、対向して設けられた振動板と電極との間に働く静電気力(クーロン力)を利用して振動板を急峻に変位させる。この変位は、インクで満たされた加圧室の容積を変化させる。この加圧室の容積の変化により、加圧室に設けられたノズルからインクが吐出され、記録シート2への記録が行なわれる。
【0027】
キャリッジ4は、パルスモータ7、アイドルプーリ8、タイミングベルト9により、記録シート2を横方向に走査(主走査)し、キャリッジ4に取り付けられたヘッドユニット3は1ライン分の画像を記録する。1ライン分の記録が終わるごとに、記録シート2は縦方向に送られ(副走査)、次のラインへの記録がされる。
【0028】
このようにして記録シート2に画像が記録され、記録部を通過した記録シート2は、その搬送方向下流側に配置された排出ローラ12とこれに一定の圧力で接する排紙押さえローラ13とによって排出される。
【0029】
図2は、図1に示したヘッドユニット3の1色分のインクジェットヘッド31を含むキャリッジ4周辺の構成を説明するための斜視図である。
【0030】
キャリッジ4周辺には、インクを収容し通気口404を有するインクカートリッジ403と、インクカートリッジ403を収納するケーシング401、ケーシング蓋405と、インクカートリッジ403を着脱可能にしつつインクをインクジェットヘッド31に供給するインク供給管402と、ケーシング蓋405を閉じた際ケーシング401にケーシング蓋405を固定するためのフック406、蓋止め407と、インクカートリッジ403を収納する向き(矢印D3の向き)とは反対の向きにインクカートリッジ403を付勢しつつインクカートリッジ403をケーシング蓋405との間でケーシング401内に保持する押さえバネ408とが設けられる。
【0031】
このような構成のキャリッジ4がスキャン方向(矢印D1の向き)に移動することによって記録シート2は主走査されることになる。また、記録シート2が送られることによって副走査方向(矢印D2の向き)に印字されることになる。
【0032】
図3は、図2に示したインクジェットヘッド31を説明するための分解斜視図である。また、図4は、図3に示したチャネルプレート50を説明するための上面図である。
【0033】
図3に示したインクジェットヘッド31は、チャネルプレート50と、天板60と、ガラス基板70との3つの構成要素からなる。チャネルプレート50には、図4に示すように加圧室51、インク供給室52、インレット53、ノズル54が形成されている。チャネルプレート50は、このような加圧室やノズルが複数形成されていて、1つのヘッドから複数のインク液滴を吐出させることができるようになっている。
【0034】
また、天板60は、このチャネルプレート50の図示上側を覆う部材であり、ガラス基板70は、後述する振動板55の対向する位置に空間を設けて後述する駆動電極72を配置するために設けられたものである。
【0035】
図5は、図3、図4に示したインクジェットプリンタヘッド31をより詳細に説明するための図4のA−A線に沿う断面図である。
【0036】
インクジェットヘッド31には、図示側面側に設けられているノズル54からインクを吐出させるためにその内圧を可変する振動板55を備えた加圧室51、加圧室51へインクを供給するためにインクを蓄えておくインク供給室52、インク供給室52内のインクを加圧室51へ導くインレット53、および振動板55に設けられた第1電極56と対向する位置に空間71により隔てられた第2電極である駆動電極72を有している。
【0037】
第1電極56と駆動電極72との間の空間71は、本実施形態1では0.3μmとしている。また、振動板55に設けられている第1電極56は、後述するようにホウ素を拡散することによって形成した不純物導電層である。この第1電極56は、本実施形態1ではアースされており、また、駆動電極72は配線80によって、後述する駆動回路からの電圧が印加されるようになっている。
【0038】
このように構成されたインクジェットヘッド31の第1電極56と駆動電極72との間に電圧を印加すると、両電極間に発生する静電気力によって、図6に示すように振動板55が駆動電極72側に引き付けられて実線の状態から点線の状態のように撓む。このように振動板55が撓むと、加圧室51の容積が増加し、インク供給室52内のインクがインレット53を通り加圧室51内に流入することになる。この状態をインクが加圧室51に十分に流れ込むまで維持し(本発明ではこの時間を確保している)、電圧の印加を止めると、振動板55の形状が元の形状に復元し、このときの復元力によって加圧室51内に圧力を加えることでインク液滴がノズル54から吐出する。
【0039】
なお、本実施の形態1では、振動板55に形成した第1電極56をアースさせているので、駆動電圧として、駆動電極72に+の電位を印加している。この駆動電圧により振動板55に作用する力Fは、F=1/2・{εr ε0 S(V/d)2 }により算出される。
【0040】
ただし、式中、εr は第1電極56と第2電極(駆動電極)72との間の比誘電率、ε0 は真空の比誘電率、Sは電極の面積、Vは駆動電圧、dは第1電極56と第2電極(駆動電極)72間の距離である。
【0041】
次に、前述したインクジェットヘッドの製造方法について簡単に説明する。
【0042】
上記本実施の形態1において用いたインクジェットヘッド31は、いわゆる半導体装置製造プロセスやマイクロマシーン製造プロセスなどを利用して製造させるものであり、その方法は様々であるが、ここでは、その一例について説明する。なお、ここで説明した製造方法以外の方法により製造されたインクジェットヘッドであっても本発明による駆動装置によって駆動できることは言うまでもない。
【0043】
まず、チャネルプレート50の形成について説明する。
図7のAないしCは、図4のA−A線に沿った断面を工程順に示した図である。チャネルプレート50の形成には、予め200μm程度にラッピングしたシリコン基板100を使用して、シリコン基板100の全面に、熱酸化法により酸化膜101を形成する(図7A)。そして、シリコン基板100の図示上側表面の酸化膜101に、公知のフォトリソグラフィーおよびドライエッチングによって、加圧室51、インク供給室52、インレット53およびノズル54の形状を規定するための開口を設け、エッチングマスク101aとする(図7B)。
【0044】
次に、パターニングされた酸化膜101により形成されたエッチングマスク101aを有するシリコン基板100をKOH溶液により異方性エッチングする。ここで使用したシリコン基板100は、基板表面が(110)面または(100)面を有するものである。このKOH溶液による異方性エッチングは、シリコン基板の(111)面が露出することにより自動的にエッチングが停止するため、前記エッチングマスク101aの形成時において、ノズル54やインレット53となる部分の開口の大きさを調整することにより、これらの部分におけるエッチング深さを所望の深さとすることができる。また、加圧室51およびインク供給室52の深さは、これらの部分の開口の大きさと共に、エッチング時間を調整することで、振動板55となる部分の厚さが6.5μm程度となるようにする。このKOH溶液によるエッチングによって、加圧室51、インク供給室52の側壁部分は(111)面が露出することにより、適度なテーパが形成される。その後、エッチングマスクとして使用した酸化膜は除去する。
【0045】
そして、このシリコン基板100の裏面側に、振動板55とこの振動板55部分に形成される第1電極56と電気的なコンタクトをとるための部分(不図示)が開口したレジストパターンをフォトリソグラフィーにより形成し、振動板55とコンタクト部分にホウ素をイオン注入して、第1電極56およびコンタクトラインとなる不純物拡散層を形成する。その後、熱酸化工程により、シリコン基板100の全面に酸化膜を形成することで、振動板55の表面(シリコン基板の裏面側)に絶縁膜57を形成する。なお、この絶縁膜57は、駆動電極72との短絡を防止するためである(図7C)。
【0046】
次に、駆動電極72を設けたガラス基板70の形成について説明する。このガラス基板70には、ホウケイ酸ガラス基板を使用して、図5に示した状態に接合されたときに、チャネルプレート50の振動板55が位置する部分に所定の深さの凹部をエッチングにより形成し、この凹部内とこの凹部から連なるコンタクトラインを形成するためにITO膜を成膜して、リフトオフにより、凹部内に駆動電極72、ガラス基板表面にこの駆動電極72と接続されるコンタクトラインを形成する。このとき、複数の加圧室とノズルを有するヘッドの場合には、各加圧室ごとに駆動電極とそれぞれのコンタクトラインを形成する。
【0047】
その後、電極が形成された面全面にSiFH膜を約1μm成膜する。このSiFH膜は、パターン化せず、基板全面に設けて保護膜とするもので、これにより、周囲の湿度の影響による駆動電極の劣化を防止する。
【0048】
前記凹部を形成する際の深さは、駆動電極72を形成したときに、空間71における第1電極56(絶縁膜表面)から対向する駆動電極72(SiFH膜表面)までの間隔が0.1〜1μm、好ましくはより低い駆動電圧で駆動することができるように、0.1〜0.5μmとなるようにする。本実施形態1では、上述した通り、空間71は0.3μmとなるように、凹部を形成している。
【0049】
なお、この空間71は、ガラス基板70に凹部を形成する代わりに、前記したシリコン基板100の振動板55部分をシリコン基板100の裏面(図示下側)からエッチングにより空間71が形成される分だけ掘り込んでも良い。この場合、ガラス基板70には凹部を形成することなく、駆動電極72およびそのコンタクトラインをITOにより形成する。
【0050】
以上のようにそれぞれ形成したチャネルプレート50、ガラス基板70および天板60を図5に示したようなサンドイッチ構造となるように陽極接合し、振動板55に形成した不純物拡散層によるコンタクトラインと、ガラス基板70に形成したコンタクトラインとに配線を接続して、インクジェットヘッドが完成する。
【0051】
なお、本実施の形態1においては、チャネルプレート50の材料として、シリコンを用いたが、これ以外に、ガラス、セラミックス、金属、樹脂、感光性樹脂等、加圧室51の基本的な形状を形成することができる材料を用いることも可能である。
【0052】
次に、本実施の形態において使用したインクについて説明する。
本実施形態で使用したインクの組成は、下記表1に示すようなもので、黒(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、およびシアン(C)の4色のインクを使用しており、表に示す通り、染料により各色調整したものであるが、染料に代わり顔料を用いたものであっても良い。なお、このインクの粘度は、20℃で2.0CPである。
【0053】
【表1】
Figure 0004061702
【0054】
図8は、インクジェットプリンタ1の動作を制御する制御系のブロック図である。この図では、特にインクジェットヘッド走査系の動作制御に関する部分を記載してある。
【0055】
図中のプリンタ制御手段90は、インクジェットプリンタ1の動作を総括的に制御する手段である。外部から出力された画像データは、このプリンタ制御手段90からヘッド駆動制御回路92、振動板駆動制御回路93に出力される。
【0056】
電源制御手段91は、プリンタ制御手段90及び後述する振動板駆動制御回路93に電力を供給する手段である。
【0057】
パルスモータ7は、プリントヘッド3(図1参照)をガイド軸6に沿って往復駆動させるモータであり、このパルスモータ7の動作はヘッド駆動制御回路92によって制御される。ヘッド駆動制御回路92は、プリンタ制御手段90の指令によってその動作が制御される。
【0058】
インクジェットヘッド31は、上記のように構成(図5参照)されているヘッドであり、このヘッド31を構成する駆動電極72には振動板駆動制御回路93からのパルス状の電圧が印加される。このパルス状の電圧が印加されている間は前述の振動板55(図5及び図6参照)が駆動電極72側に引かれるように変形し、電圧が印加されなくなると振動板55が元に戻ってインクを飛翔させる。
【0059】
このとき、駆動電極72に印加する電圧の高低によって振動板55の変形量が調整でき、振動板55が備えられている加圧室51(図5)の容積を調整することができる。そして、加圧室51の容積によってインクジェットヘッド31から一度に吐出されるインクの体積(ドロップ体積)を変えることができる。
【0060】
本実施の形態は、インクジェットプリンタ1で行なわれる印字の階調を制御する際に、大径印字時と小径印字時とで放電開始電圧を同じにし、放電終了電圧を変えることでドロップ体積を変更している。なお、この階調制御の詳細な内容は後述するものとする。
【0061】
また、振動板駆動制御回路93には、電源制御手段91から振動板駆動用の電力が供給される。この振動板駆動制御回路93は、プリンタ制御手段90から出力される画像データに基づいて駆動電極72に印加するパルス状の電圧を生成する。
【0062】
以下、この駆動電極72に印加される電圧について具体的に説明する。
図9は、図8に示した振動板駆動制御回路93のより詳細な構成を示す図である。
振動板制御回路93は、駆動電極72に印加する電圧のパルス波形(波形データ)が記憶されているROM933と、一定の周期で信号を発生する発振器(OSC)932と、OSC932が発生する信号を入力し、この信号をROM933に出力する共にカウントするカウンタ931と、カウンタ931から入力する信号に応じて読み出された波形データをアナログ変換するディジタル、アナログコンバータ(D/A)934と、D/A934によって変換された波形データを増幅するアンプ935とを有している。
【0063】
ROM933には、プリンタ制御手段90から出力された画像データが電気的な信号として入力する。ROM933には、例えば図10に示すようなAないしDの波形データが複数記憶されたメモリマップがある。なお、波形データは、インクジェットプリンタ1が表現し得る階調の数だけ備えられているが、ここでは簡単のため、このうちの4個だけを例示するものとする。
【0064】
メモリマップの上位ビットは、画像データのパルスによる波形データの選択(AないしDのひとつ)に使用される(X)。一方、下位ビットは、選択された波形データのトレースに使用されるもので、カウンタ931に接続される(Y)。
【0065】
また、カウンタ931は、外部より印字位置トリガを入力している。この印字位置トリガは、インクジェトヘッド31が記録シート2上で印字を行なうピッチ分移動するごとに発生し、カウンタ931をリセットしている。また、カウンタ931は、カウント値が一定数に達した場合にも自動的にリセットして停止する。
【0066】
画像データによって選択された波形データは、D/A934に出力されてここでアナログ信号に変換される。この際、Oscillator(OSC)932は、D/A934にクロック信号としても(CLK)入力されており、変換された波形データの変換は、OSC932から入力する信号のタイミングでアンプ935に出力し、ここで増幅されてインクジェットヘッド31に出力する。
【0067】
図11(A)〜(D)は、図10のROM933に記憶されている波形データの一例を示した図で、いずれも縦軸に第1電極56と駆動電極72との間に印加される電圧データを、横軸に電圧データを記憶するROM933のアドレスをとっている。図11(A)〜(D)の電圧データは、D/A934によって電圧に変換され、アンプ935によって増幅されて第1電極56と駆動電極72との間に印加される電圧値となる。また、横軸に電圧データを記憶するROM933のアドレスは、OSC932が出力する信号の周期を乗じることによってアドレス時間となる。
【0068】
また、図12は、図11(A)〜(D)の波形データを用いて印字を行なった場合の印字ドット径を説明する図で、縦軸には印字ドット径(図中付着ドットと記す)を、横軸にはインクを吐出前後で駆動電極に印加される電圧の変化分(放電電圧)をとっている。
【0069】
図11(A)〜(D)の波形データは、(A)、(B)、(C)、(D)の順で階調が高くなるよう(画像濃度が濃くなるよう)設定されたもので、図示するように、いずれも第1電極56と駆動電極72との間に階調によらず一定の電圧V2(放電開始電圧)を印加している。そして、この放電開始電圧V2に応じて振動板55が充分に変形するように時間tの間放電開始電圧V2を印加させた状態を保ち、この後放電開始電圧V2を電圧V1(放電終了電圧)まで下げる。この放電終了電圧V1は、階調応じて決定されており、階調がインクのドロップ体積が大きく設定されるものであるほど放電終了電圧V1の値は小さく、放電開始電圧V2−放電終了電圧V1、すなわち放電電圧が大きくなるよう設定されている。
【0070】
また、放電終了後には、駆動電極72に放電終了電圧V1が印加されているが、この放電終了電圧V1は、放電開始電圧V2から放電終了電圧V1への電圧降下速度よりも遅く、放電電圧(放電開始電圧V2−放電終了電圧V1)に応じた異なる速度で0Vにまで下げられる。なお、この放電終了電圧V1から0Vまでの電圧降下速度は、加圧室51内のインクがインク供給室52へ逆流するなどしてノズル54から吐出されないように設定された速度である。
【0071】
そして、図12から明らかなように、(A)〜(D)の波形データでは、(A)、(B)、(C)、(D)の順で印字ドット径が大きくなっていて、放電終了電圧V1が0Vに設定された波形データA(図11(A))で放電電圧が最大(40V)となり、この放電が起こる際に吐出されるインクによって形成されるドット径も最大(90φμm)となる。一方、放電終了電圧V1が最大に設定された波形データD(図11(D))で放電電圧が最小(10V)となり、この放電が起こる際に吐出されるインクによって形成されるドット径も最小(約25φμm)となる。
【0072】
このように、各波形データによって印字される画像は、(A)、(B)、(C)、(D)の順で階調が高くなることになる。また、本実施の形態では、放電電圧を30V変化させることによって印字ドットを25φμmから90φμmまで変化させることができる。
【0073】
以上のように、本実施の形態では、階調によらず一定の放電開始電圧V2が第1電極56と駆動電極72との間に印加されることから、振動板55は常に一定量変形され、加圧室51からインクを飛翔させるのに充分な圧力が得られる量のインクがインク供給室52から加圧室51に流入する。そして、印加した電圧を階調に応じた放電電圧で放電させることにより、放電電圧に応じて振動板55の変形量が減少し、加圧室51の容積が減少する。この容積の減少量に応じたドロップ体積のインクが加圧室51から押し出され、ドロップ体積に見合う径の印字ドットを形成する。
【0074】
次に、以上説明した本実施の形態におけるインクジェットヘッドの駆動回路の具体的な動作をまとめて説明する。
【0075】
まず、図8のプリンタ制御手段90からプリント信号が出力されると、図9のROM933に画像データ信号が入力し、この振幅値に応じて例えば図10に示したAないしDの波形データのうちの1つが選択される。そして、インクジェットヘッド31が印字位置に達すると、カウンタ931からOSC932の発振周波数に応じた信号が一定の時間周期で出力し、出力した信号はROM933、D/A934に入力する。
【0076】
ROM933で選択された波形データは、このカウンタ931から出力する信号のタイミングで読み出され、D/A934に入力する。D/A934では、電源制御手段91から供給された電圧を波形データの値が入力するたびにこの値に変換し、アンプ935に出力する。アンプ935は、D/A934から入力した信号を一定の増幅率で増幅し、インクジェットヘッド31に出力する。
【0077】
インクジェットヘッド31では、アンプ935から入力した信号の電圧値に応じて駆動電極72、第1電極56,72間に電圧を印加する。信号の電圧値がV2に達するまでは、両電極56,72間に働く静電気力によって振動板55が図6のように駆動電極72側に引かれ、振動板55が駆動電極72に接触する。この振動板55の変形に伴い、インクがインク供給室52からインレット53を介して加圧室51に流れ込む。
【0078】
次に、アンプ935からインクジェットヘッド31に入力する電圧値が放電開始電圧V2から放電終了電圧V1まで急激に下がる。このとき、両電極56,72間に働く静電気力が一気に弱まり、振動板55は、自己の復元力で放電開始電圧V2−V1に応じた量もどり、このときの加圧室51の容積変化に応じた量のインクがノズル54から飛翔する。
【0079】
そして、次の飛翔に備え、インクが吐出されないように緩やかに放電終了電圧V1を0Vまで下げ、同様の動作を繰り返す。
【0080】
以上説明した本実施の形態は、階調によらず大径印字時と小径印字時の放電開始電圧(V2)を同じにし、放電終了電圧(V1)を変えることで吐出されるインクのドロップ体積を変え、階調を制御することができる。
【0081】
また、このとき階調によらず常に一定の放電開始電圧V2が振動板と駆動板との間に印加されることで、加圧室でインクの吐出に充分な圧力を得ることができる。また、この放電開始電圧V2を階調に応じた放電終了電圧V1にまで下げることにより、加圧室から押し出されるインク量を調整することができる。したがって、インクはそのドロップ体積によらず充分な圧力を得て飛翔し、着弾位置のばらつきがなくなり、高品質の画像が形成できる。
【0082】
また、本実施の形態は、放電終了後には放電時よりも遅い電圧降下速度で放電終了電圧V1を0Vまで降下させることにより、振動板55が放電終了電圧V1に相当する位置まで復元した後、それ以上インクを吐出することなく振動板55を初期位置に戻すことができ、次の印字に備えることができる。
【0083】
また、本実施の形態は、階調が高いほど駆動電極72の放電電圧を大きく設定することにより、階調が高いほど吐出されるインクのドロップ体積を大きくでき、階調制御を実現することができる。
【0084】
なお、本発明は、このような実施の形態に限定されるものではなく、例えば、図13(B)のように駆動電極72に電圧を印加するものでも良い。なお、図13(A)には、比較参考例として、放電電圧によらず一定の傾きで放電終了電圧V1を降下させた場合を示している。図13(B)のように放電後に一旦放電を停止した場合には、インク液滴の切れが良くなり、いっそう吐出インク量の制御性が高まる。また、インク飛沫による用紙の汚れ等も防ぐことができ、より高画質の画像を形成することができる。
【0085】
さらに、図13(B)のように、放電電圧によらず一度のインク吐出の終了時間を一定に設定した場合には、階調によって印字速度が低下することを防ぎ、高速印字の要請にも応えることができる。
【0086】
【発明の効果】
請求項1記載の発明は、階調、すなわち、加圧室から吐出するインク量によらず常に一定の電圧が駆動電極に印加され、加圧室でインクの吐出に充分な圧力を得ることができる。また、階調に応じた放電電圧で駆動電極に印加された電圧を放電することによって加圧室から押し出されるインク量を調整することができる。
【0087】
したがって、放電開始時の振動板の初期位置(加圧室の容積)が、大径印字から小径印字の間で一致する。このため、常に一定でかつ強い圧力でインクを飛翔させることができ、インク着弾位置のばらつきを低減して高品質の画像を形成することができる。また、請求項1記載の発明は、振動板が放電終了時の電圧に相当する位置まで復元した後、それ以上インクを吐出することなく振動板を初期位置に戻すことができ、次の印字に備えることができる。さらに、放電後に一時的に電圧を一定に保つことによって、インク液滴の切れが良くなり、いっそう吐出インク量の制御性が高まる。また、インク飛沫による用紙の汚れ等も防ぐことができ、より高画質の画像を形成することができる。
【0088】
た、振動板が放電終了時の電圧に相当する位置まで復元した後、それ以上インクを吐出することなく振動板を初期位置に戻すことができ、次の印字に備えることができる。
【0089】
また、記振動板と前記駆動電極との間に印加された電圧が初期状態に戻るまでの時間が、放電電圧によらず一定となるように、前記放電電圧に応じた異なる速度を設定することによって、階調によって印字速度が低下することを防ぎ、高速印字の要請にも応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 インクジェットプリンタの概略構成を説明するための斜視図である。
【図2】 図1に示したヘッドユニットの1色分のプリントヘッドを含むキャリッジ周辺の構成を説明するための斜視図である。
【図3】 図2に示したプリントヘッドを説明するための分解斜視図である。
【図4】 図3に示したチャネルプレートを説明するための上面図である。
【図5】 本実施の形態1におけるインクジェットヘッドの構造を示す断面図である。
【図6】 図5に示した振動板の動作説明に供する図である。
【図7】 図5に示したチャネルプレートの形成工程の説明に供する図である。
【図8】 インクジェットプリンタの動作を制御する制御系のブロック図である。
【図9】 図8に示した振動板駆動制御回路を説明する図である。
【図10】 図9の振動板駆動制御回路に記憶される波形データを例示する図である。
【図11】 (A)〜(D)は、いずれも図10に示した波形データの一例を示した図である。
【図12】 図11(A)〜(D)に示した条件で印字した場合の印字ドット径を説明する図である。
【図13】 (A)は比較参考例を示した図であり、(B)は、図9に示した制御回路から出力される電圧波形の他の例を示した図である。
【符号の説明】
31…インクジェットヘッド、
51…加圧室、
52…インク供給室、
54…ノズル、
55…振動板、
56…第1電極、
71…空間、
72…駆動電極、
90…プリンタ制御手段、
91…電源制御手段、
92…ヘッド駆動制御回路、
93…振動板駆動制御回路。

Claims (1)

  1. 加圧室に設けられた振動板と、当該振動板に対向して設けられた駆動電極とから構成され、前記振動板を静電気力で変形させることによって記加圧室から吐出するインク量を調整し、印字される画像の階調を制御するインクジェットヘッドの駆動装置であって、
    階調によらず一定の電圧を前記振動板と前記駆動電極との間に印加する一方、階調に応じた放電電圧で前記振動板と前記駆動電極との間に印加された電圧を放電する放電データを記憶する放電データ記憶手段と、
    階調に応じて放電データを選択し、選択された放電データに基づいて前記振動板と前記駆動電極間との間に電圧を印加する電圧印加制御手段とを有し、
    前記放電データ記憶手段に記憶される放電データは、前記振動板と前記駆動電極との間に印加された電圧の放電後、一時的に電圧を一定に保った後に、放電時の電圧降下速度よりも遅く、前記放電電圧に応じた異なる速度で前記振動板、前記駆動電極間にかかる電圧を降下させるものであり、
    前記放電電圧に応じた異なる速度は、前記振動板と前記駆動電極との間に印加された電圧が初期状態に戻るまでの時間が、放電電圧によらず一定となるように設定されることを特徴とするインクジェットヘッドの駆動装置。
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