JP3726487B2 - インクジェットヘッドの駆動装置およびインクジェット式記録装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、静電アクチュエータを利用したインクジェットヘッドの駆動装置およびこのインクジェットヘッドとその駆動装置とを設けたインクジェット式記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット式の記録装置に用いられるインクジェットヘッドの形態の一つに、静電アクチュエータを利用したものがある。
【0003】
このような静電アクチュエータを利用したインクジェットヘッドは、インクが吐出されるノズルと連通した加圧室内にインクを導き、この加圧室内に設けられている振動板を一つの電極(第1電極と称する)として、この第1電極と対向する位置にごく僅かな空間を設けて第2電極を配設し、第1電極と第2電極との間に電圧を印加することにより、第1および第2電極間に生じる静電気力によって振動板を変形させて加圧室内の圧力を変化させ、加圧室内に充填されたインクをノズルから液滴として吐出、飛翔させ、記録媒体上にこのインク液滴を着弾させて画像形成に用いているものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような静電アクチュエータを利用したインクジェットヘッドでは、ノズルから吐出させるインク液滴の吐出速度を画像形成に適した速度にする必要がある。もし、インク液滴の吐出速度が低い場合には、インク液滴がノズルから脱出して記録媒体上に着弾するまでの飛翔軌跡にばらつきが生じて着弾位置がずれ、形成された画像にむらができてしまうなどの画質劣化に繋がる。
【0005】
インク液滴の吐出速度と画像との関係は、インクジェットヘッドのノズル先端から、記録媒体までの距離にも関係するが、例えば、ノズルからインク液滴が吐出した時の初速が8m/secである場合、吐出したインク液滴が記録媒体に到達するまでの過程で、4m/sec以下に低下すると、インク液滴の吐出から記録媒体上までの時間差によって記録媒体上の着弾位置がずれてしまい画像むらを生じるものである。特に、インク液滴の径が小さい場合には、吐出時の初速が遅くなり、かつ飛翔中も空気抵抗により速度が低下することが知られており、より速い吐出速度が必要となる。
【0006】
インク液滴の吐出速度を速くしようとした場合には、振動板の変形量を大きくすると良い。ところが、従来のインクジェットヘッドの駆動装置では、インク液滴を吐出させるために、まず、第1および第2電極間に電圧を印加して振動板を加圧室が広がる方向に変形させて、その後で印加した電圧を急激に遮断することで、振動板の元に戻ろうとする力によって、加圧室内の圧力を高めてインク液滴をノズルから吐出させている。このため、画像形成に適した速いインク液滴の吐出速度を得ようとする場合には、第1および第2電極間に印加する電圧を高くして、振動板の変形量を大きくしなければならず、この印加電圧を高くするために必要な回路を構成するための部品コストが高くついてしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の第1の目的は、第1および第2電圧に印加する電圧の絶対値を低くしても、良好な画像を得ることが可能なインク液滴の吐出速度を得ることができるインクジェットヘッドの駆動装置を提供することである。また、本発明の第2の目的は、上記のようなインクジェットヘッドの駆動装置を設けたインクジェット式の記録装置を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、下記する手段により達成される。
【0009】
(1)ノズルと、該ノズルに連通した加圧室と、該加圧室内の圧力を変えるための振動板と、該振動板に設けられた第1電極と、該第1電極と対向する位置に空間を隔てて設けられた第2電極と、を有し、前記第1および第2電極間に電圧を印加することにより前記振動板を変形させることで、前記加圧室内のインクを前記ノズルから液滴として吐出させるインクジェットヘッドを駆動するための駆動装置であって、前記第1および第2電極間に、第1の極性の駆動電圧を印加した後引き続き該第1の極性と逆極性の電圧を印加する振動板駆動手段を有することを特徴とするインクジェットヘッドの駆動装置。
【0010】
(2)前記振動板駆動手段は、前記第1の極性と逆極性の電圧を、前記駆動電圧より絶対値が低い電圧で、かつ、前記駆動電圧印加後この駆動電圧を遮断した時点から所定時間以内に印加することを特徴とするインクジェットヘッドの駆動装置。
【0011】
(3)前記所定時間は、0.1〜10μsecであることを特徴とするインクジェットヘッドの駆動装置。
【0012】
(4)ノズルと、該ノズルに連通した加圧室と、該加圧室内の圧力を変えるための振動板と、該振動板に設けられた第1電極と、該第1電極と対向する位置に空間を隔てて設けられた第2電極と、前記第1および第2電極間に、第1の極性の駆動電圧を印加した後引き続き該第1の極性とは逆極性の電圧を印加する振動板駆動手段と、を有し、前記振動板駆動手段によって印加された電圧により前記振動板を変形させることで、前記加圧室内のインクを前記ノズルから液滴として吐出させて記録媒体上に画像形成することを特徴とするインクジェット式記録装置。
【0013】
(5)前記振動板駆動手段は、前記第1の極性と逆極性の電圧を、前記駆動電圧より絶対値が低い電圧で、かつ、前記駆動電圧印加後この駆動電圧を遮断した時点から所定時間以内に印加することを特徴とするインクジェット式記録装置。
【0014】
(6)前記所定時間は、0.1〜10μsecであることを特徴とするインクジェット式記録装置。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、添付した図面を参照して、本発明の一実施の形態を説明する。
【0016】
実施形態1
図1は、本実施形態1において使用したインクジェットヘッドの構造を示す断面図である。
【0017】
このインクジェットヘッド31は、図示側面側に設けられているノズル54、ノズル54からインクを吐出させるためにその内圧を可変する振動板55を備えた加圧室51、加圧室51へインクを供給するためにインクを蓄えておくインク供給室52、インク供給室52内のインクを加圧室51へ導くインレット53、および振動板55に設けられた第1電極56と対向する位置に空間71により隔てられた第2電極である駆動電極72からなる。
【0018】
第1電極56と駆動電極72との間の空間71は、本実施形態1では0.3μmとしている。また、振動板55に設けられている第1電極56は、後述するようにホウ素を拡散することによって形成した不純物導電層である。この第1電極56は、本実施形態1ではアースされており、また、駆動電極72は配線80によって、後述する駆動回路からの電圧が印加されるようになっている。
【0019】
そして、この第1電極56および駆動電極72との間に電圧を印加することにより、振動板55を変形して、加圧室51内の圧力を変えることでインク液滴をノズル54から吐出させている。
【0020】
図2は、インク液滴を吐出させる際の振動板55の動きを示す図面である。インク液滴の吐出は、まず、第1電極56と駆動電極72との間に電圧を印加して、図2Aに示すように、駆動電圧を印加したことによって生じる静電気力によって振動板55を駆動電極72側に引き付ける。これにより、図示点線で示すように振動板55が駆動電極72側に撓み変形する。このときインク供給室52内のインクがインレット53を通り加圧室51内に流入する。なお、本実施形態1では、振動板55に形成した第1電極56をアースとしているので、駆動電圧は、駆動電極72に+の電位を印加している。この駆動電圧により振動板55に作用する力F1は、F1=1/2・{εrεoS(V/d)2 }(ただし式中、εrは第1電極および第2電極(駆動電極)間の比誘電率、εoは真空の比誘電率、Sは電極の面積、Vは電圧、dは第1電極および第2電極(駆動電極)間の長さである)により算出される。
【0021】
そして、本実施形態1では、後述する駆動回路の制御により、駆動電圧を印加した直後、駆動電圧を遮断した後、所定時間内に逆極性の電圧を第1電極56と駆動電極72の間に印加する(本実施形態1では−の電位を駆動電極72に印加する)。この逆極性の電圧の印加により、前記駆動電圧の印加によって、駆動電極72側に引き付けられていた振動板55が、図2Bに示すように、駆動電圧の遮断により振動板55自体の回復力によって戻るとほぼ同時に逆極性の電圧印加によって、図示点線で示すように、さらに駆動電極72から離れる方向に変形する。このように、駆動電圧を遮断したのみならず、逆極性の電圧を印加したことで、振動板55は、単に駆動電圧を遮断しただけのときより、さらに急激に加圧室51の内部側に変形して加圧室51内の圧力が従来よりも高くなるため、その分、インク液滴の吐出速度を速くすることができるのである。
【0022】
このような逆極性の電圧の印加により、振動板55が駆動電極72から離れる方向にさらに変形するのは、振動板55の第1電極56と駆動電極72が空間71により隔てられたコンデンサとして作用し、始めの駆動電圧(ここでは+極性)の印加によって、振動板55には、図3に示すように、駆動電極側に−、その反対側に+の電荷が帯電し、これが駆動電圧の遮断後も残留するため、駆動電圧の遮断後、所定時間内に逆極性(ここでは−極性)の電圧を印加ことにより振動板55と駆動電極72との間に斥力F2が発生し、これにより振動板55が、電圧を印加しない状態よりさらに駆動電極72から離れる方向、すなわち、加圧室51内部にまで変形するのである。
【0023】
次に、このような振動板55の変形動作を制御する駆動回路について説明する。
【0024】
図4は、駆動回路の構成を示す回路ブロック図である。
【0025】
この駆動回路200は、インクジェットヘッドの振動板55を動作させるために駆動電極72に印加する電圧パルスを作り出す振動板駆動手段として機能する。
【0026】
この駆動回路200の具体的な構成は、図4に示すように、端子VINからインクドットを記録媒体に記録するための信号であるプリント制御信号が入力され、このプリント制御信号のパルスを検出して、その立ち下がりから一定時間経過後に信号を出力する遅延回路201と、遅延回路201の信号を受けて、プリント制御信号のパルス電圧と逆極性のパルス電圧を発生する逆極性パルス発生回路202と、プリント制御信号パルスと逆極性パルスから後述するような印加パルス波形を作り出す充放電回路203および反転回路204と、形成された印加パルス波形を反転して増幅する反転増幅回路205とからなる。反転増幅回路205の出力端子Vhからの出力は、前述したインクジェットヘッド31の駆動電極72と接続された配線80に接続されている。
【0027】
図5は、この駆動回路200各部の電圧波形を示す図面である。まず、この駆動回路200の端子VINに入力されるプリント制御信号は、図5Aに示すように、電圧値+5Vの矩形波である。そして、遅延回路201では、プリント制御信号パルスの立ち下がりを検出した後、一定時間T0後に信号を出力して、逆極性パルス発生回路202がこの信号を受けて、−3Vの矩形波の逆極性パルス信号を出力する。これらプリント制御信号と逆極性パルス信号は、駆動回路200内のポイントVの位置で、図5Bに示すように、+5Vのプリント制御信号と−3Vの逆極性パルス信号が時間T0(ここでは5μsec)により隔てられた連続した信号となる。
【0028】
このポイントVに現れる信号を充放電回路203と反転回路204を介することにより、ポイントV0において、図5Cに示すように、駆動電極72に印加するための波形として、始めに徐々に立ち上がり、急峻に立ち下がる波形と、急峻に立ち上がり徐々に立ち下がる波形が連続した信号となって現れる。
【0029】
そして、このポイントV0の信号が反転増幅回路205により反転されて増幅されることによりポイントVhにおいて、前記ポイントV0における波形と同じ形状で極性が逆転して増幅された、図5Dに示す波形として出力される。この出力信号が駆動電極72に印加される。ここでは、この出力信号のうち、始めの+18Vの電圧パルスを駆動電圧、その後の−8Vの電圧パルスを逆極性の電圧と称している。
【0030】
このような波形の信号により、始めに駆動電圧が駆動電極72に印加されることで、振動板55が駆動電極72側に引き付けられて、その後この駆動電圧が急激に遮断され、引き続き急激に逆極性の電圧が印加されることになり、振動板55を駆動電極72から反発される方向に急激に変位させることができる。
【0031】
このような駆動回路200により前述したインクジェットヘッド31を駆動してインク液滴を吐出させたとき、インク液滴の吐出時の初速は12m/secであり、インク液滴が記録媒体上の着弾位置に到達するまでの間の飛翔中速度が8m/sec以上となり、画像劣化の生じることのないインク液滴の飛翔速度、すなわち、飛翔中の速度として4m/secを越える速度、好ましくは5m/sec以上の速度を得ることができる。なお、従来の駆動装置、すなわち、駆動電圧に対して逆極性の電圧を印加しない駆動装置により、同じ飛翔速度を得ようとした場合には、振動板55を駆動電極72と接触するまで変位にさせる必要があり、このためには駆動電圧を31V程度印加しなければならず、これは、前記した本実施形態1の駆動回路による駆動電圧18V(図5参照)より大きく、したがって、本発明を適用することにより、駆動回路が出力する電圧の絶対値を大幅に下げることができたものである。
【0032】
なお、前記遅延回路201によってプリント制御信号の立ち下がりを検出した後の一定時間T0、すなわち、駆動電圧を遮断してから逆極性の電圧を印加するまでの時間は、本実施形態1では、図5Bに示したように、5μsecとしている。このT0の時間は、これに限らず振動板55と駆動電極72との間で十分な斥力を発生させるような時間であれば良く、例えば、その時間は0.1〜10μsecが好ましい。これは、駆動電圧による変形量にもよるが、0.1μsec未満である場合には、振動板55が元の位置に戻るのに必要な時間より短いため、振動板55の復元中に斥力を与えることになりエネルギーのロスが生じて好ましくない(復元後に斥力を与える方がロスが少なくてすむ)。一方、10μsecを越える程長い場合には、これも駆動電圧による変形量によるが、10μsecを越える場合、振動板55が復元位置(元の位置)を越えてさらに1回振幅してしまう時間より長くなり、1振幅後に元の位置に戻るタイミングで斥力を与えることになり、エネルギーのロスが発生して好ましくない。さらに、10μsecを越える場合、図3で説明したような残留した電荷が徐々に消失し、斥力の源となる静電気力が小さくなり好ましくない。
【0033】
次に、前述したインクジェットヘッドの製造方法について簡単に説明する。
【0034】
上記本実施形態1において用いたインクジェットヘッド31は、いわゆる半導体装置製造プロセスやマイクロマシーン製造プロセスなどを利用して製造させるものであり、その方法は様々であるが、ここでは、その一例について説明する。なお、ここで説明した製造方法以外の方法により製造されたインクジェットヘッドであっても本発明による駆動装置によって駆動できることは言うまでもない。
【0035】
図1に示したインクジェットヘッド31は、3つの構成要素からなり、図1を参照すれば、加圧室51、インク供給室52、インレット53、ノズル54、および振動板55からなるチャネルプレート50と、このチャネルプレート50の図示上側を覆う天板60と、チャネルプレート50に設けられている振動板55の対向する位置に空間71を設けて駆動電極72を配置するためのガラス基板70とからなる。
【0036】
まず、チャネルプレート50の形成について説明する。チャネルプレート50の形成には、予め200μm程度にラッピングしたシリコン基板を使用して、図6Aに示すように、シリコン基板100の全面に、熱酸化法により酸化膜101を形成する。そして、シリコン基板100の図示上側表面の酸化膜101に、公知のフォトリソグラフィーおよびドライエッチングによって、加圧室51、インク供給室52、インレット53およびノズル54の形状を規定するための開口を設け、図6Bに示すように、エッチングマスク101aとする。
【0037】
次に、パターニングされた酸化膜101により形成されたエッチングマスク101aを有するシリコン基板100をKOH溶液により異方性エッチングする。ここで使用したシリコン基板100は、基板表面が(110)面または(100)面を有するものである。このKOH溶液による異方性エッチングは、シリコン基板の(111)面が露出することにより自動的にエッチングが停止するため、前記エッチングマスク101aの形成時において、ノズル54やインレット53となる部分の開口の大きさを調整することにより、これらの部分におけるエッチング深さを所望の深さとすることができる。また、加圧室51およびインク供給室52の深さは、これらの部分の開口の大きさと共に、エッチング時間を調整することで、振動板55となる部分の厚さが6.5μm程度となるようにする。このKOH溶液によるエッチングによって、加圧室51、インク供給室52の側壁部分は(111)面が露出することにより、適度なテーパが形成される。その後、エッチングマスクとして使用した酸化膜は除去する。
【0038】
このようにして、図6C、および図7に示すように、加圧室51、インク供給室52、インレット53、ノズル54、さらに振動板55がシリコン基板100に形成される。ここで形成したチャネルプレート50には図7に示されているように、複数の加圧室と複数のノズルが形成されていて、1つのヘッドから複数のインク液滴を吐出させることができるようになっている。なお、図7は加圧室51、インク供給室52、インレット53、ノズル54などが形成されたシリコン基板表面の平面図であり、図6は、図7のA−A線に沿った断面を工程順に示した図面である。
【0039】
そして、このシリコン基板100の裏面側に、振動板55とこの振動板55部分に形成される第1電極56と電気的なコンタクトをとるための部分(不図示)が開口したレジストパターンをフォトリソグラフィーにより形成し、振動板55とコンタクト部分にホウ素をイオン注入して、図6Cに示したように、第1電極56およびコンタクトラインとなる不純物拡散層を形成する。その後、熱酸化工程により、シリコン基板100の全面に酸化膜を形成することで、振動板55の表面(シリコン基板の裏面側)に絶縁膜57を形成する。この絶縁膜57は、駆動電極72との短絡を防止するためである。
【0040】
次に、駆動電極72を設けたガラス基板70の形成について説明する。このガラス基板70には、ホウケイ酸ガラス基板を使用して、図1に示した状態に接合されたときに、チャネルプレート50の振動板55が位置する部分に所定の深さの凹部をエッチングにより形成し、この凹部内とこの凹部から連なるコンタクトラインを形成するためにITO膜を成膜して、リフトオフにより、凹部内に駆動電極72、ガラス基板表面にこの駆動電極72と接続されるコンタクトラインを形成する。このとき、複数の加圧室とノズルを有するヘッドの場合には、各加圧室ごとに駆動電極とそれぞれのコンタクトラインを形成する。
【0041】
その後、電極が形成された面全面にSiFH膜を約1μm成膜する。このSiFH膜は、パターン化せず、基板全面に設けて保護膜とするもので、これにより、周囲の湿度の影響による駆動電極の劣化を防止する。
【0042】
前記凹部を形成する際の深さは、駆動電極72を形成したときに、空間71における第1電極56(絶縁膜表面)から対向する駆動電極72(SiFH膜表面)までの間隔が0.1〜1μm、好ましくはより低い駆動電圧で駆動することができるように、0.1〜0.5μmとなるようにする。本実施形態1では、上述した通り、空間71は0.3μmとなるように、凹部を形成している。
【0043】
なお、この空間71は、ガラス基板70に凹部を形成する代わりに、前記したシリコン基板100の振動板55部分をシリコン基板100の裏面(図示下側)からエッチングにより空間71が形成される分だけ掘り込んでも良い。この場合、ガラス基板70には凹部を形成することなく、駆動電極72およびそのコンタクトラインをITOにより形成する。
【0044】
次に、天板60は、同じくホウケイ酸ガラス基板を使用して、加圧室52上部にインクカセットからのインクを導入させるためのインク供給口(不図示)を形成したものである。
【0045】
以上のようにそれぞれ形成したチャネルプレート50、ガラス基板70および天板60を図1に示したようなサンドイッチ構造となるように、陽極接合し、振動板55に形成した不純物拡散層によるコンタクトラインと、ガラス基板70に形成したコンタクトラインにそれぞれ配線を接続して、インクジェットヘッドが完成する。
【0046】
次に、本実施形態1において使用したインクについて説明する。
本実施形態で使用したインクの組成は、下記表1に示すようなもので、黒(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、およびシアン(C)の4色のインクを使用しており、表に示す通り、染料により各色調整したものであるが、染料に代わり顔料を用いたものであっても良い。
【0047】
【表1】
【0048】
実施形態2
本実施形態2は、インクジェットヘッドの構造が前述した実施形態1において示した図1の構造と異なるのみであり、駆動装置の構成は実施形態1と同様である。
【0049】
図8は、本実施形態2において使用したインクジェットヘッドの構成を示す断面図である。
【0050】
このインクジェットヘッド32は、インク液滴を吐出させるノズルの位置を図示上側に設けた以外は、その他の基本的な構成は実施形態1において使用したインクジェットヘッド31と同様である。すなわち、このインクジェットヘッド32は、図示上側に設けられているノズル58、ノズル58からインクを吐出させるためにその内圧を可変する振動板55を備えた加圧室51、加圧室51へインクを供給するためにインクを蓄えておくインク供給室52、インク供給室52内のインクを加圧室へ導くインレット53、および振動板55に対向する位置に空間71により隔てられた駆動電極72からなる。そして、実施形態1同様に、振動板55には、ホウ素を拡散することによって形成した第1電極56が形成されていて、この第1電極56および第2電極である駆動電極72との間に電圧を印加することにより、振動板55を変形して、加圧室51内の圧力を変えることでインク液滴をノズル58から吐出させている。このインクジェットヘッド32は実際の使用時においては、ノズル58が下向きとなって使用される。
【0051】
なお、このようなインクジェットヘッド32の製造は、天板60にノズル58を公知のNi電鋳法で形成し、また、ガラス基板70側からインク供給口90を形成した以外は、前述したインクジェットヘッド31の製造と同様である。
【0052】
このように、ノズル58の位置を図示上側、すなわち、振動板55と対向する位置に設けたことにより、振動板55の変形による加圧室51内のインク水頭圧(圧力)がインク吐出方向と同じ方向となるため、インク吐出の際の手助けとなり前述した実施形態1の構造より、少ない振動板55の変形量で、同じ吐出速度を得ることができる。また、このように振動板55と対向する位置にノズル58を設けたことにより、1つのヘッドに複数のノズルを設けた場合、各ノズルにかかる圧力が均等となる。
【0053】
このインクジェットヘッド32を、前述の実施形態1において説明した駆動回路200と同様の駆動回路によって、実施形態1のときと同じ吐出速度によりインク液滴を吐出させる場合、逆極性の電圧を実施形態1と同じく8Vととしたとき、この逆極性の電圧印加に先立ち駆動電極72に印加する駆動電圧は15Vで済む。したがって、このように振動板55と対向する位置にノズルを設けることで、より駆動電圧の絶対値を下げることが可能となる。
【0054】
実施形態3
本実施形態3は、本発明のインクジェット式記録装置であって、上述した実施形態1のインクジェットヘッドとその駆動回路を用いたインクジェットプリンタである。
【0055】
図9は、インクジェットプリンタ1の概略構成を説明するための斜視図である。
【0056】
インクジェットプリンタ1は、用紙やOHPシートなどの記録媒体である記録シート2に印字するものであって、インクジェットヘッド走査系と記録シート送り系とから構成される。
【0057】
インクジェットヘッド走査系は、インクジェット方式のプリントヘッドを単色、あるいは複数色(例えば3色、4色、または7色など)分含むヘッドユニット3と、ヘッドユニット3を保持するキャリッジ4と、キャリッジ4を記録シート2の記録面に平行に往復移動させるためのスキャンシャフト5及びガイド軸6と、キャリッジ4をガイド軸6に沿って往復駆動するパルスモータ7と、パルスモータ7の回転をキャリッジ4の往復運動に変えるためのアイドルプーリ8、タイミングベルト9とから構成される。
【0058】
一方、記録シート送り系は、記録シート2を搬送経路に沿って案内するガイド板を兼ねるプラテン10と、プラテン10との間の記録シート2を押さえて浮きを防止する紙押さえ板11と、記録シート2を排出するための排出ローラ12、排紙押さえローラ13と、ヘッドユニット3のインクを吐出するノズル面を洗浄しインク吐出不良を良好な状態に回復させるメンテナンス装置14と、記録シート2を手動で搬送するための紙送りノブ15とから構成される。
【0059】
記録シート2は、図示しない手差しあるいはカットシートフィーダ等の給紙装置によって、ヘッドユニット3とプラテン10とが対向する記録部へ送り込まれる。この際、図示しない紙送りローラの回転量が制御され、記録部での搬送が制御される。紙送りローラは図示しない紙送りモータにより駆動されている。
【0060】
ヘッドユニット3のプリントヘッドには、既に詳細に説明した実施形態1のインクジェットヘッド31を用いており、このインクジェットヘッド31から吐出したインク液滴が記録シート2に着弾して画像形成が行われる。なお、プリントヘッドには、実施形態1のインクジェットヘッド31に代えて、実施形態2のインクジェットヘッド32を用いても良い。
【0061】
キャリッジ4は、パルスモータ7、アイドルプーリ8、タイミングベルト9により、記録シート2を横方向に走査(主走査)し、キャリッジ4に取り付けられたヘッドユニット3は1ライン分の画像を記録する。1ライン分の記録が終わるごとに、記録シート2は縦方向に送られ(副走査)、次のラインへの記録がされる。
【0062】
このようにして記録シート2に画像が記録され、記録部を通過した記録シート2は、その搬送方向下流側に配置された排出ローラ12とこれに一定の圧力で接する排紙押さえローラ13とによって排出される。
【0063】
図10は、図9に示したヘッドユニット3の1色分のインクジェットヘッド31を含むキャリッジ4周辺の構成を説明するための斜視図である。
【0064】
キャリッジ4周辺には、インクを収容し通気口404を有するインクカートリッジ403と、インクカートリッジ403を収納するケーシング401、ケーシング蓋405と、インクカートリッジ403を着脱可能にしつつインクをインクジェットヘッド31に供給するインク供給管402と、ケーシング蓋405を閉じた際ケーシング401にケーシング蓋405を固定するためのフック406、蓋止め407と、インクカートリッジ403を収納する向き(矢印D3の向き)とは反対の向きにインクカートリッジ403を付勢しつつインクカートリッジ403をケーシング蓋405との間でケーシング401内に保持する押さえバネ408とが設けられる。
【0065】
このような構成のキャリッジ4がスキャン方向(矢印D1の向き)に移動することによって記録シート2は主走査されることになる。また、記録シート2が送られることによって副走査方向(矢印D2の向き)に印字されることになる。
【0066】
図11は、このインクジェットプリンタの制御系の構成を示すブロック図である。
【0067】
インクジェットプリンタの制御系は、各部に対して必要な電圧の電力を供給する電源制御回路21と、図示しないコンピュータなどからのプリントデータを受信して、記録シート上に画像形成を行う際に、各部を制御するプリント制御回路22と、プリント制御回路22からの信号によりインクジェットヘッド31を駆動する駆動回路200と、プリント制御回路22からの信号によりパルスモータ7や紙送りモータ(不図示)を駆動する装置駆動制御回路23よりなる。
【0068】
ここでプリンタ制御回路22は、図示しないコンピュータなどからのプリントデータを受信し、受信したプリントデータにしたがった画像を記録シート2上に再現するために、紙送りやプリンタヘッド3の送り量を制御すると共に、これらの動きに合わせて、画像を記録するためのインクをインクジェットヘッド31から吐出させるためのプリント制御信号を駆動回路200に対して出力する。
【0069】
駆動回路200は、前述した実施形態1において説明した駆動回路200であり、プリント制御回路22からのプリント制御信号を受けて、実施形態1において説明したように、駆動電圧と、これと逆極性の電圧をインクジェットヘッド31の駆動電極72(図1参照)に印加する。
【0070】
このように、インクジェットプリンタに実施形態1(または2)において説明したインクジェットヘッドおよびその駆動回路を用いることにより、インクジェットヘッドの駆動のための電圧の絶対値が小さくてすむため、インクジェットヘッドの駆動回路を構成するための部品に、その耐圧が従来より低いものを使用することが可能となるため、インクジェットプリンタのコストを低減することができる。
【0071】
【発明の効果】
以上説明した本発明によれば、請求項ごとに以下のような効果を奏する。
【0072】
請求項1記載の本発明によれば、インクジェットヘッドを駆動するための電圧として、インクジェットヘッドの第1および第2電極間に、駆動電圧を印加して、これを遮断した後、引き続き駆動電圧と逆極性の電圧を印加することとしたので、最初に印加する駆動電圧を低くしても、次に逆極性の電圧を印加することで、より大きく振動板を変形することができるようになり、良好な画像形成に十分なインク液滴の吐出速度を得ることができる。したがって、同じインク液滴の吐出速度を得る場合には、単に駆動電圧を遮断しただけでインクを吐出させる従来の駆動装置と比較して、必要とする電圧の絶対値を低くすることが可能となり、駆動装置を構成する部品耐圧が低くてもよくなるので、駆動装置のコストを低減することが可能となる。
【0073】
請求項2記載の本発明によれば、前記第1の極性と逆極性の電圧を、駆動電圧より低い電圧で、かつ、駆動電圧印加後この駆動電圧を遮断した時点から所定時間以内に印加することとしたので、この逆極性の電圧印加のために部品耐圧の高いものを必要とせず、また、所定時間以内に印加することで、十分な振動板の変位を起こすことができる。
【0074】
請求項3記載の本発明によれば、前記所定時間を0.1〜10μsecとしたので、始めに印加する駆動電圧により第1電極に生じた電荷が消失する前に逆極性の電圧が印加されることになるので、第1および第2電極間に振動板を変位させるのに十分な斥力を発生させることができる。
【0075】
請求項4記載の本発明によれば、インクジェットヘッドを駆動するための電圧として、インクジェットヘッドの第1および第2電極間に、駆動電圧を印加して、これを遮断した後、引き続き駆動電圧と逆極性の電圧を印加することとしたので、最初に印加する駆動電圧を低くしても、次に逆極性の電圧を印加することで、より大きく振動板を変形することができるようになり、良好な画像形成に十分なインク液滴の吐出速度を得ることができる。したがって、同じインク液滴の吐出速度を得る場合には、単に駆動電圧を遮断しただけでインクを吐出させる従来の駆動装置と比較して、必要とする電圧の絶対値を低くすることが可能となり、記録装置内の振動板駆動手段を構成する部品として耐圧の低いものを使用することができるようになり、部品コストの低減が可能となる。
【0076】
請求項5記載の本発明によれば、前記第1の極性と逆極性の電圧を、駆動電圧より低い電圧で、かつ、駆動電圧印加後この駆動電圧を遮断した時点から所定時間以内に印加することとしたので、この逆極性の電圧印加のために部品耐圧の高いものを必要とせず、また、所定時間以内に印加することで、十分な振動板の変位を起こすことができ、良好な画像の記録を行うことができる。
【0077】
請求項6記載の本発明によれば、前記所定時間を0.1〜10μsecとしたので、始めに印加する駆動電圧により第1電極に生じた電荷が消失する前に逆極性の電圧が印加されることになるので、第1および第2電極間に振動板を変位させるのに十分な斥力を発生させ、良好な画像の記録に必要なインク液滴の吐出速度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施形態1のインクジェットヘッドの構成を示す断面図である。
【図2】 振動板の動きを説明するための図面である。
【図3】 振動板の動作原理を説明するための図面である。
【図4】 本発明を適用した駆動回路の構成を示す回路ブロック図である。
【図5】 駆動回路内各部での出力波形を示す図面である。
【図6】 インクジェットヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】 インクジェットヘッド内のチャネルプレートの平面図である
【図8】 実施形態2のインクジェットヘッドの構成を示す断面図である。
【図9】 インクジェットプリンタの概略構成を説明するための斜視図である。
【図10】 インクジェットプリンタのキャリッジ周辺の構成を説明するための斜視図である。
【図11】 インクジェットプリンタの制御系の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
31…インクジェットヘッド、
51…加圧室、
52…インク供給室、
53…インレット、
54,58…ノズル、
55…振動板、
56…第1電極、
71…空間、
72…駆動電極、
200…駆動回路、
201…遅延回路、
203…逆極性パルス発生回路、
204…充放電回路、
205…反転回路、
206…反転増幅回路。
Claims (6)
- ノズルと、該ノズルに連通した加圧室と、該加圧室内の圧力を変えるための振動板と、該振動板に設けられた第1電極と、該第1電極と対向する位置に空間を隔てて設けられた第2電極と、を有し、前記第1および第2電極間に電圧を印加することにより前記振動板を変形させることで、前記加圧室内のインクを前記ノズルから液滴として吐出させるインクジェットヘッドを駆動するための駆動装置であって、
前記第1および第2電極間に、第1の極性の駆動電圧を印加した後引き続き該第1の極性と逆極性の電圧を印加する振動板駆動手段を有することを特徴とするインクジェットヘッドの駆動装置。 - 前記振動板駆動手段は、前記第1の極性と逆極性の電圧を、前記駆動電圧より絶対値が低い電圧で、かつ、前記駆動電圧印加後この駆動電圧を遮断した時点から所定時間以内に印加することを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドの駆動装置。
- 前記所定時間は、0.1〜10μsecであることを特徴とする請求項2記載のインクジェットヘッドの駆動装置。
- ノズルと、該ノズルに連通した加圧室と、該加圧室内の圧力を変えるための振動板と、該振動板に設けられた第1電極と、該第1電極と対向する位置に空間を隔てて設けられた第2電極と、前記第1および第2電極間に、第1の極性の駆動電圧を印加した後引き続き該第1の極性とは逆極性の電圧を印加する振動板駆動手段と、を有し、
前記振動板駆動手段によって印加された電圧により前記振動板を変形させることで、前記加圧室内のインクを前記ノズルから液滴として吐出させて記録媒体上に画像形成することを特徴とするインクジェット式記録装置。 - 前記振動板駆動手段は、前記第1の極性と逆極性の電圧を、前記駆動電圧より絶対値が低い電圧で、かつ、前記駆動電圧印加後この駆動電圧を遮断した時点から所定時間以内に印加することを特徴とする請求項4記載のインクジェット式記録装置。
- 前記所定時間は、0.1〜10μsecであることを特徴とする請求項5記載のインクジェット式記録装置。
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