JP4059152B2 - 弾性表面波共振子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水晶等の圧電体平板上に、レイリー型とかSTW(Surface Transversal Wave)型の弾性表面波を利用して、振動エネルギーを格段に共振子の中央に集中してQ値及びCI値を向上した、新しい形式のいわゆるエネルギー閉込型の弾性表面波共振子(以降省略して、SAW共振子と称する)に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、圧電気を有する水晶STカット基板(圧電体平板の一例)を用いて構成するSAW共振子は、その周波数温度特性が零温度係数をもち精度が良いために、各種高速ネットワーク系のデータ伝送用水晶発振器の発振素子として使用されているが、これはジッタが無く位相ノイズに優れた信号が高信頼性かつ低コストに容易に得られるという長所があるためである。
しかしながら近年、前記のネットワーク系の信号伝送速度がGHz帯にまで高速化するとともに、より高精度な水晶発振器が求められるに至っている。そこで最近注目されて来たものとして、前記STカットの精度±100ppm(0〜70℃範囲)に対して、約半分(精度±50ppm)の周波数温度特性が得られる回転STカット水晶板を用いたSAW共振子がある(特許文献1参照)。前記の基板は、レイリー型弾性表面波を利用している。
【0003】
このような回転STカット水晶板(以降、Rotated ST-CUTからR-ST基板と称する)について、図13にその方位を示す。図中の1302が水晶結晶の基本軸である電気軸X,1303が機械軸Y,1304が光軸Zであり、R-ST基板は、1301で示すY板を電気軸X回りにθ度(特に零温度係数が得られるθ=31度から42度)回転した基板1300において、さらに前記基板(1300と1307は同一)での電気軸X軸(=素子のy軸)からの面内の回転角Ψ=±(40〜46)度方位を使用する弾性表面波の位相伝播方位(X'=素子のx軸)としたものである。
【0004】
R-ST基板を利用したSAW共振子1306については、後述の図5ようにx軸に沿って形成される。例えば金属アルミニウムからなる多数の平行導体の電極指を周期的に配置したすだれ状電極(以下略してIDT:Interdegital Transducerと称す)を形成し、さらにその両側に一対の反射器を多数のストリップ形状からなる電極導体を平行にかつ周期的に配置して構成し、1ポート型のSAW共振子を形成できる。
【0005】
より詳細には、例えば良く知られたSTカット(θ=31から42度であり、弾性表面波の位相伝播方向が電気軸(X軸)方位)におけるSAW共振子においては、前記IDTを構成する際の要点として、正電極と負電極を1対としてM対としたときに、IDTの電極指全体でのトータル反射係数Гを次式(1)の通り定義した上で、10>Г>0.8とすれば、振動エネルギーが共振子の中央に集中した、いわゆるエネルギー閉込型SAW共振子(非特許文献1:エネルギー閉じ込め弾性表面波共振子,信学技法US87−36,pp9−16(1987.9.))を実現できることが知られている。
【0006】
[数1]
Г = 4MbH/λ (1)
但し、ここでMは前記IDTの対数、bは電極1本当たりの弾性表面波の反射係数率、Hは前記導体の膜厚、λは利用する弾性表面波の波長である。
【0007】
例えば、STカット水晶板で前記アルミニウム導体で形成されたIDTであれば、b=0.255、H/λ=0.03(3%)としてM=80対とすれば、QおよびCI特性が良好な従来型の1ポート型SAW共振子を構成できる。このとき前記Γ=2.448程度となる。なお一般的に言われている電極1本当りの反射係数γは、このSTカット水晶板の場合、前述の式(1)からγ=b(H/λ)=Г/(4M)=0.00765(0.76%)となる。
【0008】
また、前述のエネルギー閉じ込め型弾性表面波共振子の振動変位の状態を、最近開発した計算手法により計算してみると、図2のような状態にあることがわかった。前記の振動変位とは、時間とともに周期的に定常振動する振幅変位の最大値を結んだ包絡線振幅U(x)のことである(図中201)。図2において、横軸は両側2個の反射器とIDTから構成されるSAW共振子の電極1本のなす線幅の中央位置(節点)の位置座標を示し、縦軸については、左側は前記U(x)の相対値を、右側は前記U(x)の最大値であるUmax=3.3によって、前記U(x)を規格化したN(x)=U(x)/Umaxの値を示す。また図2の上部に示した0から1の座標は、IDTの前記位置座標をIDTの全長にて規格化した座標値であって、片方の端を0、もう一方の端を1としてある。従来のSAW共振子における前記の規格化振幅N(x)は、IDT領域の中央位置である全長の1/2において、N(x)=1であり、1/4と3/4において0.78をとり、IDTの両端0、1において0.30の値をとる余弦関数状の滑らかな関数であることがわかった。この関数の形を後述のためにN0(x)とおいて標準型と呼ぶことにする。また本願の主題である、N0(x)よりさらにエネルギの中央集中度を増すアイデア的検討結果は、本願発明者等の文献である特開平10-335966公報において提示したが、ここではまだ定量化されて詳細かつ実用的具体例としては記述されるに至っていなかった。
【0009】
【特許文献1】
特開昭57−73513公報
【特許文献2】
特開平10−335966公報
【非特許文献1】
信学技法US87−36,pp9−16(1987.9)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述の従来技術を使用し、同一のSAW共振子の構成をとっても、本願の主題であるR-ST基板を利用したSAW共振子においては、従来と同等な高いQ値と、水晶発振器に使う上で、適切に低いCI値(等価直列抵抗R1)が得られないという問題点を有していた。
【0011】
この原因は、STカットにて利用されるレイリー波(縦波と横波の合成)に対して、R-ST基板での前記反射係数γが約半分と小さいことにより、前記Гを同一値に保つためには、前記IDTの対数Mと反射器の導体本数Nが約2倍必要となるためである。従って、同一の素子サイズでは、Q値低下、CI値の増大となり、小型化が困難であるという問題点があきらかになった。
【0012】
そこで本発明は、前記の筆者等の文献である特開平10-335966号公報(特許文献2)の手法をさらに発展させて、このような問題点を解決するものである。
【0013】
その目的とするところは、R-ST基板を利用し、周波数温度特性が優れかつ材料のQ値が優れた水晶基板を用いてSAW共振子を構成し、さらにこれを用いて小型で高Q値なSAW共振子を実現して、これ等を使用した低ジッタかつ低位相ノイズなクロック信号源であるSAW発振器および電圧制御型SAW発振器をギガビット系の高速有線通信市場に提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の弾性表面波共振子は、圧電体平板上の伝播方向xに弾性表面波を励振する1個のすだれ状電極とその伝播方向両側に配置した1対の反射器とからなる弾性表面波共振子において、
前記すだれ状電極が、3つの領域に区分されかつ、各領域の前記すだれ状電極の電極指を2%以内で異なる一定の周期長で形成して、単峰性の共振特性を有し、
前記のすだれ状電極領域における振動変位包絡線振幅の規格化した形が、中央位置において最大値1をとり、両端から1/4の位置において、0.33から0.53の範囲、両端位置において0.048から0.177範囲の値を滑らかにとる形状であり、
前記3つの領域に区分されたすだれ状電極の配列周期長について、両側に配置したすだれ状電極の配列周期長PTs、中央に配置したすだれ状電極の配列周期長PTc、反射器の配列周期長PRの寸法を、PR>PTs>PTcの関係に設定し、PTc/PTsの比が 0.985 から 0.996 の範囲であり、PR/PTsは 1.0 から 1.01 の範囲であり、
前記中央に配置したすだれ状電極の対数Mcと、全体の対数Mとの比であるMc/Mが 0.1 から 0.6 の範囲であることを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、従来の標準型の変位N0(x)に対してIDTの両端部位置での変位振幅が0.177/0.30=0.59(約1/2)から0.048/0.30=0.16(約1/6)に減少して、エネルギの集中度が向上する。結果として、同一の本数Nからなり振幅を1/Rに減少させる反射器を使用した場合において、反射器端部からSAW共振子の外側にリークする弾性表面波も従来比で約1/2から1/6範囲に減少して、SAW共振子のQ値が、理論的には振幅の2乗換算となって、4倍から36倍に増加することができる。また等価直列抵抗R1は、R1=ωL1/Qの関係から、1/4から1/36に低減することが可能となる。また、SAW共振子のQ値を同一に保つのであれば、その分だけ反射器の電極導体本数を少なくして寸法を減少させることができる。実際には、SAW共振子のエネルギ損失には種々の要因があるため、実質的にはR1で約1/2,Q値にして2倍、素子サイズで20〜30% 減少するという効果を有する。
また、上記構成範囲であれば、前記圧電体平板が従来の水晶 ST カットの場合、あるいは水晶回転Y板を電気軸(X軸)回りに反時計方向に回転し、かつ弾性表面波の伝播方向を、前記電気軸(X軸)より面内回転した回転 ST カット水晶板 (R-ST 基板 ) 上に形成した弾性表面波共振子の Q 値と R1 を最良の水準に実現できる。
【0018】
本発明の弾性表面波共振子は、圧電体平板上の伝播方向xに弾性表面波を励振する 1 個のすだれ状電極とその伝播方向両側に配置した 1 対の反射器とからなる弾性表面波共振子において、前記すだれ状電極が、3つの領域に区分されかつ、各領域の前記すだれ状電極の電極指を2%以内で異なる一定の周期長で形成して、単峰性の共振特性を有し、
前記すだれ状電極領域における振動変位包絡線振幅をその最大値で規格化した形が、中央位置において最大値1をとり、両端から 1/4 の位置において、 0.33 から 0.53 の範囲、両端位置において 0.048 から 0.177 範囲の値を滑らかにとる形状であり、
前記すだれ状電極と反射器はアルミニウム金属からなり、また前記すだれ状電極は正負電極指を1対としてM対、前記反射器はN本の電極導体からなり、それらの総和M+Nを180から250の範囲となし、かつ前記すだれ状電極の対数Mは95から140の範囲であり、
前記電極1本当りの弾性表面波の反射係数γが0.005から0.015の範囲として、すだれ状電極全体が有するトータル反射係数Гを1.8>Γ>0.25であり、
前記反射器と前記すだれ状電極間の最も近接した平行導体間の距離は、すだれ状電極の1周期長が有するラインとスペースのうちスペースからなり、
前記すだれ状電極の配列周期長PTs、PTc、反射器の配列周期長PRの寸法を、PR>PTs>PTcの関係に設定し、PTc/PTsの比が0.985から0.996の範囲であり、PR/PTsは1.0から1.01の範囲であり、前記中央に配置したすだれ状電極の対数をMcとし、全体の対数Mとの比であるMc/Mが0.1から0.6の範囲であることを特徴とする。
【0019】
上記構成範囲であれば、ことに周波数温度特性が従来の1/2に改善できるが、前記反射係数γが約半分(0.005から0.015)と小さい圧電体平板である水晶回転STカット水晶板(R-ST基板)上に形成した弾性表面波共振子のQ値とR1を最良水準にして小型化を実現できる効果を有する。
【0022】
本発明の弾性表面波共振子は、前記Mが100±5、Nが80から140の範囲、PTc/PTsの比が0.995±0.001、全体の対数Mとの比であるMc/Mが0.5±0.05であることを特徴とする。
【0023】
上記構成とすれば、12000程度の高Q値(従来の2倍)かつ、主振動モードの共振周波数の下側10000ppmの区間内1202(図12)にはスプリアスが存在しないことから、この範囲内において周波数ジャンプ現象が生じないため、広帯域幅にわたって周波数を可変できるSAW-VCSOが実現できる。
【0024】
【発明の実施の形態】
水晶からなる圧電体材料から前述のSTカットあるいは回転STカット平板(R-ST基板)を切り出して(図13参照)、その表面を鏡面研磨した後、レイリー型あるいはSTW型弾性表面波の位相伝搬方向xに対して直交して、例えば金属アルミニウムからなる多数の平行導体の電極指を周期的に配置したIDTを形成し、さらには、その両側に一対の反射器を多数のストリップ形状からなる電極導体を平行にかつ周期的に配置して構成し、1ポート型のSAW共振子を形成する。
【0025】
以下本発明の1ポート型のSAW共振子の実施の形態について、まず理解を容易ならしめるために、図5によって具体的な実施例の構成を説明した後、図1において、図5の構成を一例として得られる本発明の根幹を規定する振動変位の形態を明らかにし、さらに図3、図4、図6、図7、図8、図9、図10、図11、図12において、本発明の弾性表面波共振子が有する特性を詳細に説明する。
【0026】
(実施例)
図5は請求項2と請求項3の発明に係わる弾性表面波共振子(以下略して本素子と称す)の一実施例について、前述の図13の方位基板にて得られる圧電体平板上に形成した電極パターンを図示したものである。
【0027】
図5中の各部位の名称は、500は前述の図13の方位基板からなる圧電体平板、圧電体平板上の519は本素子に利用する弾性表面波の伝播方向であるx軸である。水平な破線で区分された区間において形成された電極パターンの全体からなる各々の部位は、最下部の501と最上部の502は本素子の反射器1と反射器2である。503と504と505は全体ですだれ状電極(以下略してIDT:Interdegital Transducerと称す)を構成する。3個に区分されたIDTは503を端部IDT1、504を端部IDT2、505を中央IDTと呼ぶことにする。反射器1と反射器2における、506と507等はアルミニウム金属からなる電極導体ストリップ群であって、摂動効果により弾性表面波を反射する役目を果たす。前記IDTにおける、516等は正負の電極指であって、正負を1対として全体でM対、中央IDTではMc対、端部IDT1と端部IDT2では各々(M-Mc)/2対が形成されている。前記3個のIDT 503、504、505の電極指群516等を縦に一体化して接続する512は給電導体(ブスバー)と呼ばれるものである。
【0028】
また図5中の記号513と518のPRは、反射器1、反射器2の導体ストリップの配列周期長であり、導体ストリップの幅LRと導体ストリップ間のすきま長SRの和、PR=LR+SRである。また、509と511、508と510の寸法は、各々前記IDTにおける電極指の線幅LTとそれらの間隙長(スペース)STである。さらに、514と517で指定される配列周期長PTsは、端部IDT1と端部IDT2の配列周期長であり、前記電極指の線幅LTとそれらの間隙長(スペース)STの和である。515のPTcは中央IDTの配列周期長である。また、523と524の寸法Gは端部IDT1と端部IDT2のスペースSTに等しく設定する。
【0029】
つぎに本素子における前記記号PR、PTs、PTcで表わされるの寸法値の適正な設定について説明する。図5の本素子の右側に配置して図示した横軸520と縦軸521からなる図は、本素子のx座標位置に対応した前記配列周期長P(x) の関係、すなはちPR、PTs、PTcの寸法比較特性線522を表している。寸法長PR、PTs、PTcは各区間において一定であり、従ってP(x)は階段状の関数で表される。従ってすだれ状電極の線幅Lについては、前記の寸法LT/ST比もIDTの3区間とも一定値とする場合には、すだれ状電極の各線幅Lは各区間内では加工バラツキを除けば一定値をとる。さらに特別には、線幅比PTc/PTsが1に近いことから、線幅LをIDTの3区間とも一定とすることもできる。前記IDTの線幅Lは、電極1本当りの反射係数率bが最大となるような値に設定することが多い。図13の面内回転STカット水晶板については、全IDTと反射器ともLT/ST比は0.42から0.67範囲である。弾性表面波の波長λの1/4また膜厚Hも加工バラツキを除けば同様に一定値に設定する。
【0030】
具体的には、前記すだれ状電極(IDT)の配列周期長PTs、PTc、反射器の配列周期長PRの寸法を、PR>PTs>PTcの関係に設定し、PTc/PTsの比が0.985から0.995996の範囲であり、PR/PTsは1.0から1.01の範囲であり、前記中央に配置したすだれ状電極の対数をMcとし、全体の対数Mとの比であるMc/Mが0.1から0.6の範囲とする。この構成条件の根拠については、後述の特性図において示す。
【0031】
ここで、本発明の実現性を判断する要因である‘前記線幅比PTc/PTsが0.985から0.995996の範囲’についての加工の可否につき言及する。素子周波数f(MHz)と前記寸法PTc,PTs(μm)の間には、利用する弾性表面波の速度Vsを3100m/sとして、PTc,PTs=Vs/(2f)の関係がある。本発明がことに低周波数において加工上有利であることは明らかであるが、ことに低周波数において小型化が困難となることも事実である。一例として、f=200MHzにすると、PTsが7.750μm、PTcはPTsの0.995として7.711μmとなる。両者の差は0.039μmとなる。この加工精度分解能は、5倍に縮小露光可能な投影機に使用するマスク精度に換算すると、0.195μmとなって、電子ビーム露光機の現行分解能0.01μmに対して十分な大きさとなって実現可能である。寸法PTcのIDT領域の対数Mcが20対であれば、該当する領域の5倍となるマスク寸法差は0.039×20×2×5=7.8μmとなって十分計測識別可能である。
【0032】
さらに詳細に構成条件を規定すれば、つぎのように言える。前記すだれ状電極と反射器はアルミニウム金属からなり、また前記すだれ状電極は正負電極指を1対としてM対、前記反射器はN本の電極導体からなり、それらの総和M+Nを180から250の範囲となし、かつ前記すだれ状電極の対数Mは95から140の範囲であり、
前記電極1本当りの弾性表面波の反射係数γが0.005から0.015の範囲として、すだれ状電極全体が有するトータル反射係数Гを1.8>Γ>0.25であり、
前記反射器と前記すだれ状電極間の最も近接した平行導体間の距離は、すだれ状電極の1周期長が有するラインLTとスペースSTのうちスペースSTからなり、
前記すだれ状電極の配列周期長PTs、PTc、反射器の配列周期長PRの寸法を、PR>PTs>PTcの関係に設定し、PTc/PTsの比が0.985から0.996の範囲であり、PR/PTsは1.0から1.01の範囲であり、前記中央に配置したすだれ状電極の対数をMcとし、全体の対数Mとの比であるMc/Mが0.1から0.6の範囲である。またあらためて、前記圧電体平板の条件として、水晶回転Y板を電気軸(X軸)回りに反時計方向に回転角θ=31度から42度回転し、かつ弾性表面波の伝播方向を、前記電気軸(X軸)より40度から46度の範囲で面内回転した回転STカット水晶板を使用する。
若干の説明を追加すると、STカットにおいて、前述の式(1)において述べた良好なSAW共振子を構成する全反射係数の範囲は10>Г>0.8である。また最小のMは80対であるから、電極1本当りの弾性表面波の反射係数γはγ=Γ/M=0.8/80=0.01(1%)と見なしていることになる。またSTカットにおいては、前記の総和M+Nは200が素子最小サイズであることが経験的に知られている。従って、回転STカット水晶板(R-ST基板)を使用した従来技術においては、前記の反射係数γが約半分となるから、前記の総和M+Nは400となるか、あるいは総和M+Nが200として構成するとQ値が半分の6000、あるいはR1にして2倍の32Ωとなってしまう。これに対して本発明によれば、R-ST基板の前記反射係数γの範囲を0.005から0.015とみなし、反射係数γが半分の0.005においても総和M+Nが180〜250かつ、対数Mが95から140の範囲において良好な特性が得られるものである(図11の曲線1104でETA=0.5の場合に相当する)。このときIDTが有する全反射係数はГは、0.005×95(本)=0.475から0.015×140(本)=2.1の範囲をとる。
【0033】
つぎに図1において、図5の構成を一例として得られる本発明の根幹を特徴的に規定する振動変位の形態を示す。
【0034】
図1は請求項1の発明に係わる、最近開発した計算手法により、振動変位の状態を従来の図2と同様に計算した変位図である。前記計算手法を若干説明すると、素子状態変数Wとして、W={右側進行波R(x)、左側進行波L(x)、電圧V、電流I(x)}の組み合わせをとるものであり、従来一般的な等価回路法と比較して、振動変位が直接的に求まるため便利である。前記の振動変位とは、時間とともに周期的に定常振動する振幅変位の最大値を結んだ包絡線振幅U(x){=R(x)+L(x)}である(図中の曲線100と101)。図1中の横軸は、両側2個の反射器とIDTから構成されるSAW共振子の電極導体1本のなす線幅LRあるいはLTの中央位置(節点)の位置座標を示し、縦軸の左側は前記U(x)の相対値を、右側のN(x)は前記U(x)がとりうる最大値であるUmaxにて、U(x)を規格化して得られるN(x)=U(x)/Umaxの値である。PTc/PTsの比が0.985から0.996の範囲においては、前記Umaxは6.2(曲線100のPTc/PTs=0.996の場合)から14.0(曲線101のPTc/PTs=0.985の場合)の値であった。また同図上部に示した0から1の座標は、IDTの前記位置座標をIDTの全長にて規格化した座標値であって、片方の端を0、もう一方の端を1としてある。
【0035】
本発明においては、前記の規格化振幅N(x)は、全体からなるIDT領域の中央位置である全長の1/2において、N(x)=1であり、1/4と3/4において0.33から0.53であり、IDTの両端0、1において0.048から0.177の値をとり、従来の標準型であるN0(x)より著しく中央の変位が大きな、すなわち中央にエネルギの集中した滑らかな関数をとっていることがわかる。
【0036】
つぎに図3(a)と図3(b)は、SAW共振子の共振周波数解を与える条件方程式における、周波数 対 条件方程式の誤差εの関係を与える図である(前記条件方程式については、紙面の都合上省いた)。従来品の場合は図3(a)の曲線301であり、図1と図5の本発明の場合は図3(b)の曲線302のである。横軸は周波数であって、周波数変化率df/f(ppm単位)で示した。縦軸は根を与える条件方程式の誤差εであり、ε=0が共振周波数点を与える。本発明の主共振周波数は、従来の-20010ppm(図3(a)の311点)から上側の-18090ppm(図3(b)の312点)へと特徴的に変化していることがわかる。
【0037】
さらにまた、本発明のSAW共振子が従来と異なるものである根拠として、本発明になるSAW共振子が有するアドミタンスY(f)の周波数特性(共振特性)を図4に示す(曲線400)。同図の横軸は、周波数であるが周波数変化率df/f(ppm単位)であり、縦軸はSAW共振子のアドミタンスY(f)の対数表示(20LOG10Y(f))である。401の主振動モードの下側4000から5000ppmに存在する振幅の小さな共振402が従来の主振動モードに相当するが、ここではスプリアスである。
【0038】
つぎに本発明になる図1と図5の構成条件が与える特性につき説明する。
【0039】
図6は、電極の線幅比である前記PTc/PTsの比をPTNGとして横軸に表し、縦軸にSAW共振子の等価直列抵抗R1(Ω)を示す。図中、括弧内のETAは前記中央に配置したすだれ状電極の対数をMcとし、全体の対数Mとの比Mc/Mである。同図曲線601はETA=0.1の場合であり、曲線602はETA=0.2の場合であり、曲線603はETA=0.3の場合である。比Mc/Mが0.1から0.3の範囲においては、前記PTNG=PTc/PTsが0.985から0.995の範囲においてほぼ最小のR1をとることがわかる(破線枠内)。
【0040】
図6において、電極の線幅比PTNG=1が従来の設計条件であつて、R1=約25(Ω)を与える。それに対して本発明は、前記PTNG=PTc/PTsが0.985から0.995の範囲、さらに限定すればPTc/PTsが0.995±0.001範囲においてほぼ最小のR1(16Ω)をとって、CI値の大幅な改善ができることを初めて見出したものである。
【0041】
図7は、前記線幅比PTNG(横軸)に対する本発明のSAW共振子のQ値(縦軸)の関係を図示したものである。曲線701は前記ETA=0.1の場合であり、曲線702は前記ETA=0.2の場合であり、曲線703は前記ETA=0.3の場合である。ETAが0.1から0.3の範囲に対して、各々のETAに対して最大のQ値を与えるPTNGは0.985から0.995の範囲に在ることがわかる。ETAの増加に従い、最大のQ値あるいは最小のR1を与えるPTNGは増加するが、ETA の0.1から0.6の範囲にたいしてPTNG=0.995は、良好な特性水準を与えることを計算により確認した。
【0042】
図8は、前記中央IDTの割合であるETA=Mc/M(横軸)に対する、本発明のSAW共振子の等価直列抵抗R1(Ω)(縦軸)の関係を図示したものである。曲線801は前記全IDT対数M=170かつ反射器の導体本数N=76の場合であり、曲線802は前記全IDT対数M=240かつ反射器の導体本数N=6の場合である。M/(M+N)の比が0.69から0.97と大きく変わったにもかかわらず、ETAが0.1から0.6の範囲に対して、R1はほぼ平坦で良好な16Ωを示していることがわかる(従来技術においては、平均32Ωの水準となる)。ただし、この場合においてPTNGは0.995としたが、他の0.985から0.996の範囲においても同様な傾向を呈していた。
【0043】
図9は、前記中央IDTの割合であるETA=Mc/M(横軸)に対する、本発明のSAW共振子のQ値(縦軸)の関係を図示したものである。曲線901は前記全IDT対数M=170かつ反射器の導体本数N=76の場合であり、曲線902は前記全IDT対数M=240かつ反射器の導体本数N=6の場合である。M/(M+N)の比が0.69から0.97と大きく変わったにもかかわらず、ETAが0.2から0.6の範囲に対して、Q値はほぼ平坦で良好な10000を示していることがわかる(従来技術においては、平均6000の水準となる)。ただし、この場合においてPTNGは0.995としたが、他の0.985から0.996の範囲においても同様な傾向を呈する。
【0044】
図10は、全IDTの対数M(横軸)に対する、本発明のSAW共振子の等価直列抵抗R1(Ω)(縦軸)の関係を図示したものである。曲線1001は前記ETA=0.1の場合であり、曲線1002は前記ETA=0.2の場合であり、曲線1003は前記ETA=0.3の場合であり、曲線1005は前記ETA=0.5の場合である。ETAが0.2から0.5の範囲においては、ほぼ同水準のR1の値となり、Mの増加に従い緩やかに減少する傾向を示していることがわかる。ただしPTNGは0.985から0.996の範囲とした。
【0045】
図11は、全IDTの対数M(横軸)に対する、本発明のSAW共振子のQ値(縦軸)の関係を図示したものである。曲線1101は前記ETA=0.1の場合であり、曲線1102は前記ETA=0.2の場合であり、曲線1103は前記ETA=0.3の場合であり、さらに曲線1104は前記ETA=0.5の場合である。ETAが0.2から0.5の範囲においては、ほぼ同水準のQ=10000の値となり、Mの増加に従い緩やかに減少する傾向を示していることがわかる。ことに、M=100、N=140かつETA=0.5においては、従来になく大きなQ=12500が得られた。ただしPTNGは0.985から0.995の範囲とした。
【0046】
図12は本発明において、特にスプリアス共振が存在しない条件とした場合のSAW共振子が有するアドミタンスY(f)の周波数特性(共振特性)を示す(曲線1200)。同図の横軸は、周波数であるが周波数変化率df/f(ppm単位)であらわした。縦軸はSAW共振子のアドミタンスY(f)の対数表示(20LOG10Y(f))である。1201の主振動モードである-6000ppmの下側10000ppmの区間内1202にはスプリアスが存在していないことがわかる。この特性を実現する本発明の構成条件は、M=100±5、N=180〜240、PTNG=0.995±0.001、ETA=0.5±0.05、電極指交差幅は48波長であった。この場合の周波数312MHzのSAW共振子のQ値が12400、R1が22Ω、C1=1.84fF、C0=3.84pF,容量比C0/C1が2086である。ただし、R1が22Ωと比較的大きな値となるのは、C1が小さくなるためである。
【0047】
以上のとおり、本発明が水晶のみからなる基板について、レイリー型及びSTW型の弾性表面波を利用した弾性表面波共振子の構成および特性につき説明したが、前記基板が水晶以外でも、また基板表面にSiO2、ZnO等の薄膜が本素子の特性を損なわない程度に形成されても、本発明の構成条件が満足される範囲であれば有効であることを付け加える。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の弾性表面波共振子の一実施例が有する振動変位を示す図。
【図2】 従来の弾性表面波共振子の一例が有する振動変位を示す図。
【図3】 従来(a)と本発明(b)のSAW共振子の共振周波数を与える根軌跡図。
【図4】 本発明のSAW共振子が有するY(f)の周波数特性を示す特性図。
【図5】 本発明のSAW共振子の一実施例が有する電極パターンの平面図。
【図6】 本発明のSAW共振子が有するPTNG対R1特性を示す特性図。
【図7】 本発明のSAW共振子が有するPTNG対Q値の関係を示す特性図。
【図8】 本発明のSAW共振子が有するETA対R1の関係を示す特性図。
【図9】 本発明のSAW共振子が有するETA対Q値の関係を示す特性図。
【図10】 本発明のSAW共振子が有するM対R1の関係を示す特性図。
【図11】 本発明のSAW共振子が有するM対Q値の関係を示す特性図。
【図12】 本発明のSAW共振子が有する他のY(f)の周波数特性を示す特性図。
【図13】 本発明の図1と図5に使用する圧電体平板の切断方位図。
【符号の説明】
100、101 振動変位の包絡線振幅

Claims (3)

  1. 圧電体平板上の伝播方向xに弾性表面波を励振する1個のすだれ状電極とその伝播方向両側に配置した1対の反射器とからなる弾性表面波共振子において、前記すだれ状電極が、3つの領域に区分されかつ、各領域の前記すだれ状電極の電極指を2%以内で異なる一定の周期長で形成して、単峰性の共振特性を有し、
    前記すだれ状電極領域における振動変位包絡線振幅をその最大値で規格化した形が、中央位置において最大値1をとり、両端から1/4の位置において、0.33から0.53の範囲、両端位置において0.048から0.177範囲の値を滑らかにとる形状であり、
    前記3つの領域に区分されたすだれ状電極の配列周期長について、両側に配置したすだれ状電極の配列周期長PTs、中央に配置したすだれ状電極の配列周期長PTc、反射器の配列周期長PRの寸法を、PR>PTs>PTcの関係に設定し、PTc/PTsの比が 0.985 から 0.996 の範囲であり、PR/PTsは 1.0 から 1.01 の範囲であり、
    前記中央に配置したすだれ状電極の対数Mcと、全体の対数Mとの比であるMc/Mが 0.1 から 0.6 の範囲であることを特徴とする弾性表面波共振子。
  2. 圧電体平板上の伝播方向xに弾性表面波を励振する 1 個のすだれ状電極とその伝播方向両側に配置した 1 対の反射器とからなる弾性表面波共振子において、前記すだれ状電極が、3つの領域に区分されかつ、各領域の前記すだれ状電極の電極指を2%以内で異なる一定の周期長で形成して、単峰性の共振特性を有し、
    前記すだれ状電極領域における振動変位包絡線振幅をその最大値で規格化した形が、中央位置において最大値1をとり、両端から 1/4 の位置において、 0.33 から 0.53 の範囲、両端位置において 0.048 から 0.177 範囲の値を滑らかにとる形状であり、
    前記すだれ状電極と前記反射器はアルミニウム金属からなり、また前記すだれ状電極は正負電極指を1対としてM対、前記反射器はN本の電極導体からなり、それらの総和M+Nを 180 から 250 の範囲となし、かつ前記すだれ状電極の対数Mは 95 から 140 の範囲であり、
    前記電極1本当りの弾性表面波の反射係数γが 0.005 から 0.015 の範囲として、すだれ状電極全体が有するトータル反射係数Гを 1.8 >Γ> 0.25 であり、
    前記反射器と前記すだれ状電極間の最も近接した平行導体間の距離は、すだれ状電極の1周期長が有するラインとスペースのうちスペースからなり、
    両側に配置したすだれ状電極の配列周期長PTs、中央に配置したすだれ状電極の配列周期長PTc、反射器の配列周期長PRの寸法を、PR>PTs>PTcの関係に設定し、PTc/PTsの比が 0.985 から 0.996 の範囲であり、PR/PTsは 1.0 から 1.01 の範囲であり、前記中央に配置したすだれ状電極の対数Mcと、全体の対数Mとの比であるMc/Mが 0.1 から 0.6 の範囲であることを特徴弾性表面波共振子。
  3. 前記すだれ状電極の全体の対数Mが 100 ± 5 、前記反射器の電極導体の本数Nが 80 から 140 の範囲、PTc/PTsの比が 0.995 ± 0.001 、前記中央に配置したすだれ状電極の対数Mcと、前記すだれ状電極の全体の対数Mとの比であるMc/Mが 0.5 ± 0.05 であることを特徴とする請求項2記載の弾性表面波共振子。
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