JP4057436B2 - 銅基合金およびその銅基合金を使用する放熱板用材料 - Google Patents

銅基合金およびその銅基合金を使用する放熱板用材料 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、銅基合金およびその銅基合金を使用する放熱板用材料に関し、特に、パワー半導体モジュールの放熱板用の銅基合金およびその銅基合金を使用する放熱板用材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
パワー半導体モジュールは、半導体素子、銅またはアルミニウムのパターン、絶縁板、導体層および放熱板などから構成される半導体装置であり、エアコンや洗濯機などの家電製品や、インバータなどの産業用機器に広く使用され、さらに、ハイブリット車の普及に伴い、車載用に広く使用されている。
【0003】
これらのパワー半導体モジュールの放熱板は、パワー半導体モジュールから発生する熱を効率良く放散する必要があり、また、放熱板が回路の一部として利用される場合もあるので、電気的な損失を少なくし、さらには通電時の発熱を少なくするために、熱伝導性および電気伝導性に優れていることが求められている。
【0004】
その他にもパワー半導体モジュールの放熱板に求められる特性は多様であり、例えば、組立工程において、放熱板は金属−セラミックス接合基板にはんだで接合されるので、はんだ接合部の健全性が重要であり、また、放熱板はヒートシンクに取り付けられるので、はんだ接合後の放熱板の平坦度が重要である。
【0005】
また、パワー半導体モジュールは、使用時において作動状況に応じて温度変化が激しく、熱膨張係数が異なる金属−セラミックス接合基板と放熱板の間のはんだ接合部には、応力が負荷される。このようなヒートサイクル環境下において、はんだ接合部にクラックなどの欠陥が発生せず、健全であることが求められており、−40〜125℃で各1時間ずつ保持したヒートサイクル試験において、一般の産業用では300サイクル以上、車載用では1000サイクル以上、用途に応じて3000サイクル以上で健全であることが望まれている。
【0006】
以上のように、パワー半導体モジュールの放熱板は、熱伝導性などの多様な要求を満足する必要があり、放熱板の材料として、熱伝導性に優れ且つコスト的にも優れた銅基合金が広く使用されている。放熱板の材料として一般に使用されている高い熱伝導率の無酸素銅は、200〜350℃で数分間の接合によって軟化して、組立後に放熱板の平坦性を得ることが難しい。無酸素銅以外の材料として、析出強化型銅基合金であるCu−(Fe、Co、Ni、Mg)−P系合金は、熱伝導性および導電率に優れ且つ高い強度や耐熱性を有するので、放熱板に適した材料である。
【0007】
しかし、これら銅基合金の熱膨張係数は16×10―6〜18×10―6/Kであり、パワー半導体モジュールの金属−セラミックス絶縁基板に使用されるAlNやAlなどの熱膨張係数や、半導体チップに使用されるSiなどの熱膨張係数は、いずれも10×10―6/K未満であるので、これらの銅基合金を放熱板の材料として使用する場合には、組立工程およびヒートサイクル環境におけるはんだ接合部の信頼性が課題とされていた。
【0008】
例えば、パワー半導体モジュールのアセンブリ工程において、放熱板に金属−セラミックス接合基板をはんだ接合すると、はんだの凝固に伴って熱膨張係数の差によって放熱板の裏面(金属−セラミックス接合基板と反対側の面)が凹状に反ってしまう。このように反った状態で放熱板にヒートシンクをねじ止めしても、接触面積が少ないので、必要とする放熱性を得ることができない。また、ヒートシンクと放熱板の接触面積を増大させるためにねじ止め箇所を増加して接合すると、はんだ接合部にクラックが発生したり、金属−セラミックス絶縁基板が割れるおそれがある。したがって、組立後の放熱板の平坦性が課題となっていた。
【0009】
さらに、ヒートサイクル環境においては、放熱板の材料である銅基合金の熱膨張係数と金属−セラミックス絶縁基板の材料であるAlNやAlの熱膨張係数が異なるため、はんだ接合部に応力が加わり、はんだ接合部にクラックが発生してしまう。したがって、はんだ接合部のヒートサイクル信頼性が課題となっていた。
【0010】
熱膨張係数が半導体チップや金属−セラミックス絶縁基板と近いAl−SiC、Cu−Mo、Cu−W、Cu−CuOなどを材料とする放熱板は、パワー半導体モジュールの組立後の平坦性やヒートサイクル信頼性に優れており、高信頼性が必要とされる車載用パワー半導体モジュールに使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
【特許文献1】
特開2002−206126号公報(段落番号0004)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの材料の熱膨張係数を10×10―6/K未満にすると、熱伝導性が220W/m・K未満になるため、パワー半導体モジュールの小型化、軽量化および高機能化を阻害する要因となっている。
【0013】
また、熱伝導性に優れ且つパワー半導体モジュールの組立後の平坦性やヒートサイクル信頼性に優れた放熱板の材料として、銅基合金と異種材料を接合したクラッド材料が適している。このようなクラッド材料を得るため、異種材料としてW、Mo、Si、Cu−W、Cu−MoまたはCu−SiCを使用することにより放熱板の熱膨張係数を小さくし且つ異種材料を銅基合金に接合することにより熱伝導性を向上させる試みがなされたが、十分な特性の放熱板用クラッド材料は得られていない。
【0014】
また、このような放熱板用クラッド材料に使用される銅基合金は、異種金属との接合および圧延加工後において、熱伝導性に優れ且つパワー半導体モジュールの組立後の平坦性に優れた特性を必要とするため、耐熱性や材料の強度が優れていることも必要とされる。
【0015】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、熱伝導性に優れ且つアセンブリ工程および使用時におけるはんだ接合部の信頼性に優れた銅基合金およびその銅基合金を使用する放熱板用材料を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、熱伝導率が300W/m・K以上、導電率が80%IACS以上、ビッカース硬さがHV90以上、400℃で10分間加熱後のビッカース硬さが加熱前のビッカース硬さの90%以上の銅基合金を使用することにより、熱伝導性に優れ且つアセンブリ工程および使用時におけるはんだ接合部の信頼性に優れた銅基合金およびその銅基合金を使用する放熱板用材料を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明による銅基合金は、熱伝導率が300W/m・K以上、導電率が80%IACS以上、ビッカース硬さがHV90以上、400℃で10分間加熱後のビッカース硬さが加熱前のビッカース硬さの90%以上であることを特徴とする。
【0018】
この銅基合金は、Fe、Co、NiおよびMgの少なくとも1種以上の元素とPとを合計0.01〜2.0量%含有し、残部が銅および不可避元素不純物からなるのが好ましい。また、銅基合金は、さらに0.01〜1.0量%のSnと、0.01〜1.0量%のZnと、0.01〜1.0量%のZrと、0.01%〜1.0量%のTiと、0.01〜1.0量%のAgのうち少なくとも1種以上の元素を0.01〜1.0量%含有してもよい。
【0019】
また、本発明による放熱板用材料は、熱伝導率が300W/m・K以上、導電率が80%IACS以上、ビッカース硬さがHV90以上、400℃で10分間加熱後のビッカース硬さが加熱前のビッカース硬さの90%以上の銅基合金が、この銅基合金部材と異なる材料に接合されたことを特徴とする。
【0020】
この放熱板用材料において、銅基合金がFe、Co、NiおよびMgの少なくとも1種以上の元素とPとを合計0.01〜2.0量%含有し、残部が銅および不可避元素不純物からなるのが好ましい。また、銅基合金が、さらに0.01〜1.0量%のSnと、0.01〜1.0量%のZnと、0.01〜1.0量%のZrと、0.01%〜1.0量%のTiと、0.01〜1.0量%のAgのうち少なくとも1種以上の元素を0.01〜1.0量%含有してもよい。また、銅基合金が、粒径50μm以上の結晶粒と粒径1〜20μmの結晶粒を含むのが好ましい。さらに、銅基合金と異なる材料が、Si、WまたはMo、これらの酸化物、炭化物または窒化物、あるいはCu−W、Cu−MoまたはCu−SiCであるのが好ましい。
【0021】
さらに、本発明による放熱板用材料の製造方法は、Fe、Co、NiおよびMgの少なくとも1種以上の元素とPとを合計0.01〜2.0量%含有し、残部が銅および不可避元素不純物からなる銅基合金を、この銅基合金の融点T(℃)の1/2以上の温度(℃)、好ましくは700℃以上の温度で、この銅基合金と異なる材料と接合した後に、加工率10〜80%で冷間圧延加工を行い、その後、400〜550℃の温度で10分〜6時間加熱することを特徴とする。
【0022】
この放熱板用材料の製造方法において、銅基合金の熱伝導率が300W/m・K以上、導電率が80%IACS以上、ビッカース硬さがHV90以上、400℃で10分間加熱後のビッカース硬さが加熱前のビッカース硬さの90%以上であるのが好ましい。また、銅基合金が、さらに0.01〜1.0量%のSnと、0.01〜1.0量%のZnと、0.01〜1.0量%のZrと、0.01%〜1.0量%のTiと、0.01〜1.0量%のAgのうち少なくとも1種以上の元素を0.01〜1.0量%含有してもよい。また、銅基合金が、粒径50μm以上の結晶粒と粒径1〜20μmの結晶粒を含むのが好ましい。さらに、銅基合金と異なる材料が、Si、WまたはMo、これらの酸化物、炭化物または窒化物、あるいはCu−W、Cu−MoまたはCu−SiCであるのが好ましい。
【0023】
また、本発明によるパワー半導体モジュールは、上記のいずれかの放熱板材料からなる放熱板を用いたことを特徴とする。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による銅基合金およびその銅基合金を使用する放熱板用材料の実施の形態を説明する。
【0025】
パワー半導体モジュールの放熱板の主な役割は、半導体素子から発生する熱を吸収して、外部へ伝達することである。近年、放熱板は、放熱性だけではなく、回路の一部として使用される場合もあるので電気的な損失や発熱の観点から電気伝導性も必要になっている。そのため、放熱板用の銅基合金の熱伝導率は、300W/m・K以上、好ましくは350W/m・K以上であり、導電率は、80%IACS以上、好ましくは90%IACS以上であることが必要である。
【0026】
また、放熱板は、パワー半導体モジュールの補強材の役割を果たすため、機械的な強度も必要である。また、放熱板は、プレス加工により成形されるので、プレス抜き性に優れていることも重要である。そのため、放熱板用の銅基合金のビッカース硬さは、HV90以上であることが必要であり、好ましくはHV100以上である。
【0027】
また、放熱板は、アセンブリ時に400℃以下で約10分以内に基板やチップにはんだ接合される。はんだ接合時に放熱板が軟化すると、接合後に放熱板の平坦性を得ることができず、また、ヒートサイクル環境下では熱応力により放熱板が変形してしまう。放熱板を異種材料と接合した場合にもアセンブリ後の放熱板の平坦性を維持するためには、銅基合金の強度が重要となり、銅基合金が400℃で10分間加熱後に軟化しないこと、具体的には、銅基合金のビッカース硬さが加熱前の90%以上であることが必要であり、銅基合金のビッカース硬さが加熱後に全く低下しないことが好ましい。
【0028】
熱伝導率が300W/m・K以上、導電率が80%以上、ビッカース硬さがHV90以上、400℃で10分間加熱しても軟化しない銅基合金としては、析出物を利用した銅基合金が適している。析出強化を利用した銅基合金は、導電率や熱伝導率を著しく低下させずに硬さや耐熱性を向上させることができる。
【0029】
また、銅基合金の材料の溶解時に脱酸効果が大きいPを添加することにより、大気中で安定した品質の銅基合金を製造することができる。また、Pは他の元素と結合して銅中に析出物を形成し易い元素である。特に、Fe、Co、Ni、Mgなどの元素をPとともに添加することにより、析出物を形成させることができる。
【0030】
このように、(Fe、Co、Ni、Mg)−P系析出物を利用するためには、Fe、Co、Ni、Mgのうち少なくとも1種以上とPを合計0.01〜2.0量%含有する必要がある。0.01量%未満では、析出物の量が少ないので必要とする強度および耐熱性が得られず、一方、2.0量%より多いと、必要とする熱伝導率および導電率を得ることができないからである。
【0031】
さらに、銅基合金は、0.01〜1.0量%のSnと、0.01〜1.0量%のZnと、0.01〜1.0量%のZrと、0.01〜1.0量%のTiと、0.01〜1.0量%のAgのうち少なくとも1種以上の元素を0.01〜1.0量%含有してもよい。これらの元素を微量に固溶または析出させることにより、銅基合金の硬さや耐熱性を向上させることができる。これらの元素の総量を0.01〜1.0量%にするのは、0.01量%未満ではその効果が小さく、1.0量%より多いと必要とする熱伝導率および導電率を得ることができないからである。
【0032】
銅基合金の熱膨張係数はチップや金属−セラミックス接合基板の熱膨張係数より大きいため、ヒートサイクル環境下においてはんだ接合部の高い信頼性を得ることができない。そのため、銅基合金に異種材料を接合することにより、放熱板の熱膨張係数を小さくするのが好ましい。この異種材料としては、熱膨張係数が低いW、Mo、Siなどの元素や、これらの酸化物、炭化物または窒化物を使用するのが好ましい。さらに熱伝導性や導電率を向上させるためには、Cu−W、Cu−Mo、Cu−SiCなどを使用してもよい。
【0033】
銅基合金と異種材料との接合は、熱拡散を利用して行うので、高温で行う必要がある。そのため、銅基合金の融点T(℃)の1/2以上の温度(℃)(?(1/2)T(℃))で行う必要があり、700℃以上の温度で行うのが好ましい。
【0034】
その後、圧延加工を行うことにより目的の形状に成形するとともに、接合時の熱処理により軟化した銅基合金を加工硬化させて強度を向上させる。この圧延加工における加工率が大きい場合には、材料が加工硬化して目的の厚さまで圧延することができない場合があるので、圧延加工の途中で500℃以上の温度に加熱してもよい。500℃より低い温度であると、材料を十分に軟化させることができず、圧延加工が困難になるからである。また、この圧延加工の途中で加熱する温度を700℃以上にすると、銅基合金と異種材料との接合力が向上するので好ましい。なお、この圧延加工を繰り返して、最後の圧延加工における加工率を10〜80%とするのが好ましい。10%未満であると必要とするビッカース硬さを得ることができず、一方、80%より高いと必要とする耐熱性を得ることができないからである。
【0035】
圧延加工後に400〜550℃の温度で10分〜6時間加熱することにより、析出物を形成させ、必要とする熱伝導率、導電率およびビッカース硬さを得ることができる。加熱温度が400℃より低い場合や加熱時間が10分間より短い場合には、析出物を十分に形成させることができないので、必要とする熱伝導率および導電率を得ることができず、一方、加熱時間が550℃より高い場合には、析出物の再固溶により、必要とする熱伝導率および導電率を得ることができず、さらに材料が軟化して硬さも不十分になり、また、加熱時間が6時間より長い場合には、材料が軟化して硬さが不十分になるからである。
【0036】
異種材料と接合して冷間圧延および加熱を施した銅基合金の組織は、粒径50μm以上の結晶粒と粒径1〜20μmの結晶粒により構成されるのが好ましい。粒径50μm以上の結晶粒は異種金属と接合する際の加熱により形成される。その後の圧延および加熱によって部分的に再結晶が起こり、粒径1〜20μmの結晶粒および析出物が形成される。粒径1〜20μmの結晶粒が形成されない場合は、固溶元素の析出も不十分であり、必要とする熱伝導率および導電率を得ることができない。また、再結晶が進行して粒径50μm以上の結晶粒が存在しない場合は、冷間圧延の加工硬化によって得られた硬さが低下してしまい、固溶元素の析出も不十分である。
【0037】
【実施例】
以下、本発明による銅基合金およびその銅基合金を使用する放熱板用材料の実施例について詳細に説明する。
【0038】
[実施例1〜5、比較例1〜4]
表1に化学成分(重量%)を示す各銅基合金を高周波誘導溶解炉を用いて溶製し、40×40×150(mm)の鋳塊を鋳造した。その後、40×40×30(mm)の試験片を切り出し、900℃で60分間均質化処理を行い、厚さ8.0mmまで熱間圧延し、水冷および酸洗を行った。その後、冷間圧延と焼鈍を繰り返して、厚さ3.0mmの試験片を作製した。
【0039】
【表1】
Figure 0004057436
【0040】
このようにして得られた実施例1〜5および比較例1〜4の各銅基合金の試験片について、熱伝導率、導電率、ビッカース硬さおよび400℃で10分間加熱後のビッカース硬さを測定した。その結果を表2に示す。なお、熱伝導率は、熱伝導率測定装置を用いて測定し、導電率およびビッカース硬さは、それぞれJISH0505およびJISZ2244に準拠して測定した。また、400℃で10分間の加熱は、図1に示すように、試験片10を純銅板12に挟んでホットプレート14上に載せ、温度制御装置16によって温度を制御しながら行った。
【0041】
【表2】
Figure 0004057436
【0042】
表2の結果から、実施例1〜5の銅基合金では、いずれも熱伝導率が300W/m・K以上、導電率が80%以上、加熱前のビッカース硬さがHV90以上、400℃で10分間加熱後のビッカース硬さが加熱前の90%以上である。したがって、実施例1〜5の銅基合金は、パワー半導体モジュールの放熱板の材料として優れている。
【0043】
これに対して、Fe、Co、NiおよびMgを含有しない比較例1および2の銅基合金や、FeおよびPを含有しているが、その総量が0.01重量%未満の比較例3の銅基合金は、400℃で10分間加熱後のビッカース硬さが加熱前の90%未満であるために劣っている。また、FeとPの含有量が合計2.0重量%を超えている比較例4の銅基合金は、熱伝導率が300W/m・K未満、導電率が80%IACS未満であることから劣っている。
【0044】
[実施例6〜13、比較例5〜20]
実施例2と同じ組成の銅基合金を、異種材料との接合時の温度に相当する800℃または900℃で60分間加熱(以下「加熱1」という)し、5〜90%の加工率で冷間圧延(以下「圧延1」という)した後に300〜600℃で60分間加熱(以下「加熱2」という)した各銅基合金について、熱伝導率、導電率、ビッカース硬さおよび結晶粒径を測定した。結晶粒径は、銅基合金の表面をエメリー紙で研磨した後にバフ研磨およびエッチングを行い、光学顕微鏡を用いて観察し、JISH0501に準拠して求めた。これらの結果を表3および表4に示す。なお、表4において、50μm以上、1〜20μmおよび1〜10μmの結晶粒径が存在する場合を○、存在しない場合を×で示している。
【0045】
【表3】
Figure 0004057436
【0046】
【表4】
Figure 0004057436
【0047】
表3および表4の結果から、実施例6〜13の銅基合金は、加熱1、圧延1および加熱2を行うことにより、熱伝導率300W/m・K以上、導電率80%IACS以上、ビッカース硬さHV90以上であり、粒径50μm以上と1〜20μmの結晶粒から構成された銅基合金になっている。したがって、実施例6〜13の銅基合金は、パワー半導体モジュールの放熱板の材料として異種材料と接合した場合にも優れている。
【0048】
これに対して、加熱1のみ行った比較例5および6の銅基合金や、加工率5%で圧延を行った比較例7および11の銅基合金は、熱伝導率、導電率およびビッカース硬さのいずれも必要とされる数値に達しておらず、粒径1〜20μmの結晶粒を得ることができないために劣っている。加熱1の後に加工率30〜90%で圧延して加熱2を行わなかった比較例8〜9および12〜14の銅基合金と、加熱1の後に加工率70%で圧延し、300℃の温度で加熱2を行った比較例15および17の銅基合金は、ビッカース硬さHV90以上を満たしているが、熱伝導率および導電率が必要とされる数値に達しておらず、粒径1〜20μmの結晶粒を得ることができないために劣っている。また、加熱1の後に加工率70%で圧延した後に600℃の温度で加熱2を行った比較例16および18の銅基合金と、加熱1の後に加工率90%で圧延し、500℃の温度で加熱2を行った比較例19および20の銅基合金は、熱伝導率300W/m・K以上、導電率80%以上であるが、ビッカース硬さがHV80未満であり、粒径50μm以上の結晶粒が存在していないために劣っている。
【0049】
[実施例14〜17、比較例21〜22]
実施例2と同じ組成の銅基合金を、800℃で30分間加熱(以下「加熱3」という)し、異種金属であるCu−65%Moと接合して、加工率57%で冷間圧延(以下「圧延2」という)した後に、500℃で0.5〜8時間加熱(以下「加熱4」という)した接合材の各銅基合金について、熱導電率、導電率、ビッカース硬さ、さらに接合材を400℃で10分間加熱(以下「加熱5」という)した後のビッカース硬さを測定した。その結果を表5に示す。
【0050】
【表5】
Figure 0004057436
【0051】
表5の結果から、実施例14〜17の銅基合金は、加熱3、圧延2および加熱4を行うことにより、熱伝導率300W/m・K以上、導電率80%IACS以上、ビッカース硬さHV90以上の銅基合金になっている。さらに加熱5を行った後のビッカース硬さもHV90以上であり、加熱5を行う前のビッカース硬さの90%以上の値に達している。したがって、実施例14〜17の銅基合金は、パワー半導体モジュールの放熱板の材料として異種材料と接合した場合にも優れている。
【0052】
これに対して、加熱3と圧延2まで行った比較例21の銅基合金は、ビッカース硬さHV90以上を満たしているが、熱伝導率および導電率が必要とされる数値に達していないために劣っている。また、加熱3と圧延2を行った後に500℃で8時間加熱した比較例22の銅基合金は、熱伝導率が300W/m・K以上、導電率80%以上であるが、ビッカース硬さがHV80未満であるために劣っている。
【0053】
【発明の効果】
上述したように、本発明による銅基合金は、強度、熱伝導性、電気伝導性、耐熱性およびプレス加工性に優れているとともに、本発明による銅基合金を異種材料と接合し、その後の圧延および加熱により、銅基合金部分の強度、熱伝導性および耐熱性を向上させて、接合前と同等の特性を得ることができる。したがって、本発明による銅基合金を異種材料と接合することにより製造した放熱板は、アセンブリ時における平坦性や、ヒートサイクル環境下における放熱板と金属−セラミックス絶縁基板やチップとの間のはんだ接合部の信頼性に優れており、この放熱板を用いて動作信頼性に優れたパワー半導体モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】試験片の加熱装置を概略的に示す側面図。
【符号の説明】
10 試験片
12 純銅板
14 ホットプレート
16 温度制御装置

Claims (10)

  1. Fe、Co、NiおよびMgの少なくとも 1 種以上の元素とPとを合計0.01〜2.0質量%含有し、残部が銅および不可避元素不純物からなる銅基合金であって、粒径50μm以上の結晶粒と粒径1〜20μmの結晶粒を含み、熱伝導率が300W/m・K以上、導電率が80%IACS以上、ビッカース硬さがHV90以上、400℃で10分間加熱後のビッカース硬さが加熱前のビッカース硬さの90%以上の銅基合金が、この銅基合金と異なる材料に接合されたことを特徴とする、放熱板用材料。
  2. 前記銅基合金が、さらに0.01〜1.0量%のSnと、0.01〜1.0量%のZnと、0.01〜1.0量%のZrと、0.01%〜1.0量%のTiと、0.01〜1.0量%のAgのうち少なくとも1種以上の元素を0.01〜1.0量%含有することを特徴とする、請求項に記載の放熱板用材料。
  3. 前記銅基合金と異なる材料が、Si、WまたはMo、これらの酸化物、炭化物または窒化物、あるいはCu−W、Cu−MoまたはCu−SiCであることを特徴とする、請求項1または2に記載の放熱板用材料。
  4. Fe、Co、NiおよびMgの少なくとも1種以上の元素とPとを合計0.01〜2.0量%含有し、残部が銅および不可避元素不純物からなる銅基合金を、この銅基合金の融点T(℃)の1/2以上の温度(℃)で、この銅基合金と異なる材料と接合した後に、加工率10〜80%で冷間圧延加工を行い、その後、400〜550℃の温度で10分〜6時間加熱することを特徴とする、放熱板用材料の製造方法。
  5. 前記1/2以上の温度(℃)が700℃以上の温度であることを特徴とする、請求項に記載の放熱板用材料の製造方法。
  6. 前記銅基合金の熱伝導率が300W/m・K以上、導電率が80%IACS以上、ビッカース硬さがHV90以上、400℃で10分間加熱後のビッカース硬さが加熱前のビッカース硬さの90%以上であることを特徴とする、請求項またはに記載の放熱板用材料の製造方法。
  7. 前記銅基合金が、さらに0.01〜1.0量%のSnと、0.01〜1.0量%のZnと、0.01〜1.0量%のZrと、0.01%〜1.0量%のTiと、0.01〜1.0量%のAgのうち少なくとも1種以上の元素を0.01〜1.0量%含有することを特徴とする、請求項乃至のいずれかに記載の放熱板用材料の製造方法。
  8. 前記銅基合金が、粒径50μm以上の結晶粒と粒径1〜20μmの結晶粒を含むことを特徴とする、請求項乃至のいずれかに記載の放熱板用材料の製造方法。
  9. 前記銅基合金と異なる材料が、Si、WまたはMo、これらの酸化物、炭化物または窒化物、あるいはCu−W、Cu−MoまたはCu−SiCであることを特徴とする、請求項乃至のいずれかに記載の放熱板用材料の製造方法。
  10. 請求項乃至のいずれかに記載の放熱板材料からなる放熱板を用いたことを特徴とする、パワー半導体モジュール。
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