JP4055275B2 - フィルムの製造装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はフィルムの製造装置に関し、更に詳しくは、低融点フィルムの製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリプロピレン等に代表されるプラスチックフィルムは、様々な商品の包装や工業用資材に幅広く使用され、用途・生産量共に拡大の一途を辿っている。これらのプラスチックフィルムは、例えば図5に示されるような2軸延伸法を用いた製造装置によって製造される。
【0003】
この製造方法は、溶融した樹脂化合物をシート状に広げつつ押し出すTダイ及び押し出された樹脂化合物を受け、冷却することにより樹脂化合物をシート成形する冷却ロールを備えたシート成形部と、成形されたシートの流れ方向に対して延伸する縦延伸部と、シートの流れ方向に対して直角方向に延伸する横延伸部とから構成される。
【0004】
プラスチックフィルムの製造において、シート成形部における冷却が速やかに行われないと、樹脂化合物の結晶化が促進され、球晶が成長しプラスチックフィルムの延伸性を低下させる要因になる。また、前述した樹脂化合物の融点に対して十分な冷却が行われないと、冷却ロール上に成形されたシートが冷却ロールから剥離される際に剥離跡等を生じ、成形されたフィルムは製品としての価値がなくなってしまう。このため、前述した樹脂化合物は、溶融した樹脂化合物における結晶化温度の近傍を早く通過し、融点に対して十分低い温度まで冷却されることが、プラスチックフィルムの品質を保つ上で重要である。
【0005】
シート成形部は、上記事項を解決するために従来から様々な形式の成形装置が提案されてきた。これら提案された成形装置を例示すると、Tダイから押し出された樹脂化合物を冷却する複数の冷却ロールが備えられ、この冷却ロールは成形されるシートの表面或いは裏面を冷却するように配置されたマルチロールキャスティング機や、冷却ロールの外側に複数の水噴霧装置を有し、この水噴霧装置によって冷却ロール上に成形されたシートを冷却する水スプレータイプキャスティング機や、冷却ロールを水槽に浸けて、冷却ロール上に成形されたシートを冷却する水冷ドラムキャスティング機(図6〜図8)等が挙げられる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、プラスチックフィルムの製造において前述したシート成形部は、プラスチックフィルムの品質を確保する上でも重要であるが、プラスチックフィルムの生産性を向上させる上でも重要である
【0007】
プラスチックフィルムの生産性を向上させるには、成形されたシートが単位時間当たりに成形される量を増やすことが肝要で、冷却ロールの回転速度を増速する手段が考えられる。
【0008】
冷却ロールの回転速度を増速する場合については、ある程度回転速度を増速すると、冷却ロール上に押し出されて冷却される樹脂化合物及び冷却ロールの間で熱平衡が成立し、冷却ロールが樹脂化合物の冷却に必要な冷却能力を保てなくなることから、成形されるプラスチックフィルムに延伸性の低下や剥離跡の発生等を生じさせる恐れがある。これを避けるためには冷却面の拡張が考えられる。
【0009】
冷却面の拡張は、冷却ロールのロール径を大きくすることで解決されるが、冷却ロールを大きくするにはコストがかかる上、大型化した冷却ロールの運転制御が困難である。また、冷却ロールのロール径を大きくせずに、複数の冷却ロールで冷却面を拡張する場合においても、冷却ロールの増加に伴う成形装置の大型化は否定できないと共に、前述した樹脂化合物が速やかに冷却されない恐れがある。
【0010】
上記事項は、プロピレン−エチレンランダム共重合体等に代表される低融点を有する樹脂化合物をフィルムに成形する場合においてより顕著に表れ、低融点を有する樹脂化合物から成形されるフィルムにおける生産性の向上をより困難にしている。
【0011】
本発明は前述した事項に鑑みなされたもので、その目的は、製造装置を大型化することなく、生産性を向上させることが可能なフィルムの製造装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本願発明者らは、コンピューターシュミレーションによってフィルムの製造装置の運転条件を様々に変化させたときの、供給される樹脂化合物の温度、冷却ロールの温度、成形されるシートの温度等の諸条件を解析した。その結果、本願発明者らは、冷却ロール上に成形されたシートが冷却ロールと剥離する冷却ロール上の剥離部位を冷却し、冷却ロールの冷却能力を維持することが、冷却ロールに供給された樹脂化合物の冷却を速やかに行う上で有効であることを見い出した。
【0013】
このようにコンピューターシュミレーションを用いて冷却ロールの運転条件を解析する検討方法は従来よりいくつか報告されているが、従来の解析方法ではロール温度を一定として解析するもので、ロール温度の分布を考慮する場合でも冷却ロール上を成形されたシートが滑っているものとして解析するものであって、成形されたシートが冷却ロール上を冷却ロールの回転に伴って移動する現象を想定できていないため実現性に乏しく、解析によって得られた冷却ロール上の温度分布と実際に測定された冷却ロール上の温度分布との間に、大きな隔たりが生じることがあった。
【0014】
そこで本願発明者らは、冷却ロールと冷却ロール上に成形されるシートの解析モデルを、連続している直線形の冷却ロールに、直線形のシートが断続的に接する解析モデルとし、有限要素法による熱流体解析プログラム(商品名:POLYFLOW、開発元:POLYFLOW S.A.,Universite Chatholique de Louvan)を用い、冷却ロールの回転及び冷却ロールの回転に伴って移動するシートを考慮した解析を行い、鋭意検討を重ねた結果、本発明のフィルムの製造装置を発明するに至った。
【0015】
本発明はフィルムの製造装置であり、上記課題を解決する手段として、以下のような構成とされている。
すなわち、本発明におけるフィルムの製造装置は、溶融状態のフィルム材料を供給する材料供給装置と、円筒体であって、この円筒体の軸に対して回転自在に設置され、前記円筒体内に前記円筒体の周面を内側から冷却する冷却手段を有し、前記円筒体の外周面に供給される前記材料を受け、フィルムを成形させる冷却ロールと、前記冷却ロールの外側に設置され、この冷却ロールの外周面上に成形された前記フィルムを前記外周面から剥離させる剥離手段と、前記冷却ロールの外側に設置され、この冷却ロールと前記フィルムが剥離する前記冷却ロールの外周面上の部位を、前記冷却ロールの外側から冷却する冷却装置とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明におけるフィルムの製造装置で製造されるフィルムは、溶融した状態で冷却ロールに供給されるフィルム材料から成形されるフィルムであれば特に限定されないが、熱可塑性を有する樹脂化合物であると好ましく、熱可塑性及び延伸性を有する樹脂化合物であるとさらに好ましい。また、本発明のフィルムの製造装置は、低融点フィルム、すなわち少なくとも一方の表面が低融点樹脂からなる多層フィルム、または全体が低融点樹脂からなるフィルムを製造するのに好適である。ここで、低融点樹脂とは融点が90℃〜145℃のものをいい、この融点は示差走査熱量測定(DSC)法によって、昇温速度10℃/minで測定されるものである。
【0017】
本発明のフィルムの製造装置で用いられるフィルム材料には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、アクリル−スチレン共重合体、アクリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等が例示できる。
【0018】
前記材料供給装置は、溶融したフィルム材料が冷却ロールに供給されたとき、冷却ロール上でフィルムを形成するように供給する供給装置とすることができ、例えば材料供給装置には、細長い開口部を有し、この開口部は冷却ロールの回転軸と開口部の長さ方向とが平行の位置にあり、かつこの開口部が冷却ロールの上方に設置され、開口部から垂直下方にフィルム材料を供給する供給装置(Tダイ)が例示できる。
【0019】
前記冷却ロールのロール径は1〜5mが好ましく、2〜4mであるとさらに好ましい。冷却ロールの内部に設けられる冷却手段は特に限定されず、工水やチラー水等による水冷が例示される。この水冷に用いられる水の温度は、不凍液を用いることにより−10〜30℃とすると好ましく、さらには10〜30℃であるとより好ましい。
【0020】
前記剥離手段は、冷却ロールの周面上に成形されたフィルムを冷却ロールの周面から剥離させる手段であって、例えば、冷却ロールの外側に設置され、冷却ロールの回転軸に平行な回転軸を有する円筒体で、フィルムが冷却ロール上から剥離するような方向に回転し、冷却ロールからフィルムを冷却ロール外側に誘導するロールを例示できる。
【0021】
前記冷却装置は、剥離手段によってフィルムと冷却ロールとが剥離した冷却ロール上の部分(剥離線)から、冷却ロールの回転方向に対して前方にあたる冷却ロールの外周面を冷却する装置とすることができ、冷却手段には、冷却ロールの外側に設置され、剥離線から冷却ロールの回転方向に対して前方にあたる冷却ロールの外周面に冷却水を噴霧する水噴霧装置を例示できる。
【0022】
この冷却装置は単数設置されていても良く、或いは複数設置されていても良いが、冷却ロールの回転方向に対して剥離線から前方にあたる冷却ロールの外周面を満遍なく冷却するように設置されていることが好ましい。冷却装置に上記水噴霧装置を用いる場合、噴霧される水の温度は10〜30℃であると好ましい。
【0023】
前記冷却ロールの外側には、前記材料供給装置から冷却ロールに供給されたフィルム材料を冷却ロールの外周面に密着させる手段として、冷却ロールの外周面に供給されたフィルム材料を冷却ロールの外周面に押圧する手段を設けると良い。このフィルム材料を冷却ロールの外周面に押圧する手段としては、冷却ロールの外側に設置され、空気の噴出により冷却ロールに供給されたフィルム材料を冷却ロールのロール幅方向に対して均一に押圧する空気噴出装置が例示できる。
【0024】
また、ポリエチレンテレフタレートのように溶解粘度が低く、誘電率が大きなフィルム材料には上記手段として、高電圧をかけられることにより溶融しているフィルム材料に静電荷を付与する電極を備えた静電ピンニング装置を例示できる。
【0025】
冷却ロールによって冷却されるフィルム材料は、冷却ロール上で成形されたフィルムの両面から冷却されることが好ましいので、冷却ロールの外側には、冷却ロールの外周面に成形されたフィルムを冷却ロールの外側から冷却する手段を設けると良い。冷却ロールの外周面に成形されたフィルムを冷却ロールの外側から冷却する手段としては、冷却ロールの外側に設置され、冷却ロールの外周面の一部を浸漬する水槽や、冷却ロールの外周面に成形されたフィルムを満遍なく冷却するように配置された複数の水噴霧装置が例示できる。
【0026】
さらに、前記材料供給装置と前記冷却装置との間における冷却ロールの外側には、材料供給装置からフィルム材料が供給される前に、冷却ロールの外周面上の水を除去する手段を設けることが好ましく、この手段としては、空気の噴出によって冷却ロール上の水を飛散させる水切エアブロや、真空吸引によって冷却ロール上の水を吸い取る水切ブロアノズル等が例示される。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明における一実施の形態について、図に基づき説明する。本実施の形態におけるフィルムの製造装置を図1に示す。
【0028】
<フィルムの製造装置>
本実施の形態におけるフィルムの製造装置は、溶融状態のポリプロピレン(PP)を供給する細長い形状の開口部であるTダイの開口部1aを備えたTダイ1と、円筒体であって、この円筒体の軸に対して回転自在に設置され、円筒体の外周面に供給される溶融PPを受け、フィルムを成形させる冷却ロール2と、冷却ロール2の外側に設置され、冷却ロール2の外周面上に成形されたPPフィルムを冷却ロール2の外周面から剥離させる剥離ロール3と、冷却ロール2の外側に設置され、冷却ロール2とPPフィルムが剥離する冷却ロール2における外周面上の部分である剥離線4から冷却ロール2の回転方向に対して前方にあたる冷却ロール2の外周面を、冷却ロール2の外側から冷却する水噴霧装置5とを有している。
【0029】
Tダイの開口部1aは、冷却ロール2のロール幅よりも小さい長さと、この長さに対して非常に小さく均一な幅とを有している。Tダイ1はTダイの開口部1aにおける長さ方向と冷却ロール2の回転軸とが平行に位置し、かつ冷却ロール2の上方にあり、Tダイの開口部1aの垂直下方へ溶融PPを供給するように設置されている。
【0030】
冷却ロール2は、ロール径が280cmで、ロールの両端面が閉塞されている円筒体で、冷却ロール2の内側には、冷却水2aが導入されており、冷却ロール2の周面を内側から冷却可能にしている。冷却水2aの水温は25℃に設定されている。冷却水2aは、循環可能に導入されており、冷却水2aの水温を一定に保つように制御されている。
【0031】
剥離ロール3は回転自在に設置された円筒体で、冷却ロール2の回転軸に平行な位置にある回転軸を有し、冷却ロール2の外周面で成形されたPPフィルムを、冷却ロール2の外周面から剥離する方向へPPフィルムを誘導するように回転するロールである。
【0032】
水噴霧装置5は、剥離線4から冷却ロール2の回転方向に対して前方にあたる冷却ロール2の外周面を、冷却ロール2のロール幅方向に満遍なく冷却するように設置されている。
【0033】
冷却ロール2の外側には、Tダイ1から冷却ロール2の外周面に供給された溶融PPを空気の噴出により押圧するエアナイフ6が設置されている。また、冷却ロール2の外側には、冷却ロール2の外周面の一部を浸漬し、冷却ロール2の外周面に形成されるPPフィルムを外側から冷却する冷却水7aを有する水槽7が設置されている。また、冷却ロール2の外側であって、Tダイ1と水噴霧装置5との間には、空気の噴出によって冷却ロール2の外周面上に残存する水を除去する水切エアブロ8が設置されている。
【0034】
エアナイフの開口部6aも、Tダイの開口部1aと同様に冷却ロール2のロール幅よりもやや小さい長さと、この長さに対して非常に小さく均一な幅を有している。エアナイフ6は、エアナイフの開口部6aにおける長さ方向と冷却ロール2の回転軸とが平行に位置し、かつTダイ1から供給された溶融PPが冷却ロール2の外周面と接する部分に空気を噴出するように設置されている。
【0035】
水槽7に収容されている冷却水7aも循環可能になっており、冷却水7aの水温を一定に保つように制御されている。本実施の形態における冷却水7aの温度は47℃に設定されている。なお、冷却ロール2は、冷却ロール2の断面において、冷却ロール2の外周面が冷却水7aと接している点と冷却ロール2の回転軸(円心)とを結んだ直線が、冷却ロール2の円心で形成する角度(接触角度)が160°になるように水槽7内に設置されている。
【0036】
水切エアブロ8も、Tダイ1及びエアナイフ6と同様に冷却ロール2のロール幅よりもやや小さい長さと、この長さに対して非常に小さく均一な幅を有する開口部を備えている。水切エアブロ8は、その開口部の長さ方向と冷却ロール2の回転軸とが平行に位置し、冷却ロール2のロール幅方向に満遍なく空気を噴出するように設置されている。なお、水切エアブロ8から噴出される空気の温度は特に限定されず、室温でも良いし、低温の空気でも良い。
【0037】
<フィルムの製造方法>
次に本実施の形態におけるフィルムの製造装置を用いたPPフィルムの製造方法について説明する。
まず、溶融PPがTダイ1から回転している冷却ロール2の外周面に供給される。Tダイの開口部1aから供給される溶融PPの温度は約250℃である。Tダイは、Tダイの開口部1aの長さ方向が冷却ロール2の回転軸に対して平行になるように設置されているため、Tダイ1から供給される溶融PPは、冷却ロール2の外周面で速やかに薄膜を形成し、フィルムとなる。冷却ロール2は、冷却ロール2の回転によって移動するPPフィルムの移動速度が約80m/minになるような回転速度で回転している。
【0038】
冷却ロール2の外周面で成形されたPPフィルムは、エアナイフの開口部6aから送風される空気によって冷却ロール2の外周面に押圧され、密着する。このとき、エアナイフ6から送風される空気の温度は約160℃である。
【0039】
冷却ロール2の外周面に密着したPPフィルムは、冷却ロール2の回転に伴って移動し、水槽7に収容された冷却水7a中を冷却ロール2の外周面に密着したまま通過する。PPフィルムは冷却ロール2と冷却水7aによって両面から均一で、かつ急激に冷却される。
【0040】
冷却ロール2及び冷却水7aによって急冷されたPPフィルムは、剥離ロール3によって誘導され、剥離線4を境に冷却ロール2の外周面から剥離し、次工程である縦延伸工程、さらには横延伸工程へ送られ、PPフィルムとして成形される。
【0041】
また、冷却ロール2の断面において、溶融PPが供給された冷却ロール2上の部分と冷却ロール2の円心を結んだ直線及び剥離線4と冷却ロール2の円心とを結んだ直線が、冷却ロール2の円心で形成する角度(フィルム抱付角度)は、約217°である。
【0042】
冷却ロール2の外周面は冷却ロール2の内側から冷却されるが、供給される溶融PPの温度が高いこと、冷却ロール2の外周面に成形されたPPフィルムが断熱効果を呈すること等の理由から、冷却ロール2の外周面は、冷却ロール2の内側から冷却している冷却水2aの温度より高い温度で熱平衡状態に達する。この平衡状態は、冷却ロール2の回転速度が速くなるほど高温で平衡となり、冷却ロール2の外周面は加温され、冷却ロール2の内側からの冷却だけでは十分冷却しきれない。
【0043】
溶融PPの供給によって加温された冷却ロール2は、水噴霧装置5から噴霧される水により、剥離線4から冷却ロール2の回転方向に対して前方にあたる冷却ロール2の外周面において冷却される。冷却ロール2は、外周面側から水噴霧装置5によって冷却されることにより、加温された冷却ロール2における外周面の温度が下がり、再び溶融PPが供給されたときの冷却ロール2における外周面の温度を一定に保つことができる。
【0044】
水噴霧装置5によって冷却された冷却ロール2の外周面は、水切ブロア8からの空気の噴出を受け、冷却ロール2の外周面上に残存する水が除去された後に、再びTダイの開口部1aから供給される溶融PPを受け、連続的にPPフィルムを成形する。
【0045】
<本実施形態におけるフィルムの製造装置の評価>
ここで、本実施の形態における諸条件から解析モデルを設定し、前述した有限要素法による熱流体解析プログラムを用いて本実施の形態におけるフィルムの製造装置を評価し、水噴霧装置5の有効性を解析した。図2及び図3に、剥離線におけるPPフィルムの温度を所定の温度まで下げたときの冷却ロール2のロール径及びフィルムの移動速度の関係を示す。
【0046】
図2は剥離線4で冷却ロール2から剥離したときのPPフィルムを70℃まで冷却するために必要な冷却ロール2のロール径及びそのときのPPフィルムの移動速度を示す図である。水噴霧装置5による冷却が行われる場合を実線で、水噴霧装置5による冷却が行われない場合を破線でそれぞれ表している。この解析に用いられた解析モデルは、前述した実施の形態における諸条件で構成されている。
【0047】
図2で示されるように、冷却ロール2のロール径が280cmの場合、水噴霧装置5による冷却が行われない場合でのフィルムの移動速度は60m/minだが、水噴霧装置5による冷却が行われる場合でのフィルムの移動速度は80m/minに増している。また、フィルムの移動速度を60m/minで一定として見たとき、この移動速度で成形されるフィルムを70℃まで冷却するのに必要とされる冷却ロール2のロール径は、水噴霧装置5による冷却が行わない場合でのロール径が280cmであるのに対して、水噴霧装置5による冷却が行われた場合でのロール径は150cmである。
【0048】
上記事項から水噴霧装置5による冷却を行うことで、同径の冷却ロール2を用いた場合は、冷却ロール2で成形されたフィルムの移動速度を早くすることができ、フィルムの移動速度を一定にした場合は、冷却ロール2のロール径を小さくすることができる。また、これらの特徴は、ロール径又はフィルムの移動速度が大きい程顕著であることがわかる。
【0049】
図3は、剥離線4で冷却ロール2から剥離したときのPPフィルムを80℃まで冷却するために必要な冷却ロール2のロール径及びそのときのPPフィルムの移動速度を示す図である。図2と同様の特徴が見られるが、ロール径及びフィルムの移動速度が小さい領域では、図2よりも水噴霧装置5による冷却の優位性が表れていない。これらのことから、水噴霧装置5による冷却は、冷却ロール2から剥離するまでに比較的冷却を必要としないフィルムの製造よりも、より低い温度まで冷却が必要な低融点を有するフィルムの製造に適していることがわかる。
【0050】
図4は、冷却ロール2のロール径を280cmとした場合において、冷却ロール2から剥離したときのフィルム温度とフィルムの移動速度との関係を示した図である。図4からわかるように、水噴霧装置5によって冷却を行うことにより、水噴霧装置5による冷却が行われない場合に対して、温度が一定である場合ではフィルムの移動速度を15〜20m/min増速することが可能であり、フィルムの移動速度が一定である場合では約10℃低い温度まで冷却が可能である。
【0051】
【発明の効果】
本発明におけるフィルムの製造装置は、冷却ロールの外周面の一部であって、冷却ロールの外周面に成形されたフィルムが冷却ロールと剥離する剥離線から、冷却ロールの回転方向に対して前方にあたる冷却ロールの外周面を、冷却ロールの外側に設置された冷却装置によって冷却することにより、冷却ロールの冷却能力を良好な状態に維持し、冷却ロールの外周面に成形されたフィルムを効果的に冷却可能である。
【0052】
また、本発明におけるフィルムの製造装置は、上記冷却装置による冷却ロールの冷却を行うことにより、冷却ロールのロール径を一定とした場合、冷却ロールの外周面で成形され、冷却ロールの回転によって移動するフィルムの移動速度を増速することができるので、製造装置を大型化することなくフィルムの生産性を向上させることができる。
【0053】
さらに、本発明におけるフィルムの製造装置は、上記冷却装置による冷却ロールの冷却を行うことにより、冷却ロールのロール径及びフィルムの移動速度を一定とした場合、上記剥離線で冷却ロールの外周面から剥離したときのフィルムの温度を下げることができるので、低融点を有するフィルムの製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態におけるフィルムの製造装置を示す概略図である。
【図2】成形されたフィルムを70℃まで冷却したときのロール径とフィルムの移動速度との関係を示す図である。
【図3】成形されたフィルムを80℃まで冷却したときのロール径とフィルムの移動速度との関係を示す図である。
【図4】ロール径が一定のときのフィルム温度とフィルムの移動速度の関係を示す図である。
【図5】従来の二軸延伸法を用いたフィルムの製造装置を示す構成図である。
【図6】従来のマルチロールキャスティング機を示す概略図である。
【図7】従来の水スプレータイプキャスティング機を示す概略図である。
【図8】従来の水冷ドラムキャスティング機を示す図である。
【符号の説明】
1 Tダイ
1a Tダイの開口部
2 冷却ロール
2a、7a 冷却水
3 剥離ロール
4 剥離線
5 水噴霧装置
6 エアナイフ
6a エアナイフの開口部
7 水槽
8 水切エアブロ

Claims (2)

  1. 溶融状態のフィルム材料を供給する材料供給装置と、円筒体であって、この円筒体の軸に対して回転自在に設置され、前記円筒体内に前記円筒体の周面を内側から冷却する冷却手段を有し、前記円筒体の外周面に供給される前記材料を受け、フィルムを成形させる冷却ロールと、前記冷却ロールの外側に設置され、この冷却ロールの外周面上に成形された前記フィルムを前記外周面から剥離させる剥離手段と、前記冷却ロールの外側に設置され、この冷却ロールと前記フィルムが剥離する前記冷却ロールの外周面上の部位を、前記冷却ロールの外側から噴霧された水で冷却する冷却装置とを有することを特徴とするフィルムの製造装置。
  2. 低融点フィルムを製造するべく、溶融状態のフィルム材料を供給する材料供給装置と、円筒体であって、この円筒体の軸に対して回転自在に設置され、前記円筒体内に前記円筒体の周面を内側から冷却する冷却手段を有し、前記円筒体の外周面に供給される前記材料を受け、フィルムを成形させる冷却ロールと、前記冷却ロールの外側に設置され、この冷却ロールの外周面上に成形された前記フィルムを前記外周面から剥離させる剥離手段と、前記冷却ロールの外側に設置され、この冷却ロールと前記フィルムが剥離する前記冷却ロールの外周面上の部位を、前記冷却ロールの外側から冷却する冷却装置とを有する低融点フィルムの製造装置。
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