JP4055228B2 - エリスリトールの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はエリスリトールの製造方法に関し、更に詳しくは、培地の主窒素源として硫酸アンモニウムを使用することにより、発酵法により工業的に有利にエリスリトールを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
エリスリトールの製造方法としては、トリゴノブシス属(Trigonopsis )、キャンジダ属(Candida )の酵母をグリセロールを炭素源とし、カゼイン加水分解物を窒素源とする培地に培養して製造する方法(特公昭47−41549号公報)、キャンジダ属(Candida )、トルロプシス属(Torulopsis)、ハンゼヌラ属(Hansenula)の酵母を炭化水素などを炭素源とし、酵母エキス、尿素を窒素源とする培地に培養して製造する方法(特公昭51−21072号公報)が知られている。しかしながら、これらの方法は、炭素源として使用される原料が実際の工業的生産において適当でないため、未だ工業化されていない。
【0003】
また、モニリエラ・トメントサ・バール・ポリニス(Moniliella tomentosa var. pollinis)をグルコースなどの糖質を炭素源とし、コーンスティープリカー、尿素、酵母エキスを窒素源とする培地に培養して製造する方法(特開昭60−110295号公報など)、エリスリトール生産菌を酵母エキス、コーンスティープリカーを窒素源とする培地に培養して製造する方法(特開平1−199584号公報)も知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
窒素源としては上記の様な種々のものが知られている。しかしながら、尿素は食添としては認可されておらず、食品としてのエリスリトールの製造方法には使用できない。酵母エキス、カゼイン加水分解物は非常に高価であり、工業的生産においては必ずしも有利な方法とはいえない。また、コーンスティープリカーを主窒素源とした場合は、グリセリンが副生したり、生産したエリスリトールが褐色に着色したり、多量の塩が混在するため、精製工程での負荷が大きくなり、経済的に不利である。そこで、本発明の目的は、食添認可品で安全かつ安価な窒素源を使用し、工業的生産に適したエリスリトールの製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、主窒素源として硫安を使用することにより目的が達成されることを見い出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は、発酵性糖質からエリスリトールを産生する能力を有する酵母を、発酵性糖質を主炭素源とする培地で培養し、培養物よりエリスリトールを採取するエリスリトールの製造方法において、培地の窒素原子換算の窒素源の50〜85%が硫酸アンモニウムであり、残余がコーンスティープリカーであることを特徴とするエリスリトールの製造方法に存する。
【0006】
本発明の好ましい実施の態様によれば、酵母が、モニリエラ属(Moniliella)に属する酵母である上記の製造方法;酵母が、モニリエラ・ポリニス(Moniliella pollinis)である
上記の製造方法;酵母が、イエロビア属(Yarrowia)に属する酵母である上記の製造方法;酵母が、イエロビア・リポリチカ(Yarrowia lipolytica)である上記の製造方法;酵母が、トリコスポロノイデス属(Trichosporonoides)に属する酵母である上記の製造方法;酵母がトリコスポロノイデス・オエドセファリス(Trichosporonoides oedocephalis)、トリコスポロノイデス・ニグレッセンス(Trichosporonoides nigrescens)および/またはトリコスポロノイデス・メガチリエンシス(Tricosporonoidesmegachiliensis)である上記の製造方法;発酵性糖質が、グルコース、フルクトースおよび/またはグリセロールである上記の製造方法;培地中の窒素源濃度が、0.1〜5.0%(W/V)である上記の製造方法;培養液のpHを3.0〜7.0に保持することを特徴とする上記の製造方法が提供される。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明で用いる酵母としては、発酵性糖質からエリスリトールを産生する能力を有するものであればいかなる酵母であっても良い。具体的には、モニリエラ属(Moniliella)、イエロビア属(Yarrowia)、トリコスポロノイデス属(Trichosporonoides )に属する酵母が挙げられ、モニリエラ属(Moniliella)に属する酵母としては、例えばモリニエラ・ポリニス(Moniliella pollinis )、イエロビア属(Yarrowia)に属する酵母としては、例えばイエロビア・リポリチカ(Yarrowia lipolytica)、トリコスポロノイデス属(Trichosporonoides )に属する酵母としては、例えば、トリコスポロノイデス・オエドセファリス(Trichosporonoides oedocephalis )、トリコスポロノイデス・メガチリエンシス(Tricosporonoides megachiliensis)、トリコスポロノイデス・ニグレッセンス(Trichosporonoides nigrescens )が挙げられる。上記微生物は、UV照射、N−メチル−N’−ニトロソグアニジン(NTG)処理、エチルメタンスルホネート(EMS)処理、亜硝酸処理、アクリジン処理等による変異株、あるいは細胞融合もしくは遺伝子組換え法などの遺伝学的手法により誘導される組換え株などのいずれの株であってもよい。
【0008】
本発明の製造方法においては、上記微生物を1種あるいは2種以上が用いられる。
より具体的には、例えば、モニリエラ・ポリニスCBS461.67の変異株MCI3371、モニリエラ・ポリニスMCI3554の変異株であるモニリエラ・ポリニスMCI3555、イエロビア・リポリチカATCC8661、トリコスポラノイデス・オエドファリスCBS568.85の変異株MCI3440、トリコスポラノイデス・メガチリエンシスCBS567.85の変異株MCI3369、トリコスポラノイデス・ニグレッセンスCBS268.81の変異株MCI3437を挙げることができる。
【0009】
イエロビア・リポリチカATCC8661を除く上記の菌株は、国際寄託機関であるオランダ国のCentraal Bureau voor Schimmelcultures(CBS)寄託されている菌株や発明者らが自然界から分離した菌株から紫外線照射、Nーメチル−N’−ニトロ−ニトロソグアニジン(NTG)等の変異誘起剤処理により発泡性を低減させた変異株であり、MCI3369、MCI3371、MCI3437、MCI3440、MCI3554、MCI3555はそれぞれ工業技術院生命工学技術研究所にFERM BP−6172、FERM BP−6173、FERM BP−6174、FERM BP−6175、FERM BP−6170、FERM BP−6171として寄託されている。また、イエロビア・リポリチカATCC8661株はアメリカのAmerican Type Culture Collection(ATCC)に寄託されているが、工業技術院生命工学技術研究所にFERM BP−6169としても寄託されている。MCI3369、MCI3371、MCI3437、MCI3440、MCI3554およびMCI3555の菌学的性状は以下の通りである。
【0010】
MCI3369
MCI3369株はPDA上、24℃培養ではじめ白色、後にオリーブがかった灰色、2週間以上の古い培養ではオリーブ褐色に変色する。菌の生育は速く、酵母様の出芽により増殖する。酵母様の細胞ははじめ無色、後にはオリーブがかった褐色を呈する。栄養菌糸はよく発達し、隔壁を有し分枝する、幅2〜3.8μm、はじめ無色、後に若干厚膜化し褐色に変色する。気中菌糸の発達は旺盛で、気中菌糸の側面より出芽型分生子を形成する。栄養菌糸、気中菌糸は断片状に切れて分節型の分生子となる。分節型分生子は円筒形〜樽形、3.6〜25μm×2.2〜4.3μm、はじめ無色、後に淡褐色になる。出芽型分生子は単一または3〜4個の連鎖となる。分生子は細長い楕円形、大きさは3.4〜7.5μm×1.9〜4.1μm(平均6.5±1.2μm×3.8±0.6μm)、はじめ無色、後にオリーブがかった褐色を呈する。
本菌株(MCI3369)の形態学的性状は親株であるトリコスポロノイデスメガチリエンシス(Trichosporonoides megachiliensis) CBS567.85の基準株の特徴によく一致した。従って、本菌株はトリコスポロノイデス メガチリエンシス(Trichosporonoides megachiliensis) と同定した。
【0011】
MCI3371
MCI3371株はPDA上、24℃培養で始め白色〜黄味白色、培地一週間後ににぶ黄色、さらに古い培養では黒褐色に変色する。菌の生育は速く、酵母様の出芽により増殖する。出芽細胞ははじめ薄膜でオリーブがかった褐色を呈する、後に厚膜化して着色する。酵母様の出芽と同時に栄養菌糸が伸長する。栄養菌糸は隔壁を有し、分枝する。幅2〜4.5μm、はじめ無色、後に褐色になる。菌糸は断片状に切れて分節型の分生子となる、または菌糸の側面あるいは先端部より出芽型の分生子を形成する。分節型分生子は円筒形〜樽形、6〜35μm×2.5〜5.0μm、はじめ無色、後に褐色になる。出芽型分生子は単一または2〜3個の連鎖となって形成される、卵形〜楕円形、あるいは亜球形、大きさは4.7〜9.4μm×3.1〜5.6μm(平均6.8±1.3μm×4.5±0.6μm)、はじめ無色、後にオリーブがかった褐色となる。
【0012】
本菌株(MCI3371)は分節型分生子と出芽型分生子の二形性を有する、2)出芽型分生子は求頂的に形成され同調的に形成されない特徴を有する。これらの特徴に基づいてDe Hoog & Hermanides-Nijhof (1977)のモノグラフに従って属の検索を行ったところ、本菌株はモニリエラ(Moniliella) 属に帰属することが判明した。De Hoog (1979)の“The Black yeasts, II:Moniliella and Allied Genera”Studies in Mycology No.19,1 〜90によれば、モニリエラ(Moniliella)属にはモニリエラ スアベオレンス バー スアベオレンス(Moniliella suaveolens var. suaveolens)、モニリエラ スアベオレンス バー ニゲル(Moniliella suaveolens var. niger)、モニリエラ アセトアブテンス(Moniliel la acetoabutens )およびモニリエラ ポリニス( Moniliella pollinis )の3種2変種が知られている。これらの種や変種は主として出芽型分生子あるいは分節型分生子の形態学的特徴によって区別されている。本菌株の形態学的性状を精査した結果、本菌はモニリエラ ポリニス( Moniliella pollinis )の記載によく合致した。従って本菌株はモニリエラ ポリニス( Moniliella pollinis )と同定した。
【0013】
MCI3437
MCI3437株はLCA上、24℃培養で初め白色〜黄味白色、培養1週間後に黄褐色、2週間以上の古い培養では暗い黄茶色に変色する。菌の生育は中程度、コウボ様の出芽により増殖する。出芽細胞は初め、薄膜でオリーブがかった褐色を呈する、後に厚膜化して、黒褐色に着色する、多極出芽により増殖する。1回から3〜4回出芽して増殖する。コウボ様の出芽と同時に基底菌糸が伸長する。基底菌糸は隔壁を有し、分枝する、幅2〜4.5μm、初め無色、後に褐色になる。菌糸は断片状に切れて分節型の分生子になる、あるいは菌糸の側面あるいは先端部より出芽型の分生子を形成する。分節型分生子は円筒形〜樽型、長さは変化に富む、幅は2.5〜5.0μm、初め無色、後に褐色になる。出芽型分生子は基底菌糸の側面及び先端に形成する、単一あるいは2、3の連鎖となって形成される、亜球形〜楕円形、4.3〜9.2×3.8〜6.5μm、褐色、厚膜化する。37℃では生育しない。
【0014】
本菌株(MCI3437)は1)分節型分生子と出芽型分生子の二形性を有する、2)出芽型分生子は求頂的に形成され、同調的な形成をしない、特徴を有する。これらの特徴に基づいて、Trichosporonoides nigrescensの親株と対比すると共に、G. S. de Hoog (1979)のモノグラフ及びA.D. Hocking & J.I. Pitt(1981)の原記載に従って属および種の検索を行ったところ、本生産菌の性状はTrichosporonoides nigrescensの親株によく合致した。従って本菌株はT. nigrescens と同定した。
【0015】
MCI3440
MCI3440株はLCA上、24℃培養で初め白色〜黄味白色、培養1週間後に茶色、2週間以上の古い培養では暗い黄茶色に変色する。菌の生育は速い、コウボ様の出芽により増殖する。出芽細胞は無色、多極出芽により増殖する。1回から3〜4回出芽して増殖する。コウボ様の出芽と同時に基底菌糸及び気中菌糸が伸長する。基底菌糸と気中菌糸は隔壁を有し、分枝する、幅2〜4.5μm、無色。菌糸は断片状に切れて分節型の分生子になる、あるいは菌糸の側面あるいは先端部より出芽型の分生子を形成する。LCA及びPDA上で頂嚢は形成されない。分節型分生子は円筒形〜樽型、長さは変化に富む、幅は2.5〜5.0μm、無色。出芽型分生子は基底菌糸の側面及び先端に形成する、単一あるいは2、3の連鎖となって形成される、楕円形、4.7〜8.1×2.5〜3.4μm、無色。37℃で生育する。
【0016】
本菌株(MCI3440)は1)分節型分生子と出芽型分生子の二形性を有する、2)出芽型分生子は基底菌糸及び気中菌糸上に求頂的に生じる特徴を有する。Oedocephalis -typeの頂嚢を形成しない性状を有す。Haskins & Spencer (1966)の原記載によれば、Trichosporonoides oedocephalisは主として頂嚢を持つことによって、他の種(T.spathulata、T.nigrescens、T.madida及びT.megachiliensis)から識別されている。本変異株(MCI3440)はこの点がT. oedocephalis と異なっている。しかし、T. oedocephalis の親株と対比すると共に、G. S. de Hoog (1979)のモノグラフ及びR.H. Haskins &J.F.T.Spencer (1966)の原記載に従って属及び種の検索を行ったところ、Oedocephalis-type の頂嚢を欠損している以外の形態学的性状はT.oedocephalisの親株によく合致した。従って本菌株は暫定的にT.oedocephalisと同定した。
【0017】
MCI3554
1)形態学的特徴:
コロニーはPDA上、24℃培養で初め白色〜黄味白色、培養1週間後に黄褐色、2週間以上の古い培養では暗い黄茶色に変色する。菌の生育は中程度、コウボ様の出芽により増殖する。出芽細胞は初め、無色、後にやや厚膜化して、淡褐色を呈する、楕円形、卵形あるいは亜球形、3.8〜6.3×3.0〜5.0μm。1回から3〜4回出芽して増殖する、多極出芽。コウボ様の出芽と同時に基底菌糸と気中菌糸が伸長する。基底菌糸および気中菌糸は幅2.2〜3.5μm、隔壁を有し、分枝する、初め無色、後に褐色になる。菌糸は断片状に切れて分節型の分生子になる、菌糸の側面あるいは先端部より出芽型の分生子を形成する。分節型分生子は円筒形〜樽型、長さは変化に富む、9.4〜18.8μm×3.1〜4.1μm、初め無色、後に褐色になる。出芽型分生子は基底菌糸の側面および先端に形成される、単一あるいは2、3個の連鎖となって形成される、亜球形〜楕円形、5.9〜10.9×3.8〜5.9μm、初め無色、後に褐色、やや厚膜化する。
【0018】
2)生理学的特徴:
生育温度:9℃〜37℃(PDA上、10日間培養)
最適生育温度:27℃〜30℃
生育pH:4〜9(LCA液体培地上、10日間培養)
最適生育pH:5〜6
炭素源の利用(表−1に示す。)
糖からの発酵性(表−2に示す。)
窒素源の利用(表−3に示す。)
【0019】
3)分類学的考察
本菌株(MCI3554)は1 )コウボ状の出芽型細胞を有する、2 )分節型分生子と出芽型分生子の二形性を有する、3 )出芽型分生子は求頂的に形成され、同調的に形成されない、特徴を有す。これらの特徴に基づいて、G. S. de Hoog (1979), ”The Black Yeasts, II: Moniliella and Allied Genera, Studies in Mycology No.19 , p1-36 ”のモノグラフの検索表およびG.S. de Hoog & E. Gueho (1984), Deoxyribonucleic acid base cimposition and taxonomy of Moniliella and allied genera, Antonie van Leeuwenhook,135-141のMoniliel la属に属する種の記載に従って、属及び種の検索をしたところ、本生産菌の性状はMoniliella pollinis の記載によく合致した。さらにMoniliella pollinis のタイプストレイン(CBS 461.67)の性状と対比したところ、本生産菌の性状はタイプストレインの性状にもよく合致した。
従って本菌株はMoniliella pollinis と同定した。
【0020】
MCI3555
1)形態学的特徴:
本菌株(MCI3555)はMoniliella pollinis MCI3554 に由来する変異株で、コロニーはPDA上、24℃培養で初め白色〜黄味白色、培養1週間後に黄褐色、2週間以上の古い培養では暗い黄茶色に変色する。菌の生育は中程度、コウボ様の出芽により増殖する。出芽細胞は初め、無色、後にやや厚膜化して、淡褐色を呈する、楕円形、卵形あるいは亜球形、4.0〜7.8×3.5〜6.2μm。1回から3〜4回出芽して増殖する、多極出芽。コウボ様の出芽と同時に基底菌糸と気中菌糸が伸長する。基底菌糸及び気中菌糸は幅1.3〜4.1μm、隔壁を有し、分枝する、初め無色、後に褐色になる。菌糸は断片状に切れて分節型の分生子になる、菌糸の側面あるいは先端部より出芽型の分生子を形成する。分節型分生子は円筒形〜樽型、長さは変化に富む、13.4〜32.8μm×2.5〜4.1μm、初め無色、後に褐色になる。出芽型分生子は基底菌糸の側面および先端に形成される、単一あるいは2、3個の連鎖となって形成される、亜球形〜楕円形、5.0〜9.4×4.4〜6.3μm、初め無色、後に褐色、やや厚膜化する。
【0021】
2)生理学的特徴:
生育温度:9℃〜37℃(PDA上、10日間培養)
最適生育温度:27℃〜30℃
生育pH:4〜9(LCA液体培地上、10日間培養)
最適生育pH:5〜6
炭素源の利用(表−1に示す。)
糖からの発酵性(表−2に示す。)
窒素源の利用(表−3に示す。)
【0022】
3)分類学的考察
本菌株(MCI3555)は1 )コウボ状の出芽型細胞を有する、2 )分節型分生子と出芽型分生子の二形性を有する、3 )出芽型分生子は求頂的に形成され、同調的に形成されない、特徴を有す。これらの特徴に基づいて、G. S. de Hoog (1979), ”The Black Yeasts, II: Moniliella and Allied Genera, Studies in Mycology No.19 , p1-36 ”のモノグラフの検索表及びG.S. de Hoog & E. Gueho (1984), Deoxyribonucleic acid base cimposition and taxonomy of Moniliella and allied genera, Antonie van Leeuwenhook,135-141のMoniliella属に属する種の記載に従って、属および種の検索をしたところ、本生産菌の性状はMoniliella pollinis の記載によく合致した。さらにMoniliella pollinis のタイプストレイン(CBS 461.67)の性状と対比したところ、本生産菌の性状はタイプストレインの性状にもよく合致した。
従って本菌株はMoniliella pollinis と同定した。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
これらの酵母を培養するために使用される培地の主炭素源としては、発酵性糖質であれば特に限定されないが、グルコース、フルクトース、グリセロールなどの発酵性糖質が好ましく、特にグルコースが好ましい。これらの発酵性糖質は、単独でも組み合わせても使用できる。使用濃度は特に限定されないが、エリスリトールの生成を阻害しない範囲で可能な限り高くするのが有利であり、好ましい濃度は20〜50%(W/V)、好ましく35〜40%(W/V)はの範囲内である。
【0028】
窒素源としては、窒素原子換算で、窒素源の50〜85%が硫酸アンモニウムであり、残りの15〜50%は硫酸アンモニウム以外のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、コーンステープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が用いられるが、残りの15〜50%がコーンスティープリカーであることが好ましい。硫酸アンモニウムが50%以下の場合はグリセリンが副生したり、生産したエリスリトールが褐色に着色したり、多量の塩が混在したりするため好ましくなく、また85%以上の場合はエリスリトールの収率が落ちるので好ましくない。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビタミン、ヌクレオチド、アミノ酸などの酵母の生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、培養中の発泡を抑えるために市販の消泡剤を適量添加しておくことが望ましい。
【0029】
発酵の初めの培地はpH3〜7、好ましくはpH3〜4.5、特に好ましくはpH3.5〜4.0に調整する。また、培養中の温度は25℃〜40℃、好ましくは30℃〜37℃に調節する。
培養に際しては、斜面培養から菌体を直接培地に接種しても構わないが、液体培地で1日〜4日間の培養で得られる培養液を接種するほうが望ましい。また、培養は、通気撹拌、振とうなどによる好気的条件下で行う。培養時間は主炭素源が消費されるまで行われるのが望ましく、通常は3〜6日の間で行われる。なお、培養液中のエリスリトール生成量はガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどの方法で測定することができる。
【0030】
このようにして培養液中に蓄積したエリスリトールは常法に従って、培養物より分離・精製される。具体的には、遠心分離、ろ過等により菌体等の固形物を除去した後、イオン交換樹脂、活性炭により脱塩、脱色し、その溶液から結晶化することによりエリスリトールを分離・精製することができる。
【0031】
【実施例】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に述べるが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
培養液の組成
【0032】
【表5】
【0033】
上記表−4において、窒素源としての硫酸アンモニウムとコーンステープリカーの割合は、窒素原子換算で約4:1である。(コーンステープリカーの窒素含有率:平均3%)
【0034】
実施例1〜3
グルコース30%(W/V)、酵母エキス(アサヒビール社製)1%を含む液体培地100mlを綿栓した500mlの三角フラスコにいれ、120℃、20分間滅菌したものに、常法により斜面培養したMCI3437株、MCI3440株、MCI3555株をそれぞれ接種し、30℃で3日間振とう培養した(種培液)。上記表−4に示す組成の培地500mlを入れた1リットル容発酵槽に、種培養液10mlを接種し、温度35℃、通気量0.5vvm、回転数800ppmの条件で4日間培養した。接種時の培地のpHは3.9〜4.0であり、培養中は35%水酸化ナトリウム溶液を添加しpHを3.5〜3.7に保った。培養液中のエリスリトールおよびグリセリン濃度を高速液体クロマトグラフィーで、培養終了後のブロスの上清液の着色度は420nmの吸光度を分光光度計で測定した。
その結果、各菌株のエリスリトール生産量とグリセリン生成量と培地の着色度は次の通りであった。
【0035】
【表6】
【0036】
実施例4
グルコース30%(W/V)、酵母エキス(アサヒビール社製)1%を含む液体培地100mlを綿栓した500mlの三角フラスコにいれ、120℃、20分間滅菌したものに、常法により斜面培養したMCI3369株を1白金耳植菌し、35℃で3日間振とう培養した(得られた種培養液を以下「種培養液A」という)。グルコース30%(W/V)、酵母エキス(アサヒビール社製)1%を含む液体培地100mlを綿栓した500mlの三角フラスコにいれ、120℃、20分間滅菌したものに、上記種培養液A2mlを接種し、35℃で3日間振とう培養した(得られた種培養液を以下「種培養液B」という)。上記表−4に示す組成の培養液15リットルを入れた30リットル容発酵槽に、種培養液B300mlを接種し、温度35℃、通気量0.5vvm、内圧0.5Kg/cm2 G、回転数350rpmの条件で4日間培養した。接種時の培地のpHは3.9〜4.0であり、培養中は35%水酸化ナトリウム溶液を添加しpHを3.5〜3.7に保った。培養液中のエリスリトールおよびグリセリン濃度を高速液体クロマトグラフィーで測定した結果、エリスリトール:対グルコース収率48.2%、グリセリン:対グルコース収率1.1%であった。また、培養終了後のブロスの上清液の着色度はA420 で0.367あった。
【0037】
実施例5
グルコース30%(W/V)、コーンスティープリカー(王子コーンスターチ社製)3.7%、消泡剤0.1%を含む液体培地15リットルを入れた30リットル容発酵槽に、種培養液A300mlを接種し、温度35℃、通気量0.5vvm、内圧0.5Kg/cm2 G、回転数330rpmの条件で3日間培養した(得られた種培養液を以下「種培養液C」という)。上記表−4に示す組成の培養液15リットルを入れた30リットル容発酵槽に、種培養液B300mlを接種し、温度35℃、通気量0.5vvm、内圧0.5Kg/cm2 G、回転数330rpmの条件で4日間培養した。接種時の培地のpHは3.9〜4.0であり、培養中は35%水酸化ナトリウム溶液を添加しpHを3.5〜3.7に保った。培養液中のエリスリトール濃度を高速液体クロマトグラフィーで測定した結果、エリスリトール:対グルコース収率47.2%、グリセリン:対グルコース収率0.9%であった。また、培養終了後のブロスの上清液の着色度はA420 で0.395であった。
【0038】
実施例6
菌株をMCI3371株を用いた以外は実施例4と同様にしてエリスリトールを生産した。エリスリトールの対グルコース収率は48.0%、グリセリンの対グルコース収率は4.5%であった。また、培養終了後のブロスの上清液の着色度はA420 で0.353であった。
【0039】
実施例7
グルコース30%(W/V)、酵母エキス(アサヒビール社製)1%を含む液体培地100mlを綿栓した500mlの三角フラスコにいれ、120℃、20分間滅菌したものに、常法により斜面培養したATCC8661株を植菌し、30℃で3日間振とう培養した(種培液)。上記表1に示す組成の培地2.5リットルを入れた5リットル容発酵槽に、種培養液100mlを接種し、温度30℃、通気量1vvm、回転数900pm、内圧0.5Kg/cm2 Gの条件で5日間培養した。接種時の培地のpHは3.9〜4.0であり、培養中は35%水酸化ナトリウム溶液を添加しpHを3.5〜3.7に保った。培養液中のエリスリトールおよびグリセリン濃度を高速液体クロマトグラフィーで、エリスリトール:対グルコース収率43.9%であった。また、培養終了後のブロスの上清液の着色度はA420 で0.365であった。
【0040】
実施例8〜10及び比較例1〜2
グルコース30%(W/V)、酵母エキス(アサヒビール社製)1%を含む液体培地100mlを綿栓した50mlの三角フラスコにいれ、120℃、20分間滅菌したものに、常法により斜面培地したMCI3555株を植菌し、30℃で3日間振とう培養した(種培液)。
上記表−4に示す組成の内コーンスチープリカーと硫酸アンモニウムの表−6に示す量比に代えた培地500mlを入れた1リットル容発酵槽に、種培養液10mlを接種し、温度350℃、通気量0.5vvm、回転数800ppmの条件で4日間培養した。接種時の培地のpHは3.9〜4.0であり、培養中は35%水酸化ナトリウム溶液を添加しpHを3.5〜3.7に保った。
【0041】
【表7】
【0042】
その結果、各菌株のエリスリトール生産量とグリセリン生成量と培地の着色度は次の通りであった。
【0043】
【表8】
【0044】
比較例3〜5の培地組成
【0045】
【表9】
【0046】
上記表−8において、窒素源はコーンステープリカーのみであり、この窒素量は上記表−4の組成の培養液中の窒素量と窒素原子換算で同量である。比較例3〜5では上記表−4に示す組成の培養液のかわりに、上記表−8に示す組成の培養液を使用する以外は実施例1〜3と同様にしてエリスリトールを生産した。エリスリトールの収率、グリセリン生成量、プロス上清の着色度は次の通りであった。
【0047】
【表10】
【0048】
比較例6
上記表−4に示す組成の培養液のかわりに、上記表−8に示す組成の培養液を使用する以外は実施例4と同様にしてエリスリトールを生産した。エリスリトールの対グルコース収率は39.8%、グリセリンの対グルコース収率は19.5%であった。
【0049】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、食添認可品で安全かつ安価な窒素源を使用し、高収率で効率良くエリスリトールを製造することができる。
Claims (10)
- 発酵性糖質からエリスリトールを産生する能力を有する酵母を、発酵性糖質を主炭素源とする培地で培養し、培養物よりエリスリトールを採取するエリスリトールの製造方法において、培地の窒素原子換算の窒素源の50〜85%が硫酸アンモニウムであり、残余がコーンスティープリカーであることを特徴とするエリスリトールの製造方法。
- 酵母が、モニリエラ属に属する酵母である請求項1に記載の製造方法。
- 酵母が、モニリエラ・ポリニスである請求項1に記載の製造方法。
- 酵母が、イエロビア属に属する酵母である請求項1に記載の製造方法。
- 酵母が、イエロビア・リポリチカである請求項1に記載の製造方法。
- 酵母が、トリコスポロノイデス属に属する酵母である請求項1に記載の製造方法。
- 酵母がトリコスポロノイデス・オエドセファリス、トリコスポロノイデス・ニグレッセンスおよび/またはトリコスポロノイデス・メガチリエンシスである請求項1に記載の製造方法。
- 発酵性糖質が、グルコース、フルクトースおよび/またはグリセロールである請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
- 培地中の窒素源濃度が、0.1〜5.0%(W/V)である請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
- 培地のpHを3.0〜7.0に保持する請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
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