JP4053613B2 - 大型構造物用鋼板の一次防錆塗料の塗装方法 - Google Patents
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Description
【発明の技術分野】
本発明は、大型構造物用鋼板の一次防錆塗料の塗装方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
船や橋梁のような大型構造物は、あらかじめ除錆し一次防錆塗装した鋼材を用いて建造する方式、いわゆる"ショッププライマー方式"が広く採用されている。
【0003】
このようなショッププライマー方式で用いられる一次防錆塗料としては、ウォッシュプ
ライマー、エポキシジンクプライマー、エポキシノンジンクプライマーなどの有機一次防錆塗料、シリケート系結合剤などの結合剤を用いた無機ジンク一次防錆塗料が知られている。これらの一次防錆塗料のうちでは、溶接性に優れた無機ジンク一次防錆塗料が広く用いられている。
【0004】
ところで、従来は、鋼板の表面に形成される無機ジンク一次防錆塗料の標準的な平均乾燥膜厚は15μmである。溶接性を向上させるため10〜12μmの薄膜で塗装することも試みられてきたが、膜厚のバラツキが大きいため防錆効果が不十分となるなどの問題点があった。
【0005】
なお、従来最も一般的に採用されている一次防錆塗料の塗装方法は次のとおりである。すなわち、2個のスプレーチップをそのスプレーパターンの端が互いに10cm程度重なるように設置し、これらを一定速度で進行する鋼板の上を鋼板の進行方向に直交方向に往復運動させて塗装する方法である。この方法は2個のスプレーチップで一度に幅広く塗装できるため塗装効率が高いが、2回塗り重ねの設定に対して、スプレーパターンの端の重なりが描くX文様によって3回、4回の塗り重ね部が高頻度で現れる欠点がある。この様子を図5に示す。図5の(a)は鋼板の進行方向と直交方向にスプレー塗装した際の塗り回数を示す図であり、図5の(b)は(a)のスプレー塗装方向と逆方向にさらにスプレー塗装した後の塗り回数を示す図であり、図5の(c)は、(b)のスプレー塗装方向と逆方向、すなわち(a)のスプレー塗装方向と同じ方向にスプレー塗装した後の塗り回数を示す図である。また、スプレーパターンの端の重なりを小さくし過ぎると、スプレーチップを高速で往復運動させる塗装方法においてはスプレーパターンが揺らぐため塗り残しや極度な薄膜となる危険が伴うという欠点がある。
【0006】
したがって、膜厚が均一で防食性(防錆性)に優れた一次防錆塗料の塗膜を大型構造物用鋼板表面に形成することが可能な塗装方法の出現が望まれている。
【0007】
【発明の目的】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、膜厚が均一で防食性(防錆性)に優れた一次防錆塗料の均質塗膜を大型構造物用鋼板表面に形成することが可能な塗装方法を提供することを目的としている。
【0008】
【発明の概要】
本発明に係る大型構造物用鋼板の第1の一次防錆塗料の塗装方法は、複数のスプレーチップの各スプレーパターン巾が同一である複数のスプレーチップを、塗装すべき大型構造物用鋼板の進行方向と直交方向沿いに互いに間隔をおいて配設した塗装ラインであって、前記スプレーチップを互いのスプレーパターンがそれぞれ重ならない位置に配置するとともに、互いに隣接するスプレーチップの大型構造物用鋼板進行方向における間隔をスプレーパターン巾の1/n[nは2以上の整数]にした塗装ラインを設けておき、大型構造物用鋼板を一定速度で一方向に進行させるとともに、前記複数のスプレーチップを大型構造物用鋼板の進行方向と交差する一方向に大型構造物用鋼板の進行速度と同調移動させながら大型構造物用鋼板の表面に一次防錆塗料をスプレー塗装し、次いで、複数のスプレーチップを前記と逆方向にスプレー塗装することなく大型構造物用鋼板の進行速度と同調移動させる工程を繰り返して大型構造物用鋼板の表面に平均乾燥膜厚が10μmを超え50μm以下であり、かつ膜厚のバラツキ指数(=標準偏差/塗膜の平均乾燥膜厚)が0.18以下である均質塗膜を形成する一方向塗りの塗装方法であることを特徴としている。
【0009】
本発明では、スプレーチップとしては塗料の霧化を促進する二重チップ構造を有するFFチップを用いることが好ましい。これらの塗装方法によれば、平均乾燥膜厚が10μmを超え50μm以下であり、かつ膜厚のバラツキ指数(=標準偏差/塗膜の平均乾燥膜厚)が0.18以下である塗膜を大型構造物用鋼板の表面に形成することができる。
【0010】
【発明の具体的な説明】
以下、本発明に係る大型構造物用鋼板の一次防錆塗料の塗装方法について具体的に説明する。
【0011】
まず、本発明に係る大型構造物用鋼板の第1の一次防錆塗料の塗装方法について説明する。本発明に係る大型構造物用鋼板の第1の一次防錆塗料の塗装方法は、実質的に同一のスプレーパターン巾を有する複数のスプレーチップを、塗装すべき大型構造物用鋼板の進行方向と直交方向沿いに互いに間隔をおいて配設した塗装ラインであって、前記スプレーチップを互いのスプレーパターンがそれぞれ重ならない位置に配置するとともに、互いに隣接するスプレーチップの大型構造物用鋼板進行方向における間隔をスプレーパターン巾の1/n[nは2以上の整数、好ましくは2〜5の整数,さらに好ましくは2〜4の整数]にした塗装ラインを設けておき、大型構造物用鋼板を一定速度で一方向に進行させるとともに、前記複数のスプレーチップを大型構造物用鋼板の進行方向と交叉する一方向に大型構造物用鋼板の進行速度と同調移動させながら大型構造物用鋼板の表面に一次防錆塗料をスプレー塗装し、次いで、複数のスプレーチップを前記と逆方向にスプレー塗装することなく大型構造物用鋼板の進行速度と同調移動させる工程を繰り返して大型構造物用鋼板の表面に平均乾燥膜厚が10μmを超え50μm以下であり、かつ膜厚のバラツキ指数(=標準偏差/塗膜の平均乾燥膜厚)が0.18以下である均質塗膜を形成する一方向塗りの塗装方法である。
【0012】
例えば、上記nが2の場合にはスプレーパターン巾の1/2が重なって塗装されるので2回塗りができ、nが3の場合にはスプレーパターン巾の2/3が重なって塗装されるので3回塗りができる。また、nが4の場合にはスプレーパターン巾の3/4が重なって塗装されるので4回塗りができる。さらに、nが5の場合にはスプレーパターン巾の4/5が重なって塗装されるので5回塗りができる。
【0013】
この一方向塗りの塗装方法をn=3の場合を例にとって図1により説明すると、同一のスプレーパターン巾を有する3個のスプレーチップを、塗装すべき大型構造物用鋼板の進行方向と直交方向沿いに互いに間隔をおいて配設した塗装ラインであって、前記スプレーチップを互いのスプレーパターンがそれぞれ重ならない位置に配置するとともに、互いに隣接するスプレーチップの大型構造物用鋼板進行方向における間隔をスプレーパターン巾の1/3にした塗装ラインを設けておき、大型構造物用鋼板を一定速度で一方向に進行させるとともに、3個のスプレーチップを大型構造物用鋼板の進行方向と交叉する一方向に大型構造物用鋼板の進行速度と同調移動させながら大型構造物用鋼板の表面に一次防錆塗料を一方向に1回目のスプレー塗装すれば、図1の(a)に示すように、大型構造物用鋼板(1) の表面に左端から順に1回塗り、2回塗り、3回塗り、2回塗り、1回塗りした部分ができる。
【0014】
次いで、3個のスプレーチップを前記と逆方向にスプレー塗装することなく大型構造物用鋼板の進行速度と同調移動させた後、この3個のスプレーチップを逆方向(最初のスプレー塗装におけるスプレーチップの移動方向と同じ方向)に大型構造物用鋼板の進行速度と同調移動させながら大型構造物用鋼板の表面に一次防錆塗料を2回目のスプレー塗装すれば、図1の(b)に示すように、大型構造物用鋼板(1) の表面に左端から順に1回塗り、2回塗り、3回塗り、3回塗り、3回塗り、3回塗り、2回塗り、1回塗りした部分ができ、3回塗りの部分が連続してできる。
【0015】
さらに、この工程を繰り返して3回目のスプレー塗装すれば、図1の(c)に示すように、大型構造物用鋼板(1) の表面に左端から順に1回塗り、2回塗り、3回塗り、3回塗り、3回塗り、3回塗り、3回塗り、3回塗り、3回塗り、2回塗り、1回塗りした部分ができ、さらに3回塗りの部分が連続してできる。
【0016】
上記のような塗装工程を繰り返すことによって、大型構造物用鋼板(1) 表面に一次防錆塗料を3回塗りすることができる。大型構造物用鋼板の進行方向に対して直交方向にスプレーチップを大型構造物用鋼板の進行速度と同調移動させながら上記のような一方向塗りをすれば、図1に示すように鋼板は斜めに塗装されていく。これに対して、大型構造物用鋼板の進行方向に対して斜交する方向にスプレーチップを大型構造物用鋼板の進行速度と同調移動させながら上記のような一方向塗りをする塗装方法では、スプレーチップの移動方向および同調移動の速度をコントロールすることによって鋼板を斜めに塗装することができるし、また鋼板の巾方向と平行に鋼板を塗装することができる。本発明においては、鋼板の巾方向と平行に鋼板を塗装する一方向塗りの塗装方法が、塗料のロス低減の面から好ましい。
【0017】
この方法で用いられる一次防錆塗料は、有機一次防錆塗料であってもよく、無機一次防錆塗料であってもよい。有機一次防錆塗料としては、ウォッシュプライマー、エポキシジンクプライマー、エポキシノンジンクプライマーなどが挙げられ、無機一次防錆塗料としては、シリケート系結合剤などの結合剤を用いた無機ジンク一次防錆塗料が挙げられる。とくに有機一次防錆塗料を用いると、膜厚が均一で防食性に優れ、一次防錆塗膜表面に塗布すべき塗料の量を節減できる。また無機一次防錆塗料を用いると、溶接性に優れ、膜厚が均一で防食性に優れた塗膜が得られる。これらの防錆塗料のうちでは無機系一次防錆塗料が好ましく、特に無機ジンク一次防錆塗料が好ましい。
【0018】
上記の一方向塗りの塗装方法で、このような一次防錆塗料を用いることにより、平均乾燥膜厚が10μmを超え50μm以下、好ましくは10μmを超え35μm以下、特に好ましくは10μm〜20μmの薄膜であり、かつ膜厚のバラツキ指数(=標準偏差/塗膜の平均乾燥膜厚)が0.18以下、好ましくは0.15以下、さらに好ましくは0.12以下の均質塗膜を大型構造物用鋼板表面に形成することができる。塗膜の平均乾燥膜厚および塗膜の膜厚のバラツキ指数を上記のような範囲にすると、大型構造物の防食(防錆)効果を十分に発揮することができる。とくに、塗膜の平均乾燥膜厚および塗膜の膜厚のバラツキ指数を上記のような範囲にすると、例えば無機ジンク一次防錆塗料場合にはその優れた防錆性を低下させることなく、溶接性の向上も図ることができる。
【0019】
この方法で用いられる一次防錆塗料は、上記のように有機一次防錆塗料であってもよく、無機一次防錆塗料であってもよい。例えば有機一次防錆塗料としては、ウォッシュプライマー(容量不揮発分10〜15%)、エポキシジンクプライマー(容量不揮発分25〜35%、塗膜中亜鉛重量濃度50〜90%)、ノンジンクエポキシプライマー(容量不揮発分18〜28%)などが挙げられる。また無機ジンクプライマーとしてはシリケート系結合剤と防錆顔料としての亜鉛末を含有して成り、容量不揮発分が17〜27%、塗膜中亜鉛重量濃度が20〜95%のものが用いられる。これ等の一次防錆塗料中、溶接性に優れる無機ジンク一次防錆塗料は最も広く用いられる。本発明による均質塗装を実施するに際しては設定する膜厚、塗り重ね回数に応じて、シンナー希釈によって粘度や容量不揮発分濃度の調整を行なうこともできるし、スプレーチップ(吐出量とパターン巾)の選定や吐出圧力の調整を行なうこともできる。このような一次防錆塗料を用いることにより均質な塗膜を得ることが可能となる。一次防錆塗料の顔料体積濃度は、塗り回数および塗膜の膜厚などの設定条件に合わせて調整すればよい。
【0020】
上述した本発明のスプレー塗装方法では、図2の(a)に示す標準チップ(2)よりも図2の(b)に示す塗料の霧化を促進する二重チップ構造を有するFFチップ(Fine Finish Tip 、美装仕上げ用チップ)(3) を用いることが好ましい。
【0021】
このFFチップを用いることによって、一次防錆塗料のスプレーミストがより微粒化するため塗装仕上りが良くなる。図3の(a)は、標準チップ(2) により鋼板(1) 表面に形成されるスプレーパターンにおける塗膜(4) の厚みの状態を示す。
【0022】
また図3の(b)は、FFチップ(3) により鋼板(1) 表面に形成されるスプレーパターンにおける塗膜(4) の厚みの状態を示す。図3の(a)と(b)を比較してわかるように、FFチップ(3) は、標準チップ(2) に比べて、スプレーパターンの端の部分の霧化性に優れるため、塗膜(4) の膜厚のバラツキを減らすことができる。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、均質塗膜を大型構造物用鋼板表面に形成することができ、防錆効果を最大限に発揮させるとともに塗付量の低減や溶接性の向上が図れる。
【0024】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0025】
【比較例1〜3および実施例1〜2】
[供試塗料]比較例1と実施例1については市販の長曝型ウォッシュプライマー(商品名「エバボンドK」、中国塗料社製、主剤:添加剤=4:1、容量不揮発分12.5%)を、シンナーを加えて容量不揮発分が9%となるよう調整して用いた。
【0026】
比較例2,3、実施例2については市販の無機ジンクショッププライマー(商品名「ウエルボンドHグリーンK」、中国塗料社製、主剤:ペースト=3:5、顔料体積濃度13%)をシンナーを加えて顔料体積濃度10%に調整して用いた。
(1)塗装試験巾4.5m、長さ6mの鋼板の移動方向に対して90゜の方向にスプレーチップを往復運動させて塗装を行なった。
【0027】
塗装を全体として均等に行なうため、下式に従って鋼板移動速度とスプレーチップの移動速度とを調整した。
P=LV/v(P:合成スプレーパターン巾[m]、L:スプレーチップの往復移動距離[m](鋼板の巾×2[m])、V:鋼板移動速度[m/分]、v:スプレーチップ移動速度[m/分])
合成スプレーパターン巾Pは従来の2個のスプレーチップ方式では、パターンの中央の重なり巾をp、スプレーチップ1個のスプレーパターン巾をP0 とするとき、P=2P0−pで表わされる。
【0028】
本発明における合成スプレーパターン巾Pは、隣接するスプレーチップのスプレーパターンの重ね巾とスプレーチップの使用数Nによって下式で表わされる。ただし、本発明における合成スプレーパターン巾Pは、上述した従来の2個のスプレーチップ方式における合成スプレーパターン巾Pとは異なり、複数のスプレーチップでスプレー塗装される塗装巾から、次のスプレー塗装で重ね塗りされる部分の塗装巾を差し引いた巾をいう。
【0029】
隣接するチップのパターンの重ね巾 合成スプレーパターン巾 P0/2のとき P=NP0/2 2P0/3のとき P=NP0/3 3P0/4のとき P=NP0/4本発明の塗装方式によれば、隣接スプレーチップのスプレーパターンの重ね巾がP0 /2、2P0 /3、3P0 /4のとき、塗り重ね回数は、片道塗装(一方向塗り)のときそれぞれ2回、3回、4回となり、往復塗装のときそれぞれ4回、6回、8回となる。
【0030】
圧縮比45:1のエヤレスポンプを用い、スプレーチップは日本グレイ社製163−800シリーズの標準チップとFFチップ(美装用チップ)を用いた。スプレーチップと鋼板との距離を0.3mとして、スプレーパターン巾が0.45mとなるよう一次空気圧を調整した。
【0031】
比較例1〜3および実施例1〜2の塗装条件等を第2表に示す。上記比較例、実施例における塗膜の膜厚の測定は、鋼板中央の長さ方向において塗装したミガキ軟鋼板(長さ1m、巾30mm、厚さ0.8mm)を用いて、KETT社製膜厚計(モデルLE−210)で膜厚を測定して、塗膜の平均乾燥膜厚、最大膜厚、最小膜厚、標準偏差、膜厚のバラツキ指数を求めた。
(2)防錆性試験サイズ300mm×600mm×3.2mmのサンドブラスト処理したSS400鋼板を、塗装試験に用いた大型鋼板(4.5×6m)の上に膜厚測定用ミガキ軟鋼板と接するように置いて塗装し、この塗装によりSS400鋼板表面に形成された塗膜を1週間屋内で硬化させて試験片を得た。
【0032】
得られた試験片を、広島県大竹市の海岸地区に設置したバクロ台に南面45゜で固定してバクロし、経時による発錆状況を観察した。
(3)溶接性試験サイズ800mm×100mm×12mmのサンドブラスト処理したSS400鋼板2枚を1組として、一方を上板(図4の1bに相当)として、他方を下板(図4の1aに相当)として逆T字状に組合せて水平隅肉溶接を実施した。上板の端面(下板との接触面)は機械加工によって平滑とし、溶接に先立って下板と上板の仮付け溶接の際、治具を用いてクサビを打込んで固定し、下板との隙間が生じないようした。
【0033】
上板の両サイドと下板は塗装試験に用いた大型鋼板の上に置いて塗装試験と同一条件で塗装し、上板の端面(下板と接する面)は塗装しなかった。この塗装により上板と下板に形成された塗膜を室内で1週間硬化させてこの上板と下板を試験片とした。
【0034】
溶接はツインシングル法(溶接速度800mm/分)によって行なった。次いで、溶接欠陥の現れ易い第2ビードについて、ピット発生率(個/m)とブローホール発生率(溶接部破断面における全気泡断面の最大幅の合計長さ/溶接長さ×100%)を評価した。繰返しを5回行ないその平均値で評価した。
【0035】
溶接条件を第1表に示し、結果を第2表に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
評価結果のまとめ
[比較例1と実施例1]
比較例1と実施例1とを比較すると、バクロ3カ月の時点で比較例1には部分的に点錆の発生がみられた。平均膜厚が前者(比較例1)では15.6μm、後者(実施例1)では15.1μmと前者が厚いにもかかわらず後者の防錆性が優れていることが分かる。その理由は、最低膜厚が前者が9.4μm、後者が11.6μmであることによると考えられる。
【0040】
バクロ4カ月目で実施例1のバクロ板にも点錆の徴候がみられたが、それは全体に均等に分散していた。比較例1においては点錆の発生部の拡大とともに先の発錆部がより顕在化した。
【0041】
バクロ5カ月においては、実施例1の場合には、発錆は全体に及んだが、その進行は緩やかであった。比較例1においては一部の無発錆部(厚膜部)に対して顕著な発錆部が見られ、この発錆部が帯状の分布を示した。
[比較例2〜3、実施例2]実施例2では比較例2の場合よりも平均膜厚が2.1μm薄いにもかかわらず、実施例2では比較例2の場合と同等の防錆性を示した。すなわち点錆発生までのバクロ期間は実施例2、比較例2では5カ月であり、比較例3では6.5カ月であった。
【0042】
さらにバクロ試験を続けたところ、これら比較例、実施例では発錆の進行は実施例1、比較例1の場合と同様の経過をたどり、実施例2では全体的にゆるやかに錆が進行したのに対し、比較例2,3では無発錆部と顕著な発錆部が帯状の分布を示した。
【0043】
溶接試験においては、平均膜厚のみならず、最大膜厚及び厚膜部の頻度(凸部の個数)が大きく寄与(影響)しており、比較例2,3の場合に比べて実施例2では著しい溶接性の向上が認められた。
【0044】
以上のように本発明による均質塗装によって一次防錆塗料の防錆性を犠牲にすることなく膜厚の低減、従って塗付量の低減を図ることができ、さらに溶接性を大巾に向上させ得ることが実証できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明に係る大型構造物用鋼板の一次防錆塗料塗装方法(一方向塗り)における塗膜形成過程の1例を示す説明図である。
【図2】 図2は、スプレーチップの構造を示す断面図であり、図2の(a)は標準チップの構造を示す断面図であり、図2の(b)は従来公知のFFチップの構造を示す断面図である。
【図3】 図3の(a)は、標準チップによるスプレー塗装で形成される塗膜の厚みの状態を示す説明図であり、図3の(b)は、FFチップによるスプレー塗装で形成される塗膜の厚みの状態を示す説明図である。
【図4】 図4は、大型構造物用鋼板の水平隅肉溶接後の斜視図である。
【図5】 図5は、従来行なわれていた一次防錆塗料のスプレー往復塗装方法における塗膜形成過程を示す説明図である。
【符号の説明】
1,1a,1b ・・・・・大型構造物用鋼板
2 ・・・・・標準チップ
3 ・・・・・FFチップ
4 ・・・・・塗膜
5 ・・・・・溶接ビード
Claims (3)
- 複数のスプレーチップの各スプレーパターン巾が同一である複数のスプレーチップを、塗装すべき大型構造物用鋼板の進行方向と直交方向沿いに互いに間隔をおいて配設した塗装ラインであって、前記スプレーチップを互いのスプレーパターンがそれぞれ重ならない位置に配置するとともに、互いに隣接するスプレーチップの大型構造物用鋼板進行方向における間隔をスプレーパターン巾の1/n[nは2以上の整数]にした塗装ラインを設けておき、大型構造物用鋼板を一定速度で一方向に進行させるとともに、前記複数のスプレーチップを大型構造物用鋼板の進行方向と交差する一方向に大型構造物用鋼板の進行速度と同調移動させながら大型構造物用鋼板の表面に一次防錆塗料をスプレー塗装し、次いで、複数のスプレーチップを前記と逆方向にスプレー塗装することなく大型構造物用鋼板の進行速度と同調移動させる工程を繰り返して大型構造物用鋼板の表面に平均乾燥膜厚が10μmを超え50μm以下であり、かつ膜厚のバラツキ指数(=標準偏差/塗膜の平均乾燥膜厚)が0.18以下である均質塗膜を形成する一方向塗りの塗装方法であることを特徴とする大型構造物用鋼板の一次防錆塗料の塗装方法。
- 前記スプレーチップが、塗料の霧化を促進する二重チップ構造を有するFFチップであることを特徴とする請求項1に記載の大型構造物用鋼板の一次防錆塗料の塗装方法。
- 前記スプレーチップの数が、2個または3個であることを特徴とする請求項1に記載の大型構造物用鋼板の一次防錆塗料の塗装方法。
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