しかしながら、弾性膜構造の場合には、後述する異音の問題は生じないが、弾性仕切り膜の剛性が振幅によらず一定であるため、小振幅入力時の低動ばね特性を得ようとすると、大振幅入力時において、両液室間の液圧差が弾性仕切り膜で緩和され易くなる。そのため、流体流動効果を十分に発揮させることができなくなり、減衰特性の著しい低下を招くという問題点があった。
一方、可動膜構造の場合には、第1又は第2液室の液圧変動を弾性仕切り膜へ伝えるための開口面積が変位規制部材の配設分だけ狭くなる。そのため、両液室間の液圧変動を弾性仕切り膜に効率的に伝えることができず、弾性仕切り膜による液圧差の緩和が困難となるため、低動ばね特性が得られ難くなるという問題点があった。
更に、可動膜構造の場合には、弾性仕切り膜を変位規制部材に当接させる構造であるため、その当接の際に変位規制部材が振動して、その振動が車体フレームへ伝達することで異音が発生するという問題点があった。
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、比較的低振幅の振動入力時の低動ばね特性と比較的高振幅の振動入力時の高減衰特性とを確保しつつ、異音の発生を抑制することができる液封入式防振装置を提供することを目的としている。
この目的を達成するために、請求項1記載の液封入式防振装置は、第1取付け具と、筒状の第2取付け具と、その第2取付け具と前記第1取付け具とを連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体と、前記第2取付け具に取付けられて前記防振基体との間に液体封入室を形成するダイヤフラムと、前記液体封入室を前記防振基体側の第1液室と前記ダイヤフラム側の第2液室とに仕切る仕切り手段と、前記第1液室と第2液室とを連通させるオリフィスとを備え、前記仕切り手段が、ゴム状弾性体から構成される弾性仕切り膜と、その弾性仕切り膜を収容する筒部材と、その筒部材内に収容された前記弾性仕切り膜の変位を両面側から規制する一対の挟持部材とを備えて構成されるものであり、前記一対の挟持部材はともに、略円形に開口形成される開口部と、その開口部の略中心位置から前記開口部の周縁部へ向けて延設される2本の変位規制リブとを備えると共に、それら両変位規制リブが直線状に配置され、前記一対の挟持部材のうちの一方の挟持部材は、前記筒部材の内周面側に一体に形成され、他方の挟持部材は、前記筒部材の内周面側に内嵌圧入され、前記弾性仕切り膜は、前記挟持部材の開口部よりも大径の略円板状に形成される本体膜部と、その本体膜部の略中心部から前記本体膜部の周縁部へ向けて延設され前記本体膜部の両面側にそれぞれ2本突設される変位規制突起とを備えると共に、それら両変位規制突起が前記本体膜部の各面側において直線状に配置され、前記変位規制突起は、その頂部が前記変位規制リブに当接可能な高さ寸法に設定されると共に、その頂部側の突起幅が基部側の突起幅よりも狭いか略同等に形成され、かつ、前記頂部側の突起幅および前記基部側の突起幅が前記変位規制リブのリブ幅よりも広く形成され、前記仕切り手段の組み立て状態においては、前記本体膜部の周縁部が全周にわたって前記挟持部材によって両面側から挟圧保持されると共に、前記各変位規制突起が前記各変位規制リブに対応する位置にそれぞれ配置されている。
請求項2記載の液封入式防振装置は、請求項1記載の液封入式防振装置において、前記筒部材は、その内周面側に張り出す凸部を備えると共に、前記弾性仕切り膜および前記他方の挟持部材は、その外周縁を凹欠することにより形成され前記凸部と嵌合可能な凹部を備え、前記仕切り手段の組み立て状態においては、前記凹部に前記凸部が嵌合されることで、前記一対の挟持部材と前記弾性仕切り膜との相対的な回転方向位置が位置決めされ、前記各変位規制突起が前記各変位規制リブに対応する位置にそれぞれ配置されるように構成されている。
請求項3記載の液封入式防振装置は、請求項1又は2に記載の液封入式防振装置において、前記本体膜部の少なくとも一面側には、前記変位規制突起が突設される残部に補助突起が突設され、その補助突起は、少なくとも前記変位規制突起よりも突起高さが低く、かつ、突起幅が狭くなるように構成されている。
請求項1記載の液封入式防振装置によれば、比較的小振幅の振動入力時には、弾性仕切り膜を往復動変位させて、第1及び第2液室間の液圧差を緩和(吸収)することができるので、動ばね値の低減を図り、低動ばね特性を得ることができるという効果がある。
特に、本発明の液封入式防振装置によれば、各挟持部材の開口部には、2本の変位規制リブが直線状に延設されるのみであるから、その開口部の開口面積を十分に広くして、第1及び第2液室間の液圧差を弾性仕切り膜へ効率的に伝達することができる。その結果、前記液圧差を効率的に緩和して、低動ばね特性をより確実に得ることができるという効果がある。
一方、比較的大振幅の振動入力時には、挟持部材の変位規制リブにより弾性仕切り膜の変位を規制し、弾性仕切り膜全体としての剛性を上昇させることができるので、減衰特性の向上を図り、高減衰特性を得ることができるという効果がある。
特に、本発明の液封入式防振装置によれば、弾性仕切り膜(本体膜部)の周縁部全周を一対の挟持部材により両面側から挟圧保持するように構成したので、第1及び第2液室間において、挟持部材の開口部を介した経路で液体が流動することを回避し、オリフィスを介した経路でのみ流動させることができる。よって、流体流動効果を効率的に発揮させ、高減衰特性を得ることができるという効果がある。
また、各変位規制リブは、2本が直線状に配置されると共に開口部の略中心部を通過するように配置されている、即ち、開口部を均等に2分割するように配置されているので、弾性仕切り膜の変位を規制する場合には、その弾性仕切り膜の変形を一部に偏らせることなく、より均等に変形させることができる。よって、弾性仕切り膜の膜剛性を効率的に高めて、高減衰特性を確実に得ることができるという効果がある。
更に、2本の各変位規制リブを直線状に配置することで、両変位規制リブの交差角を十分に大きく(略180°)して、弾性仕切り膜のひずみが各変位規制リブの交差部付近に集中することを回避することができる。その結果、弾性仕切り膜全体としての耐久性の大幅な向上を図ることができるという効果がある。
即ち、変位規制リブが2本を越えて(即ち、3本以上)設けられた場合、特に4本以上設けられた場合には、それら各変位規制リブの交差角が小さく(90°以下)なるため、弾性仕切り膜が液圧差で往復動変位すると、各変位規制リブの交差部付近に弾性仕切り膜の変形(ひずみ)が集中し、膜破れなどの破損を招くという問題点があった。
また、従来の液封入式防振装置では、放射直線状の変位規制リブに加え、円環状の変位規制リブも多数設けられていたため、交差角が小さな部位が多数形成され、上記と同様に、変形(ひずみ)の集中に起因する破損が問題となっていた。
これに対し、本発明の液封入式防振装置によれば、円形の開口部に2本の変位規制リブを直線状に設ける構成としたので、各変位規制リブの交差角を十分に大きく(180°)することができ、また、円環状の変位規制リブも有していないので、弾性仕切り膜が液圧差により往復動変位する場合には、その変形(ひずみ)を全体に均一化して、膜破れなどの破損の発生を効果的に抑制することができる。
ここで、仕切り手段の組み立て状態においては、弾性仕切り膜の各変位規制突起が挟持部材の各変位規制リブに対応する位置にのみ配置されると共に、変位規制突起は、その頂部が変位規制リブに当接可能な高さ寸法に設定されているので、異音の発生を確実に抑制することができるという効果がある。
即ち、変位規制リブに対応する位置に変位規制突起が設けられていないと、その変位規制リブと弾性仕切り膜(本体膜部)との間に大きな隙間が生じるため、大振幅入力時に弾性仕切り膜(本体膜部)が変位規制リブに衝突して、異音発生の原因となるところ、各変位規制突起が各変位規制リブに対応する位置それぞれ配置され、かつ、変位規制突起の頂部が変位規制リブに当接されていれば、変位規制リブへ弾性仕切り膜(本体膜部、変位規制突起)が衝突することを回避して、異音の発生を確実に抑制することができる。
また、変位規制リブに対応する位置に変位規制突起が設けられておらず、上記隙間が生じていると、弾性仕切り膜(本体膜部)の衝突を受け止めるための剛性強度が変位規制リブに要求されるところ、各変位規制突起が各変位規制リブに対応して配置されていれば、各変位規制リブに作用する負荷を低減して、その分、挟持部材(変位規制リブ)の耐久性の向上を図ることができるという効果がある。
そして、各変位規制リブに作用する負荷の低減を図ることができれば、必要な剛性強度を低くすることができるので、その分、変位規制リブのリブ幅を狭く構成することができる。その結果、リブ幅を狭くした分だけ、挟持部材の開口部の開口面積を拡大することができるので、第1及び第2液室間の液圧差を弾性仕切り膜へ伝達する伝達効率の向上を図ることができ、前記液圧差をより効率的に緩和することができるという効果がある。よって、低動ばね特性をより確実に得ることができる。
ここで、弾性仕切り膜の変位規制突起は、その頂部側の突起幅が基部側(本体膜部側)の突起幅よりも狭いか略同等に形成され、かつ、基部側の突起幅が変位規制リブのリブ幅よりも広く形成されている。
即ち、変位規制突起は、少なくとも基部側の突起幅が変位規制リブのリブ幅よりも広くなるように構成されているので、比較的大振幅の振動が入力され弾性仕切り膜が往復動変位した場合でも、変位規制リブに弾性仕切り膜が衝突することを抑制して、異音の発生を抑制することができるという効果がある。
特に、各部品の寸法公差や組み立て作業時の組み付け公差などに起因して、変位規制リブに対して変位規制突起が周方向へずれている場合でも、変位規制突起の基部側の突起幅が変位規制リブのリブ幅よりも広くされていれば、変位規制リブと弾性仕切り膜との衝突を緩やかとして、その衝突に起因する異音の発生を効果的に抑制することができる。
また、本発明の液封入式防振装置によれば、一対の挟持部材のうちの一方の挟持部材を筒部材の内周面側に一体に形成したので、煩雑な組み立て作業を行う必要がなく、その分、組み立て時の作業コストを低減することができるという効果がある。更に、他方の挟持部材を筒部材の内周面側に内嵌圧入する構成としたので、かかる他方の挟持部材を強固に固定することができる。よって、挟持部材と弾性仕切り膜との間の対向面間隔や弾性仕切り膜(変位規制突起)に対する変位規制リブの相対位置を正確に設定することができ、異音のより一層の低減を図ることができるという効果がある。
また、変位規制突起は、その頂部側の突起幅が変位規制リブのリブ幅よりも広く形成されているので、変位規制突起の頂部における空気溜まりの発生を抑制することができるという効果がある。よって、空気溜まり(気泡)の残留に起因する動的特性の低下を抑制することができるという効果がある。更に、仕切り手段の組み立て作業を液槽外で行った後、その組み立て品を液槽内において第2取付け具の内周側へ装着することができるので、組み立て作業工程を簡素化して、その作業コストの大幅な低減を図ることができるという効果がある。
即ち、変位規制突起は、上記の通り異音の発生を抑制するべく、その基部側の突起幅が変位規制リブのリブ幅よりも広く形成されている。よって、その頂部側の突起幅を変位規制リブのリブ幅よりも狭くしたのでは、変位規制突起の頂部近傍には、奧側へ向かうほど狭くなる先窄まりの空間が形成されてしまう。
空気溜まり(気泡)が液室内に発生すると、液流動効果に基づく防振機能を発揮し得なくなるため、気泡の除去が必要となるが、このような形状の空間内に残留した気泡を除去することは極めて困難であり、作業コストの著しい上昇を招く。そのため、従来の液封入式防振装置では、仕切り手段を液槽内で組み立てる必要があり、組み立て工程が煩雑化するため、作業コストが上昇するという問題点を有していたのである。
請求項2記載の液封入式防振装置によれば、請求項1記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、弾性仕切り膜および他方の挟持部材の外周縁に凹欠される凹部に、筒部材の内周面側に張り出す凸部を嵌合させることで、一対の挟持部材と弾性仕切り膜との相対的な回転方向位置を位置決めして、各変位規制突起を各変位規制リブに対応する位置にそれぞれ精度良く配置させることができるという効果がある。その結果、変位規制突起と変位規制リブとの当接状態のばらつきに起因して、動的特性が製品毎にばらつくという不具合を抑制することができるという効果がある。
また、凸部が筒部材の内周面側に張り出す構成としたので、筒部材の大径化とその重量が嵩むこととを抑制して、液封入式防振装置全体としての小型化および軽量化を図ることができるという効果がある。即ち、筒部材の内周面側に凹部が凹設される構成としたのでは、その凹設分だけ筒部材の胴部の肉厚を確保する必要が生じるため、筒部材の大径化とその重量の増加とを招き、その分、液封入式防振装置全体としての大型化と重量の増加とを招くのである。
請求項3記載の液封入式防振装置によれば、請求項1又は2に記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、弾性仕切り膜には補助突起が突設されているので、大振幅入力時の変位に伴って弾性仕切り膜が破損等することを抑制して、その耐久性の向上を図ることができるという効果がある。更に、補助突起は変位規制突起よりも突起高さが低く、かつ、突起幅が狭くなるように構成されているので、弾性仕切り膜全体としての剛性が上昇することを抑制して、小振幅入力時の低動ばね特性を維持することができるという効果がある。
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の1実施の形態における液封入式防振装置100の断面図である。
この液封入式防振装置100は、自動車のエンジンを支持固定しつつ、そのエンジン振動を車体フレームへ伝達させないようにするための防振装置であり、図1に示すように、エンジン側に取り付けられる第1取付け金具1と、エンジン下方の車体フレーム側に取付けられる筒状の第2取付け金具2と、これらを連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体3とを備えている。
第1取付け金具1は、アルミニウム合金などの金属材料から略円柱状に形成され、図1に示すように、その上端面には、めねじ部1aが凹設されている。また、第1取付け部1の外周部には、略フランジ状の突出部が形成されており、この突出部がスタビライザー金具と当接することで、大変位時のストッパ作用が得られるように構成されている。
第2取付け金具2は、防振基体3が加硫成形される筒状金具4と、その筒状金具4の下方に取着される底金具5とを備えて構成されている。筒状金具4は上広がりの開口を有する筒状に、底金具5は傾斜した底部を有するカップ状に、それぞれ鉄鋼材料などから形成されている。なお、底金具5の底部には、取付けボルト6が突設されている。
防振基体3は、ゴム状弾性体から円錐台形状に形成され、第1取付け金具1の下面側と筒状金具4の上端開口部との間に加硫接着されている。また、防振基体3の下端部には、筒状金具4の内周面を覆うゴム膜7が連なっており、このゴム膜7には、後述するオリフィス部材16のオリフィス形成壁22,23(図2及び図3参照)が密着され、オリフィス25が形成される。
ダイヤフラム9は、ゴム状弾性体から部分球状を有するゴム膜状に形成され上面視ドーナツ状の取付け板10に加硫接着されている。このダイヤフラム9は、図1に示すように、取付け板10が筒状金具4と底金具5との間でかしめ固定されることで、第2取付け金具2に取着されている。その結果、このダイヤフラム9と防振基体3の下面との間には、液体封入室8が形成されている。
この液体封入室8には、エチレングリコールなどの不凍性の液体(図示せず)が封入される。また、液体封入室8は、後述する仕切り体12によって、防振基体3側の第1液室11Aと、ダイヤフラム9側の第2液室11Bとの2室に仕切られている。
仕切り体12は、ゴム膜から略円板状に構成される弾性仕切り膜15と、この弾性仕切り膜15を内周面側に収容すると共に第1挟持部材17が一体に形成されるオリフィス部材16と、このオリフィス部材16の下側(図1下側)開口から内嵌圧入される格子円板状の第2挟持部材18とを備えて構成されている。
なお、仕切り体12は、ダイヤフラム9の外周部と防振基体3の段部57とをそれぞれ軸芯方向(図1上下方向)に圧縮変形させた状態で第2取付け金具2(筒状金具4)内に挿入され、それらダイヤフラム9(外周部)及び防振基体3(段部57)の弾性復元力により液体封入室8内で挟圧保持されている。
また、オリフィス部材16の外周面と第2取付け金具2の内周面を覆うゴム膜7との間には、図1に示すように、オリフィス25が形成されている。このオリフィス25は、第1液室11Aと第2液室11Bとを連通させ、これら両液室11A,11B間で液体を流動させるためのオリフィス流路であり、オリフィス部材16の軸芯O周りに略1周して形成されている。
なお、弾性仕切り膜15は、その外周部の全周が第1及び第2挟持部材17,18との間で隙間無く挟圧保持されている。よって、液封入室8内の液体が後述する開口部17a,18aを介して第1及び第2液室11A,11Bでリーク(漏出)せず、液体封入室8内の液体は、オリフィス25を介してのみ第1液室11Aと第2液室11Bとの間で流通する。
次いで、図2及び図3を参照して、仕切り体12を構成するオリフィス部材16について説明する。図2(a)はオリフィス部材16の上面図であり、図2(b)はオリフィス部材16の側面図である。また、図3(a)は、オリフィス部材16の下面図であり、図3(b)は、図2(a)のIIIb−IIIb線におけるオリフィス部材16の断面図である。
オリフィス部材16は、図2及び図3に示すように、アルミニウム合金などの金属材料から軸芯Oを有する略円筒状に形成されている。オリフィス部材16の軸方向上下端には、略フランジ状のオリフィス形成壁22,23が径方向へ張り出して形成されており、それら各オリフィス形成壁22,23の対向面間にオリフィス流路が形成される。
なお、上述したように、各オリフィス形成壁22,23は、筒状金具4の内周を覆うゴム膜7に密着することで、断面略矩形状のオリフィス25を形成する(図1参照)。また、オリフィス部材16は、図2(b)に示すように、上下のオリフィス形成壁22,23を接続する縦壁24を備えており、オリフィス25(図1参照)は、この縦壁24によって周方向に分断される。
下側のオリフィス形成壁23は、図3(b)に示すように、段差部を有すると共に、上側のオリフィス形成壁22よりも径方向へ張り出して形成されており、このオリフィス形成壁23が筒状金具4と底金具5との間でかしめ固定されることで、オリフィス部材16が第2取付け金具2に取着されている(図1参照)。
図2及び図3に示すように、上側のオリフィス形成壁22には、切欠き55が切欠されており、この切欠き55を介して、オリフィス流路(オリフィス25、図1参照)の一端が第1液室11Aに連通される。また、オリフィス部材16の胴部には、開口部58が開口形成されており、この開口部58を介して、オリフィス流路(オリフィス25、図1参照)の他端が第2液室11Bに連通される。
オリフィス部材16は、図3に示すように、その内周面側に張り出す凸部56を備えている。この凸部56は、後述する第2挟持部材18及び弾性仕切り膜15の凹部59,54と嵌合して、オリフィス部材16(第1挟持部材17)に対する第2挟持部材18及び弾性仕切り膜15の相対的な回転方向位置を位置決めするための部位である。
また、オリフィス部材16の内周面側には、図2及び図3に示すように、略円板状の第1挟持部材17が一体に形成されている。この第1挟持部材17は、略円形に開口形成される開口部17aと、その開口部17aの略中心位置から周縁部へ向けて直線状に延設される2本の変位規制リブ17bとを備えて構成される。
開口部17aは、液封入室8(第1液室11A)内の液圧変動を弾性仕切り膜15へ伝達すると共に、その液圧変動により変位する弾性仕切り膜15との衝突を回避するための逃げ部として設けられた開口であり(図1参照)、変位規制リブ17bによって、円を2等分に区画(2分割)した形状で開口されている。
変位規制リブ17bは、弾性仕切り膜15の後述する変位規制突起51(図5など参照)に当接して、弾性仕切り膜15を拘束(変位を規制)するためのリブであり、図2及び図3に示すように、開口部17aの略中心部(軸芯O)から周縁部に向けて2本が延設されている。
これら両変位規制リブ17bは、図2又は図3に示すように、直線状に配置されている。即ち、一方の変位規制リブ17bは、他方の変位規制リブ17bに対して、周方向に略180°離間され、両変位規制リブ17bの交差角が略180°とされている。なお、変位規制リブ17bのリブ幅およびリブ厚みは、両変位規制リブ17bで略同一に形成される。
各変位規制リブ17bの交差部(開口部17aの中心部)には、図2及び図3に示すように、略円形の歪抑制部17cが形成されている。この歪抑制部17cは、後述する第2挟持部材18の歪抑制部18cと共に、弾性仕切り膜15の歪抑制部50bを両面側から挟圧保持する部位である(図7参照)。
第1挟持部材17の下面側には、図3に示すように、開口部17aの周縁部に沿う位置に係止壁部17dが立設されている。この係止壁部17dは、弾性仕切り膜15(被挟持部50a)の傾斜面を係止して、弾性仕切り膜15の径方向への位置決めを行うための部位である。
これにより、仕切り体12の組み立て工程においては、弾性仕切り膜15の位置決めを容易に行って、作業コストの低減を図ることができると共に、その位置決め精度(変位規制リブ17bに対する変位規制突起51の位置精度)を向上して、動的特性の製品毎のばらつきを低減することができる。
なお、係止壁部17dは、図3(a)に示すように、周方向2カ所に形成されると共に、変位規制リブ17bに対応する位置には形成されていない。これにより、変位規制リブ17bと変位規制突起51との接触面積を確保して、動的特性の向上(低動ばね特性を維持しつつ、高減衰特性を確保する)を図っている。
次いで、図4を参照して、仕切り体12を構成する第2挟持部材18について説明する。図4(a)は第2挟持部材18の上面図であり、図4(b)は、図4(a)のIVb−IVb線における第2挟持部材18の断面図である。
第2挟持部材18は、上述した第1挟持部材17と共に弾性仕切り膜15を挟持して、その弾性仕切り膜15を拘束(変位を規制)するための部材であり、図4に示すように、アルミニウム合金などの金属材料から軸芯Oを有する略円板状に形成されている。
第2挟持部材18は、図4に示すように、略円形に開口形成される開口部18aと、その開口部18aの略中心位置から周縁部へ向けて直線状に延設される2本の変位規制リブ18bとを備えて構成される。
開口部18a、変位規制リブ18b、歪抑制部18c及び係止壁部18dは、上述した第1挟持部材17の開口部17a、変位規制リブ17b等(図2及び図3参照)と同一のパターン(即ち、その位置、大きさ、範囲などがそれぞれ同一)に構成されるものであるので、その説明は省略する。
第2挟持部材18は、図4に示すように、その外周縁を凹欠することにより形成された凹部59を備えている。この凹部59は、上述したオリフィス部材16の凸部56と嵌合して、オリフィス部材16(第1挟持部材17)に対する第2挟持部材18の相対的な回転方向位置を位置決めするための部位である。
即ち、第2挟持部材18は、仕切り体12の組み立て工程において、オリフィス部材16の下方開口から挿入され、そのオリフィス部材16の内周面側に内嵌圧入されるが(図7参照)、この場合、凹部59をオリフィス部材16の凸部56に嵌合させることで、第2挟持部材18の各変位規制リブ18bをオリフィス部材16(第1挟持部材17)の変位規制リブ17bに対応する位置(即ち、軸芯方向視で重なる位置)へ位置決めすることができる。
なお、オリフィス部材16に対する第2挟持部材18の深さ方向の位置決め、即ち、第1挟持部材17と第2挟持部材18との対向面間距離は、オリフィス部材16の内周側に形成された段部(図3参照)に第2挟持部材18の上端部を当接させることにより行われる。
次いで、図5及び図6を参照して、仕切り体12を構成する弾性仕切り膜15について説明する。図5(a)は弾性仕切り膜15の上面図であり、図5(b)は、弾性仕切り膜15の下面図である。また、図6(a)は、図5(a)のVIa−VIa線における弾性仕切り膜15の断面図であり、図6(b)は、図5(a)のVIb−VIb線における弾性仕切り膜15の断面図である。
弾性仕切り膜15は、ゴム状弾性体から略円板状に構成されるゴム膜であり、上述したように、仕切り体12内に収容され、第1及び第2挟持部材17,18によりその変位が規制されつつ、第1及び第2液室11A,11B間の液圧差を緩和する作用を奏するものである。
この弾性仕切り膜15は、図5及び図6に示すように、略円板状の本体膜部50と、その本体膜部50の上下両面に突設される変位規制突起51及び補助突起52とを主に備えて構成されている。
本体膜部50には、その上下両面側に被挟持部50a及び歪抑制部50bが突設されている。これら被挟持部50a及び歪抑制部50bは、上述した第1及び第2挟持部材17,18によって両面側から挟圧保持される部位であり、被挟持部50aは本体膜部50の周縁部に円環状に、歪抑制部50bは本体膜部50の略中心部に円形に、それぞれ形成されている。
なお、これら各部50a,50bの頂部高さは、変位規制突起51の頂部高さと略同一の高さ寸法に設定されている。また、歪抑制部50bは、第1及び第2挟持部17,18の歪抑制部17c,18cと同心かつ同径以上の円形に形成されている。
弾性仕切り膜15は、図5に示すように、本体膜部50(被挟持部50a)の外周縁を凹欠することにより形成された凹部54を備えている。この凹部59は、上述した第2挟持部材18(図4参照)と同様に、オリフィス部材16の凸部56と嵌合して、オリフィス部材16(第1挟持部材17)に対する弾性仕切り膜15の相対的な回転方向位置を位置決めするための部位である。
仕切り体12の組み立て工程においては、この凹部54を凸部56に嵌合させることで、回転方向位置を位置決めして、弾性仕切り膜15の後述する各変位規制突起51を第1及び第2挟持部材17,18の各変位規制リブ17bに対応する位置(即ち、軸芯方向視で重なる位置)へ位置決めすることができる。
また、この場合には、被挟持部50aの傾斜面が第1及び第2挟持部材17,18の係止壁部17d,18dにより係止され、第1及び第2挟持部材17,18に対する弾性仕切り膜15の径方向への位置決めが行われる。
変位規制突起51は、第1及び第2挟持部材17,18の変位規制リブ17b,18bに当接されるリブ状突起であり、仕切り体12の組み立て状態においては、変位規制リブ17b,18bに対応する位置に配置される(即ち、軸芯方向視において、変位規制突起51と変位規制リブ17b,18bとが重なる)。
具体的には、変位規制突起51は、図5に示すように、被挟持部50bの略中心部(軸芯O)から被挟持部50aに向けて片面2本(両面では合計4本)が延設されており、これら2本の変位規制突起51は、直線状に配置されている。即ち、一方の変位規制突起51は、他方の変位規制突起51に対して、周方向に略180°離間され、両変位規制突起51の交差角が略180°とされている。
また、各変位規制突起51は、弾性仕切り膜15の上下両面に対称に配置(即ち、軸芯方向視において上下両面の各変位規制突起51が重なるように配置)され、かつ、各変位規制突起51の突起幅および突起高さも全ての変位規制突起51で略同一とされている。
各変位規制突起51の突起高さは、図6に示すように、被挟持部50a及び歪抑制部50bと略同一の高さに設定されると共に、仕切り体12の組み立て状態においては(図7参照)、その頂部が変位規制リブ17b,18bに若干圧縮された状態で当接されるように設定されている。
よって、変位規制突起51と変位規制リブ17b,18bとの間には隙間が生じず、大振幅の入力に伴って弾性仕切り膜15が変位しても、変位規制突起51の頂部が変位規制リブ17b,18bへ衝突することがない。その結果、変位規制突起51と変位規制リブ17b,18bとの衝突に起因する異音の発生を回避でき、その分、異音のより一層の低減を図ることができる。
ここで、変位規制突起51は、図6(b)に示すように、その頂部側の突起幅Wr1が基部側(本体膜部50側)の突起幅Wr2よりも狭くなるように設定され(Wr1<Wr2)、かつ、頂部側の突起幅Wr1が変位規制リブ17b,18bのリブ幅よりも若干広い幅となるように形成されている(図8参照)。
その結果、変位規制リブ17b,18bに弾性仕切り膜15が衝突することを抑制して、異音の発生を抑制することができる。特に、各部品の寸法公差や組み立て作業時の組み付け公差などに起因して、変位規制リブ17b,18bに対して変位規制突起51が周方向(例えば、図8左右方向)へずれている場合でも、変位規制突起51の基部側の突起幅Wr2が変位規制リブ17b,18bのリブ幅よりも広くされていれば、変位規制リブ17b,18bと弾性仕切り膜15(本体膜部50)との衝突を緩やかとして、その衝突に起因する異音の発生を効果的に抑制することができる。
補助突起52は、弾性仕切り膜15に膜破れ等の破損が生じることを防止するためのリブ状突起であり、図5及び図6に示すように、弾性仕切り膜15の軸芯Oに対して放射直線状の部位と環状の部位とが組み合わされて形成されている。各補助突起52の突起高さ及び突起幅は、それぞれ同一である。
なお、補助突起52は、図6に示すように、変位規制突起51よりも突起幅が狭く、かつ、突起高さが低くなるように設定されているので、弾性仕切り膜15全体としての剛性が上昇することを抑制して、小振幅入力時の低動ばね特性を維持することができる。
次いで、図7及び図8を参照して、仕切り体12の組み立て状態について説明する。図7(a)は、仕切り体12の上面図であり、図7(b)は、図7(a)のVIIb−VIIb線における仕切り体12の断面図である。また、図8は、図7のVIII−VIII線における仕切り体12の断面図である。
仕切り体12の組み立て状態においては、上述したように、図7(a)に示す軸芯方向視において、第1挟持部材17の各変位規制リブ17bと第2挟持部材18の各変位規制リブ18bとの回転方向位置が一致し、かつ、それら各変位規制リブ17b,18bと弾性仕切り膜15の各変位規制突起51の回転方向位置とが一致する。なお、この場合には、図8に示すように、各変位規制突起51の頂部が各変位規制リブ17b,18bに若干圧縮された状態で当接されている。
その結果、本発明の液封入式防振装置100によれば、小振幅入力時には、従来の弾性膜構造と同様に、第1及び第2液室11A,11B間の液圧差を弾性仕切り膜15が有効に緩和して、動ばね値の低減を図ることができる。一方、大振幅入力時には、弾性仕切り膜15の変位を変位規制リブ17b,18bが規制して、弾性仕切り膜15全体としての剛性を上昇させることができ、その分、減衰特性の向上を図ることができる。更に、変位規制リブ17b,18bが変位規制突起51に対応する位置にのみ設けられているので、弾性仕切り膜15と第1及び第2挟持部材17,18との当接を回避して、異音の大幅な低減を図ることができる。
次いで、上記のように構成された液封入式防振装置100を使用して行った耐久試験の結果について説明する。
耐久試験は、液封入式防振装置100に大振幅の振動を入力し、弾性仕切り膜15の耐久性を確認する試験である。具体的には、荷重制御により液封入式防振装置100へ大振幅の振動を入力する。即ち、液封入式防振装置100には、まず、エンジン(図示せず)を支持固定する際の分担荷重(以下、「W」とする。)が作用され、次いで、その状態から、上下各方向(図1上下方向)へそれぞれ3Wの加重が入力される。
なお、耐久試験は、上記実施の形態で説明した本発明の液封入式防振装置100(以下、「本発明品」と称す。)と、その本発明品に対し、変位規制リブ17b,18b(変位規制突起51)の本数を3本及び4本に増やした液封入式防振装置(以下、「3本タイプ品」及び「4本タイプ」と称す。)とを用いて行った。
3本タイプ品は、3本の変位規制リブ17b,18b(変位規制突起51)が周方向略120°間隔に配置され、4本タイプ品では、4本の変位規制リブ17b,18b(変位規制突起51)が周方向略90°間隔に配置されている。また、これら3本タイプ品及び4本タイプ品は、本発明品に対し、変位規制リブ17b,18b(変位規制突起51)の本数(周方向間隔)が異なるのみであり、その他の部材の材質や形状寸法などはすべて同一に構成されている。
耐久試験の結果、本発明品では、3本タイプ品及び4本タイプ品と比較して、弾性仕切り膜15の高寿命化を得られることが確認された。即ち、3本タイプ品及び4本タイプ品では、各変位規制リブ17b,18bが所定の交差角(3本タイプ品では略120°、4本タイプ品では略90°)を有して交差されるため、その交差部近傍に弾性仕切り膜15の変形(ひずみ)が集中し、膜破れ等の破損が生じ易く、耐久性に問題があった。これに対し、本発明品は、両変位規制リブ17b,18bが直線状(即ち、交差角が略180°)に配置されるので、弾性仕切り膜15の変形(ひずみ)の集中を抑制して、その耐久性の向上を図ることができる。
次いで、変位規制リブ17b,18b(変位規制突起51)の本数と動的特性との関係を検討した特性評価試験の結果について説明する。
ここで、液封入式防振装置100には、アイドリング時やこもり音領域等の小振幅入力時(一般的には、周波数:20Hz〜40Hz、振幅:±0.05mm〜±0.1mm)における低動ばね特性、クランクキング振動等の大振幅入力時(一般的には、周波数:10Hz〜20Hz、振幅:±1mm〜±2mm)における異音の低減、及び、それらの中間的な振幅入力時(シェイク領域等)における高減衰特性を達成することが要求されている。
そこで、特性評価試験では、アイドリング時(小振幅入力時)の動ばね値を同一とした条件下において、本発明品、3本タイプ品及び4本タイプ品でそれぞれ得られる最大減衰値を測定した。
具体的には、まず、本発明品、3本タイプ品及び4本タイプ品に対し、アイドリング時(周波数:30Hz、振幅:±0.05mm)の動ばね値がそれぞれ同一となるようにチューニングを施し(例えば、弾性仕切り膜15のゴム硬度を調整する)、次いで、それら本発明品、3本タイプ品及び4本タイプ品にシェイク領域における振幅(±0.5mm)を入力しつつ周波数を連続的に変化させることで得られる減衰特性の最大(ピーク)値を測定した。
その結果、本発明品の減衰特性の最大値は、3本タイプ品に対し略66%の値を、4本タイプ品に対し略55%の値を、それぞれ確保し得ることが確認された。よって、本発明品では、3本タイプ品及び4本タイプ品よりも優れた高寿命特性を確保しつつ、低動ばね特性と高減衰特性との両立を図り得ることが確認された。
ここで、エンジン側(第1取付け金具1側)から所定の振動(周波数:15Hz、振幅:±1mm)が入力された場合に、車体フレーム側(第2取付け金具2側)から出力される加速度値を異音指標として計測する異音評価試験も併せて行った。その結果、本発明品、3本タイプ品及び4本タイプ品ともに、異音指標値はほぼ0となり、従来の可動膜構造よりも大幅に異音の低減を図ることができると共に、弾性膜構造と同等の極めて良好な結果を得ることができた。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記実施の形態では、弾性仕切り膜15に補助突起52を突設する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、補助突起52の突設を省略して構成することは当然可能である。
同様に、上記実施の形態では、歪抑制部17c,18c,50bを形成する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、これら歪抑制部17c,18c,50bの形成を省略して構成することは当然可能である。これにより、弾性仕切り膜15の変形(ひずみ)の集中を防止して、その耐久性のより一層の向上を図ることができる。
また、上記実施の形態では、仕切り体12の組み立て状態において、変位規制突起51の頂部が変位規制リブ17b,18bに若干圧縮された状態で当接するように、その突起高さを設定したが、必ずしもこれに限られるわけではなく、その頂部を圧縮させることなく変位規制リブ17b,18bに当接させるように突起高さを設定しても良い。
また、上記実施の形態では、弾性仕切り膜15を単体で加硫成形し、その弾性仕切り膜15を第1及び第2挟持部材17,18間に挟持する場合を説明したが、かならずしもこれに限られるわけではなく、弾性仕切り膜15を第1又は第2挟持部材17,18のいずれか一方に加硫接着した構成とすることも当然可能である。
また、上記各実施の形態では、第1液室11Aと第2液室11Bとを1本のオリフィス25で連通したいわゆるシングルオリフィスタイプの液封入式防振装置100に本発明を適用する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるわけではなく、本発明をいわゆるダブルオリフィスタイプの液封入式防振装置に適用することは当然可能である。
なお、ダブルオリフィスタイプの液封入式防振装置とは、主液室と、第1及び第2の2つの副液室と、これら第1及び第2の副液室と主液室とをそれぞれ連通する第1及び第2の2本のオリフィスとを備えて構成されるものをいう。