JP4049227B2 - 無機・有機複合型水系被覆用組成物 - Google Patents
無機・有機複合型水系被覆用組成物 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は無機・有機複合型水系被覆用組成物に関し、より詳しくは、貯蔵安定性に富み、更に耐候性、耐汚染性に優れた被膜を形成することのできる無機・有機複合型水系被覆用組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、アルコキシシラン縮合物の有機溶媒溶液、又はアルコキシシラン縮合物と加水分解性シリル基含有アクリル共重合体との混合物の有機溶媒溶液等は耐候性、耐汚染性を発揮する被膜を形成し得る有用な材料であることは広く知られている。しかしながら、これらの被覆用材料は有機溶剤で希釈して用いるため、当然のことながらその有機溶剤の毒性並びに引火性等の性質により、その被覆用材料の使用範囲、使用態様に制限が生ずる。例えば、塗装作業の際に換気を行って作業従事者の健康環境を維持するとか、又は塗装ラインを防曝形式にするなどの処置が必要である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記の問題点を解決するためには、上記の被覆用組成物を水溶液又は水分散液にするのが理想であるが、アルコキシシラン縮合体の側鎖並びに末端に存在するアルコキシシリル基は水中では加水分解性が強く、縮合反応が進行するので、そのような組成物を水中に長期に亘り安定に保つことは極めて難しいことが知られている。
【0004】
又、アルコキシシラン縮合物の有機溶媒溶液を単独で被膜とする場合には硬くて脆い被膜となるという欠点もある。この被膜の欠点を改善する手段として、アルコキシシラン縮合物の有機溶媒溶液に、有機溶媒で希釈された加水分解性シリル基含有アクリル樹脂を配合して変質、改質させる場合も多いが、これらの加水分解性シリル基含有アクリル樹脂にあっても、分子中に存在する加水分解性シリル基を水中に長期に亘り安定に保つことは極めて困難であった。
本発明は、貯蔵安定性に富み、更に耐候性、耐汚染性に優れた被膜を形成することのできる無機・有機複合型水系被覆用組成物を提供することを課題としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、貯蔵安定性に富み、更に耐候性、耐汚染性に優れた被膜を形成することのできる無機・有機複合型水系被覆用組成物を見いだし、本発明に到達した。
【0006】
即ち、本発明の無機・有機複合型水系被覆用組成物は、
(a)水溶性又は水分散性アルコキシシラン縮合物、
(b)加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物、又は加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物及び加水分解性シリル基含有アクリル共重合体水分散物の両方、
(c)有機溶媒、及び
(d)水
からなり、該加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物が、フルオロオレフィン(i)に基づく構造単位10〜70モル%、オレフィン性不飽和結合とアルコキシシリル基を共に有する有機珪素化合物( ii )に基づく構造単位0.1〜20モル%、及びその他の共重合可能な化合物 (iii) に基づく構造単位30〜85モル%からなり、該その他の共重合可能な化合物 (iii) に基づく構造単位の一部として化学式( III)
CH 2 =CH−(CH 2 )n −COOH ( III)
(式中、nは3〜15の整数である)
で表わされる不飽和カルボン酸を全モノマーの0.1〜5モル%となる量で含み、(i)、( ii )及び( iii) の合計が100モル%である単量体組成物を水性媒体中で乳化重合させて得られるものであることを特徴とする。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の無機・有機複合型水系被覆用組成物について具体的に、詳細に説明する。
本発明で使用する水溶性又は水分散性アルコキシシラン縮合物としては、代表的なものとして次の3種類を挙げることができる。
【0008】
(1)化学式(I)
(R1)a −Si(OR2)4-a (I)
(式中、aは1又は2の整数であり、R1 はC1 〜C6 のアルキル基又はフェニル基であり、R2 はC1 〜C4 のアルキル基である)
で表されるアルコキシシラン化合物、又は化学式(II)
【0009】
【化1】
(式中、nは1〜10の整数であり、R1 はC1 〜C6 のアルキル基又はフェニル基であり、R2 はC1 〜C4 のアルキル基であり、R3 はR1 基又はOR2 基である)
で表されるアルコキシシラン初期縮合物を、水中又は水と親水性溶媒との混合物中で界面活性剤の存在下で縮合して得られる縮合物(X)。
【0010】
(2)分子中にグリシドキシ基を有するトリアルコキシシラン又はジアルコキシシランの存在下、化学式(I)で表されるアルコキシシラン化合物又は化学式(II)で表されるアルコキシシラン初期縮合物を、水中又は水と親水性溶媒との混合物中で縮合して得られる縮合物(Y)。
(3)分子中にグリシドキシ基を有するアルコキシシラン化合物に第一級アミン及び/又は第2級アミンを反応させた後、酸で中和し、更に水で希釈して得た溶液中で、化学式(I)で表されるアルコキシシラン化合物又は化学式(II)で表されるアルコキシシラン初期縮合物を縮合して得られる縮合物(Z)。
【0011】
上記の化学式(I)で表わされるアルコキシシラン化合物の具体例として、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、ジフェニルジプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン等が挙げられる。
【0012】
化学式(I)中の置換基R1 としては、被膜のリコート性の点からメチル基及びフェニル基が好ましい。置換基OR2 (アルコキシ基)としては、水中での安定性の面ではメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基の順に良くなる反面、被膜形成時の反応性は全くこの逆の順位となる。従って、縮合物の安定性と被膜形成時の反応の両方を満足させる点ではエトキシ基が特に好ましい。
【0013】
上記の化学式(II)で表わされるアルコキシシラン初期縮合物は、上記の化学式(I)のアルコキシシラン化合物を1種類用いるか又は2種類以上を混合して用いて縮合させて得られるものであり、基本単位
【化2】
の2量体〜11量体である。
本発明においては、塗膜の可撓性や耐候性を向上させる目的で、化学式(II)で表わされるアルコキシシラン初期縮合物を化学式(I)で表わされるアルコキシシラン化合物と併用することも可能である。
【0014】
上記した縮合物(X)の製造に使用する界面活性剤(以下乳化剤と称す)としては、ラウリル硫酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルコール、エトキシル化ノニルフェノール、ジアルキルフェノールエトキシレート、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコーポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤が代表的なものとして挙げられ、特にHLB価が4.3〜8.6の範囲にあるソルビタン脂肪酸エステル、及びHLB価が9.6〜11.4の範囲にあるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。これらの乳化剤は単独で使用することも、複数種を併用することも可能である。
【0015】
又、上記した縮合物(X)を製造する際に用いる乳化剤の濃度は、一般的には化学式(I)で表されるアルコキシシラン化合物又は化学式(II)で表されるアルコキシシラン初期縮合物の重量に対して1〜30重量%、好ましくは3〜20重量%の範囲である。
これらの好ましい乳化剤の種類及び濃度を適宜選択して製造されるシラン縮合物は2ヶ月以上の間安定なエマルジョンとして維持することが可能である。
【0016】
上記した縮合物(Y)及び(Z)の製造に使用するグリシドキシ基を有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン等の加水分解性シラン化合物が挙げられる。
【0017】
又、上記した縮合物(Y)を製造する際に用いるグリシドキシ基を有するアルコキシシラン化合物の濃度は、アルコキシシラン縮合物の全固形分の重量に対して部分のみオキシラン環部分のみの含有量が4.0〜12.0重量%の範囲内の量となることが好ましい。オキシラン環部分のみの含有量が4.0重量%未満の場合には、アルコキシシラン縮合物の水溶性又は水分散性が充分でなく、貯蔵安定性が悪くなる傾向があるので好ましくない。逆にオキシラン環部分のみの含有量が12.0重量%を超えると、耐水性能が低下する傾向があるので好ましくない。
【0018】
又、上記した縮合物(Z)を製造する際に用いる第一級又は第二級アミンとしては、例えば、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、アニリン、ベンジルアミン、オクチルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノメチルトリメトキシシラン、オルガノシロキサン変性第一級アミン、4−フルオロアニリン、2,2−ビス[(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン]、4−アミノベンゾトリフルオライド等の任意の第一級アミン、ジエチルアミン、ジ−(n−プロピル)アミン、ジアミルアミン、ジエタノールアミン等の任意の第二級アミン又はこれらの混合物を用いることができるが、被膜の耐水性や耐候性を考慮した場合、有機基の疎水性の強いものが望ましい。
【0019】
上記した縮合物(Z)を製造する際には、グリシドキシ基を有するアルコキシシラン化合物と第一級又は第二級アミンとを、グリシドキシ基を有するアルコキシシラン化合物のエポキシ基1モルに対して第一級又は第二級アミンが0.1〜2モルとなる量で混合し、密封し、攪拌しながら60〜100℃で2〜8時間加熱して珪素含有アミンを合成し、次いでこれに、上記の混合して第一級又は第二級アミンのモル量と等モル量の酸の水溶液を加え、中和して比較的低分子量の水性有機珪素化合物を得る。
【0020】
この際の第一級又は第二級アミンの混合量が0.1モル未満である条件下で得た化合物の存在下で、化学式(I)で表されるアルコキシシラン化合物又は化学式(II)で表されるアルコキシシラン初期縮合物を縮合すると、得られる水溶液又は水分散物の貯蔵安定性が悪くなる傾向があるので好ましくない。逆に第一級又は第二級アミンの混合量が2モルを超える条件下で得た化合物の存在下で縮合すると、最終的に得られる被膜の耐水性能が低下する傾向があるので好ましくない。
【0021】
又、上記の中和後の溶液中で、化学式(I)で表されるアルコキシシラン化合物又は化学式(II)で表されるアルコキシシラン初期縮合物を縮合する際に、未中和の生成アミン化合物が残存していると、系中のアルコキシ基との反応により不安定になり、沈澱が生じたりゲル化したりする恐れがあるので、適量の酸を加えて正確に中和しなければならない。
【0022】
中和に用いる酸としては、第一級又は第二級アミンとの反応で生成しているアミンと反応してアンモニウム塩を形成するものであれば、任意の酸を用いることができる。例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸等の有機酸、又はトリメチルクロルシラン、ジメチルクロルシラン、四塩化珪素等のクロルシラン、四塩化チタン、四塩化ジルコニウム等が挙げられる。又、この時、酸と一緒に加える水の量は、化学式(I)で表されるアルコキシシラン化合物又は化学式(II)で表されるアルコキシシラン初期縮合物を添加した後の、シラン成分が併せて10〜50重量%になるような量が望ましい。その量が10重量%未満である場合には、得られるシラン縮合物分散体の固形分濃度が低く、皮膜形成能力が乏しくなる傾向があり、逆に50重量%を超えると、貯蔵安定性が著しく低下する傾向がある。
【0023】
上記した縮合物(X)、(Y)及び(Z)の製造において、水中又は水と親水性溶媒との混合物中で、化学式(I)で表されるアルコキシシラン化合物又は化学式(II)で表されるアルコキシシラン初期縮合物を縮合させる時の条件については、pHが4.0〜8.0の範囲内であることが適している。pHが4.0近くでは縮合物の安定性がよく、pHが8.0に近づくに従い安定性が悪くなる傾向がある。後述の加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体や加水分解性シリル基含有アクリル共重合体との相溶性や、貯蔵安定性等を考慮するとpHが5.5〜7.0の範囲内であることがより好ましい。反応温度は30〜80℃、反応時間は2〜10時間の範囲内である。
本発明においては、水溶性又は水分散性のアルコキシシラン縮合物、例えば上記した縮合物(X)、(Y)又は(Z)は単独でも、又は2種以上を混合して用いることも可能である。
【0024】
本発明で使用する加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物は、1分子中に少なくとも1種の加水分解性シリル基を有する含フッ素共重合体であって水性媒体中に分散された状態のものである。該含フッ素共重合体は前記の水溶性又は水分散性アルコキシシラン縮合物と混合することによって、アルコキシシラン縮合物の耐候性能を維持しつつ、可撓性を附与する効果を有する。
【0025】
上記の含フッ素共重合体は、フルオロオレフィン(i)に基づく構造単位10〜70モル%、オレフィン性不飽和結合とアルコキシシリル基を共に有する有機珪素化合物(ii)に基づく構造単位0.1〜20モル%、及びその他の共重合可能な化合物(iii) に基づく構造単位30〜85モル%からなり、(i)、(ii)及び(iii)の合計が100モル%である単量体組成物を水性媒体中で乳化重合させて得られるものである。
【0026】
上記の含フッ素共重合体におけるフルオロオレフィン(i)は重合体に耐候性を付与するために必要な成分であり、分子中に少なくとも1つのフッ素原子が含まれている重合性二重結合を有する化合物である。それらを例示するならば、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブテン等の炭素原子数が2〜6程度のフルオロオレフィンが挙げられ、クロロトリフルオロエチレンが最も好ましいものとして挙げられる。またフルオロオレフィンは1種のみを用いても、2種以上を併用することもでき、2種以上を併用する場合にもその内の1種としてクロロトリフルオロエチレンを含むことが好ましい。
【0027】
本発明で使用する加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物を製造する際のフルオロオレフィン(i)の配合比率は全モノマーの10〜70モル%を占めることが好ましく、30〜60モル%を占めることがより好ましい。その配合比率が10モル%未満の場合には、得られる含フッ素共重合体の耐候性が不十分となる傾向があり、逆に70モル%を超えると造膜性が悪くなる傾向があるため好ましくない。
【0028】
上記の含フッ素共重合体におけるオレフィン性不飽和結合とアルコキシシリル基とを共に有する有機珪素化合物(ii)は、前記の水溶性又は水分散性アルコキシシラン縮合物との相溶性を確実にし、更に被膜形成時に架橋部位となる成分である。
即ち、エマルジョン中ではアルコキシシリル基の状態は安定であるが、塗膜形成時にはアルコキシシリル基が加水分解反応してシラノール基に変化し、前記の水溶性又は水分散性アルコキシシラン縮合物との間の架橋反応や該含フッ素共重合体同志間や、又は後述のシリル基含有アクリル共重合体との架橋反応に寄与するものと推測され、例えばアルコキシシリル基が加水分解し、シラノール基となり、次いでシラノール基同志が縮合反応してシロキサン結合による分子間架橋を形成するものと考えられる。そして架橋構造に起因して得られる塗膜の耐水性、耐汚染性、耐溶剤性が向上するものと推測される。
【0029】
上記の有機珪素化合物(ii)について、そのオレフィン性不飽和結合を有する基としては、特には限定されないが、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが例示できる。また、そのアルコキシシリル基としては、特には限定されないが、シリル基又はアルキルシリルのSi原子に少なくとも1個のメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基が結合したものが挙げられる。
【0030】
上記の有機珪素化合物(ii)として、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(n−プロポキシ)シラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジイソプロポキシシラン、ビニルメチルジ−n−プロポキシシラン、ビニルメトキシジエトキシシラン、ビニルメトキシジイソプロポキシシラン、ビニルメトキシジ−n−プロポキシシラン、ビニルエトキシジメトキシシラン、ビニルエトキシジイソプロポキシシラン、ビニルエトキシジ−n−プロポキシシラン、ビニル−n−プロポキシジメトキシシラン、ビニル−n−プロポキシジエトキシシラン、ビニル−n−プロポキシジイソプロポキシシラン、3−(N−アリル−N−グリシジル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−アリル−N−メタクロイル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]メタクリルアミド、N,N−ビス[3−(メチルジメトキシシリル)プロピル]メタクリルアミド、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン等を例示することができる。
【0031】
これらは1種のみを使用しても又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、上記で例示したビニルトリアルコキシシランの中の炭素数1〜4のアルコキシ基を有するビニルトリアルコキシシランが他のモノマーとの共重合性に優れることから特に好ましいものとして挙げられ、2種以上を併用する際にもそれらを含有することが望ましい。
【0032】
本発明で使用する加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物を製造する際の上記の有機珪素化合物(ii)の配合比率は全モノマーの0.1〜20モル%を占めることが好ましく、0.3〜10モル%を占めることがより好ましい。その配合比率が0.1モル%未満の場合には、最終的に得られる被膜の架橋が十分でなく、塗膜の耐水性と耐汚染性に劣る傾向があり、逆に20モル%を超えると分散液の保存安定性に劣る傾向があるので好ましくない。
【0033】
上記の含フッ素共重合体におけるその他の共重合可能な化合物(iii)としては、例えば、酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ビバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、(ベオバ9、ベオバ10)等の炭素数1〜8の分岐を有することもある脂肪酸から誘導される脂肪酸ビニルエステル類、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等の炭素数1〜6の分岐を有するか又は環状のアルキル基を有するアルキルビニルエーテル類、酢酸アリル、プロピオン酸アリル、酪酸アリル、イソ酪酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、シクロヘキサンカルボン酸アリル等のカルボン酸アリルエステル類、メチルアリルエーテル、エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル等のアリルエーテル類、ヒドロキシブチルアリルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノアリルエーテル、グリセリンモノアリルエーテル等の水酸基含有アリルエーテル類、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシメチルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル類、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−オクテン等のα−オレフィン類、ポリエチレンオキシド類、ポリプロピレンオキシド鎖などの親水性側鎖を持つ不飽和エステル類又は不飽和エーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリロイル化合物、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水テトラハイドロフタル酸等の不飽和カルボン酸無水物もしくはその誘導体、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸、及びジカルボン酸、又は化学式(III)
CH2 =CH−(CH2)n −COOH (III)
(式中、nは3〜15の整数である)
で表わされる5−ヘキセン酸、6−ヘプテン酸、7−オクテン酸、8−ノネン酸、9−デセン酸、10−ウンデシレン酸、11−ドデシレン酸、17−オクタデシレン酸等の不飽和カルボン酸類が挙げられ、更には、10−ウンデシレン酸ナトリウム等の不飽和カルボン酸をアルカリ物質で中和したもの、スルホン酸含有モノマーなどがある。
【0034】
これらのなかで、上記化学式(III)で表わされる不飽和カルボン酸類は、シリル基含有含フッ素共重合体水分散物の安定性とアルコキシシリル基の架橋反応に対する触媒作用を担う成分である。この安定化作用とは、不飽和カルボン酸が乳化剤と同様の作用、即ち反応性乳化剤として作用するので、非反応性乳化剤の使用量を減らすことが可能となることをいうものである。
【0035】
一般に非反応性の乳化剤は、樹脂との相溶性が悪い場合には塗膜からブリードして表面に析出し、水や汚染物質を吸収してしまうという不具合を生じる傾向があり、また、樹脂との相溶性が良くても、樹脂自身に吸水性を付与して塗膜の耐水性を悪化させてしまう傾向がある。従って、上記のように不飽和カルボン酸類を使用することは塗膜の耐水性と耐汚染性を向上させる効果をもたらす結果となるものと推測される。
【0036】
一方、架橋反応に対する触媒作用に関しては、不飽和カルボン酸類によって導入されるカルボキシル基は、水分散物の状態ではエマルジョン粒子の表面に存在するために内部に存在するアルコキシシリル基に対して何等作用しないが、水揮発による塗膜形成時には均一に拡散してアルコキシシリル基に対して触媒作用するものと考えられる。従って分散液の長期保存安定性は十分に確保され、しかも塗膜形成に伴う水の揮発によってすみやかに架橋反応に対して触媒作用を発揮するので塗膜の初期耐水性、耐汚染性に優れるものと推測される。
【0037】
かかる不飽和カルボン酸類の配合比率は全モノマーの0.1〜5モル%を占めることが好ましく、0.1〜2モル%を占めることがより好ましい。その配合比率が0.1モル%未満の場合には、分散液の安定化作用が不十分となる傾向があり、それを補うために非反応性の乳化剤の使用量を多くすると塗膜の耐水性が低下するので好ましくない。また、その配合比率が5モル%を超える場合には塗膜の耐アルカリ性が低下する傾向が有るので好ましくない。また、これらの不飽和カルボン酸類は2種以上を併用することも可能である。
【0038】
なお、前記化学式(III)で表される不飽和カルボン酸類のnが3未満である場合には、モノマーの水溶解性が高いために分散液製造時に分散液の安定性の向上にあまり寄与しない傾向があり、また15を越える場合には重合反応性に劣るといった不具合を生じる傾向がある。前記化学式(III)で表される不飽和カルボン酸類のうちで10−ウンデシレン酸が分散液製造時の重合性、製造された分散液の保存安定性が特に良いことから好ましいものとして挙げられる。
【0039】
また、不飽和カルボン酸類以外の共重合可能な化合物のなかで、脂肪酸ビニルエステル及びアルキルビニルエーテル類は重合性及び分散液から塗膜を形成する際の造膜性に特に優れていることから好ましいものとして挙げることができる。
本発明で使用する加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物を製造する際の上記その他の共重合可能な化合物(iii)の配合比率は全モノマーの30〜85モル%を占めることが好ましく、35〜70モル%を占めることがより好ましい。その配合比率が30モル%未満の場合には造膜性に劣る傾向があり、また、85モル%を超える場合には耐候性に劣る傾向があるので好ましくない。
【0040】
本発明で使用する加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物は、前記したように、フルオロオレフィン(i)、オレフィン性不飽和結合とアルコキシシリル基を共に有する有機珪素化合物(ii)、及びその他の共重合可能な化合物(iii) を乳化重合することにより得られる。この際の媒体としては、水性媒体すなわち水、又は水と有機溶媒との混合液を用いることができる。ここで有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、sec−ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の二価アルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ等のエーテルアルコール類、キシレン等の芳香族又は脂肪族炭化水素類、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類などが例示される。これら有機溶媒は単独で又は2種以上の混合液として使用できる。水と有機溶媒との混合液として用いる際の有機溶媒の配合量は全溶媒の10重量%以下で、均一な媒体となることが好ましい。
【0041】
該含フッ素共重合体水分散物中の不飽和カルボン酸が反応性乳化剤として確実に作用するようにするために、更には分散液中でのアルコキシシリル基の保存安定性を向上させるために、該含フッ素共重合体水分散物の製造時の媒体のpH及び得られた分散液のpHをそれぞれ5〜9とすることが好ましく、更に6〜9であることがより好ましい。従って、該含フッ素共重合体水分散物の製造においては、pH調節を目的として各種のpH調節剤を用いることが好ましい。使用できるpH調製剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、オルトリン酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、テトラホウ酸ナトリウム等の無機塩類、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、アンモニア、ジメチルエタノールアミン等の有機塩基類が例示される。pH調整剤の添加量は、通常、乳化重合媒体100重量部当り0.05〜5重量部程度である。pH調節剤は重合時に添加しても、重合後に添加してもよく、その併用も可能である。
【0042】
乳化重合の開始は重合開始剤の添加により行われる。かかる重合開始剤としては水溶性開始剤が重合安定性、作業性の点で好ましく採用される。用いることのできる重合開始剤の例としては、過硫酸カリウム塩、過硫酸アンモニウム塩等の過硫酸塩、過酸化水素、又はこれらと亜硫酸ナトリウム等の還元剤との組合わせからなるレドックス開始剤が挙げられる。重合開始剤の添加量は総モノマー量100重量部に対して0.0001〜5重量部であり、好ましくは0.001〜3重量部である。また乳化重合開始温度については、主に重合開始剤の種類に応じて最適選定されるが、作業性、重合反応安定性の点から0〜100℃、好ましくは30〜70℃が採用される。
【0043】
加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物の製造においては、重合時の乳化状態の安定性を向上させる目的で、各種分散安定剤を使用することもできる。このような分散安定剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等の周知の界面活性剤や、ポリビニルアルコール、メチルセルロース等の水溶性ポリマーが使用でき、特に、ノニオン系界面活性剤が重合体との相溶性に優れることから好ましいものとして挙げられる。より好ましくは親水性と疎水性のバランスを表すHLB値が10〜18のノニオン系界面活性剤である。これら分散安定剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、これら分散安定剤は、添加量が多くなると塗膜の耐水性、耐候性が劣る傾向があるため、総モノマー量100重量部に対して10重量部以下の量で添加することが好ましい。更に好ましくは5重量部以下の量で添加する。
【0044】
本発明で使用する加水分解性シリル基含有アクリル共重合体水分散物は、1分子中に少なくとも1個の加水分解性シリル基を有するアクリル共重合体であって水性媒体中に分散された状態のものである。該アクリル共重合体は前記のアルコキシシラン縮合物と混合することによって、アルコキシシラン縮合物の耐候性能を維持しつつ、可撓性を附与する効果を有する。
【0045】
該アクリル共重合体として種々のものを挙げることができるが、本発明の目的に合致しうるものとしては、特に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)に基づく構造単位35〜97重量%、分子中に少なくとも1個の重合性不飽和二重結合(以下、不飽和結合と略記する。)とアルコキシシリル基とを併せ有する有機珪素化合物(ii)に基づく構造単位0.3〜15重量%、及びその他の共重合可能な化合物(iii) に基づく構造単位0.5〜60重量%からなり、(i)、(ii)及び(iii)の合計が100重量%である単量体組成物を乳化共重合させて得られる乳化共重合体(共重合体エマルジョン)を使用することが望ましい。
【0046】
上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)の特に代表的なものを例示すれば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル及び(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル等を挙げることができる。当該(メタ)アクリル酸アルキルエステルは1種のみ又は2種以上を併用して、全単量体の35〜97重量%となる量で用いられる。更には、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなども同様に用いることができる。
【0047】
上記の有機珪素化合物(ii)の特に代表的なものを例示すれば、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジ−β−メトキシエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス−β−メトキシエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。これらは1種のみ又は2種以上を併用して、そして、全単量体の0.3〜15重量%となる量で用いられる。
【0048】
上記の有機珪素化合物(ii)は、前記水溶性又は水分散性アルコキシシラン縮合物との相溶性を確実にし、更に重合体中で架橋部位となるための必須成分であり、その配合比率が0.3重量%未満の場合には、どうしても、かかる性能の向上化効果乃至は発現化効果が発揮され得なくなるし、一方、その配合比率が15重量%を超える場合には、かかる効果が飽和の状態に達している処から、経済的に好ましくない。
【0049】
又、上記のその他の共重合可能な単量体(iii) の特に代表的なものを例示すれば、β−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、β−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの如き各種ヒドロキシ化合物;(メタ)アクリロニトリル、マレイックジニトリルもしくはビニリデンシアニドの如き各種ビニルシアニド類;グリシジル(メタ)アクリレートもしくはアリルグリシジルエーテルの如き各種グリシジル化合物;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドもしくはジメチロールメタコン酸アミドの如き各種アミド化合物又はそれらのアルコキシ化合物;アルキルアミノ(メタ)アクリレート、N−アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートもしくはN−アルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの如き各種アミノ基含有化合物;スチレン、α−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン又はビニルトルエンなどのスチレン又はその誘導体;又はN−ビニルピロリドンなどの各種反応性極性基含有単量体や、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート又はグリセリントリ(メタ)アクリレートの如き、一分子中に不飽和結合を2個以上有する架橋性単量体、(メタ)アクリル酸、マレイン酸もしくはその半エステル化物、フマル酸もしくはその半エステル化物、イタコン酸もしくはその半エステル化物又はクロトン酸等を挙げることができる。
【0050】
上記のその他の共重合可能な単量体(iii) の内で特に有用な単量体は、α、β−モノエチレン性不飽和カルボン酸類であり、当該単量体は、本発明の他の構成成分であるアルコキシシラン縮合物との混和安定性を向上させるために必要なものであり、その配合比率は0.5〜5重量%の範囲内であることが適当である。配合比率が0.5重量%未満の場合には、かかる性能の向上化効果が発揮されなくなる傾向があり、一方、配合比率が5重量%を超える場合には、どうしても、得られる乳化共重合体の耐アルカリ性が劣るようになる傾向があるので、いずれの場合も好ましくない。
【0051】
上記した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)、有機珪素化合物(ii)及びその他の共重合可能な化合物(iii) を用いて乳化共重合させて得られる乳化共重合体を製造する際に用いる乳化剤は公知慣用のものでよく、それらのうちで特に代表的なものを例示すれば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩もしくはアルキルアリールポリエーテル硫酸塩の如き各種陰イオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルもしくはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン・ブロック共重合体の如き各種非イオン性乳化剤;又はアルキルトリメチルアンモニウム塩もしくはジアルキルジメチルアンモニウム塩の如き各種陽イオン性乳化剤等を挙げることができ、それらは適宜選択して用いられるが、特にアニオン系、ノニオン系乳化剤がアルコキシシラン縮合物等の混和安定性の点から好ましい。
【0052】
また、これらの乳化剤と共に、水溶性オリゴマーや、ポリビニルアルコール又はヒドロキシエチルセルロースの如き水溶性高分子化合物などの各種の保護コロイドを分散安定剤として使用することもできる。
かかる乳化剤及び保護コロイドを多量に使用すると、得られる樹脂組成物の皮膜の耐水性を悪化させることになり、逆に、余りに少量の場合には、被膜形成時にハジキやチョーキンブ現象が起き易くなるので好ましくない。そうした意味合いからも、かかる乳化剤及び保護コロイドの使用量としては、単量体総量に対して1〜10重量%、好ましくは2〜8重量%の範囲内でもちいることが適切である。
【0053】
更に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)、有機珪素化合物(ii)及びその他の共重合可能な化合物(iii) を乳化共重合させのに用いる重合開始剤の特に代表的なものを例示すれば、過酸化水素もしくは過硫酸塩の如き各種水溶性ラジカル発生剤;及び/又は2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル(ベンゾイルパーオキシド)、クメンヒドロ過酸化物(クメンヒドロパーオキシド)もしくはtert−ブチルヒドロパーオキシドの如き各種油溶性ラジカル発生剤等を挙げることができ、更には、これらの重合開始剤と公知慣用の還元剤との組み合わせによる、いわゆるレドックス系開始剤を適宜選択して用いることもできる。
【0054】
更にまた、乳化共重合体の分子量を調整するために、各種のアルコール類(カテコール類)やチオール類などの公知慣用の連鎖移動剤を用いてもよい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)、有機珪素化合物(ii)及びその他の共重合可能な化合物(iii) を乳化共重合させる際の反応温度としては、総じて、約30〜90℃程度が好ましく、その際の共重合反応は窒素ガスなどの不活性ガス中で行なうことが望ましい。
【0055】
本発明の無機・有機複合型水系被覆用組成物は、以上に説明した(a)水溶性又は水分散性アルコキシシラン縮合物、(b)加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物、又は加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物及び加水分解性シリル基含有アクリル共重合体水分散物の両方、(c)有機溶媒、及び(d)水からなるものであり、好ましくは、(a)成分と(b)成分との混合割合が固形分比で(a):(b)=90:10〜15:85であり、より好ましくは(a):(b)=70:30〜40:60である。(a)成分の混合割合が15重量%未満である場合には、硬度や耐汚染性が劣る傾向があるので好ましくない。逆に(a)成分の混合割合が90重量%を超える場合には、得られた組成物を用いて形成された被膜の可撓性が充分ではなく、屋外に曝露した場合、短期間に亀裂が生ずる傾向が見受けられるので好ましくない。
【0056】
又、(a)成分と(b)成分との混合方法としては、塗装の前に予め(a)成分と(b)成分とを混合しておいても良く、又は、塗装直前になって(a)成分と(b)成分とを混合して用いても良いが、作業性を考慮すると、予め混合しておいたものを使用することが望ましい。
本発明の無機・有機複合型被覆用組成物において、(a)成分及び(b)成分の固形分合計量は好ましくは55重量%以下、より好ましくは50重量%以下である。固形分合計量が55重量%を超えると貯蔵安定性が著しく悪くなる傾向があるので好ましくない。
【0057】
本発明の無機・有機複合型被覆用組成物において、(c)成分量は好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下である。本発明の無機・有機複合型被覆用組成物中の(c)成分は、(a)成分の水溶性又は水分散性アルコキシシラン縮合物の製造時に副生し、系内に含有される炭素数1〜4の低級アルコール、及び(b)成分の含フッ素共重合体やアクリル共重合体の成膜助剤として系内に含有されるものも包含する。(c)成分の配合量が10重量%を超えると、本発明の目的の水系被覆用組成物としての範疇から遠くなり、引火性、衛生面を考慮して塗装作業の際に換気を行う必要がある。
【0058】
又、本発明の無機・有機複合型被覆用組成物において、(d)成分の水は本発明の被覆用組成物の貯蔵安定性を確保する観点から好ましくは35重量%以上、より好ましくは40重量%以上とする。
以上のようにして得られた本発明の無機・有機複合型水系被覆用組成物はクリヤー塗膜形成剤として使用することも、又は、各種顔料類等を配合し、半透明〜不透明の着色塗膜形成剤として使用することも可能である。又、更に必要に応じて、消泡剤、増粘剤、表面調整剤等公知慣用の各種添加剤成分を、勿論、本発明の目的を損なわない限りにおいて、適宜選択し、配合することもできる。
【0059】
又、本発明の無機・有機複合型被覆用組成物は、基本的には一液形で用いられるが、必要に応じて、塗装直前に硬化触媒を混合して使用することもできる。これらの硬化触媒としては、代表的なものを列記すると、Sn、Zn、B、Ti、Al等の金属の有機金属化合物類及びアミノ基を有するアルコキシシラン化合物等を単独で、又は2種以上を併用することもできる。
【0060】
本発明の無機・有機複合型水系被覆用組成物は、主として、基材が水硬性板材(例えば、石膏スラグパーライト板)等の外壁材等に適用され、該基材上に予めアクリル系塗料、ウレタン系塗料、エポキシ系塗料、アクリルシリコン系塗料等で下層塗膜を形成した後に塗布して上塗り塗膜を形成し、優れた耐汚染性と耐候性を発揮する。このような優れた物性が発現される理由としては、水溶性又は水分散性のアルコキシシラン縮合物の本質的に有する耐汚染性、耐紫外線劣化性に加えて、配合されるシリル基含有含フッ素共重合体又はシリル基含有アクリル共重合体と部分的に縮合架橋することによって、可撓性が改善され、耐候性能が確実なものになると考えられる。
【0061】
【実施例】
次に、本発明を実施例及び比較例により、一層具体的に説明する。以下において、「部」及び「%」は、特に断りのない限り、全て重量基準である。
以下の実施例及び比較例で用いた諸成分は下記の市販品又は下記の方法によって製造した製品である。
【0062】
【0063】
【0064】
・アルコキシシラン縮合物C
オレイルアミン26.8g(0.1モル)とγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン23.6g(0.1モル)とを混合し、密封容器内で75℃で6時間加熱した。その後、室温に戻してから攪拌しながら、0.25規定の塩酸400mlを徐々に加えて第四級アンモニア塩含有有機珪素化合物の水性溶液を得た。その得られた水性溶液40gを直ちに水40gで希釈し、これをホモミキサーを用いて約10000rpmで高速攪拌しながら、メチルトリメトキシシラン20gを徐々に加えることによって白色水性エマルジョンを得た。
【0065】
・アルコキシシラン縮合物D
ノニオン性乳化剤ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエート2gを水78gで希釈し、これをホモミキサーを用いて約10000rpmで高速攪拌しながら、メチルトリメトキシシラン20gを徐々に加えることによって白色水性エマルジョンを得た。
【0066】
・含フッ素共重合体水分散物E(加水分解性シリル基を含有する)
内容積2リットルのステンレス製攪拌機付きオートクレーブに、酪酸ビニル125.7部、ベオバ9(シェル化学社製ビニルエステル)81.2部、ビバリン酸ビニル39.5部、ビニルトリエトキシシラン25.1部、ウンデシレン酸40.6部、イオン交換水570部、過硫酸アンモニウム2.58部、炭酸ナトリウム10水和物1.14部、Nowco1504(日本乳化剤社製ノニオン乳化剤)11.4部を仕込んだ。そしてオートクレーブを氷水にて冷却し、窒素ガスで5kg/cm2 になるようにオートクレーブを加圧した後に脱気して溶存空気を除去した。更にオートクレーブ内にクロロトリフルオロエチレンを257.0部導入した後に50℃で24時間反応を行い、固形分48.6%のフッ素樹脂水性分散液を得た。
【0067】
・含フッ素共重合体水分散物F(加水分解性シリル基を含有しない)
上記の含フッ素共重合体水分散物Eの製造法で用いた酪酸ビニル125.7部を150.8部変更し、ビニルトリエトキシシラン25.1部を配合しなかった以外は、上記の含フッ素共重合体水分散物Eの製造法と同様にしてフッ素樹脂水性分散液を得た。
【0068】
・アクリル共重合体水分散物H「加水分解性シリル基を含有する)
攪拌器、還流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下ロートを備えた反応容器に、脱イオン水40部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルスルフェート1部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル1部、酢酸アンモニウム0.5部、ロンガリット0.3部、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.1部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ50℃に昇温した。メタクリル酸ブチル60部、メタクリル酸エステル(MA50)2部、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン5部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル1部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルスルフェート1部、脱イオン水56部の混合物158部中の20部を滴下ロートを用いて30分かけて滴下して初期重合を行った。滴下終了1時間後に、前記混合物158部中の残りの138部及びt−ブチルハイドロパーオキサイド0.1部を滴下ロートにより3時間かけて等速滴下した。この後、1時間重合を行い、脱イオン水を添加して樹脂固形分が50重量%のエマルジョンを得た。
【0069】
・アクリル共重合体水分散物I(加水分解性シリル基を含有しない)
上記のアクリル共重合体水分散物Hの製造法で用いたメタクリル酸ブチル60部を65部に変更し、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン5部を配合しなかった以外は、上記のアクリル共重合体水分散物Hの製造法と同様にしてエマルジョンを得た。
【0070】
実施例1
含フッ素共重合体水分散物E34部に増粘剤アデカUH420S0.1部を攪拌混合し、次いで、アルコキシシラン縮合物A54部、アルコキシシラン縮合物B10部、ブチルカルビトールアセテート2部を均一に混合してクリヤー塗料を得た。
【0071】
実施例2
含フッ素共重合体水分散物E34部に増粘剤アデカUH420S0.1部を攪拌混合し、次いで、アルコキシシラン縮合物C64部、ブチルカルビトールアセテート2部を均一に混合して水系クリヤー塗料を得た。
実施例3
アルコキシシラン縮合物A54部、アルコキシシラン縮合物B10部、含フッ素共重合体水分散物E10部、アクリル共重合体水分散物H25部、ブチルカルビトールアセテート1部を均一に混合して水系クリヤー塗料を得た。
【0072】
実施例4
イオン交換水5部に増粘剤アデカUH420S0.1部を溶解し、0.2部のノイゲン140、15部のチタン白CR97を混合し、練合後、実施例1のクリヤー塗料100部を混合して水系被覆用組成物を調製した。
【0073】
比較例1
アルコキシシラン縮合物D65部、アクリル共重合体水分散物I35部を均一に混合して水希釈性クリヤー塗料を調製した。
比較例2
含フッ素共重合体水分散物F34部、増粘剤アデカUH420S0.1部を攪拌混合し、更に、アルコキシシラン縮合物A54部、アルコキシシラン縮合物B10部、ブチルカルビトールアセテート2部を混合した。
比較例3
含フッ素共重合体水分散物F94部に増粘剤アデカUH420S0.1部を均一に混合し、更に、ブチルカルビトールアセテート6部を混合してクリヤー塗料を調製した。
【0074】
性能評価試験
上記の実施例1〜4及び比較例1〜3で得た被覆用組成物の保存安定性を下記の方法で評価し、また、その保存安定性評価の後に実施例1〜4及び比較例3で得た被覆用組成物を石膏スラグパーライト板に塗布量90g/m2 (wet塗着量)で塗装し、120℃で20分間乾燥し、室温で7日間保管した後、下記の試験に供した。それらの試験結果は表1に示す通りであった。
【0075】
・塗料の保存安定性評価
水性塗料の分散状態を、50℃で4週間保存した後に目視観察によって評価した。
○:凝集なし
×:凝集物発生
【0076】
・塗膜の初期耐水性評価
塗膜を常温にて水に96時間浸漬した後に、膨れの有無等の外観変化を目視観察にて評価した。
○:膨れ等の外観変化なし
△:一部に膨れ等の外観変化あり
×:膨れ等の外観変化あり
【0077】
・塗膜の耐汚染性評価
カーボン/水の10%分散液を塗膜上に滴下し、20℃飽和蒸気圧下で1日間、40℃で2日間乾燥し、ガーゼを用いて滴下部を拭き取った後のカーボンの残存度合いを目視観察によって評価した。
○:カーボンの痕跡が殆どなし 〜 薄く残存
×:カーボンの痕跡が濃く残存 〜 拭き取れない
【0078】
・塗膜の耐候性評価
塗膜の光沢を未処理状態と、サンシャインウエザオメーターにて2000時間処理した後の両方で目視観察して評価した。
○:亀裂がなく、光沢低下のないもの
△:亀裂はないが、光沢低下が僅かにあるもの
×:亀裂があり、光沢低下が著しいもの
【0079】
【表1】
【0080】
実施例1〜4の本発明の組成物は、評価試験において、全て良好であった。しかし、加水分解性シリル基を含有しないアクリル共重合体水分散物Iを混合した比較例1の塗料は保存安定性評価において二層分離を起こし、塗料として不良であった。また、加水分解性シリル基を含有しない含フッ素共重合体水分散物Fを配合した比較例2の塗料は相溶せず、塗料として不良であった。アルコキシシラン縮合体を含有しない比較例3の塗料は塗料の耐汚染性評価においてカーボンの痕跡が濃く残存し、不良であった。
【0081】
【発明の効果】
本発明の無機・有機複合型水系被覆用組成物は貯蔵安定性に富み、該組成物を上塗り塗膜として塗布することにより優れた耐汚染性と耐候性を発揮する。
Claims (3)
- (a)水溶性又は水分散性アルコキシシラン縮合物、
(b)加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物、
(c)有機溶媒、及び
(d)水
からなり、該加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物が、フルオロオレフィン(i)に基づく構造単位10〜70モル%、オレフィン性不飽和結合とアルコキシシリル基を共に有する有機珪素化合物( ii )に基づく構造単位0.1〜20モル%、及びその他の共重合可能な化合物 (iii) に基づく構造単位30〜85モル%からなり、該その他の共重合可能な化合物 (iii) に基づく構造単位の一部として化学式( III)
CH 2 =CH−(CH 2 )n −COOH ( III)
(式中、nは3〜15の整数である)
で表わされる不飽和カルボン酸を全モノマーの0.1〜5モル%となる量で含み、(i)、( ii )及び( iii) の合計が100モル%である単量体組成物を水性媒体中で乳化重合させて得られるものであることを特徴とする無機・有機複合型水系被覆用組成物。 - (a)水溶性又は水分散性アルコキシシラン縮合物、
(b)加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物及び加水分解性シリル基含有アクリル共重合体水分散物、
(c)有機溶媒、及び
(d)水
からなり、該加水分解性シリル基含有含フッ素共重合体水分散物が、フルオロオレフィン(i)に基づく構造単位10〜70モル%、オレフィン性不飽和結合とアルコキシシリル基を共に有する有機珪素化合物( ii )に基づく構造単位0.1〜20モル%、及びその他の共重合可能な化合物 (iii) に基づく構造単位30〜85モル%からなり、該その他の共重合可能な化合物 (iii) に基づく構造単位の一部として化学式( III)
CH 2 =CH−(CH 2 )n −COOH ( III)
(式中、nは3〜15の整数である)
で表わされる不飽和カルボン酸を全モノマーの0.1〜5モル%となる量で含み、(i)、( ii )及び( iii) の合計が100モル%である単量体組成物を水性媒体中で乳化重合させて得られるものであることを特徴とする無機・有機複合型水系被覆用組成物。 - 上記(a)成分と(b)成分との混合割合が固形分比で(a):(b)=90:10〜15:85であり、(a)成分と(b)成分との固形分合計量が55重量%以下であり、(c)成分量が10重量%以下であり、(d)成分量が35重量%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の無機・有機複合型水系被覆用組成物。
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