JP4048298B2 - 車両のタイロッドアセンブリ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両のステアリング系に配設されるタイロッドアセンブリに係り、特にセンターテイクオフ方式のパワーステアリング適用して好適な車両のタイロッドアセンブリに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、タイロッドアセンブリは、車両のステアリング系の一部として組み込まれているものであり、ステアリングの動作をホイールに伝達するとともに、ホイールからの過大衝撃入力に対して変形吸収し、パワーステアリングのような高価な部品の破損を防ぐバッファとしての役割を有する。また、車両に取り付けられた際には、アジャスタによってナックルアームとパワーステアリングとの距離を調節することにより、トーコントロールとしての役割も兼ねる。
【0003】
図3には通常のパワーステアリングに適用されるタイロッドアセンブリ、図4及び図5には特にセンターテイクオフ方式のパワーステアリングに適用されるタイロッドアセンブリを示し、これらは、いずれもラック・ピニオン方式を採用したものである。図3に示すタイロッドアセンブリ1は、タイロッド2がナックルアーム3を介して左右のホイール4に連結される。一方、図4及び図5に示すタイロッドアセンブリ10は、ラック11の略中心に取付構造12が設けられ、この取付構造12から左右にタイロッド13が延出するようになっている。
【0004】
また、図6及び図7は、上述したアジャスタの構成例を示す図である。これらの図のうち、図6に示すものは、タイロッド15の左右端を螺子締結構造16とすることにより、タイロッド15の直線状部位をアジャスタとして機能させるものであり、図7に示すものは、タイロッドエンド部17側にアジャスタボルト18を組み込むものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
図3と図4との比較からも容易に判断されるように、センターテイクオフ方式のパワーステアリングに適用されるタイロッド13は、通常のパワーステアリングに適用されるタイロッド2と比較して、長手方向の長さが大きい。すなわち、これらを同一車両に適用したとすると、センターテイクオフ方式のパワーステアリングに適用されるタイロッド13は、通常のパワーステアリングに適用されるタイロッド2に対して、約二倍以上の長さになる場合が殆どである。
【0006】
具体的には、図4及び図5に示すようなタイロッドは、ステンレス等の鋼材を熱処理したものが用いられるが、例えば直径21mmの中実材から形成した場合、タイロッド本体だけで1.16kgになり、タイロッドアセンブリとしては、1.64kgの重量を有することになる。タイロッドアセンブリは、前輪側及び後輪側のホイールに対して二つ配設されるから、この場合の車両一台当りのタイロッドアセンブリの総重量は3.28kgとなる。
【0007】
これに対し、通常のパワーステアリングに適用されるタイロッドの重量は、同様に直径21mmの中実材から形成した場合、車両一台当り2.11kg以下である。そして、パワーステアリング本体は、センターテイクオフ方式と通常タイプとで大差はないから、タイロッドアセンブリの重量増加が、そのままセンターテイクオフ方式にした場合の重量増加に繋がる(この数値例では1.17kgの重量増加になっている)。このように、センターテイクオフ方式のパワーステアリングにおいては、タイロッドが長尺になることから重量増加が生じるといった課題があった。
【0008】
また、図6及び図7に示すアジャスタの方式にあっては、以下に述べるような不都合があった。すなわち、図6に示す方式は、タイロッド15の両端側に緩み止めナットを用いる必要があるが、これら両緩み止めナットの締付作業が離反することにより、作業性が悪化していた。一方、図7に示すような方式では、上述したホイールからの外力に対する変形に際し、各部品に何らかの曲げモーメントが発生し、特にアジャスタボルト18が変形することになる。このとき、メンテナンスとしては、アジャスタボルト18が変形しているために回転させることができず、したがってタイロッドアセンブリ一式を脱着しなければならないという不都合があった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決し得るものであって、その目的は、タイロッドの重量を著しく低減させることにより、ステアリング系の重量を低減させることができる車両のタイロッドアセンブリを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の車両のタイロッドアセンブリのうち、請求項1に記載の発明は、車両のステアリング系に配設されるタイロッドアセンブリのタイロッドを中空状とすると共に、高周波焼入れによる不完全焼入れを施したことを特徴としている。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記タイロッドの車体側への取付端部を、アプセット加工により中実目玉状に形成したことを特徴としている。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記タイロッドのホイール側への取付端部に、冷間縮管及び螺子転造により雄螺子を形成するとともに、この雄螺子にアジャスタを接続したことを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記中空状のタイロッドが、パワーステアリング取付部にゴムブッシュを使用したものであることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記中空状のタイロッドは、パワーステアリング取付部にピロボールブッシュを使用したものであることを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1及び図2は、本発明の一実施の形態を示す図である。図1におけるタイロッドアセンブリのタイロッド20は、センターテイクオフ方式のパワーステアリングに適用されるものであって、内部が中空に形成されたタイロッド本体21の一端側(図において右側)が車両センター側のパワーステアリングへの取付部22となっており、他端側(図において左側)が車両ホイールへの取付部(タイロッドエンド部23)との連結部となっており、タイロッド本体21とタイロッドエンド部23との間にはアジャスタ24が介在している。
【0017】
本実施の形態におけるタイロッド20は、中空化及び熱処理が施行されることによって、タイロッド本体21が0.61kg、総重量が1.04kg(2.08kg)/台となり、従来のタイロッドと比較して1.2kg/台の軽量化が達成されている。これは、中空状としない同一のタイロッドと比較して、−37%の軽量化が達成されているものである。
【0018】
以下、タイロッド20の構成について説明する。
タイロッド本体21一端側の取付部22は、筒状体の内側にゴムブッシュ25が圧入されてなる。さらに詳しくは、取付部22は、その中空部を熱間アプセット加工によって中実加工されており、さらにアプセット加工を施すことにより中実鼓形状に形成され、熱間鍛造によって外形形状及び内径部の荒取りが施されている。また、タイロッドエンド部23は、20〜25度の全方位回転が自在となっている。
【0019】
また、タイロッド本体21他端のアジャスタ24との接続箇所には、外周に雄螺子21aが形成され、この雄螺子21aは、左螺子であって、冷間縮管加工による螺子下径加工及び螺子転造により形成されている。なお、この雄螺子21aは、取付部22と同様に熱間アプセット加工により中実化し、切削によって螺子下径加工をする方法でもよいが、コスト的見地から前者が好適である。一方、タイロッドエンド部23のアジャスタ24との接続箇所には、右螺子の雄螺子23aが形成されている。
【0020】
アジャスタ24は、タイロッド本体21との接続側は左螺子の雌螺子24aが形成されるとともに、タイロッドエンド部23との接続側は右螺子の雌螺子24bが形成されている。そして、左螺子の雌螺子24aには左螺子の緩み止めナット26が螺合されるとともに、右螺子の雌螺子24bには右螺子の緩み止めナット27が螺合され、これら緩み止めナット27、27によって、タイロッド本体21とタイロッドエンド部23とがアジャスタ24を介して連結されている。このようなアジャスタ24を回転させることにより、タイロッドエンド部23のエンドボール28中心とタイロッド本体21の取付部22中心との間のスパンは、±10mm程度調整できるようになっている。
【0021】
一方、タイロッド本体21の取付部22近傍には、パワーステアリングのダストブーツを回避するために、屈曲状の屈曲部21bが形成されている。この屈曲部21bにより、タイロッドエンド部23のエンドボール28中心に働く外部入力は、タイロッド本体21の取付部22に設けたブッシュ25中心との間で結ばれた力線X上で作用し、この力線Xからタイロッド本体21の軸中心が離反している部位は、その離反距離に応じて曲げモーメントが発生することになる。
【0022】
このモーメントに呼応する応力をクリアするため、本実施の形態では、タイロッド本体21、特に屈曲部21bに熱処理を施し、材料の拡張力を向上させている。例えば、直径21mmのタイロッド本体21を熱処理することにより、150kgf/mm2の拡張力を得、タイロッド本体21を直径21×3.2tの中空状に形成している。
【0023】
熱処理は、タイロッド本体21全長にわたって施す必要はなく、取付部22を除き、タイロッド本体21を成形する素材の抗張力で充分耐え得るところまででよい。例えば、本実施の形態では、長手方向の長さが421.6mmのタイロッド本体21に対し、取付部22中心から雄螺子21a側に270mm程度のとろこまで施せばよい。
【0024】
ところで、本実施の形態におけるタイロッド本体21の素材は、次表のような成分構成であって、この場合は、上述した熱処理方法は、高周波焼き入れが望ましい。
【0025】
【表1】
【0026】
すなわち、タイロッド本体21の雄螺子21a側で変形吸収する場合は、冷間縮管及び螺子転造のままでは加工硬化により伸びが減少して強変形時に破断することもある。タイロッド20は、ステアリングを支持している重要な部品であることから、変形は可で破断は不可である。一方、完全焼き入れしても破断モードになるため、高周波焼き入れによる不完全焼き入れを施工する。これは、焼鈍ではなく、強度をある程度確保しつつ伸びも得るものであって、完全焼き入れ組織が生材組織と混在している状態である。
【0027】
次に、上記の構成からなるタイロッド20の作用について説明する。
ゴムブッシュ25は、その軸廻りの回転と、軸直角面内での揺動に対応し、パワーステアリングの振動伝達の遮断をする。タイロッド本体21は、引っ張り破壊荷重、座屈荷重範囲(ホイールからの過大入力吸収、タイロッドエンド部23で吸収しても可)での変形が要求されるが、疲労は特に問われない。
【0028】
また、ホイールから過大衝撃入力が加わった際は、タイロッドエンド部23の雄螺子23a又はタイロッド本体21の雄螺子21aが変形吸収する。タイロッドエンド部23側で変形した方がコスト的被害規模が少なくて済むが、変形荷重コントロールは、螺子寸法及び加工硬化及び焼鈍の度合いによる強度コントロールにより行われている(これはタイロッド本体21の雄螺子21aにおいても同様である)。
【0029】
一方、引っ張り破壊荷重が加わった際は、タイロッド本体21に形成した屈曲部21bが最大応力発生部位になるが、この屈曲部21bには、上述した熱処理が施されているから、弾性変形内で推移していくうち、タイロッドエンド部23側が変形していくことになる。また、座屈荷重時は、タイロッドエンド部23もしくはタイロッド本体21の意図した部品が、螺子寸法と熱処理が施されたことにより所定の荷重範囲で破断することなく変形する。
【0030】
なお、本実施の形態では、また、タイロッド本体21の取付部22にゴムブッシュ25を圧入した構成としたが、図2に示すように、取付部22にピロボールブッシュ29を用いた構成としてもよく、またこのピロボールブッシュ29を防振ゴムでフロートすると、振動伝達が遮断される。また、本発明に係るタイロッドアセンブリは、センターテイクオフ方式のパワーステアリングに最も好適である(所見によれば、本実施の形態により従来と比較して)が、通常のパワーステアリングのタイロッドに適用することもできる。
【0031】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の車両のタイロッドアセンブリによれば、タイロッドを中空化することによって、多大な軽量化が実現でき、例えばアルミニウム、チタン等の高価な材料に依存しなくても十分な軽量化を低コストで実現することができる。
【0032】
特に、タイロッドをパイプ材から形成することができ、このパイプ材をアプセット加工することにより、中実目玉状の端部を形成することができる。高周波焼き入れを施すことにより、タイロッドの高強度化を図り、必要最小限の断面積で必要十分な剛性を得ることができる。座屈荷重に対しては、タイロッドに不完全焼き入れを施工することによって、破断を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態で説明したタイロッドを示す図であり、同図(a)は部分断面正面図、同図(b)は平面図である。
【図2】本発明の一実施の形態で説明したタイロッドの他の形態を示す図であり、同図(a)は部分断面正面図、同図(b)は平面図である。
【図3】従来の通常のパワーステアリングに適用されるタイロッドアセンブリを示す図である。
【図4】従来のセンターテイクオフ式のパワーステアリングに適用されるタイロッドアセンブリを示す図である。
【図5】図4の拡大断面図である。
【図6】従来のタイロッドの一形態を示す図であり、同図(a)は部分断面正面図、同図(b)は平面図である。
【図7】従来のタイロッドの他の形態を示す図であり、同図(a)は部分断面正面図、同図(b)は平面図である。
【符号の説明】
20 タイロッド
21 タイロッド本体
21a 雄螺子
22 取付部(車体側への取付端部)
23 タイロッドエンド部(ホイール側への取付端部)
24 アジャスタ
Claims (5)
- 車両のステアリング系に配設されるタイロッドアセンブリのタイロッドを中空状とすると共に、高周波焼入れによる不完全焼入れを施したことを特徴とする車両のタイロッドアセンブリ。
- 前記タイロッドの車体側への取付端部を、アプセット加工により中実目玉状に形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両のタイロッドアセンブリ。
- 前記タイロッドのホイール側への取付端部に、冷間縮管及び螺子転造により雄螺子を形成するとともに、この雄螺子にアジャスタを接続したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両のタイロッドアセンブリ。
- 前記中空状のタイロッドは、パワーステアリング取付部にゴムブッシュを使用したものであることを特徴とする請求項1に記載の車両のタイロッドアセンブリ。
- 前記中空状のタイロッドは、パワーステアリング取付部にピロボールブッシュを使用したものであることを特徴とする請求項1に記載の車両のタイロッドアセンブリ。
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