JP4044829B2 - クラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属製品の表面の一部に異なる材質の金属材料をクラッド加工により設けた、クラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
海洋構造物、船舶、橋梁、自動車、産業機械、家庭電器製品、医療器械などの金属製品は、様々な分野で用いられて、他の材料に比べて強度とコスト面において優れており、産業上重要な役割を果たしている。
しかし、金属製品に要求される耐食性、耐酸性、耐磨耗性などの特性は、金属製品全体ではなく、表層部分のみに必要な特性であり、必ずしも、構造物全体にこのような特性を持たせる必要はない。
【0003】
そこで、鋼材同士を、溶接したり、爆発圧着したりして、二層構造にしたクラッド鋼板が開発され、鋼管等の分野で実用化されている。
しかし、このクラッド鋼板は、構造物に加工する前の素材の段階でクラッド加工するものであって、できあがった構造物の表面の一部に新たな機能を局所的に付与することはできなかった。
なお、例えば、特許文献1に、溶接継手部に超音波振動を与えることによって、疲労強度を向上させる方法が開示されているが、超音波振動を金属製品の表面のクラッド加工に利用することは全く開示されていない。
【0004】
【特許文献1】
米国特許第6,171,415号明細書
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、金属製品の表面の一部に異なる材質の金属材料をクラッド加工により設けた、クラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は前述の課題を解決するために鋭意検討の結果なされたもので、超音波衝撃処理を用いて金属製品の表面の一部に異なる材質の金属材料をクラッド加工により設けた、クラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法を提供するものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
【0007】
(1)金属製品の表面の一部に異なる材質の金属材料をクラッド加工により設けた、クラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法であって、
前記金属製品の表面の一部の領域に、第1の超音波衝撃処理を施して、深さ(h)が5μm以上、円相当径(D)が50μm〜1000μm、縁のコーナー部における曲率半径(R)が10μm〜h/4の凹部を、面積率で20%〜80%の割合で存在するように形成した後に、
該第1の超音波衝撃処理を施した領域に、厚みが10μm〜5mmのシート状の前記異なる材質の金属材料を重ねて、該金属材料の上から第2の超音波衝撃処理によるクラッド加工を施すことを特徴とする、クラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法。
本発明において、金属製品とは橋梁や建築物などのいわゆる鋼構造物だけでなく、金属部品、鋼板やアルミニウム製品、チタン製品など、金属で構成されている製品を広く含む。
(2)前記第1の超音波衝撃処理が、先端部の角部における曲率半径(r1)が0.5mm以下の角型の超音波振動端子による打撃処理、または、一辺の長さ(d1)が0.5mm〜5mmの超音波振動を与えた角型の塊状物を打ち付ける衝撃処理であることを特徴とする、上記(2)に記載のクラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法。
(3)前記第2の超音波衝撃処理が、先端部における曲率半径(r2)が1mm以上の丸型の超音波振動端子による打撃処理、または、直径(d2)が0.5〜5mmの超音波振動を与えた球状物を打ち付ける衝撃処理であることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載のクラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、図1乃至図3を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明のクラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法の実施形態を示す図である。
図1において、1は金属製品(被クラッド材)、2はシート状の金属材料(クラッド被覆材)を示す。
まず、図1(a)は、金属製品1の表面の一部に第1の超音波振動処理を施して凹部を形成した様子を示す図である。
【0009】
この凹部の形状は、深さ(h)が5μm以上、円相当径(D)が50μm〜1000μm、縁のコーナー部における曲率半径(R)が10μm〜h/4とする。
深さ(h)を5μm以上とするのは、凹部が深いほどクラッド加工するシート状の金属材料(クラッド被覆材)が塑性流動によって金属製品側に入り込むためクラッド加工後の密着性が良好であり、逆に、深さ(h)が5μm未満では、凹部とクラッド加工するシート状の金属材料(クラッド被覆材)との密着性が不十分だからである。
また、円相当径(D)を50μm〜1000μmとするのは、50μm未満では、凹部が狭すぎてクラッド加工するシート状の金属材料(クラッド被覆材)が入り込みにくく、また、1000μmを超えると凹部の間隔が粗すぎて密着効果が小さいからである。
【0010】
縁のコーナー部における曲率半径(R)を10μm〜h/4とするのは、この曲率半径(R)が小さいほどクラッド加工後の密着性が大きくなり、h/4を超えると密着性が著しく小さくなるからである。ただし、曲率半径(R)を10μm未満とすることは工業的に加工が困難なので10μm以上とする。
また、凹部の面積率を20%〜80%とするのは、クラッド加工後の密着性を高めるには凹部を50%とすることが好ましく、50%より少なくても多くても密着性は低減するので、その限界値として、下限を20%、上限を80%とする。
次に、図1(b)は、金属製品1の凹部にシート状の金属材料(クラッド被覆材)2を重ねて、第2の超音波衝撃処理を施す様子を示す図である。
シート状の金属材料(クラッド被覆材)は、あらかじめ脱脂、脱酸処理を実施した後に、当該領域(第1の超音波衝撃処理を施した領域)に重ね、その上から、超音波衝撃処理を施すことが好ましい。
この脱脂、脱酸処理によって、金属製品の凹部との密着性を高めることができるからである。
【0011】
このシート状の金属材料(クラッド被覆材)は、金属製品の表面に付与したい機能によって、例えば、耐食性、耐弾性、耐レーダー性、耐酸性、耐電磁波性、耐磨耗性、美観性、意匠性等の目的に応じて、その種類と厚みを適宜選択することができる。
シート状の金属材料(クラッド被覆材)の厚みは、10μm〜5mmとする。10μm以上とするのは、金属製品の表面を覆うためには、シート状の金属材料(クラッド被覆材)の厚みが、凹部の深さ(h)の2倍以上必要だからである。また、超音波衝撃処理により塑性変形を及ぼすことができるのは深さ5mm程度までなので、シート状の金属材料(クラッド被覆材)の厚みは5mm以下とする。
【0012】
図1(c)はクラッド加工した後の金属製品を示す図である。
第2の超音波衝撃処理によって、シート状の金属材料(クラッド被覆材)2が、金属製品1の凹部に塑性流動によって入り込み、超音波衝撃によって、凹部の縁が図1(c)に示すように変形してくさび状になるため、云わばアンカー効果(錨効果)によってクラッド加工後の密着性を高めることができる。
本発明の特徴は、金属製品として最終の形状に加工、組み立てされた後で、機能を付与するために適用できるので、必要最小限で済むが、素材段階で適用し、例えば構造物や鋼構造品に最終加工された後に、加工によって損なわれた領域のみを補修する形で適用することもできる。
また、金属製品の改質したい領域に局所的に適用してもよいし、あらかじめ、本発明を適用して製造した鋼材を用いて金属製品を製造する等の方法により、金属製品全体に適用してもよい。例えば、金属製品の腐食される可能性のある一部、あるいは全部の表面に、耐食性の優れた金属箔(クラッド被覆材)を貼り付ける場合に効果的である。
【0013】
図2は、本発明の第1の超音波衝撃処理に用いる超音波振動端子および超音波ショットピーニングを示す図である。
第1の超音波衝撃処理では、金属製品の表面に微細な凹部を形成する必要があるため、超音波振動端子は角型とし、その先端部の角部の曲率半径(r1)は0.5mm以下とする。この曲率半径(r1)を小さくすることによって、微細な凹部を形成することができるからである。
また、超音波振動端子は、図2に示すように、直径が0.5mm以下の多数ピンを束ねて構成することが好ましい。
【0014】
また、超音波ショットピーニングの場合は、一辺の長さ(d1)が0.5〜5mmの角型の塊状物を金属製品の表面に打ち付ける。
角型塊状物の角の部分によって、金属製品に形成する凹部の縁のコーナーにおける曲率半径(R)が小さい凹部を微細に多数、形成させることができる。
上記のいずれかの方法で形成した凹部にシート状の金属材料(クラッド被覆材)を重ね、第2の超音波衝撃処理を施すことによって、下地(金属製品の表面)につけられた凹部に塑性流動をおこした当該金属材料が入り込み、極めて強固な接合をするため、密着させることができる。
【0015】
図3は、本発明の第2の超音波衝撃処理に用いる超音波振動端子および超音波ショットピーニングを示す図である。
第2の超音波衝撃処理では、金属製品の表面に形成された微細な凹部にシート状の金属材料(クラッド被覆材)を入り込ませる必要があるため、超音波振動端子は丸型とし、その先端部の曲率半径(r2)は1mm以上とする。この曲率半径(r2)を大きくすることによって、シート状の金属材料(クラッド被覆材)の塑性流動を促進し、表面を平坦化し凹凸の少ない状態にすることができるからである。
また、超音波振動端子は、図3に示すように、直径が1mm以上のピンで構成することが好ましい。
【0016】
また、超音波ショットピーニングの場合は、直径(d2)が0.5〜5mmの球状物を金属製品の表面に打ち付ける。
比較的大きな球状物を打ち付けることによって、シート状の金属材料(クラッド被覆材)の塑性流動を促進し、表面を平坦化し凹凸の少ない状態にすることができるからである。上記のいずれかの方法によって、下地(金属製品の表面)につけられた凹部に塑性流動をおこした当該金属材料(クラッド被覆材)が入り込み、極めて強固な接合をするため、密着させることができる。
【0017】
さらに、接合界面の強度を向上させるために、必要に応じて、熱処理を適用することができる。
本発明に使用する超音波発生装置は問わないが、2W〜3kWの超音波発生源を用いて、トランスデューサによって2kHz〜60kHzの超音波振動を発生させ、ウェーブガイドにて増幅させることにより、上述の径のピンからなる超音波振動端子を20〜60μmの振幅で振動させる装置が好ましい。
また、本発明の超音波衝撃処理に用いる塊状物および球状物の材質は問わないが、例えば、鋼材、超硬合金、セラミックス、アルミナ、ジルコニア、サイアロン等から適宜選択することができる。
以上の金属製品に局所的にクラッド加工する方法を用いることによって、局所的に新たな表面性能を付与した金属製品を製造することができる。
【0018】
【実施例】
本発明の局所的にクラッド加工した金属製品およびその製造方法を、実際の金属製品に適用した場合を想定した実験を行った結果を表1乃至表3に示す。
表1は、金属製品を構成する素材A(A1〜A10)、および、クラッド加工するシート状の金属材料(クラッド被覆材)である素材B(B1〜B7)の化学成分および板厚を示す。
表2は、クラッド加工の条件および試験結果を示す。
なお、表2中で(*1)を付記した加工種類は、表3に示すように、超音波振動端子であるハンマと、超音波ショットピーニングを行うショット粒の2種類とし、H1〜H4がハンマの条件を示し、S1〜S6がショット粒の条件を示す。
表3のS3およびS6は、ショット粒の直径が本発明における5mm以下の条件を外れている比較例を示し、それ以外は本発明の条件を満足する発明例を示す。
また、表2中で(*2)を付記した凹部の面積率(%)とは、金属製品のクラッド加工を施す表面に対して、深さ(h)が5μm以上、円相当径(D)が50〜1000μm、縁のコーナー部の曲率半径(R)が10μm以上h/4以下の凹部が存在する比率をいう。
【0019】
次に、表2中で(*3)を付記した剥離試験について説明する。すなわち、試験片は、クラッド加工して素材Aに素材Bを接合させた領域の密着性を評価するために、素材B側の表面から板厚5mm、幅20mm、長さ100mmの試験片を機械加工により切出して採取する。
試験方法としては、3点曲げ試験において、曲げ半径を5mmとして密着するまで曲げる。
評価では、以下の5段階で評価する。
5:密着して曲げ角度が180度になっても、素材Bが素材Aから剥離・割れがない。
4:曲げ角度が150度まで、素材Bが素材Aから剥離・割れがない。
3:曲げ角度が90度まで、素材Bが素材Aから剥離・割れがない。
2:曲げ角度が45度まで、素材Bが素材Aから剥離・割れがない。
1:曲げ角度が45度以下で、素材Bが素材Aから剥離・割れが生じる。
剥離試験の結果、No.1〜No.12は、本発明の条件を満足しているので、密着性の評価は全て、「5」であった。
No.13およびNo.14も本発明例であるが、第2の超音波衝撃処理に用いるハンマ先端の曲率半径(R)が1mm以下のため、密着性の評価は「4」となった。
No.15〜No.19は比較例であり、凹部の面積率が2〜10%と低く、発明範囲の下限値である20%を下回っているので、密着性が「3」に低下したものと考えられる。
また、No.20〜No.24は比較例であり、第1の超音波衝撃処理を行わなかったので密着性が低く「1」〜「2」の評価となった。
以上の試験結果から、超音波振動端子および超音波ショットピーニングのいずれの場合も、クラッド後の密着性は良好であり、シート状の金属材料(クラッド被覆材)を例えば、アルミニウム、チタン、マグネシウム合金、銀、金などから適宜選択することによって、鋼構造に局所的に耐食性、耐酸性、耐磨耗性、耐弾性、耐きず性、美観性、意匠性を付与することができることが確認された。
【表1】
【表2】
【表3】
【0020】
【発明の効果】
本発明によれば、金属製品の表面の一部に異なる材質の金属材料をクラッド加工により設けた、クラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法を提供することができ、産業上有用な著しい効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のクラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法の実施形態を示す図である。
【図2】 本発明の第1の超音波衝撃処理に用いる超音波振動端子および超音波ショットピーニングを示す図である。
【図3】 本発明の第2の超音波衝撃処理に用いる超音波振動端子および超音波ショットピーニングを示す図である。
【符号の説明】
1:金属製品、
2:シート状の金属材料(クラッド被覆材)
Claims (3)
- 金属製品の表面の一部に異なる材質の金属材料をクラッド加工により設けた、クラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法であって、
前記金属製品の表面の一部の領域に、第1の超音波衝撃処理を施して、深さ(h)が5μm以上、円相当径(D)が50μm〜1000μm、縁のコーナー部における曲率半径(R)が10μm〜h/4の凹部を、面積率で20%〜80%の割合で存在するように形成した後に、
該第1の超音波衝撃処理を施した領域に、厚みが10μm〜5mmのシート状の前記異なる材質の金属材料を重ねて、該金属材料の上から第2の超音波衝撃処理によるクラッド加工を施すことを特徴とする、クラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法。 - 前記第1の超音波衝撃処理が、先端部の角部における曲率半径(r1)が0.5mm以下の角型の超音波振動端子による打撃処理、または、一辺の長さ(d1)が0.5mm〜5mmの超音波振動を与えた角型の塊状物を打ち付ける衝撃処理であることを特徴とする、請求項1に記載のクラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法。
- 前記第2の超音波衝撃処理が、先端部における曲率半径(r2)が1mm以上の丸型の超音波振動端子による打撃処理、または、直径(d2)が0.5〜5mmの超音波振動を与えた球状物を打ち付ける衝撃処理であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のクラッド被覆面を局所的に有する金属製品の製造方法。
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