JP4042169B2 - セメント製造装置抽気ダストの処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セメント製造装置内における塩素、アルカリ、硫黄の循環を低減するために焼成ガスの一部を抽気した際に同伴する、有害物質を含むダスト(以下、抽気ダストと称す)の処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
塩素、アルカリ、硫黄の含有量の多いセメント原料を使用した場合、セメントクリンカー中に含まれる塩素、アルカリ、硫黄の量が多くなり、セメントの品質に悪影響を与えるだけでなく、塩素、アルカリ、硫黄は蒸気圧の高い化合物を形成し、セメント製造装置内においてガス化して循環する際に、装置内の比較的温度の低い部分で凝縮してコーティングを形成するため、セメント製造上のトラブルの原因ともなっている。この問題を解決するため、セメントキルンの窯尻部分から焼成ガスの一部を抽気して、セメント製造装置内を循環する塩素、アルカリ、硫黄の量を低減することが行われている。しかし、このような焼成ガスの抽気を行うと、塩素、アルカリ、硫黄の含有量の多い抽気ダストが必然的に同伴し、このダストの処理方法が新たな問題となって来る。即ち、抽気ダストには塩素、アルカリ、硫黄以外にも鉛、カドミウム、亜鉛、銅、クロム、マンガン、鉄、水銀、セレン、フッ素など、水質汚濁防止法で規制された有害物質が含まれており、抽気ダストを未処理のまま埋め立て、廃棄を行なえば環境汚染を引き起こすため、適切な方法で処理する必要がある。また、ダストを廃棄するのではなくセメント原料として再利用する場合にも、ダスト中に含まれるアルカリ、塩素の量を低減した後に原料系に返す必要がある。
【0003】
抽気ダストに含まれるアルカリ、塩素化合物は水溶性であることから、抽気ダストからの除アルカリ、除塩素化合物の方法としては、水洗処理が最も適していることは当然であり、既に公知である(例えば、特開昭49−86419号公報、同昭62−252351号公報)。
ここで問題となるのは、水洗処理の際、アルカリ、塩化合物と一緒に溶出して来る重金属を含む有害物質の処理方法である。
排水中の有害物質については国の基準値が設けられており、一成分でもそれをクリア出来ない排水は放流することは許されない。また、地域によっては条令を設定し、国の基準値より更に厳しい基準値、例えば国の基準値の更に1/10、が設けられている。
【0004】
工業排水中に含まれる重金属を、各元素の水酸化物の溶解度が最小となるpHに調整して分別沈殿除去する方法は公知である(例えば、「環境管理設備事典」(株)産業調査会、1985年)。
これを、セメント製造装置における抽気ダストの処理に応用したものが、特開平6−157089号公報に開示されている。その中では、抽気ダストを水洗処理した後のスラリー中のカドミウム、鉛を、夫々の水酸化物の溶解度が最小となるpHにおいて沈殿除去する方法および、硫化物等の沈殿促進剤を添加する方法の二つが記載されている。
前者の方法では、溶解平衡の存在により、平成5年度に改定された鉛に対する排水基準値である0.1mg/lをクリアーすることは不可能であり、後者の方法では、硫化ソーダ、硫化水素等の沈殿促進剤を添加するため鉛量については排水基準値以下にまで下げることが出来るが、同じく抽気ダスト中に不可避的に含まれるセレン量は、本邦における最も厳しい排水基準値である0.01mg/lはおろか国の排水基準値である0.1mg/l以下にまでは下がらず、実質的に排水を放流することは不可能である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、セメント製造装置において塩素、アルカリ、硫黄の循環を低減するために焼成ガスの一部を抽気した際に抽気ガスに同伴する抽気ダストを水洗処理し、固形分はセメント原料として再利用し、処理液は含まれる有害物質を排水基準値以下まで除去して放流廃棄を可能にする処理方法を提供することを目的とする。除去の困難な鉛、セレンについても、国の基準値のクリアはもちろん、その1/10である0.01mg/l以下にまで下げる処理方法の提供を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、セメント製造装置における焼成炉からの排ガスの一部を抽気してクリンカの塩素、アルカリ量を減少させるセメントの製造方法において得られる、抽気ガスに同伴された抽気ダストに水を加えてスラリー化し、該スラリーのpH値を10以上に調整した後、固液分離する工程、得られたろ液のpH値を6〜8に調整して溶存する有害物質を沈殿させた後、2度目の固液分離を行なう工程、得られたろ液のpH値を1.5〜3に調整した後、第一鉄化合物を添加し、次いでpH値を9〜10に調製して沈殿を形成させ、該沈殿を含む生成スラリーに更に金属捕集剤および凝集剤を加えた後、3度目の固液分離を行なう工程 を具備することを特徴とする、抽気ダストの処理方法に関する。
以下に、発明を詳細に説明する。
【0007】
抽気ダスト中には種々の重金属が含まれているが、水に対する溶解度のpH依存性が夫々異なっていることから、その除去には複数回のスラリーpH調整・固液分離を組み合わせる必要があるが、除去効率を上げるにはスラリーのpH設定には工夫を要する。また、金属によっては、pH調整による沈殿法だけでは溶解平衡の存在により、排水基準値以下までの除去が不可能であり、適切な共沈剤、金属捕集剤等の沈殿助剤の添加を必要とする。この場合にも、沈殿助剤を添加する前に存在する重金属の大部分の量をpH調整で沈殿・除去しておく必要があり、また、少ない添加量で沈殿助剤の効力を発揮させるためには、添加する際のスラリーのpHも適切な値に設定する必要がある。
【0008】
例えば、抽気ダスト中に含まれるカドミウム、亜鉛、銅、クロム、鉄、マンガン等は、高pH領域にpHを調整することにより水酸化物の沈殿として排水基準値以下にまで除去が可能であるが、鉛とセレンは単に高pHに設定するだけでは除去できない。
鉛は両性金属でありPb2+またはHPbO2 -として溶解するので、pHを高めるとPb2+の溶解度は低下し、HPbO2 -の溶解度は増大する。このため、鉛の溶解度はpH10で最小となるが、このpH値における鉛の溶解量は約1mg/lであり、この値は、水質汚濁防止法の排水基準値0.1mg/lをオーバーしている。
【0009】
一方、セレンについてはダスト中におけるその存在形態は明確になっていないが、抽気条件、スラリーの示すpH値更にはpH7付近で除去効果が認められることから、このpH値付近で溶解度が低くなるSe(VI)のセレン酸およびSe(IV)の亜セレン酸である可能性が高い。セレン酸、亜セレン酸は共に低pH領域で溶解度が低くなることから、セレンを除去するにはスラリーを他の重金属とは逆に低pH値に設定する必要があるが、この場合もpH調整だけでは排水基準値以下にまで濃度を下げるのは不可能である。
【0010】
鉛およびセレンを、夫々の水和化学種との溶解平衡の束縛を受けながら、排水基準値以下にまで除去するためには、他の金属種との共沈を利用する方法、溶存水和化学種との溶解平衡濃度が非常に低い化合物を形成する金属捕集剤を添加する方法、更にはこの二つの方法を組み合わせることが有効である。
しかし、種々の共存イオンが存在する条件下では、共沈時のpH値、金属捕集剤添加時の条件を最適に調整しないと、いたずらに工程が増えるだけでなく、場合によっては、排水基準値以下への除去が不可能になる。
【0011】
特にセレンの除去は、共存イオンの影響を強く受け、且つ困難である。例えば、他の共存金属イオンがほとんど存在しない場合に排水基準値以下までセレンの除去が可能な条件を、それと同じ量のセレンを含む抽気ダストに適用しても、セレンの含有量は排水基準値以下にまで下がらない。
【0012】
本発明では、次に示すように、pH調整、沈殿、固液分離を組合せることにより、抽気ダストスラリー中の有害物質の、本邦で最も厳しい排水基準値以下までの除去を達成した。
(1)第一工程
先ず、抽気ダストスラリーから高pH領域で鉛、セレン以外の溶存重金属、および、未溶解重金属塩を含むセメント成分を固液分離で除去する。
【0013】
(2)第二工程
次いで、ろ液のpH値を一旦中性付近に調整し(pH調整I)、溶存セレンと鉛を共沈させて固液分離で除去する。
【0014】
(3)第三工程
ろ液に酸を加え、そのpH値を2付近に調整(pH調整II)した後、第一鉄化合物を加えセレン酸を亜セレン酸に還元する。次いでアルカリを加え、ろ液のpH値を9付近に調整して(pH調整III)溶存して残存するセレンおよび鉛を水酸化鉄と共沈させる。生成スラリーには更に、金属捕集剤および凝集剤を添加し、微量残存するセレンおよび鉛を更に低濃度まで捕集・沈殿させた後、固液分離を行なう。
【0015】
第一工程におけるpH値は10以上に設定するが、セメントキルン抽気ダストはアルカリを含んでおり、抽気ダストに水を加えて生成するスラリーは一般的に高アルカリ性であることから、第一工程においてスラリーのpHを高い値に維持するために特別な処理は必要ではないが、抽気条件によっては、これより低いpH値を示すことがあり、その場合には、アルカリを添加してpH値を10以上に調整する。
【0016】
第二工程ではセレンと鉛を共沈で除くことを目的としていることから、pHがどちらか一方の沈殿にのみ適した値に偏るのは好ましくない。従って、pH調整IにおけるスラリーのpH値は6〜8、好ましくは7に設定する。
【0017】
第三工程では先ずセレン酸および亜セレン酸を沈殿させ、第一鉄化合物でセレン酸を亜セレン酸に還元するために、ろ液のpHを低pH値に調整する(pH調整II)。セレン酸および亜セレン酸は、pH値が低くなる程溶解度が低下するが、pH2以下ではpH値変化に対する溶解度変化が小さくなることと、pH調整IIIで再度アルカリ側に戻す必要があることから、あまり低pH値にするのは好ましくない。従って、pH調整IIでは、ろ液のpH値を1.5〜3.0、好ましくは2〜2.5に調整する。
【0018】
次いで、ろ液のpHを低い値に保ったまま第一鉄化合物を添加するが、第一鉄化合物はセレン酸を亜セレン酸に還元する還元剤として働くと共に、pH調整IIIで高pH値にして水酸化鉄として沈殿する際、溶存する鉛、セレン(IV)の水和イオンを共沈させる、すなわち、沈殿助剤の働きもする。
【0019】
ここで使用する第一鉄化合物としては、塩化第一鉄、炭酸第一鉄等の第一鉄塩および水酸化第一鉄、酸化第一鉄を挙げることが出来るが、塩化鉄の使用が最も好ましい。
【0020】
第一鉄化合物の添加量は、少なすぎると十分な効果が発現しないことから、2000ppm以上であればセレン、鉛の除去効果の面からは特に制限がないが、多すぎても単に無駄であるだけでなく、固液分離に要する時間が大きくなることから、2000〜6000ppmとする。
【0021】
第一鉄化合物を添加後、アルカリを加えろ液pH値を再度アルカリ側に調整するが(pH調整III)、これは溶存セレン(IV)を鉄の水酸化物と共に共沈させるだけでなく、残存する溶存鉛およびセレンの水和イオンを、金属捕集剤と不溶性の塩を形成させて除去するためである。
従って、pH値は、鉄が水酸化物として沈殿することと、金属捕集剤が溶存金属水和イオンと安定な塩を形成する値に調整する必要がある。
これに加え、後述の凝集剤が効果を発揮するpH領域および、固液分離後の液相は中和して放流する必要性から、pH調整IIIにおけるpH値は、8〜10好ましくは8.5〜9.5に設定する。
【0022】
pH調整IIIで鉄を含むろ液のpH値をアルカリ側に調整した後、金属捕集剤および凝集剤を添加する。
金属捕集剤添加の目的は前述の通りであるが、凝集剤添加の目的は、水酸化鉄を主成分とする沈殿の凝集を促進して固液分離を容易にするためである。
【0023】
本発明の第三工程で使用する金属捕集剤は、キレート形成基としてジチオカルバミン酸基(>N−CS2X,但しXはH、Li、Na、K、Ca/2、Mg/2を示す)および/またはチオール基(−SY、但しYはH,Li、Na、Kを示す)を有する高分子金属捕集剤である。その例として、スチレン−ジビニルベンゼン系樹脂、フェノール樹脂等の母体樹脂にジチオカルバミン酸基および/またはチオール基が導入された固体状高分子、ポリアルキレンポリアミンにジチオカルバミン酸基および/またはチオール基が導入された、重金属と結合してフロックを形成する液状の高分子を挙げることが出来る。
【0024】
中でも、ポリエチレンイミンをベースポリマとし、分子内にジチオカルバミン酸ナトリウム基およびナトリウムメルカプチド基を有する液状の水溶性高分子金属捕集剤の使用が特に好ましく、この特性を有する市販の高分子金属捕集剤が原液のまま、または希釈水溶液として添加、使用出来る。
【0025】
また、これ等の高分子金属捕集剤は、硫化ソーダ、ポリ硫化ソーダ、水硫化ソーダ等の無機系重金属沈殿剤と併用することも出来る。
【0026】
金属捕集剤の添加量は、高分子金属捕集剤の分子量、分子内に存在するジチオカルバミン酸基および/またはチオール基の数により変わってくるので一概に決められないが、一般的には10〜100ppmの添加で十分である。
【0027】
凝集剤としては、市販のアクリルアミド系の高分子凝集剤がノニオン系、カチオン系、アニオン系を問わず有効に使用できる。また、高分子凝集剤は単独で使用しても、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)等の無機系の凝集剤と併用しても良い。
尚、凝集剤の添加量は、1〜5ppmで十分である。
【0028】
本発明では、pH調整を三回行なう。pH調整の酸としては、塩酸、硝酸等の鉱酸や炭酸ガスが使用できるが、処理水の放流を考慮すると、塩酸の使用が最も好ましい。
【0029】
同じくpH調整に使用するアルカリとしては、苛性ソーダ、水酸化カルシウム、炭酸ソーダ、炭酸カルシウム等、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物または炭酸塩が好適である。これ等の中でも、固液分離した後の固体をセメント原料として再利用するうえで、水酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムの使用は特に好適である。
【0030】
また、固液分離も三回行なうが、一般に行なわれている方法例えば、ろ過法、遠心分離法、沈降分離法等を利用することが出来る。
【0031】
【発明の実施の形態】
【実施例】
以下に実施例、比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、今回の試験に用いた、セメント製造装置の窯尻から抽気されたダストの化学成分を表1に示す。
この抽気ダスト100gに水2000gを加え、10分間撹拌しスラリー化した。生成スラリー(スラリーI)のpHは12.8であった。
スラリーはろ過により固液分離を行ない、得られたろ液(ろ液I)中に含まれる鉛、セレンの含有量は夫々、400ppmおよび33ppmであり、それ以外の重金属の量は、夫々に対する排水基準値以下であった。
このろ液Iを原水として、以下に述べる鉛およびセレンの除去法を検討した。鉛およびセレンの分析はJISK0102に準じてそれぞれ原子吸光法、および吸光光度法で行なった。検出限界はそれぞれ、0.01ppm、0.002ppmである。
【0032】
【表1】
Figure 0004042169
【0033】
実施例1
上記原水1000mlに、1N塩酸を添加し、スラリーpHを7.0に調整した後、ろ過を行なった。ろ液に再度1N塩酸を添加し、スラリーpHを2.0に調整した後、更に20%塩化第一鉄水溶液15gを加えた。次いで、1N水酸化ナトリウムを添加し、スラリーのpHを9.0に調整した後、金属捕集剤として、ポリエチレンイミンをベース高分子としジチオカルバミン酸ナトリウム基およびナトリウムメルカプチド基を有する液状高分子金属捕集剤エポフレックL−1[ミヨシ油脂(株)製]の1%水溶液5g、および凝集剤としてポリアクリルアミド系高分子凝集剤フロクランA−201[片山化学工業(株)製]の0.1%水溶液2gを添加した。
生成スラリーを10分間攪拌した後、ろ過を行ない、ろ液中の鉛およびセレンの定量を行なった。結果を表2に示す。
【0034】
比較例1〜3
pH値、金属捕集剤添加量を表2に示す条件に変えた場合の結果を示す。
【0035】
【表2】
Figure 0004042169
【0036】
【発明の効果】
本発明の抽気ダストの処理法を実施すると、水洗処理してアルカリ量、塩素量が低減した固形分はセメント原料としての再利用が可能となり、水洗処理水は、除去が極めて困難な鉛、セレンを含めて有害物質が排水基準値をクリアするまでに除去されて、放流が可能となる。

Claims (4)

  1. セメント製造装置における焼成炉からの排ガスの一部を抽気してクリンカの塩素、アルカリ量を減少させるセメントの製造方法において、抽気ガスに同伴された抽気ダストに水を加えてスラリー化し、該スラリーのpH値を10以上に調整した後、固液分離する工程、得られたろ液のpH値を6〜8に調整して溶存する有害物質を沈殿させた後、2度目の固液分離を行なう工程、得られたろ液のpH値を1.5〜3に調整した後、第一鉄化合物を添加し、次いでpH値を9〜10に調製して沈殿を形成させ、該沈殿を含む生成スラリーに更に金属捕集剤および凝集剤を加えた後、3度目の固液分離を行なう工程 を具備することを特徴とする、抽気ダストの処理方法。
  2. 第一鉄化合物が塩化第一鉄である、請求項1に記載の抽気ダストの処理方法。
  3. 金属捕集剤がジチオカルバミン酸基(>N−CS2X,但しXはH、Li、Na、K、Ca/2、Mg/2を示す)および/またはチオール基(−SY、但しYはH,Li、Na、Kを示す)を有する高分子化合物である、請求項1または請求項2に記載の抽気ダストの処理方法。
  4. 凝集剤がポリアクリルアミド系高分子である、請求項1、請求項2または請求項3に記載の抽気ダストの処理方法。
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