JP4031880B2 - 永久磁石式同期電動機の起動制御装置 - Google Patents

永久磁石式同期電動機の起動制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ベクトル制御される永久磁石式同期電動機の起動制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図18は、従来の永久式磁石同期電動機の可変速制御装置の構成例を示すものである。交流電源から整流器やPWMコンバータ等(図示せず)によって得られる直流1を電力変換器(インバータ)2によって任意周波数・任意電圧の交流に変換して永久磁石式同期電動機(PMSM)3(以下、単に「電動機3」という)を駆動する主回路を構成し、電力変換器2の出力制御により、電動機負荷(図示せず)のいかんにかかわらず、電動機3を任意の速度で回転させる。電動機3の回転子磁極位置が磁極位置検出器4によって電動機回転角度θrとして検出され、これを微分器5で微分して電動機3の回転速度nを得る。この回転速度nを速度基準発生器6で発生された速度基準と比較器7で比較し、その比較結果すなわち速度偏差を速度制御器8へ入力し、トルク電流基準Iq0を得る。電力変換器2から電動機3へ供給される電流すなわち電動機電流を電流検出器9によって検出し、これを座標変換器10によって磁束電流とトルク電流に分解する。この磁束電流およびトルク電流をそれぞれ比較器12a,12bにおいて、磁束電流基準発生器11で生成された磁束電流基準Id0および速度制御器7で生成されたトルク電流基準Iq0と比較し、それぞれ磁束電流偏差およびトルク電流偏差を得てそれぞれ電流制御器13へ入力する。電流制御器13は各偏差をゼロにするための磁束電流指令およびトルク電流指令を生成し、それを座標変換器14で3相電圧指令に変換し、PWMパターン生成回路15を介して電力変換器2をゲート制御する。
【0003】
永久磁石式同期電動機では、電動機内部で回転子である永久磁石が発生する磁束と、固定子巻線を流れる電機子電流Iaが発生する磁束が直交する場合に、同一電流のもとで最大トルクが得られる。永久磁石式同期電動機のベクトル制御においては、磁極位置検出器4によって得られる磁極位置検出信号を、座標変換器10および14に用いることにより、上述した条件を満たすような制御が行われる。
【0004】
ところで、磁極位置検出器4を用いない制御方式も何種類か提案されている。図19に示すものもその一例であり、磁極位置検出器4の代わりに、速度検出器16を備え、これによって検出された電動機速度nのほかに、電動機電流検出値および電力変換器2への電圧指令値を用いて、磁極位置演算器17により磁極位置を演算し、その演算によって得られた磁極位置信号を座標変換器10、14で用いる基準位相情報として用いる。この方式では速度検出器16を省略できる演算方式も提案されており、その場合は、磁極位置演算器17で得られた回転角度を微分することによって電動機速度nを得て、比較器7への入力とする。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
図18に示した方式によって正確な電動機制御を行うためには、磁極位置検出器4の使用が不可欠である。しかし、磁極位置検出器は、誘導電動機の速度制御の際に用いられる速度検出器等と比較して高価である。また、図19に示した方式では、起動時など速度の低い領域では、電流検出値および電圧指令値が小さく、磁極位置の推定精度が低くなるという問題点があり、速度が完全にゼロの状態では磁極位置演算を行うことができない。
【0006】
電動機に機械的ブレーキをかけたままの状態で、電機子に電流を流すことにより停止時の磁極位置を推定する方法も提案されているが、突極性がほとんど無い円筒型永久磁石を用いた同期電動機の場合は、磁極位置の推定が極めて困難である。
【0007】
従って本発明は、磁極位置検出器を用いることなく、永久磁石式同期電動機を安定に起動させることの可能な永久磁石式同期電動機の起動制御装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、永久磁石式同期電動機を、与えられた速度基準および磁束電流基準に従い速度偏差および磁束電流偏差がゼロになるように電流制御手段およびこれによって制御される電力変換器を介して速度制御する永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、電動機起動のための固定磁極位置に対応する磁束電流指令およびトルク電流指令を生成する起動時電流設定手段と、電動機起動のための電流位相指令を設定する起動時位相設定手段と、電動機起動に先だち電動機電流の位相初期値として起動時位相設定手段によって設定された電流位相指令を与えると共に、電流制御手段へ入力される磁束電流基準およびトルク電流基準の初期値として起動時電流設定手段によって設定された磁束電流指令およびトルク電流指令を与えるように切替動作する切替手段と、を具備したことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、起動時電流設定手段は、固定磁極位置に対応する磁束電流指令およびトルク電流指令を所定の時限をもって徐々に立ち上げることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、起動時電流設定手段は、固定磁極位置に対応する磁束電流指令およびトルク電流指令を電動機速度に応じて変更することを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、起動時位相設定手段によって設定された位相指令を、電動機速度に応じて減衰させる減衰手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、起動時位相設定手段によって設定された位相指令を、起動後の電動機回転角度に応じた補正量に従って減衰させる減衰手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、同期電動機の回転方向を判定する回転方向判定手段と、起動時位相設定手段によって設定された位相指令を、回転方向判定手段によって判定された回転方向により跳躍させる手段とをさらに備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、電動機速度が所定値に達したことを判定する速度判定手段をさらに備え、起動時位相設定手段によって設定された位相指令を、速度判定手段の出力により跳躍させることを特徴とする。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項6または7に記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、電動機負荷トルクを検出する負荷トルク検出手段をさらに備え、起動時位相設定手段によって設定された位相指令を、負荷トルク検出手段によって検出された負荷トルクに従って制御することを特徴とする。
【0016】
請求項9に係る発明は、請求項6または7に記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、回転方向判定手段は磁極位置固定のための電流を流し始めるタイミングに遅延を持たせた際の電動機回転方向から負荷トルクの方向を判定し、起動時電流設定手段によって設定される磁束電流指令およびトルク電流指令を負荷トルクの方向が判定されてから有効にする遅延手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項10に係る発明は、請求項6ないし9のいずれかに記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、起動時位相設定手段によって設定された位相指令を、速度判定手段の出力により所定の時限をもって徐々に立ち上げることを特徴とする。
【0018】
請求項11に係る発明は、請求項5に記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、減衰手段によって減衰させるための補正量を、電動機速度、電動機回転方向、および負荷トルクのうちの少なくとも一つに応じて調整することを特徴とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に従って構成された永久磁石式同期電動機の起動制御装置について、図面を参照して説明する。なお、本発明を説明するために図1ないし図17を参照するが、これらの図において、すでに説明した図18および図19のものと同一の構成要素には同一の符号を付して、その個々の説明を省略する。
【0020】
<実施形態1>
図1は、請求項1に係る発明の実施形態を示すものである。この実施形態においては、電動機磁極位置が判らない状態で電動機3を起動するのに先だって、一旦、ある一定の振幅・位相の電流を電機子に流して磁極位置を固定し、磁極位置を明確にしてから電動機3の起動を行うものである。これを実現するために、図1の装置は図19の装置を基本にして、それに、起動時電流設定器19および起動時位相設定器20を備え、さらに、起動時電流設定器19および起動時位相設定器20の出力を起動に先だって比較器12aおよび12bに導くように、これらの比較器の前段に切換器18a,18bを挿入する。起動時電流設定器19は、電動機起動時の初期磁束電流基準および初期トルク電流基準を設定するものである。さらに、座標変換器10,14の磁極位置信号入力段には、これに与える磁極位置信号を電動機起動時に起動時位相設定器20からの位相信号に切り替えるための切替器18cが挿入されている。切替器18a,18b,18cは互いに連動する3個の切替器であってもよいし、1個の切替器の連動接点であってもよい。
【0021】
機械的ブレーキがかけられた電動機3を対象として、磁極位置が判らない状態で電動機3を起動するには、まず切替器18a,18b,18cの接点を図上で上側、すなわち起動時電流設定器19および起動時位相設定器20側に切り替える。起動時電流設定器19および起動時位相設定器20は予め設定された固定値を出力し、電力変換器2の出力が直流電流となるようにする。電動機3の機械的ブレーキを緩めると同時に電動機3の回転子磁極が回転し始め、負荷トルクと電流値に応じた、ある一定の角度位置のところで固定される。この状態での電動機3の磁極位置は、起動時電流設定器19および起動時位相設定器20の設定値、並びに電動機3の負荷条件から容易に演算することができる。
【0022】
具体的には、電動機3の磁極位置は、固定子に流れる電流が生成する磁束の位置から負荷トルク相当分だけずれた位置で固定される。いま、起動時電流設定器19の設定値を、固定子電流の磁束成分すなわち磁束電流をIdo、トルク成分すなわちトルク電流をIqoとし、起動時位相設定器20の位相設定値をθref とする。電動機3のトルク定数をkq、加わっている負荷トルクをτlとすれば、電動機磁極位置θfixは、
Figure 0004031880
で固定される。(1)式右辺の第1項と第2項が固定子に流れる電流が生成する磁束の角度、第3項が負荷の影響でずれる角度である。
【0023】
この時の電機子電流Iaが発生する磁束φaの方向と、回転子永久磁石が作る磁束φmの方向との関係を図2に示す。例えば、無負荷の場合は、起動時電流設定器19で設定されるトルク電流Iqoをゼロとすれば、電動機3の磁極位置は起動時位相設定器20で設定された値θref に固定される。この状態で、切替器18a,18b,18cの接点を図示下側(定常運転側)に切替えれば、磁極位置演算器17は、起動時位相設定器20で設定された位相θrefを初期値として演算を開始し、電動機3は正常に起動する。また、起動しようとした際、すでに電動機定格の50%程度の機械負荷すなわち負荷トルクτl が加わっている場合は、流す電流の大きさを定格程度とすれば、上式のsin-1 の後の( )の中が0.5となるので、トルク電流Iqoをゼロに設定していれば、磁極は磁極位置設定器20の設定値から30°程度ずれた角度位置で固定される。このような磁極位置演算誤差があった場合、電動機3が発生する実トルクは、トルク指令値に対して演算誤差角度の余弦を乗じたものになる。磁極位置演算誤差が30°であれば、電動機3の発生トルクは、指令値のcos 30°倍、すなわち0.866倍となる。この程度の負荷であれば、特に問題なく起動を行うことができるので、電動機の負荷条件を起動時の初期磁極位置推定の際には考慮しなくても良い。なお、Fは永久磁石回転子に作用する吸引力を示すものである。
【0024】
<実施形態2>
図3は、請求項2に係る発明の実施形態における、起動時電流設定器19の出力波形の例である。請求項1の発明では、図3(a)に示すように、起動指令に同期してステップ状に一定値の設定電流を与えて電動機磁極位置の固定を行う。これに対し、本実施形態においては、磁極位置を固定する際に、電機子に流す電流をある時限で変化させることにより、磁極位置固定時の衝撃力の発生の低減を図る。すなわち、図3(b)に示すように磁極位置固定時の電流振幅がある時限をもって徐々に立ち立ち上がるようにランプ状の設定電流を与えることにより、磁極位置固定時に発生する衝撃を低減する。
【0025】
<実施形態3>
図4は、請求項3に係る発明の実施形態を示すものである。請求項1および2に係る発明の実施形態(図1,3)では、定常的には一定値の直流電流を流して磁極位置を固定させるため、電動機の初期負荷状態や停止位置によっては、磁極位置固定時に発生する振動を抑えきることができず、磁極位置固定に失敗することがあり得る。これを防止するため、本実施形態では、磁極位置が固定されるまでの間、電動機3の回転速度nに応じて、電機子に流す電流の値を変化させるために、起動時電流設定器19の設定値を電動機の回転速度nに応じて変化させる。具体的には、速度検出器16によって検出された電動機速度nに応じて、起動時電流設定器19によって設定される磁束成分電流・トルク成分電流の振幅を変化させることにより、衝撃・振動の発生を抑制する。この時の、速度検出器16の出力すなわち電動機速度nと、座標変換器10,14へ与える位相信号の波形例を、図5に示す。この図の例では、起動時電流設定器19の出力すなわち磁束電流基準Id0・トルク電流基準Iq0は双方とも変化させているが、どちらか一方だけを変化させる手法も考えられる。
【0026】
<実施形態4>
図6は、請求項4に係る発明の実施形態を示すものである。請求項3に係る発明の実施形態(図4,5)では、磁極位置固定時に負荷条件などの理由により過大速度が発生した場合、それに応じて流す電流も増大し、結果として電力変換器2の定格電流を超えてしまうおそれがある。これに対し、本実施形態では、速度検出器16で検出された電動機速度nに比例定数回路21で比例定数Kdpを乗じたものを、減算器22によって起動時位相設定器20の出力から差し引いて、座標変換器10,14への入力とする。つまり、比例定数回路21および減算器22により起動時位相に対する減衰手段を構成し、電流の絶対値を変えずにその電気角のみを電動機速度nに応じて変化させる。これにより、電動機回転子が動いている(=磁極位置が固定されるまでの)間、電機子電流Iaが作る磁束φaが回転子側の磁極位置に近づくような動作をさせることができる。このようにして、磁極位置固定時に発生する振動を速やかに減衰させることができる。この時の、速度検出器16によって検出される電動機速度nと、座標変換器10,14へ送出する位相の波形例を図7に示す。
【0027】
<実施形態5>
図8は、請求項5に係る発明の実施形態を示すものである。請求項1〜4に係る発明の実施形態では、磁極位置が最終的に固定される位置は、その初期位置にかかわらず、同じ負荷条件のもとでは常に同一となる。このため、初期磁極位置によっては磁極位置が固定されるまでの間に電気角にして無負荷時で最大180度、負荷条件によっては270〜360度近く回転する可能性がある。これに対し、本実施形態では、電動機速度nを積分器23により積分して電動機回転角度を得た後、それに定数Kdiを乗じたものを、減算器22によって起動時位相設定器20の出力から差し引くことにより減衰手段作用を行わせる。請求項4に係る発明の実施形態(図6,7)では、電動機速度がゼロとなった状態では補正項がゼロとなるため、起動時位相設定器20の出力がそのまま座標変換器10,14へ入力されるが、本実施形態によれば、電動機速度がゼロとなった状態でも積分器23の出力はゼロとならないため、起動時位相設定器20の出力に対して、あるオフセットを加えた位置に電動機磁極位置を固定することができる。このため、磁極位置固定時に電動機回転角度の減少を実現することができる。この時の、速度検出器16の出力と、座標変換器10および座標変換器14への位相信号の波形例を、図9に示す。なお、図8の実施形態では、請求項4に係る発明の実施形態と組み合わせて実施しているが、請求項1〜3に係る発明の実施形態と組み合わせて実施することも可能である。
【0028】
<実施形態6>
図10は、請求項6に係る発明の実施形態を示すものである。請求項3〜5に係る発明の実施形態(図4〜9)では、電動機速度nを磁極位置固定の際の制御に用いるが、磁極位置固定の際の電動機速度nは定格値に比べて非常に小さいことが多く、速度検出器16の分解能によっては十分な効果が得られない場合がある。これに対し、本請求項に係る発明では、磁極固定開始直後、速度検出器16の出力に基づいて回転方向判定器24により磁極位置が存在する方向(回転方向)を判定し、その方向に応じて起動時位相設定器20の出力を不連続的に進めるか遅らせることにより、電機子電流Iaが作る磁束と回転子磁束がなす角度を減少させ、磁極位置の固定に要する時間および回転角度を減少させる。理論的には位相の跳躍量を±90°とした時にもっとも大きな効果が得られるが、回転方向検出器25の動作遅れ時間や機械系の摩擦係数などを考慮すると、最適値は0°〜180°の範囲で選定される。なお、位相跳躍量を90°とした場合に電動機3の最大回転角度は最も小さくなり、無負荷の場合、電気角にして90°となる。この時の速度検出器16の出力と、座標変換器10,14への位相信号の波形例を図11に示す。図10の実施形態は、請求項3および4に係る発明の実施形態と組合せた場合について説明しているが、請求項2および5に係る発明の実施形態と組み合せることも可能である。
【0029】
<実施形態7>
図12は、請求項7に係る発明の実施形態を示すものである。請求項6に係る発明の実施形態(図10,11)では、いかなる場合にも磁極固定位相を不連続的に跳躍させるため、本来、位相を跳躍させる必要の無い場合にも位相を跳躍させて、軽微ではあるが不要な振動を引き起こす可能性が高いという一面がある。これに対し、本実施形態では、磁極固定時の電動機速度nがある設定値を超えた場合にのみ、速度判定器25により初期磁極位置と最終磁極固定位置の位相差が十分に大きいと判定して起動時位相設定器20の出力を不連続的に変化させる。速度判定器25はエッジトリガとし、一旦速度がある値を超えた後は速度が低下してもその出力を保持する。基本的には、図11,12の実施形態と同様に回転方向を検知した上で起動時位相設定器20の出力を跳躍させる方向を決めるが、位相跳躍量を180°に設定する場合に限り、回転方向の検出は不要である。この場合、磁極の最終固定位置は当初の設定値の反対側となり、その効果は最大となるが、位相跳躍量が大きいため発生する衝撃力も大きくなる可能性がある。位相跳躍量を180°とするか、それ以下とするかについては、適用するシステムの機械的定数(摩擦係数など)により最適値が異なる。この時の、速度検出器16の出力と、座標変換器10,14への位相入力の波形例を図13に示す。
【0030】
<実施形態8>
図14は、請求項8に係る発明の実施形態を示すものである。請求項6および7に係る発明の実施形態(図10〜13)では、負荷トルクτl の方向と初期磁極位置の関係によっては、特に電流位相を跳躍させることなく安定に磁極を固定できる場合もあるが、その時でも電流の位相を不連続的に変化させて余分な振動を引き起こしてしまう場合があり得る。本実施形態によれば、負荷トルクを検出する負荷トルク検出器26を設け、検出負荷トルクと回転方向判定器24の出力を、起動時位相設定器20に入力し、必要な場合にのみ電流の位相を跳躍させる。具体的には、電機子巻線に直流電流を流し磁極位置固定動作に入った際、電動機3の初期回転方向が負荷トルク方向と逆方向であれば、位相を跳躍させなくても回転子磁極位置を安定に固定することができるので、この場合は位相の跳躍をさせない。このようにして、不要な電流位相の変化を回避し、余分な振動の発生を防止することができる。
【0031】
<実施形態9>
図15は、請求項9に係る発明の実施形態を示すものである。請求項8に係る発明の実施形態(図14)においては、負荷トルク検出器26が必要となる。本実施形態によれば、磁極位置固定のための電流を流し始めるタイミングに遅延を持たせ、この間の電動機3の回転方向から負荷トルク方向の判定を行い、その後、電流を流し始めた際に加速するか減速するかによって、請求項8に係る発明の実施形態(図14)における電動機初期回転方向を判定する。簡便には、電流を流し始めた際に電動機3が減速すれば、負荷トルク方向と初期電動機回転方向が逆であるので、電流の位相を跳躍させる必要はない、と判定することができる。速度検出器16の分解能が低い場合には、ごく低速域での加速・減速の判定は困難なので、この場合は、電流を流し始めてある時限が経過した後の回転方向により判定を行えばよい。
【0032】
<実施形態10>
図16は、請求項10に係る発明の実施形態における、速度検出器16の出力と、座標変換器10,14への位相信号の波形例である。本実施形態における制御ブロックの構成は、請求項6〜9に係る発明(図10〜15)と同一である。請求項6〜9に係る発明では、位相を跳躍させる際に衝撃力を発生するおそれがあった。本実施形態によれば、位相を跳躍させる場合に、図16に示すように、ある時限をもって連続的に変化させることにより、位相跳躍時に発生する余分な振動を低減させることができる。
【0033】
<実施形態11>
図17は、請求項11に係る発明の実施形態を示すものである。請求項5に係る発明の実施形態(図8)においては、電動機速度nから回転角度を得る積分器23による補正量には、ゲインの与え方によっては磁極位置固定のための安定性を損なうおそれがある。本実施形態では、積分器23の動作を、回転方向判定器24や、速度判定器25、負荷トルク検出器26の出力により制御し、必要に応じて積分動作を停止させることにより、請求項6〜9に係る発明の実施形態(図10〜15)と類似の動作をさせることができる。具体的には、初期状態では、補正量が図11に対応する値でリミットがかかる状態にしておく。速度判定器25の出力により、電動機速度nがある値を超えた場合には、積分器23の積分動作を停止させる条件を図13の場合に相当する値に変化させる。回転方向判定器24の出力と負荷トルク検出器26の出力から、位相を跳躍させる必要がないと判断される場合には、積分動作を全面的に停止させることにより、図12,13の実施形態と類似の動作をさせることもできる。
【0034】
【発明の効果】
本発明によれば、磁極位置検出器を用いることなく、一旦磁極位置を予め設定された位相状態に固定することにより、永久磁石式同期電動機の起動を安定に行うことができる。また、磁極位置固定の際に、衝撃や振動が少なく、また回転量も小さて済む制御系を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 請求項1に係る発明の実施形態を示すブロック図。
【図2】請求項1に係る発明の原理を説明するためのベクトル図。
【図3】(A)は請求項1に係る発明の実施形態における起動時電流設定器の出力波形の例を示す線図、(B)は請求項2に係る発明の実施形態における起動時電流設定器の出力波形の例を示す線図。
【図4】請求項3に係る発明の実施形態を示すブロック図。
【図5】請求項3に係る発明の実施形態における電動機速度および起動時電流設定器の出力波形例を示す線図。
【図6】請求項4に係る発明の実施形態を示すブロック図。
【図7】請求項4に係る発明の実施形態における電動機速度および座標変換器への入力波形例を示す線図。
【図8】請求項5に係る発明の実施形態を示すブロック図。
【図9】請求項5に係る発明の実施形態における電動機速度および座標変換器への入力波形例を示す線図。
【図10】請求項6に係る発明の実施形態を示すブロック図。
【図11】請求項6に係る発明の実施形態における電動機速度および座標変換器への入力波形例を示す線図。
【図12】請求項7に係る発明の実施形態を示すブロック図。
【図13】請求項7に係る発明の実施形態における電動機速度および座標変換器への入力波形例を示す線図。
【図14】請求項8に係る発明の実施形態を示すブロック図。
【図15】請求項9に係る発明の実施形態を示すブロック図。
【図16】請求項10に係る発明の実施形態における電動機速度および座標変換器への入力波波形例を示す線図。
【図17】請求項11に係る発明の実施形態を示すブロック図。
【図18】従来の技術による永久磁石同期電動機の制御装置のブロック図。
【図19】従来の技術による別の制御装置のブロック図。
【符号の説明】
1 直流電源
2 電力変換器
3 永久磁石式同期電動機(PMSM)
4 磁極位置検出器
6 速度基準発生器
8 速度制御器
10 座標変換器
11 磁束電流基準発生器
13 電流制御器
14 座標変換器
15 ゲートパターン発生器
16 速度検出器
17 磁極位置演算器
18a,18b,18c 切替器
19 起動時電流設定器
20 起動時位相設定器

Claims (11)

  1. 永久磁石式同期電動機を、与えられた速度基準および磁束電流基準に従い速度偏差および磁束電流偏差がゼロになるように電流制御手段およびこれによって制御される電力変換器を介して速度制御する永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、
    電動機起動のための固定磁極位置に対応する磁束電流指令およびトルク電流指令を生成する起動時電流設定手段と、
    電動機起動のための電流位相指令を設定する起動時位相設定手段と、
    電動機起動に先だち電動機電流の位相初期値として前記起動時位相設定手段によって設定された電流位相指令を与えると共に、前記電流制御手段へ入力される磁束電流基準およびトルク電流基準の初期値として前記起動時電流設定手段によって設定された磁束電流指令およびトルク電流指令を与えるように切替動作する切替手段と、
    を具備したことを特徴とする永久磁石式同期電動機の起動制御装置。
  2. 請求項1に記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、
    前記起動時電流設定手段は、固定磁極位置に対応する磁束電流指令およびトルク電流指令を所定の時限をもって徐々に立ち上げることを特徴とする永久磁石式同期電動機の起動制御装置。
  3. 請求項1または2に記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、
    前記起動時電流設定手段は、固定磁極位置に対応する磁束電流指令およびトルク電流指令を電動機速度に応じて変更することを特徴とする永久磁石式同期電動機の起動制御装置。
  4. 請求項1ないし3のいずれかに記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、
    前記起動時位相設定手段によって設定された位相指令を、電動機速度に応じて減衰させる減衰手段をさらに備えたことを特徴とする永久磁石式同期電動機の起動制御装置。
  5. 請求項1ないし4のいずれかに記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、
    前記起動時位相設定手段によって設定された位相指令を、起動後の電動機回転角度に応じた補正量に従って減衰させる減衰手段をさらに備えたことを特徴とする永久磁石式同期電動機の起動制御装置。
  6. 請求項1ないし5のいずれかに記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、
    前記同期電動機の回転方向を判定する回転方向判定手段と、前記起動時位相設定手段によって設定された位相指令を、前記回転方向判定手段によって判定された回転方向により跳躍させる手段とをさらに備えたことを特徴とする永久磁石式同期電動機の起動制御装置。
  7. 請求項6に記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、
    電動機速度が所定値に達したことを判定する速度判定手段をさらに備え、前記起動時位相設定手段によって設定された位相指令を、前記速度判定手段の出力により跳躍させることを特徴とする永久磁石式同期電動機の起動制御装置。
  8. 請求項6または7に記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、
    電動機負荷トルクを検出する負荷トルク検出手段をさらに備え、前記起動時位相設定手段によって設定された位相指令を、前記負荷トルク検出手段によって検出された負荷トルクに従って制御することを特徴とする永久磁石式同期電動機の起動制御装置。
  9. 請求項6または7に記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、
    前記回転方向判定手段は磁極位置固定のための電流を流し始めるタイミングに遅延を持たせた際の電動機回転方向から負荷トルクの方向を判定し、前記起動時電流設定手段によって設定される磁束電流指令およびトルク電流指令を前記負荷トルクの方向が判定されてから有効にする遅延手段をさらに備えたことを特徴とする永久磁石式同期電動機の起動制御装置。
  10. 請求項6ないし9のいずれかに記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、
    前記起動時位相設定手段によって設定された位相指令を、前記速度判定手段の出力により所定の時限をもって徐々に立ち上げることを特徴とする永久磁石式同期電動機の起動制御装置。
  11. 請求項5に記載の永久磁石式同期電動機の起動制御装置において、
    前記減衰手段によって減衰させるための補正量を、電動機速度、電動機回転方向、および負荷トルクのうちの少なくとも一つに応じて調整することを特徴とする永久磁石式同期電動機の起動制御装置。
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