JP3814826B2 - 同期電動機のベクトル制御方法 - Google Patents

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本発明は、永久磁石形同期電動機、巻線形同期電動機、永久磁石と界磁巻線とを有するハイブリッド界磁形同期電動機、永久磁石によってアシストされた同期リラクタンス形電動機等々を含む、回転子に回転子磁束発生源を有する同期電動機のベクトル制御方法であって、回転子磁束の位相(位置と同義)を高精度に検出のための位置センサを回転子に装着する必要のない、センサレスベクトル制御方法に関する。特に、ゼロ速から中速に及ぶ低速域での安定駆動を重視したセンサレスベクトル制御方法に関する。
永久磁石形同期電動機、巻線形同期電動機、永久磁石と界磁巻線とを有するハイブリッド界磁形同期電動機、永久磁石によってアシストされた同期リラクタンス形電動機等々の回転子に回転子磁束発生源を有する同期電動機において、適切にトルク発生させるには、回転子磁束位相(以下、回転子位相と略記)に応じて固定子電流を印加する必要がある。位相情報は回転子に位置センサを装着することにより得ることができるが、本装着は信頼性、コスト等の諸点において好ましいものではない。本認識に基づき、推定位相を利用した駆動制御を目指したセンサレスベクトル制御方法の研究開発が、長年にわたり展開されてきた。
この種の同期電動機のセンサレスベクトル制御方法に関するこれまでの成果を通じ、ゼロ速から定格速度を超える広い速度域にわたり、単一の推定法で回転子位相を適切に推定することは大変困難であるとの認識が今日広く受け入れられている。換言するならば、同期電動機のセンサレスベクトル制御においては、ゼロ速から中速(低速域)において良好な制御方法と中速から高速(高速域)において良好な制御方法との2方法を同期電動機の回転周波数に応じてハイブリッド結合し使用すること(以下、周波数ハイブリッドと呼ぶ)が実際的であるとの認識が一般的である。事実、この認識に立った周波数ハイブリッドに関する発明が既に多数なされている。例えば、特開平10−94298(新中)、特開2000−156993(小原)、特開2002−051580(飯島)、特開2002−112600(大森)、特開2003−219698(大沢)、特開2003−299381(ハジュンイク)、特開2004−48886(岩路)などがある。周波数ハイブリッドとしては、3方法を回転周波数に応じてハイブリッド結合した例もある。これらは、2方法の周波数ハイブリッドの単なる結合周波数を変えての繰返しであり、周波数ハイブリッドの本質は、2方法のハイブリッド結合にある。
センサレスベクトル制御方法の中核が位相推定にあることより容易に理解されるように、周波数ハイブリッドの中核は、推定位相の周波数的加重平均によるハイブリッド結合にある。図1は、位相の周波数的加重平均の代表的2例を概略的に表現したものである。同図の(a)は周波数的加重平均の重みが比較的広い周波数範囲で変化しているのに対して、(b)は、周波数的加重平均の重みが特定の周波数あるいは狭い周波数範囲で急変している。高速域用の位相推定法としては駆動用の電圧電流を用いる方法が主流であり、低速域用の位相推定法としては高周波印加の方法が主流である。概略的ではあるが、前者は、推定のための専用のハードウェアを用いることなくソフトウェアで位相推定が可能である。また、演算負担も比較的軽い。一方、後者は、ソフトウェアのみで実現可能なものもあるが演算負担が大きく、また専用のハードウェアを必要とするものも少なくない。
広い速度域で高い位相推定精度を維持するには、一般には、高速域用、低速域用ともに優れた2推定法による周波数ハイブリッド化が好ましい。しかし、低速域では高トルク発生を必要としない、起動時の一時的逆回転が許容される等の特性を持った応用のための低速域用としては、適切な起動ができかつ低速域の上限まで動作できれば、高精度の位相推定は必要としない。反対に、この種の応用では、専用のハードウェアを必要としない、演算負担が軽い、と言った簡易性が重要となる。
なお、説明の簡明さを確保するため、以降の説明では、定格速度を基準に、0〜1/5程度の速度域を低速域と呼ぶ。0〜1/20程度に該当する、低速域の中でも特に低速部分は、微速域と呼ぶ。
簡易性を重視したセンサレス駆動制御方法として、印加電圧と同電圧の周波数の比を高速域で一定に保つv/f一定制御が、広く知られている。v/f一定制御は簡易性と言う優れた長所を有する反面、実際的な利用には諸問題を有しており、この改良が試みられている。駆動対象を永久磁石形同期電動機に限定した場合、v/f一定制御の改良例は、例えば、次の文献に見ることができる。
(1)松田尚孝、他:「永久磁石形同期電動機の制御装置」、特開2000−236694(2000−8)
(2)大沢博、他:「永久磁石同期電動機の制御装置」、特開2003−70293(2003−3)
(3)岩路善尚、他:「同期電動機の駆動制御装置」、特開2004−48886(2004−2)
v/f一定制御の主要な問題は、次のようなものである。すなわち、1)電動機の駆動前に、電動機に加わる負荷を実測あるいは予測してv/f曲線を前もって作成する必要がある。
2)特に、ゼロ速を含む微速域では、主要な負荷である摩擦の特性が速度に応じて大きく変化し、適切なv/f曲線の作成は、試行錯誤を要する。3)負荷に応じたv/f曲線が正しく作成できない場合には起動不能に陥る、あるいは過電流で電動機、インバータを損傷することがある。4)適切なv/f曲線の作成は煩雑であり、また負荷が変動するたびにこの煩雑な作成作業を繰りかえさなくてはならない。5)v/f一定制御は、原理的に、回転子位相の推定機能を有しない。以上のようなv/f一定制御の特性により、高速域用センサレスベクトル制御方法との周波数ハイブリッド化のための低速域用駆動制御方法としてv/f一定制御を活用することは甚だ困難であり、あえてこれを活用する場合には、上記文献(3)に見られるように煩雑な工夫が必要であった。
発明が解決しようとする課題
本発明は以上の背景のもとになされたものであり、その目的は、v/f一定制御の特長である簡易性を維持しながら、これが有する諸問題を克服した新規なセンサレスベクトル制御方法を提供することにある。特に、高速域用センサレスベクトル制御方法との周波数ハイブリッドに活用し得る低速域用センサレスベクトル制御方法を提供することにある。高速域用センサレスベクトル制御方法のためのスタータ的機能を重視したこの種のセンサレスベクトル制御方法としては、以下のような特性を持つことが望まれている。
1)センサレスベクトル制御方法は簡単であり、所要の演算負担は軽い。
2)センサレスベクトル制御方法は、精度の高い電動機パラメータを必要とせず、汎用性が高い。
3)センサレスベクトル制御方法は、負荷特性に関する詳細な事前知識を必要としない。
4)センサレスベクトル制御方法は、定格負荷の約50%以下の負荷であれば、ゼロ速から起動できる。
5)センサレスベクトル制御方法は、2)、3)項の特性にも拘わらず、駆動初期より過電流防止を達成できる。
6)センサレスベクトル制御方法は、2)、3)項の特性にも拘わらず、定常状態では、安定性と効率とを同時に考慮した最適な電流レベルで、電動機を駆動することができる。
7)センサレスベクトル制御方法は、回転子位相を、少なくとも定常状態では、周波数ハイブリッド化に必要な十分な精度で推定することができる。
課題を解決するための手段
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、2x1ベクトル信号を回転させるための ベクトル回転器またはベクトル回転器を内蔵した相変換器を少なくとも利用して、かつフ ィードバック電流制御器の出力信号を主たる信号として用いて電圧指令を生成して、ベク トル信号である電流指令に追従するように固定子電流をフィードバック制御する工程と、 ベクトル回転器またはベクトル回転器を内蔵した相変換器に利用する位相を決定する工程 とを有し、該位相の決定工程において、電気角速度指令の積分値あるいはこれと等価な信 号を該位相の少なくとも主要な一部として使用して該位相を決定する、同期電動機の位置 センサレスなベクトル制御方法であって、該位相の決定工程において、電気角速度指令の積分値あるいはこれと等価な信号と共に、フィードバック制御された固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比、あるいはこの推定値、あるいはこれらと等価な物理量比を位相補正源信号として使用して、該位相を決定することを特徴とする。
請求項2の発明は、2x1ベクトル信号を回転させるためのベクトル回転器またはベクト ル回転器を内蔵した相変換器を少なくとも利用して、かつフィードバック電流制御器の出 力信号を主たる信号として用いて電圧指令を生成して、ベクトル信号である電流指令に追 従するように固定子電流をフィードバック制御する工程と、ベクトル回転器またはベクト ル回転器を内蔵した相変換器に利用する位相を決定する工程とを有し、該位相の決定工程 において、電気角速度指令の積分値あるいはこれと等価な信号を該位相の少なくとも主要 な一部として使用して該位相を決定する、同期電動機の位置センサレスなベクトル制御方 法であって、該フィードバック制御工程において、フィードバック制御された固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比、あるいはこの推定値、あるいはこれらと等価な物理量比が、指定した電流比になるように、ベクトル信号である該電流指令のノルムを調整するようにしたことを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項2記載の同期電動機の位置センサレスなベクトル制御方法であ って、該電流指令を2x1のベクトル信号として表現した場合、その第1成分と第2成分の比が、フィードバック制御された固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比、あるいはこの推定値、あるいは指定した電流比と等しくなるように該電流指令を定めるようにしたことを特徴とする。
次に、図面と数式を援用しつつ、本発明の作用について説明する。本発明は、回転子に回転子磁束発生源を有する同期電動機であれば、永久磁石形同期電動機、巻線形同期電動機、永久磁石と界磁巻線とを有するハイブリッド界磁形同期電動機、永久磁石によってアシストされた同期リラクタンス形電動機の何れの同期電動機にも適用可能である。以下に説明する作用は上記全ての同期電動機に適用される。
先ず、本発明の作用に関連する基本特性を説明する。本発明においては、ベクトル回転器またはベクトル回転器を内蔵した相変換器(以下、ベクトル回転器等と略記)を利用して固定子電流のフィードバック電流制御を行なうことになる。更には、ベクトル回転器等に利用する位相を、電気角速度指令の積分値あるいはこれと等価な信号を位相の主要部分として使用し、決定することになる。
電気角速度指令の積分値あるいはこれと等価な信号をベクトル回転器等位相の主要部分として使用は、固定子に印加された電源の周波数と回転子の電気角速度との同期性と言う、同期電動機の本質的性質を活用したものであり、十分な合理性を有する。本合理性に立脚した本発明によれば、回転子位相の正確な値が不明な場合にも、駆動に必要なベクトル回転器等を作動できる。
発明においては、フィードバック電流制御系を構成することになる。従って、電流指令のノルムを許容制限内に限定するだけで、電流指令通りに固定子電流を制御すると言うフィードバック電流制御系の働きにより、駆動初期を含むすべての駆動期間で過電流防止を達成できる。すなわち、発明においては、電流指令のノルムを制限すると言う簡単な処理で、駆動初期を含むすべての駆動期間で過電流防止を達成できる。
発明においては、フィードバック電流制御系を構成することになる。従って、電流指令のノルムを許容制限内の最大値に設定するだけで、過電流の恐れなく許容最大電流を同期電動機の印加することができる。当業者には周知のように、回転子磁束による発生トルクは固定子電流ノルムと強い正の相関がある。例えば、円筒形同期電動機の場合には、発生トルクは固定子電流ノルムと正確に比例する。従って、発明においては、電流指令のノルムを許容制限内の最大値に設定するだけで、負荷特性に関する詳細な事前知識がなくとも、許容最大電流で過電流の恐れなく、最大電流に見合った駆動トルクを発生できる。
当業者には周知のように、一般に、フィードバック制御系はフィードフォワード制御系に比較し格段に制御対象のパラメータ変動に対してロバストである。フィードバック制御系に関する本ロバスト特性はフィードバック電流制御系にも適用され、本発明に使用するフィードバック電流制御系は同期電動機の電気パラメータの誤差(公称値と実際値の違い)に対してロバストである。もちろん、フィードバック電流制御系の安定性は、同期電動機への負荷及びこの変動には、一切の影響を受けない。すなわち、フィードバック電流制御系は、負荷に対しては、完全ロバストである。
以上の基本特性を理解した上で、請求項の発明の作用を説明する。フィードバック電流制御を行なわないv/f一定制御においてしばしば観察されているように、電気角速度指令の積分値をベクトル回転器等の位相としてそのまま利用する場合には、同期電動機は乱調(低周波振動)を起こすことがある。請求項の発明による場合にも、負荷にも依存するが、こうした乱調を起こすことがある。この乱調は、後述の実施形態例の説明において実験的に示すように、フィードバック制御された固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比と強い相関を有する(後掲の図8、図9を参照)。請求項の発明によれば、電気角速度指令の積分値あるいはこれと等価な信号と共に、応答電流比、あるいはこの推定値、あるいはこれらと等価な物理量比を位相補正源信号として使用し位相補正を行うことになるので、これにより乱調の発生を抑制することができると言う作用が得られる。
続いて請求項の発明の作用を説明する。上述した基本特性の根源となった基本的なフィ ードバック電流制御工程と基本的な位相決定工程のみによる場合、同期電動機は以下のような電流応答特性を示す。仮に、固定子電流指令のノルムが一定の下で電流制御が行われ、緩やかな変動負荷がある場合を考える。図2(a)は、回転子磁束の位相(回転子位相)をd軸としこれと直交する軸をq軸として、本状況を概略的に示したものである。本図では、固定子電流iは2x1ベクトルとして表現されている。固定子電流は、同期電動機への負荷が小さい場合にはd軸寄りとなり、負荷が大きくなるに従いq軸寄りとなる。すなわち、同期電動機への負荷に応じて電流位相(d軸を基準した固定子電流の位相)θidが自動調整される。
図2(b)は、図2(a)と対照的な状態を概略的に示したものである。すなわち、仮に同期電動機への負荷は一定とし、ノルムについて電流指令を変更した場合の電流応答特性を概略的に示したものである。一定負荷の下では、固定子電流のノルムが大きくなれば電流位相はd軸寄りとなり、反対に電流ノルムが小さくなれば電流位相はq軸寄りとなる。すなわち、この場合には、固定子電流のノルムに応じて電流位相が自動調整される。図2に示した共通の電流応答特性は、負荷あるいは電流ノルムの変化に応じて、負荷と発生トルクがバランスするように、電流位相が自動調整されることにある。これが、基本的なフ ィードバック電流制御工程と基本的な位相決定工程のみによる場合の電流応答特性の基本である。
電流位相は、安定性(脱調防止)と効率とを考慮するならば、適切な値がある。回転子に回転子磁束発生源を有する同期電動機においては、概して、電流位相がπ/2(rad)に近づくにつれ効率が上昇し、安定性が低下する。反対に、電流位相が0(rad)に近づくにつれ効率が低下し、安定性が上昇する。本発明における電流位相としては、概略的ではあるが、
Figure 0003814826
定子電流のq軸成分とd軸成分との比は、固定子電流の有効電流と無効電流の比と概ね等しくなる(後述の実施形態例で本事実を実験的にも実証する、後掲の図11参照)。
請求項の発明によれば、フィードバック制御された固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比が実質的に指定した電流比になるように、ベクトル信号である電流指令のノルムを調整することになる。これは、上記のような駆動範囲では、固定子電流のq軸成分とd軸成分の比を実質的に制御することを意味する。ひいては、安定性と効率とを実質的に制御することを意味する。以上の説明より明白なように、請求項の発明によれば、速度がある程度大きい駆動領域では、駆動システムの安定性と効率とを支配する固定子電流のq軸成分とd軸成分との比を実質的に制御することができるようになると言う作用が得られる。
続いて請求項の発明の作用を説明する。請求項の発明による電流応答を、位相に着目して、図3に概略的に表現した。同図においては、αβ軸は固定座標系を、dq軸は図2
Figure 0003814826
標系を各々意味している。また、θdαはα軸を基準にしたd軸の位相を、θidは上述のようにd軸を基準にした電流位相を、各々意味している。θはα軸を基準にした制御座標系の
Figure 0003814826
固定子電流の位相である。制御座標系上で、フィードバック電流制御が適切に行われ、電流指令通りの電流応答が得られている場合には、θは、制御座標系上で表現された電流指令の位相を実質意味するので、以降では、これを指令値位相と呼ぶ。
同図より明白なように、4位相の間には次の関係が成立する。
Figure 0003814826
すなわち、θdαとθは、位相偏差(θ−θid)をもつことになる。位相偏差を取り除くには、電流指令における指令値位相θを電流位相θidと等しくなるように選定すればよい。電流位相は同期座標系における固定子電流のq軸成分とd軸成分の比の逆正接である。また請求項の発明による作用に関し説明したように、q軸成分とd軸成分の比は、ある速度以上の駆動では、固定子電流の有効電流と無効電流の比と概ね等しい。従って、指令値位相を固定子電流の有効電流と無効電流の比の逆正接と等しく選定する場合には、制御座標位相θは、d軸位相(回転子位相)と概ね等しくなる。換言するならば、制御座標位相θは回転子位相の良好な推定値となる。
請求項の発明によれば、電流指令を2x1のベクトル信号として表現した場合、その第1成分と第2成分の比が、フィードバック制御された固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比、あるいはこの推定値、あるいは指定した電流比と等しくなるように電流指令を定めるようになる。これは、上の説明より既に明白なように、指令値位相を電流位相と概ね等しくなるように選定することを意味する。ひいては、請求項の発明によれば、制御座標位相θが回転子位相の良好な推定値となると言う作用が得られる。
請求項1〜請求項の発明に関する上述の作用に関しては、その正当性・妥当性を、後述の実施形態例に関連した実機実験を通じて、検証確認する。
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態を詳細に説明する。図4は、同期電動機に対し、本発明のベクトル制御方法を装置化し、これに装着した場合の代表的1例を、同装置と直接関係する電動機固定子に着眼して概略的にブロック図で示したものである。1は同期電動機を、2は電力変換器を、3は電流検出器を、4a、4bは夫々3/2相変換器、2/3相変換器を、5a、5bは共にベクトル回転器を、6は余弦正弦信号発生器を、7は電流制御器を、8は位相生成器を、9は指令生成器を示している。図4では、3から9までの諸機器がベクトル制御装置を構成している。本図では、簡明性を確保すべく、本発明と関係の深いベクトル信号を1本の太い信号線で表現している。以下のブロック図表現もこ
Figure 0003814826
令を各々意味する。頭符*は、機械角速度指令のように、関連信号の指令値を意味する。なお、ε電流比偏差を意味するが、この詳細は後述する。
特に、電流検出器3、相変換器4a、4b、ベクトル回転器5a、5b、余弦正弦信号発生器6、電流制御器7、指令生成器9が、2x1ベクトル信号を回転させるためのベクトル回転器またはベクトル回転器を内蔵した相変換器を少なくとも利用して、ベクトル信号である電流指令に追従するように固定子電流をフィードバック制御する工程を実行する手段を構成している。また、位相生成器8が、ベクトル回転器またはベクトル回転器を内蔵した相変換器に利用する位相(制御座標位相)を決定する工程を実行する手段を構成している。
電流検出器3で検出された3相の固定子電流は、3/2相変換器4aでαβ固定座標系上
Figure 0003814826
電流制御器7へ送られる。電流制御器7は、制御座標系上の2相電流が、各相の電流指令値に追随すべく制御座標系上の2相電圧指令値を生成しベクトル回転器5bへ送る。5bでは、制御座標系上の2相電圧指令値をαβ固定座標系の2相電圧指令値に変換し、2/3相変換器4bへ送る。4bでは、2相信号を3相電圧指令値に変換し、電力変換器2への指令値として出力する。電力変換器2は、指令値に応じた電力を発生し、同期電動機1へ印加しこれを駆動する。このときの制御座標系上の電流指令値は2x1のベクトル信号として記述され得る2相信号である。本電流指令は、指令生成器9で自動生成されている。また、ベクトル回転器で利用される制御座標位相は、位相生成器8で生成されている。
固定子電流をフィードバック制御する工程を実行する手段は、発明を構成する主要な構成手段ではあるが、従来のベクトル制御装置に利用されているものと基本的に同一である。このため、これに関するこれ以上の説明は省略する。本発明の中心は、位相生成器8及び指令生成器9にある。以降では、本発明による位相生成器8及び指令生成器9に焦点を絞って説明を行なう。
先ず、図4の実施形態例に利用した位相生成器8について説明する。図5は、請求項1の発明による位相生成器の1構成例をブロック図として示したものである。同図では、機械角速度指令と電流比偏差を入力として、制御座標位相を出力する例を示している。本位相生成器は、数式を用いた以下の表現に展開することも可能である。
Figure 0003814826
Figure 0003814826
Figure 0003814826
ここに、sgndb(・)は、デッドバンドb>0をもつ符号関数である。すなわち、
Figure 0003814826
Figure 0003814826
図5の位相生成器8は、電気角速度指令の積分値あるいはこれと等価な信号を少なくとも主要な一部として使用して制御座標位相を決定することを要件とする発明に基づいて、構成されている。先ず、これを説明する。いま仮に、補正ゲインがゼロであったとする。補正ゲインがゼロの場合には、(4)式より明白なように、速度補正量はゼロとなる。従って、(3)式より、機械角速度指令に極対数を乗じて生成した電気角速度指令は、制御座標速度と同一となる。(2)式に明示しているように、制御座標位相は、制御座標速度を積分処理して生成している。すなわち、この場合には、ベクトル回転器に使用する制御座標位相を、電気角速度指令の積分値を使用して決定していることになる。
補正ゲインが正の場合には、電気角速度指令に微少ではあるが速度補正量を加算して、制御座標速度を生成することになる。この場合の制御座標速度の主成分は、当然、電気角速度指令である。従って、電気角速度指令の積分値を少なくとも主要な一部として使用して、ベクトル回転器に利用する制御座標位相を決定していることになる。なお、定常状態では、速度補正量の平均はゼロであるが、乱調のない安定な定常状態では瞬時瞬時において、速度補正量は実質ゼロとなる(後掲の図10参照)。
速度補正量の生成及びこの加算は、請求項の発明に基づいて行なっている。請求項の発明によれば、フィードバック制御された固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比、あるいはこの推定値、あるいはこれらと等価な物理量比を位相補正源信号として利用して、制御座標位相を決定することになる。図5の例では、積分処理前の制御座標速度の生成において速度補正量を加算することにより、結果的に制御座標位相を補正決定している。速度補正量の生成に利用された電流比偏差は、後に詳しく説明する指令生成器(後掲の図6参照)によって生成されたものをそのまま利用している。後掲図6に例示した指令生成器では、電流比偏差は次の(6)式に従い生成している。
Figure 0003814826
Figure 0003814826
Figure 0003814826
式第1式の右辺は有効電流と無効電流の絶対値比をも意味していることは明白である。すなわち、物理量たる有効電力と無効電力による比は、有効電流と無効電流の比と、同一である。(6)式第2式は、(6)式第1式を近似したものである。すなわち、固定子電圧の実測値に代わって、この推定値として同指令値を利用したものである。当業者には周知のように、電力変換器2(図4参照)が電圧指令通りの電圧を発生する場合には、固定子電圧指令は固定子電圧実測値の良好な推定値となる。
(4)、(6)式より理解されるように、図5の位相生成器8においては、応答電流比そのものの直接的な利用に代わって、応答電流比と電流比設計パラメータK1v(本パラメータに関しては、指令生成器に関する実施形態例の説明において詳述する)の偏差である電流比偏差を利用するように、更には、電圧実測値に代わってその推定値である電圧指令を利用するように工夫している。しかも、この電流比偏差は、指令生成器で生成されたものをそのまま利用するようにしている。こうした工夫をもつ本実施形態例は、指令生成器との整合性を確立した上で、更には一切の追加的演算負担の発生なく、位相補正源信号を生成することに成功している。
続いて、速度補正量の生成に利用したデッドバンド付き符号関数について説明する。請求項の発明の作用に関する説明で述べたように、電動機の乱調と電流比とは強い相関を有する。相関の関係は、後に実験データを用いて詳しく示すが、電動機の正転と逆転とで相関の極性が逆転する(後掲の図8、図9参照)。符号関数の導入は、極性に対応するためのものである。乱調は、微速域を超えた速度域、特に周波数ハイブリッド結合を行なう速度域で問題になる。デッドバンドは、これを考慮して導入したものである。従って、符号関数のデッドバンドb>0の値は、微速域の上限に設定するようにすればよい。
以上、請求項の発明に基づく1実施形態例を示したが、本発明による位相生成器は、図5に限定されるものでないことを指摘しておく。例えば、速度補正量は、(4)式に代わって、ハイパスフィルタF(s)を用いた次の(8)式に従って構成してもよい。
Figure 0003814826
あるいは、速度補正量に代わって位相補正量を生成するようにしていもよいことを指摘しておく。位相補正量を利用する例としては、例えば、ローパスフィルタF(s)を用いた次の(9)、(10)式のものが考えられる。
Figure 0003814826
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続いて、図4の実施形態例における指令生成器9について説明する。指令生成器は、次の(11)、(12)式に基づいて構成している。
Figure 0003814826
Figure 0003814826
(11)式は、固定子電流指令のノルム値に、指令値位相の余弦正弦値からなる2x1ベクトルゲインを乗じて、固定子電流を生成することを意味している。(12)式右辺におけるにおける電流比偏差は、(6)式に定義している通りである。固定子電流指令のノルム値を決定する(12)式は、請求項の発明に基づいて、構成されている。すなわち、フィードバック制御された固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比、あるいはこの推定値、あるいはこれらと等価な物理量比が指定した電流比K1νになるように、電流指令のノルムを調整するメカニズムを実現している。
(6)式に定義した電流比偏差の第1項が、応答電流比、あるいはこの推定値、あるいはこれらと等価な物理量である有効電力と無効電力の絶対値比を示していることは、既に説明した。(6)式による電流比偏差の生成に使用した電流比設計パラメータK1vは、有効電流と無効電流の絶対値比の収斂値を定めるための設計パラメータである。F(s)は、固定子電流等に含まれる高調波成分等を除去するためのローパスフィルタである。1/sはリミッタ付き積分器である。リミッタの上下限設定値に電流指令の上下限を設定することにより、電流制御フィードバックループが適切に設計構成されている場合には、良好な電流制限を行なうことができる。Kは、電流指令値ノルムの収斂速度を調整するための積分ゲインである。
(12)式によれば、微速域を超える低速域では、設計者が与えた設計パラメータK1νに対して電流比偏差εがゼロまたは平均的にゼロになるように、固定子電流のノルム、有効電流、無効電流が制御される。以下、このメカニズムを説明する。仮に、電流比偏差が正とする。この場合には、リミッタ付き積分器に働きにより、電流指令ノルムは増加することになる。電流制御フィードバックループが適切に設計されている場合には、固定子電流指令のノルムの増加は、同電流のノルムの増加をもたらす。請求項の発明による作用の説明において詳述したように、電流ノルムの増加は、電流位相の低下をまねく(図2(b)
Figure 0003814826
には、電流位相の正接値と、有効電流と無効電流による電流比とは概ね等しい。従って、電流位相の低下は電流比の低下を引き起こし、やがて電流比偏差が負に転じる。電流偏差が負に転じると、電流ノルムの低減等、上記と逆の現象が誘発さる。こうした振動的ではあるが自動調整を行いながら、電流比偏差がゼロまたは平均的にゼロに収斂する。
電流比偏差のゼロ収斂は、上述の説明より明白なように、関連物理量である固定子電流の位相(電流位相)とノルムの収斂を意味する。収斂状態では、請求項の発明による作用の説明で述べたように、電流位相はその正接値が電流比設計パラメータK1νに概ね等しくなる。また、電流ノルムは、電動機への負荷に応じ、リミッタ付き積分器のリミッタ値の範囲内での最適値となる。以上説明した自動調整の妥当性は、実験的にも明らかにする(後掲の図12を参照)。
適切な収斂を達成するには、電流比設計パラメータはもとより、ローパスフィルタ、積分器に付随した積分ゲインおよびリミッタを適切に選定する必要がある。次にこれらの選定指針を説明する。有効電流と無効電流の絶対値比の収斂値を定める電流比設計パラメータ
Figure 0003814826
度を想定するならば、次式が一応の設計の目安となる。
Figure 0003814826
固定子電流等に含まれる高調波成分等を除去し、電流指令の不要な振動を除去するためのローパスフィルタは、簡単には、所要の帯域ωを持った次の1次ローパスフィルタでよい。
Figure 0003814826
ローパスフィルタの帯域選定の一応の目安は、以下ようなものである。
Figure 0003814826
電流指令値ノルムの収斂速度を調整するための積分ゲインKは、積分器の入力を一定値1とすると積分器出力は1/K(s)後に1に到達することを参考に、選定する。積分ゲインK選定の一応の目安は、以下の通りである。
Figure 0003814826
積分器に付随したリミッタの上限Imax>0は、起動時に必要とされる最大電流値または定格値を選定するようにすればよい。リミッタの下限値Imin>0は、所期の最高速度での定常運転に必要と推測される電流値、不明の場合は正の微小値を選定すればよい。
電流指令の決定には、(11)式に明示しているように、電流指令のノルム値に加えて、指令の第1成分と第2成分に比を決定しなければならない。この比は、指令値位相θの選定を介して、決定される。本選定は、請求項の発明に基づいて行なわれている。すなわち、電流指令の第1成分と第2成分の比が、フィードバック制御された固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比、あるいはこの推定値、あるいは指定した電流比になるように選定されている。これまでの説明より既に明白なように、応答電流比、この推定値、設計パラメータK1νで指定された電流比の3者は、電流比偏差がゼロに収斂した状態では、実質的に同一となる。
本事実を考慮すると、請求項の発明に基づく、指令値位相の第1の合理的選択は次の(17)式となる。
Figure 0003814826
この場合には、請求項の発明の作用に関する説明で述べたように、制御座標位相は回転子位相の良好な推定値を与える(図3参照)。具体的には、
Figure 0003814826
請求項の発明に基づく、指令値位相の第2の合理的選択は、次の(19)式のものである。
Figure 0003814826
この場合にも、請求項の発明の作用に関する説明で述べたように、制御座標位相は回転子位相の良好な推定値を与える(図3参照)。具体的には、
Figure 0003814826
電動機への負荷が力行負荷に限定される場合には、電動機の正転・逆転に応じて、(17)、(19)式を使い分けるようにすれば、(18)、(20)式が明示しているように、制御位相は、回転子位相の良好な推定値となる。
図6に、(11)、(12)式に基づく指令生成器をブロック図として描画した。同図では、電流比設計パラメータは内部設定する形で表現している。9.1はローパスフィルタを、9.2は積分ゲイン及びリミッタを伴った積分器を、9.3は、指令値位相の余弦正弦値からなるベクトルゲインを各々示している。また電流指令に加えて、電流比偏差を出力するようにしている。出力した電流比偏差は、前述した位相生成器に利用される(図5参照)。
請求項2、請求項3の発明による指令生成器の構成は図4、図6に限定されるものでないことを指摘しておく。例えば、電流指令のノルム値の生成は、(12)式に限定されるものではない。(12)式は、次の(21)、(22)式のように近似実現することも可能である。
Figure 0003814826
Figure 0003814826
(21)、(22)のおける設計パラメータK1vは、有効電流と無効電流とによる電流比を指定する設計パラメータであることは、(6)、(12)式と変わりない。(21)、(22)を利用する場合にも、電流比設計パラメータを含む偏差がゼロになるように、固定子電流指令のノルム等が調整される。換言するならば、固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比が電流比設計パラメータに収斂するようになる。
図4、図5、図6を用いた実施形態例では、指令生成器に、制御座標系上の固定子電流と電圧指令を入力する例を示した。(6)式から理解されるように、これら入力信号は、有効電力と無効電力(あるいは、有効電流と無効電流)を算出するために使用されており、固定座標系上あるいは三相レベルの信号に差し換えて、何ら問題ないことを指摘しておく。また、電圧指令値は、電圧実測値の推定値として利用しているので、実測値を採用することがむしろ好ましいことも指摘しておく。
図4を用いた実施形態例では、ベクトル回転器と相変換器を別々に構成した。ベクトル回転器は、相変換器に内蔵させることも可能であることを指摘しておく。ベクトル回転器をR(θ)、2/3相変換器をSとすると、内蔵の1例は次の(23)式のようなものである。
Figure 0003814826
電流指令のノルム値を(12)、(21)、(22)式の何れの方法によって、決定する場合にも、ゼロ速を含む微速域では、電流比は電流比設計パラメータK1vに収斂しないので注意されたい。微速域では、一般に印加電力は殆んど有効電力であるので、本領域ではK1vの合理的選定にも拘わらず、積分作用により電流指令ノルムは増加の一途をたどり、電流指令ノルムはリミッタに設定された上限値を取ることになる。従って、起動時に数秒程度、ゼロ速指令を指令する場合には、図2(b)に明示した特性により、電流位相θidは小さくなり、電流ベクトルは概ねd軸方向を向くことになる。従って、本発明による駆動装置は、ゼロ速を含む微速域では、指定した最大電流で駆動を行い、ある速度以上から摩擦等の負荷に応じた電流レベルの自動低減を行なう。一般に、摩擦は、ゼロ速および微速で大きく、速度上昇に応じて一時減少したのちに増加すると言う特性を有する。本発明による電流ノルム特性は、本摩擦特性に適合した好特性である。本発明によれば、本特性に加え、駆動初期より常時行われているフィードバック電流制御により過電流の恐れなく、初期駆動の負荷が定格の約50%以下であれば、問題なく同期電動機を起動できる。
電流比設計パラメータの合理的設計指針は(13)式の通りであるが、指針以外の値が選定できないわけではない。仮にK1v=0を選定すると、(6)式より電流比偏差は常時正ε>0となる。この結果、(12)式により、電流指令のノルム値は増加の一途を辿り、リミッタで設定した上限値(一定値)をとることになる。こうしたノルム一定の電流指令では、(1)式及び図3の関係を期待することはできない。しかし、図2(a)の特性は維持される。
図4、図5、図6に示した実施形態例に従って行なった実機実験による結果の1例を紹介する。実験システムの様子を図7に示す。供試同期電動機としては、回転子に回転子磁束発生源を有する同期電動機の中でも近年利用が特に進んでいる永久磁石形同期電動機とした。供試電動機((株)安川電機製400(W)、SST4−20P4AEA−L)の仕様概要を表1に示す。本供試電動機は、実効4096(p/r)のエンコーダが装着されているが、これは回転子の位相・速度を計測するためのものであり、制御には利用されていない。供試電動機の負荷としては、東洋電機製造(株)製の3.7(kW)直流電動機(DK2114V−A02A−D01)を、トルクセンサを介して接続し、無通電状態で利用した。本電動機は、供試同期電動機に比し約53倍の慣性モーメントJ=0.085(kgm)を有し、その静止摩擦トルクは、供試同期電動機の定格トルクの約50%であことが事前のトルクセンサを利用した試験で確認されている。すなわち、停止状態からのセンサレス駆動を想定した400(W)供試同期電動機の負荷としては、十分に大きいものである。
Figure 0003814826
上記の負荷状態でゼロ速から起動し、到達すべき最高速度は定格速度の約20%である40(rad/s)とする。周波数ハイブリッドを考えた場合、定格速度の約20%は、低速域の上限としては十分に高い値である。このための制御周期は1/8000(s)とし、フィードバック電流制御のための電流制御器は当業者が周知のPI制御器とし、この設計ループ帯域は2000(rad/s)とした。また、本発明の主要部分である指令生成器、位相生成器に関する各種設計パラメータは、前述の設計指針に従い、以下のように定めた。
電流比 K1v=1.0
ローパスフィルタ帯域 ω=0.5
積分ゲイン K=1.0
リミッタ上下限 Imax=3.2(rating),Imin=0.5
指令値位相 θ=tan−11v=π/4
デッドバンド b=30(electrical)
最初に、制御座標系の速度生成に関し、(3)式に示した電流比偏差を利用した補正を撤去した状態で、すなわち(4)式の補正ゲインK=0とした状態で、電流比偏差と速度偏差の応答特性を例示する。図8は、正回転時(平均+40(rad/s))の応答例である。信号
Figure 0003814826
また、時間軸は0.2(s/div)である。電流比偏差の増減に応じた速度偏差の上昇下降が、また電流比偏差と速度偏差の振動周期は同一であることが観察される。図9は、同一条件での逆回転時(平均−40(rad/s))の応答である。信号の意味は、図8と同一である。この場合も、電流比偏差の増減に応じた速度偏差の上昇・下降(負方向)、及び同一の振動周期が観察される。両図より、電流比偏差と速度偏差とは強い相関を有していることが確認される。
図8、図9の例では、電流比偏差と速度偏差との振動振幅はほぼ等しい。この点を考慮して、(4)式の補正ゲインをK=1.0と選定した場合の正回転時(平均+40(rad/s))の応答を図10に示す。信号の意味は、図8と同一である。速度偏差、電流比偏差の両者の振動は適切に抑制され、更には概ねゼロに制御されていることが確認される。また、電流レベルは、電流ノルムで‖i‖=0.87(A)へ低減していることも確認される。電流比偏差がゼロになっていることより理解されるように、本電流レベルは設計した電流比K1ν=1.0を確立する最小最適値であることを意味している。図8〜10により、特に請求項1、請求項2の発明に関するこれまでの説明の正等性が確認される。
図11に、図10に対応した制御座標位相の様子を示した。同図は、上から、制御座標位相θと回転子位相(d軸位相)θdα、電流ノルム、速度偏差、及び位相偏差である。時間軸は0.02(s/div)である。図より明白なように、位相偏差は、制御座標位相と回転子位相の両応答からはその値が視認困難な微少な約0.06(rad)である。これより、低速域における制御座標位相θは、高速域用の推定位相法との周波数ハイブリッド化のための回転子位相推定値としては、十分の精度を持ち得ることが確認される。従って、本発明は、少なくとも、図1(b)形式の周波数ハイブリッドのための低速域用センサレスベクトル制御方法として問題なく活用可能であると言える。本図より、特に、請求項2、請求項3の発明に関するこれまでの説明の正等性が確認される。
位相偏差の低減には、電流レベルの制御が不可欠である。図12は、指令生成器による電流レベル制御の過渡応答を示したものである。同図は、上から、制御座標位相と回転子位相、位相偏差θ−θdα、電流ノルム、U相電流である。時間軸は0.2(s/div)である。本図より、電流レベルの最適値へ向かった低減の様子、さららに電流レベルの低減に応じた位相偏差の低減の様子が確認される。本図は、請求項の発明に関するこれまでの説明の正等性を実証するものである。
本発明による他の実施形態例を図13に示した。本発明は、固定子電流フィードバック制御には、ベクトル回転器またはベクトル回転器を内蔵した相変換器を少なくとも利用することを要件としている。図4の実施形態例は、ベクトル回転器および相変換器をフィードバックループ内に設置した1例である。一方、図13の実施形態例は、ベクトル回転器および相変換器をフィードバックループ内から取り除き、代わって、フィードバックループ外にこれを設置している1例である。図13では、フィードバック制御のための電流偏差生成に使用される電流指令は3x1ベクトルであるが、指令生成器9の出力でありかつベクトル回転器5bへの入力である電流指令は2x1ベクトルである。すなわち、本実施形態例では、2x1ベクトルおよび3x1ベクトルの電流指令が使用されている。2x1ベクトルの電流指令には請求項3の発明が無理なく適用可能である。指令生成器の出力信号である電流指令は2x1ベクトルであるが、指令生成器への入力信号である固定子電流、電圧指令は3x1ベクトルである点には、注意されたい。本実施形態例においても、(1)〜(23)式は、変更の要なくそのまま成立する。また、これら数式を用いた議論、説明も、基本的には、同様に成立する。
発明の効果
以上の説明より明白なように、本発明は以下の効果を奏する。
特に、請求項1の発明によれば、電気角速度指令の積分値あるいはこれと等価な信号をベクトル回転器等に利用する場合に発生しがちな乱調を抑制することができると言う作用が得られた。本作用の結果、請求項1の発明によれば、簡単であり、所要の演算負担は軽く 、また精度の高い電動機パラメータを必要とせず、汎用性が高く、負荷特性に関する詳細 な事前知識を必要としないにも拘わらず、過電流を防止した上で、定格負荷の約50%以 下の負荷であれば、同期電動機をゼロ速から起動でき、更には少なくとも低速域の上限ま では駆動できると言う制御特性を、乱調のない安定的な形で生成できるようになると言う効果が得られる。
特に、請求項2の発明によれば、固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比を通じて、速度がある程度大きい駆動領域では、駆動システムの安定性と効率とを支配する固定子電流のq軸成分とd軸成分との比を実質的に制御することができるようになると言う作用が得られた。本作用の結果、請求項2の発明によれば、駆動システムの安定性と効率とを同時に考慮した最適な電流レベルで、電動機を駆動することができるようになると言う効果が得られる。
請求項の発明によれば、ある速度以上の駆動では、制御座標位相が回転子位相の良好な推定値となると言う作用が得られた。本作用の結果、請求項の発明によれば、請求項の発明によるベクトル制御方法が、少なくとも、図1(b)形式の周波数ハイブリッドのための低速域用センサレスベクトル制御方法として問題なく活用可能になると言う効果が得られる。
以上の効果は、多数の図を用いた実施形態例の説明の中で、実験的にも実証した通りである。
推定位相の周波数的加重平均の代表的2例を概略的に表現した図 本発明による固定子電流の特性を概略的に表現した図 本発明による電流等の各種位相の関係を概略的に表現した図 1実施形態例に係わるベクトル制御装置の基本構成を示すブロック図 同ベクトル制御装置における位相生成器の1実施形態例を示すブロック図 同ベクトル制御装置における指令生成器の1実施形態例を示すブロック図 ベクトル制御装置の応答検証に使用した実験システム概観を示す写真 1実施形態例におけるベクトル制御装置の実機応答例を示す図 1実施形態例におけるベクトル制御装置の実機応答例を示す図 1実施形態例におけるベクトル制御装置の実機応答例を示す図 1実施形態例におけるベクトル制御装置の実機応答例を示す図 1実施形態例におけるベクトル制御装置の実機応答例を示す図 1実施形態例に係わるベクトル制御装置の基本構成を示すブロック図
符号の説明
1 同期電動機
2 電力変換器
3 電流検出器
4a 3/2相変換器
4b 2/3相変換器
5a ベクトル回転器
5b ベクトル回転器
6 余弦正弦信号発生器
7 電流制御器
8 位相生成器
9 指令生成器
9.1 ローパスフィルタ
9.2 積分器
9.3 ベクトルゲイン

Claims (3)

  1. 2x1ベクトル信号を回転させるためのベクトル回転器またはベクトル回転器を内蔵した 相変換器を少なくとも利用して、かつフィードバック電流制御器の出力信号を主たる信号 として用いて電圧指令を生成して、ベクトル信号である電流指令に追従するように固定子 電流をフィードバック制御する工程と、ベクトル回転器またはベクトル回転器を内蔵した 相変換器に利用する位相を決定する工程とを有し、該位相の決定工程において、電気角速 度指令の積分値あるいはこれと等価な信号を該位相の少なくとも主要な一部として使用し て該位相を決定する、同期電動機の位置センサレスなベクトル制御方法であって、
    該位相の決定工程において、電気角速度指令の積分値あるいはこれと等価な信号と共に、フィードバック制御された固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比、あるいはこの推定値、あるいはこれらと等価な物理量比を位相補正源信号として使用して、該位相を決定することを特徴とする同期電動機のベクトル制御方法。
  2. 2x1ベクトル信号を回転させるためのベクトル回転器またはベクトル回転器を内蔵した 相変換器を少なくとも利用して、かつフィードバック電流制御器の出力信号を主たる信号 として用いて電圧指令を生成して、ベクトル信号である電流指令に追従するように固定子 電流をフィードバック制御する工程と、ベクトル回転器またはベクトル回転器を内蔵した 相変換器に利用する位相を決定する工程とを有し、該位相の決定工程において、電気角速 度指令の積分値あるいはこれと等価な信号を該位相の少なくとも主要な一部として使用し て該位相を決定する、同期電動機の位置センサレスなベクトル制御方法であって、
    該フィードバック制御工程において、フィードバック制御された固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比、あるいはこの推定値、あるいはこれらと等価な物理量比が、指定した電流比になるように、ベクトル信号である該電流指令のノルムを調整するようにしたことを特徴とする同期電動機のベクトル制御方法。
  3. 該電流指令を2x1のベクトル信号として表現した場合、その第1成分と第2成分の比が、フィードバック制御された固定子電流の有効電流と無効電流による応答電流比、あるいはこの推定値、あるいは指定した電流比と等しくなるように該電流指令を定めるようにしたことを特徴とする請求項記載の同期電動機のベクトル制御方法。
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