JP4031578B2 - 有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、有底円筒状セラミックスの製造方法に関する。焼成時に発生する円筒の反りや真円度不良を低減し、寸法精度に優れた円筒状セラミックスを量産するのに好適である。例えば、ナトリウム硫黄電池に用いられるベータアルミナ等からなる固体電解質管状体の製造方法等に適用可能である。
【0002】
【従来の技術】
セラミックスは高強度、耐摩耗性、耐食性といった構造材料としての特性に優れ、従来の金属材料では使用できない高温環境下でも使用できるため、様々な分野で構造材料としての適用が検討されている。また、構造材料特性以外にも、イオン導電性を有する材料を用いて、電池用の固体電解質やセンサー等の素子への適用も種々検討されている。
【0003】
これらの分野にセラミックス材料を適用する場合、上記特性以外で問題になるのは、セラミックスの焼き上げ寸法精度である。本発明が対象とする筒状セラミックス焼結体は、形状的には単純ではあるが、焼き上げ寸法にて要求される形状精度を出すことは意外と困難なことである。これは、焼成収縮に伴い発生する、反りや歪みが原因である。たとえば、円筒状のセラミックス焼結体は、保護管、焼成容器等の耐火物、あるいはナトリウム硫黄電池に用いられる固体電解質管状体などに用いられるものであるが、これらの用途で要求される真円度、反りといった円筒としての形状精度を出すことはかなり困難である。近年、これらの用途分野では実用化に向けて盛んな開発が行われており、それに伴い、焼結体の寸法の大型化への要求が更に高まってきている。
【0004】
一般に、円筒状のセラミックス焼結体を製造する場合、機械的あるいは電気的特性以外に、その真円度や反りといった寸法精度が品質を左右することになる。しかし、上記の用途分野で要求される大型の製品では、焼成時に反りや歪みが発生しやすく、歩留まりの向上が困難であった。このため、製品のコスト低減が図られず、セラミックス部品の利用拡大の障害の一つとなっていた。
【0005】
これらの問題を解決するために、種々の治具を用いて吊るして焼成する方法が、特開平3−88279号公報や特開平7−232957号公報に開示されているが、成形体の治具への配置方法が複雑であり、量産には向いていないという問題があった。また、有底円筒状のベータアルミナ焼結体の焼成方法として、成形体の開口端を下方から支持する方法が特開平3−88278号公報に開示されている。しかし、この方法では円筒の有底部は何ら治具等で支持されておらず、焼成収縮時に傾きを生じて真円度が悪化する場合があり、寸法精度の厳しい製品の焼成方法には適用できないといった問題があった。
また、有底円筒状焼結体の開口端部の変形の発生を防止する方法としては、開口端部にテーパー部を設けて厚肉にする方法が特公平7−61905号公報に開示されているが、この方法では、近年特に要求の高い大型薄肉タイプの有底円筒状焼結体の反りや開口端部以外の変形を防止することが困難となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の従来の諸問題を解決するものであり、簡便な手法により形状精度に優れた有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法を提供することを目的とする。特には、真円度が高く、反りが少なく、寸法精度に優れた有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法として好適である。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、有底円筒状のセラミックス成形体を円柱状の芯材に緩挿した状態で焼成する有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法であって、有底円筒状のセラミックス成形体を、その開口部を下向きに倒立した状態で焼成する場合において、
有底円筒状のセラミックス成形体を円柱状の芯材に緩挿する工程と、
焼結可能な温度において、上記成形体の円筒内壁面の少なくとも一部が上記芯材に内接、把持したセラミックス焼結体を得る工程と、
上記焼結可能な温度から降温する過程において、上記焼結体による上記芯材への把持を実質的に開放する工程と、
上記降温後の焼結体を上記芯材から抜脱する工程と、を備え、
上記芯材の焼結後の熱膨張係数が上記焼結体の熱膨張係数以上であって、上記芯材がセラミックス成形体またはセラミック仮焼体を用いることを要旨とする。
【0008】
有底円筒状のセラミックス成形体を円柱状の芯材に緩挿した状態で焼成すれば、当該芯材により焼成収縮時に発生するセラミックス焼結体の反りや変形が矯正可能なため、有底円筒状のセラミックス焼結体の製造歩留まりを向上することができる。しかし、有底円筒状のセラミックス成形体の円筒内に設置する芯材を、焼結体あるいは耐熱製金属等の焼成収縮しない材質で形成した場合、焼成前の段階では有底円筒状のセラミックス成形体と芯材との間には当該成形体の焼成収縮分の隙間が存在することになる。セラミックス成形体の焼成収縮率は一般的には約20%前後であるが、この焼成収縮分に該当する隙間が生じた状態で、炉床が可動する連続式焼成炉もしくは炉床昇降型のバッチ炉を用いて焼成を行った場合、炉床移動時の揺れや振動により当該成形体と芯材とが接触・干渉し、その結果、焼成体にクラック等の欠陥を生ずる場合がある。
【0009】
ところが本発明のように、焼成時に有底円筒状のセラミックス成形体と同様に焼成収縮していくセラミックス成形体からなる芯材を用いれば、焼成当初から上記隙間が少ない状態が得られる。従って、上述したような炉床移動時の揺れや振動により当該成形体と芯材とが接触・干渉といった現象を効果的に抑制でき、その結果、有底円筒状のセラミックス焼結体の製造歩留まりをより向上することができる。
【0010】
本発明にいう「有底円筒状」とは、その断面形状が真円、楕円、規則的な変形を伴う変形円または不規則的な変形を伴う変形円等からなる一切の円筒状を含んだ形状をもいう。
本発明では、上記芯材の焼結後の熱膨張係数を上記焼結体の熱膨張係数よりも大きいものを用いる。かかる構成によれば、焼成収縮によって発生する成形体の円筒内壁面による芯材への把持が、冷却過程において容易に開放できるようになり、焼結体の芯材へのかみ込みを効果的に防止できる。これは、熱膨張係数がより大きい芯材の方が、冷却過程で焼結体よりもより多く収縮する性質を利用したものである。
尚、焼結後の芯材と焼結体の熱膨張係数の差としては、1.0×10−6/℃以上であることが望ましい。
【0012】
長尺の有底円筒状のセラミックス成形体を焼成する際に、【0008】に記載の方法を用いて長尺のセラミックス成形体を芯材として使用した場合には、焼成過程での振動、揺れ等の影響を受けて芯材そのものから変形してしまう場合がある。
そこで、本発明では、セラミックス成形体からなる芯材を仮焼した、いわゆるセラミックス仮焼体を芯材として用いることで、焼成過程で長尺の芯材そのものが変形しないようにした。
【0013】
セラミックス仮焼体からなる芯材の最終的な収縮率は、有底円筒状のセラミックス成形体の収縮率にあわせて設定されるので、焼成当初から芯材と成形体の隙間が少ない状態が得られる。従って、上述したような炉床移動時の揺れや振動により当該成形体と芯材とが接触・干渉といった現象を効果的に抑制でき、その結果、有底円筒状のセラミックス焼結体の製造歩留まりをより向上することができる。
芯材にセラミック仮焼体を用いる場合は、特には長尺の有底円筒状のセラミックス成形体の製品歩留まり向上に効果的である。
【0015】
本発明の製造方法は、有底円筒状のセラミックス成形体を、該有底面を上にした状態で芯材に被せて倒立させた状態で焼成することで、上記成形体の焼成過程で発生する焼結体の反りや変形を芯材によって矯正して、反りや真円度に優れた円筒状セラミックス焼結体を容易に量産できるようにするものである。
【0016】
上記成形体は、焼成収縮の過程において、その円筒内壁面が上記芯材に内接、把持することになり、その結果、焼結体の反りや変形の発生が抑制される。焼成後は、冷却過程に発生する熱膨張・収縮差を利用することで、円筒内壁面の芯材への内接、把持を実質的に開放し、容易に上記焼結体を芯材から抜脱することができる。ちなみに、請求項1乃至請求項3に記載の発明においていう「実質的に開放」とは、焼成後の焼結体が芯材をかみ込むことなく抜脱できる程度の状態になることをいう。
【0017】
請求項2に記載の発明は、有底円筒状のセラミックス成形体を円柱状の芯材に緩挿した状態で焼成する有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法であって、有底円筒状のセラミックス成形体を、その開口部を下向きに倒立した状態で焼成する場合において、
有底円筒状のセラミックス成形体を、その開口部から有底部の内壁面までの距離よりも短い円柱状の芯材に緩挿し、且つ、その開口部を下向きにして該成形体を倒立せしめる工程と、
焼結可能な温度に昇温する過程において、上記成形体の有底部の内壁面側の少なくとも一部を上記芯材の端部に当接せしめて懸架した中間焼成体を形成する工程と、
上記焼結可能な温度において、上記中間焼成体の円筒内壁面の少なくとも一部を上記芯材に内接、把持したセラミックス焼結体を得る工程と、
上記焼結可能な温度から降温する過程において、上記焼結体の有底部の少なくとも一部を上記芯材の端部に当接せしめて懸架した状態を保持したまま、上記焼結体による上記芯材への把持を実質的に開放する工程と、
上記降温後の焼結体を上記芯材から抜脱する工程と、を備え、
上記芯材の焼結後の熱膨張係数が上記焼結体の熱膨張係数以上であって、上記芯材がセラミックス成形体またはセラミック仮焼体を用いることを要旨とする。
【0018】
本発明の製造方法は、有底円筒状のセラミックス成形体を、該有底面を上にした状態で芯材に被せて倒立させた状態で焼成することで、上記成形体の焼成過程で発生する焼結体の反りや変形を芯材によって矯正して、反りや真円度に優れた円筒状セラミックス焼結体を容易に量産できるようにするものである。本発明では、図1に示すように、芯材3の長さを成形体4の開口部から有底面の円筒内側までの距離よりも短く、且つ、芯材を用いずに焼成した円筒状セラミックス焼結体の開口部から有底面の円筒内側までの距離よりも長く設定することが重要である。
【0019】
焼成収縮初期の状態では、図1に示すように、有底面を芯材3からフリーにしておき、芯材3が当たることで発生する有底面や有底面近傍の変形の発生を抑制する。そして、有底面が芯材に当たっても変形を起さない程度に焼成した段階になってから、焼成収縮により該有底面に芯材3があたって製品を懸架する状態にして、次いで、円筒の反りや真円度を芯材によって矯正していくのである。本発明の製造方法は、変形しやすい大型薄肉タイプの有底円筒状セラミックス焼結体を製造するのに好適である。
【0020】
請求項3に記載の発明は、有底円筒状のセラミックス成形体を円柱状の芯材に緩挿した状態で焼成する有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法であって、有底円筒状のセラミックス成形体を、その開口部を下向きに倒立した状態で焼成する場合において、
有底円筒状のセラミックス成形体を、その開口部から有底部の内壁面までの距離よりも長い円柱状の芯材に緩挿し、且つ、上記成形体の有底部の内壁面側の少なくとも一部を上記芯材の端部に当接せしめて該成形体を倒立、懸架せしめる工程と、
焼結可能な温度に昇温する過程において、上記成形体の円筒内壁面の少なくとも一部が上記芯材に内接、把持したセラミックス焼結体を得る工程と、
上記焼結可能な温度から降温する過程において、上記焼結体の有底部の少なくとも一部を上記芯材の端部に当接せしめて懸架した状態を保持したまま、上記焼結体による上記芯材への把持を実質的に開放する工程と、
上記降温後の焼結体を上記芯材から抜脱する工程と、を備え、
上記芯材の焼結後の熱膨張係数が上記焼結体の熱膨張係数以上であって、上記芯材がセラミックス成形体またはセラミック仮焼体を用いることを要旨とする。
範囲規定をしたものである。
【0021】
本発明の製造方法は、有底円筒状のセラミックス成形体を、該有底面を上にした状態で芯材に被せて倒立させた状態で焼成することで、上記成形体の焼成過程で発生する焼結体の反りや変形を芯材によって矯正して、反りや真円度に優れた円筒状セラミックス焼結体を容易に量産できるようにするものである。本発明では、図2に示すように、芯材33の長さを上記成形体の開口部から有底面の円筒内側までの距離よりも長く設定する。こうして焼成収縮初期の状態から有底面を芯材11に当てて成形体を懸架した状態で焼成することで、円筒の反りや真円度を芯材によって矯正していくのである。
【0022】
本発明の製造方法は、重量があって変形しやすい大型の有底円筒状セラミックス焼結体を製造するには不向きであるが、自重で有底面や有底面近傍に変形が発生しにくい比較的軽量の中〜小型の有底円筒状セラミックス焼結体を製造するに好適である。
【0023】
請求項4に記載の発明は、有底円筒状のセラミックス成形体を、その開口部を下向きに倒立した状態で焼成する有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法であって、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法であって、
設定寸法値として、上記成形体の径方向の割りかけ値がD、上記成形体の内径がP(単位:mm)、上記芯材の径方向の割りかけ値がE、上記芯材の外径がQ(単位:mm)である場合において、
上記設定寸法値を以下の関係式を満たすように設定することを要旨とし、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法の具体的な寸法設定について範囲規定をしたものである。
[(Q/E)/(P/D)]≧1
【0024】
本関係式が意味する本発明の構成は、被焼成物と共に焼成収縮した後の芯材の外形寸法であるQ/Eを、芯材を用いないで得られる焼結体の内径寸法であるP/Dと同等あるいはそれ以上になるように各寸法値及び割りかけ値を設定することである。本発明の製造方法を持ちいれば、有底円筒状のセラミックス焼結体が焼成収縮に伴って芯材に実質的に密着した状態となって変形等を矯正するので、有底円筒状のセラミックス焼結体の形状精度を向上することができる。
【0025】
本発明でいう「割りかけ値」とは、成形体から焼結体への焼成収縮率をTとしたとき、以下の数式1によって算出される値をいう。また、芯材についての「割かけ値」とは、芯材の成形体あるいは仮焼体の状態からの焼成収縮率をTとしたとき、以下の数式1によって算出される値をいう。例を挙げて説明すると、成形体の寸法が1.2であり、それを焼成して得られた焼結体の寸法が1であるとき、「成形体の割りかけ値が1.2」であるという。これは以下の請求項5に記載の発明についても同様である。
【0026】
【数1】
割りかけ値=1/(1−T)
【0027】
ところで、最終的な芯材の外形が、同じく最終的な焼結体の内径と同等あるいはそれ以上に設定すると、焼結体が割れてしまうと考えられがちであるが、本発明では芯材の熱膨張係数が焼結体の熱膨張係数よりも大きい芯材を用いているため、冷却過程で芯材の方が焼結体よりも大きく収縮することで焼結体と芯材との接触が実質的に開放され、焼結体の割れを防止できるのである。
尚、最終的に得られる芯材と焼結体との熱膨張係数の差としては、1.0×10−6/℃以上であることが好ましい。
【0028】
請求項5に記載の発明は、有底円筒状のセラミックス成形体を、その開口部を下向きに倒立した状態で焼成する有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法であって、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法であって、
設定寸法値として、上記成形体の径方向の割りかけ値がD、上記成形体の内径がP(単位:mm)、上記成形体の長さ方向の割りかけ値がW、上記成形体の開口端部から円筒内側有底面までの距離がM(単位:mm)、上記芯材の径方向の割りかけ値がE、上記芯材の外径がQ(単位:mm)、上記芯材の長さ方向の割りかけ値がY、上記芯材の長さがN(単位:mm)である場合において、
上記設定寸法値を以下の関係式を満たすように設定することを要旨とし、請求項4に記載の有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法の具体的な寸法設定についてより好ましい範囲規定をしたものである。
【0029】
本発明の関係式の意味するところは、焼成過程にある有底円筒状セラミックス焼結体の有底面に芯材との接触に耐え得るに十分な強度が生じた後に、まず該有底面が芯材と接触、懸架され、これと同時またはその後に円筒側面の内壁面と芯材とが接触、把持する、ということである。係る構成によって、有底面近傍の変形やクラックのない有底円筒状のセラミックス焼結体が得られる。
【0030】
【実施例】
以下に、実施例によって本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)ベータアルミナ質有底円筒状セラミックス成形体の製作
原料粉末には、純度99.9%のα−アルミナ粉末、試薬1級品の炭酸ナトリウムおよび炭酸リチウムを用いた。これらの原料粉末を、酸化アルミニウム、酸化ナトリウムおよび酸化リチウムに換算したときの重量部で、それぞれ90.4%、8.85%および0.75%となるように混合した。この混合物を1250℃で10時間仮焼した後、振動ミルで粉砕しベータアルミナ質の原料粉末を得た。得られた原料粉末をバインダーと共に水溶媒で所定量混合してスラリとし、スプレードライ法にて造粒粉末を調製した。この造粒粉末をCIP(冷間静水圧プレス法)により所定寸法の有底円筒状に成形し、円筒内長さ490mm×円筒内径48mm×肉厚2.0mmの有底円筒状の成形体を得た。尚、本成形体は、芯材を用いずに焼成した場合における長さ方向の割りかけ値Wが1.225、径方向の割りかけ値が1.200になるように調整されている。
【0031】
(2)セラミックス成形体からなる芯材の製作
芯材の原料には、純度99%、平均粒径2.5μmのマグネシア粉末を用いた。上記マグネシア粉末は、バインダー、分散剤と共に水溶媒で混合してスラリーとした後、スプレードライ造粒法で造粒粉末を得た。この造粒粉末をCIP(冷間静水圧プレス法)により4種類の圧力にて略円筒状に成形した後、NC旋盤を用いて表1に示す所定の寸法形状を有する芯材の成形体を得た。尚、表1には明記していないが、これらの芯材には外径55mm×厚み10mmの土台部分が一体に形成されている。また、本実施例では円柱状の芯材を用いているが、内部に空間を有する円筒もしくは有底円筒の芯材であっても同様の効果が得られる。
ここで成形圧力を4種類振っている理由は、成形圧力を変化させることで成形体中のマグネシア粉末の充填密度を変化させて焼成収縮量、すなわち割りかけ値の条件を振るためである。
【0032】
(3)セラミックス仮焼体からなる芯材の製作
表2に示した寸法を有する芯材の成形体を、(2)と同様の方法で製作した。これらの芯材を、1000℃×30分保持の条件で仮焼成し、セラミックス仮焼体からなる芯材を得た。この芯材は仮焼によって若干の収縮が起こっているが、成形体より強度が高まっており、成形体よりも取り扱い性が良好であった。
尚、本実施例では、成形体をNC旋盤で研削加工した後に仮焼した芯材を用いているが、仮焼体を研削加工して寸法だしをした芯材を用いてもよい。かかる芯材は、肉厚が極端に薄い等の寸法的な制限の高い有底円筒状セラミックス成形体を焼成する際に有用である。
【0033】
(4)ベータアルミナ質有底円筒状セラミックス焼結体の製作
焼成に用いた芯材と焼成ケースの組み合わせは以下の3種類である。
1.芯材(マグネシア質成形体)+有底型焼成ケース(マグネシア質焼結体)
マグネシア質成形体からなる芯材は、表1に示したa〜hの8種類を用いた。マグネシア質焼結体(純度99%、熱膨張係数は、13.5×10−6/℃(20〜1000℃))からなる有底型焼成ケースの寸法は、長さ550mm×内径70mm×肉厚3mmとした。尚、上記芯材は、上記焼成ケースと同一の材質からなる外径76mm×厚さ5mmの円板上セッター上に土台部分を下にして設置した。
ベータアルミナ質焼結体に用いる芯材の材質には、耐熱性、非化学的反応性、熱膨張係数の差といった要因を鑑みると、上記に例示したような純度99%以上のマグネシアセラミックスを用いるのが最適である。特には、平均粒径が20μm以上の高純度マグネシアセラミックスを用いれば、焼成過程で発生する酸化ナトリウムの蒸気に対して優れた耐蝕性を発揮する。マグネシアセラミックス以外には、アルミナ、ジルコニア、スピネル等の緻密なセラミックス成形体を用いることができる。
【0034】
2.芯材(マグネシア質仮焼体)+有底型焼成ケース(マグネシア質焼結体)
マグネシア質仮焼体からなる芯材は、表2に示したi〜pの8種類を用いた。マグネシア質焼結体(純度99%、熱膨張係数は、13.5×10−6/℃(20〜1000℃))からなる有底型焼成ケースの寸法は、長さ550mm×内径70mm×肉厚3mmとした。尚、上記芯材は、上記焼成ケースと同一の材質からなる外径76mm×厚さ5mmの円板上セッター上に土台部分を下にして設置した。
ベータアルミナ質焼結体に用いる芯材の材質には、耐熱性、非化学的反応性、熱膨張係数の差といった要因を鑑みると、上記に例示したような純度99%以上のマグネシアセラミックスを用いるのが最適である。特には、平均粒径が20μm以上の高純度マグネシアセラミックスを用いれば、焼成過程で発生する酸化ナトリウムの蒸気に対して優れた耐蝕性を発揮する。マグネシアセラミックス以外には、アルミナ、ジルコニア、スピネル等の緻密なセラミックス仮焼体を用いることができる。
【0035】
▲3▼.芯材無し+有底型焼成ケース(マグネシア質焼結体)+共素地セッター(ベータルミナ共素地)
有底型焼成ケースには、上記の(4)▲1▼及び(4)▲2▼に記載したものと同一のものを用いた。共素地セッターには、前記(1)で作製したベータアルミナ造粒粉末を円板状に成形して用いた。該セッターの寸法は、外径53mm×厚み4mmとした。
【0036】
前記(1)で製作した有底円筒状成形体を、上記(4)▲1▼〜▲3▼に記載した各条件で焼成を行った。(4)▲1▼及び(4)▲2▼での焼成ケース内への成形体のセット状態を図1及び図2に示した。すなわち、マグネシア質焼結体からなる円板状セッター1上に、成形体又は仮焼体からなる芯材3もしくは芯材33を配置した。次いで、これらの芯材に有底円筒状セラミックス成形体4を配置した。さらに、焼成ケース2を円板状セッター1に被せて、焼成ケース内への成形体のセットを完了した。また、上記(4)▲3▼での焼成ケースへの成形体のセット状態を図3に示した。すなわち、マグネシア質焼結体からなる円板状セッター1上に、共素地セッター5を配置した。次いで、該共素地セッター5上に有底円筒状セラミックス成形体4を配置した。さらに、焼成ケース2を円板状セッター1に被せて、焼成ケース内への成形体のセットを完了した。
【0037】
焼成条件は、最高温度で1600℃×30分保持とし、各条件ごとに50本ずつ焼成を行った。焼成後の芯材の熱膨張係数は、13.5×10−6/℃であった。得られたベータアルミナ質焼結体の熱膨張係数は、7.8×10−6/℃であった。芯材と焼結体の熱膨張係数は、JIS R 1618に従がって、20〜1000℃の範囲について測定した。
【0038】
(5)焼結体の反りの測定
得られた焼結体の反りは、以下のように測定した。すなわち、図4に示すように、焼結体7を基準となる水平板6上(以下、基準面という)に置いて接地させたとき、該基準面から円筒表面までの距離が最も遠い部位の距離dを測定し、dの焼結体の円筒長さLに対する割合(単位;%)を反り基準値として算出した。反りの評価は、50本の焼結体のうち、反り基準値が0.2%以下のものを80%以上含む設定条件を合格とした。結果を表1及び表2に併記した。
【0039】
(6)焼結体の真円度検査
表1の各条件にて得られた焼結体の真円度を、以下のように測定した。すなわち、得られた焼結体の開口端部の内径の最大値Rと最小値rを測定し、以下の数式2によって真円度TRを求めた。真円度の評価は、各条件ごとに焼成を行った50本の焼結体のうち、真円度が1%以下のものを80%以上含む条件を合格とし、「真円度合格率」として評価した。結果を表1及び表2に併記した。
【0040】
【数2】
TR=(R−r)/r
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1の試料番号1乃至試料番号9は、成形体からなる芯材を用いた場合の結果である。本発明の範囲内である試料番号1〜試料番号8では、反り合格率で92〜100%、真円度合格率で92〜100%と良好な結果を示した。有底円筒状成形体の円筒内長さよりも長い芯材を用いた場合(試料番号1〜試料番号4)と、短い芯材を用いた場合(試料番号5〜試料番号8)とでは、反り合格率や真円度合格率には大きな有意差は見られなかった。一方、芯材を用いない比較例である試料番号9では、反り合格率で58%、真円度合格率で72%と、ともに劣る結果となった。
【0044】
表2の試料番号10乃至試料番号17は、仮焼体からなる芯材を用いた場合の結果である。本発明の範囲内である試料番号10〜試料番号17では、反り合格率で94〜100%、真円度合格率で96〜100%と良好な結果を示した。有底円筒状成形体の円筒内長さよりも長い芯材を用いた場合(試料番号10〜試料番号13)と、短い芯材を用いた場合(試料番号14〜試料番号17)とでは、短い芯材を用いた場合(試料番号14〜試料番号17)の方が、反り合格率や真円度合格率の点で有利な効果が見受けられた。一方、芯材を用いない比較例である表1の試料番号9では、反り合格率で58%、真円度合格率で72%と、ともに劣る結果となった。
【0045】
【発明の効果】
本発明の有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法によれば、形状精度の優れた有底円筒状セラミックス焼結体を歩留まり良く量産することが可能となる。特には、炉床が可動する連続式焼成炉もしくは炉床昇降型のバッチ炉を用いて焼成を行った場合、炉床移動時の揺れや振動により当該成形体と芯材とが接触・干渉しにくくなり、焼成体にクラック等の欠陥を生ずることが抑制できる。本発明は、例えば、ナトリウム硫黄電池等に用いられるベータアルミナ等からなる固体電解質管状体の製造方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項4に記載の有底円筒状セラミック焼結体の焼成方法を示す説明図。
【図2】請求項5に記載の有底円筒状セラミック焼結体の焼成方法を示す説明図。
【図3】従来の有底円筒状セラミック焼結体の焼成方法を示す説明図。
【図4】有底円筒状セラミック焼結体の反りの測定方法を示す説明図。
【符号の説明】
1 焼成用セッター
2 焼成ケース
3 有底円筒状成形体の円筒内長さより短い芯材
33 有底円筒状成形体の円筒内長さより長い芯材
4 有底円筒状成形体
5 共素地セッター
Claims (5)
- 有底円筒状のセラミックス成形体を円柱状の芯材に緩挿した状態で焼成する有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法であって、有底円筒状のセラミックス成形体を、その開口部を下向きに倒立した状態で焼成する場合において、
有底円筒状のセラミックス成形体を円柱状の芯材に緩挿する工程と、
焼結可能な温度において、上記成形体の円筒内壁面の少なくとも一部が上記芯材に内接、把持したセラミックス焼結体を得る工程と、
上記焼結可能な温度から降温する過程において、上記焼結体による上記芯材への把持を実質的に開放する工程と、
上記降温後の焼結体を上記芯材から抜脱する工程と、を備え、
上記芯材の焼結後の熱膨張係数が上記焼結体の熱膨張係数以上であって、上記芯材がセラミックス成形体またはセラミック仮焼体からなることを特徴とする有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法。 - 有底円筒状のセラミックス成形体を円柱状の芯材に緩挿した状態で焼成する有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法であって、有底円筒状のセラミックス成形体を、その開口部を下向きに倒立した状態で焼成する場合において、
有底円筒状のセラミックス成形体を、その開口部から有底部の内壁面までの距離よりも短い円柱状の芯材に緩挿し、且つ、その開口部を下向きにして該成形体を倒立せしめる工程と、
焼結可能な温度に昇温する過程において、上記成形体の有底部の内壁面側の少なくとも一部を上記芯材の端部に当接せしめて懸架した中間焼成体を形成する工程と、
上記焼結可能な温度において、上記中間焼成体の円筒内壁面の少なくとも一部を上記芯材に内接、把持したセラミックス焼結体を得る工程と、
上記焼結可能な温度から降温する過程において、上記焼結体の有底部の少なくとも一部を上記芯材の端部に当接せしめて懸架した状態を保持したまま、上記焼結体による上記芯材への把持を実質的に開放する工程と、
上記降温後の焼結体を上記芯材から抜脱する工程と、を備え、
上記芯材の焼結後の熱膨張係数が上記焼結体の熱膨張係数以上であって、上記芯材がセラミックス成形体またはセラミック仮焼体からなることを特徴とする有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法。 - 有底円筒状のセラミックス成形体を円柱状の芯材に緩挿した状態で焼成する有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法であって、有底円筒状のセラミックス成形体を、その開口部を下向きに倒立した状態で焼成する場合において、
有底円筒状のセラミックス成形体を、その開口部から有底部の内壁面までの距離よりも長い円柱状の芯材に緩挿し、且つ、上記成形体の有底部の内壁面側の少なくとも一部を上記芯材の端部に当接せしめて該成形体を倒立、懸架せしめる工程と、
焼結可能な温度に昇温する過程において、上記成形体の円筒内壁面の少なくとも一部が上記芯材に内接、把持したセラミックス焼結体を得る工程と、
上記焼結可能な温度から降温する過程において、上記焼結体の有底部の少なくとも一部を上記芯材の端部に当接せしめて懸架した状態を保持したまま、上記焼結体による上記芯材への把持を実質的に開放する工程と、
上記降温後の焼結体を上記芯材から抜脱する工程と、を備え、
上記芯材の焼結後の熱膨張係数が上記焼結体の熱膨張係数以上であって、上記芯材がセラミックス成形体またはセラミック仮焼体からなることを特徴とする有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法。 - 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法であって、
設定寸法値として、上記成形体の径方向の割りかけ値がD、上記成形体の内径がP(単位:mm)、上記芯材の径方向の割りかけ値がE、上記芯材の外径がQ(単位:mm)である場合において、
上記設定寸法値を以下の関係式を満たすように設定することを特徴とする有底円筒状セラミック焼結体の製造方法。
[(Q/E)/(P/D)]≧1 - 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の有底円筒状セラミックス焼結体の製造方法であって、
設定寸法値として、上記成形体の径方向の割りかけ値がD、上記成形体の内径がP(単位:mm)、上記成形体の長さ方向の割りかけ値がW、上記成形体の開口端部から円筒内側有底面までの距離がM(単位:mm)、上記芯材の径方向の割りかけ値がE、上記芯材の外径がQ(単位:mm)、上記芯材の長さ方向の割りかけ値がY、上記芯材の長さがN(単位:mm)である場合において、
上記設定寸法値を以下の関係式を満たすように設定することを特徴とする有底円筒状セラミック焼結体の製造方法。
[(N/Y)/(M/W)]≧[(Q/E)/(P/D)]≧1
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