JP4029357B2 - 燃料電池用セパレ−タ、その製造方法及びそれを用いた燃料電池 - Google Patents
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Description
この要望に対し、電極部との接触抵抗を低減させたセパレ−タおよびその製造方法が提案されている(例えば特許文献1および特許文献2参照)。このセパレ−タは導電性材料と熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂との混合物を成形した後、セパレ−タ表面を研磨することにより特定の表面粗さのものに機械加工して、表面の接触抵抗を低減するものである。
しかしながら上記のセパレ−タは、電極部との接触抵抗がある程度改善されるが、十分ではなく、また親水性に関しては、表面が粗くなるため、濡れ性の悪い材料を用いると却って親水性を低下させることがある。
通常、生じた生成水は、陽極側に供給されている酸化ガス中に気化し、酸化ガスとともに燃料電池外に排出される。しかし、生じる生成水の量が多くなると、酸化ガス中に気化させるだけでは生成水を排出しきれなくなってしまう。このように酸化ガス中に気化されずに残った生成水が陽極の周辺で水滴になると、ガス流路が閉塞されて陽極周辺での酸化ガスの流れが妨げられて電池性能の低下につながってしまう。
このように燃料ガス中に加えられた水蒸気は、燃料電池の始動時や、燃料電池の運転温度が低下して飽和蒸気圧が下がった時等に、ガス流路において凝縮してしまうことがあり、この場合には、陽極側においてもガスの流路が閉塞されて燃料ガスの流れが妨げられて、電池性能の低下につながってしまう。
上記したように陰極反応で生じたプロトンは水和した状態で陽極側に移動する為、陽極側では、既述した生成水の他にプロトンの移動とともに持ち込まれる水分子も加わって、更に水が過剰な状態となり、ガス流路が閉塞され易くなる。このような閉塞現象は導電性材料と樹脂からなる燃料電池用セパレータにおいて顕著に見られる現象である。
既述した固体高分子型燃料電池は、電解質層として固体高分子膜を用い、この固体高分子膜を挟持する一対のガス拡散電極と、ガス拡散電極を更に外側から挟持して燃料ガスと酸化ガスとを分離するセパレ−タとを有する単セルを基本単位として、この単セルを複数個積層した構造を備えている。このような固体高分子型燃料電池では、上記したような親水処理は、セパレ−タに対して行われるが、その他ガス拡散電極に対しても行われる。
まず古くはガス流路の入り口または出口に気孔率が30〜80%の吸水性を有するポ−ラスなカ−ボン部材を備え付ける方法(例えば特許文献3参照)が提案されている。しかしこの方法で得られるセパレータは、時間の経過により親水性能が低下するという問題があり、また成形時あるいは成形後に吸水性部材を配設する複雑な工程を経なければならず、工程上の問題もあった。
また親水処理の方法として、燃料ガス流路表面と好ましくは酸化ガス流路表面にも種々の親水性樹脂、親水性の有機化合物及び無機化合物等により被膜あるいは塗膜を形成させる方法(例えば特許文献4及び特許文献5参照)が提案されている。しかしこれらの方法で得られるセパレ−タは、表面に絶縁性の膜を形成することになるため、導電性が著しく低下したり、あるいは膜からの溶出物により燃料電池の耐久性が低下する要因になっていた。
また親水処理方法として、各種素材からなる導電性セパレ−タ表面を、親水化ガス中で低温プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射等の処理を行うことにより親水性を付与する方法(例えば特許文献7参照)が提案されている。しかしこれらの方法による親水化は、時間とともにその効果が減少する性質があり、また真空中で親水化処理しなければならない場合もあり、工程上問題があった。
さらに処理用ガスとして硫黄元素含有化合物等を用いて常圧放電プラズマ処理することにより、表面を親水化処理する方法(例えば特許文献8参照)が提案されている。しかしこの提案では黒鉛製燃料電池セパレータに強い条件でプラズマ処理しており、このため、セパレータ表面の黒鉛が酸化して灰化し、導電性の低下や成型品形状の破損を引き起こし、セパレータとして使用に耐えなくなるという問題がある。
本発明は、溝部における水の濡れ性を改良した燃料電池用セパレータ及びその製造方法を提供することを目的としている。
すなわち、本発明は、樹脂と導電性材料とを構成成分として含み、硫酸含有ガス処理によりガス流路表面の少なくとも一部にスルホン酸基が付与された燃料電池用セパレータであって、前記セパレータのガス流路表面に存在する樹脂とスルホン酸基とが結合し、かつ前記スルホン酸基中の硫黄原子のガス流路表面での比率がエネルギー分散型X線分光法により測定される値で0.1〜4.0原子数%であることを特徴とする燃料電池用セパレータを提供するものである。また本発明は、燃料電池用セパレータのガス流路表面に存在する樹脂とスルホン酸基とが結合し、スルホン酸基中の硫黄原子のガス流路表面での比率がエネルギー分散型X線分光法による測定値で0.1〜4.0原子数%である燃料電池用セパレータの製造方法であって、樹脂と導電性材料とを含む導電性組成物を成形して得られる燃料電池用セパレータのガス流路表面に、硫酸含有ガスを接触させガス流路表面の少なくとも一部にスルホン酸基が付与させることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法を提供するものである。さらに前記燃料電池用セパレータを組み込んでなる燃料電地を提供するものである。
この親水化の程度は、セパレータ流路表面に存在するスルホン酸基中の硫黄原子の含有量に基づくものである。
スルホン酸基中の硫黄原子の量は、ガス流路表面での存在比率がエネルギー分散型X線分析法により測定される値で0.1〜4.0原子数%であり、このうち2.0〜4.0原子数%が好ましい。硫黄原子の量が0.1〜4.0原子数%であれば、親水性に優れ、しかもその効果を長期にわたって維持することができる。一方硫黄原子の量が4.0原子数%を越えて表面に存在する場合、必然的に処理条件が強くならざるを得ず、これにより成型品表面の粗さが増加したり、吸水率が増加したり、強度が低下する等、セパレータとしての物性が著しく低下する。
ガス流路表面の一部とは、主にガス流路表面の溝部をいい、その他の部分を含んでいてもよい。
スルホン酸基は、ガス流路表面に存在する樹脂と結合することによりセパレータに付与される。
スルホン酸基と樹脂との結合形態としては、共有結合、配位結合、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合等が挙げられる。これらの中、スルホン酸基が解離したり、脱離しにくい点から共有結合にて結合している状態が好ましい。
前記無水硫酸含有ガスとしては、前記セパレータに対する無水硫酸の割合を厳密に制御することができるため、不活性ガスにより希釈されたガス状の無水硫酸が好ましい。
スルホン酸基中の硫黄原子のガス流路表面での存在比率は、エネルギー分散型X線分析法により測定される値、具体的にはエネルギー分散型X線分析装置を用いて測定される数値に基づくものである。
このエネルギー分散型X線分析装置は、元素から発生するX線をエネルギー分散型の半導体検出器で分光分析するものである。
具体的な測定法としては、エネルギー分散型X線分析装置を用い、セパレータ表面を100倍の倍率で分析を行うことにより、電子線照射で発生する元素固有の特性X線を検出し、得られたスペクトルのピーク位置と強度とから元素を定性、定量するものである。
エネルギー分散型X線分析装置としては、例えばJSM−5900LV(日本電子株式会社製)が挙げられる。
またセパレータ表面のスルホン酸基は、X線光電子分光分析装置(ESCA)を用いて検出することができる。
不活性ガスにより希釈された無水硫酸は、無水硫酸(沸点44.8℃)をガス化させたものを空気、炭酸ガス、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスで希釈したものである。不活性ガスにより希釈された無水硫酸中の無水硫酸ガスの濃度は、特に制限はないが、0.1〜80体積%が好ましい。
前記無水硫酸含有ガスとしては、その他にガス状のルイス塩基と無水硫酸との混合物、及びガス状のルイス塩基と無水硫酸と前記不活性ガスとの混合物等を挙げることができる。
前記無水硫酸含有ガスにおける無水硫酸とルイス塩基とのモル比は、通常、材料または目的により自由に選ぶことができる。
具体的には、セパレータと無水硫酸含有ガスとの接触時間、ガス温度、密閉容器の温度、無水硫酸ガスの流量を定めることにより達成することができる。接触時間は、通常は0.1秒〜120分の範囲であり、好ましくは1〜60分の範囲である。0.1秒〜120分の範囲であれば、均一に処理することができ、それ相応の効果が期待できる。密閉容器の温度は、通常、0℃〜100℃の範囲が好ましく、さらに10℃〜90℃の範囲が好ましく、特に20℃〜80℃の範囲が好ましい。
また前記スルホン酸基の付与においては、燃料電池用セパレータを前処理してから無水硫酸含有ガスに接触させることが好ましい。前処理することにより、前処理しない場合と比べてより短い時間でスルホン酸基を付与することができる。
前処理方法としては、例えば乾燥が挙げられる。これは系内に水分が少しでも存在すると、無水硫酸含有ガス中の無水硫酸が濃硫酸に変化する可能性があるからである。
乾燥の方法としては、シリカゲル等の乾燥剤を入れたデシケータ中に静置する方法、50℃等室温以上に温度をかけた乾燥機中に静置する方法、真空乾燥機を使用して水分を除去する方法等が挙げられる。
また前処理方法としては、乾燥のほか、加熱処理、火炎処理、コロナ処理、紫外線照射処理、プラズマ処理等を挙げることができる。
本発明のセパレータは、そのガス流路表面にスルホン酸基を付与することにより、ガス流路表面のぬれ性が改善されたものとなる。
濡れ性は、燃料電池用セパレータとして使用される場合、水との接触角に基づき評価することができる。その接触角の値は、80度以下、好ましくは70度以下であることが好ましい。このように水との接触角が80度以下の場合、燃料電池用セパレータとして稼働中に生成する生成水がセパレ−タ溝流路で留まることなく排水されるので、安定した電圧を維持することができる。
この場合の溶出性としては、95℃のイオン交換水中での60時間放置を2回繰り返した後に、そのイオン交換水の電気伝導度を測定した場合、スルホン酸基の付与前の値の2倍以下であることが好ましい。
導電性材料としては、金属粉、金属繊維、酸化錫等の金属あるいは導電性無機酸化物、人造黒鉛、りん片状天然黒鉛、塊状天然黒鉛、膨張黒鉛、カ−ボンナノチュ−ブ、PAN系あるいはピッチ系の黒鉛繊維、PAN系あるいはピッチ系の炭素繊維、球晶(メソフェ−ス)ピッチから得られた黒鉛粉、カ−ボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック又は非晶質炭素等が挙げられる。これらの1種類、或いは2種類以上の混合物を用いることができる。これらのうち、セパレータの導電性が良好になる点で黒鉛が好ましい。また平均粒径としては、100〜400μmであることが好ましく、アスペクト比が1〜5で且つ平均粒径が200〜300μmであることが特に好ましい。又導電性材料として、上記の繊維状導電材料から得られるミルド繊維、チョップド繊維、不織布、マット、シ−ト、ペ−パ−、フィルムなどを使用することができる。
導電性材料の使用量は、導電性組成物中50〜90重量%が好ましく、これらのうち、60〜85重量%が特に好ましい。
熱硬化性樹脂としては、例えばポリカルボジイミド、フェノ−ル樹脂、フルフリルアルコ−ル樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ジアリルフタレ−ト樹脂などを挙げることができる。これらの熱硬化性樹脂のうち、耐酸性の点でフェノール樹脂、ビニルエステル樹脂が好ましい。これらの熱硬化性樹脂は、粉末状や液状のものをそのまま用いたり、また水、アルコ−ル、ケトンなどの溶媒やスチレンなどの反応性希釈剤に溶解して用いる。
かかる熱可塑性樹脂の形状としては、粉末、粒状物、フィルム、織布、不織布、マット、シ−トなどが挙げられるが、取り扱いの簡便さから特に不織布、フィルムが好ましい。
これらの添加剤の使用量は、熱硬化性樹脂の種類、成形体の使用目的により自由に選ぶことができる。
低収縮化剤としては、例えば熱可塑性樹脂が挙げられる。かかる熱可塑性樹脂としては、例えばポリスチレン、スチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、スチレン−共役ジエンブロック共重合体、スチレン−水添共役ジエンブロック共重合体等のスチレン系共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸n−ブチルエステル等のスチレンを含まない(メタ)アクリル酸エステル系重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリフェニレンエ−テル、ポリビニルカルバゾ−ル等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂のうち、耐水性の点でポリスチレン、ポリフェニレンエ−テルが好ましい。
内部離型剤としては、例えば、カルナバロウなどのパラフィン系化合物、ステアリン酸、モンタン酸などの高級脂肪酸、ステアリン酸亜鉛などの高級脂肪酸塩、あるいは脂肪酸エステル化合物、アルキルリン酸エステル、変性シリコンオイル、変性フッ素系化合物などが挙げられる。これらは、成形条件、各種用途に応じて好ましいものを適宜選択し、使用することができる。
その他の充填材としては、硬化を促進するため、前記ラジカル重合開始剤と併用してラジカル重合促進剤、すなわち硬化促進剤を用いることができる。かかる硬化促進剤としては、例えばナフテン酸コバルトやオクテン酸コバルト等の金属塩類、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジ(ヒドロキシエチル)パラトルイジン、ジメチルアセトアセタミド等の3級アミン類等が挙げられる。これらは、必要により適宜選択して使用することができる。
熱硬化性樹脂を用いる場合には、さらに必要に応じて熱安定剤、希釈剤、反応性希釈剤、導電性充填剤、酸化防止剤、離型剤、滑剤、耐電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤等の各種添加剤を加えることができる。
これらの添加剤の使用量は樹脂の種類、成形体の使用目的により自由に選ぶことができる。
まず、導電性組成物を構成する材料として熱硬化性樹脂を用いる場合、該樹脂と導電性材料とからなる未硬化状態のプリフォ−ムを形成し、次いでセパレ−タ成形金型に該プリフォ−ムを入れ、加熱圧縮して成形することにより製造することができる。この際の加熱温度は、使用する熱硬化性樹脂により相違するが、通常100〜200℃であり、又加圧は通常5〜60MPaの条件が適切である。
また樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合、公知の方法を用いることによりセパレータを製造することができる。公知の方法としては、1)材料を溶融混練りする工程を含む方法、2)溶融混練りする工程を含まない方法が挙げられる。
1)材料を溶融混練りする工程を含む方法としては、具体的には熱可塑性樹脂と導電性材料とを予め押出機等で溶融混練りし、ペレット状、不定型な粒子状、粉体、シ−ト状、フィルム状に押し出し、かかる押し出し物を乾燥した後、射出成形機、射出圧縮機等で成形する方法、前記の乾燥したシ−トまたはフィルムをプレス成形機等を用いてスタンパブル成形法により成形する方法等が挙げられる。
前記2)のシート状成形材料の製造方法としては、例えばa)不織布等の樹脂シ−トに接着剤を介さず粒子状導電性材料(以下導電材粒子という)を付着させる方法、b)不織布等の樹脂シ−トに接着剤を介して導電材粒子を接着する方法等が挙げられる。これらのうち、成形材料中の導電材粒子の含有量を高くすることができる点でa)の方法が好ましい。a)の方法は、具体的には下記の工程(a1)及び工程(a2)を順次実施することにより行われる。
工程(a1)は、樹脂シ−トの表面に導電材粒子を均一に散布する工程である。
導電材粒子を樹脂シ−ト表面の全面を覆うように散布し、導電材粒子と樹脂シ−トとの接触面積がなるべく大きくなるように散布することが好ましい。
工程(a2)は、前記樹脂シ−トに導電材粒子の一部を付着させる工程である。
樹脂シ−トに導電材粒子を付着させる方法としては、(a2−1)樹脂シ−ト表面に導電材粒子を散布した後、加圧ロ−ルやプレスを用いて導電材粒子を樹脂シ−トに押しつけ、導電材粒子を樹脂シ−トに貫入させる方法、(a2−2)樹脂シ−トが不織布等繊維から構成される場合には、導電材粒子を樹脂シ−トに押しつけて、導電材粒子と繊維の絡まりを起こさせる方法、(a2−3)樹脂シ−トが加熱により軟化もしくは溶融する場合には、樹脂シ−ト及び/又は導電材粒子に熱を加えて樹脂シ−トの全部又は一部を溶融させた後、導電材粒子を樹脂シ−トに熱融着する方法が挙げられる。又これらの(a2−1)、(a2−2)及び(a2−3)の方法を組み合わせても良い。
前記2)溶融混練りする工程を含まない方法のうち、黒鉛粉末又は黒鉛粒状体に熱可塑性樹脂粉末を混合したものを成形する際、黒鉛と樹脂とが分離しやすいので、この分離を防ぐため、加熱により黒鉛へ樹脂を熱融着させたり、樹脂を接着剤として黒鉛を固着したり、スラリー化した樹脂と黒鉛とを混合させたりすることによって均一に分散させることが好ましい。
本発明に使用する燃料電池用セパレ−タは、通常片面に燃料ガス、例えば水素ガスの流路の溝が形成され、他の面に冷却水の流路の溝が形成されたものと、他の片面に酸化剤ガス、例えば空気の流路の溝が形成され、他の面に冷却水の流路の溝が形成されたものとが一対となって使用される。又、片面のみにガス流路の溝を形成し、他の片面を平板状としたセパレ−タを一対で用いてもよい。
而して、本発明の燃料電池用セパレ−タを電解質膜・電極接合体(MEA)の両側に直接接合するか、ガス拡散膜(GDL)を介して接合した単一セルを複数個組み合わせることによって燃料電池スタックに使用されるが、かかる燃料電池としては、固体高分子型燃料電池などが挙げられる。
本発明の燃料電池用セパレータおよび燃料電池について、電気抵抗、濡れ性、溶出特性および排水性に関する測定方法および評価基準を述べる。
後記実施例で使用する熱硬化性樹脂を含む導電性組成物を所定量取り出し、平面板金型に充填し、圧縮成形機で、圧力140kgf/cm2(ゲ−ジ圧力)、上型150℃、下型145℃、成形時間5分の条件で成形し、幅130mm、長さ200mm、厚み3mmの平板状成形品を製造した。この平板状成形品を下記に示す所定の大きさに切り出し、電気抵抗、濡れ性評価、溶出性の評価を行った。
また財団法人日本自動車研究所(JARI)から提案されている実験用燃料電池用セパレータ(幅80mm×長さ80mm)と同寸法で、厚み5.0mmの燃料電池用セパレータを成形した。このセパレ−タを用い、燃料電池単セルスタックを組み立てた。
<燃料電池用セパレータ>
前記平板状成形品を切削加工により、長さ50mm×幅50mm×厚み3mmの大きさに切り出したものを試験片として、厚み方向の電気抵抗を測定することにより評価した。
実際には、試験片と同じ寸法の銅板に金メッキ電極を2枚の間に試験片を挟み、さらに油圧プレスにて1MPaの圧力下、10mAの交流を印加した。この時の電極間の電圧降下ΔV(μV)から厚み方向の電気抵抗を測定した。測定3回の平均値を結果とした。
電気抵抗測定用の試験片と同形状の試験片を用い成形品表面の接触角を、イオン交換水を用いた液滴法にて測定した。用いた機械は、協和界面科学製CA−Z型である。測定8回の平均値を結果とする。測定雰囲気は、22℃、湿度60%である。一般に濡れ性が良好であるほど、接触角は小さい値を示す。
成形品を25mm×70mmのサイズに切断し試料片を作製した。この試料片4本を400gのイオン交換水の入ったフッ素樹脂製容器に入れ封をし、この容器を95℃の乾燥器に入れ、60時間煮沸を行う。その後、室温まで徐冷し試料片を取り出した。その後、イオン交換水を新しい液に交換し、再度同条件で煮沸を行った。溶出性の評価は2回目の試料片(以後これを試料片1という)を取り出した残りのイオン交換水の電気伝導度を(堀場製作所製 ES−51)を用いて測定することにより、溶出性の評価とする。一般に電解質性の溶出物が少ないほど電気伝導度は小さい値を示す。
前記試料片1を、その表面をエネルギー分散型X線分析装置(JED−2200、日本電子製)を用いて、100倍の倍率で元素分析を行い、硫黄原子の原子数%を測定した。
前記試料片1の表面を高性能X線光電子分光分析装置(AXIS−HS、Kratos社製)を用いて、Mg−kα線、15kV、10mAの条件下でスルホン酸基の同定を行った。S2pナロースキャン光電子スペクトルの分析から、169eVにスルホン酸基由来の結合エネルギーピークを確認した。
〔排水性評価〕
前記で得られた燃料電池を電流密度0.2A/cm2、セパレ−タ温度80℃、加湿用水温度70℃、利用率30〜80%まで10%毎に利用率を変化させ、各利用率で10分間発電試験を行い、電圧が大きく振れ(ΔV=最大値−最小値≧0.01)始める利用率の値を測定した。生成水の排水性が良いほど電圧の振れが発生する利用率が高く、安定な発電特性を維持していると言える。
以下に示す原料および組成の配合物を均一に混合し、スチレンモノマ−不透過性の多層フィルムに密閉した後、室温で24時間放置し導電性組成物を作成した。
1)ビニルエステル樹脂
(ビスフェノ−ルA型、数平均分子量=633(GPC測定値)) 18.8%
2)ターシャリブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(硬化剤) 0.2%
3)粉末アクリル樹脂 3.0%
4)黒鉛粉末(平均粒子径が300μm) 78%
この導電性組成物を前記に示した条件で成形し、評価用の成形板を得た。この成形板を以下に示す条件にてスルホン酸基を付与(以下スルホン化処理という)した。
はじめに、前記成形板を100℃/3hrs乾燥してから、この成形板を窒素ガスにて10倍に希釈された無水硫酸が流量5000ml/分で流通する耐酸性の5L密閉容器に収容した。前記容器に収容された成形板を60℃の温度で5、10分間放置し、該成形板にスルホン化処理した。次いで、重曹水溶液で洗浄し、更にイオン交換水にて水洗し、乾燥してスルホン化処理された成形板を得た。
この成形板を所定の大きさに切削加工し、硫黄原子含有量、電気抵抗、濡れ特性、溶出性を評価した。結果を表−1に示す。また前記高性能X線光電子分光分析装置を用いて得られたスペクトルから169eVにスルホン酸基由来の結合エネルギーピークが確認された。
実施例1において、スルホン化処理をしない代わりに、表面を平均粗さRa=1.1μmになるようにブラスト処理した成形板を用いて、実施例と同様に各物性を評価した。結果を表−1に示す。
比較例2
親水性樹脂被膜用樹脂として以下に示す組成で配合し、実施例1において、スルホン化処理をしない代わりに、表面を平均粗さRa=1.1μmになるようにブラスト処理した成形板を用いた成形板にハンドコ−タ−を用いて約12μmになるように塗布した。
1)デコナ−ルEXB614B(親水性エポキシ樹脂、ナガセケムテック製) 90%
2)アミノエチルエタノ−ルアミン(硬化剤) 10%
塗布した成形板を60℃/10分、ついで180℃/60分加熱し、硬化被膜を作成した。硬化被膜の厚みは約10μmであった。
この親水性樹脂で被膜形成した成形品を実施例1と同様に各物性を評価した。結果を表−1に示す。
比較例3
黒鉛板(東洋炭素製IG−11)を前記大きさに切削加工し、実施例1と同様にスルホン化処理した。このスルホン化処理黒鉛板を実施例1と同様に各物性を評価した。結果を表−1に示す。また前記高性能X線光電子分光分析装置を用いて得られたスペクトルから169eVにスルホン酸基由来の結合エネルギーピークは確認されなかった。
大きさが150mm×150mmのPPS繊維不織布(目付は15g/m2、厚さは60μm、空隙の平均大きさは38μm、空隙率は85%、融点は285℃)の上に、人造黒鉛粒子(無定形、平均粒子径は88μm)5gを散布し、続いて不織布の両端に高さが0.8mmのスペ−サ−を置き、スペ−サ−の片側からもう一方の側に沿ってスキ−ジ板を移動し、人造黒鉛粒子が不織布全面に載るように広げた。
次に、予め285℃に加熱したカレンダ−ロ−ルを前記不織布の黒鉛側に押し付けながら、片側からもう一方の側に移動した。次いで自然冷却した後、エア−ブロ−(5kgf/cm2)によって不織布繊維と融着していない黒鉛を除去することにより、見かけ上の厚さが0.15mm、目付が75g/m2、空隙率が約73%であるシ−ト状成形材料を得た。
このシ−トをスタンパブル成形法によって成形した。即ち該シ−ト状成形材料を70枚積み重ねたものを遠赤外線ヒ−タ−で340℃に加熱し、PPS繊維を溶融させ、直ちにプレス成形機に装着された150℃に加熱した金型に供給し、40MPaで加圧することにより賦型し冷却固化させ、実施例1と同様の成形板を成形した。
このセパレ−タを実施例2と同様にスルホン化処理を行った。このセパレータについて前記高性能X線光電子分光分析装置を用いて得られたスペクトルから169eVにスルホン酸基由来の結合エネルギーピークが確認された。
また比較例3としてスルホン化処理をしていない成形板を平均粗さRa=1.1μmになるようにブラスト処理し、評価用試料を作成した。
これらのセパレ−タを用い、実施例1と同様に電気抵抗、濡れ性、溶出性の試験を行った。結果を表−2に示す。
前記「試料の作成」で得られたセパレ−タを実施例2と同条件でスルホン化処理を行った。このセパレ−タを用い、排水性評価を行った。
比較例5として、スルホン化未処理で表面を平均粗さRa=1.1μmになるようにブラスト処理したセパレ−タを用い、実施例3と同様に燃料電池としての発電特性を評価した。
その結果、電圧の振れは実施例4では、利用率70%から始まるのに対して、比較例5では利用率50%から始まった。また実施例4では、前記高性能X線光電子分光分析装置を用いて得られたスペクトルから169eVにスルホン酸基由来の結合エネルギーピークが確認された。
本発明のセパレ−タを用いた燃料電池は生成水の排水性が良いため、比較例より高い利用率で、安定した発電特性を示した。
Claims (6)
- 樹脂と導電性材料とを構成成分として含み、硫酸含有ガス処理によりガス流路表面の少なくとも一部にスルホン酸基が付与された燃料電池用セパレータであって、前記セパレータのガス流路表面に存在する樹脂とスルホン酸基とが結合し、かつ前記スルホン酸基中の硫黄原子のガス流路表面での比率がエネルギー分散型X線分光法により測定される値で0.1〜4.0原子数%であることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
- 前記硫酸含有ガスが、無水硫酸ガスである請求項1記載の燃料電池用セパレータ。
- 燃料電池用セパレータのガス流路表面に存在する樹脂とスルホン酸基とが結合し、スルホン酸基中の硫黄原子のガス流路表面での比率がエネルギー分散型X線分光法により測定される値で0.1〜4.0原子数%である燃料電池用セパレータの製造方法であって、樹脂と導電性材料とを含む導電性組成物を成形して得られる燃料電池用セパレータのガス流路表面に、硫酸含有ガスを接触させガス流路表面の少なくとも一部にスルホン酸基を付与させることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
- 前記硫酸含有ガスが、無水硫酸ガスである請求項3記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
- 前記燃料電池用セパレータを前処理した後に、硫酸含有ガスを接触させる請求項3記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
- 請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレ−タを組み込んでなる燃料電池。
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