JP4028003B2 - セルロース溶液の調製方法 - Google Patents

セルロース溶液の調製方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、再生セルロース繊維、再生セルロースフィルムや粒子などの再生セルロース成型体製造用の原液に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在工業的に使用されている再生セルロース成型品の製造方法は、主に二硫化炭素を用いるビスコース法と銅アンモニア溶液に溶解する銅安法の二つの方法に限られている。しかし、どちらの方法も溶液を調整する過程や成型品を製造する過程で、毒性気体の発生や重金属の排出を避けることができず、作業環境面や地球環境的見地からも問題点がないとはいえない。
【0003】
一方、これらの流れに対して環境に優しいプロセスでセルロース成型品を製造しようという試みが行われつつある。例えば、特開昭62−240328号公報、特開昭62−620329号公報に示されているように、セルロースに爆砕処理を施してアルカリ可溶化し、これをアルカリ水溶液に溶解して湿式成型するもので、二硫化炭素、重金属、有機溶剤などの有害物質は全く用いられていない。しかし、この技術により調製されたセルロースのカセイソーダ水溶液は、後で詳細に説明する方法により溶解性を評価すると、セルロースの溶解分率は99重量%以下に留まり、セルロースのカセイソーダ水溶液20リットル中に含まれる未溶解セルロース量(Rc)は10ミリリットル以上であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のセルロースのカセイソーダ水溶液を基礎科学的に扱う場合や小規模な紡糸実験の場合は、徹底した濾過操作で対応できるが、工業的観点からいうと溶解性の向上は必要不可欠である。例えば、衣料用フィラメントの製造紡糸工程での切れ糸は、糸の長さ1000万メートル当たり1回以下でなければならない。さらに糸の長さ方向には太さ、力学的性質及び染色性などが均一なことが要求される。これらの条件が満足されないと、その繊維を織物にしたとき織物の品位を著しく落とす。ビスコースレーヨンフィラメントの紡糸経験から、セルロースの溶解分率は99重量%以上、未溶解セルロース量(Rc)は10ミリリットル以下が必要である。これ以上、未溶解セルロース量が多いとフィルターの閉塞が著しく、事実上紡糸はできない。
【0005】
本発明は、かかる問題を解決するため、未溶解セルロース量が少ない、すなわち未溶解セルロース量(Rc)が10ミリリットルのセルロースのカセイソーダ水溶液を調製する方法を見出すことを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
セルロースがアルカリ水溶液に溶解するためには、原理的にはセルロースの分子内水素結合を切断すればよいが、セルロースのアルカリ水溶液の溶解速度は、例えば銅アンモニア水溶液やカドキセン水溶液などに比べて著しく遅いため、撹拌しないで静置状態に放置したままでは、セルロースの溶解分率は50%に満たない。また、一般的な撹拌を行っても99%以上にするのは困難である。すなわち工業的な溶解には、セルロースの固体構造を制御するような側面(特開昭62−240328号公報に記載のように)と溶解速度的な側面とからの検討が必要である。本発明者は、セルロースのアルカリ水溶液の未溶解セルロース量を少なくするために、溶解速度の側面から本発明の課題を検討した結果、この課題を解決することを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、セルロースを粘度平均重合度(DPv)750以下に調整した後、該セルロースにカセイソーダ濃度が1〜6重量%になるようにカセイソーダ水溶液を加えて10℃以下の温度で攪拌するか、または該セルロースを平均粒径20μm以下の粒状に湿式粉砕するかしてセルローススラリーを得た後、該セルローススラリーを10℃以下に冷却してカセイソーダ水溶液を追加し、該セルローススラリーのカセイソーダ濃度を7〜11重量%に調整し、ついで該セルローススラリーを10℃以下の温度下で高速撹拌し、セルロース濃度2重量%以上の濃度でセルロースをカセイソーダ水溶液に溶解させることを特徴とするセルロース溶液の調製方法である。
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられる原料となるセルロースは、パルプ、綿、綿リンター等の天然セルロースや再生セルロースなどが選択できるが、天然セルロースの場合は、サルファイト法でパルプ化されたサルファイト法溶解パルプが望ましい。サルファイト法溶解パルプ以外の例えばクラフト法溶解パルプを原料セルロースに使用した場合は溶解性が低い。サルファイト法溶解パルプとクラフト法溶解パルプの固体構造を比べると、サルファイト法溶解パルプは分子内水素結合の解裂度がクラフト法溶解パルプよりも大きく、また爆砕による解裂の大きさもクラフト法よりも大きい。これは分子内水素結合の開裂度合が高いほど溶解性が高いという従来の知見から見ても妥当である。
【0009】
クラフト法溶解パルプで未溶解セルロース量(Rc)を10ミリリットル(以下、ml)以下にするには、セルロース濃度5重量%では、粘度平均重合度(DPv)は200以下でなければならず、200以下の粘度平均重合度に調整することの困難なクラフト法溶解パルプでは、得られたセルロース成型品の強度に問題が生じる。
【0010】
本発明の原料となるセルロースの粘度平均重合度(DPv)の調整は、爆砕法、酸加水分解法、アルカリ加水分解法、電子線照射法、γ線照射法などの方法が適用できる。ただし、アルカリ加水分解の場合は、例えばアルカリがカセイソーダ(NaOH)の場合は、加水分解に使用するアルカリの濃度が10重量%以上になると未溶解セルロース量(Rc)は著しく高くなる。従来技術の場合は、重合度の調整方法として爆砕技術が必須であったが、原料パルプとしてサルファイト法溶解パルプを使用し、以下に説明する本発明の二段溶解法や湿式粉砕法による溶解方法でセルロースを溶解すれば、いずれの重合度調整方法においても、得られるセルロースのカセイソーダ水溶液の未溶解セルロース量(Rc)には差がほとんどない。
【0011】
望ましい粘度平均重合度(DPv)の範囲は、以下に説明する二段溶解法や湿式溶解法などの溶解方法や得られるセルロース溶液のセルロース濃度によって異なる。得られるセルロース溶液の未溶解セルロース量(Rc)が10ml以下の溶解性を得るには、例えばサルファイト法溶解パルプを後述する二段溶解法で溶解する場合は、セルロース濃度が8重量%では粘度平均重合度(DPv)は230以下、5重量%では粘度平均重合度(DPv)は350以下、2重量%では750以下が望ましい。それぞれのセルロース濃度において、粘度平均重合度(DPv)が示した値より高い場合は溶解性は悪く、未溶解セルロース量(Rc)は10ml以上である。溶解性は重合度が低いほどよいが、最終的なセルロース成型品が繊維やフィルムなどのように強度を要求される場合は、重合度は200以上で、かつセルロース濃度は2重量%以上が好ましい。
【0012】
つぎに、セルロースの溶解方法、すなわち二段溶解法、湿式粉砕法について説明する。二段溶解法は、前記のように粘度平均重合度を調製したセルロースを、1〜6重量%のカセイソーダ(NaOH)水溶液に浸漬し、ついで10℃以下の温度で攪拌し、セルロースを溶解処理する(二段溶解法前段溶解処理)。この範囲の濃度のカセイソーダ水溶液では、粘度平均重合度を調製していない原料セルロースは溶解しない。粘度平均重合度を調製したセルロースでも、1重量%以下の場合は浸漬の効果がなく、6重量%以上の場合は部分的に溶解が開始するために最終的にセルローススラリーの溶解性は低くなる。
【0013】
ついで、この前段溶解処理されたセルローススラリーを10℃以下に冷却し、所定濃度のカセイソーダ水溶液を所定量加え、このセルローススラリーのカセイソーダ濃度を7重量%〜11重量%の範囲に調製した後、高速撹拌して二段溶解法の後段溶解処理を行い、セルロースをカセイソーダに溶解する。なお、このスラリーを再び10℃以下まで冷却し、高速撹拌してもよいが、得られるスラリーの未溶解セルロース量(Rc)の変動率は減少するが、平均値はほとんど変わらない。スラリーの温度が上昇すると溶解性は低下するので、溶解過程の温度は10℃を越えてはならない。このように、粘度平均重合度を調製したセルロースにカセイソーダを前段と後段の二段に加えて溶解する方法を二段溶解法と呼ぶ。
【0014】
一方、湿式粉砕法は、粘度平均重合度を調製したパルプを水等の湿式溶媒を用いて平均粒径20μm以下まで粉砕した後、前記二段溶解法の後段の方法と同様、得られたスラリーにカセイソーダを加え、このスラリーを低温下高速撹拌してセルロースを溶解する方法である。この湿式粉砕法の目的は、前述のようにセルロースのアルカリ水溶液への溶解速度を上げるため、セルロースの表面積を大きくすることであり、この湿式粉砕法によりセルロースは粒状に粉砕される場合とフイブリル化される場合がある。フィブリル化させる場合は、例えばマントンゴーリンホモジナイザーが装置として適しており、FMC Co.のミクロフィブリレーテドセルロースやダイセルのセリッシュRなどが用いられている。粒状に粉砕される場合もフイブリル化される場合も、セルロースの表面積は著しく増加するが、フィブリル化されたセルロースは、固形分濃度が低くても粘度が高く、ゲル状を呈している。そのため、溶解時に溶媒であるカセイソーダ水溶液との混合が難しいため、本発明のセルロース溶液として用いるには適していない。
【0015】
それに対し、粒状に粉砕される場合ではフィブリル化された場合に比べ粘度が低いため、溶解時にカセイソーダ水溶液と効率よく混合できるので、本発明ではこの粒状に粉砕される方法を用いなければならない。この方法に適した装置としては、セルロースを20μm以下まで粉砕できるものならいずれの装置でもかまわないが、例えば特開平3−163135号公報に示したようなメディア式湿式粉砕装置が好ましい。粒状に粉砕される方法では、粘度平均重合度調製したパルプを平均粒径20μm以下まで粒状に粉砕した場合は、カセイソーダ水溶液に溶解できるが、平均粒径が20μm以上の場合は、溶解性が悪化する。湿式溶媒は、通常水が用いられる。湿式粉砕過程のセルロース濃度は、特に限定しないが、セルロース濃度が15%を越えると、粉砕後のスラリー粘度が著しく高くなり、取り扱いが困難になるので、セルロース濃度は15%未満が望ましい。
【0016】
引き続き、二段溶解法の後段の方法、すなわち粉砕後のセルローススラリーを10℃以下まで冷却し、所定濃度のカセイソーダ水溶液を添加して、セルローススラリーのカセイソーダ濃度を7〜11重量%の範囲に調製した後、10℃以下まで冷却し、高速撹拌してセルロースを溶解する。この場合も、温度が上昇すると溶解性は低下するので溶解過程の温度は10℃を越えてはならない。
【0017】
さらに、上記の二段溶解法と湿式粉砕法とを組み合わせた方法でも優れた溶解性を得ることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例に基いて、さらに詳細に説明する。
なお、実施例で測定した、未溶解セルロース量(Rc)、粘度平均重合度(DPv)、セルロース粒子の平均粒度(μm)の測定方法を以下に説明する。
(1)未溶解セルロース量(Rc)
未溶解セルロース量の測定は次のように行った。まず、溶解したセルロース溶液、すなわちドープを8重量%のカセイソーダ水溶液で80倍に希釈し、その希釈したドープ2ml中に存在する未溶解セルロースの個数を、米国コールターエレクトロニクス社(Coulter Electronic Inc.,)製コールターカウンターZM80で計測した。計測は3μmから100μmの範囲において、10μm間隔で行った。計測した個数から、次の式を用いてドープ20リットル中に存在する未溶解物の体積(Rc)をmlで求めた。
【0019】
Figure 0004028003
ここで、Nx 〜Ny は、コールターカウンターで計測した80倍に希釈したドープ2mlに含まれる粒径xμmからyμmの粒子数である。
【0020】
(2)粘度平均重合度(DPv)
粘度平均重合度は、まずセルロース/カドキセン溶液の[η]を求め、ついで下記のブラウン、ウイクストローム(Brown,Wikstrom)の粘度式(Euro.Polym.J,1,1(1966)記載)に代入して得た粘度平均分子量Mwを162で割って粘度平均重合度とした。
【0021】
[η]=3.85×10-2×Mw0.76
(3)セルロース粒子の平均粒度(μm)
まず、セルローススラリーを蒸留水でセルロース分率が0.1重量%になるように希釈し、超音波発信機で粒子を分散させた後、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−1100、島津製作所製)を用いて、粉砕したセルロースの粒度分布を測定し、分布から求めた粒子全体の体積に対して積算体積が50%になるときの粒子の球形換算直径を平均粒径とした(特開平3−163135号公報に詳細記載)。
【0022】
【実施例1】
サルファイト法溶解パルプ(ALAPUL−T(アラスカパルプ社製、樹種:トウヒ、α−セルロース:90.1%、相対粘度:4.64))を下記に示すように爆砕処理、電子線照射処理、酸加水分解処理し、粘度平均重合度(DPv)がそれぞれ230、280、300、350の粘度平均重合度調整パルプを得た。このパルプを下記に示すように二段溶解法により溶解し、そのセルロース溶液の未溶解セルロース量(Rc)を測定した。
【0023】
(二段溶解法)
粘度平均重合度調整したパルプをあらかじめ5℃に冷却し、乾燥重量換算で12.5gを300mlのビーカーに入れた。これにあらかじめ5℃に冷却したカセイソーダ水溶液を加え、全体量200g、カセイソーダ濃度5重量%、セルロース濃度6.25重量%のセルローススラリーを作った。このスラリーを−2℃まで冷却し、高速撹拌型のミキサー(T.K.ホモミキサー:特殊機化製)を用いて12000rpmで2分間攪拌し、二段溶解法前段の溶解処理を行った。
【0024】
このセルローススラリーを−2℃まで再冷却し、これにあらかじめ−10℃に冷却した18重量%のカセイソーダ水溶液を50g加え、カセイソーダ濃度を7.6重量%、セルロース濃度5重量%にして、スパチュラで速やかに予備撹拌した後、前述の高速撹拌型のミキサーを用いて12000rpmで1分間撹拌した。この時の撹拌羽の先端速度は942m/分であり、ローターとステーターとの間の剪断速度は約10000sec-1である。再度−2℃まで冷却し、同様に撹拌して二段溶解法後段の溶解処理を行い、セルロース濃度5重量%、カセイソーダ濃度7.6重量%のセルロースのカセイソーダ水溶液を得た。
【0025】
(爆砕処理)
厚さ2mmのシートパルプ100gをシュレッダーで3×10mmに裁断し、内容積1リットルのステンレス製圧力容器にいれ、234℃(30kg/cm2G)の飽和蒸気を導入し、圧力容器内の空気を蒸気で置換した後、所定時間(20、30、50、90秒)水蒸気蒸煮した。所定時間経過後、大気圧下のブロータンクに瞬間的に放出した。
【0026】
(電子線照射処理)
厚さ2mmのシートパルプを窒素雰囲気でそれぞれ2、3、5、10Mradの電子線照射した。電子線照射機は、日新ハイボルテッジ株式会社製H−300EBを使用した。
(酸加水分解処理)
厚さ2mmのシートパルプ100gをシュレッダーで3×10mmに裁断し、液比が3になるように2重量%の硫酸水溶液を振りかけ、充分浸漬させた。このパルプを136℃(2kg/cm2G)の飽和水蒸気で4、8、15、25分間酸加水分解した。
【0027】
以上の結果を、表1に爆砕処理、電子線照射処理、酸加水分解処理して得られたパルプの粘度平均重合度(DPv)、二段溶解して得られたセルロースのカセイソーダ水溶液の未溶解セルロース量(Rc)を示した。粘度平均重合度(DPv)が230〜350の範囲では、いずれの重合度調製法においても、得られたセルロースのカセイソーダ水溶液の未溶解セルロース量(Rc)は10以下であり溶解性は良好であることがわかる。
【0028】
【実施例2、比較例1】
実施例2では二段溶解法前段の溶解処理のカセイソーダ濃度の影響を示す。
実施例1で使用したのと同じパルプを200℃(15kg/cm2G)で5分間飽和水蒸気処理した後、爆砕し、粘度平均重合度(DPv)300の重合度に調整したパルプを得た。乾燥換算で12.5gを300mlのビーカーに入れ、これに5℃のカセイソーダ水溶液を加え、全体量200g、カセイソーダ濃度を0.5、1、3、5、6、7重量%のセルローススラリーをそれぞれ調製した。これを、−2℃まで冷却後、高速撹拌型のミキサー(T.K.ホモミキサー:特殊機化製)を用いて12000rpmで2分間攪拌し、二段溶解法前段の溶解処理を行った。
【0029】
得られたセルローススラリーを再度−2℃に冷却し、これに−10℃に冷却した所定濃度のカセイソーダ水溶液を50g加え、最終のカセイソーダ濃度を7.6重量%にして、スパチュラで速やかに予備撹拌した後、前述の高速撹拌型のミキサーを用いて12000rpmで1分間撹拌した。このセルローススラリーを再度−2℃まで冷却し、同様に撹拌して二段溶解法後段の溶解処理を行い、セルロース濃度5重量%、カセイソーダ濃度7.6重量%のセルロースのカセイソーダ水溶液を得た。得られた水溶液の未溶解セルロース量(Rc)を表2に示した。
【0030】
以上の結果、アルカリ浸漬前処理におけるカセイソーダ濃度が1〜6重量%の範囲内ならば、未溶解セルロース量(Rc)は10ml以下であるが、この範囲外では10mlを越え、溶解性は悪いことがわかる。
【0031】
【実施例3、比較例2】
実施例3では二段溶解法後段の溶解処理時におけるカセイソーダ濃度の影響を示す。
実施例2と同じ方法でセルロースを爆砕し、粘度平均重合度(DPv)300の重合度を調整したパルプを得た。乾燥換算で12.5gを300mlのビーカーに入れ、これに5℃のカセイソーダ水溶液を加え、全体量200g、カセイソーダ濃度5重量%のセルローススラリーを調製した。これを、−2℃まで冷却後、高速撹拌型のミキサー(T.K.ホモミキサー:特殊機化製)を用いて12000rpmで2分間攪拌し、二段溶解法前段の溶解処理を行った。
【0032】
得られたセルローススラリーを再度−2℃に冷却し、これに−10℃に冷却した所定濃度のカセイソーダ水溶液を50g加え、最終のカセイソーダ濃度をそれぞれ6、7、7.6、9、11、12重量%にして、スパチュラで速やかに予備撹拌した後、前述の高速撹拌型のミキサーを用いて12000rpmで1分間撹拌した。これを再度−2℃まで冷却し、同様に撹拌して二段溶解法後段の溶解処理を行い、セルロース濃度5重量%、カセイソーダ濃度それぞれ6、7、7.6、9、11、12重量%のセルロースのカセイソーダ水溶液を得た。得られた水溶液の未溶解セルロース量(Rc)を表3に示した。
【0033】
この結果、セルロースのカセイソーダ水溶液中のカセイソーダ濃度が7〜11重量%の範囲内ならば、未溶解セルロース量(Rc)は10ml以下であるが、この範囲外では10mlを越え、溶解性は悪いことがわかる。
【0034】
【実施例4、比較例3】
実施例4では二段溶解法前段及び後段の溶解処理における攪拌時の温度の影響を示す。
実施例2と同じ方法で原料のセルロースを爆砕し、粘度平均重合度(DPv)300の重合度を調整したパルプを得た。乾燥換算で12.5gを300mlのビーカーに入れ、これに5℃のカセイソーダ水溶液を加え、全体量200g、カセイソーダ濃度5重量%のセルローススラリーを調製した。このスラリーをそれぞれ−2、0、5、10、15℃の温度に調整後、高速撹拌型のミキサー(T.K.ホモミキサー:特殊機化製)を用いて12000rpmで2分間攪拌し、二段溶解法前段の溶解処理を行った。
【0035】
得られたセルローススラリーを、上記のスラリー温度、−2、0、5、10、15℃の温度にそれぞれ調製し、このスラリー温度と同じ温度に調製した所定濃度のカセイソーダ水溶液をそれぞれ50g加え、最終のカセイソーダ濃度を7.6重量%にして、スパチュラで速やかに予備撹拌した後、前記の高速撹拌型のミキサーを用い、12000rpmで1分間撹拌した。再度、前記のスラリー温度、−2、0、5、10、15℃の温度にそれぞれを調製し、同様に撹拌して二段溶解法後段の溶解処理に行い、セルロース濃度5重量%、カセイソーダ濃度7.6重量%のセルロースのカセイソーダ水溶液を得た。得られたセルロースのカセイソーダ水溶液の未溶解セルロース量(Rc)を表4に示した。
【0036】
この結果から、攪拌時の温度が−2〜10℃の範囲内ならば、未溶解セルロース量(Rc)は10ml以内で溶解性は良いが、この範囲外では、10mlを越え、溶解性は悪いことがわかる。
【0037】
【実施例5、比較例4】
実施例5では二段溶解法後段の溶解処理時の撹拌速度の影響を示す。
実施例2と同じ方法で二段溶解法前段の溶解処理を行った。
得られたセルローススラリーに実施例2と同じ方法でカセイソーダ水溶液を加え、組成をセルロース濃度5重量%、カセイソーダ濃度7.6重量%に調製した。このスラリーを−2℃に調整後、実施例2と同じ高速撹拌型ミキサーでそれぞれ1000、5000、8000、10000、12000rpmで1分間撹拌した。12000rpmにおける撹拌羽の先端速度は942m/分であり、ローターとステーターとの間の剪断速度は約10000sec-1である。このスラリーを、再度−2℃に冷却した後、同一回転数で1分間撹拌し、二段溶解法後段の溶解処理に行い、セルロースのカセイソーダ水溶液を得た。得られたカセイソーダ水溶液の未溶解セルロース量(Rc)を表5に示した。
【0038】
この結果、溶解撹拌羽の回転数が5000rpm以上であれば、未溶解セルロース量(Rc)は10ml以下であるが、1000rpmでは10mlを越え、溶解性は悪くなることがわかる。
【0039】
【実施例6、比較例5】
実施例6ではセルロースの粘度平均重合度(DPv)と二段溶解法前段の溶解処理したセルローススラリーのカセイソーダ濃度とが影響する範囲を示す。
実施例1と同様に、原料のセルロースに爆砕処理を行い、粘度平均重合度(DPv)がそれぞれ230、350、750、800の重合度を調整したパルプを得た。このパルプを5℃に冷却し、乾燥重量換算で5〜20.0gを300mlのビーカーに入れた(得られるセルローススラリーのセルロース濃度はそれぞれ2、5、8重量%)。これにあらかじめ5℃に冷却したカセイソーダ水溶液を加え、全体量200g、カセイソーダ濃度5重量%のセルローススラリーとし、このスラリーを−2℃まで冷却後、高速攪拌型のミキサー(T.K.ホモミキサー:特殊機化製)を用い、12000rpmで2分間攪拌し、二段溶解法前段の溶解処理を行った。
【0040】
得られたセルローススラリーに、実施例1と同様に、カセイソーダ水溶液を加えて二段溶解法の後段処理を行った。得られたカセイソーダ水溶液の未溶解セルロース量(Rc)を表6に示した。
その結果、粘度平均重合度(DPv)230ではセルロース濃度8重量%以下で、粘度平均重合度(DPv)350ではでは5重量%以下で、粘度平均重合度(DPv)750ではでは2重量%以下で未溶解セルロース量(Rc)10ml以下が得られたが、粘度平均重合度(DPv)800では2重量%以下でも未溶解セルロース量(Rc)は10mlを越えてしまい、溶解性が悪くなることがわかる。
【0041】
【実施例7、比較例6】
実施例7では湿式粉砕法における平均粒径の影響を示した。
実施例1と同様に原料のセルロースの爆砕を行い、重合度を調整したパルプを得た。このパルプを蒸留水でセルロース固形分濃度7.5重量%に調製し、メディア式湿式粉砕機(パールミルPM5RL−VS、アシザワ(株):特開平3−163135号公報に記載)で所定時間湿式粉砕し、平均粒径がそれぞれ5、10、15、20、30μmのセルローススラリーを得た。粉砕媒体として2mmφの酸化ジルコニウムを使用した。
【0042】
この湿式粉砕法により得られた、0℃に冷却したセルローススラリーを100gに−10℃に調整した22.8重量%のカセイソーダ水溶液を200g添加し、高速撹拌型のミキサー(T.K.ホモミキサー:特殊機化製)を用いて12000rpmで1分間撹拌した。さらに、このスラリーを−2℃まで冷却し、上記と同様に撹拌して二段溶解法の後段処理を行い、セルロース濃度5重量%、カセイソーダ濃度7.6重量%のセルロースのカセイソーダ水溶液を得た。得られたカセイソーダ水溶液の未溶解セルロース量(Rc)を表7に示した。
【0043】
この結果、平均粒径が20μm以下では未溶解セルロース量(Rc)は10ml以下を得たが、30μmでは10mlを越え、溶解性は悪いことがわかる。
【0044】
【実施例8】
本実施例では湿式粉砕法と二段溶解法の後段処理とを組合せて連続的に溶解する方法の一例を示す。
実施例7と同様に調製した平均粒径15μmに湿式粉砕したセルローススラリーを、毎分20gの流量で連続的に高速撹拌型の二液瞬間混合ミキサー溶解機(S−1ミキサ−、SMJ−40、内容積64ml、桜製作所(株)製)に導入した。一方、22.8重量%のカセイソーダ水溶液を毎分10gの流量で同ミキサーに連続的に導入した。ミキサー内の滞留時間は1分である。また、ミキサー直前に熱交換機を設けスラリー温度を0℃に、カセイソーダ水溶液を−10℃に調整した。ミキサーの回転数は4500rpmであり、この時のステーターとローターとの間のせん断速度は9400sec-1である。溶解中は発熱するため、ミキサーの外側にジャケットを設け−10℃の冷媒を流し、ミキサーを強制的に冷却した。溶解したセルロースのカセイソーダ水溶液のセルロース濃度は5重量%、カセイソーダ濃度は7.6重量%、未溶解セルロース量(Rc)は0.9mlであった。
【0045】
【表1】
Figure 0004028003
【0046】
【表2】
Figure 0004028003
【0047】
【表3】
Figure 0004028003
【0048】
【表4】
Figure 0004028003
【0049】
【表5】
Figure 0004028003
【0050】
【表6】
Figure 0004028003
【0051】
【表7】
Figure 0004028003
【0052】
【発明の効果】
本発明によれば、未溶解セルロース量の極めて少ないセルロース水溶液を得ることができ、このようなセルロース水溶液を用いれば、例えば従来困難であった衣料用再生セルロースフィラメント製品を工業的規模で容易に生産することができる。

Claims (1)

  1. セルロースを粘度平均重合度(DPv)750以下に調整した後、該セルロースにカセイソーダ濃度が1〜6重量%になるようにカセイソーダ水溶液を加えて10℃以下の温度で攪拌するか、または該セルロースを平均粒径20μm以下の粒状に湿式粉砕するかしてセルローススラリーを得た後、該セルローススラリーを10℃以下に冷却してカセイソーダ水溶液を追加し、該セルローススラリーのカセイソーダ濃度を7〜11重量%に調整し、ついで該セルローススラリーを10℃以下の温度下で高速撹拌し、セルロース濃度2重量%以上の濃度でセルロースをカセイソーダ水溶液に溶解させることを特徴とするセルロース溶液の調製方法。
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