JP4027448B2 - 放射線防護剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体の放射線障害防止機能を有する新規なクロマノール配糖体からなる放射線防護剤に関するものである。詳しく述べると、本発明は、生体の放射線障害防止機能を有し、水に可溶なクロマノール配糖体からなる水溶性放射線防護剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
原子力発電における作業者、X線によるレントゲン検査技師または放射線を用いた癌などの診断若しくは治療に携わる技術者や医学者は、作業時には放射線の被爆をある程度防止している。しかしながら、この方法による放射線防護は完全とはいえず、上記したような作業に長期間従事していると全体としてはかなりの量の放射線を被爆する場合もある。また、原子力発電所の事故などの最悪の場合では、放射線を全身に一度に被爆してしまうため、被爆した人が死亡したりあるいは死亡しないまでも一定の潜伏期間後に生殖機能、骨髄機能障害や皮膚障害等の臓器・組織レベル及び細胞レベルでの放射線障害が発現する。
【0003】
このような諸問題を考慮して、現在、放射線管理(防護)を実施するにあたっては、法令や放射線の事業所内における障害予防規定などによって個人の被爆を規制している。しかしながら、このような放射線防護基準をもってしても放射線被爆による障害を完全に防止できるわけではない。また、放射線を被爆しても人体は痛みなどを知覚せず、また上記したような症状が現れるまでには一定の潜伏期間があるため、症状が現れて初めて被爆したことを知るが、現在の医療ではこのような症状を治療することはかなり困難である。
【0004】
また、放射線治療を受ける癌患者に関しても、一度にかなりの量の放射線が治療すべき悪性腫瘍部分に照射されるが、悪性腫瘍部周辺の正常な組織にも放射線が照射される。被爆した正常組織は、放射線によって生体内に発生したフリーラジカルにより細胞膜や染色体などの細胞内分子の酸化的な化学反応が起こって、細胞増殖の停止(細胞死)や突然変異の誘発等の重大な障害が引き起こされる。
【0005】
このような化学反応の発生を防止する薬剤として、従来、水素ラジカル供与性を有するβ−メルカプトエチルアミンなどの数多くの各種アミノチオール類が知られている(菅原努ほか、「放射線と医学」、共立出版社、1986年)。
【0006】
しかしながら、上記した薬剤は、その強い副作用のため、有効な防護効果が発現するために必要とされる量を投与できず、いまだ実用化には至っていない。
【0007】
一方、代表的なビタミンEとして知られているα−トコフェロールは、クロマン環の6位の水酸基から水素原子を供与してフリーラジカルを消去する機能を有する化合物であり、抗酸化剤としてよく知られている。
【0008】
しかしながら、ビタミンEは、その分子内に長鎖の炭化水素基(フィチル基)を有するために、水に溶けない粘稠性の油状物である。このため、生体のフリーラジカルによる損傷を防ぐ目的でビタミンEを投与する場合には、内服液や注射剤などの溶液の形態での使用はできないという致命的な欠点がある。このような欠点を克服するために、2位のフィチル基をカルボキシル基で置換することにより水溶性が付与された6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸が開発され、トロロックス(Trolox)という名称で水溶性の抗酸化剤として市販されているが、その水溶性は極めて低く(16mg/100ml)、いまだ満足できるものではない。また、同様にして、2位のフィチル基をアルコールで置換した6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−メタノール(以下、「TMC−2−置換メタノール」と称する)も開発された。このTMC−2−置換メタノールは、101mg/100mlの水溶性を有し、トロロックスの約6.3倍の水溶性を示すが、このような比較的高い水溶性をもってしても、例えば、患者に1gを投与するためには、1リットルという多量の水に溶解して用いなければならず、水溶性がなお不十分であるという問題があった。
【0009】
したがって、現代および将来を通じて人類は様々な分野で放射線を被爆する可能性が大きく、このため放射線被爆から人類を守る機能を有する放射線防護剤の開発が切望されているが、いまだ満足できる放射線防護剤が開発されていないのが現状である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、放射線被爆による障害を有効に防止する新規な放射線防護剤を提供することである。
【0011】
また、本発明の他の目的は、放射線被爆による障害を有効に防止し、かつ水溶性である新規な放射線防護剤を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本願出願前に、本発明者らは、水溶性が不十分なTMC−2−置換アルコールの2位の水酸基に糖を結合させることによって高い水溶性を有するクロマノール配糖体を合成することに成功していた(特開平7−118287号公報を参照)が、今回、驚くべきことに、本発明者らは、クロマノール配糖体を有効成分として含む放射線防護剤が効果的に放射線被爆による障害を防止する機能を有することを発見し、この知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、上記諸目的は、下記(1)から(3)のいずれかにより達成される。
【0014】
(1) 下記一般式(1):
【0015】
【化2】
【0016】
[ただし、式中、R1 、R2 、R3 およびR4 は同一または異なる水素原子または低級アルキル基を表わし、Xは糖残基中の水酸基の水素原子が低級アルキル基または低級アシル基で置換されていてもよい単糖残基またはオリゴ糖残基を表わし、nは0〜6の整数であり、およびmは1〜6の整数である]で表わされるクロマノール配糖体を有効成分とする放射線防護剤。
【0017】
(2) 上記クロマノール配糖体の含有量が10〜100重量%である、前記(1)記載の放射性防護剤。
【0018】
(3) 水性製剤である前記(1)または(2)記載の放射線防護剤。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の放射線防護剤は、一般式(1)で表わされるクロマノール配糖体を有効成分とすることを特徴とするものである。
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明の放射線防護剤の有効成分として使用されるクロマノール配糖体は下記一般式(1)を有する化合物である。
【0022】
【化3】
【0023】
上記一般式(1)において、R1 、R2 、R3 及びR4 は、同一または異なる水素原子または低級アルキル基であるが、低級アルキル基を表わす際には、炭素原子数が好ましくは1〜8、より好ましくは1〜6の低級アルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、及びオクチル基等が挙げられ、これらのうち、メチル基及びエチル基が好ましい。また、Xは、単糖残基またはオリゴ糖残基を表わすが、この際、糖残基中の水酸基の水素原子は低級アルキル基、好ましくは炭素原子数が1〜8の低級アルキル基または低級アシル基、好ましくは炭素原子数が1〜10の低級アシル基で置換されていてもよい。これらのうち、Xとしてグルコースやガラクトースが好ましく使用される。さらに、nは、0〜6、好ましくは1〜4の整数であり、mは、1〜6、好ましくは1〜3の整数である。
【0024】
本発明によるクロマノール配糖体は、例えば、下記一般式(2):
【0025】
【化4】
【0026】
(ただし、式中、R1 ,R2 ,R3 、R4 及びnは式(1)と同様である)で表わされる2−置換アルコール及びオリゴ糖類、可溶性澱粉、澱粉またはシクロデキストリンを相当する糖転位作用を触媒する酵素の存在下に反応させ、2−置換アルコールの2位の水酸基に対して特異的に糖の特定の水酸基を結合させることからなる酵素反応によって製造される(特開平7−118287号公報参照)。
【0027】
上記反応において原料として用いられる一般式(2)で表わされる2−置換アルコール(以下、単に「2−置換アルコール」と称する)は公知の物質であり、例えば、特公平1−43755号公報や特公平1−49135号公報等に開示された方法により得ることができる。また、例えば、一般式(2)中、R1 、R2 、R3 及びR4 がCH3 であり、nが1である2−置換アルコールはトロロックスを水素化リチウムアルミニウムの存在下においてジエチルエーテル中で加熱還流処理することなどにより容易に得ることができる。
【0028】
上記反応において使用される糖転位作用を触媒する酵素は、当該反応に用いる糖の種類によって以下のように使い分けることが好ましい。
【0029】
(1)2−置換アルコールにα−結合でグルコース残基を結合させる場合:
(a)マルトースからマルトテトラオース位のマルトオリゴ糖に対してはα−グルコシダーゼ(α-glucosidase, EC 3.2.1.20)を作用させることが望ましい。α−グルコシダーゼとしては、ほぼ全ての起源由来のものを用いることができ、具体的には、東洋紡績株式会社製のサッカロマイセス属(Saccharomyces sp.) 由来のα−グルコシダーゼ、オリエンタル酵母工業株式会社製のサッカロマイセスセロビイシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のα−グルコシダーゼ、天野製薬株式会社製のアスペルギルス ニガー(Aspergillus niger) 由来のα−グルコシダーゼ、和光純薬工業株式会社製のサッカロマイセス属(Saccharomyses sp.) 由来のα−グルコシダーゼ、シグマ(SIGMA) 製のベーカー イースト(Bakers yeast)由来のα−グルコシダーゼ、バチルス属(Bacillus)由来のα−グルコシダーゼ等が挙げられる。
(b)可溶性澱粉または澱粉に対しては4−α−グルカノトランスフェラーゼ(4-α-D-glucanotransferase, EC 2.4.1.25)を作用させることが望ましい。
【0030】
(2)2−置換アルコールにα−結合でグルコース残基またはマルトオリゴ糖残基を結合させる場合:
マルトオリゴ糖、可溶性澱粉、澱粉またはシクロデキストリン(α、β、γ)などに対してはシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(cyclodextrin glucanotransferase, EC 2.4.1.19)を作用させることが望ましい。代表的な例としては、、天野製薬株式会社製のバチルス マセランス(Bacillus macerans) 由来のシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、株式会社林原生物化学研究所製のバチルス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus) 由来のシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、その他にはバチルス メガテリウム(Baccillus megaterium)、バチルス サーキュランス ATCC 9995(Bacillus circulans ATCC 9995)由来のシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼなどが挙げられる。
【0031】
(3)2−置換アルコールにβ−結合でグルコース残基を結合させる場合:
(a)セロビオース、カードランまたはラミナランなどのβ−結合よりなるオリゴ糖に対してはβ−グルコシダーゼ(β-glucosidase, EC 3.2.1.21)を作用させることが望ましい。
(b)リン酸存在下のセロビオースに対してはセロビオース ホスホリラーゼ(cellobiose phosphorylase, EC 2.4.1.20) を作用させることが望ましい。
【0032】
(4)2−置換アルコールにα−結合でガラクトース残基を結合させる場合:
(a)メリビオースまたはラフィノースなどに対してはα−ガラクトシダーゼ(α-galactosidase, EC 3.2.1.22)を作用させることが望ましい。
【0033】
(5)2−置換アルコールにβ−結合でガラクトース残基を結合させる場合:
(a)ラクトースなどに対してはβ−ガラクトシダーゼ(β-galactosidase, EC 3.2.1.23)を作用させることが望ましい。
(b)アラビノガラクタンなどに対してはエンド−1,4−β−ガラクタナーゼ(Endo-1,4-β-galactanase, EC 3.2.1.89) を作用させることが望ましい。
【0034】
(6)2−置換アルコールにβ−結合でフラクトース残基を結合させる場合:
(a)ショ糖、ラフィノースまたはメリビオースなどに対してはレバンシュークラーゼ(levansucrase, EC 2.4.1.10)を作用させることが望ましい。
(b)ショ糖に対してはβ−フルクトフラノシダーゼ(β-fructofuranosidase, EC 3.2.1.26)を作用させることが望ましい。
(c)イヌリンなどに対してはイヌリンフルクトトランスフェラーゼ(inulin fructotransferase, EC 2.4.1.93) を作用させることが望ましい。
【0035】
上記反応における反応条件は、使用するクロマノール配糖体や酵素の種類によって異なるが、例えば、一般式(1)中のmが1であるクロマノール配糖体をα−グルコシダーゼを用いて合成する場合には、2−置換アルコールを糖溶液に溶解させることが望ましい。そのためには有機溶媒の添加が望ましく、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、アセトン、及びアセトニトリルなどが挙げられ、α−グルコシダーゼの転移活性を高める点を考慮すると、ジメチルスルホキシドやN,N−ジメチルホルムアミドが好ましく使用される。有機溶媒の添加濃度は、1〜50(v/v)%であり、反応効率を考えると5〜35(v/v)%であることが好ましい。
【0036】
2−置換アルコールの濃度は、反応液中において飽和濃度若しくはそれに近い濃度にすることが望ましい。用いる糖の種類はマルトースからマルトテトラオース位の低分子のものが良く、好ましくはマルトースである。糖の濃度は1〜70(w/v)%、好ましくは30〜60(w/v)%である。pHは4.5〜7.5、好ましくは5.0〜6.5である。反応温度は10〜70℃、好ましくは30〜60℃である。反応時間は1〜40時間、好ましくは2〜24時間である。但し、これらの条件は使用する酵素量等により影響をうけることはいうまでもない。反応終了後、反応液をXAD(オルガノ株式会社)を担体として用いたカラムクロマトグラフィーで処理することにより、目的とするクロマノール配糖体が高純度で得られる。
【0037】
また、例えば、一般式(1)中のmが1であるクロマノール配糖体をシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを用いて合成する場合の反応条件としては、2−置換アルコールを糖溶液に溶解させることが望ましい。そのためには有機溶媒の添加が望ましく、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、アセトン及びアセトニトリルなどが挙げられる。添加する有機溶媒の濃度は1〜50(v/v)%、好ましくは反応効率を考えると5〜35(v/v)%である。2−置換アルコールの濃度は反応液中において、飽和濃度もしくはそれに近い高い濃度にすることが望ましい。
【0038】
上記反応において用いられる糖の種類としては、マルトトリオース以上の重合度を持つマルトオリゴ糖、可溶性澱粉、澱粉およびシクロデキストリン(α、β、γ)などが好ましく挙げられる。糖の濃度は1〜70(w/v)%、好ましくは5〜50(w/v)%である。pHは4.5〜8.5、好ましくは5.0〜7.5である。反応温度は10〜70℃、好ましくは30〜60℃である。反応時間は1〜60時間、好ましくは2〜50時間である。但し、これらの条件は使用する酵素量により影響を受ける。このような反応により得られたクロマノール配糖体はmの数が1から8位の混合物となる。そこで、この混合物をグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)を用いて処理することによって、一般式(1)中のmが1であるクロマノール配糖体だけを得ることができる。この際の反応温度は20〜70℃、好ましくは30〜60℃であり、反応時間は0.1〜40時間、好ましくは1〜24時間である。但し、これらの条件は使用する酵素の量により影響を受ける。次に、上記グルコアミラーゼ処理後の液を、XAD(オルガノ株式会社)を担体として用いたカラムクロマトグラフィー処理することにより、一般式(1)中のmが1であるクロマノール配糖体が高純度で得られる。
【0039】
一般式(1)中のmが2であるクロマノール配糖体を得る場合には、上記と同様の条件下で、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼによって得られる一般式(1)におけるmが1から8位の混合物の形態を有するクロマノール配糖体にβ−アミラーゼ(EC 3.2.1.2)を作用させることにより、一般式(1)におけるmが1または2であるクロマノール配糖体のみが得られる。この時の反応温度は20〜70℃、好ましくは30〜60℃であり、反応時間は0.1〜40時間、好ましくは1〜24時間である。但し、これらの条件は使用する酵素量により影響を受ける。β−アミラーゼ処理後の液は、XAD(オルガノ株式会社)を担体として用いたカラムクロマトグラフィー処理により、一般式(1)におけるmが2であるクロマノール配糖体が高純度で得られると同時に、一般式(1)におけるmが1であるクロマノール配糖体も得られる。
【0040】
一般式(1)におけるmが3以上であるクロマノール配糖体を得る場合には、上記と同様の条件下で、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼによって得られる一般式(1)におけるmが1から8位の混合物の形態を有するクロマノール配糖体を、HPLCを用いた分取クロマトグラフィーなどで処理することにより、高純度のクロマノール配糖体が各m毎に得ることが出来る。
【0041】
上記実施態様では2−置換アルコールにグルコース残基やマルトオリゴ糖残基を糖残基として結合させる場合の態様を記載したが、ガラクトース残基を糖残基として2−置換アルコールに結合させることによる態様も本発明では好ましく使用できる。このような態様においては、上記糖転位作用を触媒する酵素の項において説明したように、ラクトース(乳糖)等を糖として使用する際にはβ−ガラクトシダーゼを酵素として使用し、アラビノガラクタン等を糖として使用する際にはエンド−1,4−β−ガラクタナーゼを酵素として使用する以外は上記実施態様と同様の操作を行うことによって、目的とするクロマノール配糖体が高純度で得られる。
【0042】
このようにして得られたクロマノール配糖体は、一般的に、極めて高い水溶性(約100g/100ml水)を有し、かつ油溶性にも富む(オクタノール/水系分配係数>3)両親媒性分子である。言い換えると、本発明によるクロマノール配糖体は、高い脂質親和性を備えた水溶性ビタミンEであるということができる。したがって、本発明によるクロマノール配糖体は、従来の水に不溶性あるいは貧溶性のビタミンE誘導体とは異なり、水に溶解して使用しても高い脂質親和性を保つので、細胞膜を透過し、さらに細胞内にも入ることができ、放射線照射によって細胞膜内や細胞内に生じたフリーラジカルを捕捉して、細胞膜の損傷及びDNAの突然変異等を防ぐことができる。また、上記反応により得られたクロマノール配糖体は、熱安定性およびpH安定性に関してもトコフェロール、トロロックスまたは2−置換アルコールに比べて著しく向上するものであることが分かった。
【0043】
本発明の放射線防護剤は、上記クロマノール配糖体に製薬上許容される担体を配合した経口投与用組成物としてまたは非経口投与用組成物として患者に投与できる。放射線防護剤を経口投与用とする場合には、上記クロマノール配糖体を適当な添加剤と適宜混合して、錠剤、散剤(粉末)、丸剤、および顆粒剤などの固型形態にすることができる。この際使用できる添加剤としては、従来使用されるいるものが同様にして使用でき、例えば、乳糖、ショ糖、マンニット、トウモロコシデンプン、合成若しくは天然ガム、及び結晶セルロース等の賦形剤、デンプン、セルロース誘導体、アラビアゴム、ゼラチン、及びポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボシキメチルセルーロースカルシウム、カルボシキメチルセルーロースナトリウム、及びコーンスターチやアルギン酸等のポリマー等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及びステアリン酸ナトリウム等の滑沢剤、および炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、及びリン酸ナトリウム等の充填剤または希釈剤などが挙げられる。または、経口投与用の放射線防護剤は、カプセル剤の形態を有していてもよく、この際、カプセルとしては、硬質あるいは軟質のゼラチンカプセルが用いられる。本発明の放射線防護剤を固型製剤として使用する際には、上記したような固型製剤に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、セルロースアセテートフタレート、及びメタアクリレートコポリマー等の被覆用基剤を用いて腸溶性被覆を施してもよい。または、本発明の放射線防護剤をシロップ剤やエリキシル剤等の液状製剤として用いてもよく、このような場合には、本発明の放射線防護剤は、上記したクロマノール配糖体を精製水等の一般的に用いられる不活性希釈剤に溶解して、必要であれば、この溶液に浸潤剤、乳化剤、分散助剤若しくは一般的な界面活性剤、さらには甘味料、フレーバー若しくは芳香物質などを適宜添加することによって製造される。
【0044】
また、本発明の放射線防護剤を非経口投与用とする場合には、上記クロマノール配糖体を精製水、リン酸緩衝液等の適当な緩衝液、生理的食塩水、リンガー溶液やロック溶液等の生理的塩類溶液、エタノール、グリセリン及び慣用な界面活性剤等と適当に組み合わせた、滅菌された水溶液若しくは非水溶液、懸濁液、リポソーム、またはエマルジョンとして、好ましくは注射用滅菌水溶液として、静脈内に、皮下に、皮膚に、頬に、筋肉内に、または腹腔内に、投与される。この際、液状製剤は、生理学的なpH、好ましくは6〜8の範囲内のpHを有することが好ましい。
【0045】
さらに、本発明の放射線防護剤は、ペレットによる埋め込み、または坐薬用基剤を用いた坐薬として投与されることも可能である。
【0046】
上述したうち、好ましい投与形態や投与経路などは、担当の医師によって選択される。
【0047】
本発明の放射線防護剤中に含まれるクロマノール配糖体の濃度は、投与時の形態、病気の種類や重篤度や目的とする投与量などによって様々であるが、一般的には、原料の全重量に対して、10〜100重量%、好ましくは50〜100重量%である。特に、本発明において、放射線防護剤が経口投与される場合には、原料の全重量に対して、10〜100重量%であり、非経口投与される場合には、原料の全容量に対して、1〜80容量%、好ましくは5〜50容量%であることが好ましい。この際、クロマノール配糖体の濃度が50重量%を超えると、過剰な量のクロマノール配糖体に見合った優れた放射線防護機能が得られず好ましくない。これに対して、クロマノール配糖体の濃度が5重量%未満であると、本発明によって得られる放射線防護効果が十分に期待できずやはり好ましくない。
【0048】
本発明の放射線防護剤の投与量は、患者の年齢、体重及び症状、目的とする投与形態や方法、治療効果、および処置期間等によって異なり、正確な量は医師が決定するものであるが、通常、10〜1000mg/kg体重/日のクロマノール配糖体の投与量の範囲である。本発明の放射線防護剤が経口投与される場合には、クロマノール配糖体の投与量換算で、10〜1000mg/kg体重/日の投与量の範囲で1日に1〜3回分けて投与される。この際、1日当たりの経口投与量が多い場合には、1回に複数個の錠剤等の製剤を投与してもよい。また、本発明の放射線防護剤を非経口投与する場合には、クロマノール配糖体の投与量換算で、10〜500mg/kg体重/日の投与量になるように1日に1〜3回分けて投与される。
【0049】
以下に、本発明の放射線防護剤に関する毒性試験を行い、その安全性を確認した。4〜5週令のICR系マウスを1群3匹として用いた。本発明による一般式(4)(下記実施例6を参照)を有するクロマノール配糖体を5%アラビアゴム液に懸濁した後、クロマノール配糖体換算で500mg/kgを経口投与して1週間観察した。この際、比較対象として5%アラビアゴム液を0.3ml経口投与した。その結果、いずれの投与群においてもマウスの死亡例は認められなかった。
【0050】
【実施例】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらにより本発明の範囲がなんら制限されるものでないことはいうまでもない。
【0051】
実施例1
下記式(3)で示されるクロマノール配糖体を、特願平5−338083号明細書における実施例1と同様して製造した。このクロマノール配糖体を水溶液中に30mg/mlの濃度で溶解して0.2μmの滅菌フィルターで瀘過滅菌し、腹腔内注射用製剤として調製した。なお、この際、クロマノール配糖体は完全に水溶液中に溶解し、製剤のpHは約6.8であった。
【0052】
【化5】
【0053】
実施例2〜5、参考例1〜2、比較例1
マウスのTリンパ腫株EL−4細胞をRPMI−1640+10%牛胎仔血清+HEDES緩衝液(25mM)系培養液(以下、「完全培養液」と略称する)中で37℃、5%CO2 雰囲気下で継代培養し、細胞密度が2×105 個/mlになるように調整した。このようにして培養されたEL−4細胞培養液の上清を除去し、予め調製しておいたクロマノール配糖体溶液(特願平5−338083号明細書における実施例1で調製されたのと同様のクロマノール配糖体を完全培養液中に最終濃度が表1に示されるように50、100、250及び500μg/mlになるように溶解した溶液)を等量加え、X線を照射するまでの30分間、上記と同様の条件下で細胞培養を行った。クロマノール配糖体を含む培養液中で所定時間培養した後、3Gyの放射線を0.92Gy/分の線量率で照射した。放射線照射終了直後、細胞を遠心沈降(400g×5分)させ、RPMI−1640で2回洗浄し、完全培養液で再浮遊させて培養した。これに、サイトカラシンBのDMSO溶液(2mg/ml濃度)を最終濃度が3μg/mlになるように添加し、20時間培養後に2核細胞中の小核保有細胞の頻度(小核誘発頻度)を測定し、細胞の放射線損傷の頻度を表わす尺度とした。また、各放射線照射細胞について、下記比較例1で得られた小核誘発頻度を基準として下記式より小核誘発抑制率を計算した。この際、上記細胞は1群4〜5連で放射線照射実験を行い、結果はこれらの平均値として表わした。結果を表1に示す。
【0054】
【数1】
【0055】
上記クロマノール配糖体溶液の濃度を0μg/mlとした以外は上記操作を同様に繰り返し、比較例1とした。また、上記クロマノール配糖体溶液の濃度を0及び1,000μg/mlとし、X線を照射しなかった以外は上記操作を同様に繰り返し、それぞれ参考例1及び2とした。
【0056】
【表1】
【0057】
表1より、小核誘発頻度は、一般式(3)で表わされるクロマノール配糖体で処理した(実施例2〜5)場合、処理しなかった(比較例1)場合に比べて有意に小さく、これより、本発明によるクロマノール配糖体は放射線被爆による細胞の損傷を有効に抑制することが示された。
【0058】
実施例6〜7、比較例2
下記式(4)で示されるクロマノール配糖体(実施例6)を、特願平5−338083号明細書における実施例6と同様して調製した。また、下記式(5)で示されるクロマノール配糖体(実施例7)を、特願平8−3402号明細書における実施例1と同様して調製した。
【0059】
【化6】
【0060】
【化7】
【0061】
上記のようにして調製されたクロマノール配糖体を実施例2〜5と同様の方法を用いて評価した。ただし、この際完全培養液中の配糖体の最終濃度は1mMとした。なお、一般式(3)で示されるクロマノール配糖体を使用する以外は同様の評価を行い、比較例2とした。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2より、小核誘発頻度は、一般式(4)及び(5)で表わされるクロマノール配糖体で処理した(実施例6〜7)場合、処理しなかった(比較例1)場合に比べて有意に小さく、一般式(3)で表わされるクロマノール配糖体で処理した(比較例2)場合に比べても遜色なかったことが示された。これより、本発明によるクロマノール配糖体は放射線被爆による細胞の損傷を有効に抑制することが明らかに示された。
【0064】
実施例8
実施例1で得られた製剤を、B6 C3 F1 系マウス(16週令、体重:約30g)4匹を1群として表3に示される投与量(0または500mg/kg)になるように腹腔内投与し、30分後に3Gyの放射線を全身に照射した。照射してから2週間後に、脾臓Tリンパ球のTCR(T細胞レセプター : T cell antigen receptor)遺伝子の突然変異頻度(以下、単に「突然変異頻度」と称する)を求めた。なお、本実施例において、突然変異抑制率は、比較例2で得られた突然変異頻度を基準として下記式より計算した。この際、各実施例等の結果は平均値として表わした。結果を表3に示す。
【0065】
【数2】
【0066】
【表3】
【0067】
表3より、一般式(3)で表わされるクロマノール配糖体を含む製剤は、動物実験においても突然変異頻度が抑制され、これより、効果的な放射線防護機能を有することが示された。
【0068】
【発明の効果】
上述したように、本発明の放射線防護剤は、一般式(1)で表わされるクロマノール配糖体を有効成分とすることを特徴とするものであり、放射線被爆による障害を有効に防止できるものである。
【0069】
また、本発明によるクロマノール配糖体は水溶性であるため、本発明の放射線防護剤は、放射線被爆による障害を有効に防止し、かつ錠剤や散剤等の固形製剤としての用途に加えて注射用等の液状の製剤としての用途にも使用が可能である。
【0070】
したがって、本発明の放射線防護剤は、X線によるレントゲン検査または放射線を用いた癌等の診断若しくは治療などの医療分野におけるのみならず、原子力発電における作業などの医療以外の分野においても、種々多様な形態での使用が可能であり、非常に有用である。
Claims (4)
- 前記クロマノール配糖体は2−(α−D−グルコピラノシル)メチル−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オール、2−(α−D−グルコピラノシル)エチル−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オールまたは2−(β−D−ガラクトピラノシル)メチル−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−6−オールである請求項1に記載の放射線防御剤。
- 該クロマノール配糖体の含有量が10〜100重量%である、請求項1または2に記載の放射線防護剤。
- 水性製剤である請求項1〜3のいずれか一つに記載の放射線防護剤。
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