JP4397991B2 - 抗発癌プロモーター剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、メガスチグマン配糖体を有効成分とする、発癌プロモーターの潜在的癌細胞への作用を抑制し、発癌の予防に有効な抗発癌プロモーター剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
癌の治療方法としては、癌細胞の外科的除去法、放射線療法、抗癌剤を用いた化学療法、免疫賦活療法が用いられているが、これらの治療方法の進歩にも拘わらず、日本においては1981年以来、癌が死亡原因の第1位を占めており(栄養学雑誌Vol.54,No.3,121-127,1998)、発癌予防は国民の健康上極めて重要な問題になっている。
【0003】
癌はイニシエーションとプロモーションという異なった二段階を経て起こると考えられている。すなわち、紫外線、放射線、その他の変異原性物質等のイニシエーターにより正常細胞のDNAに損傷が起こるイニシエーションの後に、その結果生じた潜在的な癌細胞がプロモーターと呼ばれる化学物質による継続的な刺激を受けるプロモーションという過程を経て癌化すると考えられている。
従って、イニシエーションとプロモーションのどちらかを抑制することで発癌を防ぐことができると考えられる。しかしながら、イニシエーションは瞬間的な反応であることから、これを完全に防御することは難しい。
一方、プロモーションはプロモーターによる長期にわたる連続的作用が要求されるので、この過程を阻害することが有効な発癌予防方法であると考えられる(生物化学実験法38 食品中の生体機能調節物質研究法p.36-38,学会出版センター,1996)。
【0004】
近年、天然物由来成分の抗発癌プロモーション効果が注目され、緑茶中に含まれるエピガロカテキンガレート(ファルマシアVol.34,No.3,223-225(1998))、ブクリョウ(Polia cocos )由来トリテルペン化合物(特開平9−176184号公報)、ワサビノキ(Moringa oleifera)抽出物(特開平7−304685号公報)、イチョウ(Ginkgo biloba L.)葉抽出物(特開平7−126180号公報)、コブミカン抽出物(特開平6−336437号公報)、黄杞葉抽出物(特開平6−247851号公報)、オキアミ抽出物(特開平6−293647号公報)、海綿抽出物(特開平6−305970号公報)、黄ごん中に含まれるフラボノイド(特開平5−25041号公報)等、数多くのものが報告されているが、これらは未だ癌予防の有効な手段として確立されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、発癌プロモーターの作用を抑制し、発癌の予防に有用で、かつ、副作用の無い安全な抗発癌プロモーター剤を提供することにある。
【0006】
そのために本発明者らは、食用植物に含有される天然成分について鋭意研究を重ね、古くから食用に供されていて、その安全性が確立しているビワ(Eriobotrya japonica)やシマウリノキ(Alangium premnifolium)から単離され、報告されている(Journal of Natural Products,Vol.55,No.8,pp1025-1032,August 1992;Chem Pharm Bull,Vol.43 No.5,754-759(1995))メガスチグマン配糖体に着目した。これまでに、メガスチグマン配糖体のうち、ロセオシドについては、抗ヒスタミン効果が報告されている(Chem Pharm Bull,Vol.45 No.3,464-469(1997))が、メガスチグマン配糖体の抗発癌プロモーション効果についの報告は無かった。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明者らは、安全性を食用植物に由来することで確立し、他の植物、微生物からも抽出されるもの、化学合成品であっても、何ら問題のない、メガスチグマン配糖体が、抗発癌プロモーション効果を上げるとの知見を得、一般式[I]
【化2】
(式中、Rは水素あるいは水酸基、R1は単糖類あるいは二糖類を示す。)で表されるメガスチグマン配糖体が、発癌プロモーターの作用を抑制し、発癌の予防に有用であることを見出し本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、一般式[I](式中、Rは水素あるいは水酸基、R1は単糖類あるいは二糖類を示す。)で表されるメガスチグマン配糖体を有効成分とする抗発癌プロモーター剤である。
また、メガスチグマン配糖体が、上記一般式[I]中、RがOH、R1がグルコピラノースであるロセオシド、RがOH、R1がアピオフラノシルグルコピラノースである(6S,9R)−ボミフォリオール−9−O−β−D−アピオフラノシル−(1→6)−β−D−グルコピラノシド、RがH、R1がグルコピラノースである(6R,9R)−3−オキソ−α−イオニル−9−O−β−D−グルコピラノシド、RがH、R1がキシロピラノシルグルコピラノースである(6R,9R)−3−オキソ−α−イオニル−9−O−β−D−キシロピラノシル−(1→6)−β−D−グルコピラノシドをそれぞれ有効成分とする抗発癌プロモーター剤である。
【0009】
【発明の実施の形態】
一般式[I]で表されるメガスチグマン配糖体はビワ(Eriobotrya japonica )の葉等の植物から抽出分離することができる。
抽出に使用される有機溶媒としては、アルコール、エーテル、アセトン、へキサン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、テトロヒドロフラン等が挙げられるが、メガスチグマン配糖体が抽出されればよくこれらに限定されるものではない。
実際には、これらの溶媒の中から1種または2種以上を選択して使用するが、安全性の見地からすると、エタノール、アセトンまたは酢酸エチル等、特には、飲用にも供されているエタノールを使用することが好ましい。さらに好適には、エタノールを適当な割合で水と混合して使用するとよい。
【0010】
植物体はそのままの形態で抽出に供してもよいが、抽出効率を高めるため、好ましくは裁断または粉砕して抽出に供するとよい。抽出の方法は、植物体1kgに対して1〜50リットル、好ましくは10リットルの抽出溶媒を加え、1日〜1ヶ月室温に放置する。必要に応じて、放置の途中で撹拌してもよい。また、抽出溶媒は加温して使用することもできる。抽出後は植物体(抽出残渣)と抽出溶媒(抽出液)を濾過あるいは沈降法等により分離する。好ましくは、抽出残渣は同様の抽出操作を2〜4回程度繰り返すとよい。全抽出液を集めて、これを濃縮乾燥して粗抽出物を得る。
【0011】
その後、上記粗抽出物を、各種クロマトグラフィーを用いて分離精製し、前記一般式[I]で表されるメガスチグマン配糖体が得られる。
具体的には、一般式[I]中、RがOH、R1がグルコピラノースのロセオシド、RがH、R1がアピオフラノシルグルコピラノースの(6S,9R)−ボミフォリオール−9−O−β−D−アピオフラノシル−(1→6)−β−D−グルコピラノシド、RがH、R1がグルコピラノースの(6R,9R)−3−オキソ−α−イオニル−9−O−β−D−グルコピラノシド、RがH、R1がキシロピラノシルグルコピラノースの(6R,9R)−3−オキソ−α−イオニル−9−O−β−D−キシロピラノシル−(1→6)β−D−グルコピラノシド等が得られる。
【0012】
クロマトグラフィーの方法としては、吸着クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、液々抽出等が例示できる。
目的の化合物を得ることができれば特に限られるものではないが、Diaion HP−20、Toyopearl HW−40、MCI−gel CHP−20P、Sephadex LH−20、YMC−gel ODS AQ 120−50S等を充填したカラムを用いることが好ましい。
ただし、本発明はこれらによって限定されるものではなく、他の植物、微生物から抽出されたものや、化学合成品であっても何ら問題はない。
【0013】
本発明の抗発癌プロモーター剤は、その有効成分である前記一般式[I]で表されるメガスチグマン配糖体をそのまま直接使用してもよいが、製薬上許容されるキャリア等の製剤用の添加剤と混合して医薬製剤の形で、もしくは、一般の医薬部外品等に混合して、経口的、非経口的に投与・摂取することができる。その具体的形態としては、錠剤、カプセル剤、散剤、坐剤、直腸軟膏、注射剤、ローション、ハンドクリーム等が例示されるが、必ずしもこれらの形態に限るものではない。
【0014】
本発明の有効成分であるメガスチグマン配糖体の投与量としては、被投与者の体重や投与形態、投与部位により変わりうるが、例えば、経口投与の場合には、通常10〜1000mg/kg体重程度を1日1回または数回にわたって投与する。10mg/kgより低い濃度の使用では効果が不十分である場合がある。
【0015】
以下に、本発明をさらに詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0016】
〔実施例1〕
化合物の調製方法:粉砕したビワの生葉1kgを70%アセトン水5リットルで2回浸漬抽出し、抽出液を集めてロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮した後凍結乾燥し、ビワ葉粗抽出物98gを得た。このビワ葉粗抽出物を水1リットルに懸濁し、等量のクロロホルム、酢酸エチル、ブタノールで順次液々抽出し、ブタノール相をロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮した後凍結乾燥し、ブタノール画分28gを得た。
このブタノール画分をDiaion HP−20、Toyopearl HW−40、MCI−gel CHP−20P、Sephadex LH−20、YMC−gel ODS AQ 120−50Sを用いたカラムクロマトグラフィーに順次供し、ロセオシド(40mg)、(6S,9R)−ボミフォリオール−9−O−β−D−アピオフラノシル−(1→6)−β−D−グルコピラノシド(25mg)、(6R,9R)−3−オキソ−α−イオニル−9−O−β−D−グルコピラノシド(55mg)、(6R,9R)−3−オキソ−α−イオニル−9−O−β−D−キシロピラノシル−(1→6)−β−D−グルコピラノシド(35mg)の4種のメガスチグマン配糖体を得た。
【0017】
〔抗発癌プロモーター活性試験〕
実施例1で得られた4種のメガスチグマン配糖体について、エプスタイン−バール・ウィルス活性化抑制試験法(生物化学実験法38 食品中の生体機能調節物質研究法p.38-41,学会出版センター,1996)を用いて、抗発癌プロモーター効果を評価した。
この試験方法は、ラジ細胞(DNA型癌ウィルスであるエプスタイン−バール・ウィルスが感染したバーキットリンパ腫由来の細胞株)を、発癌プロモーターであるテトラデカノイルホルボールアセテート(TPA)の存在下で培養し早期抗原を発現させる過程において、被験サンプルの抗原発現抑制効果を評価するものである。
ラジ細胞の培養液としてPRMI1640に胎仔血清及び抗生物質を加えたものを使用した。この培養条件下でのエプスタイン−バール・ウィルス早期抗原自然発生率は0.1%以下であった。
1×106/mlの濃度に調製したラジ細胞を、4mMのn−酪酸、20ng/ml(32pmol)のTPA、及び、1000mol ratio/TPA(TPAに対してモル比で1000倍濃度)の被験物質を加えた培養液中で、37℃、5%CO2の条件下、48時間培養した。上咽頭痛患者血清を用いた間接蛍光抗体法にてエプスタイン−バール・ウィルス早期抗原を発現した細胞を検出し、陽性細胞の比率を、被験物質を加えなかったコントロールに対して算出し、ウィルスゲノムの再現阻害活性とした。
さらに、被験物質の濃度を500mol ratio/TPA、100molratio/TPA、10mol ratio/TPAに変化させて同活性を測定した。結果を表1に示した。
【0018】
【表1】
いずれのメガスチグマン配糖体も、既に抗発癌プロモーション活性を有すると報告されているエピガロカテキンガレートよりも優れた抗発癌プロモーション活性を示した。
【0019】
〔実施例2〕錠剤
(1)ロセオシド 5g
(2)直打用微粒No.209(富士化学社製) 7g
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム 20%
トウモロコシデンプン 30%
乳糖 50%
(3)結晶セルロース 6g
(4)CMCカルシウム 1.8g
(5)ステアリン酸マグネシウム 0.2g
(1)から(4)までを均一に混合した後に、(5)を添加してさらに混合し、その混合末を打錠して、1錠200mgの錠剤とした。この錠剤は、必要に応じて、通常用いられる胃溶性フィルムコーティング剤(例えば、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート)または食用性着色剤でコーティングしてもよい。
【0020】
〔実施例3〕カプセル剤
(1)(6S,9R)−ボミフォリオール−9−O−β−D−ア
ピオフラノシル−(1→6)−β−D−グルコピラノシド 10g
(2)乳糖 9.6g
(3)ステアリン酸マグネシウム 0.4g
上記成分を均一に混合し、その混合末をハードゼラチンカプセルに2000mgずつ充填した。
【0021】
〔実施例4〕注射剤
(1)(6R,9R)−3−オキソ−α−イオニル−9−O
−β−D−グルコピラノシド 100mg
(2)ブドウ糖 100mg
(3)注射用水 全量で10ml
(1)と(2)を(3)に溶解した液をメンブランフィルターで濾過後に再び除菌濾過を行い、その濾過液を無菌的にバイアルに分注し、窒素ガスを充填した後、密封して静脈内注射剤とした。
【0022】
〔実施例5〕ローション
(1)(6R,9R)−3−オキソ−α−イオニル−9−O−β−D
−キシロピラノシル−(1→6)−β−D−グルコピラノシド 1g
(2)パラオキシ安息香酸エステル 0.5g
(3)プロピレングリコール 1g
(4)濃グリセリン 1g
(5)クエン酸ナトリウム 0.5g
(6)香料 適量
(7)精製水 95ml
(1)から(6)を(7)に溶解し、ローションとした。
【0023】
【発明の効果】
本発明の有効成分である一般式[I]のメガスチグマン配糖体は、優れた抗発癌プロモーション活性を有し、発癌プロモーターの作用を抑制することができるので、抗発癌プロモーター剤として発癌の予防に有用であり、かつ、その安全性は既に確立されているところである。
Claims (6)
- メガスチグマン配糖体が、ビワ、シマウリノキ等の食用植物に由来する請求項1記載の抗発癌プロモーター剤。
- メガスチグマン配糖体が、ロセオシドである請求項1又は2記載の抗発癌プロモーター剤。
- メガスチグマン配糖体が、(6S,9R)−ボミフォリオール−9−O−β−D−アピオフラノシル−(1→6)−β−D−グルコピラノシドである請求項1又は2記載の抗発癌プロモーター剤。
- メガスチグマン配糖体が、(6R,9R)−3−オキソ−α−イオニル−9−O−β−D−グルコピラノシドである請求項1又は2記載の抗発癌プロモーター剤。
- メガスチグマン配糖体が、(6R,9R)−3−オキソ−α−イオニル−9−O−β−D−キシロピラノシル−(1→6)−β−D−グルコピラノシドである請求項1又は2記載の抗発癌プロモーター剤。
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