JP4025833B2 - 遺伝子の分析方法およびそれに用いる遺伝子分析用キット並びに遺伝子分析装置 - Google Patents

遺伝子の分析方法およびそれに用いる遺伝子分析用キット並びに遺伝子分析装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、遺伝子、すなわちデオキシリボ核酸(以下「DNA」という)およびリボ核酸(以下「RNA」という)の分析方法に関し、詳しくは、凝集性物質の凝集程度の測定により短時間で簡単に遺伝子の分析を行うことが可能な遺伝子の分析方法およびそれに用いる遺伝子分析用キット並びに遺伝子分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の遺伝子工学に関する技術の革新は目覚ましく、特に、ポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)法の開発により、目的とするDNAの大量複製が可能となった。
【0003】
PCR法は、DNAポリメラーゼがプライマーなしでは働かないという原理に基づくものであり、試料中のDNAを熱で変性させて一本鎖とし、ついで温度を下げてプライマーを結合させ、この状態で耐熱性DNAポリメラーゼによりDNA合成するという、一連のサイクルを繰り返すことにより、DNAを大量に増幅させるものである。したがって、特定のプライマーを予め化学合成等により準備して用いれば、目的とするDNAを大量に調製することができる。ここで、目的とするDNAが調製されたか否かの判断は、従来、電気泳動法、ドットブロット法、PCR−SSCP(Single Strand Conformation Polymorphism)法およびPCR−蛍光法等により行われていた。
【0004】
前記電気泳動法は、電界をかけたゲル中の遺伝子の移動度の差を検出する方法であり、遺伝子の分析方法としては一般的な方法である。前記ドットブロット法は、試料より抽出した遺伝子を段階的に薄めていってニトロセルロースフィルターやナイロン膜に等容量スポットし、放射性同位元素(32P)によって標識されたDNAまたはRNA等とハイブリダイズさせた後、X線フィルムに露光して解析するか、その後スポットに対応する部分の膜を切り取ってシンチレーションカウンターで計測し対象物の量の増減を診断する方法である。前記PCR−SSCP法は、放射能(32P)標識されたプライマーを用いて試料DNAをPCR法により増幅した後、得られた標識DNA断片を加熱変性して一本鎖DNAとし、これを中性のポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離して、オートラジオグラフィーによりバンドの位置を検出する方法である。そして、PCR−蛍光法は、インターカレーター性蛍光物質の存在下でPCRを行い、その蛍光強度の変化を追跡することによって標的核酸の初期量を求める1段階の測定方法である(医学のあゆみ、Vol.173 No.12 1995.6.17 p959−p963)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの分析方法は、特別な装置を必要とし、操作が煩雑で時間がかかり、分析方法によっては分析対象遺伝子が限定されるという問題があった。
【0006】
具体的にいうと、まず、前記電気泳動法では、電気泳動の担体となるゲルを予め調製する作業があり、電気泳動に約75分の長時間を必要とする。前記ドットブロット法およびPCR−SSCP法では、通常、放射性同位元素を用いるため安全性に問題があり、放射性同位元素を用いない方法では、DNAプローブに蛍光物質または発光物質で標識する必要があるため繁雑となり、また膜転写の操作にも時間がかかる。そして、PCR−蛍光法では、蛍光光度計を必要とし、また一本鎖DNAの検出が困難であるという問題がある。また、これら従来の分析方法に共通する問題として、試料中に遺伝子以外の他の物質が混在すると分析ができないという問題がある。このため、PCRを行った試料(PCR産物)について分析する場合は、予め精製する必要があり煩雑であった。
【0007】
本発明は、前記従来の問題を解決するためになされたもので、迅速かつ簡単で分析対象遺伝子が限定されない遺伝子の分析方法およびそれに用いる遺伝子分析用キット並びに遺伝子分析装置の提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明の遺伝子の分析方法は、分析対象試料と、凝集性物質と、遺伝子結合性凝集促進性物質とを準備し、前記試料に前記遺伝子結合性凝集促進性物質および前記凝集性物質を供給し、前記凝集性物質の凝集程度を測定する。
【0009】
すなわち、本発明の遺伝子の分析方法では、遺伝子結合性凝集促進性物質が、遺伝子に結合すると、凝集性物質の凝集が促進されないことを利用するものである。したがって、凝集性物質の凝集程度を測定すれば、分析対象試料中の遺伝子の存在の確認やその量を測定できる。そして、この凝集程度の測定は、後述のように、目視や分光光度計による吸光度の測定等により行うことができ、特別の装置を必要とすることなく簡単に行える。このように、本発明の遺伝子の分析方法では、遺伝子結合性凝集促進性物質および凝集性物質の添加、凝集程度の測定という単純な操作で構成されているため、簡単な分析方法となっている。また、凝集性物質の凝集は、1〜2秒の短時間でおこり、凝集程度の測定も短時間で行うことができため、本発明の遺伝子の分析方法は、分析操作全体を短時間で迅速に行うことができる。さらに、本発明の遺伝子の分析方法は、精製を行わないPCR産物のような他の物質が混在する試料であっても、遺伝子の分析が可能な方法である。
【0010】
本発明において、「遺伝子結合性凝集促進性物質」とは、遺伝子に結合する性質と、凝集性物質の凝集を促進させる性質とを併せ持ち、遺伝子に結合すれば凝集を促進できなくなる物質をいう。また、本発明において「凝集性物質」とは、前記遺伝子結合性凝集促進性物質により、速やかに凝集する物質をいう。
【0011】
また、本発明の遺伝子の分析方法において、前記試料に対する前記遺伝子結合性凝集促進性物質および凝集性物質の供給順序は特に限定するものではなく、前記両者を同時に供給してもよく、若しくは前記遺伝子結合性凝集促進性物質を供給した後、前記凝集性物質を供給してもよい。
【0012】
本発明の遺伝子の分析方法において、分析対象となる遺伝子としては、例えば、一本鎖DNA、二本鎖DNA、RNA、RNAとDNAの複合体、PNA(Peptide nucleic acid)等がある。
【0013】
そして、本発明の遺伝子の分析方法は、分析対象試料として、PCR産物を用いる場合に有効な分析方法となる。先に述べたように、PCR法は目的とするDNAを増幅する方法であるが、試料中に目的とするDNAがない場合にはPCR産物中のDNA量は微量なものとなる。したがって、PCR産物を分析対象試料として本発明の遺伝子の分析方法を適用すれば、凝集性物質の凝集程度を測定することにより、すなわち、凝集の有無を判定することにより、短時間で簡単に目的DNAが増幅されたか否かが確認できる。また、凝集程度とDNA量との関係を示す検量線を予め作成しておけば、増幅されたDNA量を測定することもできる。
【0014】
この他に、ストランド ディスプレースメント アンプリフィケーション法(Strand displacement amplification、SDA法)によりDNAの増幅操作を行った試料、リガーゼチェーンリアクション(LCR)法によりDNAの増幅操作を行った試料、Qβレプリカーゼを用いたRNAの増幅方法(Qβ法)によりRNAの増幅操作を行った試料にも、本発明の遺伝子の分析方法を適用すれば、PCR法の場合と同様に、好結果を得ることができる。
【0015】
なお、前記SDA法としては、Nucleic Acids Research,Vol.20.No.7 1691−1696に記載の方法があげられる。
【0016】
また、前記LCR法とは、94℃でも熱変性しない耐熱性DNAリガーゼを使用することに特徴を有するDNA増幅法であり、この方法は、ミスマッチをもたない正常人のDNA試料の場合には用いた2種類のオリゴヌクレオチドがDNAリガーゼによって接続され、つぎの反応サイクルの基質となって次々と増幅されるのに対し、ミスマッチをもつ場合は接続されないためそこで反応が止まってしまうという原理に基づく。
【0017】
また、前記Qβ法は、RNAレプリカーゼの一種で基質となるRNAと特異性が高いQβレプリカーゼを用いてRNAを増幅する方法である。具体的には、まず、T7 RNAポリメラーゼのプロモーターの下流にMDV−1・RNA(DNA化したもの)をつないだプラスミドベクターを据え、増幅したいDNA断片をMDV−1の間に挿入する(20〜800bp程度が挿入可能)。つぎに、制限酵素で切断してからT7 RNAポリメラーゼを働かせ、これをRNA化する。挿入断片を含んだMDV−1・RNAは、以後のQβレプリカーゼによる複製サイクルを繰り返すことにより増幅させることができる。
【0018】
さらに、本発明の遺伝子の分析方法の適用範囲はこれらの試料に限定されず、3SR法、NASBA法、CPR法、SIR法等によりDNAあるいはRNAの増幅操作を行った試料についてもPCR法と同様に適用することができる。なお、NASBA法はRNAの増幅方法であり、その他の方法はDNAの増幅方法である。
【0019】
本発明の遺伝子の分析方法において、分析対象となる遺伝子が二本鎖DNAである場合(前記二本鎖DNA増幅試料を含む)、遺伝子結合性凝集促進性物質としては、例えば、下記の式(化1)で表される4´,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、エチジウムブロマイド(EtBr)、チアゾールオレンジ、下記の式(化2)で表されるビスベンゾイミド(ヘキスト33258、ヘキスト社製)およびアクリジンオレンジがあげられる。この他に、SYBRGreen I(商品名、モレキュラープローブス社製)があげられる、このなかでも、DAPIが好ましい。これは、DAPIが二本鎖DNAとより選択的に複合体を形成し、他の物質、例えばRNAには結合しにくいという性質を持ち、このため、RNA等の他の遺伝子が混在する試料であっても、二本鎖DNAを選択的に検出できるからである。
【0020】
【化1】
Figure 0004025833
【0021】
【化2】
Figure 0004025833
【0022】
本発明の遺伝子の分析方法において、分析対象となる遺伝子がRNAの場合(前記RNA増幅試料を含む)、遺伝子結合性凝集促進性物質としては、例えば、EtBr、チアゾールオレンジ、前記式(化2)で表されるビスベンゾイミド(ヘキスト33258、ヘキスト社製)、アクリジンオレンジがあげられる。この他に、SYBR Green II (商品名、モレキュラープローブス社製)もあげられる。このなかで、SYBR Green II が、よりRNAと選択的に複合体を形成する。
【0023】
本発明の遺伝子の分析方法において、分析対象の遺伝子が一本鎖DNAの場合、遺伝子結合性凝集促進性物質としては、前記SYBR Green II があげられる。
【0024】
本発明の遺伝子の分析方法において、分析対象の遺伝子がRNAとDNAの複合体の場合、遺伝子結合性凝集促進性物質としては、例えば、先に述べた、DNA結合性凝集促進性物質、RNA結合性凝集促進性物質を使用できる。
【0025】
本発明の遺伝子の分析方法において、前記凝集性物質としては、銀コロイド、金コロイド、銅コロイドおよびラテックスが好ましい。これらは、作製が簡単で取扱いが容易だからである。前記ラテックスの種類としては、例えば、着色ラテックス、カルボキシル化ラテックス、アミノ化ラテックスがあげられる。なお、前記銀コロイド等は、市販品を使用してもよいし、常法により調製して使用してもよい。
【0026】
本発明の遺伝子の測定方法において、目的とする遺伝子の検出を行う場合は、前記凝集程度の測定を、目視による測定で行うことが簡単で好ましい。また、本発明の遺伝子の測定方法において、目的とする遺伝子の量や濃度を測定する場合は、前記凝集程度の測定を、分光光度計による吸光度の測定により行えば、正確な測定ができて好ましい。
【0027】
そして、本発明の遺伝子分析用キットは、遺伝子結合性凝集促進性物質を含有する試薬R1と、凝集性物質を含有する試薬R2とを備える。このキットを用いれば、本発明の遺伝子の分析方法が、さらに迅速かつ簡単に実施できるようになる。
【0028】
また、本発明の遺伝子分析装置は、遺伝子結合性凝集促進性物質を含有する試薬R1を分析対象試料に供給する手段と、凝集性物質を含有する試薬R2を前記試薬R1が供給された分析対象試料に供給する手段と、前記試薬R1およびR2が添加された前記分析対象試料中の前記凝集性物質の吸光度を測定する光学測定系とを備える装置である。この装置を用いることにより、遺伝子分析を自動的に行うことが可能となる。
【0029】
【発明の実施の形態】
つぎに、本発明の遺伝子の分析方法の実施の形態について説明する。
【0030】
図1に、本発明を、PCRを行った試料に適用した例を示す。この図では、右側にターゲットDNAが存在しない試料についてPCRを行った例を、左側にターゲットDNAについてPCRを行った例を、それぞれ示す。
【0031】
まず、同図(a)に示すように、DNA試料を準備する。この試料には、DNAの他に、2つのプライマー1、2と、DNAポリメラーゼ(図示せず)およびデオキシリボヌクレオチドトリフォスフェート(dNTP、図示せず)が添加されている。そして、この試料を加熱すると、DNAが熱変性して一本鎖DNAに解離する。そして、試料を冷却すると、ターゲットDNAにはプライマー1、2が相補的に結合するが、ターゲットDNA以外には結合しない。そして、DNAポリメラーゼの作用により、同図(b)に示すように、ターゲットDNAでは伸長反応が起るが、ターゲットDNA以外では、プライマーが結合していないため、伸長反応は起らない。そして、前記の一連の操作を約20〜30回繰り返すと同図(b)に示すように、ターゲットDNAは大量に増幅されるが、ターゲットDNAを含まない試料では全く増幅されない。
【0032】
そして、同図(c)に示すように、試料に遺伝子結合性凝集促進性物質を加えると、2本鎖DNA中にインターカレートされて結合する。したがって、図示のように、ターゲットDNAの試料では、二本鎖DNAが多数存在し、これに前記遺伝子結合性凝集促進性物質がほぼ全部結合する。これに対し、ターゲットDNAを含まない試料では、二本鎖DNAがほとんど存在しないため、前記遺伝子結合性凝集促進性物質の大部分は、試料中において遊離状態で存在している。そして、同図(d)に示すように、凝集性物質の一つである銀コロイドを試料に添加する。すると、図示のように、ターゲットDNA試料では、前記遺伝子結合性凝集促進性物質がDNAに結合しているため、前記銀コロイドは、凝集しても僅かであり肉眼による目視観察では無視できるものである。これに対し、ターゲットDNAを含まない試料では、ほとんどの前記遺伝子結合性凝集促進性物質が遊離状態で存在し、これが前記銀コロイドの凝集を促進する。そして、この凝集は、肉眼による目視観察で容易に検出できる。
【0033】
したがって、銀コロイドの凝集が観察された試料中には、ターゲットDNAが存在しないと判断でき、銀コロイドの凝集が観察されず、観察されたとしても僅かである場合は、試料中にターゲットDNAが存在すると判断できる。このように、本発明によれば、従来の電気泳動法等のように、特別の装置を使用することなく、簡単かつ短時間で遺伝子の分析を行うことができる。
【0034】
なお、本発明の遺伝子の分析方法において、遺伝子結合性凝集促進性物質(a)および凝集性物質(b)の添加割合は、分析対象となる遺伝子の種類等により適宜決定されるが、通常、容積比として、a:b=1:9の割合である。
【0035】
また、本発明において、分光光度計を用いた吸光度測定により凝集程度を測定する場合、前記吸光度は、凝集性物質の種類により適宜決定される。例えば、銀コロイドの吸光度は390nmであり、金コロイドの吸光度は、520nmである。
【0036】
つぎに、本発明の遺伝子分析用キットは、遺伝子結合性凝集促進性物質を含有する試薬R1および凝集性物質を含有する試薬R2を備える。
前記試薬R1は、前記遺伝子結合性凝集促進性物質の他に、他の成分を含有してもよい。また、前記試薬R2も、前記凝集性物質の他に、例えば、ポリリン酸、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、界面活性剤等の安定化剤を含有してもよい。
【0037】
本発明の遺伝子分析用キットの使用方法は、前述の方法と同様であり、分析対象試料に前記試薬R1および試薬R2をこの順序で添加して混合し、この試料中の前記凝集性物質の凝集程度を測定すればよい。このキットを用いれば、予め必要な成分が適量配合されているため、従来のように分析の度に試薬を調製する必要がなくなり、さらに迅速かつ簡単な遺伝子の分析が可能となる。
【0038】
つぎに、本発明の遺伝子分析装置の構成の一例を図2に示す。図示のように、この装置は、試薬R1の供給手段1と、試薬R2の供給手段2と、光学測定系とを備える。前期試薬R1およびR2の供給手段1、2は、通常、ポンプ、ステッピングモーター(またはDCモーター)、シリンジ等から構成されており、試薬R1と試薬R2とが、この順序で試料に供給されるように制御される。前記光学測定系は、光源3、レンズ4、フィルター6、検出器8、信号増幅機9、演算器(中央処理装置)8および表示器11とから構成されている。そして、試料を注入するセル5は、レンズ4とフィルター6との間に配置される。
【0039】
この装置において、遺伝子の分析はつぎのようにして行われる。まず、分析対象試料が注入されたセル5に、供給手段1、2により、試薬R1およびR2が順次供給される。そして、光源3から、照射された特定波長の光が、レンズ4、セル5、フィルター6を、この順序で透過し、検出器8に到達する。この検出器8により、光の強度が電気信号に変換され、この電気信号が信号増幅機9により増幅され、さらに演算器10により演算処理され、この演算された結果が、表示器11に表示される。
【0040】
つぎに、本発明の遺伝子分析装置の他の構成例を図3に示す。この図に示す装置は、スペクトルの差をとる装置であり、基本的構成は図2の装置と同一であり、図2と同一部分には同一符号を付している。
【0041】
図示のように、この装置は、サンプルの吸光度を測定する系列と、ブランクを測定する系列とを有する。すなわち、まず、分析対象試料が注入されたセル5aと、精製水あるいはバッファーが注入されたセル5bに、供給手段1、2により、試薬R1およびR2がそれぞれ供給される。そして、光源3から照射された特定波長の光が、それぞれ、レンズ4a,4b、セル5a,5b、フィルター6a,6bを、この順序で透過し、それぞれ検出器8a,8bに到達する。そして、これら検出器8a,8bにより、サンプルおよびブランクの透過光の強度が電気信号に変換され、この電気信号が信号増幅機9a,9bにより増幅されて、演算器10に送られる。この演算器10において、電気信号を演算処理するとともにサンプルの透過光の強度からブランクの透過光の強度が差し引かれ、この結果が、表示器11に表示される。このように、差スペクトルをとる装置によれば、他の物質の吸光等の影響を排除でき、より正確な結果を得ることができる。
【0042】
なお、以上の説明において、PCRにより増幅された二本鎖DNAを分析対象遺伝子とした例をとりあげたが、本発明はこれに限定するものではなく、この他SDA法により増幅された二本鎖DNA、LCR法により増幅された二本鎖DNA、RNA、Qβ法により増幅されたRNA、一本鎖DNA、RNAとDNAの複合体等にも適用が可能である。これらの遺伝子を分析する場合も、分析対象の遺伝子に合わせて遺伝子結合性凝集促進性物質を適宜選択して使用する他は、前述と同様の操作を行えばよく、これにより迅速かつ簡単なRNA等の遺伝子の分析ができる。
【0043】
【実施例】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【0044】
(実施例1)
まず、以下に示す成分を精製水に溶解してPCRバッファーを調製した。
Figure 0004025833
【0045】
そして、このPCRバッファー10μlに下記に示す成分を添加して、PCR反応液を調製した。なお、下記のプライマー1、2は、下記のλDNAの6012塩基対(bp)部位を増幅するように設計されたプライマーである。
【0046】
Figure 0004025833
【0047】
そして、このPCR反応液を用い、以下のサイクルでPCRを行った。
(PCRサイクル)
ステップa(94℃10分):1サイクル
ステップb(94℃1分)→ステップc(68℃4分):30サイクル
ステップd(68℃7分):1サイクル
【0048】
つぎに、DNA精製を行った。すなわち、まず、得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動(150mA,2時間)にかけ、目的のDNA画分を分離した。そして、目的とするDNAのバンドがあるゲル部分を切り出した。切り出したゲルを、Tris−Acetate(TAE)バッファーとともに透析チューブに入れてチューブの両端をシーラーで閉じた。この透析チューブを、その長軸が電場の方向と直角方向になるように電気泳動槽内に設置し、槽内をTAEバッファーで満たし、通電した(150mA、3時間)。通電終了後、透析チューブ内のTAEバッファーを回収し、これを遠心管に移し、エタノール沈殿を行った。そして得られた沈殿を蒸留水に溶解し、これを精製DNA試料とした。
【0049】
つぎに、得られた精製DNA試料40μlにDAPI水溶液(濃度:10-4mol/l)10μlを加えて混合した。この混合液に、銀コロイド水溶液(濃度:0.17mg/ml)360μlを加えて、凝集程度を測定した。この測定は、目視による外観観察と、分光光度計での吸光度(390nm)の測定により行った。この結果を、下記の表1に示す。
【0050】
なお、対照として、DNAに代えて、蒸留水1μlを用いた他は、実施例1と同様にしてPCRおよび精製を行い、さらに実施例1と同様にして、DAPIおよび銀コロイドを添加し、凝集程度の測定を行った。この結果も下記の表1に示す。
【0051】
【表1】
Figure 0004025833
【0052】
前記表1に示すように、λ−DNAの6012bp部位をPCRで増幅した場合と、増幅しなかった場合(対照)とでは、外観観察および吸光度の測定において、明らかな差異が認められた。これらの結果から、本発明の遺伝子の分析方法により、PCR法によりDNAが複製されたか否かが、迅速かつ簡単に判別できるといえる。
【0053】
(実施例2)
濃度8ODのλ−DNA(48502bp)40μlに、濃度10-4MのDAPI溶液5μlを加え、さらに銀コロイド360μlを加えて、実施例1と同様にして凝集程度を測定した。この結果を、下記の表2に示す。
【0054】
なお、対照として、精製水40μlに、濃度10-4MのDAPI溶液5μlを加え、さらに銀コロイド360μlを加えて、実施例1と同様にして凝集程度を測定した。この結果も下記の表2に示す。
【0055】
【表2】
Figure 0004025833
【0056】
前記表2に示すように、λ−DNAが存在する場合と、存在しない場合(対照)とでは、外観観察および吸光度の測定において、明らかな差異が認められた。
【0057】
(実施例3)
1本鎖オリゴDNA(東亜合成化学社、塩基数:30mer)を準備した。この塩基配列を下記に示す。
Figure 0004025833
【0058】
つぎに、濃度1ODの前記オリゴDNA30μlに、濃度10-4MのDAPI溶液10μlを加え、さらに銀コロイド360μlを加えて、実施例1と同様にして凝集程度を測定した。この結果を、下記の表3に示す。
【0059】
なお、対照として、精製水30μlに、濃度10-4MのDAPI溶液10μlを加え、さらに銀コロイド360μlを加えて、実施例1と同様にして凝集程度を測定した。この結果も下記の表3に示す。
【0060】
【表3】
Figure 0004025833
【0061】
前記表3に示すように、1本鎖オリゴDNAが存在する場合と、存在しない場合(対照)とでは、外観観察および吸光度の測定において、明らかな差異が認められた。この結果から、本発明の遺伝子の分析方法により、1本鎖オリゴDNAの存在が、迅速かつ簡単に判別できるといえる。
【0062】
(実施例4)
濃度8ODのλ−DNA(48502bp)40μlに、濃度10-4MのDAPI溶液5μlを加え、さらに金コロイド360μlを加えて、実施例1と同様にして凝集程度を測定した。この結果を、下記の表4に示す。
【0063】
なお、対照として、精製水40μlに、濃度10-4MのDAPI溶液5μlを加え、さらに金コロイド360μlを加えて、実施例1と同様にして凝集程度を測定した。この結果も下記の表4に示す。
【0064】
【表4】
Figure 0004025833
【0065】
前記表4に示すように、λ−DNAが存在する場合と、存在しない場合(対照)とでは、外観観察および吸光度の測定において、明らかな差異が認められた。
【0066】
(実施例5)
実施例1と同様にしてPCRを行い、PCR産物を得た。このPCR産物についてDNA精製を行わずに、実施例1と同様にしてそのまま凝集程度を測定した。その結果を下記の表5に示す。
【0067】
なお、対照として、DNAに代えて、蒸留水1μlを用いた他は、実施例5と同様にしてPCRを行い、さらに実施例5と同様にして、凝集程度の測定を行った。この結果も下記の表5に示す。
【0068】
【表5】
Figure 0004025833
【0069】
前記表5に示すように、λ−DNAの6012bp部位をPCRで増幅した場合と、増幅しなかった場合(対照)とでは、外観観察および吸光度の測定において、明らかな差異が認められた。これらの結果から、本発明の遺伝子の分析方法により、精製しないPCR産物についても、DNAが複製されたか否かが、迅速かつ簡単に判別できるといえる。
【0070】
(実施例6)
各種濃度(33.5mg/ml,27mg/ml,16.75mg/ml,3.35mg/ml)のλ−DNA(48502bp)80μlに、濃度10-4MのDAPI溶液10μlを加え、さらに銀コロイド720μlを加え、390nmの吸光度を測定し、DNA濃度と吸光度との関係を調べた。この結果を、図4のグラフに示す。
【0071】
図4のグラフに示すように、DNA濃度が高くなるにしたがい、吸光度も直線的に上昇した。このグラフは、検量線として使用できるため、これを用いれば、分析対象試料中のDNA濃度を測定することが可能となる。
【0072】
【発明の効果】
以上のように、本発明の遺伝子の分析方法は、電気泳動法等による従来の遺伝子の検出方法と比べて、特別な装置を必要とすることなく、迅速かつ簡単に遺伝子の分析を行うことができ、しかも分析対象の遺伝子の種類を問わない。このため、本発明の分析方法を、例えば、PCR法に適用すれば、目的とするDNAの増幅を短時間で簡単に確認することができ、つぎの段階の実験への移行を判断することができる。また、本発明の分析方法は、精製を行わないPCR産物のように、他の物質が混在している試料であっても、遺伝子の分析が可能である。そして、本発明の分析方法は、その操作が単純であるため、分析を自動化することが可能であり、これによりさらに迅速かつ簡単に遺伝子の分析ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図(a)〜(d)は、本発明の遺伝子の分析方法をPCRに適用した場合の実施例の一連の操作を示す説明図である。
【図2】本発明の遺伝子分析装置の一実施例の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の遺伝子分析装置のその他の実施例の構成を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施例におけるDNA濃度と吸光度の関係を示すグラフである。

Claims (13)

  1. 遺伝子の分析方法であって、
    分析対象試料と凝集性物質と遺伝子結合性凝集促進性物質とを準備すること、
    前記試料に前記遺伝子結合性凝集促進性物質及び前記凝集性物質を供給すること、
    並びに、前記凝集性物質の凝集程度を測定することを含み、
    前記遺伝子結合性凝集促進性物質が、遺伝子に結合する性質と凝集性物質の凝集を促進させる性質とを併せ持ち、かつ、遺伝子に結合すれば凝集を促進できなくなる物質である遺伝子の分析方法。
  2. 分析対象となる遺伝子が二本鎖デオキシリボ核酸(DNA)である請求項1記載の遺伝子の分析方法。
  3. 分析対象試料が、ポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)法によりDNAの増幅操作を行った試料、ストランド ディスプレースメントアンプリフィケーション法(SDA法)によりDNAの増幅操作を行った試料およびリガーゼチェーンリアクション(LCR)法によりDNAの増幅操作を行った試料から選択された少なくとも一つの試料である請求項1または2記載の遺伝子の分析方法。
  4. 分析対象となる遺伝子がリボ核酸(RNA)である請求項1記載の遺伝子の分析方法。
  5. 分析対象試料が、Qβレプリカーゼを用いたRNAの増幅方法(Qβ法)によりRNAの増幅操作を行った試料である請求項1または4記載の遺伝子の分析方法。
  6. 分析対象となる遺伝子が一本鎖DNAである請求項1記載の遺伝子の分析方法。
  7. 分析対象となる遺伝子がRNAとDNAの複合体である請求項1記載の遺伝子の分析方法。
  8. 遺伝子結合性凝集促進性物質が、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール、エチジウムブロマイド、ビスベンゾイミドおよびアクリジンオレンジからなる群から選択された少なくとも一つの物質である請求項1〜3のいずれか一項に記載の遺伝子の分析方法。
  9. 遺伝子結合性凝集促進性物質が、エチジウムブロマイド、チアゾールオレンジ、ビスベンゾイミドおよびアクリジンオレンジからなる群から選択された少なくとも一つである請求項1、4および5のいずれか一項に記載の遺伝子の分析方法。
  10. 凝集性物質が、銀コロイド、金コロイド、銅コロイドおよびラテックスからなる群から選択された少なくとも一つの物質である請求項1〜9のいずれか一項に記載の遺伝子の分析方法。
  11. 凝集程度の測定が、目視による測定である請求項1〜10のいずれか一項に記載の遺伝子の分析方法。
  12. 凝集程度の測定が、分光光度計による吸光度の測定である請求項1〜10のいずれか一項に記載の遺伝子の分析方法。
  13. 請求項1から12のいずれか一項に記載の遺伝子の分析方法を行うためのキットであって、前記遺伝子結合性凝集促進性物質を含有する試薬R1と、前記凝集性物質を含有する試薬R2とを備える遺伝子分析用キット。
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