JP4025607B2 - 表面被覆Ti基サーメット製切削工具 - Google Patents

表面被覆Ti基サーメット製切削工具 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面被覆Ti基サーメット製切削工具に関し、特に、サーメット基体に対する密着性に優れ、高速切削においても硬質被覆層に剥離が発生することなく、優れた切削性能を長期に亘って発揮する表面被覆TiCN系サーメット製切削工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、Tiを主成分とする硬質相と、Coおよび/またはNiの結合相からなるTi基サーメット基体の表面に、化学蒸着法や物理蒸着法を用いて
TiC、TiN、TiCN等の硬質被覆層を被覆した表面被覆Ti基サーメット製切削工具が、鋼などの連続切削や断続切削などに用いられている。
【0003】
中でも、結合相としてCoとNiとを所定の比率で共に含有するサーメットは、Co結合相がNi結合相よりも室温から高温にわたって硬度に優れることから耐塑性変形性に優れ、またNiを添加することにより硬質粒子の濡れ性を改善して焼結体の強度を向上できることから切削工具として好適に用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記CoとNiとを共に含有するTi基サーメットに硬質被覆層を成膜した場合、硬質被覆層と基体の界面に両者間の熱膨張係数差およびコーティング方法に起因する圧縮応力によって高い剪断応力が発生する結果、硬質被覆層の密着性が損なわれてしまい、特に湿式切削等の急激な温度変化を伴うような切削や高速断続切削等の過酷な切削条件では硬質被覆層が基体から剥離してしまう場合があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、急激な温度変化を伴う切削や高速断続切削のような過酷な切削条件であっても密着性が高く、耐欠損性および耐摩耗性に優れた硬質被覆層を形成した表面被覆Ti基サーメット製切削工具を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述のような観点から、硬質被覆層の密着性に優れたTi基サーメットの構成について検討した結果、サーメット基体表面の結合金属相の組成をコントロールすることによって基体表面の高温における高強度が維持でき、耐熱衝撃性および耐塑性変形性が向上する結果、急激な温度変化を伴うような過酷な切削条件においても硬質被覆層が剥離することを防止して耐欠損性および耐摩耗性に優れた切削工具となることを知見した。
【0007】
すなわち、本発明の表面被覆Ti基サーメット製切削工具は、基体表面付近におけるCo含有量/Ni含有量の比Rsと前記サーメット基体内部におけるCo含有量/Ni含有量の比Riとが1<Rs/Ri≦1.3からなることを特徴とするものである。
【0008】
ここで、前記サーメット基体の極表面に、結合相濃度が次第に増加する結合相富化領域が存在すること、3.1≦Rs≦3.7、3.0≦Ri≦3.1であることが望ましい。
【0009】
また、本発明の表面被覆Ti基サーメット製切削工具の製造方法は、平均粒径0.9μm以下のTiCN粉末と、W、Mo、Ta、V、ZrおよびNbのうちの1種以上を含有する炭化物粉末、窒化物粉末、炭窒化物粉末の少なくとも1種と、Co含有量/(Co含有量+Ni含有量)の比が50〜90重量%のCoとNiの固溶体粉末とを混合した混合粉末を成形した後、室温から1300℃まで昇温し、次に、1300℃から1400〜1500℃の焼成温度Aまで5〜15℃/minの昇温速度Aで昇温し、さらに、1500〜1600℃の焼成温度Bまで4〜14℃/minの昇温速度Aよりも遅い昇温速度Bで昇温して保持し、降温する条件で焼成して、前記サーメット基体表面におけるCo含有量/Ni含有量の比Rsと前記サーメット基体内部におけるCo含有量/Ni含有量の比Riとが1<Rs/Ri≦1.3としたTi基サーメット基体に、(Tix,M1−x)(CyN1−y)(ただし、MはTi以外の周期律表4a、5aおよび6a族金属、Al、Siのうちの1種以上、0.4≦x≦1,0≦y≦1)で表わされる硬質被覆層を被覆することを特徴とするものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の表面被覆Ti基サーメット製切削工具は、Coおよび/またはNiからなる結合相:1〜30重量%にて、Tiと、Ti以外の周期律表4a、5aおよび6a族金属のうちの1種以上との複合金属炭窒化物からなる硬質相を結合してなるTi基サーメット基体の表面に、(Tix,M1−x)(CyN1−y)(ただし、MはTi以外の周期律表4a、5aおよび6a族金属、Al、Siのうちの1種以上、0<x≦1,0≦y≦1)で表わされる硬質被覆層を単層または2層以上被覆してなるものである。
【0011】
本発明によれば、前記サーメット基体表面におけるCo含有量/Ni含有量の比Rsが前記サーメット基体内部におけるCo含有量/Ni含有量の比Riより大きいことを特徴とするものであり、これによって、サーメットの表面が高温になった場合には、サーメット基体表面に多く存在するCoが変態することによって高温強度の低下を抑制してサーメットの特に熱衝撃が加わる基体表面の耐熱衝撃性および耐塑性変形性を向上させることができることから、特に、急激な温度変化を伴うような湿式切削や高速断続切削等の過酷な切削条件においても硬質被覆層の剥離や基体表面の塑性変形を引き起こすことなく、耐欠損性および耐摩耗性に優れた切削工具となる。
【0012】
また、本発明においては、前記サーメット基体の極表面に、結合相(Co含有量+Ni含有量)濃度が次第に増加する結合相富化領域が存在することが望ましく、これによって、前記硬質被覆層の前記サーメット基体との間に発生する剪断応力を緩和して両者間の密着性を著しく向上せしめることができることから、切削工具の耐欠損性を向上させることができる。なお、本発明において、硬質被覆層の密着性を確保するとともに、熱伝導率が悪く、高温になりやすいTi基サーメット基体の基体表面における熱伝導率を高め、かつ工具切刃における塑性変形を抑制する点で、前記結合相富化領域の厚みは0.01〜5μm、さらに1〜3μm、さらに1〜2.5μmであることが望ましい。
【0013】
さらに、サーメットの耐熱衝撃性および耐塑性変形性向上の点で、前記サーメット基体の前記比Rsと前記比Riとが、1<Rs/Ri≦1.3、特に1.1≦Rs/Ri≦1.2、すなわち、結合相富化領域表面の結合相濃度が内部に対して1倍より大きく1.2倍以下であることが望ましい。
【0014】
一方、本発明においては、焼結性および耐摩耗性、耐塑性変形性の点で、結合相の含有量が1〜30重量%であることが重要である。すなわち、結合相の含有量が1重量%未満では所望の強度および耐摩耗性を得ることができず、逆に結合相の含有量が30重量%を越えると急激に耐摩耗性が低下する。結合相の望ましい含有量は4〜20重量%である。
【0015】
さらに、本発明のTi基サーメット基体は、硬質相として、Tiと、Ti以外の周期律表4a、5aおよび6a族金属のうちの1種以上、特にW、Zr、V、Ta、Nb、Mo、Cr、Hfの群から選ればれる少なくとも1種との複合金属炭窒化物からなり、特に、硬質相は、Ti(TiCN)からなる芯部と、Tiと、W、Mo、TaおよびNbのうちの1種以上との複合化合物からなる周辺部とから構成される2重有芯構造、または3重有芯構造をなしていることが、粒成長制御効果を有しサーメット基体が微細で均一な組織となるとともに、結合相との濡れ性に優れてサーメットの高強度化に寄与する点で望ましい。
【0016】
また、硬質被覆層との密着性、熱伝導率向上、塑性変形の抑制の点でサーメット基体の表面における硬質相の平均粒径r1が、サーメット基体内部におけるそれr2よりも大きいことが望ましく、さらに、r1=0.5〜2μm、r2=0.2〜1μmであることが望ましい。
【0017】
さらには、本発明によれば、サーメット基体表面に、(Tix,M1−x)(CyN1−y)(ただし、MはTi以外の周期律表4a、5aおよび6a族金属、Al、Siのうちの1種以上、0.4<x≦1,0≦y≦1)で表わされる硬質被覆層(以下、Ti系被覆層と略す。)を被覆してなるが、かかるTi系被覆層はサーメット母材の直上に形成することが望ましく、さらには、高硬度や高温安定性などの耐熱性の点で、(Ti,M1)N(ただし、M1はAl、Si、ZrおよびCrの群から選ばれる1種)、最適には(Tix,Al1−x)Nからなる硬質被覆層を被覆することが望ましい。
【0018】
また、硬質被覆層としては、上記Ti系被覆層に加えて、例えば、ダイヤモンド、立方晶窒化硼素、アルミナ、Zr、Hf、Cr、Siの炭化物、窒化物、炭窒化物の1種以上からなる他の硬質被覆層を形成することもできる。
【0019】
(製造方法)
次に、上記本発明のサーメット製切削工具を作製する方法について説明する。
まず、平均粒径0.9μm以下のTiCN粉末と、W、Mo、Ta、V、ZrおよびNbのうちの1種以上を含有する炭化物粉末、窒化物粉末、炭窒化物粉末の少なくとも1種と、CoとNiの固溶体粉末とを混合した混合粉末を準備する。
【0020】
本発明によれば、TiCN原料粉末として平均粒径0.9μm以下、特に0.7μm以下の粉末を用いること、およびCoとNiの固溶体粉末のCo含有量/(Co含有量+Ni含有量)の比が50〜90重量%、特に60〜85重量%の固溶体粉末を用いることが重要であり、これに加えて後述する焼成条件にて焼成することにより前述の結合相富化領域を有するサーメットを作製することができる。
【0021】
次に、上記混合粉末を所定形状に成形した後、(a)室温から1300℃まで昇温し、(b)1300℃から1400〜1500℃の焼成温度Aまで5〜15℃/minの昇温速度Aで昇温し、(c)1500〜1600℃の焼成温度Bまで4〜14℃/minで昇温速度Aより遅い昇温速度Bで昇温して保持し、(d)降温する条件で焼成する。
【0022】
ここで、(b)の昇温速度Aが5℃/minより遅いと、Rs/Riを上述した比率とすることができず、かつ焼結体全体が粒成長して耐欠損性が低下する。昇温速度Aが15℃/minより速いと焼結体表面の粒成長が十分でなく、Rs/Riを上述した比率とすることができず、焼結体の耐摩耗性が低下する。また、焼成温度Aが1400℃よりも低いと工程(b)における予備焼結において液相を十分に出現させることができず、逆に焼成温度Aが1500℃を超えると液相出現量が多すぎてサーメット基体の表面に多量のボイドが発生する。
【0023】
また、(c)の昇温速度Bが4〜14℃/minの範囲から逸脱すると、RsをRiより大きくすることができず、さらに、4℃/minより遅いと基体表面において硬質相が粒成長して耐欠損性が低下し、逆に、昇温速度が14℃/minより速いと結合富化領域が3.0μm以上になり耐摩耗性が低下する。さらにまた、焼成温度Bが1500℃よりも低いと基体を十分に緻密化することができないとともにRsをRiよりも大きくすることができず、逆に焼成温度Bが1600℃を超えるとサーメット基体が過焼結となって表面が荒れ、かつ基体の強度が低下する。
【0024】
なお、前記焼成条件で焼成する場合、CoとNiとの固溶体を原料として使用することにより、一層焼結性が改善され、焼結体表面に発生するオープンポアや焼結不良の発生を抑制することができるとともに、RsとRiとを所定の範囲内に制御することができる。
【0025】
さらにまた、本発明においては、(a)の昇温工程において、800〜1100℃から1300℃までの昇温速度は、表面にボイド等の発生がなく平滑な表面をえるために、0.1〜5℃/minとすることが望ましい。
【0026】
そして、得られたサーメット基体に対して所望により研磨等の表面加工処理した後、化学的蒸着法または物理的蒸着法等のコーティング法を用いて硬質被覆層を単層または2層以上被覆することにより、本発明のサーメット製切削工具を作製することができる。また、コーティング法としては、硬質被覆層の粒径を微細化する点で、サーメット基体との反応性の低い物理的蒸着法を用いることが望ましい。
【0027】
【実施例】
原料粉末として、平均粒径0.7μmまたは2μmのTiCN粉末と、いずれも0.5〜2μmのTiN粉末、TaC粉末、NbC粉末、WC粉末、ZrC粉末、VC粉末、および平均粒径2μmのCoとNiとの固溶体粉末(表1中、Co/(Co+Ni)はCo,Ni固溶体粉末中のCo含有比(%)を表す。)を用い、これら原料粉末を表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで18時間湿式混合し、乾燥した。
【0028】
次に、上記混合粉末を用いて、成形圧1ton/cm2でプレス成形し、この成形体を950℃まで12℃/minで昇温し、950℃から1300℃までを2℃/minで昇温した後、表1の焼成条件で焼成してCNMG120408形状のサーメット基体を形成した。
【0029】
得られたサーメット基体のそれぞれの表面に、以下いずれもアーク放電型イオンプレーティング法を用い、表2に示される組成および平均層厚の硬質被覆層を形成することにより本発明の表面被覆TiCN系サーメット製切削工具をそれぞれ製造した。そして、これら切削工具の断面について、EDS(エネルギー分散分光分析法)によって工具表面付近の元素(特にCoとNi)分布を確認し、また、ESCA(X線光電子分光分析法)にて基体極表面における結合相の濃度分布を測定した。結果は表2に示した。
【0030】
また、得られた切削工具について、下記切削条件A、Bにて切削評価を行った。
切削条件A
被削材:SCM435、
切削速度:200m/min、
送り:0.30mm/rev、
切込み:2.0mm、
切削時間:30分
切削油:エマルジョン(湿式)
評価項目:試験後の逃げ面摩耗幅
切削条件B
被削材:S45C
被削材:4本溝入り丸棒、
切削速度:100m/min、
送りおよび切削時間:0.1mm/revで10秒間切削後、送りを0.05mm/revずつ上げて各10秒間ずつ切削(最大送り0.5mm/revまで)
切込み:2mm、
評価項目:欠損するまでの総切削時間
【0031】
【表1】
Figure 0004025607
【0032】
【表2】
Figure 0004025607
【0033】
表1、2に示される結果から、本発明の範囲内である試料No.1〜12では、いずれもサーメット基体と硬質被覆層との密着性がよく、連続切削および断続切削のいずれでも高速切削にもかかわらず、硬質被覆層に剥離の発生なく、優れた切削特性を示している。これに対して、原料粉末の種類、平均粒径、焼成条件の変更によって上記Rs/Riが上記範囲から逸脱する試料No.13〜22では、硬質被覆層のサーメット基体に対する密着性が十分でないために、いずれの切削試験でも硬質被覆層に剥離が発生し、これが原因で使用寿命が短くなった。特に、試料No.21では、硬質被覆層の剥離によって逃げ面摩耗が著しく大きくなった。
【0034】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の表面被覆TiCN系サーメット製切削工具は、サーメット基体と硬質被覆層との密着性に優れているので、これを高速切削や湿式切削等の切削条件においても硬質被覆層に剥離が発生することなく、優れた耐摩耗性を長期に亘って発揮する。

Claims (4)

  1. CoおよびNiからなる結合相:1〜30重量%にて、Tiと、Ti以外の周期律表4a、5aおよび6a族金属のうちの1種以上との複合金属炭窒化物からなる硬質相を結合してなるTi基サーメット基体の表面に、(Tix,M1−x)(CyN1−y)(ただし、MはTi以外の周期律表4a、5aおよび6a族金属、Al、Siのうちの1種以上、0.4≦x≦1,0≦y≦1)で表わされる硬質被覆層を被覆してなる表面被覆Ti基サーメット製切削工具であって、前記サーメット基体表面におけるCo含有量/Ni含有量の比Rsと前記サーメット基体内部におけるCo含有量/Ni含有量の比Riとが1<Rs/Ri≦1.3からなることを特徴とする表面被覆Ti系サーメット製切削工具。
  2. 前記サーメット基体の極表面に、結合相濃度が次第に増加する結合相富化領域が存在することを特徴とする請求項1記載の表面被覆Ti系サーメット製切削工具。
  3. 3.1≦Rs≦3.7、3.0≦Ri≦3.1であることを特徴とする請求項1または2記載の表面被覆Ti系サーメット製切削工具。
  4. 平均粒径0.9μm以下のTiCN粉末と、W、Mo、Ta、V、ZrおよびNbのうちの1種以上を含有する炭化物粉末、窒化物粉末、炭窒化物粉末の少なくとも1種と、Co含有量/(Co含有量+Ni含有量)の比が50〜90重量%のCoとNiの固溶体粉末とを混合した混合粉末を成形した後、室温から1300℃まで昇温し、次に、1300℃から1400〜1500℃の焼成温度Aまで5〜15℃/minの昇温速度Aで昇温し、さらに、1500〜1600℃の焼成温度Bまで4〜14℃/minの昇温速度Aよりも遅い昇温速度Bで昇温して保持し、降温する条件で焼成して、前記サーメット基体表面におけるCo含有量/Ni含有量の比Rsと前記サーメット基体内部におけるCo含有量/Ni含有量の比Riとが1<Rs/Ri≦1.3としたTi基サーメット基体に、(Tix,M1−x)(CyN1−y)(ただし、MはTi以外の周期律表4a、5aおよび6a族金属、Al、Siのうちの1種以上、0.4≦x≦1,0≦y≦1)で表わされる硬質被覆層を被覆することを特徴とする表面被覆Ti基サーメット製切削工具の製造方法。
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