JP4024445B2 - 発酵調味料及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、動物性原材料を発酵処理して得られる発酵調味料、及びその製造方法に関する。この発酵処理して得られる発酵調味料は、食品にこく味を与えるために使用することができ、また、更に加工処理した調味料とし、食品にうま味を与えるために使用することができる。本発明は、このような発酵調味料を含む卓上調味料、食品・飲料にも関する。
【0002】
【従来の技術】
食品加工の調味においては、うま味調味料として種々のものが使用される。その一つが、畜肉残渣、又は水産残渣等動物性タンパク質の加水分解物である。
【0003】
従来、動物性タンパク質の加水分解は、高濃度の塩酸存在下に加熱することにより行われてきた。しかしながら、これらの食品を取り扱う業界では、消費者の天然物指向の拡大に伴い、化学薬品である塩酸を使用しない方法が望まれるようになりつつある。
【0004】
塩酸分解法に代わるものとして、タンパク質分解酵素を用いる方法がある。この方法においては、脂肪分をある程度含み、毛等が付着している畜肉残渣等をそのまま酵素処理すると加水分解効率が低いうえ、特有の獣臭を発生し、風味上好ましくない。また、脂肪分が多く含まれた加水分解物は、ろ過により固液分離・精製するのが非常に困難であり、回収率を下げる要因ともなる。従って、酵素分解法は、加水分解に先立って、原材料を熱水で処理してタンパク質を抽出したり、原材料から油脂分を除去したりする煩雑な操作を必要とする。例えば、特開平7−115969は、タンパク質の酵素加水分解を効率よく行うためにエンドペプチダーゼ及びエキソペプチダーゼを併用するものであるが、原材料に豚骨を用いた実施例においては、酵素処理に先だって熱水抽出操作、脂質除去操作、更には抽出物濃縮操作を要している。
【0005】
そして、タンパク質分解酵素を用いる方法においては、酵素処理を行う条件では雑菌が繁殖しやすいという問題もある。腐敗防止のために予備的な加熱殺菌を行うと、タンパク質が熱変性して酵素が作用しにくくなり、加水分解効率が下がるという欠点がある。予備殺菌を行わず、腐敗しにくい48〜60℃の高温条件で加水分解を行なうこともできるが、酵素の至適温度ではないため、加水分解効率が低くなるという欠点がある。
【0006】
一方、アクチノムコール エレガンス(Actinomucor elegans) は、中国では古くから、乳腐、酥腐又は腐乳と呼ばれる豆腐発酵食品の製造に用いられており、300年余りの食経験をもつアクチノムコール属糸状菌である。この菌は、2−ハロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の光学活性体の製造(特開平10−80298)、エステル化合物の製造(特開平6−279280)及びエステル誘導体の製造(特開平6−247894)への使用が検討されている。しかし、畜産残渣又は水産残渣等の動物性原材料を用いる調味料の製造に際し、使用された例は報告されていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、畜肉、魚肉、又は動物若しくは魚から肉を取った後の利用価値の低い畜産残渣若しくは水産残渣を有効に利用した調味料を得ることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討を行った。そしてアクチノムコール エレガンスを畜肉残渣又は魚肉残渣等に作用させ、次いで必要に応じタンパク質分解酵素を作用させることにより、新規な調味料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、畜肉、畜肉残渣、魚肉、魚肉残渣又はこれらの混合物にアクチノムコール属糸状菌を播種し、発酵処理する工程を経ることにより得られる発酵調味料を提供する。
【0009】
本発明の発酵調味料には、動物性原材料、即ち、畜肉、畜肉残渣、魚肉、魚肉残渣又はこれらの混合物を用いる。畜肉又は畜肉残渣を得るための動物の種類は特に限定されないが、牛、馬、豚、羊、山羊、鶏、鴨、アヒル、雉、鳩等を含む。畜肉残渣とは、畜肉として利用される以外の動物の部分をいい、皮、骨、毛、髄、腱、腎臓、耳、眼球、舌、足、爪、血液、脳、歯、生殖器、胃、心臓、肝臓、精肉トリミング処理後の筋膜を含む。魚肉又は魚肉残渣(本明細書では「魚」というとき、動物性水産物を指す。)を得るための動物の種類は、特に限定されないが、サケ、マス、スケトウダラ、サメ、ホッケ、オヒョウ、鯖、アジ、鰯、鯨、イカ等を含む。魚肉残渣とは、魚肉として利用される以外の部分をいい、頭、背骨、皮、鱗、尾、外とう膜、吸盤、口、殻、えら、ひれ等を含む。
【0010】
畜肉、畜肉残渣、魚肉又は魚肉残渣(畜肉残渣等ということもある)は、アクチノムコール属糸状菌が効率よく作用するように、切断・粗砕する。望ましくは細断する。屠殺くずなどでもともと薄かったり、小さな切れ端になっている場合はそのまま用いてもよい。畜肉残渣等は、アクチノムコール属糸状菌が効率よく作用するように、パパイン等のタンパク質加水分解酵素で処理しておいても良い。また、水等の溶媒による抽出物にして発酵処理に供してもよい。原材料は、適当な方法(例えば高圧滅菌法)を用いて殺菌しておくことが望ましい。加熱による殺菌に伴う原材料中のタンパク質の熱変性は、続くアクチノムコール属糸状菌による処理において不都合な影響を与えないであろう。
【0011】
次に、畜肉残渣等の切断・粗砕片に、アクチノムコール属糸状菌を播種する。アクチノムコール属糸状菌としては、豆腐の発酵に用いられているアクチノムコール・エレガンスが好ましい。アクチノムコール エレガンスIFO 6408は財団法人発酵研究所が保有する微生物であり、誰でも分譲を受けることができる。予備培養されたアクチノムコール属糸状菌を用いることは、発酵処理の開始おいて特に好ましい。このようなスターターは、スクロース、グルコース、マルトース、でんぷん、綿実タンパク質、酵母エキス、小麦タンパク質、大豆タンパク質及び/又はゼラチン等を含む培地にアクチノムコール属糸状菌接種し、25〜35℃で1〜7日好気培養して製造することができる。スターターは畜肉残渣等100部に対し、約0.1〜約30部、より望ましくは約1〜約20部加えることができる。
【0012】
アクチノムコール属糸状菌による発酵処理の際には、培養系に必ずしも水を加える必要はないが、水の添加は、系の不均一さを少なくし、撹拌、培養物の移送等の操作を容易にすると考えられる。水を加える際は、畜肉残渣等100部に対し、水約5〜約300部、望ましくは約50〜約200部とする。約300部を越える水の添加は、発酵効率を低下させ、腐敗の危険を高めると考えられる。また、発酵処理に続き酵素によるタンパク質分解処理を行う際に、加水分解効率を低下させるであろう。
【0013】
発酵処理は、静置又は攪拌しながら、必要に応じて通気を行いながら、約1〜約180日間行う。発酵処理のための培養器は、類似の目的で通常使用される培養器(例えばジャーファーメンター)を用いることができる。
【0014】
発酵処理は、アクチノムコール属糸状菌が生育可能な温度で行うが、一般の発酵処理ための温度より若干低めの温度で行うことが好ましい。低温でアクチノムコール属糸状菌による発酵処理を行うことは、他の微生物の増殖を抑える点で有益である。通常、糸状菌は2〜15℃の低温では生育がほとんど見られない。しかし、アクチノムコール属の糸状菌は、そのような温度でも生育することができ(C.W.Hesseltine Mycologia vol.57 1965 p149−197)、また、アクチノムコール属の糸状菌の産生するペプチダーゼは低温でも活性を有する(特願平11−189852)。従って、アクチノムコール属の糸状菌を用いると、畜肉残渣等の発酵を比較的低温でも充分進めることができる。よって発酵処理は、約34℃未満、望ましくは約2〜約29℃、更に望ましくは約5〜約29℃で行う。一方、原材料の畜肉残渣等を予め殺菌処理している場合は、比較的高い温度で発酵処理を行い、発酵処理のための期間を短縮することができる。例えば、約20℃〜約30で発酵すれば、期間を約1〜約7日に短縮することができる。
【0015】
発酵処理の終点は、類似の目的で発酵処理する場合と同様の手段により決定することができる。例えば、発酵物中に含まれるアミノ酸等の物質の濃度、発酵物のpH、性状(色、におい、濁りの程度、原材料の外観等)、より小規模で処理した場合に要した時間等を指標とすることができる。
【0016】
このような発酵処理により、畜肉残渣等のタンパク質は適度に分解される。得られた発酵物は、遊離のアミノ酸、及び分子量約200〜約2000(測定は定法によるゲルろ過カラムを用いた分子量分画法による。)のペプチドを種々含み得る。また、発酵処理により原材料の獣臭や魚臭が低減され、風味が増し得る。そのため、ここで得られた発酵物は、精製して発酵調味料とすることができる。ここでの精製操作は、発酵処理により畜肉残渣等の脂肪分はある程度分解され得るから、比較的容易であろう。静置させて沈殿物と上清とを分離したり、ろ過、遠心分離等の定法を適用することができる。ここで精製して得られた発酵調味料は、単独ではうま味の少ないものであるが、主としてペプチドの作用によりこく味を呈し、食品又は他の調味料等に添加されるとその風味の広がり、味の厚み、濃厚感等を増す効果がある。従って、食品等の矯味ために、補助的に用いることができる。このような補助的な矯味のためのものも、本明細書でいう調味料の定義に含まれる。
【0017】
本発明の好ましい態様では、得られた発酵物は、更にタンパク質加水分解酵素剤を添加して加水分解処理することにより、単独でうま味等を呈する調味料が得られる。即ち、本発明は、畜肉残渣等をアクチノムコール属糸状菌により発酵処理する工程、及びタンパク質分解酵素により処理する工程を経ることにより得られる発酵調味料を提供する。発酵処理工程と酵素処理工程のいずれを先に行うか、又は同時に行うかは、特に制限されるものではないが、1)脂肪分等が含まれた畜肉残渣をそのまま酵素処理すると加水分解効率が低く、また特有の獣臭を発生して風味上好ましくないこと、2)脂肪分が多く含まれた加水分解物は精製が困難であること、3)原材料の加熱殺菌が酵素処理効率を下げること、そして4)原材料中のタンパク質中のプロリン残基は、その立体構造のために通常の酵素による作用を受けにくいと考えられるが、アクチノムコール属糸状菌による処理は、プロリン残基部分をも分解するであろうと考えられること等の観点からは、発酵処理工程を経た後に酵素処理を行うべきである。
【0018】
タンパク質分解酵素としては種々のものを用いることができ、酵素の由来は特に制限されないが、効率よく加水分解を行うためには、複数のエンドペプチダーゼ及び/又はエキソペプチダーゼを含んだ酵素剤を用いるのが好適である。このような酵素剤の例としては、ノボ・ノルディスク社(NOVO NORDISK A/S, デンマーク国)製のフレーバーザイム(FLAVOURZYME)等がある。フレーバーザイムは、アスペルギルス オリゼ(Aspergills Oryzae)由来の、それぞれの分子量が約23kDa、約31kDa、約35kDa、約38kDa、約53kDaである5種の酵素を含む。分子量約32kDa、約42kDa、約47kDa、100kDaである酵素が含まれている場合もある(分子量測定法はドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE))。なお、本明細書でタンパク質分解酵素について分子量というときは、その分子量はドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)により測定したものをいう。
【0019】
加水分解効率を一層高めるためには、異なる微生物由来の複数の酵素を併用するのが効果的である。例えば、バチルス リシェニホルミス(Bacillus Licheniformis)由来の、セリンタイプのエンド型プロテアーゼであるサブチリシンAを先述のフレーバーザイムと組み合わせて用いることができる。サブチリシンAはバチルス・リシェニホルミス(Bacillus Licheniformis)から常法により容易に調製することができるし、ノボ・ノルディスク社製アルカラーゼ(登録商標)タイプFGを利用することもできる。
【0020】
タンパク質分解酵素は、発酵物全窒素量に対し重量で約0.5〜約60%添加する。必要に応じ、雑菌の繁殖を抑える等の目的で、培養物に対し重量で約4〜約20部の食塩を添加する。これは加水分解処理時間が10時間を越える場合に、特に望ましい。加水分解処理は、約20〜約60℃、望ましくは約30〜約55℃、更に望ましくは約48℃〜約53℃の温度で、1〜90時間、望ましくは5〜75時間行う。
【0021】
酵素剤を発酵物に作用させると、反応が進行するにつれて原材料固形物が可溶化してくる。加水分解処理の終点は、類似の目的で加水分解処理する場合と同様の手段により決定することができる。例えば、分解物中に含まれるアミノ酸等の物質の濃度、分解物のpH、性状(色、におい、濁りの程度、原材料の外観等)、より小規模で処理した場合に要した時間等を指標とすることができる。
【0022】
得られた発酵後加水分解物は、原材料の畜肉残渣等が高度に分解されており、ほぼ清澄であり、こく味を呈するペプチド及び/又はL−グルタミン酸等のうま味を呈するアミノ酸を種々含み得る。また、獣臭や魚臭が少ないかほとんどなく、風味に優れたものである。従って、この分解物を精製することにより、こく味及びうま味を有する優れた発酵調味料が得られる。加水分解物の精製は、分解物がほぼ清澄となるほど畜肉残渣等が高度に加水分解されていることから、アクチノムコール属糸状菌による発酵工程を経ない従来の加水分解処理のみの場合に比較してずっと容易である。静置させて沈殿物と上清とを分離したり、ろ過、遠心分離等の定法を適用することができる。この発酵調味料は、食品添加されると、主として呈味性を有するアミノ酸の作用により、食品にうま味、風味等を与える。従って、食品の調味ために単独で用いることができる。もちろん、他の調味料と組み合わせて用いることもできる。また、保存性、安定性に優れたのであると考えられる。
【0023】
このように発酵物又は発酵後酵素分解物を精製して得られた本発明の発酵調味料は、液体の形態のままでもよく、また、必要に応じ、濃縮、乾燥、造粒等の処理を行い、ペースト、粉末、顆粒等の形態とすることができる。
【0024】
本発明の発酵調味料は、粉末、顆粒等の形態にして、卓上で使用する調味料とすることができる。また、本発明の発酵調味料を調理、加工の際に材料に添加することにより、こく味、うま味に優れた食品・飲料等を製造することができる。添加される食品・飲料は特に制限されないが、例えば肉製品、農産・水産缶詰、水産練製品、珍味、惣菜、佃煮、菓子、漬物類、より具体的には、ハンバーグ、ミートボール、肉まん、ハム、ソーセージ、ベーコン、肉団子、餃子、シュウマイ、春巻き、はんぺん、かまぼこ、ちくわ、揚げ半、がんもどき、納豆、ふりかけ、せんべい、あられ、スナック菓子、麺類スープ、醤油、味噌、たれ、麺類つゆ、ソース、ブイヨン、ルー等がある。本発明の発酵調味料は、食品全重量に対し、約0.1%〜約30%、好ましくは約1%〜約20%添加する。
【0025】
以下、本発明を実施例により説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を制限するものではない。
【0026】
【実施例】
実施例1
アクチノムコール エレガンスIFO 6408を、酵母エキス2.5%、グルコース0.5%、塩化ナトリウム0.3%、リン酸水素二カリウム0.1%、炭酸カルシウム0.2%、硫酸マグネシウム0.050%よりなる培地50mLを入れた500mL容三角フラスコに接種し、25℃で4日間撹拌培養した。原材料の豚皮は、フードカッターで3〜5mm角に刻み、120℃で15分滅菌した。2枚のペトリディッシュそれぞれに、裁断滅菌処理済み豚皮45gと滅菌水5mlを入れた。一方のディッシュには先のアクチノムコール エレガンス培養液4.5mlを添加し、よく撹拌した。
【0027】
4℃で29日間経過後、ディッシュの内容物をそれぞれ他の容器に移し、アルカラーゼ 2.4L FG(ロット PMN 5047)46.8mg、及びフレーバーザイム1000L(ロット HPG 0004)329mgを添加し、更に20%食塩水(水容積に対する食塩の重量%。以下同じ。)67.5mlを加えて、130rpmで撹拌しながら50℃で70時間反応させた。
【0028】
反応物に含まれる遊離のアミノ酸濃度を、アミノ酸分析機ALC−1000(島津製作所製)で測定した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
アクチノムコール エレガンスを添加したものは、添加していないものと比較すると、アラニン、グルタミン酸、グリシン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニンの含有量が高かった。アラニン、グルタミン酸、プロリン、セリンは、味に影響があるといわれているから、アクチノムコール エレガンスによる処理は、調味料の呈味を増すために重要であるといえる。。
【0031】
プロリンに関しては、アクチノムコール エレガンスを添加していない加水分解物中の含有量が0であるのに対し、アクチノムコール エレガンスを添加した場合の含有量は1.179mg/mlであった。タンパク質中のプロリン残基は、通常の加水分解酵素による作用を受けにくいと考えられるから、加水分解酵素処理に先立つアクチノムコール エレガンスによる処理は、加水分解を効率的に行うために重要であるといえる。
【0032】
実施例2
アクチノムコール エレガンスIFO 6408を、酵母エキス2.5%、グルコース0.5%、塩化ナトリウム0.3%、リン酸水素二カリウム0.1%、炭酸カルシウム0.2%、硫酸マグネシウム0.050%よりなる培地50mLを入れた500mL容三角フラスコに接種し、25℃で24時間撹拌培養した。
【0033】
豚皮を粗く細断したもの1kgを121℃で15分間加熱殺菌した。これを平らに広げて、先述のアクチノムコール エレガンス培養液50mLを表面に塗布して10℃で30日間培養した。
【0034】
この培養物の上清の一部を取り分け、孔径0.45μmのフィルターでろ過し、エキスを得た。賞味したところ、そのままではうま味が感じられなかったが、市販のグルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸調味料に添加すると、風味、うま味が添加しない場合より強く感じられた。
【0035】
培養物に更にノボ・ノルディスク社製のアルカラーゼ タイプFG(2.4L)を0.1g、フレーバーザイム7g、及び20%食塩水1.5kg加え、50℃で72時間反応した。反応後100℃で10分間加熱し、酵素を失活させた。得られた加水分解物は清澄であり、孔径0.45μmのフィルターで容易にろ別できた。原材料豚皮に対し、ろ液として76%の窒素分(全窒素量として計算。窒素量測定はケルダール法による。)を回収できた。
【0036】
対照として、アクチノムコール エレガンスによる発酵処理を行わない豚皮にノボ・ノルディスク社製のアルカラーゼ2.4Lを1.0g、フレーバーザイム7.3g、及び20%食塩水を1.5kg加え、50℃で72時間反応させた。得られたものは同様に反応後100℃で10分間加熱し、酵素を失活させた。得られた加水分解物には濁りがあり、孔径0.45μmのフィルターでろ過したが、ろ過操作は容易ではなかった。窒素分の回収率は63.2%にとどまった。
【0037】
得られたエキスを15人の専門パネラーが賞味したところ、対照と比較して実施例の発酵調味料の方が清澄であると答えたのは15人/15人、味が濃く感じると答えたのは12人/15人、豚特有の臭みを感じると答えたのは1人/15人、甘味が強いと答えたのは9人/15人であった。
【0038】
本実施例で得られた発酵調味料は、脂肪分が分解され、清澄であるためろ過が容易であり、窒素分の回収率が高かった。また、酵素分解のみで製造した物と比較すると、香りが高く、うまみと甘味が強く好ましい風味であった。また、本実施例で得られた発酵調味料は、酵素分解のみで製造したものと比較して、プロリンが6.1倍多く含まれていた。
【0039】
実施例3
鶏皮を粗く細断したもの2kgを121℃で30分間加熱滅菌した。これを平らに広げて実施例2で述べたアクチノムコール エレガンス培養液100mLを加え、10℃で30日間培養した。これにフレーバーザイム8.7g、アルカラーゼ1.24g、及び24%食塩水を2kgを加え、50℃で70時間反応させた。
【0040】
反応後100℃で10分間加熱し、酵素を失活させた。反応液は遠心して脂肪分を除き、更にNo.2ろ紙(東洋濾紙)でろ過し、固形分を除いた。ろ過は酵素反応のみで製造した場合の約1/4の時間で行うことができた。
【0041】
得られたろ液は清澄で、酵素分解のみで製造したものと比較すると、脂くささが著しく減少し、濃厚な風味を有した。プロリン含量は酵素分解のみで製造したものの1.6倍であった。
【0042】
実施例4
牛皮を粗く細断したもの2kgを121℃で30分間加熱滅菌した。これを平らに広げ、実施例2で述べたアクチノムコール エレガンス培養液100mLを加え、10℃で30日間培養した。
【0043】
これにフレーバーザイム14g、アルカラーゼ2g、及び20%食塩水を2.5kg加え、50℃で30時間反応させた。反応後100℃で10分間加熱し、酵素を失活させた。
【0044】
実施例5
豚皮1.5kgと水1.5kgとを5L容ジャーファーメンターに入れ、120℃で40分間加熱殺菌の後、50℃に保温してパパインを添加し50分間攪拌した。これに実施例2で述べたアクチノムコール エレガンス培養液50mlを播種して25℃で4日間通気攪拌培養した。豚皮は形をとどめない程度に分解された。
【0045】
得られた培養液にアルカラーゼ1.5g、フレーバーザイム(1000L)を10.6g加え、更に腐敗を防止するために塩化ナトリウムを360g加え、50℃で72時間反応させた。反応後100℃で10分間加熱し、酵素を失活させた。反応液は清澄であった。これをガラスフィルターでろ別し、ろ液3032gを得た。ろ過操作は容易であった。
【0046】
原材料豚皮に対し80.3%(全窒素量として計算)を、ろ液として回収することができた。得られた液は香りが高く、脂肪分が分解されており、獣臭が少なく、そしてタンパク質分解により生じたアミノ酸等が多く含まれているため風味豊かなものであった。得られた液を冷蔵で2週間以上保存したが、澱を生じなかった。
【0047】
実施例6
スケトウダラの皮2kgを粗く刻み、ショ糖100gと水1kgを5L容ミニジャーファーメンターに入れて120℃で40分間加熱殺菌した。これに実施例2で述べたアクチノムコール エレガンス培養液50mLを加え、25℃で4日間通気攪拌培養した。スケトウダラの皮は原型を留めない程度に分解された。
【0048】
得られた培養液にアルカラーゼ1.5g、フレーバーザイム(1000L)10.7gを加え、更に腐敗を防止するために塩化ナトリウムを360g加え、50℃で72時間反応させた。反応後100℃で10分間加熱し、酵素を失活させた。これをガラスフィルターでろ別した。反応液は清澄で容易にろ別できた。
【0049】
得られた液は香りが高く、魚臭が少なく、セリン及びプロリン含量が多い風味豊かなものであった。
実施例7
サバの頭を煤乾し、粉砕したもの1kgに水を150gを加えて、120℃で30分間加圧加熱滅菌した。これを平らに広げ、実施例2で述べたアクチノムコール エレガンス培養液50mLを加えて、10℃で30日間培養した。これに24%(重量)食塩水1.2kg、及びフレーバーザイム7.0g、アルカラーゼ1.0gを加えて、50℃で60時間反応させた。反応後100℃で10分間加熱し、酵素を失活させた。得られた発酵組成物はNo.2ろ紙(東洋濾紙)でろ過し、固形分を除いた。
【0050】
得られたろ液は清澄で、酵素分解のみで処理したものと比較すると、脂くささが著しく減少していた。
【0051】
【発明の効果】
畜肉残渣等をアクチノムコール属糸状菌を用いて発酵処理することにより得られる本発明の発酵調味料は、それ自体で、主として含まれるペプチドの作用により、食品等に添加されるとその風味の広がり、厚み、濃厚感等を増す効果があると考えられる。従って、食品の矯味ために、補助的に用いることができる。また、畜肉残渣等をアクチノムコール属糸状菌を用いて発酵処理したものは、タンパク質分解酵素により効率よく分解され得る。
【0052】
畜肉残渣等をアクチノムコール属糸状菌を用いて発酵処理したのち、更にタンパク質加水分解酵素処理したものは、清澄であるため、精製が容易であり、窒素分の回収率を高めることができる。また、畜肉残渣等をアクチノムコール属糸状菌を用いて発酵処理したのち、更にタンパク質加水分解酵素処理することによりえられる本発明の発酵調味料は、酵素分解のみで製造したものと比較すると、うまみが強く、風味がよいものである。
Claims (5)
- 畜肉、畜肉残渣、魚肉、魚肉残渣又はこれらの混合物にアクチノムコール エレガンス及びタンパク質分解酵素を作用させることにより得られる、発酵調味料。
- タンパク質分解酵素が、アスペルギルス オリゼに由来し、それぞれの分子量が、23kDa、31kDa、35kDa、38kDa、53kDaである5種の酵素を含む、請求項1記載の発酵調味料。
- さらに、27kDa、32kDa、42kDa、47kDa、及び100kDaからなる群より選択される分子量を有する、アスペルギルス オリゼに由来するタンパク質分解酵素を含む、請求項2記載の発酵調味料。
- タンパク質分解酵素が、更にバチルス リシェニホルミス由来のサブチリシンAを含む、請求項2又は3記載の発酵調味料。
- 畜肉、畜肉残渣、魚肉、魚肉残渣又はこれらの混合物にアクチノムコール エレガンスを播種して、菌が生育することのできる温度において1〜180日間発酵処理する工程と、発酵物にタンパク質分解酵素剤を添加して、30〜60℃の温度で1〜90時間加水分解処理する工程を含むことを特徴とする、発酵調味料の製造方法。
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