JP4024136B2 - レーザー彫刻印刷原版 - Google Patents

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Description

【0001】
【本発明の属する技術分野】
本発明はレーザー彫刻によるフレキソ印刷版用レリーフ画像作成、エンボス加工等の表面加工用パターンの形成、タイル等の印刷用レリーフ画像形成、更に導体、半導体、絶縁体パターン等からなる電子回路の形成に適したレーザー彫刻印刷原版に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
段ボール、紙器、紙袋、軟包装用フィルムなどの包装材、壁紙、化粧板などの建装材、ラベル印刷などに用いられるフレキソ印刷は各種の印刷方式の中でその比重を高めている。これに用いる印刷版の製作には、通常、感光性樹脂が用いられることが多く、液状の樹脂、又はシート状に成形された固体樹脂板を用い、フォトマスクを感光性樹脂上に置き、マスクを通して光を照射し架橋反応を起こさせた後、非架橋部分を現像液で洗い落とすという方法が用いられてきた。近年、感光性樹脂表面にブラックレーヤーという薄い光吸収層を設け、これにレーザー光を照射し感光性樹脂板上に直接マスク画像を形成後、そのマスクを通して光を照射し架橋反応を起こさせた後、光の非照射部分の非架橋部分を現像液で洗い落とす、いわゆるフレキソCTP(Computer to Plate)という技術が開発され、印刷版製作の効率改善効果から、採用が進みつつある。しかしながら、この技術も現像工程が残るなど、効率改善効果も限られたものであり、レーザーを使って直接印刷原版上にレリーフ画像を形成し、しかも現像不要である技術の開発が求められている。
【0003】
その方法として直接レーザーで印刷原版を彫刻する方法が挙げられる。この方法で凸版印刷版やスタンプを作成することは既に行なわれており、それに用いられる材料も知られている。
特開2001−121833号公報(欧州特許公開1080883号公報)には、シリコーンゴムを用い、その中にレーザー光線の吸収体としてカーボンブラックを混合する記載があるが、感光性樹脂を用いたものではなく、シート状に成形する前にレーザー光線の吸収体を混合するプロセスで作製される。架橋されたゴムから形成されている印刷原版は、レーザー光線の照射により溶融あるいは分解し難いため彫刻速度が遅く、彫刻カスが焼きつきを起こしてその除去が難しくなるなどの問題点を有する。
【0004】
他方、日本国特許2846954号、2846955号(米国特許第5798202号、第5804353号)にはSBS、SIS、SEBS等の熱可塑性エラストマーを機械的、光化学的、熱化学的に強化された材料を用いることが開示されている。熱可塑性エラストマーを用いる場合、赤外線領域の発振波長を有するレーザーを用いて彫刻を実施すると、熱によりレーザー光のビーム径の寸法を大きく逸脱した部分の樹脂までが溶融するため、高解像度の彫刻パターンを形成することができない。そのため、熱可塑性エラストマー層に充填剤を添加することにより機械的に強化を図ることが必須とされている。前記特許では、熱可塑性エラストマー層の機械的強化とレーザー光の吸収性向上を目的として、特に機械的強化効果の極めて高いカーボンブラックが多量に混合されている。
【0005】
一般的には黒色のカーボンブラック、色素などを樹脂中に混合し、その後シート状に成形する方法が取られる。しかしこの方法では、カーボンブラックあるいは色素が紫外線領域に光吸収を有するため、感光性樹脂組成物を紫外線領域あるいは可視光領域の光を用いて光硬化させ機械的強度を確保する場合には、版内部の硬化が不十分となる大きな問題があった。すなわち、光硬化が不十分である印刷原版をレーザー彫刻すると除去し難しいカス(液状の粘稠物を含む)が大量に発生し、その処理に多大な時間を要するばかりでなく、レリーフに融解によるエッジ部の盛り上がり、あるいはエッジ部に固体状カスの融着を生じたり、網点の形状が崩れるなどの難点を生じる。また、一般的に有害とされているカーボンブラックが大気中に大量に放出される問題点もあった。
【0006】
また、レーザー彫刻の際に樹脂の分解生成物であると推定される粘稠性液状カスが多量に発生すると、レーザー装置の光学系を汚すばかりでなく、レンズ、ミラー等の光学部品の表面に付着した液状樹脂が焼きつきを発生させ、装置上のトラブルの大きな要因となる。更に、レーザー照射により除去された部分の表面にも粘稠性の液状カスが多量に存在し、その除去が不十分の場合には印刷時の紙紛等が付着、堆積し易くなるため、印刷工程上のトラブルの原因ともなる。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−121833号公報
【特許文献2】
特許2846954号公報
【特許文献3】
特許2846955号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本件発明は、直接レーザー彫刻してレリーフ画像を制作する際のカスの発生を抑制し、そのカスを容易に除去できるばかりででなく、彫刻レリーフの形状が優れ、印刷面のタックが小さく、彫刻速度が速いフレキソ印刷原版を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討し、無機多孔質体を含有する感光性樹脂組成物を光硬化させて形成したシート状あるいは円筒状の印刷原版をレーザー光で彫刻した印刷版において、彫刻カス、特に液状のカスが少ないことを見出した。感光性樹脂硬化物を熱重量分析したところ、感光性樹脂硬化物中の樹脂の熱分解性が良好であることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
特に感光性樹脂組成物を光硬化させて形成した印刷原版では、カーボンブラック等の顔料、色素を添加した場合、光硬化に用いる紫外線あるいは可視光線領域の光線透過性が低くなる。そのため、印刷原版内部の硬化が不十分となり、液状カスが多量に発生するという致命的な問題点を有していたが、本発明は、これらの問題点を解決できる画期的なものである。
本発明は下記の通りである。
【0011】
1. 比表面積が10m 2 /g以上1500m 2 /g以下であり、平均細孔径が1nm以上1000nm以下、細孔容積が0.1ml/g以上10ml/g以下、吸油量が10ml/100g以上2000ml/100g以下、かつ数平均粒子径が0.1μm以上100μm以下である無機多孔質体微粒子を含有する感光性樹脂組成物の光硬化物からなるレーザー彫刻可能な印刷原版において、該印刷原版を窒素雰囲気中、昇温速度10℃/分の条件で室温から昇温して熱重量分析(TGA)した場合に、重量減少率が50%の温度が150℃以上400℃以下であることを特徴とするレーザー彫刻印刷原版。
. 感光性樹脂組成物が、数平均分子量が1000から10万の20℃において液状のポリマー(a)、数平均分子量が1000未満の重合性不飽和基を有する有機化合物(b)を含有する1.に記載のレーザー彫刻印刷原版。
【0012】
. 有機化合物(b)の全体量の20wt%以上が脂環族、芳香族の少なくとも1種類以上の誘導体である.に記載のレーザー彫刻印刷原版。
. 無機多孔質体微粒子の数平均粒子径が0.1μm以上100μm以下であって、少なくとも70%の粒子の真球度が0.5〜1の範囲の球状粒子であることを特徴とする1.から3.のいずれかに記載のレーザー彫刻印刷原版。
. 1.から.のいずれかに記載の印刷原版の下部に、ショアA硬度が20度以上70度以下の一定厚さのエラストマー層を少なくとも1層有する多層レーザー彫刻印刷原版。
. エラストマー層が、常温で液状の感光性樹脂組成物を硬化して形成される.に記載の多層レーザー彫刻印刷原版。
【0013】
【発明実施の形態】
以下、さらに詳細に本発明を、その好ましい実施態様を中心に、説明する。
本発明では、無機多孔質体微粒子を含有する感光性樹脂組成物を光硬化させレーザー彫刻可能な印刷原版を形成し、その後、該印刷原版にレーザー光を照射してレーザーの照射された部分の樹脂が除去されることにより凹凸パターンが形成され、印刷版を作製することができる。本発明において用いる感光性樹脂組成物を光硬化させて形成した硬化物は、熱分解性が良好なものであることが好ましい。本件発明においては、感光性樹脂硬化物の熱分解性を評価する方法として、熱重量分析法(TGA)を用いることが簡便であり好ましい。本発明における熱重量分析法での測定条件としては、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分とする。本発明で用いる感光性樹脂硬化物の熱分解性は、重量減少率が50%である温度が150℃以上400℃以下である。、より好ましくは200℃以上380℃以下である。重量減少率が50%の温度が150℃以上であれば、レーザー彫刻印刷原版を作製中に熱分解することが避けられ、また400℃以下であれば、レーザー照射により感光性樹脂硬化物を充分に分解することができ、レーザー彫刻速度を向上させることもできる。また、無機多孔質体微粒子への吸収も容易となる。
【0014】
感光性樹脂を光硬化させる方法としては200nmから600nmの範囲の紫外線あるいは可視光線を照射する方法あるいは電子線を照射する方法が好。光を照射する方法では、200nmから450nmの紫外線領域の光を用いることがより好ましい。200nmから600nmの範囲の光を用いることにより、充分に硬化させることができ、市販の光重合開始剤を使用することが可能である。
本発明の熱分解性を有する感光性樹脂組成物の光硬化物は、無機多孔質体微粒子を含有し、かつ、上記の熱分解性を有すれば、感光性樹脂組成物の組成等は特に限定されない。以下に本発明の感光性樹脂組成物について説明する。
【0015】
本発明の感光性樹脂組成物を構成する成分として、ポリマー、重合性反応基を有する有機化合物および無機多孔質体微粒子を含有することが好ましい。
ポリマーの種類としては、エラストマーであっても非エラストマーであっても構わないし、20℃において固体状ポリマーであっても液状ポリマーであっても構わない。また、熱可塑性樹脂を用いる場合、ポリマー全重量の30wt%以上が好ましく、より好ましくは50wt%以上、更に好ましくは70wt%以上含有していることが望ましい。熱可塑性樹脂の含有率が30wt%以上であれば、レーザー光線照射により樹脂が充分に流動化するため、後述する無機多孔質体に吸収される。ただし、軟化温度が300℃を越えて大きい樹脂を用いる場合、シート状あるいは円筒状に成形する温度も当然高くなるため、他の有機物が熱で変性、分解することが懸念されるため、溶剤可溶性樹脂を溶剤に溶かした状態で塗布し使用しても構わない。
【0016】
特に、シート状あるいは円筒状樹脂版への加工の容易性の観点、また、熱に対する分解性のし易さの点から、ポリマーとして20℃において液状のポリマー(a)を使用することが好ましい。ポリマーとして、20℃において液状のポリマー(a)を使用した場合、形成される感光性樹脂組成物も液状となるので、低い温度で成形することができ、熱可塑性エラストマー等を用いた場合のように高温に加熱し樹脂を流動化させる必要がないため、装置を簡素化することもできる。本発明で用いるポリマーとして特に好ましい液状のポリマー(a)の数平均分子量は、1000から20万の範囲が好ましい。より好ましい範囲としては、5000から10万である。数平均分子量が1000から20万の範囲であれば、印刷原版の機械的強度を確保することができ、レーザー彫刻時、樹脂を充分に溶融あるいは分解させることができる。本発明の数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定し、分子量既知のポリスチレン標品に対して評価したものである。
【0017】
本発明の技術的特徴として、レーザー光線の照射により液状化したカスを、無機多孔質体微粒子を用いて吸収除去することを挙げることができる。用いる感光性樹脂硬化物としては、液状化し易い樹脂や分解し易い樹脂が好ましい。分解し易い樹脂としては、分子鎖中に分解し易いモノマー単位としてスチレン、α−メチルスチレン、α−メトキシスチレン、アクリルエステル類、メタクリルエステル類、エステル化合物類、エーテル化合物類、ニトロ化合物類、カーボネート化合物類、カルバモイル化合物類、ヘミアセタールエステル化合物類、オキシエチレン化合物類、脂肪族環状化合物類等が含まれていることが好ましい。特にポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラエチレングリコール等のポリエーテル類、脂肪族ポリカーボネート類、脂肪族カルバメート類、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ニトロセルロース、ポリオキシエチレン、ポリノルボルネン、ポリシクロヘキサジエン水添物、あるいは分岐構造の多いデンドリマー等の分子構造を有するポリマーは、分解し易いものの代表例である。また、分子鎖中に酸素原子を多数含有するポリマーが分解性に観点から好ましい。
【0018】
本発明で用いる熱可塑性エラストマーとして特に限定するものではないが、スチレン系熱可塑性エラストマーであるSBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー等を挙げることができ、数平均分子量が10万以下、より好ましくは5万以下であることが望ましい。より熱分解性を向上させるために、分子骨格中に分解性の高いカルバモイル基、カーボネート基等の易分解性官能基を導入した化合物を用いることもできる。熱可塑性エラストマーは加熱することにより流動化するため、本発明で用いる無機多孔質体微粒子と混合することが可能となる。
【0019】
熱可塑性エラストマーとは、加熱することにより流動し通常の熱可塑性プラスチック同様成形加工ができ、常温ではゴム弾性を示す材料である。分子構造としては、ポリエーテルあるいはゴム分子のようなソフトセグメントと、常温付近では加硫ゴムと同じく塑性変形を防止するハードセグメントからなり、ハードセグメントとしては凍結相、結晶相、水素結合、イオン架橋など種々のタイプが存在する。
【0020】
印刷版の用途により、熱可塑性エラストマーの種類を選択できる。例えば、耐溶剤性が要求される分野では、ウレタン系、エステル系、アミド系、フッ素系熱可塑性エラストマーが好ましく、耐熱性が要求される分野では、ウレタン系、オレフィン系、エステル系、フッ素系熱可塑性エラストマーが好ましい。また、熱可塑性エラストマーの種類により、硬度を大きく変えることができる。通常の印刷版での用途では、ショアA硬度が20〜75度の領域が好ましく、紙、フィルム、建築材料の表面凹凸パターンを形成するエンボス加工の用途では、比較的硬い材料が必要であり、ショアD硬度で、30〜80度の領域が好ましい。
【0021】
熱可塑性樹脂において非エラストマー性のものとして、特に限定するものではないが、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリイイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂等を挙げることができる。
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂の軟化温度は、50℃以上300℃以下であることが好ましい。より好ましい範囲としては80℃以上250℃以下、更に好ましくは100℃以上200℃以下である。軟化温度が50℃以上であれば常温で固体として取り扱うことができ、シート状あるいは円筒状に加工したものを変形させずに取り扱うことができる。また軟化温度が300℃以下である場合、シート状あるいは円筒状に加工する際に極めて高い温度に加熱する必要がなく、混合する他の化合物を変質、分解させずに済む。本発明の軟化温度の測定は、動的粘弾性測定装置を用い、室温から温度を上昇していった場合、粘性率が大きく変化する(粘性率曲線の傾きが変化する)最初の温度で定義する。
【0023】
また、本発明のポリマーとして溶剤可溶性樹脂であっても構わない。具体的には、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等を挙げることができる。
本発明のポリマーは、通常反応性の高い重合性不飽和基を持たないものが多いが、分子鎖の末端あるいは側鎖に反応性の高い重合性不飽和基を有していても構わない。反応性の高い重合性不飽和基を有するポリマーを用いた場合、極めて機械的強度の高い印刷原版を作製することができる。特にポリウレタン系、ポリエステル系熱可塑性エラストマーでは、比較的簡単に分子内に反応性の高い重合性不飽和基を導入することが可能である。ここで言う分子内とは高分子主鎖の末端、高分子側鎖の末端や高分子主鎖中や側鎖中に直接、重合性不飽和基が付いている場合なども含まれる。例えば直接、重合性の不飽和基をその分子末端に導入したものを用いても良いが、別法として、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、ケトン基、ヒドラジン残基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、環状カーボネート基、エステル基などの反応性基を複数有する数千程度の分子量の上記成分の反応性基と結合しうる基を複数有する結合剤(例えば水酸基やアミノ基の場合のポリイソシアネートなど)を反応させ、分子量の調節、及び末端の結合性基への変換を行った後、この末端結合性基と反応する基と重合性不飽和基を有する有機化合物と反応させて末端に重合性不飽和基を導入する方法などの方法が好適にあげられる。
【0024】
有機化合物(b)は、ラジカル、または付加重合反応に関与する不飽和結合を有した化合物であり、樹脂との希釈のし易さを考慮すると数平均分子量は1000以下が好ましい。有機化合物(b)は例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン等のオレフィン類、アセチレン類、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ハロオレフィン類、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、アリルアルコール、アリルイソシアネート等のアリル化合物、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその誘導体、酢酸ビニル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、シアネートエステル類等があげられるが、その種類の豊富さ、価格等の観点から(メタ)アクリル酸及びその誘導体が好ましい例である。
【0025】
該誘導体は、シクロアルキル−、ビシクロアルキル−、シクロアルケン−、ビシクロアルケン−などの脂環族、ベンジル−、フェニル−、フェノキシ−などの芳香族、アルキル−、ハロゲン化アルキル−、アルコキシアルキル−、ヒドロキシアルキル−、アミノアルキル−、テトラヒドロフルフリル−、アリル−、グリシジル−、アルキレングリコール−、ポリオキシアルキレングリコール−、(アルキル/アリルオキシ)ポリアルキレングリコール−やトリメチロールプロパン等の多価アルコールのエステルなどがあげられる。
【0026】
本発明において、これら重合性の不飽和結合を有する有機化合物(b)はその目的に応じて1種若しくは2種以上のものを選択できる。例えば印刷版として用いる場合、印刷インキの溶剤であるアルコールやエステル等の有機溶剤に対する膨潤を押さえるために用いる有機化合物として長鎖脂肪族、脂環族または芳香族の誘導体を少なくとも1種類以上有することが好ましい。
本発明の樹脂組成物より得られる印刷原版の機械強度を高めるためには、有機化合物(b)としては脂環族または芳香族の誘導体を少なくとも1種類以上有することが好ましく、この場合、有機化合物(b)の全体量の20wt%以上であることが好ましく、更に好ましくは50wt%以上である。
印刷版の反撥弾性を高めるため例えば特開平7−239548号に記載されているようなメタクリルモノマーを使用するとか、公知の印刷用感光性樹脂の技術知見等を利用して選択することができる。
【0027】
本発明でいう無機多孔質体微粒子とは、粒子中に微小細孔を有する、あるいは微小な空隙を有する無機粒子であり、レーザー彫刻において多量に発生する粘稠性の液状カスを吸収除去するための添加剤であり、版面のタック防止効果も有する。本発明の無機多孔質体微粒子は粘稠な液状カスの除去を最大の目的として添加するものであり、数平均粒子径、比表面積、平均細孔径、細孔容積、灼熱減量がその性能に大きく影響する。
【0028】
本発明はレーザー照射により切断され易い樹脂を採用し、それ故分子の切断時に多量に低分子のモノマー、オリゴマー類が発生するため、この粘稠性の液状カスを無機多孔質体微粒子を用いて行うという、これまでの技術思想に全くない新しい概念を導入していることに最大の特徴がある。したがって、前述した通り粘稠性液状カスの除去に用いる多孔質シリカを含む無機多孔質体微粒子の数平均粒子径、比表面積、平均細孔径、細孔容積、灼熱減量、給油量等の物性が極めて重要な要素となる。
【0029】
無機多孔質体微粒子は数平均粒径が0.1〜100μmであることが好ましい。この数平均粒径の範囲より小さいものを用いた場合、本発明の樹脂組成物より得られる原版をレーザーで彫刻する際に粉塵が舞いやすく、樹脂及び有機化合物(b)との混合を行う際に粘度の上昇を生じやすい。他方、上記数平均粒径の範囲より大きなものを用いた場合、レーザー彫刻した際レリーフ画像に欠損が生じやすい。より好ましい平均粒子径の範囲は、0.5〜20μmであり、更に好ましい範囲は3〜10μmである。本発明の無機多孔質体微粒子の平均粒子径は、レーザー散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。
【0030】
本発明で用いる無機多孔質体微粒子の比表面積の範囲は、10m/g以上1500m/g以下であることが好ましい。より好ましい範囲は、100m/g以上800m/g以下である。比表面積が10m/g以上である場合、レーザー彫刻時の液状カスの除去が充分となり、また、1500m/g以下であれば、感光性樹脂組成物の粘度上昇を抑え、また、チキソトロピー性を抑えることができる。本発明でいう比表面積は、−196℃における窒素の吸着等温線からBET式に基づいて求められる。
【0031】
本発明で用いる無機多孔質体微粒子の平均細孔径は、レーザー彫刻時に発生する液状カスの吸収量に極めて大きく影響を及ぼす。平均細孔径の好ましい範囲は、1nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上200nm以下、更に好ましくは2nm以上50nm以下である。平均細孔径が1nm以上であれば、レーザー彫刻時に発生する液状カスの吸収性が確保でき、1000nm以下である場合、粒子の比表面積が大きく液状カスの吸収量を十分に確保できる。平均細孔径が1nm未満の場合、液状カスの吸収量が少ない理由については明確になっていないが、液状カスが粘稠性であるため、ミクロ孔に入り難く吸収量が少ないためではないかと推定している。平均細孔径は、窒素吸着法を用いて測定した値である。平均細孔径が2〜50nmのものは特にメソ孔と呼ばれ、メソ孔を有する多孔質粒子が液状カスを吸収する能力が極めて高い。本発明の細孔径分布は、−196℃における窒素の吸着等温線から求められる。
【0032】
本発明で用いる無機多孔質体微粒子の細孔容積は、0.1ml/g以上10ml/g以下が好ましく、より好ましくは0.2ml/g以上5ml/g以下である。細孔容積が0.1m/g以上の場合、粘稠性液状カスの吸収量は十分であり、また10ml/g以下の場合、粒子の機械的強度を確保することができる。本発明において細孔容積の測定には、窒素吸着法を用いる。本発明の細孔容積は、−196℃における窒素の吸着等温線から求められる。
【0033】
本発明でいう液状カス吸着量を評価する指標として、吸油量がある。これは、無機多孔質体微粒子100gが吸収する油の量で定義する。本発明で用いる無機多孔質体微粒子の吸油量の好ましい範囲は、10ml/100g以上2000ml/100g以下、より好ましくは50ml/100g以上1000ml/100g以下である。吸油量が10ml/100g以上であれば、レーザー彫刻時に発生する液状カスの除去が十分であり、また2000ml/100g以下であれば、無機多孔質体微粒子の機械的強度を十分に確保できる。吸油量の測定は、JIS−K5101にて行った。
【0034】
無機多孔質体微粒子は、特に赤外線波長領域のレーザー光照射により変形あるいは溶融せずに多孔質性を保持することが好ましい。950℃において2時間処理した場合の灼熱減量が、15wt%以下が好ましく、より好ましくは10wt%以下であることが望ましい。
無機多孔質体微粒子の粒子形状は特に限定するものではなく、球状、扁平状、針状、無定形、あるいは表面に突起のある粒子などを使用することができる。その中でも、印刷版の耐磨耗性の観点から、特に球状粒子が好ましい。また、粒子の内部が空洞になっている粒子、シリカスポンジ等の均一な細孔径を有する球状顆粒体など使用することも可能である。特に限定するものではないが、例えば、多孔質シリカ、メソポーラスシリカ、シリカ−ジルコニア多孔質ゲル、ポーラスアルミナ、多孔質ガラス等を挙げることができる。また、層状粘土化合物などのように、層間に数nm〜100nmの空隙が存在するものについては、細孔径を定義できないため、本発明においては層間に存在する空隙の間隔を細孔径と定義する。
【0035】
球状粒子を規定する指標として、真球度を定義する。本発明で用いる真球度とは、粒子を投影した場合に投影図形内に完全に入る円の最大値Dの、投影図形が完全に入る円の最小値Dの比(D/D)で定義する。真球の場合、真球度は1.0となる。本発明で用いる好ましい球状粒子の真球度は、0.5以上1.0以下が好ましく、より好ましくは0.7以上1.0以下が望ましい。0.5以上であれば、印刷版としての耐磨耗性が良好である。真球度1.0は、真球度の上限値である。球状粒子として、70%以上、より好ましくは90%以上の粒子が、真球度0.5以上であることが望ましい。真球度を測定する方法としては、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した写真を基に測定する方法を用いることができる。その際、少なくとも100個以上の粒子がモニター画面に入る倍率において写真撮影を行うことが好ましい。また、写真を基に前記DおよびDを測定するが、写真をスキャナー等のディジタル化する装置を用いて処理し、その後画像解析ソフトウエアーを用いてデータ処理することが好ましい。
【0036】
更にこれらの細孔あるいは空隙にレーザー光の波長の光を吸収する顔料、染料等の有機色素を取り込ませることもできる。 また、無機多孔質体微粒子の表面をシランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の有機化合物で被覆し表面改質処理を行い、より親水性化あるいは疎水性化した粒子を用いることもできる。
本発明において、これらの無機多孔質体微粒子は1種類もしくは2種類以上のものを選択でき、無機多孔質体微粒子を添加することによりレーザー彫刻時の液状カスの発生抑制、及びレリーフ印刷版のタック防止等の改良が有効に行われる。
【0037】
本発明者らは、多孔質体の特性を評価する上で、多孔度という新たな概念を導入した。多孔度は、平均粒子径D(単位:μm)と粒子を構成する物質の密度d(単位:g/cm)から算出される単位重量あたりの表面積Sに対する、比表面積Pの比、すなわちP/Sで定義する。単位重量あたりの表面積Sは、πD×10- 12(単位:m)であり、粒子の重量は(πDd/6)×10−12(単位:g)であるので、S=6/(Dd)(単位:m/g)となる。多孔質粒子が球形でない場合には、注目する粒子が完全に中に入る球を想定し、その球の直径の平均値を平均粒子径Dとして、Sを求める。比表面積Pは、窒素分子を表面に吸着させ測定した値を用いる。
【0038】
粒子径が小さくなればなるほど比表面積Pは大きくなるため、比表面積単独では多孔質体の特性を示す指標としては不適当である。そのため、粒子径を考慮し、無次元化した指標として多孔度を取り入れた。本発明で使用する無機多孔質体の多孔度は、好ましくは20以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは100以上である。多孔度が20以上であれば、液状カスの吸着除去に効果がある。本願の実施例で用いている多孔質シリカの多孔度は、500を優に越えた高い値である。
【0039】
本発明の感光性樹脂組成物におけるポリマー、有機化合物(b)、及び無機多孔質体微粒子の割合は、通常、ポリマー100重量部に対して、有機化合物(b)は5〜200重量部が好ましく、20〜100重量部の範囲がより好ましい。又、無機多孔質体微粒子は1〜50重量部が好ましく、2〜30重量部の範囲がより好ましい。更に好ましい範囲は、2〜20重量部である。
有機化合物(b)の割合が、上記の範囲より小さい場合、得られる印刷版などの硬度と引張強伸度のバランスがとりにくいなどの不都合を生じやすく、上記の範囲より大きい場合には架橋硬化の際の収縮が大きくなり、厚み精度が悪化する傾向がある。
【0040】
又、無機多孔質体微粒子の量が上記の範囲より小さい場合、ポリマー及び有機化合物(b)の種類によっては、版面のタック防止効果、及びレーザー彫刻した際に、彫刻液状カスの発生を抑制するなどの効果が十分発揮されない場合があり、上記の範囲より大きい場合には、印刷版が脆くなる傾向がある。また、透明性が損なわれる場合があり、また、特にフレキソ版として利用する際には、硬度が高くなりすぎてしまう場合がある。光、特に紫外線を用いて感光性樹脂組成物を硬化させレーザー彫刻印刷原版を作製する場合、光線透過性が硬化反応に影響する。したがって、用いる無機多孔質体微粒子の屈折率が感光性樹脂組成物の屈折率に近いものを用いることが有効である。
【0041】
感光性樹脂組成物中に無機多孔質体を混合する方法として、熱可塑性樹脂を加熱して流動化させた状態で直接無機多孔質体微粒子を添加する方法、あるいは熱可塑性樹脂と光重合性有機化合物(b)を最初に混錬した中に無機多孔質体微粒子を添加する方法のいずれでも構わない。ただし、特に分子量の低い光重合性有機物(b)に直接、無機多孔質体微粒子を混合する方法は避けることが好ましい。すなわち、この第三の方法を用いた場合、無機多孔質体のカス吸収性能を低下させることがある。この理由は明確ではないが、無機多孔質体粒子中の細孔あるいは空隙に低粘度の有機化合物が侵入し、印刷原版を作製する際の露光工程において、細孔内の重合性有機物(b)が硬化し細孔あるいは空隙を埋めてしまうためではないかと推定している。
【0042】
本発明の感光性樹脂組成物を光もしくは電子線の照射により架橋して印刷版などとしての物性を発現させるが、その際に重合開始剤を添加することができる。重合開始剤は一般に使用されているものから選択でき、例えば高分子学会編「高分子データ・ハンドブック−基礎編」1986年培風館発行、にラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合の開始剤が例示されている。また、光重合開始剤を用いて光重合により架橋を行なうことは、本発明の樹脂組成物の貯蔵安定性を保ちながら、生産性良く印刷原版を生産出来る方法として有用であり、その際に用いる開始剤も公知のものが使用できるが、例えばベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、4’−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2、2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノンなどのアセトフェノン類;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、フェニルグリオキシル酸メチル、ベンゾフェノン、ベンジル、ジアセチル、ジフェニルスルフィド、エオシン、チオニン、アントラキノン類等の光ラジカル重合開始剤のほか、光を吸収して酸を発生する芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩等の光カチオン重合開始剤あるいは光を吸収して塩基を発生する重合開始剤などが挙げられる。重合開始剤の添加量は通常ポリマーと有機化合物(b)の合計量の0.01〜10wt%範囲で用いられる。
【0043】
その他、本発明で用いる感光性樹脂組成物には用途や目的に応じて重合禁止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、滑剤、界面活性剤、可塑剤、香料などを添加することができる。
本発明で用いる感光性樹脂組成物は、ポリマーが20℃において液状のポリマー(a)である場合、液状であり、シート状あるいは円筒状樹脂版への加工性の観点から、特に液状感光性樹脂組成物が好ましく、その粘度の好ましい範囲は20℃において、10Pa・s〜10kPa・s、より好ましくは50Pa・s〜5kPa・sである。
【0044】
本発明のレーザー彫刻可能な印刷原版は、無機多孔質体微粒子を含有した感光性材料を光架橋硬化させて形成したものである。したがって、有機化合物(b)の重合性不飽和基、あるいはポリマーと有機化合物(b)の重合性不飽和基が反応することにより3次元架橋構造が形成され、通常用いるエステル系、ケトン系、芳香族系、エーテル系、アルコール系、ハロゲン系溶剤に不溶化する。
この反応は、有機化合物(b)同士、ポリマー同士、あるいはポリマーと有機化合物(b)との間で起こり、重合性不飽和基が消費される。また、光重合開始剤を用いて架橋硬化させる場合、光重合開始剤が光により分解されるため、前記架橋硬化物を溶剤で抽出し、GC−MS法(ガスクロマトグラフィーで分離したものを質量分析する方法)、LC−MS法(液体クロマトグラフィーで分離したものを質量分析する方法)、GPC−MS法(ゲル浸透クロマトグラフィーで分離し質量分析する方法)、LC−NMR法(液体クロマトグラフィーで分離したものを核磁気共鳴スペクトルで分析する方法)を用いて解析することにより、未反応の光重合開始剤および分解生成物を同定することができる。更に、GPC−MS法、LC−MS法、GPC−NMR法を用いることにより、溶剤抽出物中の未反応のポリマー、未反応の有機化合物(b)、および重合性不飽和基が反応して得られる比較的低分子量の生成物についても溶剤抽出物の分析から同定することができる。
【0045】
3次元架橋構造を形成した溶剤に不溶の高分子量成分については、熱分解GC−MS法を用いることにより、高分子量体を構成する成分として、重合性不飽和基が反応して生成した部位が存在するかを検証することが可能である。例えば、メタクリレート基、アクリレート基、ビニル基等の重合性不飽和基が反応した部位が存在することを質量分析スペクトルパターンから推定することができる。熱分解GC−MS法とは、試料を加熱分解させ、生成するガス成分をガスクロマトグラフィーで分離した後、質量分析を行なう方法である。架橋硬化物中に、未反応の重合性不飽和基又は重合性不飽和基が反応して得られた部位と共に、光重合開始剤に由来する分解生成物や未反応の光重合開始剤が検出されると、感光性樹脂組成物を光架橋硬化させて得られたものであると結論付けることができる。
【0046】
また、架橋硬化物中に存在する無機多孔質体微粒子の量については、架橋硬化物を空気中で加熱することにより、有機物成分を焼き飛ばし、残渣の重量を測定することにより得ることができる。また、前記残渣中に無機多孔質体微粒子が存在することは、電界放射型高分解能走査型電子顕微鏡での形態観察、レーザー散乱式粒子径分布測定装置での粒子径分布、および窒素吸着法による細孔容積、細孔径分布、比表面積の測定から同定することができる。
【0047】
本発明の樹脂組成物をシート状、もしくは円筒状に成形する方法は、既存の樹脂の成形方法を用いることができる。例えば、注型法、ポンプや押し出し機等の機械で樹脂をノズルやダイスから押し出し、ブレードで厚みを合わせる、ロールによりカレンダー加工して厚みを合わせる方法等が例示できる。その際、樹脂の性能を落とさない範囲で加熱しながら成形を行なうことも可能である。
【0048】
また、必要に応じて圧延処理、研削処理などをほどこしても良い。通常はPETやニッケルなどの素材からなるバックフィルムといわれる下敷きの上に成形される場合が多いが、直接印刷機のシリンダー上に成形する場合などもありうる。バックフィルムの役割は、印刷原版の寸法安定性を確保することである。したがって、寸法安定性の高いものを選択する必要がある。線熱膨張係数を用いて評価すると、好ましい材料の上限値は100ppm/℃以下、更に好ましくは70ppm/℃以下である。材料の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビスマレイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンチオエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂からなる液晶樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。また、これらの樹脂を積層して用いることもできる。例えば、厚み4.5μmの全芳香族ポリアミドフィルムの両面に厚み50μmのポリエチレンテレフタレートの層を積層したシート等でもよい。また、多孔質性のシート、例えば繊維を編んで形成したクロスや、不織布、フィルムに細孔を形成したもの等をバックフィルムとして用いることもできる。バックフィルムとして多孔質性シートを用いる場合、感光性樹脂組成物を孔に含浸させた後に光硬化させることで、感光性樹脂硬化物層とバックフィルムとが一体化するために高い接着性を得ることができる。クロスあるいは不織布を形成する繊維としては、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アルミナ・シリカ繊維、ホウ素繊維、高珪素繊維、チタン酸カリウム繊維、サファイア繊維などの無機系繊維、木綿、麻などの天然繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド等の合成繊維を挙げることができる。また、バクテリアの生成するセルロースは、高結晶性ナノファイバーであり、薄くて寸法安定性の高い不織布を作製することのできる材料である。
【0049】
また、バックフィルムの線熱膨張係数を小さくする方法として、充填剤を添加する方法、全芳香族ポリアミド等のメッシュ状クロス、ガラスクロスなどに樹脂を含浸あるいは被覆する方法などを挙げることができる。充填剤としては、通常用いられる有機系微粒子、金属酸化物あるいは金属等の無機系微粒子、有機・無機複合微粒子など用いることができる。また、多孔質微粒子、内部に空洞を有する微粒子、マイクロカプセル粒子、低分子化合物が内部にインターカレーションする層状化合物粒子を用いることもできる。特に、アルミナ、シリカ、酸化チタン、ゼオライト等の金属酸化物微粒子、ポリスチレン・ポリブタジエン共重合体からなるラテックス微粒子、高結晶性セルロース等の天然物系の有機系微粒子等が有用である。
【0050】
本発明で用いるバックフィルムの表面に物理的、化学的処理を行うことにより、感光性樹脂組成物層あるいは接着剤層との接着性を向上させることができる。物理的処理方法としては、サンドブラスト法、微粒子を含有した液体を噴射するウエットブラスト法、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、紫外線あるいは真空紫外線照射法などを挙げることができる。また、化学的処理方法としては、強酸・強アルカリ処理法、酸化剤処理法、カップリング剤処理法などを挙げることができる。
【0051】
成形された感光性樹脂組成物は光もしくは電子線の照射により架橋せしめ、印刷原版を形成する。また、成型しながら光もしくは電子線の照射により架橋させることもできる。その中でも光を使って架橋させる方法は、装置が簡便で厚み精度が高くできるなどの利点を有し好適である。硬化に用いられる光源としては高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ等が挙げられ、その他公知の方法で硬化を行うことができる。硬化に用いる光源は、1種類でも構わないが、波長の異なる2種類以上の光源を用いて硬化させることにより、樹脂の硬化性が向上することがあるので、2種類以上の光源を用いることも差し支えない。
また、印刷原版表面を保護する目的で、感光性樹脂組成物をシート状あるいは円筒状に加工すると同時あるいはその後表面にカバーフィルムを被覆することもできる。
【0052】
レーザー彫刻に用いる原版の厚みは、その使用目的に応じて任意に設定して構わないが、印刷版として用いる場合には、一般的に0.1〜7mmの範囲である。場合によっては、組成の異なる材料を複数積層していても構わない。
本発明では、レーザー彫刻される層の下部にエラストマーからなるクッション層を形成することもできる。一般的にレーザー彫刻される層の厚さは、0.1〜数mmであるため、それ以外の下部層は組成の異なる材料であっても構わない。クッション層としては、ショアA硬度が20から70度のエラストマー層であることが好ましい。ショアA硬度が20度以上である場合、適度に変形するため、印刷品質を確保することができる。また、70度以下であれば、クッション層としての役割を果たすことができる。より好ましいショアA硬度の範囲は、30〜60度である。
【0053】
前記クッション層は、特に限定せず、熱可塑性エラストマー、光硬化型エラストマー、熱硬化型エラストマー等ゴム弾性を有するものであれば何でも構わない。ナノメーターレベルの微細孔を有する多孔質エラストマー層であってもよい。特にシート状あるいは円筒状印刷版への加工性の観点から、光で硬化する液状感光性樹脂組成物を用い、硬化後にエラストマー化する材料を用いることが簡便であり好ましい。
クッション層に用いる熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン系熱可塑性エラストマーであるSBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、シリコン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
【0054】
光硬化型エラストマーとしては、前記熱可塑性エラストマーに光重合性モノマー、可塑剤および光重合開始剤等を混合したもの、プラストマー樹脂に光重合性モノマー、光重合開始剤等を混合した液状組成物などを挙げることができる。本発明では、微細パターンの形成機能が重要な要素である感光性樹脂組成物の設計思想とは異なり、光を用いて微細なパターンの形成を行う必要がなく、全面露光により硬化させることにより、ある程度の機械的強度を確保できれば良いため、材料の選定において自由度が極めて高い。
【0055】
また、硫黄架橋型ゴム、有機過酸化物、フェノール樹脂初期縮合物、キノンジオキシム、金属酸化物、チオ尿素等の非硫黄架橋型ゴムを用いることもできる。更に、テレケリック液状ゴムを反応する硬化剤を用いて3次元架橋させてエラストマー化したものを使用することもできる。
本発明において多層化する場合、前記バックフィルムの位置は、クッション層の下、すなわち印刷原版の最下部、あるいは、レーザー彫刻可能な感光性樹脂層とクッション層との間の位置、すなわち印刷原版の中央部、いずれの位置でも構わない。
【0056】
また、本発明のレーザー彫刻印刷版の表面に改質層を形成させることにより、印刷版表面のタックの低減、インク濡れ性の向上を行うこともできる。改質層としては、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤等の表面水酸基と反応する化合物で処理した被膜、あるいは多孔質無機粒子を含有するポリマーフィルムを挙げることができる。
広く用いられているシランカップリング剤は、基材の表面水酸基との反応性の高い官能基を分子内に有する化合物であり、そのような官能基とは、例えばトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリクロロシリル基、ジエトキシシリル基、ジメトキシシリル基、ジモノクロロシリル基、モノエトキシシリル基、モノメトキシシリル基、モノクロロシリル基を挙げることができる。また、これらの官能基は分子内に少なくとも1つ以上存在し、基材の表面水酸基と反応することにより基材表面に固定化される。更に本発明のシランカップリング剤を構成する化合物は、分子内に反応性官能基としてアクリロイル基、メタクリロイル基、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、ビニル基、パーフルオロアルキル基、及びメルカプト基から選ばれた少なくとも1個の官能基を有するもの、あるいは長鎖アルキル基を有するものを用いることができる。
【0057】
また、チタンカップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジ−トリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(オクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルスルフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等の化合物を挙げることができる。
【0058】
表面に固定化したカップリング剤分子が特に重合性反応基を有する場合、表面への固定化後、光、熱、あるいは電子線を照射し架橋させることにより、より強固な被膜とすることもできる。
本発明では、上記のカップリング剤を、必要に応じ、水−アルコール、或いは酢酸水−アルコール混合液で希釈して、調整する。処理液中のカップリング剤の濃度は、0.05〜10.0重量%が好ましい。
【0059】
本発明におけるカップリング剤処理法について説明する。前記のカップリング剤を含む処理液を、印刷原版、あるいはレーザー彫刻後の印刷版表面に塗布して用いられる。カップリング剤処理液を塗布する方法に特に限定はなく、例えば浸漬法、スプレー法、ロールコート法、或いは刷毛塗り法等を適応することが出来る。また、被覆処理温度、被覆処理時間についても特に限定はないが、5〜60℃であることが好ましく、処理時間は0.1〜60秒であることがより好ましい。更に樹脂版表面上の処理液層の乾燥を加熱下に行うことが好ましく、加熱温度としては50〜150℃が好ましい。
【0060】
カップリング剤で印刷版表面を処理する前に、キセノンエキシマランプ等の波長が200nm以下の真空紫外線領域の光を照射する方法、あるいはプラズマ等の高エネルギー雰囲気に曝すことにより、印刷版表面に水酸基を発生させ高密度にカップリング剤を固定化することもできる。
また、無機多孔質体粒子を含有する層が印刷版表面に露出している場合、プラズマ等の高エネルギー雰囲気下で処理し、表面の有機物層を若干エッチング除去することにより印刷版表面に微小な凹凸を形成させることができる。この処理により印刷版表面のタックを低減させること、および表面に露出した無機多孔質体粒子がインクを吸収しやすくすることによりインク濡れ性が向上する効果も期待できる。
【0061】
レーザー彫刻においては、形成したい画像をデジタル型のデータとしてコンピューターを利用してレーザー装置を操作し、原版上にレリーフ画像を作成する。レーザー彫刻に用いるレーザーは、原版が吸収を有する波長を含むものであればどのようなものを用いてもよいが、彫刻を高速度で行なうためには出力の高いものが望ましく、例えば炭酸ガスレーザーやYAGレーザー、半導体レーザー等の赤外線あるいは赤外線放出固体レーザーが好ましい。
【0062】
また、紫外線領域に発振波長を有する紫外線レーザー、例えばエキシマレーザー、第3あるいは第4高調波へ波長変換したYAGレーザー、銅蒸気レーザー等は、有機分子の結合を切断するアブレージョン加工が可能であり、微細加工に適する。また、レーザーは連続照射でも、パルス照射でも良い。一般には樹脂は炭酸ガスレーザーの10μm近傍に吸収を持つため、特にレーザー光の吸収を助けるような成分の添加は必須ではないが、YAGレーザーは1.06μm近傍の波長であり、この波長の吸収を有するものはあまり無い。その場合、これの吸収を助ける成分である、染料、顔料の添加が好ましい。このような染料の例としては、ポリ(置換)フタロシアニン化合物および金属含有フタロシアニン化合物、;シアニン化合物;スクアリリウム染料;カルコゲノピリロアリリデン染料;クロロニウム染料;金属チオレート染料;ビス(カルコゲノピリロ)ポリメチン染料;オキシインドリジン染料;ビス(アミノアリール)ポリメチン染料;メロシアニン染料;及びキノイド染料などが挙げられる。顔料の例としてはカーボンブラック、グラファイト、亜クロム酸銅、酸化クロム、コバルトクロームアルミネート、酸化鉄等の暗色の無機顔料や鉄、アルミニウム、銅、亜鉛のような金属粉およびこれら金属にSi、Mg、P、Co、Ni、Y等をドープしたもの等が挙げられる。これら染料、顔料は単独で使用しても良いし、複数を組み合わせて使用しても良いし、複層構造にするなどのあらゆる形態で組み合わせても良い。ただし、紫外線あるいは可視光線を用いて感光性樹脂組成物を硬化させる場合、印刷原版内部まで硬化させるためには、用いる光線領域に光吸収のある色素や顔料の添加量は低く抑えることが好ましい。添加する光重合開始剤の種類によっても硬化特性は大きく影響されるが、色素や顔料の添加量は5wt%以下が好ましく、より好ましくは1wt%以下、更に好ましくは0.5wt%以下である。
【0063】
レーザーによる彫刻は酸素含有ガス下、一般には空気存在下もしくは気流下に実施するが、炭酸ガス、窒素ガス下でも実施できる。彫刻終了後、レリーフ印刷版面にわずかに発生する粉末状もしくは液状の物質は適当な方法、例えば溶剤や界面活性剤の入った水等で洗いとる方法、高圧スプレー等により水系洗浄剤を照射する方法、高圧スチームを照射する方法などを用いて除去しても良い。
本発明の原版は印刷版用レリーフ画像の他、スタンプ・印章、エンボス加工用のデザインロール、電子部品作成に用いられる抵抗体、導電体ペーストのパターニング用レリーフ画像、窯業製品の型材用レリーフ画像、広告・表示板などのディスプレイ用レリーフ画像、各種成型品の原型・母型など各種の用途に応用し利用できる。
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
実施例及び比較例中、レーザー彫刻はBAASEL社製、商標「TYP STAMPLAS SN 09」を用いて行い、彫刻のパターンは、網点、500μm幅の凸線による線画、及び、500μm幅の白抜き線を含むパターンを作成して実施した。彫刻深さは0.55mmとした。
レーザー彫刻後、エタノールもしくはアセトンを含浸させた不織布(旭化成株式会社製、商標「BEMCOT M−3」)を用いてレリーフ印刷版上のカスを拭き取った。レーザー彫刻前の印刷原版、レーザー彫刻直後の印刷版、及び拭き取り後のレリーフ印刷版各々重量を測定し、式(1)により、彫刻時のカス残存率を求めた。
Figure 0004024136
【0065】
また、拭き取り後のレリーフ印刷版面のタック測定は株式会社東洋精機製作所製タックテスターを用いて行なった。 タック測定は、20℃において、試料片の平滑な部分に半径50mm、幅13mmのアルミニウム輪の幅13mmの部分を接触させ、該アルミニウム輪に0.5kgの荷重を加え4秒間放置した後、毎分30mmの一定速度で前記アルミニウム輪を引き上げ、アルミニウム輪が試料片から離れる際の抵抗力をプッシュプルゲージで読み取る。この値が大きいもの程、ベトツキ度が大きい。
【0066】
更に、彫刻した部位のうち、80lpi(Lines per inch)で面積率約10%および20%の網点部の形状を電子顕微鏡にて観察した。
微粒子の比表面積、細孔分布測定は、米国カンタクローム社製、オートソープ3MP(商標)を用い、液体窒素温度雰囲気下、窒素ガスを吸着させて測定した。具体的には、比表面積はBET式に基づいて算出した。細孔容積および平均細孔径は、窒素の脱着時の吸着等温線から円筒モデルを仮定し、BJH(Brrett-Joyner-Halenda)法という細孔分布解析法に基づいて算出した。
感光性樹脂硬化物の熱分解性評価に用いた熱重量分析(TGA)装置は、SII(セイコーインスツルメント)社製、TG/DTA320(商標)であった。測定条件は、窒素雰囲気下(窒素流量100ml/分)、昇温速度10℃/分、測定温度は室温から550℃までの温度範囲であった。
【0067】
【製造例1】
温度計、攪拌機、還流器を備えた1Lのセパラブルフラスコに旭化成株式会社製ポリカーボネートジオールである、商標「PCDL L4672」(数平均分子量1990、OH価56.4)447.24gとトリレンジイソシアナート30.83gを加え80℃に加温下に約3時間反応させた後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート7.42gを添加し、さらに約3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均約1個)である数平均分子量約10000の樹脂(ア)を製造した。この樹脂は20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ外力を除いても元の形状を回復しなかった。
【0068】
【実施例1および2、比較例1】
前記の製造例で得られた樹脂(ア)、及び旭化成株式会社製スチレンブタジエン共重合体、商標「タフプレンA」(以下略してSBS)を用い、表1に示すように重合性モノマー、無機多孔質体微粒子として富士シリシア化学株式会社製、多孔質性シリカである、商標「サイロスフェアC−1504」(以下略してC−1504、数平均粒子径4.5μm、比表面積520m/g、平均細孔径12nm、細孔容積1.5ml/g、灼熱減量2.5wt%、吸油量290ml/100g)、商標「サイリシア450」(以下略してCH−450、数平均粒子径8.0μm、比表面積300m/g、平均細孔径17nm、細孔容積1.25ml/g、灼熱減量5.0wt%、吸油量200ml/100g)、光重合開始剤、その他添加剤を加えて樹脂組成物を作製した。用いた多孔質性微紛末シリカの多孔度は、密度を2g/cmとして算出すると、サイロスフェアC−1504が780、サイリシア450が800であった。添加した多孔質球状シリカであるサイロスフェアC−1504の真球度は、走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、ほぼ全ての粒子が0.9以上であった。サイリシア450は多孔質シリカではあるが球状シリカではなかった。作製した混合物をPETフィルム上に厚さ2.8mmのシート状に成形し、その表面に厚さ15μmのPETカバーフィルムを被覆したのち、旭化成株式会社製「ALF型213E」(商標)露光機を用い、真空の条件下レリーフ面 2000mJ/cm、バック面1000mJ/cmの条件で露光し、樹脂版を作製した。
【0069】
表2の彫刻後のカス拭き取り回数とは、彫刻後発生する粘稠性の液状カスを除去するのに必要な拭き取り処理の回数であり、この回数が多いと液状カスの量が多いことを意味する。拭き取り後のレリーフ上のタックは、実施例1から3のいずれも、レーザー彫刻後の印刷版において、未彫刻部表面のタックは、100N/m以下であり、彫刻前すなわち感光性樹脂組成物の光硬化物の表面タック値、150〜200N/mに比較して減少していた。更に彫刻部表面のタックは、50N/m未満であった。
【0070】
また、表3に熱重量分析法で評価した結果を示す。
作製した印刷原版をBAASEL社製の炭酸ガスレーザー彫刻機をもちいて、パターンの彫刻を行なった。その評価結果を表2に示す。表2に示した彫刻速度とは、10kHzで発振する100Wの炭酸ガスレーザー光(ビーム径:50μm)を1パルス印刷版に照射した時に彫られる深さで定義する。
レーザー彫刻により形成された実施例1および比較例1のドットパターンの走査型電子顕微鏡写真を、それぞれ写真1図1と写真2図2に示す。実施例1のパターンの方が、比較例1に対して滑らかに形成されていることがわかった。
【0071】
更に、印刷版中の無機多孔質体を、樹脂成分を空気中500℃にて除去することにより取り出した。取り出した微粒子を超高解像走査型電子顕微鏡で観察したところ、細孔を観察することができた。また、微粒子の比表面積、細孔容積、平均細孔径は、米国カンタクローム社製、オートソープ3MP(商標)を用い、液体窒素温度雰囲気下、窒素ガスを吸着させて測定した。その結果、いずれの物性値も、添加する前に測定した値の±10%以内に入るものであり、無機多孔質体微粒子であることが確認された。
【0072】
また、印刷原版の耐摩耗性を評価したところ、球状シリカであるサイロスフェアC−1504を用いたものの方が、磨耗量が少なく、サイシリア450を用いたものよりも優れていた。
本発明実施例3で用いている熱可塑性エラストマーであるSBSの数平均分子量は、GPCを用いて測定しポリスチレン標品を基準として求めた値が、7.7万であった。
【0073】
本発明の実施例で用いている二重結合含有有機化合物の内、脂環族および芳香族の誘導体は、BZMAとCHMAである。
本発明の実施例で用いるSBSの軟化温度は、130℃であった。軟化温度の測定には、レオメトリックス・サイエンティフィック・エフ・イー社製の粘弾性測定装置、回転型のレオメーターを用いて測定した。測定周波数は10rad/秒、昇温速度は10℃/分で室温から加熱を開始し、最初に粘製率が大きく低下する温度を軟化点として求めた。
【0074】
【実施例3】
旭化成社製、商標「APR、F320」液状感光性樹脂組成物を厚さ2mmのシート状に成形する以外は、実施例1と同じ方法により光硬化させ、印刷原版のクッション層を形成した。このクッション層の上に実施例1で用いた液状感光性樹脂組成物を厚さ0.8mmに塗布し、その後の露光工程を経て、印刷原版を作製した。クッション層のショアA硬度は、50度であった。
炭酸ガスレーザーで彫刻後のカス残率は5.7wt%、彫刻後のカス拭き取り回数は3回以下、拭き取り後のレリーフ上のタックは60N/m、網点部の形状は円錐状で良好であった。
【0075】
【比較例2】
分子内にビニル基を有する数平均分子量が10万のポリジメチルシロキサン100重量部に対して、過酸化ベンゾイル1重量部、フュームドシリカ20重量部を混合し、170℃で熱プレスすることにより、架橋硬化したシリコーンゴムからなる厚み3mmの印刷原版を形成した。
また、表3に熱重量分析法で評価した結果を示した。重量減少率50%は550℃を越えて高く、実施例に比較してはるかに高いものであった。
レーザー彫刻速度は、0.8mm/パルスであり、実施例1に比較して60%程度と低いものであった。
【0076】
【表1】
Figure 0004024136
【0077】
【表2】
Figure 0004024136
【0078】
【表3】
Figure 0004024136
【0079】
【発明の効果】
本件発明によれば、直接レーザー彫刻してレリーフ画像を制作する際のカスの発生を抑制し、そのカスを容易に除去できるばかりででなく、彫刻レリーフの形状が優れ、印刷面のタックが小さく、彫刻速度が速いフレキソ印刷版の提供を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1においてレーザー彫刻により形成されたパターンの走査型電子顕微鏡写真。
【図2】比較例1においてレーザー彫刻により形成されたパターンの走査型電子顕微鏡写真。

Claims (6)

  1. 比表面積が10m 2 /g以上1500m 2 /g以下であり、平均細孔径が1nm以上1000nm以下、細孔容積が0.1ml/g以上10ml/g以下、吸油量が10ml/100g以上2000ml/100g以下、かつ数平均粒子径が0.1μm以上100μm以下である無機多孔質体微粒子を含有する感光性樹脂組成物の光硬化物からなるレーザー彫刻可能な印刷原版において、該印刷原版を窒素雰囲気中、昇温速度10℃/分の条件で室温から昇温して熱重量分析(TGA)した場合に、重量減少率が50%の温度が150℃以上400℃以下であることを特徴とするレーザー彫刻印刷原版。
  2. 感光性樹脂組成物が、数平均分子量が1000から10万の20℃において液状のポリマー(a)、数平均分子量が1000未満の重合性不飽和基を有する有機化合物(b)を含有する請求項に記載のレーザー彫刻印刷原版。
  3. 有機化合物(b)の全体量の20wt%以上が脂環族、芳香族の少なくとも1種類以上の誘導体である請求項に記載のレーザー彫刻印刷原版。
  4. 無機多孔質体微粒子の数平均粒子径が0.1μm以上100μm以下であって、少なくとも70%の粒子の真球度が0.5〜1の範囲の球状粒子であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のレーザー彫刻印刷原版。
  5. 請求項1からのいずれかに記載の印刷原版の下部に、ショアA硬度が20度以上70度以下の一定厚さのエラストマー層を少なくとも1層有する多層レーザー彫刻印刷原版。
  6. エラストマー層が、常温で液状の感光性樹脂組成物を硬化して形成される請求項に記載の多層レーザー彫刻印刷原版。
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