JP4021231B2 - 電子部品用薄膜の製造方法および電子部品 - Google Patents

電子部品用薄膜の製造方法および電子部品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セラミックコンデンサや薄膜積層型フェライトなどの電子部品を製造するためのセラミックグリーンシートやフェライトグリーンシートなどの電子部品用薄膜を製造する電子部品用薄膜の製造方法、およびその製造方法に従って製造された電子部品用薄膜を用いて製造した電子部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の電子部品用薄膜の製造方法に従って製造した電子部品用薄膜を用いた電子部品として、図6に示す積層セラミックコンデンサ(以下、「セラミックコンデンサ」ともいう)51が従来から知られている。このセラミックコンデンサ51は、複数の内部電極2a,2a・・を有するセラミック誘電体層(以下、「誘電体層」ともいう)2と、誘電体層2の上下に形成されて誘電体層2を保護する保護層53,53と、誘電体層2および保護層53,53の左右両端部を覆うように形成されて内部電極2a,2a・・に対して交互に接続された一対の外部電極4,4とを備えている。この場合、誘電体層2は、一例として厚み20μm程度のセラミックグリーンシート12の表面に内部電極2aを形成したセラミックグリーンシート12a,12a・・が積層されて構成されている。また、保護層53は、一例としてその厚みが100μm程度となるように、所定枚数のセラミックグリーンシート12,12・・が積層されて構成されている。
【0003】
このセラミックコンデンサ51を製造する際には、最初に、セラミックグリーンシート12を製造する。この際に、まず、セラミック粉体、結合剤(バインダー)および有機溶剤を混合してスラリー状塗布液を生成し、このスラリー状塗布液を薄膜製造用の剥離フィルムに塗布する。次に、この状態の剥離フィルムを乾燥工程で乾燥させることにより、スラリー状塗布液内の有機溶剤を揮発させて除去する。これにより、スラリー状塗布液が固化してセラミックグリーンシート12が作製される。続いて、誘電体層2として用いるセラミックグリーンシート12上に、導電性ペーストからなる塗布液を用いて内部電極パターンを印刷し、これを乾燥させて内部電極2aを形成する。この結果、セラミックグリーンシート12aが作製される。次に、剥離フィルムを剥がしたセラミックグリーンシート12a,12a・・を所定枚数積層することにより誘電体層2を形成する。次いで、剥離フィルムを剥がしたセラミックグリーンシート12,12・・を誘電体層2の上下に所定枚数ずつ積層することにより、保護層53,53を形成する。続いて、一体化した誘電体層2および保護層53,53を所定のチップ形状に切断してセラミックチップを作製した後に、所定温度で焼成する。この後、誘電体層2および保護層53,53の両端部に外部電極を形成することにより、図6に示すセラミックコンデンサ51が製造される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、従来のセラミックグリーンシート12(電子部品用薄膜)の製造方法およびセラミックコンデンサ51(電子部品)には、以下の問題点がある。すなわち、従来の製造方法では、セラミックグリーンシート12a,12a・・を積層して誘電体層2を形成し、その上下にセラミックグリーンシート12,12・・を所定枚数ずつ積層して保護層53,53を形成している。このため、この積層作業時に、セラミックグリーンシート12a,12a・・12,12・・の間に空気が入り込むことに起因して、各セラミックグリーンシート間に空隙が形成されることがある。かかる場合には、そのセラミックチップを焼成する際に、各セラミックグリーンシート間が部分的に剥離するというデラミネーション(層間剥離)の発生を招くおそれがある。このデラミネーションが発生した場合には、内部電極2a,2a間の距離のばらつきや、セラミックグリーンシート12,12・・の密着性が損なわれることに起因して、セラミックコンデンサ51の信頼性が低下するという問題が発生する。
【0005】
また、この種のセラミックコンデンサでは、保護層53としては、誘電体層2の保護機能を十分に発揮するために、その厚みが35μmから500μm程度必要とされる。したがって、従来のセラミックコンデンサ51では、厚みが20μm程度のセラミックグリーンシート12を目的の厚み(この場合、例えば100μm)となるように多数枚積層することにより、保護層53を形成している。このため、多数枚のセラミックグリーンシート12,12・・を積層する作業が煩雑であり、セラミックコンデンサ51の製造コストが高騰しているという問題点がある。この場合、セラミックグリーンシートの1枚当りの厚みを厚くすることにより、少ない数のセラミックグリーンシートを積層して所望の厚みの保護層を形成する方法が考えられる。しかし、厚手のセラミックグリーンシートを積層した場合、薄厚のセラミックグリーンシートと比較して通気性が低下するため、積層作業時に各セラミックグリーンシート間の空気が抜け難く、デラミネーションが一層発生し易くなるという問題点がある。
【0006】
一方、特開2000−173858号公報には、デラミネーションの発生を防止するために、セラミックグリーンシートの生成に際して、セラミックグリーンシート(スラリー状塗布液)を凍結させた状態で溶剤を揮発させたり、熱、紫外線または電子線によって結合剤を硬化させた状態で溶剤を揮発させたりすることにより、乾燥後のセラミックグリーンシート内に空孔を形成して通気性を確保する電子部品用薄膜の製造方法に関する技術が開示されている。しかし、この製造方法では、凍結処理または硬化処理の分だけセラミックグリーンシートの製造工程が煩雑化する結果、製造コストの低減が困難になるという問題点がある。また、同公報には、セラミックグリーンシートを1枚積層する都度、プレスして各シートを圧着する技術も開示されているが、このプレス処理が煩雑のため、製造コストの低減が一層困難になるという問題点もある。
【0007】
また、特開平11−67575号公報には、スラリー状塗布液の乾燥時に揮発せずにセラミックチップとして焼成する際に消失する素材で形成された中空粒子を混入して製作したセラミックグリーンシートを用いることにより、積層状態のセラミックグリーンシートを焼成する際の通気性を確保してデラミネーションの発生を防止する技術が開示されている。しかし、この製造方法では、空孔形成用の中空粒子が比較的高価のため、これに起因して電子部品の製造コストが高騰するという問題点が存在する。また、この製造方法では、焼成時に中空粒子を消失させて通気性を確保しているため、焼成前におけるセラミックグリーンシートの通気性が損なわれるため、積層時において各シート間に空気が入り込んだ状態となる結果、空隙が形成され易いという問題点も存在する。
【0008】
さらに、特開2000−114098号公報には、セラミックチップとして焼成する際に焼失する素材で形成された粒状体を用いることにより、乾燥後のセラミックグリーンシート内に直径5μm〜50μmの空孔を形成して通気性を確保する電子部品用薄膜の製造方法が開示されている。しかし、この製造方法には、製造されたセラミックグリーンシートの耐湿性が著しく低下するという問題点がある。また、この製造方法には、特開平11−67575号公報に開示された製造方法と同様にして、焼成時に粒状体を消失させて通気性を確保しているため、積層作業時に空隙が形成され易いという問題点もある。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、電子部品の製造コスト低減および電気的性能の安定化を図りつつ、積層時における空隙の形成を防止し得る電子部品用薄膜の製造方法を提供することを主目的とする。また、製造コストの低減および電気的性能の安定化を図り得る薄膜積層型の電子部品を提供することを他の目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく本発明に係る電子部品用薄膜の製造方法は、薄膜用粉体、結合剤および溶剤を混合してスラリー状塗布液を生成し、当該スラリー状塗布液を薄膜製造用の剥離フィルムに塗布した後に、当該塗布したスラリー状塗布液を乾燥させることにより、前記剥離フィルムに電子部品用薄膜を形成する電子部品用薄膜の製造方法であって、沸点が所定温度の第1の溶剤と、沸点が前記所定温度よりも高温の第2の溶剤とを前記溶剤とし、その沸点が前記第2の溶剤よりも高温で前記第1および第2の溶剤に対する乾燥工程後の当該電子部品用薄膜内に残留可能であって、かつ当該第1の溶剤に溶解し当該第2の溶剤に対して非溶解性を有する液状の添加剤を前記薄膜用粉体に占める混合比率が1.0%以上4.5%以下の範囲内となるようにさらに混合すると共に前記第2の溶剤がすべての溶剤中に占める混合割合を40%以上60%以下として前記スラリー状塗布液を生成した。
【0011】
この場合、前記電子部品用薄膜の乾燥後の厚みが35μm以上500μm以下となるように前記スラリー状塗布液を前記剥離フィルムに塗布するのが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る薄膜積層型の電子部品は、上記電子部品用薄膜の製造方法に従って製造した電子部品用薄膜を積層または貼付して製造した。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る電子部品用薄膜の製造方法および電子部品の好適な実施の形態について説明する。
【0014】
最初に、本発明における電子部品に相当するセラミックコンデンサ1について、図1,2を参照して説明する。
【0015】
セラミックコンデンサ1は、図1に示すように、誘電体層2、保護層3,3および外部電極4,4を備えて構成されている。誘電体層2は、厚み20μm程度のセラミックグリーンシート12の表面に内部電極2aを形成したセラミックグリーンシート12a,12a・・が積層されて構成されている。保護層3は、その厚みが100程度μmとなるように、厚み50μm程度のセラミックグリーンシート13,13が誘電体層2の上下にそれぞれ2枚ずつ積層されて構成されている。この場合、誘電体層2および保護層3の厚みについては、セラミックコンデンサ1の電気的特性などの諸条件に応じて適宜変更することができる。また、これに応じてセラミックグリーンシート12,13の厚みも適宜変更することができる。外部電極4は、誘電体層2および保護層3,3の左右両端部を覆うように形成されて内部電極2a,2a・・に交互に接続されている。この場合、セラミックグリーンシート12(12a)およびセラミックグリーンシート13が本発明における電子部品用薄膜に相当し、その表面(および裏面)には、外接円の直径が1μm以上5μm以下の凹部が100μm当り3個以上30個以下の範囲内で、かつその表面積に占める凹部の外接円の面積比率が10%以上70%以下の範囲内となるように形成されている。この場合、凹部の平面視形状は、円状、楕円状、星状、アメーバ状および多角形状など任意の形状であってよい。
【0016】
このセラミックコンデンサ1の製造に際しては、まず、後述するセラミックグリーンシートの製造方法に従って、セラミックグリーンシート12,13を製作する。次に、セラミックグリーンシート12の表面に内部電極2aを形成することにより、セラミックグリーンシート12aを製作する。次いで、図2に示すように、セラミックグリーンシート12a,12a・・およびセラミックグリーンシート13,13・・を所定枚数ずつ積層することにより、誘電体層2および保護層3,3を形成する。なお、同図では、本発明の実施の形態についての理解を容易とするために、その厚み方向を拡大して図示している。この場合、このセラミックコンデンサ1では、各セラミックグリーンシートの表面100μm当りに、外接円の直径が1μm以上5μm以下の凹部を3個以上30個以下の範囲内で、かつその表面積に占める凹部の外接円の面積比率が10%以上70%以下の範囲内となるように形成しているため、積層時に各セラミックグリーンシート間に入り込んだ空気がセラミックグリーンシート13の厚み方向に対して抜け易くなっている。したがって、従来のセラミックコンデンサ51とは異なり、各セラミックグリーンシート間に空隙が形成され難くなっている。また、このセラミックコンデンサ1では、厚みが50μm程度のセラミックグリーンシート13を積層して保護層3を形成している。このため、厚みが20μm程度のセラミックグリーンシート12を多数枚積層して保護層53を形成していた従来のセラミックコンデンサ51と比較して、少ない枚数のセラミックグリーンシート13(この場合、2枚)で、厚み100μm程度の保護層3が形成される。
【0017】
次いで、誘電体層2および保護層3,3に対して上下方向から圧力を加えることにより、誘電体層2および保護層3,3を圧着する。この際には、各凹部を介して各シート間の空気がほぼ完全に排除される結果、誘電体層2および保護層3,3内の各シートが完全に密着する。続いて、圧着したセラミックグリーンシート12a,12a・・13,13・・を同図の破線で示す部位で切断することにより、セラミックチップ1aを形成する。この後、このセラミックチップ1aを焼成する。この際に、このセラミックコンデンサ1では、セラミックグリーンシートの積層時に各シート間の空気が完全に排除されているため、空隙の存在に起因するデラミネーションの発生が防止される。この後、セラミックチップ1aの両端面に外部電極をそれぞれ形成することにより、図1に示すように、セラミックコンデンサ1が完成する。
【0018】
このように、このセラミックコンデンサ1によれば、表面100μm当りに、外接円の直径が1μm以上5μm以下の凹部が3個以上30個以下の範囲内で、かつその表面積に占める凹部の外接円の面積比率が10%以上70%以下の範囲内となるように形成したセラミックグリーンシート12a,12a・・13,13・・を積層して誘電体層2および保護層3,3を形成したことにより、各セラミックグリーンシートの積層時における空隙の形成を回避することができ、これにより、焼成時のデラミネーションの発生を十分に防止することができる。また、このセラミックコンデンサ1によれば、従来のセラミックコンデンサ51におけるセラミックグリーンシート12と比較して厚手のセラミックグリーンシート13(この場合、厚み50μm)を積層して保護層3を形成することにより、少ない枚数のセラミックグリーンシート13,13・・で保護層3を形成することができるため、保護層3の形成時における積層作業時間を大幅に短縮できる結果、セラミックコンデンサ1の製造コストを十分に低減することができる。
【0019】
次に、セラミックコンデンサ1に使用されるセラミックグリーンシート13の製造方法を例に挙げて、本発明における電子部品用薄膜の製造方法について説明する。なお、セラミックグリーンシート12の製造方法に関しては、セラミックグリーンシート13の製造方法と基本的に同じであるため、その説明を省略する。
【0020】
最初に、セラミックグリーンシート13を製造するためのスラリー状塗布液13aを製作する。この際に、まず、粒径が例えば0.5μm程度のチタン酸バリウム、酸化クロム、酸化イットリウム、炭酸マンガン、炭酸バリウム、炭酸カルシウムおよび酸化硅素の粉末をそれぞれ焼成して混合することにより、本発明における薄膜用粉体に相当するセラミック粉体を生成する。次に、生成したセラミック粉体と、結合剤(バインダー)としてのアクリル樹脂と、本発明における第1の溶剤に相当する第1主溶剤と、本発明における第2の溶剤に相当し第1主溶剤よりも高沸点の第2主溶剤とを溶剤として、その溶剤と、本発明における添加剤に相当するエチレングリコールとを、φ10mmのジルコニアビーズを用いてポット架台により24時間程度混合することにより、スラリー状塗布液13aを作製する。この際に、第1主溶剤としては、エチレングリコールを溶解可能なものを用いる。また、第2主溶剤としては、エチレングリコールを溶解しないもの(つまり、エチレングリコールが第2主溶剤に対して非溶解性を有する)を用いる。この場合、すべての溶剤に占める第2主溶剤の混合割合は、40%以上60%以下の範囲内とする。また、セラミック粉体全体に占めるエチレングリコールの割合は、1.0%以上4.5%以下の範囲内であるのが好ましい。かかる条件を満たすことにより、後述するように、本発明における電子部品用薄膜の製造方法によってのみ奏される顕著な効果を得ることができる。したがって、本発明の実施の形態では、一例として、第1主溶剤と第2主溶剤との混合比率を40(第1主溶剤):60(第2主溶剤)とし、セラミック粉体全体に占めるエチレングリコールの混合比率を1.6%としてスラリー状塗布液13aを作製する。なお、スラリー状塗布液13aの原料となる混合物は、上記した組合わせ例に限定されず、例えば、セラミックグリーンシート13の平滑性や通気性を確保するための各種助溶剤や、その他の添加剤を混合することもできる。
【0021】
次に、スラリー状塗布液13aを、図3に示す薄膜製造装置21にセットする。この薄膜製造装置21は、薄膜製造用の支持体として用いられる剥離フィルムFにスラリー状塗布液13aを塗布して乾燥させることにより、剥離フィルムF上にセラミックグリーンシート13を形成する装置であって、ロール状に巻回された剥離フィルムFを送り出す送出し側回転軸22と、剥離フィルムFにスラリー状塗布液13aを塗布する塗布装置23と、剥離フィルムF上のスラリー状塗布液13aを乾燥させてセラミックグリーンシート13を形成する乾燥器24,25,26と、セラミックグリーンシート13を剥離フィルムFと共にロール状に巻き取る巻取り側回転軸27とを備えている。なお、本発明の実施の形態についての理解を容易とするために、薄膜製造装置21の上記した構成以外の機構の詳細な記述と図示とを省略する。
【0022】
塗布装置23は、ドクターブレード23aと剥離フィルムFとの間隙が適宜調節されることにより、その間隙に応じた塗布厚でスラリー状塗布液13aを剥離フィルムFの表面に塗布する。乾燥器24,25,26は、その内部空間S1,S2,S3が所定の乾燥温度に維持され、この内部空間S1,S2,S3にスラリー状塗布液13aを塗布した剥離フィルムFが順次通過させられることにより、乾燥温度を段階的に上昇させてスラリー状塗布液13a内の第1主溶剤および第2主溶剤を揮発させる。この場合、乾燥器24の内部空間S1における乾燥温度を、第1主溶剤の沸点よりも僅かに低温に維持するのが好ましい。また、乾燥器26の内部空間S3における乾燥温度を、第2主溶剤の沸点に対して僅かに高温に維持するのが好ましい。さらに、乾燥器25の内部空間S2における乾燥温度を、内部空間S1,S3における両乾燥温度のほぼ中間温度に維持するのが好ましい。
【0023】
一方、剥離フィルムFは、ベースフィルム(PETフィルム)上に剥離層を形成して構成されている。この場合、ベースフィルムは、芳香族二塩基酸成分とジオール成分とからなる結晶性の線状飽和ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなど)の未延伸フィルムを、二軸延伸させて形成されている。また、剥離層は、ベースフィルムに剥離特性を付与する層であって、ベースフィルムの片面に硬化性シリコン樹脂を含有する塗布液を塗布乾燥させて形成されている。ここで、硬化性シリコン樹脂を含有する塗布液としては、一例として、硬化性シリコン(固形分濃度30%)をメチルエチルケトンおよびトルエンの混合溶剤(MEK/トルエン=50/50溶液)中に溶解させて全体としての固形分濃度が3%の溶液を使用する。
【0024】
この薄膜製造装置21を用いたセラミックグリーンシート13の製造に際しては、まず、送出し側回転軸22および巻取り側回転軸27を矢印A1,A2の向きでそれぞれ回転させる。これにより、剥離フィルムFが送出し側回転軸22から送り出され、矢印Aの向きで移動する。この際には、塗布装置23によってスラリー状塗布液13aが剥離フィルムF上に均一に塗布される。この場合、剥離フィルムFに塗布されたスラリー状塗布液13aは、後述するように乾燥させた際に、その厚み方向に収縮する。このため、乾燥後のセラミックグリーンシート13の厚みが50μmとなるように、ドクターブレード23aと剥離フィルムFとの間隙を適宜調節しておく。
【0025】
続いて、剥離フィルムFが、乾燥器24の内部空間S1に案内される。この内部空間S1では、主としてスラリー状塗布液13a内の第1主溶剤の大半が揮発させられると共に、第2主溶剤が少量揮発させられる。この場合、内部空間S1の乾燥温度が第1主溶剤の沸点よりも僅かに低温に維持されているため、スラリー状塗布液13a内の第1主溶剤が沸騰することなく緩やかにスラリー状塗布液13aから揮発する。これにより、第1主溶剤の急激な揮発に起因するひび割れや部分剥離の発生が内部空間S1において防止される。また、エチレングリコールが第2主溶剤に溶解されないため、第1主溶剤の揮発に伴い、第1主溶剤に溶解していたエチレングリコールが球状の塊となった水球がスラリー状塗布液13aの厚み内に形成される。同時に、セラミックグリーンシートの表面(および裏面)にも、第1主溶剤が揮発してエチレングリコールが水球化した痕跡としての凹部が形成される。
【0026】
次いで、剥離フィルムFは、乾燥器25の内部空間S2に案内される。この内部空間S2では、スラリー状塗布液13a内に残留していた第1主溶剤がほぼ完全に揮発させられ、かつ、第2主溶剤が徐々に揮発する。この場合、乾燥器24によって第1主溶剤の大半が既に揮発させられているため、内部空間S2の乾燥温度が第1主溶剤の沸点よりも高温に維持されている場合であっても、第1主溶剤の揮発に起因するひび割れや部分剥離が発生することなく、スラリー状塗布液13a内に残留する第1主溶剤が、ほぼ完全に揮発する。同時に、第2主溶剤の沸点よりも低温で、かつ内部空間S1の乾燥温度よりも高温の乾燥温度で乾燥させられる結果、多くの第2主溶剤が緩やかにスラリー状塗布液13aから揮発する。したがって、この状態では、第1主溶剤中に溶解していたエチレングリコールによる水球がスラリー状塗布液13aの厚み内に無数に形成される。また、セラミックグリーンシートの表面には、エチレングリコールが水球化した痕跡として、その外接円の直径が1μm以上5μm以下の凹部が100μm当り3個以上30個以下の範囲内で、かつその表面積に占める凹部の外接円の面積比率が10%以上70%以下の範囲内で形成される。この場合、これらの凹部は、この後に行われる乾燥工程を含むすべての乾燥工程において第1主溶剤および第2主溶剤の揮発に伴ってスラリー状塗布液13a内に形成される微細な孔を介して、スラリー状塗布液13aの内部に形成されたエチレングリコールの水球に繋がった状態で形成される。
【0027】
続いて、剥離フィルムFは、乾燥器26の内部空間S3に案内される。この内部空間S3では、スラリー状塗布液13a内に残留する第2主溶剤が、ほぼ完全に揮発する。この場合、乾燥器24,25によってスラリー状塗布液13a内の第1主溶剤がほぼ完全に揮発させられ、かつ多くの第2主溶剤が揮発しているため、内部空間S3の乾燥温度が第2主溶剤の沸点よりも高温に維持されていたとしても、第2主溶剤の揮発に起因するひび割れや部分剥離の発生が防止される。以上の乾燥処理により、第1主溶剤および第2主溶剤がほぼ完全に揮発してスラリー状塗布液13aが固化するため、ひび割れや部分剥離がなく、しかも十分に乾燥した良品のセラミックグリーンシート13が剥離フィルムF上に形成される。また、エチレングリコールの水球は、各乾燥工程において殆ど揮発せずにその大半がセラミックグリーンシート13内に残留する。この場合、内部空間S3での乾燥工程では、水球化しているエチレングリコールの一部が揮発すると共に、揮発しないで残留したエチレングリコールが前述した微細な孔の内部に毛細管現象によって吸い込まれて、剥離フィルムF上のスラリー状塗布液13a内に拡散する。したがって、スラリー状塗布液13aは、このエチレングリコールが残留したまま固化してセラミックグリーンシート13となる。この後、セラミックグリーンシート13は、剥離フィルムFと共に巻取り側回転軸27に巻き取られ、これにより、ロール状に巻回されたセラミックグリーンシート13が完成する。
【0028】
このように、このセラミックグリーンシート13の製造方法によれば、低沸点の第1主溶剤に溶解し、高沸点の第2主溶剤に溶解しないエチレングリコールなどの添加剤を混合して作製したスラリー状塗布液13aを用いることにより、このスラリー状塗布液13aの乾燥時に第1主溶剤が揮発することによってエチレングリコールの水球による無数の小空間がセラミックグリーンシート13の厚み内に形成される。また、セラミックグリーンシートの表面(および裏面)には、セラミックグリーンシート13の厚み内に形成された無数の小空間に、第1および第2主溶剤の揮発に伴って形成される微細な孔を介して繋がる多数の凹部が形成される。このため、そのセラミックグリーンシートを積層した際には、各セラミックグリーンシート間の空気が、セラミックグリーンシートの厚み内の微細な孔、小空間、およびその小空間に繋がる凹部を介して排出される結果、各セラミックグリーンシート間においての空隙の形成が回避される。したがって、積層状態のセラミックグリーンシートを焼成した際にも、空隙の存在に起因するデラミネーションの発生を防止できるため、良品の電子部品(例えばセラミックコンデンサ)を確実に製造することができる。なお、スラリー状塗布液13a内に残留していたエチレングリコールは、セラミックグリーンシートの焼成時に揮発して消失する。
【0029】
この場合、エチレングリコールの添加量が過小のときには、スラリー状塗布液13aの乾燥時に通気性を確保するために十分な数のエチレングリコールの水球が形成されない。また、エチレングリコールの添加量が十分であっても、そのエチレングリコールを溶解しない第2主溶剤の混合率が過小のとき(第1主溶剤の混合率が過多のとき)には、第1主溶剤からのエチレングリコールの分離が緩やかになる結果、エチレングリコールが十分な大きさの水球に成長することができず、通気性を確保することが困難となる。さらに、エチレングリコールを溶解しない第2主溶剤の混合率が過多のとき(第1主溶剤の混合率が過小のとき)には、スラリー状塗布液13aの乾燥前からのエチレングリコールの分離や、エチレングリコールの第1主溶剤からの急激な分離が生じる結果、エチレングリコールの水球の直径が過大となる。かかる場合には、セラミックグリーンシートの耐湿性が低下し、良品電子部品の製造が困難となる。したがって、セラミック粉体全体に対するエチレングリコールの添加量を1.0%以上4.5%以上とし、第2主溶剤の混合率を40%以上60%以下とすることにより、空隙の形成およびデラミネーションの発生を有効に防止することができると共に耐湿性に優れた良品のセラミックグリーンシートを製造することができる。
【0030】
【実施例】
次いで、本発明における電子部品用薄膜の製造方法について、図4,5を参照しつつ、本実施例によってさらに詳しく説明する。
【0031】
図4に示す実施例1〜および比較例1〜によって作製(製造)したセラミックグリーンシートについて、以下のように評価した。
1.凹部の外接円の直径、凹部の個数および外接円の面積比率についての評価
作製したそれぞれのセラミックグリーンシートの表面を電子顕微鏡で観察して凹部の存在を検査した。
この場合、その表面に存在する凹部の外接円における直径の平均値と、100μm当りの凹部の存在個数と、外接円の直径(平均値)および個数を互いに乗じた面積がセラミックグリーンシートの表面に占める面積比とを、図4に示す。
【0032】
2.デラミネーションの発生について
作製したそれぞれのセラミックシートを複数枚積層した後に切断してセラミックチップを作製し、そのセラミックチップを焼成してデラミネーション発生の有無を検査した。
この場合、デラミネーションが発生しないものを○、デラミネーションが若干発生するものの製品としての使用に影響を及ぼさないものを△、デラミネーションが多数発生して製品としての使用が不適なものを×として図4に示す。
【0033】
3.セラミックグリーンシートの耐湿性について
乾燥後のセラミックグリーンシートの耐湿性を検査した。
この場合、電子部品用薄膜として用いるのに適当な耐湿性を有するものを○、耐湿性が若干劣るものの製品としての使用には差し支えないものを△、製品としての使用が不適なほど耐湿性に劣るものを×として図4に示す。
【0034】
(実施例1)
<使用した溶剤、およびスラリー状塗布液の塗布厚>
低沸点の第1主溶剤と、高沸点の第2主溶剤とを60:40の比率で混合し、かつセラミック粉体全体に占める割合が1.6%となるようにエチレングリコールを添加してスラリー状塗布液を生成する。このスラリー状塗布液を、乾燥後のセラミックグリーンシートの厚み(以下、「グリーンシート厚」ともいう)が80μmとなるように剥離フィルムFに塗布した。
【0035】
<スラリー状塗布液の乾燥処理>
スラリー状塗布液を塗布した剥離フィルムFを、乾燥器24〜26を用いて乾燥温度を段階的に上昇させて乾燥させ、セラミックグリーンシートを作製した。
この場合、乾燥器24内の乾燥温度を主溶剤の沸点よりも僅かに低温に維持し、乾燥器26内の乾燥温度を第2主溶剤の沸点よりも僅かに高温に維持し、乾燥器25内の乾燥温度を乾燥器24,26の中間温度に維持し、剥離フィルムFの乾燥器内の通過時間を1.2分として、スラリー状塗布液を乾燥させた。なお、乾燥器内の通過時間については、乾燥器24〜26のすべてを通過するのに要した所要時間を示す。
【0036】
(実施例2)
エチレングリコールの添加量を3.2%とし、そのほかの作製条件を実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0037】
(実施例3)
第1主溶剤および第2主溶剤を50:50の比率で混合し、そのほかの作製条件を実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0038】
(実施例4)
第1主溶剤および第2主溶剤を50:50の比率で混合し、エチレングリコールの添加量を3.2%とし、そのほかの作製条件を実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0039】
(実施例5)
第1主溶剤および第2主溶剤を50:50の比率で混合し、エチレングリコールの添加量を4.3%とし、そのほかの作製条件を実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0040】
(実施例6)
第1主溶剤および第2主溶剤を40:60の比率で混合し、そのほかの作製条件を実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0041】
(実施例7)
第1主溶剤および第2主溶剤を40:60の比率で混合し、エチレングリコールの添加量を3.2%とし、そのほかの作製条件を実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した
【0042】
(比較例1)
第1主溶剤および第2主溶剤を70:30の比率で混合し、そのほかの作製条件を実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0043】
(比較例2)
エチレングリコールの添加量を0.8%とし、そのほかの作製条件を実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0044】
(比較例3)
第1主溶剤および第2主溶剤を50:50の比率で混合し、エチレングリコールの添加量を0.2%とし、そのほかの作製条件を実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0045】
(比較例4)
第1主溶剤および第2主溶剤を30:70の比率で混合し、そのほかの作製条件を実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0046】
(比較例5)
第1主溶剤および第2主溶剤を30:70の比率で混合し、エチレングリコールの添加量を2.0%とし、そのほかの作製条件を実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0047】
(比較例
第1主溶剤および第2主溶剤を30:70の比率で混合し、エチレングリコールの添加量を4.6%とし、そのほかの作製条件を実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0048】
(比較例
第1主溶剤および第2主溶剤を20:80の比率で混合し、そのほかの作製条件を実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0049】
上記実施例1〜および比較例1〜では、図4に示すように、エチレングリコールの添加量を1.6%〜4.3%とし、第2主溶剤の混合比率を40%以上70%以下としたときに、外接円の直径が1.0μm〜4.7μmの凹部が、セラミックグリーンシートの表面100μm当り3個以上30個以下の範囲内で、かつその表面積に占める凹部の外接円の面積比率が10%以上70%以下の範囲内で形成された。これらのセラミックグリーンシートを積層した際には、空隙が形成されず、かつ、この積層状態のセラミックグリーンシートを焼成した際にデラミネーションが発生しないことを確認した。この場合、エチレングリコールの添加量が多いほど凹部の形成個数が増え、第2主溶剤の混合比率が多いほど凹部の外接円の直径が大きくなる傾向がある。
【0050】
これに対して、エチレングリコールの添加量を1.0%未満または4.5%超としたときや、第2主溶剤の混合比率を40%未満または70%超とした場合、凹部の外接円の直径が1.0μm未満または4.5μm超となったり、表面100μm当りの凹部の形成個数が3個未満または30個超となったり、セラミックグリーンシートの表面に占める外接円の割合が10%未満または70%を超えたりする。これらのセラミックグリーンシートを積層した際には、各シート間に空隙が形成されることに起因して、積層状態のセラミックグリーンシートを焼成した際に、デラミネーションが発生するのを確認した。また、比較例6,7のように、外接円の直径が5.0μm以上の凹部が存在するセラミックグリーンシートについては、その耐湿性が著しく低下することを確認した。この場合、エチレングリコールの添加量が過小のときには、凹部の個数が足りず、第2主溶剤の混合比率が40%未満のときには、凹部の外接円の直径が小さ過ぎ、第2主溶剤の混合比率が70%超のときには、凹部の外接円の直径が大き過ぎるという傾向がある。また、混合比率が70%のときには、耐湿性が若干劣っている。したがって、エチレングリコールの添加量を1.0%以上4.5%以下とし、第2主溶剤の混合比率を40%以上60%以下とすることにより、外接円の直径が1.0μm以上5.0μm以下の凹部が、セラミックグリーンシートの表面100μm当り3個以上30個以下の範囲内で、かつその表面積に占める凹部の外接円の面積比率が10%以上70%以下の範囲内で形成され、これにより、デラミネーションの発生を防止することができると共に、耐湿性に優れたセラミックグリーンシートを製造することができる。
【0051】
図5に示す実施例8,9および比較例8〜11によって作製したセラミックグリーンシートについて、凹部の外接円の直径、凹部の個数、外接円の面積比、デラミネーションの発生、および耐湿性について、図4に記載した例と同様にして作製したセラミックグリーンシートと同じようにして評価した。なお、比較参照のため、図4に記載した実施例6および比較例1,を図5に併記する。
【0052】
(実施例
<使用した溶剤、およびスラリー状塗布液の塗布厚>
低沸点の第1主溶剤と、高沸点の第2主溶剤とを40:60の比率で混合し、かつセラミック粉体全体に占める割合が1.6%となるようにエチレングリコールを添加してスラリー状塗布液を生成する。このスラリー状塗布液をグリーンシート厚が35μmとなるように剥離フィルムに塗布した。
【0053】
<スラリー状塗布液の乾燥処理>
スラリー状塗布液を塗布した剥離フィルムFを、乾燥器24〜26を用いて乾燥温度を段階的に上昇させて乾燥させ、セラミックグリーンシートを作製した。
この場合、乾燥器24内の乾燥温度を主溶剤の沸点よりも僅かに低温に維持し、乾燥器26内の乾燥温度を第2主溶剤の沸点よりも僅かに高温に維持し、乾燥器25内の乾燥温度を乾燥器24,26の中間温度に維持し、剥離フィルムFの乾燥器内の通過時間を1.2分として、スラリー状塗布液を乾燥させた。なお、乾燥器内の通過時間については、乾燥器24〜26のすべてを通過するのに要した所要時間を示す。
【0054】
(実施例
スラリー状塗布液の塗布厚を25μmとし、そのほかの作製条件を実施例と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0055】
(比較例
第1主溶剤および第2主溶剤を70:30の比率で混合し、そのほかの作製条件を実施例と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0056】
(比較例
第1主溶剤および第2主溶剤を70:30の比率で混合し、スラリー状塗布液の塗布厚を25μmとし、そのほかの作製条件を実施例と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0057】
(比較例10
第1主溶剤および第2主溶剤を20:80の比率で混合し、そのほかの作製条件を実施例と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0058】
(比較例11
第1主溶剤および第2主溶剤を20:80の比率で混合し、スラリー状塗布液の塗布厚を25μmとし、そのほかの作製条件を実施例と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0059】
図5に示すように、実施例6,8,9および比較例1,7〜11では、第2主溶剤の混合率を40%以上60%以下の範囲内としたときに、スラリー状塗布液13aの塗布厚を問わず、デラミネーションの発生を防止しつつ、耐湿性に優れたセラミックグリーンシートが作製された。これに対して、第2主溶剤の混合率を40%未満としたときには、スラリー状塗布液13aの塗布厚を問わず、通気性を確保可能な大きさ(外接円の直径が1μm〜5μm)の凹部を形成することができないため、焼成時にデラミネーションが発生した。また、第2主溶剤の混合率を60%超としたときには、スラリー状塗布液13aの塗布厚を問わず、凹部の外接円の面積が過大となるため、耐湿性が著しく低下した。したがって、第2主溶剤の混合比率を40%以上60%以下の範囲内とすることにより、外接円の直径が1.0μm以上5.0μm以下の凹部が、セラミックグリーンシートの表面100μm当り3個以上30個以内の範囲内で形成され、これにより、デラミネーションの発生を防止することができると共に、耐湿性に優れた各種厚みのセラミックグリーンシートを製造することができる。この際に、厚手のセラミックグリーンシートを製造すれば、所望の厚みを得るために必要とされるセラミックグリーンシートの積層枚数を少なくすることができるため、積層作業を短時間で行うことができる結果、電子部品用の製造コストを低減することができる。
【0060】
なお、本発明は、上記した発明の実施の形態に限らず、適宜変更が可能である。例えば、本発明の実施の形態では、スラリー状塗布液13aの乾燥時にエチレングリコールの水球を形成することで、通気性を確保するための凹部を所定数だけ形成する例を挙げて説明したが、本発明における液状の添加剤はこれに限定されず、低沸点の第1主溶剤に溶解し、高沸点の第2主溶剤に溶解不能で、かつスラリー状塗布液13aの乾燥時に完全には揮発せず、セラミックグリーンシート内に残留する各種添加剤を使用することができる。また、本発明における電子部品用薄膜の製造方法は、スラリー状塗布液の乾燥時に添加剤を水球化することによる凹部の形成方法に限定されず、各種形成方法で凹部を形成することができる。さらに、本発明における電子部品は、セラミックコンデンサ1に限定されず、薄膜積層型のフェライトなど各種電子部品がこれに含まれる。また、本発明における電子部品用薄膜は、保護層3用のセラミックグリーンシート13に限定されず、誘電体層2として使用するセラミックグリーンシート12a(12)や、薄膜積層型のフェライトに使用するフェライトグリーンシートなどが含まれる。
【0061】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る電子部品用薄膜の製造方法によれば、沸点が所定温度の第1の溶剤と、沸点が所定温度よりも高温の第2の溶剤とを溶剤とし、その沸点が第2の溶剤よりも高温で第1および第2の溶剤に対する乾燥工程において電子部品用薄膜内に残留可能であって、かつ第1の溶剤に溶解し第2の溶剤に対して非溶解性を有する液状の添加剤をさらに混合して生成したスラリー状塗布液を剥離フィルムに塗布することにより、外接円の直径が1μm以上5μm以下という極小の凹部を電子部品用薄膜の表面100μm 当り3個以上30個以下の範囲内で、かつ電子部品用薄膜の表面に占める外接円の面積比率が10%以上70%以下の範囲内となるように容易に形成することができる。また、焼成時に消失する中空粒体や粒状体とは異なり、添加剤が水球化することにより形成される小空間および凹部が溶剤の揮発時に形成される微細な孔を介して繋がった状態で無数に形成され、この小空間、凹部および微細な孔が空気を通過させるため、焼成前の電子部品用薄膜を積層する際に空気の入り込みに起因する空隙の形成を防止することができる結果、デラミネーションの発生を確実に防止することができる。この場合、本発明に係る電子部品用薄膜の製造方法によれば、薄膜用粉体に占める添加剤の混合比率を1.0%以上4.5%以下とし、かつ第2の溶剤がすべての溶剤中に占める混合割合を40%以上60%以下としてスラリー状塗布液を生成することにより、必要かつ十分な通気性を確保しつつ、耐湿性に優れた電子部品用薄膜を製造することができる。また、外接円の直径が1μm以上5μm以下の凹部が形成されることにより、電子部品用薄膜の積層時に、各薄膜の間の空気が凹部を介して厚み方向に抜け易くなる結果、各薄膜間の空隙の存在に起因するデラミネーションの発生を確実に防止することができる。この場合、凹部の外接円の直径が1μm以上5μm以下となっていることにより、耐湿性を損なうことなく、積層時に空気が抜け易い電子部品用薄膜を提供することができる。
【0062】
さらに、本発明に係る電子部品用薄膜の製造方法によれば、電子部品用薄膜の乾燥後の厚みが35μm以上500μm以下となるようにスラリー状塗布液を剥離フィルムに塗布することにより、この製造方法によって例えばセラミックコンデンサの保護層として使用するセラミックグリーンシートを製造する場合、目的の厚みの保護層を少ない枚数のセラミックグリーンシートを積層すればよいため、セラミックコンデンサの製造コストを低減することができる。
【0063】
また、本発明に係る電子部品によれば、上記いずれかの電子部品用薄膜の製造方法に従って製造した電子部品用薄膜を積層または貼付して製造することにより、焼成時にデラミネーションが発生せず、電気的性能が安定した電子部品を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態に係るセラミックコンデンサ1の断面図である。
【図2】 セラミックコンデンサ1の製造過程において、セラミックグリーンシート12a,12a・・およびセラミックグリーンシート13,13・・を積層した状態の断面図である。
【図3】 薄膜製造装置21の構成を示す構成図である。
【図4】 実施例1〜および比較例1〜のそれぞれにおけるセラミックグリーンシートの製造方法、および作製したセラミックグリーンシートの比較結果を説明するための説明図である。
【図5】 実施例6,8,9および比較例1,7〜11のそれぞれにおけるセラミックグリーンシートの製造方法、および作製したセラミックグリーンシートの比較結果を説明するための説明図である。
【図6】 従来のセラミックコンデンサ51の断面図である。
【符号の説明】
1 セラミックコンデンサ
2 誘電体層
3 保護層
4 外部電極
12,12a,13 セラミックグリーンシート
13a スラリー状塗布液
21 薄膜製造装置
23 塗布装置
24〜26 乾燥器
F 剥離フィルム

Claims (3)

  1. 薄膜用粉体、結合剤および溶剤を混合してスラリー状塗布液を生成し、当該スラリー状塗布液を薄膜製造用の剥離フィルムに塗布した後に、当該塗布したスラリー状塗布液を乾燥させることにより、前記剥離フィルムに電子部品用薄膜を形成する電子部品用薄膜の製造方法であって、
    沸点が所定温度の第1の溶剤と、沸点が前記所定温度よりも高温の第2の溶剤とを前記溶剤とし、その沸点が前記第2の溶剤よりも高温で前記第1および第2の溶剤に対する乾燥工程後の当該電子部品用薄膜内に残留可能であって、かつ当該第1の溶剤に溶解し当該第2の溶剤に対して非溶解性を有する液状の添加剤を前記薄膜用粉体に占める混合比率が1.0%以上4.5%以下の範囲内となるようにさらに混合すると共に前記第2の溶剤がすべての溶剤中に占める混合割合を40%以上60%以下として前記スラリー状塗布液を生成する電子部品用薄膜の製造方法。
  2. 前記電子部品用薄膜の乾燥後の厚みが35μm以上500μm以下となるように前記スラリー状塗布液を前記剥離フィルムに塗布する請求項1記載の電子部品用薄膜の製造方法。
  3. 請求項1または2記載の電子部品用薄膜の製造方法に従って製造した電子部品用薄膜を積層または貼付して製造した薄膜積層型の電子部品。
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