JP4019774B2 - ころ軸受用軌道輪 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ころ軸受の内輪や外輪に関し、例えば、ステアリングコラムにおけるステアリング軸支持用のころ軸受に使用されるころ軸受用軌道輪に関する。
【0002】
【従来の技術】
図5に、ハンドルとユニバーサルジョイントとの間にステアリング軸が連結された構造の自動車用ステアリング機構の概略構成図を示す。
【0003】
図5において、1はハンドル、2は自動車の車体に固定されたステアリングコラム、3はステアリングコラム2の軸挿入孔21内に挿入されてハンドル1の操舵を車輪に伝達するステアリング軸、4はステアリングコラム2の軸挿入孔21の内周面とステアリング軸3の外周面との間の隙間において少なくとも軸方向2箇所に圧入された軸受装置である。
【0004】
軸受装置4は、図6に示すように、ころ軸受5と、径方向隙間の調整のためのスペーサリング6とで構成されている。スペーサリング6は、操舵感覚向上のために、ゴムなどの弾性材料にて形成されている。ころ軸受5は、外輪7と、外輪7の内周面に設けた保持器付き針状ころとから構成されている。
【0005】
図7(a)(b)に、外輪7の正面図および側面図を示す。
【0006】
外輪7には、径方向の寸法変化に対応するため、円周方向に対して傾斜する方向で直線状の割り部8が形成されている。割り部8が形成される理由を説明する。製造時にステアリングコラム2の軸挿入孔21の内径寸法や、外輪7の外径寸法にばらつきが生じることがある。このようなばらつきは、軸受間隙にばらつきを引き起こす。軸受間隙が過大となる方向にばらつくと、車両の振動に伴い音が発生する。その一方で、軸受間隙が過小となる方向にばらつくと、操舵トルクが過大となりがたつき音が発生する。割り部8は、このような軸受間隙のばらつきを吸収するため形成される。
【0007】
軸受装置4が、ステアリングコラム2の軸挿入孔21の内周面とステアリング軸3の外周面との間に圧入されると、割り部8の円周方向の隙間寸法が変化することで、外輪7の径が変化し、軸受間隙のばらつきが吸収される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
外輪7に割り部8が形成されているため、軸受装置4が組み立られる前に、多数の外輪7が一箇所に貯蔵されていると、運搬時の振動などにより外輪7どうしが割り部8を介して互いに絡み合い、組み立て時の引き離し作業に多大な労力や工数がかかる。
【0009】
割り部8が円周方向に傾斜して一直線状に形成されており、互いに対向する対向面81が軸方向にずれ、軌道面の精度が低下したり、相互に乗り上げて軌道面に段差が生じ、これらが回転トルク増大の原因となる。
【0010】
割り部8の軸方向に対する傾斜角φは、針状ころが割り部8に落ち込むのを防止するために、φ=45°に設定されている。このため、図7(b)に示すように、外輪7の全周に占める割り部8の形成範囲θ2が大きくなる。
【0011】
形成範囲θ2が大きくなると、外輪7の製造時に、割り部8の対向面81どうしを、径方向にずれることなく、精度良く位置合わせするのが困難となる。よって、針状ころが割り部8に乗り上げたり、引っ掛かったりし、針状ころが割り部8を円滑に通過せず、針状ころがスキューする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、薄肉円筒状部材からなるころ軸受用軌道輪であって、前記薄肉円筒状部材は、軸方向両端縁に至る隙間により形成された割り部を有し、前記割り部は、円周方向に沿って延設され互いに近接した一対の対向面からなる非傾斜部と、前記非傾斜部の円周方向両端のうちの少なくともいずれか一方端から他方端に向かい,かつ軸方向に対して傾斜する向きに延設された一対の対向面からなる傾斜部とを含むものである。
【0013】
前記傾斜部は、例えば、前記非傾斜部に対して軸方向に略45°の傾斜角にて形成される。
【0014】
本発明のころ軸受用軌道輪は、ころ軸受の内輪,外輪のいずれにも適用することができる。
【0015】
具体的な適用個所としては、例えば、ステアリングコラムにおけるステアリング軸を支持するころ軸受の内外輪のほか、自動二輪車の後輪用スイングアームの支持部などの車両や、複写機やファクシミリ等の事務機器などにも適用できる。
【0016】
割り部は、例えば、非傾斜部の円周方向両端からそれぞれ薄肉円筒状部材の反対側の軸方向端縁に第1および第2傾斜部が延設されたものや、傾斜部にて連結された複数の非傾斜部を含むものなどが挙げられる。
【0017】
傾斜部は、一直線状に延設されていても、湾曲していてもよい。
【0018】
本発明のころ軸受用軌道輪によると、薄肉円筒状部材からなる軌道輪に、軸方向両端縁に至る隙間からなる割り部が形成されているので、割り部の隙間寸法が変化することで、軌道輪の径が変化し、軸受間隙のばらつきが吸収される。
【0019】
割り部が、非傾斜部と傾斜部とからなり、非傾斜部の円周方向に延びる対向面どうしが互いに近接しているので、当該対向面どうしが当接することで、軌道輪が軸方向にずれて軌道面の精度が低下したり、相互に乗り上げて軌道面に段差が生じるのを防止できる。
【0020】
割り部に互いの対向面が近接した非傾斜部が形成されているので、ころが割り部に落ち込むのを防止できると共に、多数の軌道輪を一箇所に貯蔵しておいても、運搬時の振動などにより軌道輪どうしが割り部を介して互いに絡み合うのを防止できる。
【0021】
割り部が、非傾斜部と傾斜部とからなり、軌道輪の全周に占める割り部の形成範囲が小さくなる。よって、軌道輪の製造時に、割り部の対向面どうしを、径方向にずれることなく、精度良く位置合わせすることができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施の形態を図1ないし図3を用いて説明する。
【0023】
本実施の形態のころ軸受用軌道輪は、図5に示したステアリングコラム支持用のころ軸受に使用されるものである。
【0024】
図1はステアリングコラムの軸受装置の一部破断斜視図、図2(a)(b)は図1に示される軸受装置が備えるころ軸受の外輪の正面図および側面図、図3は図1に示される軸受装置が備えるころ軸受の外輪の斜視図である。これらの図において、4は軸受装置、5はころ軸受、6はスペーサリング、7は外輪、8は割り部、9は保持器付き針状ころ、10は針状ころ、11は保持器を示す。
【0025】
外輪7は、薄肉の鋼材からなる薄肉円筒状部材にて形成されている。例えば、工具鋼をプレスにて打ち抜き、巻回して所定の円筒形状に加工後、焼入れ・焼もどし処理を施して所望の表面硬さにする。工具鋼には、炭素工具鋼(SK)や高速度工具鋼(SKH)が使用される。
【0026】
外輪7には、軸方向両端縁7a,7bに至る隙間Sにより形成された割り部8が設けられている。割り部8は、円周方向(軸方向に対し略垂直方向)に延設され互いの対向面81が近接した非傾斜部8aを有する。割り部8はまた、非傾斜部8aの円周方向一端81aから円周方向他端81bに向かい、かつ軸方向に対して傾斜して外輪7の軸方向一端縁7aにまで達して延設された第1傾斜部8bと、非傾斜部8aの円周方向他端81bから円周方向一端81aに向かい、かつ軸方向に対して傾斜して外輪7の軸方向他端縁7bにまで達して延設された第2傾斜部8cとを有する。
【0027】
第1,2傾斜部8b,8cは、それぞれ非傾斜部8aに対し軸方向に傾斜角ψ≒45°にて一直線状に形成されている。すなわち、第1,2傾斜部8b,8cは、軸方向に対して傾斜して形成されている。
【0028】
第1,2傾斜部8b,8cの傾斜角ψは、45°に限定されるものではない。傾斜角ψが小さくされると、針状ころ10が割り部8に落ち込んでがたつきが防止されて好ましいが、外輪7の全周に占める割り部8の形成範囲θ1が大きくなる。逆に、傾斜角ψが大きくされると(軸方向に近づけられる)、外輪7の全周に占める割り部8の形成範囲θ1が小さくなり好ましいが、針状ころ10が割り部8に落ち込んでがたつき易くなる。よって、第1,2傾斜部8b,8cの傾斜角ψは、針状ころ10が割り部8に落ち込み難く、かつ、外輪7の全周に占める割り部8の形成範囲θ1が小さくなるように、両者の兼ね合いで決定される。
【0029】
非傾斜部8aにおける互いの対向面81は近接しており、第1,2傾斜部8b,8cにおける互いの対向面81間には隙間Sが形成されている。
【0030】
割り部8は、非傾斜部8aと第1,2傾斜部8b,8cからなる略N字形に形成されており、外輪7の全周に占める割り部8の形成範囲θ1が小さくなる。すなわち、非傾斜部8aが外輪7の軸方向略中央に位置することで、図7に示したような従来の割り部8の形成範囲θ2の約半分となる。
【0031】
非傾斜部8aを形成することで、割り部8の形成範囲θ1は、180°未満、好ましくは90°未満に設定されている。
【0032】
保持器付き針状ころ9は、外輪7の内周面に円周方向に並設された複数の針状ころ10が、保持器11にて保持された構成をしている。保持器11は、例えば、ガラス繊維強化ポリアミド等の樹脂や、鋼板にて形成されている。
【0033】
軸受装置4の装着手順について説明する。
【0034】
外輪7に保持器付き針状ころ9を内嵌装着してなるころ軸受5が、スペーサリング6の内面に組み込まれて、軸受装置4が形成される。軸受装置4が、ステアリングコラム2の軸挿入孔21に圧入される。この圧入により、外輪7は、割り部8の第1,2傾斜部8b,8cにける隙間Sが狭くなることによって縮径される。
【0035】
ステアリング軸3が軸受装置4に内嵌される。ステアリング軸3の挿入により、外輪7が径方向外向きに拡径される。この状態で、針状ころ10がステアリング軸3の外周面と外輪7の内周面に転動可能となり、保持器11はステアリング軸3の外周面と外輪7の内周面との間に隙間を形成して針状ころ10を保持する。
【0036】
このようにして、軸受装置4が、ステアリング軸3の外周面とステアリングコラム2の軸挿入孔21の内周面との間に介装され、ステアリング軸3は軸受装置4にて回転自在に支持される。
【0037】
このように構成されたころ軸受用軌道輪によると、外輪7に隙間Sを形成して軸方向両端縁7a,7bに渡る割り部8が形成されているので、割り部8の隙間寸法が変化することで、外輪7の径が変化し、軸受間隙のばらつきを吸収する。これにより、車両の振動に伴い音が発生したり、操舵トルクが過大となりがたつき音が発生するのを防止できる。
【0038】
非傾斜部8aの円周方向に延びる対向面81どうしが互いに近接しているので、対向面81どうしが当接することで、外輪7が軸方向にずれて軌道面の精度が低下したり、相互に乗り上げて軌道面に段差が生じるのを防止できる。
【0039】
割り部8に互いの対向面81が近接した非傾斜部8aが形成されているので、針状ころ10が割り部8に落ち込むのを防止できると共に、多数の外輪7を一箇所に貯蔵しておいても、運搬時の振動などにより外輪7どうしが割り部8を介して互いに絡み合うのを防止でき、組み立て作業が円滑に行え,コストの低減を図ることができる。
【0040】
割り部8が、非傾斜部8aと、第1,2傾斜部8b,8cとからなり、外輪7の全周に占める割り部8の形成範囲θ2が小さくなる。よって、外輪7の製造時に、割り部8の対向面どうしを、径方向にずれることなく、精度良く位置合わせすることができ、針状ころ10が割り部8に乗り上げたり、引っ掛かったりせず、針状ころ10が割り部8を円滑に通過しスキューを防止できる。
【0041】
図4に示すように、割り部8は、円周方向に延設され互いの対向面81が近接した一対の非傾斜部8aと、一の非傾斜部8aの一端81aから他端81bに向かい、かつ軸方向に対して傾斜して外輪7の軸方向一端縁7aにまで達して延設された第1傾斜部8bと、他の非傾斜部8aの他端81bから一端81aに向かい、かつ軸方向に対して傾斜して外輪7の軸方向他端縁7bにまで達して延設された第2傾斜部8cと、両非傾斜部8a間に連設された第3傾斜部8dとからなる。
【0042】
第1,2,3傾斜部8b,8c,8dは、非傾斜部8aに対し軸方向に傾斜角ψ≒45°にて一直線状に形成されている。
【0043】
このように、割り部8が複数の非傾斜部8aを有することで、軸方向寸法の大きなころ軸受用軌道輪においても、全周に占める割り部8の形成範囲θを小さくすることができる。
【0044】
非傾斜部8aは、軌道輪の軸方向に対し、等間隔に形成されていなくてもよい。
【0045】
傾斜部8b,8c,8dは、例えば、S字状等に湾曲していてもよい。
【0046】
【発明の効果】
本発明のころ軸受用軌道輪によると、軸受間隙のばらつきを吸収すると共に、軸方向ならびに径方向のずれを防止でき、ころが円滑に転動し、かつ、運搬時に絡み合うのを防止できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態におけるステアリングコラムの軸受装置の一部破断斜視図である。
【図2】(a)(b)は本発明の一実施形態におけるころ軸受の外輪の正面図および側面図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるころ軸受の外輪の斜視図である。
【図4】本発明の他の実施形態におけるころ軸受の外輪の正面図である。
【図5】自動車用ステアリング機構の概略構成図である。
【図6】従来例のステアリングコラムの軸受装置の断面図である。
【図7】(a)(b)は従来例におけるころ軸受の外輪の正面図および側面図である。
【符号の説明】
4 軸受装置
5 ころ軸受
7 外輪
8 割り部
8a 非傾斜部
8b,8c,8d 傾斜部
9 保持器付き針状ころ
10 針状ころ
11 保持器
S 隙間
θ 割り部の形成範囲

Claims (3)

  1. 薄肉円筒状部材からなるころ軸受用軌道輪であって、
    前記薄肉円筒状部材は、軸方向両端縁に至る隙間により形成された割り部を有し、
    前記割り部は、円周方向に沿って延設され互いに近接した一対の対向面からなる非傾斜部と、前記非傾斜部の円周方向両端のうちの少なくともいずれか一方端から他方端に向かい,かつ軸方向に対して傾斜する向きに延設された一対の対向面からなる傾斜部とを含む、ことを特徴とするころ軸受用軌道輪。
  2. 請求項1に記載のころ軸受用軌道輪において、
    前記傾斜部が、前記非傾斜部の円周方向両端からそれぞれ薄肉円筒状部材の反対側の軸方向端縁に延設された第1および第2傾斜部から構成されている、ことを特徴とするころ軸受用軌道輪。
  3. 請求項1または2に記載のころ軸受用軌道輪において、
    前記傾斜部が、前記非傾斜部に対して軸方向に略45°の傾斜角にて形成されている、ことを特徴とするころ軸受用軌道輪。
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