JP4018779B2 - 位相差フィルムの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は流延製膜法によりポリカーボネートのフィルムを一軸延伸して位相差フィルムを製造する方法およびその装置に関する。更に詳細には、ポリカーボネートのフィルムを走行方向に一軸延伸してレターデーション(複屈折率と厚みの積)の斑(位相差補償フィルムとしたときの色斑、視野角特性の斑)などを発生しないフィルムの製造方法およびその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性高分子フィルムによる位相差板は防眩材料として、また、F−STN方式の液晶表示装置における位相差補償板としてその用途が広がっている。高分子フィルムの位相差板は、延伸による分子配向によって生じる複屈折性を利用するものである。この位相差板の製造方法として各種の高分子フィルムを一軸延伸によって製造する方法が既に知られている。一般には固有複屈折性の大きいポリカーボネート系樹脂を一軸延伸したものが用いられている。
位相差板の備えるべき特性は次の4点が特記される。
【0003】
1)透明性が優れることに加えて、フィルムの外観欠点、例えば擦り傷やスクラッチ、フィルムの波打ち等が無く平坦性が良いこと。
【0004】
2)レターデーション値の変化の範囲及び遅相軸の角度の変化の範囲が小さいこと
液晶表示画面の大型化にともなって、部材も大型化する必要から各種の問題が顕在化している。即ち、フィルムの小さい範囲でなら比較的容易に制御できた特性値も大型化にともなって、より広く大きいフィルムでの特性の均一性が要求されている。例えば、位相差フィルムの面内において相互に10cm離れた2点間のレターデーション値の差が5nmを超えると、液晶表示装置に生じた色斑が肉眼でも識別でき、液晶表示装置として使用できないとされている。これより、シート状フィルム又はロール状に巻かれたフィルムの巾方向、長さ方向のどの場所でレターデーション値を測定してもその範囲が5nm以下であることが要求されている。また遅相軸に関しても同様にフィルムロールのどの場所で部材を切りとっても均一であることが要求されている。遅相軸が均一に分布していない場合には、位相差フィルム同士又は他の部材と組み合わせて用いる場合等に軸合わせが煩雑になる問題が生じる。
【0005】
3)微小な範囲のレターデーションの斑が小さいこと。
微小な範囲の例えば,フィルム面上で10mm離れた点のレターデーション値の差が1.5nm以下であることが要求されている。この値を超える場合には偏光板間にこのフィルムを挟んで見た場合に色斑が検知される場合があり得るし、位相差板同士や位相差板を偏光板とを複数枚重ねて液晶表示素子として用いた場合にレターデーション値の斑が加算されることがあり、色斑となって検知されるため問題になる。
【0006】
4)視野角特性を極力大きくすること。
視角を大きくした場合にも液晶表示装置の表示が良好に見えるようにする必要がある。液晶表示装置の画面の大型化にともない、そこで使用される位相差フィルムの大きさも大きくなり必然的により大きな面での特性値の均一性の要求が増大する。
【0007】
従来の技術として、縦一軸延伸法による位相差フィルム及びその製造方法に関し、いくつかの技術が提案されている。例えば、特開平8−101306号公報にはフィルムを縦一軸延伸する位相差板の製造方法において、熱可塑性樹脂フィルムの幅方向に温度勾配を設けて縦一軸延伸する方法が開示されている。この方法は確かに効果があると思われるが延伸前のフィルムの特性に応じて温度勾配を微妙に付ける必要も生じ、実際は製造上の制約条件を大幅に増やすなどの問題がある。即ち、フィルムの幅方向の温度を微妙に制御できたとしても、レターデーション値の分布を決める要因はフィルムの厚みの幅方向分布にもあり、(レターデーション値は複屈折△nとフィルム厚みとの積で表されるため、)原反フィルムが変わる都度そのフィルムの厚み斑に合わせてその温度をフィルム幅方向で微妙に制御する等煩雑な操作も必要になるという問題がある。
【0008】
更に、延伸時に生じる光学斑を解消する方法として延伸時のフィルム中の溶媒量を規定する方法が開示されている。これらの公知文献として特開平4−282212号公報、特開平4−204503号公報、並びに特開平5−113506号公報等をあげることができる。これらの方法は溶媒量を比較的多くして一軸延伸を行うものである。これらの方法によれば含有溶媒量に応じて見かけ上のガラス転移温度は下がるから、確かに比較的低温で延伸を実施できる利点がある。
【0009】
特開平4−282212号公報の方法は含有溶媒フィルムの降伏値の差を利用して延伸をする方法である、この方法では延伸開始線を幅方向で一直線にするのが難しいことと、走行方向で延伸点(延伸線)を固定するのが難しく、幅方向、走行方向のレターデーション斑を生じやすい問題がある。
【0010】
特開平4−204503号公報には延伸直前のフィルムの溶媒含有量を固形分基準(乾燥した溶質(固形分)中に含まれる溶媒の量)で2〜10%にして延伸する方法、特開平5−113506号公報には、溶媒含有量が固形分基準で3〜10%の範囲にあるときに155℃以上、175℃以下の雰囲気内において、延伸する視野角特性に優れた位相差フィルムの製造方法が記載されている。
【0011】
これらの方法では、溶媒含有量が多いフィルムを延伸するため部分的に延伸性に差が生じ易く、これにより延伸後の複屈折斑が生じる問題があり、レターデーション値を所望の値に合わせることや、微小なレターデーションの斑を制御することが難しい。また、延伸時のフィルム中の溶媒量が多いために延伸処理後にも残量溶媒が残りやすい。この残存溶媒が液晶表示装置用の部品を作成するときの加工時に悪影響を及ぼす場合がある。延伸後の残存溶媒量を更に少なくしようとすれば、乾燥のための工程を追加する必要があることやそうした場合に、乾燥の加熱温度によりせっかく配向させた分子鎖の緩和が起こり所望のレターデーション値に特性を合わせ難いという課題もある。
【0012】
多量に残留溶媒を含む場合の延伸法の改良方法として、溶媒含有量をより少なくして一軸延伸する技術が提案されている。特開平8−211224号公報には溶媒含有量を2重量%未満である状態で延伸する技術が開示されているが、この方法は、高濃度溶媒含有によって部分的に延伸性に差が生じこれにより延伸後の膜厚及び高分子の配向性、即ち、複屈折性に斑を生じることを改良するためのものである。確かにこの方法によれば上記の位相差板の備えるべき特性の内、フィルムの広い面積でのレターデーション値の範囲を小さくできると思われる。しかし、フィルム面上で10mm程度の範囲離れた点の微小な範囲のレターデーション値の斑は解消できなかった。
【0013】
また、レターデーションを表す位相差値△n*dが、複屈折値△nとフィルム厚みdとの積により決まることに着目し、微小な範囲の厚み斑を規定した位相差板又は無延伸のフィルムにおいて微小な範囲でフィルム面内の厚み差をコントロールすることで、レターデーションの差を小さく着色斑並びに位相差斑を押さえる技術が提案されている。
【0014】
特開平2−59703号公報には厚み(x)のフレ幅が0.1x以下、且つその変化率が0.015x/cm以下である高分子フィルムを一軸に延伸して、レターデーションのフレ幅が10%以下、その変化率が1.8%/cm以下である位相差フィルムの製造方法が開示されている。
【0015】
特開平8−101305号公報には、複屈折性を有する高分子フィルムであって、フィルム面内の任意の点から1cm離れた場所の厚みの差が0.3μm以下であることを特徴とした位相差板によって目的が達成できると報告されている。
【0016】
特開平8−101308号公報には、未延伸フィルムの厚みの変化が長さ方向、幅方向ともに隣り合った厚い部分と薄い部分の厚みの差が0.5μm以上3μm以下で、ピッチが1mm〜40mm以下である波上の変動を有する原反フィルムを一軸又は二軸に延伸してなりフィルム面内にて相互に10cm離れた任意の2点間のレターデーション値の差が5nm以下であることを特徴とする位相差板が提案されている。
【0017】
このように原反フィルムに細かい波状の厚み変動を作ることによって、フィルム面内に厚みの薄い部分を無数に有する原反フィルムになる。フィルム面内に延伸開始点が無数に存在することになりそのため大きな延伸斑は発生しなくなるとされているが、このような厚み変動をフィルム面全体に均一に作ることは実際上極めて難しいという問題がある。
【0018】
延伸前のフィルムで厚み斑の小さいものを作る技術は、特に微小な範囲の厚み斑、例えばフィルム走行方向に連続した狭幅のリップ筋や走行方向に間欠的に発生する細い筋状の厚み斑を解消するのが難しいという問題は解決されていない。このような厚み斑が一軸延伸後も残り位相差フィルムとしての品質を損ねる場合が多いのが現状である。
【0019】
上述のように、位相差板の備えるべき特性の内、比較的広い面積中での位相差斑(前記の2)項)は、従来技術によって大幅に改良された。しかしながら、フィルム面上の微細な範囲のレターデーション斑(前記の3)項)の解消技術については、まだ課題が残されている。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述の如き問題点に着目してなされたものであり、位相差斑が十分に少なく、特に微小な範囲の位相差斑が解消された、視野角特性にも優れた、高性能の位相差補償板の製造方法を提供しようとするものである。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決のため、溶液キャストフィルムの延伸のメカニズムを鋭意検討の結果本発明に到達した。即ち、本発明は、レターデーション値の範囲、微小レターデーション値並びに遅相軸の分布の均一化を図るために、フィルムを規定量の溶媒を含有した状態でピンテンターで横方向に張力をかけ処理して厚み斑(特に筋状の微小な厚み斑)を小さくした後、次いで走行方向に規定条件で一軸延伸することにより目的が達成できることを見いだし本発明に到達したものである。溶媒を高濃度に含有した状態でフィルムに僅かな張力を掛けると、フィルム面内で周囲よりも含有溶媒量の多い部分、従って、周囲よりも厚みが局所的に厚い帯状や筋状の見かけのTg’(Tg’(℃)は溶媒を含有する高分子フィルムのガラス転移温度であり、この温度は乾燥が進むにつれ残留溶媒含有量の減少とともに上昇する。)が低い部分が局所的に延伸される。その結果、厚み斑を小さく改良できる。
【0022】
またその周囲よりも厚かった帯状や筋状部分の位相差は、フィルムの幅方向に張力を掛ける処理を行なった後もほとんど変わることがない。その部分についてレターデーションの測定をしたが、特に分子配向が増したということはなかった。それより延伸による帯状や筋状になっていた部分の構造変化は実質的には起こっておらず、通常の方法では検出できないくらいに小さいものであろうと推定される。またこの部分で特に分子配向が増大したという結果も得られなかった。即ち、規定条件(溶媒含有量、温度、伸長率)でフィルムに張力を掛ければ分子配向構造を殆ど変化させることなく厚み斑を小さくできることを見いだした。
【0023】
またポリカーボネートの一軸延伸時のレターデーション値の延伸温度依存性について、例えば帝人化成(株)製のポリカーボネート(商品名パンライトC−1400QJ)の溶媒を含有しないフィルムを延伸して位相差フィルムを作る場合、延伸温度を1℃だけ上げるとレターデーション値は約30nm低下すること、また含有溶媒としてメチレンクロライドが存在するフィルムを延伸する場合では、溶媒を0.1重量%増やすとレターデーション値は約9nm低下すること、またこの場合溶媒を0.1重量%増やすとフィルムの見かけのガラス転移温度、Tg”は1.4℃低下すること(特開平7−299828号公報)等の知見をえた。
【0024】
これらの事実からレターデーションの斑の制御には、延伸の温度(幅方向にも、長さ方向にも)延伸の倍率を精密にコントロールすること。また、溶媒を含有する場合、微量の溶媒量で見かけのガラス転移温度Tg’が著しく変わるから、延伸に際しては、含有溶媒量も極力均一になるように制御することが必要である事がわかった。
【0025】
即ち本発明の方法は、濃度0.5g/dlの塩化メチレン溶液中20℃での粘度測定から求めた粘度平均分子量で10,000以上200,000以下であるポリカーボネートと塩化メチレンとからなるポリカーボネート10〜30重量%濃度の溶液を支持体上にキャストし、得られたフィルムを乾燥した後延伸することにより高分子から成る位相差フィルムを製造する方法において、
1.支持体より含有溶媒量8〜20重量%のフィルムを剥離し、
2.延伸軸と直交する方向のフィルムの長さが99%〜105%になるように上記フィルムをピンテンターにより把持し、両端を把持された状態でフィルム雰囲気温度(Tg’+10)〜(Tg’+90)℃にて、乾燥し、室温まで冷却した後、ロール懸垂型乾燥装置を用いて上記フィルムの含有溶媒量が2.0重量%以下となるまで乾燥し、(Tg’(℃)は溶媒を含有する高分子フィルムのガラス転移温度であり、この温度は乾燥が進むにつれ残留溶媒含有量の減少とともに上昇する。)
3.更に該フィルムを(Tg”+10)〜(Tg”+45)℃にて、フィルムの走行方向に1.1〜3.2倍一軸延伸することを特徴とする位相差フィルムの製造方法によって達成されることを見いだし本発明を完成したものである。(Tg”(℃)は溶媒を含有する高分子フィルムのガラス転移温度であり、この温度は乾燥が進むにつれ残留溶媒含有量の減少とともに上昇する。)
【0026】
本発明において用いられる高分子については、希望するフィルムの諸特性が得られるものであれば特に制約はなく、従来公知のもので溶液流延法で製膜できるものが挙げられる。すなわち溶液流延法に必要な濃度、粘度を持った溶液を形成する高分子溶液であれば本発明方法に適用でき、ポリカーボネートが好ましい。
【0027】
一般に、ポリカーボネートと総称される高分子材料は、重縮合反応で生成され、主鎖が炭素結合で結ばれているものを総称する。これらのうちでもビスフェノール誘導体と、ホスゲン或いはジフェニールカーボネートから重縮合反応により得られるものを意味する。経済性及び物性面からビスフェノールAと呼称されている2、2ビス(4ヒドロキシフェニル)プロパンをビスフェノール成分とする繰り返し単位で表される芳香族ポリカーボネートが好ましく使用されるが、適宜各種ビスフェノール誘導体を選択することで、ポリカーボネート共重合体を構成することが出来る。
【0028】
かかる共重合成分としてビス(4ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、9,9−ビス(4ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4ヒドロキシフェニル)−3,3,5トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4ヒドロキシ−3メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4ヒドロキシフェニル)−2フェニルエタン、2,2ビス(4ヒドロキシフェニル)1,1,1,3,3,3ヘキサフルオロプロパン、ビス(4ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4ヒドロキシフェニル)スルフォン等をあげることができる。更に、これらのフェニル基の水素基が一部メチル基やハロゲン基で置換されているものも含む。
【0029】
また、一般にテレフタル酸及び/又はイソフタル酸成分を含むポリエステルカーボネートを使用することも可能である。このような構成単位をビスフェノールAからなるポリカーボネートの構成成分の一部に使用することによりポリカーボネートの性質、例えば耐熱性、溶解性を改良することができるが、このような共重合体も本発明では用いることができる。
【0030】
本発明において用いられるポリカーボネート系樹脂の分子量は、濃度0.5g/dlの塩化メチレン溶液中20℃での粘度測定から求めた粘度平均分子量で10,000以上200,000以下、好ましくは20,000以上120,000以下の範囲が好適に用いられる。粘度平均分子量が10,000より低い樹脂を使用すると得られるフィルムの機械的強度が不足する場合がある。また200,000以上の高分子量になるとドープ粘度が高くなりすぎて溶解やキャスト工程での取り扱い上問題を生じるので好ましくない。
【0031】
本発明において用いられる溶媒としては塩化メチレンを主体とする溶媒が挙げられる。
【0032】
ポリカーボネートの溶液を作成する具体的方法としては、塩化メチレン中にポリカーボネートを投入攪拌して溶解する。要すれば、予め塩化メチレン中に剥離助剤として所定量のエタノールを混合しておき、そこにポリカーボネートを投入して室温で攪拌溶解する方法が挙げられる。
【0034】
本発明においてポリカーボネート溶液の濃度を10〜30重量%、より好ましくは15〜25重量%に調製することにより溶液流延法により好適にフィルムを製膜することができる。
このようにして得られた溶液を、公知の方法でスチールベルトやドラム又は支持体フィルム(一般的にはポリエステルの2軸配向フィルム)面上などに、キャストし、乾燥して半乾きの状態で支持体より剥離する。
【0035】
このようにして得られた溶液を、公知の方法でスチールベルトやドラム又は支持体フィルム(一般的にはポリエステルの2軸配向フィルム)面上などに、キャストし、乾燥して半乾きの状態で支持体より剥離する。
【0036】
剥離後のフィルムの溶媒含有量が8〜20重量%になるようにピンテンターへの送入直前までに調節する。本発明の方法においてはキャストの剥離直後からピンテンター入口までのガイドロールのあいだで室温〜80℃の温度で乾燥することができる。
【0037】
次いで、レターデーションを実質的に変化させることなく含有溶媒量が8〜20重量%のフィルムをピンテンターで把持し、フィルム幅方向の端部を把持幅(延伸軸と直交する方向のフィルムの長さ)を99%〜105%となるようにしてフィルム幅方向に張力をかけ、両端を把持された(通常はピンで突き刺し固定して搬送する)状態で連続的にフィルム雰囲気温度(Tg’+10)〜(Tg’+90)℃になるように加熱乾燥する。(Tg’(℃)は溶媒を含有するポリカーボネートフィルムのガラス転移温度であり、この温度は乾燥が進むにつれ残留溶媒含有量の減少とともに上昇する。)
【0038】
含有溶媒量が8〜20重量%のフィルムをピンテンター中で上記のように加熱乾燥することにより、溶液キャストの工程で発生した厚み斑を少なくすることができる。含有溶媒量が8重量%以下で上記のように加熱乾燥した場合はフィルム全体の平均的な溶媒量が低いため、フィルムの厚みが大きい部分と小さい部分の溶媒量の差が小さく、したがってTg’の差がなくなり、また溶媒の蒸発によるフィルムの収縮張力も小さくなるので厚み斑を良化する効果がなくなる。また、このフィルムをその後の工程で縦方向に一軸に延伸してもそのまま斑が残り、微小な厚み斑を解消することができない。また、含有溶媒量が20重量%を超える場合には、乾燥による溶媒の蒸発が急激なため、厚み斑を良くすることができない。またさらに含有溶媒量が20重量%を超える場合には、微小な気泡がフィルム中に発生することがある。
【0039】
ピンテンターで、フィルム雰囲気温度が(Tg’+10)〜(Tg’+90)℃の加熱乾燥処理することにより、溶液キャストの工程で発生した厚み斑を少なくすることができる。具体的にはポリカーボネート溶液については90℃〜130℃、より好ましいフィルム雰囲気温度は100〜120℃である。
【0040】
ピンテンターのフィルム雰囲気温度が(Tg’+10)℃より低い場合には溶媒の乾燥が十分に行われないために次の延伸前予熱工程において含有溶媒の影響により延伸直前のフィルムの特性を制御できないことがある。また、フィルム雰囲気温度が(Tg’+90)℃を超える場合には特に光学特性(レターデーション値や遅相軸並びにそれらの分布)が所望の値からはずれてしまうことがある。
【0041】
ピンテンターで、フィルム幅方向に張力をかけ、フィルムの把持幅(延伸軸と直交する方向のフィルムの長さ)を99%〜105%(縮小量1%〜伸長量5%)となるようにして制御することにより、溶液キャストの工程で発生した厚み斑を少なくすることができる。ピンテンターではフィルムの乾燥が起こるので、ピンテンターで張力をかけないで把持幅を自由長とした場合は延伸軸と直交する方向のフィルムの長さが96%以下(縮小量4%以上)のフィルムの収縮がおこる。把持幅を延伸軸と直交する方向のフィルムの長さの99%(縮小量1%)〜フィルムの長さの105%(伸長量5%)となるようにして制御する場合、把持幅を自由長とした場合にくらべフィルムの収縮応力が発生し、帯状部や筋状部の厚み斑を良くすることができる。
【0042】
また、延伸軸と直交する方向のフィルムの長さを105%以上(伸長量を5%以上)とする場合、溶媒蒸発による収縮応力が大のためレターデーション値並びに遅相軸の大きさや分布のフィルム幅方向依存性が大きくなり本発明の目的が達成できなくなるので好ましくない。
【0043】
ピンテンターの出口においてはフィルムを室温まで冷却しフィルムの構造を固定する。また、ピンテンターのピンで把持した約50mmの両エッジ部を切除する。両エッジ部を切除しない場合にはピンの突き刺し孔等から生じた白粉(ピンによる削れ粉)がフィルムの製品になる部分に再付着し汚染してしまう。
【0044】
次いでフィルムをロール懸垂型乾燥装置を用いて乾燥する工程に通膜する。このロール懸垂型乾燥装置を用いた乾燥処理工程においてはフィルムの特性を次のように制御することにより次の延伸の工程の位相差斑を良化することができる。即ち、含有溶媒量:2.0重量%以下、好ましくは0.5〜2.0重量%、より好ましくは0.5〜1.6重量%に制御する。溶媒含有量が上記の範囲を外れる場合、次の延伸の工程の位相差斑を良化することができず、特性の優れた位相差フィルムを製造することができない。
【0045】
更に、延伸工程で1.1〜3.2倍走行方向に一軸延伸する。その際、延伸温度とロール間長(延伸スパン)を厳密に制御する。延伸の開始点(又は延伸開始線)から延伸終了までの延伸ニップロール間の長さを延伸前フィルムの幅に対して1.5倍以上4.0倍以下にすることが好ましい。
【0046】
ロール間長が延伸前フィルム幅の1.5倍以上4.0倍以下であれば、フィルムが延伸され延伸の終了点がこの間にある間にフィルム幅及び厚みの自由な変化(幅及び厚みの減少)が起こる、いわば、自由幅一軸延伸、自由厚み一軸延伸となって延伸方向の主屈折率をnx、延伸方向に直交方向の主屈折率をny、厚み方向の主屈折率をnzとしたときのnyとnzとが等しくなるような理想の一軸延伸構造となり視野角特性が向上する。ロール間長がフィルム幅に対して1.5倍以下の場合には、フィルム幅方向の自由な収縮に基ずく高分子鎖の延伸軸に沿う回転が起こりにくいため、いわゆる面配向が大きい(厚み方向の屈折率が小さい)ままでフィルムの光学的構造が固定される。即ち、屈折率nyとnzとが等しくなる理想の一軸延伸とはならず、視野角特性は向上しない。
【0047】
本発明における延伸の温度は(Tg”+10)℃〜(Tg”+45)℃とする。(Tg”(℃)は溶媒を含有するポリカーボネートフィルムのガラス転移温度であり、この温度は乾燥が進むにつれ残留溶媒含有量の減少とともに上昇する。)延伸温度をこのように設定することによって一軸延伸中におけるフィルムの幅方向の自由収縮によりnyの低下とnzの上昇がおこり易く、また縦方向の弛緩の寄与もある程度効いて、視野角特性を向上させることができる。延伸の温度が(Tg”+10)℃以下の場合には、この縦と横方向の分子鎖の弛緩が起こりにくいからこの様な場合にはこの弛緩の時間を長く採ることが必要となり、ロール間の長さを長大とするか、又は熱弛緩のための工程が別途必要となる。延伸温度が(Tg”+45)℃より高い場合には分子鎖の配向を上げることが難しくなり、得られるフィルムのレターデーション値の斑が増大するので好ましくない。より好ましい延伸温度は(Tg”+20)〜(Tg”+30)℃である。延伸温度は延伸後の残留溶媒量を極力少なくするためや幅方向の高分子鎖の配向緩和を十分にして視野角特性を向上させるためにも上記温度範囲の中でも比較的高温度を採ることが好ましい。
【0048】
延伸開始直前のロールに巻き掛けられたフィルムはニップロールでおさえる。本発明における条件によれば問題なく延伸ができる。延伸終了点のロールもフィルムをニップするようにする。ここでフィルムを高温でニップすると、延伸時に発生した小さなピッチの波状斑がロール上で押さえられ、皺が固定されてしまうことがあるのでニップロールの温度を延伸温度より数度低くすることが好ましい。
【0049】
延伸前ロールと延伸終了後のロール間でフィルムを空気噴流で加熱して延伸する。空気噴流は幅方向で均一に熱風がでるようにしたスリットノズルによって、延伸ロールをフィルムが離れる直後に吹き付け、延伸が開始されるようにする。熱風の噴流の速度はフィルムへの熱伝達率を極力アップするため15〜30m/secの範囲が好ましい。このための装置として、空気浮遊式の熱風装置を好ましく用いることができる。延伸中のフィルム全面にわたって熱風を吹きつける上で、また熱風の風速、熱風の温度を延伸ロール間のフィルム走行方向で変えることもできるのでこの方法は極めて好都合である。
【0050】
次に、延伸終了後のフィルムを冷却する。この際、フィルム温度を延伸温度から室温まで急激に下げるいわゆる急冷をしてはならない。延伸後のフィルムを急冷すると熱膨張分の収縮を起こすから、フィルムを空間で冷却する場合にも、また、フィルムをロールに接触させて冷却させる場合にも、フィルムの縦方向に平行な皺が数多く入る。この膨張、収縮による皺は急冷するとそのまま固定され縦方向にほぼ並行な波板状のいわゆる波皺となって残るため、フィルムの平坦性が著しく悪化する。この波板状の皺は延伸後のフィルムを50〜150℃の温度でロールに接触させて処理しひきつずき室温まで冷却すれば解消できる。
【0051】
【発明の効果】
本発明方法のポリカーボネートの位相差フィルムの製造法によって、縦一軸延伸前にピンテンターにて規定量の溶媒を含有したフィルムを、横方向に張力をかけつつ特定幅に把持し、フィルム雰囲気を特定温度に保ち厚み斑(特に筋状の微小な厚み斑)を小さくした後、乾燥し、特定の条件で縦一軸延伸することにより、レターデーション値の斑が極めて小さい位相差フィルムを製造することができる。本発明のポリカーボネートの位相差フィルムの製造方法によって、特にレターデーション値の斑が極めて小さく、特に微小な範囲の位相差斑が解消された品質の良好な位相差フィルムを製造することができる。この結果光学用途に好適な位相差フィルムを提供することができる。
【0052】
【実施例】
以下に実施例により本発明を詳述する。なお、測定は以下の方法で実施した。
【0053】
1)レターデーション値及び遅相軸角度の測定
フィルムの幅方向サンプル全幅についてレターデーション連続測定器(新王子製紙(株))製の商品名KOBRA−21SDH)により5mm間隔でレターデーション値を測定した。このデータより測定サンプル全幅におけるレターデーション値の差を求めた。即ち全幅の範囲のレターデーション値の最大値と最小値の差をとり、均一性の尺度(単位nm)とした。またフィルム全幅について5mm間隔で測定した値の、次の隣りの点との間、即ち10mm間のレターデーション値の差を測定し、その最大値をフィルム微小部分のレタデーションの最大値とし、均一性の尺度(単位nm)とした。これが大きい場合にはフィルムを偏光板にはさんでみるときにその部分が筋状の色斑となって見える場合がある。
測定のサンプル長は幅方向は全長を、長さ方向の場合には1mを測定長とした。
【0054】
2)フィルム中の含有溶媒量の測定
溶媒を含有したフィルム約5gを採取し、170℃の熱風乾燥機で1時間乾燥させた後室温まで冷却した。乾燥前後の重量変化率を化学天秤で精秤した。これより固形分基準の溶媒含有量を求めた。幅方向測定の場合にはフィルムを幅方向に5等分して測定した。
【0055】
3)視野角特性の測定
自動複屈折率測定装置(新王子製紙(株)製の商品名 KOBRA−21ADH)を用いてフィルムの法線方向のレターデーションRe(0)とフィルムの法線と40度の相対角度で斜入射したときのレターデーションRe(40)を測定し、その差の絶対値からレターデーションの変化率を求めた。
【0056】
【数1】
[|Re(0)−Re(40)|/Re(0)]×100
この変化率の小さな方が視野角特性に優れることを意味する。
【0057】
4)ガラス転移温度Tg’、Tg”(溶媒を含んだフィルムのTg)の測定
フィルムサンプル約10mgを用い、加熱速度10℃/min.でDSC曲線を求めた。この曲線の立ち下がり(変曲点)部を見かけのガラス転移温度Tg’、Tg”とした。
【0058】
[実施例1]
帝人化成(株)製のポリカーボネート(商品名パンライトC−1400QJ、粘度平均分子量3.8万、メチレンクロライドを含まないポリマーのTgは159℃であった。)をメチレンクロライドに溶解し18重量%の溶液を作成した。これをスチールベルト上に流延し乾燥し、厚み斑の小さいフィルムとなし、ベルト面より剥ぎ取った。この時のフィルムの特性は次の通りであった。
含有溶媒量:18±1.0重量%(フィルム全幅)
ガラス転移温度Tg’:45℃
フィルム厚み:70μm、 フィルム幅:1500mm
厚み斑:1μm(フィルム1450mm幅)
微小な筋状の厚み斑:0.5〜0.7μmの筋状斑が3本/フィルム1450mm幅。
【0059】
次いで、このフィルムを、部屋を6ゾーンに分割したピンテンターに通した。この際のピンテンターの入口幅は1500mmとし、入口から6番目のゾーンまで直線的(延伸軸と直交する方向のフィルムの長さを100%即ち把持幅の縮小量、伸長量0%)に1500mmとなした。ピンテンターのオーブンの乾燥空気の温度は6室全てを118℃とした。次いでフィルムを把持したまま室温まで空冷しピンテンター出口にて両エッジ部を50mmずつ切除した。
【0060】
かくして得られたフィルムの特性値は下記の通りであった。
レターデーション値:20〜40nm(フィルム全幅)
遅相軸の値:−30〜+30度(フィルム全幅)
含有溶媒量並びにその分布:4.0±0.5重量%(フィルム全幅)
厚み斑:0.1〜0.3μmの筋状斑が3本/フィルム全幅、となり筋状斑が極めて小さくなった。この様にして厚み70μmの無延伸フィルムを作成した。
このフィルムを更に延伸前予熱、延伸並びに冷却ゾーンを有する延伸装置に通膜した。
【0061】
ロール懸垂型乾燥装置を用いた乾燥:
熱風温度100℃、フィルムに掛けた張力1.5Kg/cm2、処理時間30分。
得られたフィルムの特性値は残留溶媒量1.5±0.05重量%(フィルム全幅)、
ガラス転移温度Tg”=145℃、
レターデーション値30〜50nm(フィルム全幅)、
遅相軸の角度−20〜+20度。
【0062】
一軸延伸条件:
延伸温度155℃、延伸倍率1.25倍、延伸のロール間長は延伸前フィルム幅の1.6倍。延伸後のフィルムのネックイン率(延伸によるフィルム幅の減少率)は13%であった。
【0063】
冷却条件:
冷却温度120℃、冷却時間5分、冷却時にフィルムに掛けた張力12Kg/cm2で処理し、ついで室温まで冷却した。
【0064】
得られたフィルムの位相差フィルムとしての特性は下記の様な値となり極めて優れていた。
フィルム厚み:54μm
フィルムの厚み斑:0.3μm(フィルム全幅1200mm)
レターデーション値の最大値と最小値の差:4nm(フィルム全幅1200mm)
微小レターデーション値の最大値:1.5nm(フィルム全幅1200mm)
遅相軸角度の範囲:−1.5〜+1.5度
視野角特性:7.5
【0065】
[実施例2、3]
ピンテンターにて処理する前の含有溶媒量を10%(ガラス転移温度Tg’:67℃)、15%(ガラス転移温度Tg’:48℃)と変える以外は、実施例1と全て同じ条件になるようにして、位相差フィルムを作成した。このフィルムの特性値を表1に示した。これらのフィルムは位相差用として極めて優れたものであった。
【0066】
【表1】
【0067】
[比較例1]
ピンテンターにて処理するときの延伸軸と直交する方向のフィルムの長さを97.5%(縮小量を−2.5%)とする以外は実施例1と全て同じ条件にして位相差フィルムを作成した。このフィルムの微小な範囲のレターデーション値の最大値は3nm、この斑の部分はフィルム全幅で3箇所あり、このフィルムを偏光板間にて観察すると上記レターデーションの斑に基ずく筋状の色斑が見られ、位相差フィルムとして不適なものであった。
【0068】
[比較例2]
ピンテンターにて処理する前のフィルムを空気で加熱乾燥して、含有溶媒量を5%とする以外は実施例1と全て同じ条件になるようにして、位相差フィルムを作成した。このフィルムの微小な範囲のレターデーション値の最大値は3.5nm、この斑の部分はフィルム全幅で3箇所あり、このフィルムを偏光板間にて観察すると筋状の色斑が見られ位相差フィルムとして不適なものであった。
【0069】
[比較例3]
一軸延伸直前の溶媒含有量を4%とする以外は実施例1と全て同じ条件になるようにして、位相差フィルムを作成した。このフィルムのレターデーション値の範囲は7nm(フィルム全幅)、微小な範囲のレターデーション値の最大値は3nm、この斑の部分はフィルム全幅で3箇所あり、このフィルムを偏光板間にて観察すると筋状の色斑並びに局所的な偏光斑が見られ位相差フィルムとして不適なものであった。
Claims (1)
- 濃度0.5g/dlの塩化メチレン溶液中20℃での粘度測定から求めた粘度平均分子量で10,000以上200,000以下であるポリカーボネートと塩化メチレンとからなるポリカーボネート10〜30重量%濃度の溶液を支持体上にキャストし、得られたフィルムを乾燥した後、延伸することによりポリカーボネートから成る位相差フィルムを製造する方法において、
1.支持体より含有溶媒量8〜20重量%のフィルムを剥離し、
2.延伸軸と直交する方向のフィルムの長さが99%〜105%になるように上記フィルムをピンテンターにより把持し、両端を把持された状態でフィルム雰囲気温度(Tg’+10)〜(Tg’+90)℃にて乾燥し、室温まで冷却した後、ロール懸垂型乾燥装置を用いて上記フィルムの含有溶媒量が2.0重量%以下となるまで乾燥し
3.更に該フィルムを(Tg”+10)〜(Tg”+45)℃にて、フィルムの走行方向に1.1〜3.2倍一軸延伸することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。(Tg’、Tg”(℃)は溶媒を含有するポリカーボネートフィルムのガラス転移温度であり、この温度は乾燥が進むにつれ残留溶媒含有量の減少とともに上昇する。)
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