JP4017747B2 - Bm膜製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は液晶等のカラー表示素子に用いられる低反射BM膜(ブラックマトリクス膜)にかかり、特に、ニッケルを主成分とするBM膜と、そのBM膜の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年では、カラー液晶ディスプレイが盛んに生産されており、ノート型パソコンやカーナビゲーション等に用いられている。
カラー液晶ディスプレイには、図6の符号100に示すような、カラーフィルタ(CF)が必須な部品となっている。
【0003】
一般に、カラーフィルタ100はガラス基板101上に赤・緑・青のカラーフィルタ層1031、1032、1033が形成され、その表面には、保護膜105を介してパターニングされた透明導電膜106が形成されており、その透明導電膜106上に配置される液晶に電圧を印加できるように構成されている。
【0004】
各カラーフィルタ層1031〜1033間には、カラー表示のコントラストを改善し、また、外光反射を低減させ、視認性を向上させるためのブラックマトリックス(BM)膜102が配置されている。
【0005】
このようなBM膜102には、低反射で高い遮光性が要求されており、樹脂膜や金属反射層等、種々の材質のものがあり、近年では、品質面から、スパッタ法により形成した半透明な透光層と金属反射層とから成る積層構造のBM膜が用いられている。
【0006】
積層構造のBM膜としては、ガラス基板上に、半透明のCrOx薄膜を形成して透光層とし、その表面に金属クロム薄膜を連続形成して金属反射層としたクロム系の積層膜が広く用いられている。
【0007】
このようなクロム系の積層型BM膜では、CrOx薄膜とガラス基板との界面での反射光と、CrOx薄膜と金属クロム薄膜の界面での反射光とが干渉し、反射防止効果が得られることで、大きな低反射化が達成されている。
【0008】
しかし、干渉効果を利用する場合には、反射率スペクトルの波長依存性が干渉効果に大きく影響し、その結果、2層構造のBM膜では僅かに着色してしまうという問題がある。
【0009】
そのような着色を消滅させ、色合いを一層黒色に近づけるために、3層以上の薄膜を積層したBM膜を用いる場合がある。多層構造のBM膜の場合、半透明の薄膜を複数層積層して透光層を形成しているので、各薄膜の屈折率を膜厚方向に変化させ、広い波長範囲で高い干渉効果が得られ、それにより着色を防止し、BM膜を一層黒色化させることが可能となっている。
【0010】
このような多層構造のBM膜としては、従来では、Cr/CrOy/CrOxのようにクロム薄膜の酸化度を変えて透光層を形成したBM膜や、Cr/CrNy/CrOxのように、反応性ガスの種類を変え、窒化物薄膜と酸化物薄膜とを積層させて透光層としたBM膜がある。
【0011】
しかしながら上記のような積層構造のBM膜は、いずれも金属クロム薄膜や、クロム化合物から成る透光層を用いるため、BM膜を湿式エッチングによってパターニングする際に、廃液中に6価クロム等の有害物質が溶出し、公害問題を引き起こすおそれが指摘されている。
【0012】
また、金属クロム薄膜やCrOx膜等の薄膜は応力が比較的高く、剥離しやすいため、スパッタリング法によってBM膜を形成する際に、それらの薄膜がスパッタ成膜室内の防着板等に付着すると剥離し、パーティクル発生の原因になっていた。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、低公害でパーティクル発生の少ないBM膜、及びその製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、ガラス基板上に形成された透光層と、前記透光層上に形成された金属反射層とを有するBM膜を製造するBM膜製造方法であって、ニッケルを主成分としバナジウムが添加されたターゲットをマグネトロンスパッタリングし、前記透光層と前記金属膜を形成するBM膜製造方法である。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のBM膜製造方法であって、前記ターゲットの組成を、ニッケル−2〜10wt%バナジウム、又はニッケル−20〜75wt%鉄−2〜10wt%バナジウムのいずれかの組成にすることを特徴とするBM膜製造方法である。
【0016】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のBM膜製造方法であって、ニッケルの窒化物を主成分とする窒化物薄膜を有することを特徴とするBM膜製造方法である。
【0017】
請求項4記載の発明は、、請求項1記載のBM膜製造方法であって、ニッケルの酸化物を主成分とする酸化物薄膜を有することを特徴とするBM膜製造方法である。
【0018】
【0019】
本発明は上記のように構成されており、金属反射層と透光層とを有する積層構造のBM膜である。
このような積層構造のBM膜の反射率特性を説明する。
【0020】
例えば図5(a)に示すように、半透明の金属化合物から成る透光層(酸化物薄膜又は窒化物薄膜)54と、光反射性のある金属反射層55とから成る2層構造のBM膜51が、ガラス基板52上に積層されている場合、ガラス基板52方向からBM膜51に入射した光60は、ガラス基板52と透光層54の界面57で反射し、反射光61として入射方向に返光される他、透光層54を透過した光60は、透光層54と金属反射層55の界面58で反射され、反射光62となって入射方向に返光される。
【0021】
従って、入射方向には、二種類の反射光61、62が返光されるが、透光層54が適切な(透明度)を有する場合には、二種類の反射光61、62の光強度R1、R2は、R1≒R2となり、位相が反転している場合、2つの反射光61、62が干渉することによってその強度が減衰し、BM膜51が低反射化される。
【0022】
他方、透光層54の透明度が高く屈折率が小さすぎる場合には、R1>>R2となり、逆に、屈折率が大きすぎる場合にはR1<<R2となり、いずれの場合でも十分な干渉効果を得ることができない。
【0023】
また、図5(b)に示すように、BM膜71の透光層74が、ガラス基板72上に形成された第1層目の薄膜741と、その表面に形成された第2層目の薄膜742と、更に第2層目の薄膜742上に形成された金属反射層75とから成る場合、ガラス基板72側から入射した光80は、それぞれの界面で反射され、三種類の反射光81、82、83が入射方向に反射され、それらの多重干渉効果によって低反射化が達成される。
【0024】
このような3層構造のBM膜の場合、反射光81〜83の干渉バランスを最適にする(第1層目の透光層74の屈折率を第2層目の透光層75の屈折率よりも小さくする)と、2層構造のBM膜に比べ、反射率値の波長依存が小さく、一層低反射で黒色のBM膜を得ることができる。
【0025】
ところで、本発明のBM膜は、クロムを使用せず、ニッケルを使用しているが、ニッケルは磁性材料であるため、ニッケルだけでターゲットを構成させた場合にはターゲット表面磁場が弱まるため、マグネトロンスパッタが困難になる。
【0026】
従って、ニッケルに他の金属を添加し、ターゲットを非磁性化する必要がある。この場合、ニッケルターゲットを非磁性化するために、銅を加えることが考えられるが、それではターゲットが高価になり、低コストのBM膜が得られない。
【0027】
そこで本発明の発明者らが、ニッケルを非磁性化する添加金属を検討し、ニッケル合金ターゲットに関する実験を重ねた結果、スズ、バナジウム、鉄が有効であることが判明した。それらは単独で添加したり、組合わせて添加する場合、下記割合で合金化させた場合に、マグネトロンスパッタが可能であり、低反射のBM膜を形成できることが確認された。
【0028】
即ち、スズを単独に添加する場合は、実験によると、5〜30wt%の範囲でマグネトロンスパッタリングが可能であり、低反射のBM膜が得られた。
バナジウムを単独に添加する場合は、実験によると、2〜10wt%の範囲でマグネトロンスパッタリングが可能であり、低反射のBM膜が得られた。
【0029】
鉄は安価であり、BM膜の低コスト化に特に有効であるが、ニッケル・鉄の合金ターゲットや、その合金ターゲットによって形成されたBM膜には錆が発生するおそれがある。従って、単独で多量に添加するよりも、他の添加金属と組合わせて用いる方が望ましい。
【0030】
例えば鉄を20〜75wt%添加する場合、一緒にスズを5〜30wt%添加したり、バナジウムを2〜10wt%添加することができる。それらのターゲットはマグネトロンスパッタリングが可能であり、低反射のBMを作成できることが確認された。
【0031】
以上のターゲットの組成をまとめると、ニッケル(Ni)−5〜30wt%スズ(Sn)、ニッケル(Ni)−2〜10wt%バナジウム(V)、ニッケル(Ni)−20〜75wt%鉄(Fe)−5〜30wt%スズ(Sn)、又は、ニッケル(Ni)−20〜75wt%鉄(Fe)−2〜10wt%バナジウム(V)になる。
【0032】
なお、それらの組成のターゲットを用いてBM膜を形成する場合、スパッタリング雰囲気をアルゴンガス等の不活性ガスだけで構成させると、ニッケル金属薄膜(ニッケル合金薄膜)から成る金属反射層を形成することができる。
【0033】
他方、スパッタリング雰囲気に酸素ガスや窒素ガスを導入した場合には、ニッケル酸化物薄膜、ニッケル窒化物薄膜、又はニッケル酸化窒化物薄膜から成る透光層が形成される。従って、一つのターゲットを用い、スパッタリング雰囲気への導入ガスを変えることで、積層構造のBM膜を作成することが可能となる。
【0034】
そして、それらのBM膜は、いずれもニッケルを主成分とし、クロムを含んでいないので、BM膜をパターニングするためのウェットエッチングにおいて、公害が発生するおそれはない。
【0035】
なお、屈折率調整用の反応性ガスとして、酸素ガスや窒素ガスの他、CO2ガスや、還元性ガス(H2,CxHy)を適度に組み合わせることが可能である。
【0036】
【発明の実施形態】
本発明のBM膜を、その製造方法とともに説明する。
BM膜の製造には、基板水平搬送方式のロードロック型スパッタ装置を用いた。基板は210mm×210mm×1.1mm厚のガラス基板(コーニング社製#7059)を用い、ターゲットには、ニッケル−15wt%スズ、ニッケル−7wt%バナジウム、ニッケル−20〜75wt%鉄−5〜30wt%スズ、又は、ニッケル−20〜75wt%鉄−2〜10wt%バナジウムを用い、直流マグネトロンスパッタ法で成膜を行った。
【0037】
スパッタリングガスはアルゴンガスとし、スパッタリング雰囲気は0.67Paの圧力とした。スパッタリングを行う際の基板は加熱しなかった。酸化膜或いは窒化物薄膜の光学的特性は、大気をリファレンスとした透過率で波長400〜700nmにおいて20〜70%を有する半透明膜を用いた。
【0038】
BM膜(酸化物薄膜或いは窒化物薄膜と金属反射層との積層膜)は、ガラス基板側から見て、波長400〜700nmの範囲で反射率を測定した。その反射率スペクトルはアルミニウム蒸着膜をリファレンスとした。
【0039】
【実施例】
(参考例1)
<ニッケル−スズ系2層膜の作製>
ニッケル−15wt%スズのターゲットを用い、スパッタリング雰囲気中に所定量の酸素ガスを導入し、反応性スパッタ法でニッケル酸化物薄膜から成る透光層を膜厚500Åに形成した。
【0040】
次に、酸素ガスの導入を停止し、アルゴンガスだけのスパッタリング雰囲気中で上記ターゲットをスパッタし、膜厚1000Åのニッケル薄膜から成る金属反射層を連続形成し、2層構造のBM膜を作成した。
【0041】
ニッケル酸化物薄膜を形成したときの酸素ガス導入量を種々の値に異ならせてBM膜を作成し、反射率を測定した結果、4×10-2Paの酸素ガスを導入したときに、最も反射率が低くなった。そのBM膜の反射率特性を図1のグラフに示す。
【0042】
【実施例】
(実施例2)
<ニッケル−バナジウム系2層膜の作製>
ニッケル−7wt%バナジウムのターゲットを用い、パッタリング雰囲気中に所定量の酸素ガスを導入し、反応性スパッタ法によってニッケル酸化物薄膜から成る透光層を膜厚500Åに形成した。
【0043】
次に酸素ガスの導入を停止し、アルゴンガスだけのスパッタリング雰囲気中で膜厚1000Åのニッケル薄膜から成る金属反射層を連続形成し、2層構造のBM膜を得た。
【0044】
ニッケル酸化物薄膜を形成したときの酸素ガス導入量を種々の値に異ならせてBM膜を作成し、反射率を測定した結果、4×10-2Paの酸素ガスを導入したときに、最も反射率が低くなった。そのBM膜の反射率特性を、図2のグラフに示す。
【0045】
【実施例】
(参考例2)
<ニッケル−鉄−スズ系2層膜の作製>
ニッケル−40wt%鉄−15wt%スズのターゲットを用い、スパッタリング雰囲気中に所定量の酸素ガスを導入し、反応性スパッタ法でニッケル酸化物薄膜から成る透光層を膜厚500Åに形成した。
【0046】
次に、酸素ガス導入を停止し、アルゴンガスだけのスパッタリング雰囲気中で上記ターゲットをスパッタし、膜厚1000Åの金属ニッケル薄膜から成る金属反射層を形成し、2層構造のBM膜を得た。
【0047】
透光層を形成する際の酸素ガス導入量を種々の値に変えてBM膜を作成した結果、4×10-2Paの酸素ガスを導入したときに最も反射率の低いBM膜が得られた。そのBM膜の反射率特性を図3のグラフに示す。
【0048】
【実施例】
(実施例4)
<ニッケル−鉄−バナジウム系2層膜の作製>
ニッケル−40wt%鉄−7wt%バナジウムのターゲットを用い、スパッタリング雰囲気中に所定量の酸素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、膜厚500Åのニッケル酸化膜を形成した。
【0049】
次に、酸素ガス導入を停止し、アルゴンガスだけのスパッタリング雰囲気中で上記ターゲットをスパッタし、膜厚1000Åのニッケル薄膜から成る金属反射層を連続形成し、2層構造のBM膜を形成した。
【0050】
透光層を形成するときの酸素ガス導入量を変え、BM膜を作成した結果、4×10-2Paの酸素ガスを導入したときに最も反射率が低いBM膜が得られた。そのBM膜の反射率特性を図4のグラフに示す。
【0051】
【実施例】
実施例2,4、参考例1,2のBM膜では、透光層は1層構造であったが、酸素ガス導入量を変えてターゲットをスパッタし、組成が異なる2層以上の多層構造の透光層を形成してもよい。
上記実施例2,4、参考例1,2ではスパッタリングガスとしてアルゴンガスを用いたが、他の不活性ガス(Ne,Kr,Xe)やN2ガスを用いてもよい。
【0052】
また、スパッタリング雰囲気に酸素ガスを導入せず、二酸化炭素ガス(CO2ガス)を導入し、ニッケル酸化物薄膜から成る透光層を形成してもよい。また、スパッタリング雰囲気中に窒素ガスを添加し、ニッケル窒化物薄膜から成る透光層を形成してもよい。更に、酸素ガスと窒素ガスとを一緒に導入し、ニッケルの酸化窒化物を透光層にしてもよい。
【0053】
また、水素ガス(H2ガス)やメタンガス(CH4ガス)等の還元性のガスをスパッタリング雰囲気中に添加し、ニッケル酸化物から成る透光層の屈折率を調整することも可能である。
【0054】
【発明の効果】
低公害で低反射(黒色)のBM膜が得られる。
また、使用するターゲットに応じて酸化性ガス(酸素ガス、二酸化炭素ガス)、窒化性ガス(窒素ガス)を適度に組み合わせ、透光層の屈折率を調整することができる。従って、従来のクロム系積層BM膜と同等特性のニッケル系BM膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ニッケル−スズ系のBM膜の反射率特性を示すグラフ
【図2】ニッケル−バナジウム系のBM膜の反射率特性を示すグラフ
【図3】ニッケル−鉄−スズ系のBM膜の反射率特性を示すグラフ
【図4】ニッケル−鉄−バナジウム系のBM膜の反射率特性を示すグラフ
【図5】(a)、(b):BM膜の光干渉効果を説明するための図
【図6】カラーフィルタを説明するための図
【符号の説明】
51、71……BM膜 54、74……透光層 55、75……金属反射層
Claims (4)
- ガラス基板上に形成された透光層と、
前記透光層上に形成された金属反射層とを有するBM膜を製造するBM膜製造方法であって、
ニッケルを主成分としバナジウムが添加されたターゲットをマグネトロンスパッタリングし、前記透光層と前記金属膜を形成するBM膜製造方法。 - 前記ターゲットの組成を、ニッケル−2〜10wt%バナジウム、又はニッケル−20〜75wt%鉄−2〜10wt%バナジウムのいずれかの組成にすることを特徴とする請求項1記載のBM膜製造方法。
- 前記透光層は、ニッケルの窒化物を主成分とする窒化物薄膜を有することを特徴とする請求項1記載のBM膜製造方法。
- 前記透光層は、ニッケルの酸化物を主成分とする酸化物薄膜を有することを特徴とする請求項1記載のBM膜製造方法。
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